渉外養子縁組・録画遺言・共同預金を素材に,性質決定と準拠法の指定,外国法の適用を段階別に整理する。
第1 この記事の対象と結論
本記事は,令和6年司法試験の国際関係法(私法系)第2問を対象とする。公式資料から独自に抽出した43項目を5段階で重み付けし,2,500字以内の模範解答を示す。法務省の公式採点基準・項目別配点ではない。
答案は,養親子関係ごとの分配的適用,甲国からの隠れた反致の肯定,乙国からの反致の否定を採る。甲国の報告主体は日本の手続で代行し,Fを第三者に含めた上で具体的適用結果を公序により排除する。録画遺言は丙国法により方式上有効であり,Cの遺留分請求の準拠法は甲国法となる。解釈の許容分岐は枠外の解説で示す。
重み5は11項目である。番号2:AC間・BC間の法律関係に分けて分配的に準拠法を決める/番号6:甲国法①を,国際裁判管轄と法廷地法適用を結合する規定と分析する/番号11:両養親子関係に養子Cの乙国法上の保護要件を追加適用する/番号12:乙国法からの反致を検討し,不成立であることを示す/番号17:甲国公認ソーシャルワーカーという報告主体の部分を手続問題と区別する/番号19:家庭裁判所調査官の報告が甲国の報告要件と実質的に同等であると理由付ける/番号21:通則法31条1項後段の「第三者」の範囲について規範を先に示す/番号28:録画による遺言の可否を遺言の方式と性質決定する/番号29:遺言方式法2条の選択的連結により一つの連結法への適合で足りると示す/番号34:遺留分の最低保障という趣旨を示して相続と性質決定する/番号37:共同預金が丙国法上遺産外でも,その処分による遺留分侵害は相続として扱う理由を示す。番号17・19は高評価の深度に関する事項であり,重み5の全項目を全答案に一律の累積要件とするものではない。
第2 評価項目の示し方と重み付けの基準
1 評価項目の示し方
一つの項目は一つの判定対象とし,必須・高評価・負例・許容分岐を重みから分けた。番号は記事全体で連続する。「記載なし」は本問の関連範囲を実読した結果を意味する。根拠は合冊PDFの物理頁と見出しによる。代替説の項目は採用条件を示し,相互に排他的な構成を全て要求しない。公式の短い引用は内部の照合に用い,表ではその意味を要約した。
2 5段階の重み付けの基準
5=採点実感が評価の分かれ目とした事項又は答案の骨格。
4=出題の趣旨が検討を求め,採点実感も評価又は具体的な誤りの指摘を通じて取り上げた事項。
3=一方が明示する中核の理由付け。
2=一方の補強又は典型的な誤り。
1=一方が控えめに触れる事項。重み4を「高く評価した事項」に限定する基準ではない。各段階の件数割当ては行わず,重み合計を公式得点に換算しない。
第3 本問の概要
日本人Aと甲国人Bは日本で暮らす夫婦であり,乙国人Dの5歳の子Cを実親との親族関係が断絶する養子に迎えようとしている。設問1では,各養親の本国法とCの本国法,甲国の管轄一体型の規定,6か月の試験養育と報告,Aの前婚の12歳の子Fの同意が問題となる。Fは10年間Eと暮らしAとの交流がなく,Eが伝達を拒んだため同意を得られていない。
設問2では有効な縁組成立後,Bが死亡する。丙国法を選択した共同預金口座へBが7000万円を送金し,丙国法上は死亡後Aの資産となる。Bは丙国のホテルで,日本の不動産2000万円をA,日本の預金1000万円をCに相続させる遺言を録画した。Cが遺留分侵害額請求をする。管轄,縁組の有効成立,Fの嫡出性は所与であり,指定された小問では反致がない。小問同士は独立しており,遺留分額の計算を求める問題ではない。
第4 評価項目と重み
1 設問1・小問1
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 養子縁組の成立と性質決定し,通則法31条1項前段を用いる 【必須】 | 4 | 40頁・設問1小問1:養子縁組の成立と性質決定し,通則法31条1項前段を用いる | 44~45頁・3⑵ア:養子縁組の成立と性質決定し,通則法31条1項前段を用いる |
| 2 | AC間・BC間の法律関係に分けて分配的に準拠法を決める 【必須】 | 5 | 40頁・設問1小問1:AC間・BC間の法律関係に分けて分配的に準拠法を決める | 44~45頁・3⑵ア:AC間・BC間の法律関係に分けて分配的に準拠法を決める |
| 3 | AC間に日本法,BC間に甲国法を原則として指定する 【必須】 | 4 | 40頁・設問1小問1:AC間に日本法,BC間に甲国法を原則として指定する | 44~45頁・3⑵ア:AC間に日本法,BC間に甲国法を原則として指定する |
| 4 | 異国籍夫婦の共同縁組について準拠法決定に議論があることを認識して理由を示す 【高評価】 | 3 | 40頁・設問1小問1:異国籍夫婦の共同縁組について準拠法決定に議論があることを認識して理由を示す | 44~45頁・3⑵ア:異国籍夫婦の共同縁組について準拠法決定に議論があることを認識して理由を示す |
| 5 | 準拠法一本化説を採用する場合,分配的処理に代わる説得的な論証をする 【許容分岐】適用条件:夫婦共同縁組の準拠法一本化説を採用した場合 | 3 | 記載なし(本問関連範囲) | 44~45頁・3⑵ア:準拠法一本化説を採用する場合,分配的処理に代わる説得的な論証をする |
| 6 | 甲国法①を,国際裁判管轄と法廷地法適用を結合する規定と分析する 【必須】 | 5 | 40頁・設問1小問1:甲国法①を,国際裁判管轄と法廷地法適用を結合する規定と分析する | 44~45頁・3⑵ア:甲国法①を,国際裁判管轄と法廷地法適用を結合する規定と分析する |
| 7 | 甲国法は養子の常居所に基づく管轄の下で法廷地法として適用されると説明する 【必須】 | 4 | 40頁・設問1小問1:甲国法は養子の常居所に基づく管轄の下で法廷地法として適用されると説明する | 44~45頁・3⑵ア:甲国法は養子の常居所に基づく管轄の下で法廷地法として適用されると説明する |
| 8 | 甲国法①から養子の常居所地法を指定する双方的抵触規則を導けるか検討する 【必須】 | 4 | 40頁・設問1小問1:甲国法①から養子の常居所地法を指定する双方的抵触規則を導けるか検討する | 44~45頁・3⑵ア:甲国法①から養子の常居所地法を指定する双方的抵触規則を導けるか検討する |
| 9 | 隠れた反致の自説を国際的判決調和等の観点から理由付ける 【高評価】 | 3 | 40頁・設問1小問1:隠れた反致の自説を国際的判決調和等の観点から理由付ける | 44~45頁・3⑵ア:隠れた反致の自説を国際的判決調和等の観点から理由付ける |
| 10 | 隠れた反致の肯否に応じ,甲国法の実質要件の要否まで示す 【必須】 | 4 | 40頁・設問1小問1:隠れた反致の肯否に応じ,甲国法の実質要件の要否まで示す | 44~45頁・3⑵ア:隠れた反致の肯否に応じ,甲国法の実質要件の要否まで示す |
| 11 | 両養親子関係に養子Cの乙国法上の保護要件を追加適用する 【必須】 | 5 | 40頁・設問1小問1:両養親子関係に養子Cの乙国法上の保護要件を追加適用する | 44~45頁・3⑵ア:両養親子関係に養子Cの乙国法上の保護要件を追加適用する |
| 12 | 乙国法からの反致を検討し,不成立であることを示す 【必須】 | 5 | 40頁・設問1小問1:乙国法からの反致を検討し,不成立であることを示す | 44~45頁・3⑵ア:乙国法からの反致を検討し,不成立であることを示す |
| 13 | セーフガードを反致対象とする場合も,乙国の同型規則が同じ保護要件を残すと論じる 【許容分岐】適用条件:セーフガードを反致対象とする説を採用した場合 | 3 | 記載なし(本問関連範囲) | 44~45頁・3⑵ア:セーフガードを反致対象とする場合も,乙国の同型規則が同じ保護要件を残すと論じる |
| 14 | 小問1では成立要件の実質的充足を本格的に論じるなど,準拠法の決定から逸脱しない 【負例】 | 2 | 記載なし(本問関連範囲) | 44~45頁・3⑵ア:小問1では成立要件の実質的充足を本格的に論じるなど,準拠法の決定から逸脱しない |
2 設問1・小問2⑴
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 15 | 小問2の反致不成立を保存し,BC間には甲国法が適用されるとする 【必須】 | 4 | 40頁・設問1小問2⑴:小問2の反致不成立を保存し,BC間には甲国法が適用されるとする | 45頁・3⑵イ⑴:小問2の反致不成立を保存し,BC間には甲国法が適用されるとする |
| 16 | 甲国法②の6か月以上の同居・試験養育等の実体要件を満たす必要を示す 【必須】 | 4 | 40頁・設問1小問2⑴:甲国法②の6か月以上の同居・試験養育等の実体要件を満たす必要を示す | 45頁・3⑵イ⑴:甲国法②の6か月以上の同居・試験養育等の実体要件を満たす必要を示す |
| 17 | 甲国公認ソーシャルワーカーという報告主体の部分を手続問題と区別する 【高評価】 | 5 | 記載なし(本問関連範囲) | 45頁・3⑵イ⑴:甲国公認ソーシャルワーカーという報告主体の部分を手続問題と区別する |
| 18 | 日本法の民法817条の8の監護要件を具体的な対応規定として示す 【必須】 | 4 | 40頁・設問1小問2⑴:日本法の民法817条の8の監護要件を具体的な対応規定として示す | 45頁・3⑵イ⑴:日本法の民法817条の8の監護要件を具体的な対応規定として示す |
| 19 | 家庭裁判所調査官の報告が甲国の報告要件と実質的に同等であると理由付ける 【高評価】 | 5 | 40頁・設問1小問2⑴:家庭裁判所調査官の報告が甲国の報告要件と実質的に同等であると理由付ける | 45頁・3⑵イ⑴:家庭裁判所調査官の報告が甲国の報告要件と実質的に同等であると理由付ける |
| 20 | 手続は法廷地法によるとの一般論だけで甲国法②全体を不要としない 【負例】 | 2 | 記載なし(本問関連範囲) | 45頁・3⑵イ⑴:手続は法廷地法によるとの一般論だけで甲国法②全体を不要としない |
3 設問1・小問2⑵
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 21 | 通則法31条1項後段の「第三者」の範囲について規範を先に示す 【必須】 | 5 | 40~41頁・設問1小問2⑵:通則法31条1項後段の「第三者」の範囲について規範を先に示す | 45~46頁・3⑵イ⑵:通則法31条1項後段の「第三者」の範囲について規範を先に示す |
| 22 | Fを第三者に含める立場では,文言等からその範囲を理由付ける 【許容分岐】適用条件:第三者の無限定説を採用した場合 | 4 | 40~41頁・設問1小問2⑵:Fを第三者に含める立場では,文言等からその範囲を理由付ける | 45~46頁・3⑵イ⑵:Fを第三者に含める立場では,文言等からその範囲を理由付ける |
| 23 | Fを第三者から除く立場では,縁組以前の身分関係等の限定基準を理由付ける 【許容分岐】適用条件:第三者の限定説を採用した場合 | 4 | 40~41頁・設問1小問2⑵:Fを第三者から除く立場では,縁組以前の身分関係等の限定基準を理由付ける | 45~46頁・3⑵イ⑵:Fを第三者から除く立場では,縁組以前の身分関係等の限定基準を理由付ける |
| 24 | 自説に即してFがAの12歳の嫡出子であることを当てはめる 【必須】 | 4 | 40~41頁・設問1小問2⑵:自説に即してFがAの12歳の嫡出子であることを当てはめる | 45~46頁・3⑵イ⑵:自説に即してFがAの12歳の嫡出子であることを当てはめる |
| 25 | Fを第三者に含める場合,乙国法適用による縁組不成立の公序違反を検討する 【許容分岐】適用条件:Fを第三者に含める場合 | 4 | 40~41頁・設問1小問2⑵:Fを第三者に含める場合,乙国法適用による縁組不成立の公序違反を検討する | 45~46頁・3⑵イ⑵:Fを第三者に含める場合,乙国法適用による縁組不成立の公序違反を検討する |
| 26 | 第三者の解釈と,その規定を適用した結果の公序違反を分ける 【必須】 | 4 | 40~41頁・設問1小問2⑵:第三者の解釈と,その規定を適用した結果の公序違反を分ける | 45~46頁・3⑵イ⑵:第三者の解釈と,その規定を適用した結果の公序違反を分ける |
| 27 | 第三者の規範を示さず事実列挙だけで同意の要否を決めない 【負例】 | 2 | 記載なし(本問関連範囲) | 45~46頁・3⑵イ⑵:第三者の規範を示さず事実列挙だけで同意の要否を決めない |
4 設問2・小問1
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 28 | 録画による遺言の可否を遺言の方式と性質決定する 【必須】 | 5 | 41頁・設問2小問1:録画による遺言の可否を遺言の方式と性質決定する | 46頁・3⑵ウ:録画による遺言の可否を遺言の方式と性質決定する |
| 29 | 遺言方式法2条の選択的連結により一つの連結法への適合で足りると示す 【必須】 | 5 | 41頁・設問2小問1:遺言方式法2条の選択的連結により一つの連結法への適合で足りると示す | 46頁・3⑵ウ:遺言方式法2条の選択的連結により一つの連結法への適合で足りると示す |
| 30 | 方式法2条1号で行為地丙国法を指定する 【必須】 | 4 | 41頁・設問2小問1:方式法2条1号で行為地丙国法を指定する | 46頁・3⑵ウ:方式法2条1号で行為地丙国法を指定する |
| 31 | B及び証人Rの口述を丙国法⑤の方式要件に対応させる 【必須】 | 3 | 41頁・設問2小問1:B及び証人Rの口述を丙国法⑤の方式要件に対応させる | 記載なし(本問関連範囲) |
| 32 | 甲国法④の不適合だけで無効とせず,録画遺言が方式上有効と結論する 【必須】 | 4 | 41頁・設問2小問1:甲国法④の不適合だけで無効とせず,録画遺言が方式上有効と結論する | 46頁・3⑵ウ:甲国法④の不適合だけで無効とせず,録画遺言が方式上有効と結論する |
| 33 | 録画という方式の問題を通則法37条の成立・効力で処理しない 【負例】 | 2 | 記載なし(本問関連範囲) | 46頁・3⑵ウ:録画という方式の問題を通則法37条の成立・効力で処理しない |
5 設問2・小問2
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 34 | 遺留分の最低保障という趣旨を示して相続と性質決定する 【必須】 | 5 | 41頁・設問2小問2:遺留分の最低保障という趣旨を示して相続と性質決定する | 46~47頁・3⑵エ:遺留分の最低保障という趣旨を示して相続と性質決定する |
| 35 | 通則法36条によりBの本国法である甲国法を指定する 【必須】 | 4 | 41頁・設問2小問2:通則法36条によりBの本国法である甲国法を指定する | 46~47頁・3⑵エ:通則法36条によりBの本国法である甲国法を指定する |
| 36 | 共同預金について,契約準拠法丙国法による帰属と遺産外の扱いを検討の前提にする 【必須】 | 4 | 41頁・設問2小問2:共同預金について,契約準拠法丙国法による帰属と遺産外の扱いを検討の前提にする | 46~47頁・3⑵エ:共同預金について,契約準拠法丙国法による帰属と遺産外の扱いを検討の前提にする |
| 37 | 共同預金が丙国法上遺産外でも,その処分による遺留分侵害は相続として扱う理由を示す 【必須】 | 5 | 41頁・設問2小問2:共同預金が丙国法上遺産外でも,その処分による遺留分侵害は相続として扱う理由を示す | 46~47頁・3⑵エ:共同預金が丙国法上遺産外でも,その処分による遺留分侵害は相続として扱う理由を示す |
| 38 | 遺留分に明文規定がないとして条理へ直行しない 【負例】 | 2 | 記載なし(本問関連範囲) | 46~47頁・3⑵エ:遺留分に明文規定がないとして条理へ直行しない |
| 39 | 遺留分侵害額請求を通則法37条の遺言効力として処理しない 【負例】 | 2 | 記載なし(本問関連範囲) | 46~47頁・3⑵エ:遺留分侵害額請求を通則法37条の遺言効力として処理しない |
| 40 | 甲国法の具体的内容がないのに公序違反として日本法を適用しない 【負例】 | 2 | 記載なし(本問関連範囲) | 46~47頁・3⑵エ:甲国法の具体的内容がないのに公序違反として日本法を適用しない |
6 答案全体
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 41 | 条・項・号を正確に特定して適用する 【負例】 | 2 | 記載なし(本問関連範囲) | 47~48頁・5⑴~⑷及び42頁2:条・項・号を正確に特定して適用する |
| 42 | 争いのある解釈では理由付きの規範を示してから事実を評価する 【高評価】 | 3 | 記載なし(本問関連範囲) | 47~48頁・5⑴~⑷及び42頁2:争いのある解釈では理由付きの規範を示してから事実を評価する |
| 43 | 明白な事項は簡潔にし,具体的争点に紙幅を配分する 【負例】 | 2 | 記載なし(本問関連範囲) | 47~48頁・5⑴~⑷及び42頁2:明白な事項は簡潔にし,具体的争点に紙幅を配分する |
7 重みの分布
総項目数43,重み5:11,4:17,3:6,2:9,1:0。重みの単純合計は159であり,配点ではない。重み5の番号は2・6・11・12・17・19・21・28・29・34・37。各項目の条件は表の該当行による。
第5 模範解答
1 答案の前提と表記
試験実施日は令和6年7月10日である。法令出題の原則基準は同年1月1日であり,本問で使用する関係規定は試験日にも同じである。以下の答案は見出し・句読点・空白を含み改行を除いて2366字。「1→(1)→ア」の階層で,規範,事実評価,効果を順に示す。特定の判決原文を確認したものとしての「判例同旨」は用いていない。許容分岐の全てを答案に累積記載するものではない。
2 答案
1 設問1について
(1)小問1
ア 本件は養子縁組の成立の問題であり,法の適用に関する通則法(以下「通則法」という。)31条1項前段により,縁組当時の養親となるべき者の本国法による。異国籍夫婦の共同縁組について同項に特則はない。夫婦共同の縁組でも,各養親との親子関係がそれぞれ成立するため,AC間・BC間に分けて同項を適用する。この分配的適用により,原則としてAC間には日本法,BC間には甲国法が適用される。
イ BC間については,甲国から日本への反致(通則法41条本文)が問題となる。甲国法①は,自国に国際裁判管轄があるとき,直ちに自国法を適用する管轄権的アプローチを採る。その管轄原因は養子の常居所であり,甲国法は常居所が甲国にあるため,法廷地法として適用される。
確かに,①は日本法への送致を明示していない。しかし,この結合規定から,養子の常居所地法を適用する双方的抵触規則を導くことができる。これに従うことは甲国の抵触法的判断を尊重し,国際的な判断の調和に資する。そこで,本件では隠れた反致を認める。Cの常居所は日本にあり,日本の国際裁判管轄も認められるから,日本法が適用され,甲国法の実質的成立要件を満たす必要はない。
ウ 他方,AC間・BC間の双方について,31条1項後段により,Cの本国法である乙国法上の本人・第三者の承諾若しくは同意又は公的機関の許可その他の処分という保護要件をも満たす必要がある。
同項後段は,養子を保護するため特定の実質的要件を追加する規定であるから,抵触規則を含めた送致をせず,反致の対象としないと解する。なお,反致の対象とする立場でも,乙国の抵触規則は日本と同内容であり,養親の本国法の指定に加えて養子の本国法上の保護要件も要求するため,その保護要件について日本法への反致は成立しない。したがって,乙国法の保護要件は必要であるが,その成立要件全体を満たす必要はない。
(2)小問2⑴
反致がないので,AC間に日本法,BC間に甲国法が適用される。甲国法②の6か月以上の同居・試験養育とその結果の報告は,子の福祉を確保する実体的成立要件である。他方,「甲国で公認されたソーシャルワーカーによる」という報告主体の部分は手続の問題であり,法廷地の日本法による。
ただし,報告主体が手続の問題であることから,試験養育やその確認自体まで不要とはならない。AC間に適用される民法817条の8第1項は,6か月以上の監護の状況を考慮することを要求する。そこで,A及びBがCと6か月以上同居して試験養育し,その監護の状況について家庭裁判所調査官による調査・報告を受ける。この報告は,養育の実績を専門的に確認して子の利益を審査する点で甲国法②と実質的に同等であり,それにより同要件を満たすことができる。
(3)小問2⑵
まず,31条1項後段の「第三者」に養親の嫡出子Fが含まれるか。同項は養子の保護を目的とするが,第三者の範囲を文言上限定していない。養子の本国法が関係者との利害調整を通じて確保しようとする保護も尊重すべきであり,縁組前に養子と身分関係を有する者に限らないと解する。Fも第三者で,Aの12歳の嫡出子であるから,乙国法③により原則として同意が必要となる。
次に,この解釈と区別して,③の具体的適用結果が公序に反するか(通則法42条)を検討する。日本法と要件が異なるだけでは足りず,適用結果の不当性と日本との関連性によるべきである。
Fは10年間Eと暮らし,Aとの交流がない。また,Fが事情を知って反対したのではなく,Eの伝達拒絶によって同意を得られない。Fの現在の養育生活を保護する必要性は小さい一方,実母の養育が困難な5歳のCには安定した家庭を得る必要があり,Dも熟慮して同意している。日本で生活している当事者が日本で縁組を求める本件で,同意欠缺を絶対的障害とする結果は子の福祉を著しく害する。したがって,③の適用を公序により排除し,他の要件を満たせばFの同意なしに成立させられる。
2 設問2について
(1)小問1
録画という方法は遺言の方式と性質決定される。通則法43条2項により,同法37条ではなく,遺言の方式の準拠法に関する法律による。
同法2条は,行為地法,成立又は死亡当時の国籍国法・住所地法・常居所地法,不動産についての所在地法を選択的に連結し,いずれかの法に適合すれば方式上有効とする。
Bの国籍国である甲国の④は録画方式を認めない。しかし,本件遺言は丙国のホテルでされ,行為地法は丙国法である。Bは遺言の趣旨,氏名及び撮影日を口述し,参与したRも正確性と自己の氏名を口述しているため,⑤の録画方式に適合する。同条1号により方式上有効であり,録画を理由に無効とはならない。日本所在の不動産を含むことも,この有効性を妨げない。
(2)小問2
遺留分は,被相続人の過度の財産処分に対して相続人に最低限の相続利益を確保する制度であり,相続と性質決定される。通則法36条によりBの本国法である甲国法が準拠法となり,設問上,反致はない。
もっとも,預金契約の成立・効力には,同法7条により選択された丙国法が適用される。同法によれば,共同預金はB死亡によりAの資産となり,Bの遺産に含まれない。
しかし,契約に基づく資産帰属と,その財産処分がCの遺留分を侵害するかとは別の問題である。遺留分保護は遺産外への財産処分をも対象とする趣旨を持つから,丙国法上遺産に含まれないことを理由に,遺留分の性質決定を契約に変更すべきでない。本件契約及び7000万円の送金による遺留分侵害についてのCの請求には甲国法が適用される。甲国法の具体的内容が示されていない本問で,日本法と遺留分額が異なることのみから公序違反として日本法を適用してはならない。
以上
3 出題の趣旨・採点実感を踏まえた解説
(1) 答案と評価項目の対応
答案1(1)は番号1~14,1(2)は15~20,1(3)は21~27,2(1)は28~33,2(2)は34~40に対応する。番号41~43は全文で確認する。番号5・23は採用していない構成の条件付き評価であり,以下でその扱いを説明する。番号13は別説の説明として答案1(1)ウで回収している。
(2) 養子縁組の分配的適用と反致
番号2では,共同縁組全体に両国法が関係することと,一つの養親子関係に両法を累積適用することを区別する。通説・審判例の位置付けは公式資料の説明による。準拠法一本化説(番号5)を採るなら別途十分な論証を要する。隠れた反致(番号6~10)は肯定・否定のいずれでも説得的な理由付けを評価する。否定説なら,①を甲国裁判所の自国法適用規定にとどめ,外国法への送致を読み込めないと論じ,甲国法の成立要件も必要と結ぶことになる。
乙国の反致(番号12・13)は甲国からの反致と別に検討する。セーフガードを反致対象とする説でも,乙国が日本と同じ規則を採るなら養子の本国法上の保護要件も残るため,乙国法上の保護が日本法へ置き換わるとはいえない。小問1は準拠法の決定を問うので,断絶型・非断絶型の成立方法の実質的充足へ進みすぎない。
(3) 試験養育の代行と第三者同意
番号17・19は,外国機関を日本の機関に置き換えるという一般論から一歩進んで,どの部分が手続で,どの実体要件を維持し,どの報告で同等の機能を実現するかを示す事項である。民法817条の8第1項と家庭裁判所調査官の報告を対応させる。
第三者の範囲(番号21~23)には無限定説と限定説がある。養子との既存の身分関係を持つ者に限る説ではFを除き,③を適用しない結論となり得る。採用答案は文言と利害調整の尊重からFを含めるため,原則的な同意必要性を示した後,別の段階として42条の公序を検討する。Fの疎遠という事実を,無限定説の規範を作る代わりに直ちに使用しない。公序排除は本件の具体的結果についての自説であり,外国の同意制度一般を否定するものではない。
(4) 録画遺言と共同預金の遺留分
方式の有効性では選択的連結(番号29)を保つ。甲国法に合わなくても丙国の行為地法に適合すればよい。日本の不動産を含むことも行為地法の適用を妨げない。遺留分(番号34・37)は契約による資産帰属と最低保障を別の単位にする。共同預金を遺産外とする契約法の効果に触れず甲国法を指定するだけでは,問題の核心への説明が足りない。
(5) 答案の弱点と扱わなかった事項
隠れた反致と第三者の範囲には解釈上の幅がある。F同意の公序排除は,子の福祉と内国関連性の具体的評価を示した一構成であり,結論だけが唯一の正解というものではない。甲国法の遺留分の具体的内容は与えられていないため,金額や請求の最終的認容を確定せず,準拠法を指定するにとどめる。小問1の実親族関係終了の実質要件,管轄の再検討,甲国遺留分法の公序排除は答案の中心に置かない。
第6 関連記事
1 同じ年度の司法試験の別の模範解答
①令和6年度司法試験民事系第1問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した60項目と5段階の重み付け(AI作成)
②令和6年度司法試験論文式試験の主要7科目の模範解答(AI作成)
2 本問の模範解答と関連する山中弁護士ブログの記事
①遺留分侵害額請求の計算方法と請求を受けた側の対応―期限の許与・分割払い・遅延損害金(AI作成)
②家事事件に関する審判書・判決書記載例集(最高裁判所が作成したもの)
関連記事は実務上の参考であり,本問の架空外国法や答案の基準時を変更する根拠には用いていない。
第7 出典及び確認状態
1 公式資料
①令和6年司法試験問題/選択科目問題PDF(46~47頁)
②令和6年司法試験論文式試験問題出題の趣旨(40頁第2問以降~41頁)
③令和6年司法試験の採点実感・選択科目合冊(国際関係法私法系:42頁総論,44頁3⑵以降~48頁関連注記)
④令和6年司法試験の実施日程等。
2 法令
①法の適用に関する通則法・法務省公開日本語原文(7・31・36・37・41~43条等)
②遺言の方式の準拠法に関する法律・法務省公開日本語原文(全文)
③民法・法務省公開旧版日本語原文(817条の8第1項)。旧版全体を令和6年法と扱わず,本問に使う監護要件に限る。
3 裁判例
公式資料は分配的適用・第三者の無限定説について審判例の立場を説明しているが,本記事では対応する審判原文を独立に確認できていない。特定の判決を一次資料確認済みとして引用していない。隠れた反致の肯否についても,公式資料は学説の分岐を許容している。
4 確認状態
上記問題文と両公式資料の本問関連範囲を実読し,条文原文の確認と区別した。外国法①~⑤は問題文上の確定資料であり,現実の外国法へ置き換えていない。評価項目と重みは公式記述からの独自分析,公序の当てはめと採用説の理由付けは答案上の判断である。実施日より後の法改正・判例を本問当時の答案要求へ逆輸入していない。