第1 結論
第2 双方未履行の双務契約が解除された場合
1 民事再生法49条の選択権
2 ホテル利用契約等の前払金
第3 最高裁平成25年11月21日判決
1 事案の要点
2 最高裁の判断
第4 どの時点で対応すべきか
1 届出前
2 届出後・付議決定前
3 付議決定後
第5 実務で保存する資料
第6 令和8年司法試験倒産法との関係
第7 出典
(続きを読む...)共益債権を再生債権として届け出た場合―双方未履行契約の解除・前払金返還と最高裁平成25年11月21日判決(AI作成)
第1 結論
第2 双方未履行の双務契約が解除された場合
1 民事再生法49条の選択権
2 ホテル利用契約等の前払金
第3 最高裁平成25年11月21日判決
1 事案の要点
2 最高裁の判断
第4 どの時点で対応すべきか
1 届出前
2 届出後・付議決定前
3 付議決定後
第5 実務で保存する資料
第6 令和8年司法試験倒産法との関係
第7 出典
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目次第1 この記事の対象1 免責についての調査と意見を取り上げます2 先に結論を示します第2 免責調査の法的な枠組み1 破産法250条の調査報告2 破産法251条の意見申述3 破産法252条の二段階第3 債権者の反対意見1 具体的事実を示す必要があります2 債権者集会への出席とは別です3 債権者の意見だけで免責は決まりません第4 破産管財人の調査1 債務者の説明をそのまま記載するだけではありません2 事実認定と法的評価を分けます第5 書面報告と口頭報告1 調査結果は書面で報告します2 すべての主張への逐一回答を明記した条文はありません第6 報告書の構成例1 争点ごとに整理する方法2 結論の根拠を追えるようにします第7 懲戒事例を読む際の注意1 免責判断と懲戒判断を区別します2 関連する記事第8 参照資料1 法令2 裁判所の案内
第1 この記事の対象
1 免責についての調査と意見を取り上げます
この記事は,個人破産において,債権者が免責に反対する意見を提出した場合を中心に,裁判所,破産管財人,債務者及び債権者の役割を整理したものです(令和8年10月12日現在)。
免責不許可事由の有無と,免責不許可事由がある場合の裁量免責は,別の判断段階です。破産管財人の調査報告も,裁判所の免責判断そのものではありません。
2 先に結論を示します
裁判所は,破産管財人に対し,免責不許可事由及び裁量免責に関する事情を調査させ,その結果を書面で報告させることができます(破産法250条1項)。本人には調査への協力義務があります(同条2項)。免責について意見を述べる期間を定める手続は同法251条に規定されており,調査報告,意見申述及び裁判所の免責判断を区別する必要があります。
破産法251条の対象となる債権者は,指定された期間内に免責について意見を述べられます。破産規則76条1項は,期日で述べる場合を除き,意見申述を書面ですることを求めています。同条2項により,破産法252条1項各号に該当する具体的事実を明らかにする必要もあります。
主体この場面での役割債務者本人必要な説明と資料提出を行い,免責調査に協力する。不明な点と確認できる点を分ける破産管財人裁判所の指示に基づき必要な事情を調査し,結果を報告する。免責許否を決定する者ではない意見申述の対象となる破産債権者指定された期間と方式に従い,具体的事実と根拠資料を示して意見を述べる裁判所調査結果及び意見等を踏まえ,免責不許可事由と裁量免責を判断する
管財人と申立代理人の違い,面談・資料提出への備え,費用や手続の流れは,破産管財人とはで説明しています。資金使途の説明方法は,破産者の資金使途をどのように説明するかも参照してください。
第2 免責調査の法的な枠組み
1 破産法250条の調査報告
破産法250条1項は,裁判所が破産管財人に対し,免責不許可事由及び裁量免責を判断するために必要な事情を調査させ,その結果を書面で報告させることができると定めています。同条2項が定めるのは,債務者本人の調査への協力義務です。書面報告の根拠と,本人の協力義務の根拠を混同しないことが重要です。
この報告の目的は,債務者又は債権者の主張をそのまま採用することではなく,裁判所が免責を判断するための事実資料を提出することにあります。
2 破産法251条の意見申述
裁判所は,免責許可の申立てがあったとき,破産管財人及び破産債権者が免責について意見を述べることのできる期間を定めます(破産法251条1項)。ただし,同法253条1項各号の非免責債権を有する者は,この意見申述の対象となる破産債権者から除かれています。意見申述期間は,同法251条2項による公告から1か月以上とされます。同条は意見を述べる機会を定めた規定であり,管財人に口頭で意見を聴くことを一律に義務付けた規定ではありません。
東京地方裁判所の案内では,債権者はこの期間内に免責についての意見書を提出でき,書式の指定はないものの,事件番号,債務者名,作成日及び作成者等を明記するよう案内されています。
3 破産法252条の二段階
破産法252条1項は,財産の不利益処分,著しい浪費・賭博,帳簿隠滅,虚偽の債権者名簿,調査への説明拒否又は虚偽説明等の免責不許可事由を列挙しています。
同条2項は,免責不許可事由がある場合でも,破産手続開始に至った経緯その他一切の事情を考慮し,裁判所が免責を許可することを相当と認めるときは,免責を許可できると定めています。したがって,「免責不許可事由が認められるか」と「裁量免責を認めるか」を区別する必要があります。
第3 債権者の反対意見
1 具体的事実を示す必要があります
破産規則76条1項は,破産法251条による意見申述について,期日で述べる場合を除き,書面ですることを求めています。同条2項は,破産法252条1項各号に該当する具体的事実を明らかにすることを求めています。したがって,意見書には,どの不許可事由とどの事実・資料が対応するかを示す必要があります。
単に「誠意がない」「返済しないので免責に反対する」と述べるだけでは,法定の免責不許可事由との関係が分かりません。いつ,誰が,どの財産又は取引について,何をしたのか,どの資料で確認できるのかを示すことが重要です。
2 債権者集会への出席とは別です
東京地方裁判所は,債権者が債権者集会に出席して,破産管財人の報告を聴き,質問できると案内しています。他方,出席するかどうかは債権者の判断であり,出席しなければ意見書を提出できないという関係にはありません。
3 債権者の意見だけで免責は決まりません
免責についての反対意見は,裁判所と破産管財人が調査すべき具体的な手掛かりになります。しかし,債権者の評価が直ちに裁判所の認定になるわけではありません。債務者の説明,客観資料,破産管財人の調査結果及び裁量免責の事情を合わせて判断します。
第4 破産管財人の調査
1 債務者の説明をそのまま記載するだけではありません
破産管財人は,債務者から事情を聴取し,預貯金,取引履歴,契約書,帳簿,申立資料その他の客観資料と照合します。債権者から具体的な事実と資料が提出されたときは,その法的な位置付けと調査可能性を確認します。
ただし,調査の範囲や方法は,争点の重要性,資料の入手可能性,費用,手続の進行及び裁判所の指示によって変わります。債権者が求めた調査をすべて同じ方法で実施しなければならないという規定ではありません。
目次第1 この記事の対象1 破産法人の消費税を取り上げます2 先に結論を示します第2 納税義務者と申告手続を行う者1 納税義務者は破産法人です2 申告・納付の手続は破産管財人が行います第3 不動産等を換価した場合の課税関係1 土地と建物は区分します2 任意売却であることだけでは課税関係は消えません3 課税売上げと控除対象仕入れを別々に確認します第4 課税期間,申告期限及び財団債権1 破産手続の開始日だけでは申告期限は決まりません2 財団債権となるかは発生原因と時期を確認します第5 無申告・期限後申告の問題1 本税だけで終わらないことがあります2 帳簿等の不備は税額計算にも影響します第6 破産管財人が作る確認表1 換価前に確認する事項2 換価後に確認する事項第7 懲戒事例を読む際の注意1 税務上の判断と懲戒判断は別です2 関連する記事第8 参照資料1 法令2 国税庁資料3 裁判例資料
第1 この記事の対象
1 破産法人の消費税を取り上げます
この記事は,法人の破産手続開始後に破産管財人が不動産その他の資産を換価した場合を中心に,消費税の納税義務者,課税・非課税の区分,申告・納付及び無申告となった場合の問題を整理したものです(令和8年9月27日現在)。
個人破産における所得税・消費税や,破産法人の法人税については,制度と計算構造が異なるため,必要な範囲を除いて扱いません。また,個別案件の課税関係は,基準期間,課税事業者選択,簡易課税,インボイス登録,売買契約及び換価費用等により変わります。
2 先に結論を示します
破産手続開始後も,破産法人が当然に消費税の納税義務者でなくなるわけではありません。国税庁は,破産財団に属する課税資産の譲渡等について,破産法人の基準期間により納税義務を判定し,破産管財人が申告・納付の手続を行うと説明しています。
したがって,管財実務では,換価時点で売買代金をそのまま配当原資とみなさず,土地・建物等の区分,課税期間,仕入税額控除に必要な帳簿・請求書等及び申告期限を早期に確認する必要があります。
第2 納税義務者と申告手続を行う者
1 納税義務者は破産法人です
国税庁の質疑応答事例は,破産財団は独立した法主体ではなく,破産財団に属する財産を課税資産として譲渡した場合の納税義務者は破産法人であると整理しています。納税義務の有無も,原則として破産法人の基準期間における課税売上高等によって判断します。
破産手続の開始は,財産の管理処分権を破産管財人に移しますが,破産法人とは別の納税主体として「破産財団」が新設されるわけではありません。
2 申告・納付の手続は破産管財人が行います
破産財団に属する課税資産の譲渡等について破産法人に消費税の申告・納付義務があるときは,その手続を破産管財人が行います。ここでは,「納税義務者」と「申告・納付の事務を担当する者」を区別する必要があります。
平成20年6月16日の名古屋高裁金沢支部判決は,破産会社の課税資産の譲渡に関する申告・納付について,破産管財人がその職務として行うべきことを前提に判断しました。この裁判例は,国税庁の「税務訴訟資料」に収録されています。
第3 不動産等を換価した場合の課税関係
1 土地と建物は区分します
土地の譲渡は消費税の非課税取引です。他方,事業者が事業として行う建物,機械,備品その他の資産の譲渡は,原則として課税取引となります。
土地と建物を一括して売却した場合でも,土地部分まで一律に課税されるわけではありません。国税庁は,契約で価額が区分されていない場合,譲渡時の時価や固定資産税評価額等を基礎とする合理的な方法で区分する必要があると説明しています。
2 任意売却であることだけでは課税関係は消えません
担保権者の同意を得て行う任意売却や,破産管財人による換価であっても,資産の譲渡に該当する限り,通常の消費税の判定から外れるわけではありません。裁判所の許可,担保権者との別除権協定及び配当見込みは,換価の適法性や経済性に関係しますが,それだけで消費税が非課税となるものではありません。
3 課税売上げと控除対象仕入れを別々に確認します
納付税額は,原則として課税売上げに係る消費税額から控除対象仕入税額を差し引いて計算します。そのため,売却代金だけでなく,仲介手数料,測量費,解体費その他の換価費用について,課税関係と保存書類を確認する必要があります。
仕入税額控除を受けるための帳簿・請求書等の要件は,取引時期やインボイス制度の適用関係によって異なります。破産開始前の経理資料が散逸している場合でも,保存資料の有無を確認しないまま控除可能であると扱うことはできません。
第4 課税期間,申告期限及び財団債権
1 破産手続の開始日だけでは申告期限は決まりません
法人の消費税の課税期間は,原則として事業年度です。確定申告と納付は,原則として課税期間の末日の翌日から2か月以内に行います。課税期間の特例や申告期限の延長がある場合は,それぞれ別に確認します。
破産手続が開始したことや,法人の営業を停止したことだけで,消費税の課税期間や申告期限が当然に消滅するわけではありません。開始決定日,事業年度末,換価日及び申告期限を同じ年表に置くと,確認漏れを防ぎやすくなります。
2 財団債権となるかは発生原因と時期を確認します
破産法148条1項は,一定の租税等の請求権及び破産管財人が破産財団に関してした行為によって生じた請求権を財団債権としています。
目次
第1 最初に確認する結論第2 破産法53条が適用される契約1 双方未履行かを契約単位で判断する2 一方の履行が完了している場合第3 管財人の履行・解除選択1 履行を選択した場合2 解除を選択した場合3 相手方から確答を催告する第4 金銭請求を四つに分ける1 履行選択後の代金・報酬2 解除による損害賠償3 反対給付の返還又は価額4 出来高・前払金・未払代金第5 相殺と違約金第6 著しく不公平な解除の限界第7 受任直後の資料と時系列第8 相手方から管財人へ照会する事項第9 関連記事第10 出典・参考資料
第1 最初に確認する結論
取引先が破産して工事,製造,システム開発,役務提供又は売買が未完成のときは,契約書にある倒産解除条項だけで処理してはならない。破産手続開始時に,破産者と相手方の双方に対価関係に立つ未履行債務が残る場合,破産法53条により,破産管財人が契約を解除するか,破産者側の債務を履行して相手方の履行を請求するかを選択できる。
ただし,注文者が破産した請負では,民法642条の特則を先に確認する。
完成後の解除制限は請負人についてのものであり,仕事が完成しても引渡しと残代金支払が残る場合に,管財人による解除の検討まで不要となるわけではない。
既往の仕事の報酬,費用,既払金及び解除損害を,破産法54条の一般的な返還処理へ一括して当てはめない。
具体的な主体と効果は注文者が破産した未完成請負―民法642条と出来高・費用・解除損害(AI作成)で整理している。
請負人が破産した場合と注文者が破産した場合とを入れ替えず,契約の未履行状況と適用する特則を確定する。
初動では,①契約単位,②双方の未履行内容,③出来高・検収・引渡し,④前払金と未払代金,⑤成果物・材料の所有権,⑥違約金・相殺条項,⑦管財人の選択と裁判所許可を一つの時系列表にする必要がある。
第2 破産法53条が適用される契約
1 双方未履行かを契約単位で判断する
破産法53条1項は,双務契約について破産者と相手方が開始時に共に履行を完了していない場合を対象とする。契約名が請負か売買かだけでなく,どの給付が対価関係に立つかを確定する。
例えば,工事契約では工事完成・引渡しと請負代金,開発契約では成果物・ソースコード・移行支援と報酬,機械売買では引渡し・所有権移転と代金支払を対応させる。基本契約の下に複数の個別契約がある場合,すべてを一契約として扱うか,注文ごとに判断するかは,契約条項と清算方法による。
2 一方の履行が完了している場合
一方が中核的な債務を既に履行し終えているなら,53条の選択問題ではなく,残る代金又は引渡請求権が破産債権,財団債権,取戻権又は別除権のどれになるかを検討する。部分検収又は出来高払があるときは,履行済み部分と未履行部分を分けられるかを契約と事実から確認する。
「9割完成」「ほぼ納品済み」という評価語だけでは足りない。検収条件,補修義務,知的財産権移転,マニュアル・鍵・パスワードの引渡し等が契約目的の本質的部分か,付随的部分かを確定する。
第3 管財人の履行・解除選択
1 履行を選択した場合
管財人が破産者側の債務を履行して相手方に履行を請求する場合,相手方が有する請求権は破産法148条1項7号により財団債権となる。もっとも,履行に必要な資金,従業員,資材,ライセンス又は協力業者が確保できなければ,形式的な履行選択だけで契約目的を達成できない。
相手方は,履行内容,期限,品質保証,未完成部分の費用,契約不適合への対応,裁判所許可の有無及び財団の支払原資を具体的に確認すべきである。
このうち裁判所の許可は,履行を選択する場面に特有の手続である。破産法78条2項9号は,53条1項の規定による履行の請求を,管財人が裁判所の許可を得なければならない行為として掲げている。履行を選択すると相手方の請求権が財団債権となり,破産債権者全体の引当てとなる破産財団から優先して支払われることになるため,その選択の当否を裁判所が確認する趣旨と考えられる。
もっとも,最高裁判所規則で定める額以下の価額を有するものに関するときは,許可を要しない(同条3項1号)。破産規則25条は,この額を100万円と定めている。裁判所が許可を要しないものとしたものに関するときも同様である(同項2号)。
許可を得ないでした行為は無効となるが,その無効を善意の第三者に対抗することはできない(同条5項)。相手方は,管財人から履行の請求を受けたときは,許可の有無と許可決定の日付を確認し,記録に残しておくべきである。なお,同条2項は,契約の解除を許可を要する行為として掲げていない。
2 解除を選択した場合
管財人が解除すると,将来の履行請求関係は解消する。相手方の解除損害は破産法54条1項により破産債権となり,原則として破産手続で届出をする。
契約を解除したからといって,前払金全額が当然に優先返還されるわけではない。解除損害,原状回復,財団に現存する反対給付及び取戻権を分ける必要がある。
3 相手方から確答を催告する
目次
第1 最初に確認する結論第2 民法642条の特則1 解除できる主体と時期2 既往の報酬・費用と解除損害第3 解除の主体で効果が変わる第4 解除しない場合と完成後第5 破産法53条・54条との区別第6 旧法判例の使い方第7 受任直後の資料と時系列第8 破産管財人へ照会する事項第9 関連記事第10 出典・参考資料
第1 最初に確認する結論
注文者が破産し,仕事が完成していない請負契約では,一般規定の破産法53条・54条より先に,民法642条の特則を確認する。破産管財人は請負契約を解除でき,請負人も仕事完成前であれば解除できる。
解除後は,請負人が既にした仕事の報酬と報酬に含まれない費用,解除損害,注文者が支払済みの代金,材料・仕掛品・成果物の帰属を別々に整理する。「双方未履行だから破産法53条」とすると,特則の効果を誤る。
本記事は,令和8年9月24日現在の公開法令,裁判例及び法務省公開資料による。
第2 注文者破産の未完成請負は民法642条を先に見る
1 解除できる主体と時期
民法642条1項は,注文者が破産手続開始決定を受けたとき,請負人又は破産管財人が契約を解除できると定める。ただし,請負人が解除できるのは仕事の完成前である。完成時点,検収,引渡しと報酬発生時点を混同しない。
2 既往の報酬・費用と解除損害
同条2項により,請負人は,既にした仕事の報酬とその報酬に含まれない費用について破産財団の配当に加入できる。3項により,解除による損害賠償は,破産管財人が解除した場合の請負人だけが請求でき,その請求権は配当の対象となる。
状態先に見る根拠資料注文者破産・仕事未完成民法642条工程表,出来高,費用内訳,解除通知仕事完成後・未引渡し・未払請負契約の完成・引渡し・支払条項と破産法上の債権分類完了報告,検査,検収,引渡書売買・継続的役務等の双方未履行破産法53条・54条双方の未履行,前払金,現存反対給付,管財人の回答
第3 解除の主体で効果が変わる
請負人が仕事完成前に解除した場合と,破産管財人が解除した場合とを分ける。いずれの場合も,請負人は既往の仕事の報酬と報酬に含まれない費用について配当に加入できる。他方,解除による損害賠償を請求できるのは,破産管財人が解除した場合の請負人だけである。
したがって,解除通知には,誰が,民法642条のどの地位に基づいて,いつ解除したかを明記する。出来高報酬・費用と解除損害は,請求原因と金額を分けて債権届出資料を作る。
第4 解除しない場合と完成後
注文者の破産だけで請負契約が当然に終了するわけではない。
解除しない場合の履行方法,報酬の支払時期,材料・仕掛品・成果物の管理は,契約条項と破産手続上の債権分類を確認する。
民法642条1項ただし書が仕事完成後の解除を制限するのは請負人であり,破産管財人の解除まで一律に禁止する規定ではない。
仕事が完成しても引渡しと残代金支払が残る場合には,完成だけを理由に特則の検討を終わらせない。
完成,検査,検収,引渡し,報酬の支払期及び破産手続開始を分け,解除主体と通知の内容を確認する。
同条による解除では,既にした仕事に対応する報酬と,未施工部分に対応する支払を区分する。
完成済みの仕事の報酬の一部として支払われた金銭を,解除というだけで全額返還させるものではない。
未払の既往の仕事の報酬は,同条2項による配当参加の対象として整理し,当然に財団債権となるものと扱わない。
既払額が出来高報酬を超える場合,成果物の帰属や担保の問題がある場合は,その額・原因を別に検討する。
法務省の令和3年司法試験出題趣旨は,建物完成後・未引渡しの注文者破産という事例で,民法642条を適用し,既払代金と未払報酬を区分している。
事例の検討は令和3年倒産法第1問の模範解答と評価項目(AI作成)を参照されたい。
試験事例の数値や結論を,別の契約の所有権・返還額まで確定する裁判例として扱わない。
民事上の報酬債権が残ることと,消費税上の資産の譲渡等の時期は別の判断である。
前受金,完成,税務上の引渡し,未収金及び貸倒れを分ける手順は,注文者が破産したときの工事代金と消費税(AI作成)を参照されたい。
第5 破産法53条・54条との区別
目次
第1 結論第2 最初に固定する日付と債権第3 電気料金の分類第4 敷金と民事再生法92条3項第5 弁済額の計算は一つに固定しない第6 実務上の確認資料第7 破産手続との違い第8 関連記事第9 出典と確認範囲
第1 結論
民事再生手続開始前後の電気料金を処理するときは、請求書の発行日や支払期日だけでなく、電気が供給された期間を、再生手続開始の申立日と開始決定日の二つの日で分ける必要がある。電気の供給は民事再生法50条の継続的給付に当たるので、申立て前の供給に係る料金は原則として再生債権となるが、申立て後・開始前の供給に係る料金は、同条2項により共益債権となる(検針期間ごとに料金を算定する契約では、申立日の属する期間の料金も含む。)。開始後の事業継続に必要な供給に係る料金は、同法119条の共益債権に当たり得る。共益債権は再生手続によらず随時弁済される(同法121条)。また、電力会社は、申立て前の料金の不払を理由として、開始後の供給を拒むことができない(同法50条1項)。
敷金がある場合は、相殺の一般規定だけで終えず、民事再生法92条3項による敷金返還請求権の共益債権化を確認する。
同項は、開始後に弁済期が来る賃料をその弁済期に実際に弁済したことなどを要件とし、賃料弁済額の寄託を請求する破産法70条とは仕組みが異なる。
同項括弧書と敷金への当然充当の関係についても、解釈の根拠と控除する対象を明示して計算する。
第2 最初に固定する日付と債権
確認事項実務上の意味
再生手続開始の申立日申立て前の供給に係る料金(再生債権)と、申立て後の供給に係る料金(民事再生法50条2項の共益債権)を分ける基準となる。検針期間ごとに料金を算定する契約では、申立日の属する期間の料金も共益債権となる。
再生手続開始決定日申立て後・開始前の供給に係る共益債権(同条2項)と、開始後の供給に係る共益債権(同法119条)を分ける基準となる。
検針期間・供給期間一枚の請求書に開始前後の供給が含まれる場合の按分資料となる。
請求額・支払期日弁済期と相殺適状、遅延損害金を確認する。
賃貸借と敷金の内容敷金返還請求権の具体化、未払賃料等への当然充当及び92条3項による共益債権化額を計算する。
第3 電気料金の分類
民事再生法84条1項は、再生手続開始前の原因に基づいて生じた財産上の請求権を再生債権とする。開始前に供給された電気の料金も、まずこの規定から検討する。単に請求書が開始後に届いたことだけで共益債権になるわけではない。
もっとも、電気の供給契約のように「再生債務者に対して継続的給付の義務を負う双務契約」については、同法50条が特則を置いている。同条2項は、相手方が「再生手続開始の申立て後再生手続開始前にした給付に係る請求権(一定期間ごとに債権額を算定すべき継続的給付については、申立ての日の属する期間内の給付に係る請求権を含む。)は、共益債権とする」と定める。したがって、再生債権となるのは申立て前の供給に係る料金(申立日の属する検針期間の分を除く。)であり、申立て後・開始前の供給に係る料金は共益債権となる。供給が開始決定より前であることだけで再生債権になるわけではない。
また、同条1項は、継続的給付の義務を負う相手方は「再生手続開始の申立て前の給付に係る再生債権について弁済がないことを理由としては、再生手続開始後は、その義務の履行を拒むことができない」と定める。電力会社が申立て前の未払を理由に開始後の供給を止めることは、この規定により制限される。ただし、開始後の料金の不払など、別の解除原因がある場合まで一律に供給の停止を禁じる規定ではない。
これに対し、開始後、再生債務者の事業継続のために供給された電気の料金は、同法119条の共益債権に当たり得る。共益債権は再生債権とは異なり、同法121条により再生手続によらないで随時弁済される。月をまたぐ請求では、供給期間を申立日(検針期間ごとに料金を算定する契約では、申立日の属する期間)と開始決定日を境に分け、基本料金、従量料金その他の内訳ごとに按分根拠を残す。
なお、契約が旧一般電気事業者(みなし小売電気事業者)の規制料金(特定小売供給約款による供給)であれば、みなし小売電気事業者は、当分の間、経済産業大臣が指定する区域において「正当な理由がなければ」特定小売供給を拒んではならない(電気事業法等の一部を改正する法律(平成26年法律第72号)附則16条1項。旧制度の下で既に自由化されていた高圧等の需要は対象外である。)。自由料金の契約にはこの供給義務がなく、供給の停止や解約の要件は契約と約款で決まる。規制料金と自由料金の違いは、家庭の電気料金の値上げに国の認可は必要か―規制料金(特定小売供給約款)と自由料金の違い,経過措置の現状及び争い方で扱っている。
第4 敷金と民事再生法92条3項
民事再生法92条3項は、開始時に再生債務者に対して賃料債務を負う再生債権者が、開始後に弁済期が到来する賃料を、開始後その弁済期に弁済した場合に、敷金返還請求権を一定限度で共益債権とする規定である。
開始後に期限が来ることと、その期限に現実に弁済したことを区別して確認する。
上限は、開始時の賃料の6か月分に相当する額から同条2項の相殺により免れる賃料債務額を控除した範囲内の、実際の賃料弁済額である。
①開始時の賃料債務、②開始後に来る弁済期とその弁済期の弁済、③実弁済額、④6か月分の枠、⑤2項の相殺額の控除を落とさずに検討する。
(続きを読む...)民事再生手続開始前後の電気料金と敷金――再生債権,共益債権,民事再生法92条3項及び弁済額の計算(AI作成)
目次第1 問題の構造1 四つの法律関係を分ける2 最初に確定する事項第2 第三者被保険者型の損害保険1 被保険者の権利2 保険契約者の解除権3 保険契約上の権限と顧客に対する義務を分ける第3 未経過保険料の返還と破産財団1 原則的な確認2 顧客資金の帰属を別に調べる第4 顧客が破産債権者となる場面1 被保険者であるだけでは決まらない2 知れている破産債権者3 届出額は未経過保険料と同額とは限らない第5 保険金請求権等に設定された質権1 質権の目的を特定する2 対抗要件と保険会社の書類3 最高裁平成18年判決から得られる注意点第6 維持・承継・解約の比較1 契約を維持する場合2 契約を承継する場合3 契約を解約する場合4 返還総額ではなく財団への正味効果を比較する第7 破産管財人の確認手順1 回収する資料2 保険会社へ書面で確認する事項3 裁判所・顧客・質権者への対応第8 確認できていない事項第9 関連記事第10 出典
第1 問題の構造
1 四つの法律関係を分ける
設備の販売・設置業者が保険契約者となり,顧客を被保険者として長期の損害保険に加入している場合,業者が破産すると,保険契約,設備の販売契約,破産財団及び質権という四つの法律関係が交差する。
顧客が保険給付を受け得ること,業者が保険会社に対して契約を解除できること,解除後の未経過保険料の返還請求権が誰に帰属するか,業者が顧客に対して保険を維持する義務を負うかは,それぞれ別の問題である。
2 最初に確定する事項
契約書の名称だけで処理方針を決めてはならない。
少なくとも,保険期間,保険料の支払方法,解除権,契約者変更・地位移転,未経過保険料の計算,保険金請求手続,顧客との販売契約,見積書・請求書上の保険料表示及び質権設定書類を確認する必要がある。
第2 第三者被保険者型の損害保険
1 被保険者の権利
保険法8条は,被保険者が損害保険契約の当事者以外の者であるとき,その者は当然に当該損害保険契約の利益を享受すると定める。
したがって,顧客が契約者でなくても,被保険者として保険給付請求権を取得し得る。
もっとも,具体的な権利の内容は,保険の目的,保険事故,免責事由,保険価額,保険期間及び請求手続を定める約款・特約によって決まる。
「被保険者」と記載されていることだけから,保険契約を維持させる権利又は未経過保険料の返還請求権まで当然に取得するとはいえない。
2 保険契約者の解除権
保険法27条は,保険契約者がいつでも損害保険契約を解除できると定め,同法31条は解除の効力が将来に向かって生ずることを定める。
破産開始後は,破産財団に属する財産の管理・処分権は破産管財人に専属するため,保険契約上の地位と解除権が破産財団に属する場合,管財人が解除の可否を検討することになる。
ただし,保険法上解除できることと,販売契約上解除してよいことは同じではない。
業者が顧客に対し,一定期間の保険付保又は保険維持を約束していたときは,保険会社に対する解除の効力とは別に,顧客に対する債務不履行責任等が問題となり得る。
3 保険契約上の権限と顧客に対する義務を分ける
販売契約に保険の記載がない場合でも,見積書,請求書,パンフレット,メール,説明資料,保険証券の交付状況及び取引慣行から契約内容が補充されることがある。
他方,保険料相当額を顧客から受領したというだけで,常に十年間の保険維持義務が成立するわけでもない。
確認すべき中心は,①保険加入が設備代金に含まれる付随給付か,②顧客から預かった資金による事務処理か,③業者が自己の計算で行う保証手段か,④契約更新時に新たな判断を予定していたかである。
第3 未経過保険料の返還と破産財団
1 原則的な確認
破産法34条1項は,破産者が破産手続開始時に有する一切の財産を破産財団とし,同条2項は,開始前に生じた原因に基づいて行うことがある将来請求権も破産財団に属すると定める。
保険契約者である破産会社が,開始前に成立した保険契約に基づき解除時の未経過保険料返還請求権を取得する場合,その請求権は原則として破産財団に属し得る。
もっとも,返還の有無・金額・受取人は約款と保険会社の計算方法によるため,解約試算書又は保険会社の書面回答を取得する必要がある。
2 顧客資金の帰属を別に調べる
返還金が契約者名義で支払われることと,その経済的又は実体法上の帰属が確定することも同じではない。
顧客から保険料名目で区分受領した金銭について,委任,準委任,預り金,信託的な管理又は販売代金の一部のいずれに当たるかは,契約と資金管理の実態から判断する。
したがって,「契約者が破産会社であるから全額が無条件に一般財団となる」とも,「顧客が負担したから当然に顧客へ返す」とも即断できない。
入出金記録,勘定科目,保険料の個別対応,顧客別明細及び倒産前の説明を確認する必要がある。
第4 顧客が破産債権者となる場面
1 被保険者であるだけでは決まらない
破産法2条5項の破産債権は,破産者に対し破産手続開始前の原因に基づいて生じた財産上の請求権である。
顧客が被保険者であるという事実だけでは,破産会社に対する請求権の存在・内容は決まらない。
顧客に破産債権が生じ得るのは,例えば,破産会社が一定期間の保険付保を契約上約束し,解約によって履行不能又は債務不履行となる場合,未履行部分の対価返還義務がある場合,又は顧客から預かった金銭の返還義務がある場合である。
実際の請求権は,販売契約の解釈と解約時点の事情によって異なる。
2 知れている破産債権者
破産法32条3項は,裁判所書記官が知れている破産債権者に対し,開始決定とともに公告すべき事項を通知することを定める。
顧客が単に被保険者名簿に載っているだけで当然に「知れている破産債権者」となるわけではないが,具体的な契約資料から開始前の原因に基づく財産上の請求権があると合理的に認識できる場合,管財人は裁判所へ報告し,通知・届出期間後の取扱いを協議する必要がある。
(続きを読む...)設備販売会社が破産した場合の長期損害保険の処理―第三者被保険者,未経過保険料,債権届出及び質権(AI作成)
第1 結論と判断の順序
1 最初に当てる条文
2 判断フロー
第2 否認対象となる行為を分解する
1 事業譲渡と代金弁済は別の行為である
2 誰の財産により債務が消滅したか
第3 破産法160条―財産減少行為
1 廉価譲渡
2 過大な代物弁済
3 無償行為
第4 破産法161条―相当対価を得た財産処分
1 三つの要件をすべて確認する
2 時価売却後に一部債権者へ弁済した場合
第5 破産法162条―偏頗弁済と担保供与
1 既存債務の弁済又は担保供与が対象となる
(続きを読む...)偏頗弁済と否認権―破産法160条・161条・162条の使い分け,廉価譲渡,相当対価処分及び債務引受け(AI作成)
目次第1 担保権を持つ債権者は不足額についてだけ配当を受ける1 破産者自身の担保財産を扱う2 保証人・物上保証人の一部弁済とは区別する第2 債権届出書の書き方1 全額と不足見込額を分けて届け出る2 破産財団に属しない財産の担保権者(準別除権者)3 担保されない部分が生じた場合第3 破産管財人の認否第4 配当に参加するために必要な証明1 中間配当2 最後配当3 根抵当権の特則第5 民事再生手続との違い第6 担保権者が確認しておく事項第7 出典1 法令2 試験の出題趣旨3 保証人・物上保証人の一部弁済
第1 担保権を持つ債権者は不足額についてだけ配当を受ける
1 破産者自身の担保財産を扱う
破産者の財産に抵当権などの担保権を持つ債権者(別除権者)は,担保権を破産手続によらないで行使することができる(破産法65条1項)。
他方で,破産手続の配当には,担保権の行使によって弁済を受けることができない債権の額についてのみ参加することができる(同法108条1項本文)。
この考え方は,不足額責任主義と呼ばれる。
もっとも,破産債権の届出書に書く「破産債権の額」は,担保で回収できる部分を差し引いた不足額ではなく,被担保債権の全額である。
不足額は,届出書の別の欄に「弁済を受けることができないと見込まれる債権の額」として書く。
この区別は,令和7年司法試験予備試験の論文式試験(倒産法)の出題趣旨でも,届出の額を不足見込額と取り違えないよう注意が促された点である。
2 保証人・物上保証人の一部弁済とは区別する
破産法108条が扱うのは,破産者自身の財産に設定された抵当権等による回収と不足額である。これに対し,破産手続開始後に保証人,連帯債務者又は物上保証人という別の責任主体から一部弁済を受けた場合は,破産法104条により,債権全部が消滅しない限り,開始時の債権全額を基準に権利行使するのが原則である。両者を混同してはならない。
破産法104条,最高裁平成14年9月24日判決及び最高裁平成29年9月12日決定の関係は,破産手続開始後に保証人・物上保証人から一部弁済を受けた場合の届出債権額と配当―破産法104条で整理している。
本記事は,令和8年9月19日を基準に,破産法の条文を基に,別除権者が破産債権を届け出る方法と,中間配当・最後配当に参加するために必要な証明を説明する。
破産手続の電子化とオンラインの債権届出は破産手続のIT化――令和8年5月のウェブ期日と令和10年6月までに予定される全面デジタル化で,破産・個人再生の実務の全体は倒産事件の実務メモ―破産・個人再生・私的整理で扱っている。
第2 債権届出書の書き方
1 全額と不足見込額を分けて届け出る
破産債権の届出では,すべての破産債権者が,破産債権の額及び原因などを届け出る(破産法111条1項)。
別除権者は,これに加えて,別除権の目的である財産と,別除権の行使によって弁済を受けることができないと見込まれる債権の額を届け出なければならない(同条2項)。
例えば,貸付金6000万円の担保として破産者の土地建物に抵当権を持ち,競売で4000万円を回収できると見込む債権者は,次のように届け出ることになる。
①破産債権の額 6000万円(貸付金)
②別除権の目的である財産 抵当権を設定した土地建物
③別除権の行使によって弁済を受けることができないと見込まれる債権の額 2000万円
①に不足見込額の2000万円を書いてしまうと,担保からの回収が見込みより少なかった場合に,届け出た額を超えて配当に参加することは難しくなると考えられる。
逆に,③の不足見込額はあくまで見込みであり,配当に参加するときは,後記のとおり実際の不足額を証明する必要がある。
2 破産財団に属しない財産の担保権者(準別除権者)
破産財団に属しない破産者の財産に抵当権などを持つ者も,別除権者と同じ扱いを受け(破産法108条2項),準別除権者と呼ばれる。
準別除権者も,別除権者と同じ事項を届け出る(同法111条3項)。
3 担保されない部分が生じた場合
被担保債権の全部又は一部が破産手続開始後に担保されないこととなった場合は,その部分の額について,破産債権者として権利を行使することができる(破産法108条1項ただし書)。
例えば,担保権を放棄した場合がこれに当たると考えられる。
(続きを読む...)抵当権を持つ債権者の破産債権届出―不足額責任主義,届出書の書き方,中間配当・最後配当で必要な証明(AI作成)
目次第1 本記事の対象と結論1 対象と基準日2 結論第2 前提となる条文1 民法396条2 抵当権自体の消滅時効3 破産免責の効力第3 平成30年2月23日判決1 事案2 原審の判断3 判旨4 補足意見第4 実務上の問題1 20年の起算点2 改正前民法と現行民法3 物上保証人・第三取得者の場合4 免責を受けていない場合第5 抵当権設定登記の抹消の方法1 抵当権者の協力が得られる場合2 抵当権者が応じない場合3 抵当権者の所在が分からない場合第6 関連記事第7 出典・参考資料1 法令2 裁判例
第1 本記事の対象と結論
1 対象と基準日
本記事は,破産して免責許可の決定を受けた債務者の不動産に,抵当権(根抵当権を含む。)の登記だけが残っている場合に,その抵当権が時効によって消滅するか,消滅するとしていつ消滅し,登記をどう抹消するかを扱う。
中心となるのは,最高裁判所第二小法廷平成30年2月23日判決である。
調査基準日は令和8年9月19日であり,条文はe-Gov法令検索(法令API)で取得した同日時点の民法・破産法・不動産登記法と,平成29年法律第44号による改正前の民法で確認し,裁判例は裁判所ウェブサイトの裁判例検索で判示事項・裁判要旨と全文を確認した。
消滅時効の全体像は,消滅時効に関するメモ書きで整理している。
2 結論
①免責許可の決定の効力を受ける債権は,訴えをもって履行を請求し強制的に実現することができなくなるから,その消滅時効の進行を観念することができない(最高裁平成11年11月9日判決)。
②抵当権は,債務者及び抵当権設定者に対しては,被担保債権と同時でなければ時効によって消滅しない(民法396条)が,被担保債権が免責許可の決定の効力を受ける場合には,同条は適用されない(最高裁平成30年2月23日判決)。
③その場合,抵当権自体が,債務者及び抵当権設定者に対する関係でも,改正前民法167条2項所定の20年の消滅時効にかかる(同判決)。
現行法では,民法166条2項が同じく20年と定めている。
④抵当権自体の時効期間を被担保債権の種類に応じて5年や10年とする考え方は,同判決で否定された。
⑤20年の時効が完成し,これを援用すれば,債務者は抵当権者に対して抵当権設定登記の抹消登記手続を請求することができ,抵当権者が応じなければ判決を得て単独で抹消登記を申請することになる(不動産登記法63条1項)。
⑥20年の起算点(「抵当権を行使することができる時」)は同判決も判示しておらず,免責を受けた直後に抵当権の時効消滅を理由として抹消を求めることはできない。
第2 前提となる条文
1 民法396条
民法396条は,「抵当権は、債務者及び抵当権設定者に対しては、その担保する債権と同時でなければ、時効によって消滅しない。」と定める。
この規定は平成29年法律第44号による改正の前後で同じ文言である。
通常は,債務者や抵当権設定者は,被担保債権の消滅時効を援用して抵当権を消滅させることになり,抵当権だけの時効消滅を主張することはできない。
2 抵当権自体の消滅時効
現行の民法166条2項は,「債権又は所有権以外の財産権は、権利を行使することができる時から二十年間行使しないときは、時効によって消滅する。」と定める。
改正前の民法167条2項は,「債権又は所有権以外の財産権は、二十年間行使しないときは、消滅する。」と定めていた。
平成30年2月23日判決は,抵当権がこの「債権又は所有権以外の財産権」に当たるとした。
3 破産免責の効力
破産法253条1項本文は,「免責許可の決定が確定したときは、破産者は、破産手続による配当を除き、破産債権について、その責任を免れる。」と定める。
他方で,抵当権は別除権として破産手続によらないで行使することができ(破産法65条1項),免責許可の決定は,破産者以外の者が破産債権者のために供した担保に影響を及ぼさない(破産法253条2項)。
そのため,免責後も抵当権の登記は残り,抵当権者が競売を申し立てない限り,登記が長期間放置されることがある。
第3 平成30年2月23日判決
1 事案
目次第1 本記事の対象と結論1 本記事の対象2 結論3 用語第2 過払金返還請求権の性質1 利息制限法の制限と元本充当2 悪意の受益者と利息3 時効期間は10年(商事消滅時効ではない)4 取引履歴の開示第3 最高裁平成21年1月22日判決1 事案2 判示3 同年3月3日判決・3月6日判決と反対意見第4 取引の個数と時効の起算点1 一つの基本契約に基づく取引2 基本契約が複数ある場合3 基本契約がない個別の貸付け4 無担保のリボルビング取引と不動産担保の貸付け第5 「取引の終了」はいつか1 完済と最終取引日2 貸付停止やカードの失効第6 改正後民法の下での扱い1 経過措置2 改正後の5年・10年第7 計算例と実務上の対応1 日付による計算例2 時効の完成を止める手段3 現在の実務上の意味第8 関連記事第9 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 公的資料4 文献
第1 本記事の対象と結論
1 本記事の対象
本記事は,消費者金融やクレジットカードのキャッシングで,利息制限法の制限を超える利息を支払い続けた借主が持つ過払金返還請求権について,消滅時効がいつから進行し,いつ完成するかを扱う。
中心となるのは,時効の起算点を「取引が終了した時」とした最高裁判所第一小法廷平成21年1月22日判決(平成20年(受)第468号,民集63巻1号247頁)である。
調査基準日は令和8年9月19日であり,条文はe-Gov法令検索の現行条文と改正前民法(令和2年3月31日時点)の条文で,裁判例は裁判所HPの裁判例検索で確認した。
消滅時効全体の見取り図は,消滅時効に関するメモ書きで整理している。
2 結論
過払金返還請求権の消滅時効の起算点と期間は,次のとおりである。
①同じ貸金業者との間で一つの基本契約に基づき借入れと返済を繰り返していた場合には,基本契約に過払金充当合意が含まれていれば,特段の事情がない限り,消滅時効は個々の過払金が発生した時からではなく,取引が終了した時から進行する(平成21年判決)。
②令和2年4月1日より前に発生した過払金の返還請求権には,改正前民法が適用され,時効期間は取引終了時から10年であると考えられる(民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)附則10条4項)。
③貸金業者に対する請求であっても,商事消滅時効の5年ではなく10年である(最高裁昭和55年1月24日判決)。
④基本契約が複数あり,前の取引と後の取引が「事実上1個の連続した貸付取引」と評価されない場合には,前の取引の過払金は後の取引の借入金に充当されず,前の取引の終了時から時効が別に進行することになる(最高裁平成20年1月18日判決の充当に関する判断と平成21年判決の起算点に関する判断を組み合わせた帰結である。)。
⑤したがって,完済等により取引が終わってから10年を経過していれば,時効の完成猶予・更新の事由がない限り,貸金業者が時効を援用すれば過払金は請求できない。
令和8年9月19日の時点でみると,最後の取引が平成28年9月18日以前に終わっている取引の過払金は,原則として時効期間が既に満了している。
他方で,取引が現在も続いている場合や,取引の終了から10年が経っていない場合には,まだ請求の余地がある。
3 用語
本記事で「過払金」とは,利息制限法所定の制限を超えて利息として支払われた部分を元本に充当し,元本が完済となった後になお支払われた金銭をいう。
「過払金充当合意」とは,過払金が発生した時に他の借入金債務がなければ,その過払金をその後に発生する新たな借入金債務に充当する旨の合意をいい,平成21年判決の用語に従っている。
「改正前民法」とは,民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)による改正前の民法をいう。
第2 過払金返還請求権の性質
1 利息制限法の制限と元本充当
利息制限法1条は,「金銭を目的とする消費貸借における利息の契約は、その利息が次の各号に掲げる場合に応じ当該各号に定める利率により計算した金額を超えるときは、その超過部分について、無効とする。」と定め,元本10万円未満は年2割,10万円以上100万円未満は年1割8分,100万円以上は年1割5分を上限とする。
制限を超えて利息として支払われた部分は,残元本に充当され,残元本が完済となった後の支払は法律上の原因のない給付となる。
こうして生じた過払金の返還請求権は,民法703条・704条の不当利得返還請求権である。
平成18年法律第115号による利息制限法・貸金業法等の改正が平成22年6月18日に施行され,いわゆるグレーゾーン金利は廃止された。
そのため,現在問題になる過払金の多くは,それより前の取引で支払われた利息から生じたものである。
2 悪意の受益者と利息
最高裁判所第二小法廷平成19年7月13日判決(平成17年(受)第1970号,民集61巻5号1980頁)は,貸金業者が制限超過部分を利息として受領し,その受領に貸金業法(当時の貸金業の規制等に関する法律)43条1項の適用が認められない場合には,特段の事情がない限り,貸金業者は民法704条の「悪意の受益者」であると推定されるとした。
悪意の受益者は,受けた利益に利息を付して返還しなければならない(民法704条)。
(続きを読む...)過払金返還請求権の消滅時効はいつから進行するか―取引終了時とした最高裁平成21年1月22日判決(AI作成)
目次第1 本記事の対象と結論1 対象と基準日2 結論第2 時効完成後の承認に関する最高裁判例1 大法廷昭和41年4月20日判決2 時効の利益の放棄との違い3 昭和45年5月21日判決と再度の時効第3 何が承認に当たるか1 一部弁済2 支払猶予・分割払の申入れ3 減額交渉と債務の存否を争う発言4 誰に対する表示か5 証拠の残し方第4 援用が許される場合と再度の時効1 信義則による制限の射程2 再度の時効の期間3 施行日前に生じた債権4 時効期間が経過した請求を受けたときの対応第5 保証人・物上保証人との関係1 主たる債務者が完成後に承認した場合2 保証人自身が完成後に弁済した場合3 物上保証人による承認第6 成年後見人が返済し又は債務を認めた場合第7 時効完成前の承認との区別第8 関連記事第9 出典・参考資料1 法令2 裁判例
第1 本記事の対象と結論
1 対象と基準日
本記事は,消滅時効の期間が経過した後に,債務者が債務を認め,一部を支払い,又は支払の猶予を求めた場合に,その後に時効を援用することができるかを扱う。
中心となるのは,最高裁判所大法廷昭和41年4月20日判決と,最高裁判所第一小法廷昭和45年5月21日判決の二つである。
調査基準日は令和8年9月19日であり,条文はe-Gov法令検索(法令API)で取得した同日時点の現行民法と,平成29年法律第44号による改正前の民法で確認し,裁判例は裁判所ウェブサイトの裁判例検索で判示事項・裁判要旨と全文を確認した。
時効期間が経過する前に債務を承認した場合(時効の更新)は,債務の承認による時効の更新―一部弁済,破産管財人の承認及び相続人への通知で扱う。
消滅時効の全体像は,消滅時効に関するメモ書きで整理している。
2 結論
①時効期間が経過した後に債務者が債務を承認すると,時効が完成したことを知らなかった場合でも,その時効を援用することは許されない(最高裁大法廷昭和41年4月20日判決)。
②その理由は,時効完成後の承認は時効による債務消滅の主張と相容れない行為であり,債権者も債務者はもう時効を援用しないと考えるから,援用を認めないのが信義則に照らして相当だという点にある。
③時効完成後に承認したという事実だけから,債務者が時効完成を知って承認した(時効の利益を放棄した)と推定することは許されない(同判決)。
④もっとも,援用できなくなるのは既に経過した時効期間についてだけであり,承認の時から再び時効期間が進行し,それが満了すれば,債務者は再度完成した時効を援用することができる(最高裁昭和45年5月21日判決)。
⑤一部弁済は典型的な承認であり,支払の猶予を求めることも承認とされた例がある(同判決の原審の認定)。
⑥援用ができなくなるのは承認をした債務者自身についての話であり,物上保証人等の援用には影響しないと考えられる(債務者による時効の利益の放棄の効果は相対的であり物上保証人等に影響しないとした最高裁昭和42年10月27日判決参照)。
⑦成年後見人が本人を代理して時効完成後に返済し,又は債務を認めた場合も,本人の承認として扱われ,本人は時効を援用できなくなると考えられる。
時効期間が経過した請求を受けたときは,支払や「少し待ってほしい」という返事をする前に,時効が完成しているかどうかを確かめることが大切である。
第2 時効完成後の承認に関する最高裁判例
1 大法廷昭和41年4月20日判決
(1) 事案と判示事項
最高裁判所大法廷昭和41年4月20日判決(昭和37年(オ)第1316号,民集20巻4号702頁)は,請求異議事件において,債務者が消滅時効の完成後に債務を承認したと原審が認定した事案である。
原審は,債務者が商人であることと承認の事実を前提に,債務者は時効完成を知りながら承認し,時効の利益を放棄したものと推定していた。
裁判所ウェブサイトに掲載された判示事項は,①消滅時効完成後に債務の承認をした場合において承認は時効の完成を知ってしたものと推定することの可否,②消滅時効完成後における債務の承認と当該時効援用の許否の二点である。
(2) 推定の否定と判例変更
大法廷は,「債務者は、消滅時効が完成したのちに債務の承認をする場合には、その時効完成の事実を知つているのはむしろ異例で、知らないのが通常であるといえる」と述べた。
その上で,債務者が商人の場合でも,時効完成後に承認した事実から,時効完成を知って承認したと推定することは許されないとした。
これと見解を異にする最高裁判所第一小法廷昭和35年6月23日判決(民集14巻8号1498頁)は変更された。
(3) 援用の制限とその理由
大法廷は,推定の点では原審を誤りとしつつ,次のように判示して,消滅時効の抗弁を排斥した原判決の結論を維持した。
「債務者が、自己の負担する債務について時効が完成したのちに、債権者に対し債務の承認をした以上、時効完成の事実を知らなかつたときでも、爾後その債務についてその完成した消滅時効の援用をすることは許されないものと解するのが相当である。」
(続きを読む...)時効完成後に債務を承認・一部弁済したら時効を援用できないか―最高裁昭和41年4月20日大法廷判決と再度の時効(AI作成)
目次
第1 結論―保存,開示,診療継続及び廃棄を分けて設計する
第2 最初の72時間に行うこと
第3 誰が記録を保存し,誰が開示に対応するか
第4 記録ごとの保存期間と起算点
第5 紙カルテと電子カルテの外部保存
第6 患者の転院と診療情報の開示
第7 実務上考えられる四つの運用モデル
第8 保存期間満了後の廃棄
第9 破産管財人の時系列チェックリスト
第10 判例秘書の検索結果と未確認事項
第11 関連記事
第12 出典
第1 結論―保存,開示,診療継続及び廃棄を分けて設計する
本記事は,令和8年9月18日現在の法令及び公的資料に基づき,医療法人,一般財団法人又は個人診療所が破産又は閉院する場合の診療録,電子カルテ,画像,健診記録等の取扱いを整理するものである。
法令・通知で確認できることとして,勤務医が作成した診療録は病院又は診療所の管理者が5年間保存し,厚生労働省は,病院又は診療所が廃止された場合には,通常は廃止時点の管理者が保存するのが適当であるとしている。また,患者等から診療録の開示を求められた場合,原則として応じる必要があるとの行政上の整理が示されている。
本記事の実務上の提案は,①記録を失わないための保全,②現在患者の診療継続,③本人又は遺族からの開示依頼,④保存期間満了後の廃棄を一つの問題として扱わず,責任者,連絡先,費用及び終了条件をそれぞれ決めることである。
未確認事項として,医療機関の破産管財人が,破産手続開始だけによって医師法24条2項上の「管理者」又はその公法上の保存義務を当然に承継すると明記した法令・最高裁判例は,今回確認した範囲では見当たらない。もっとも,破産財団に属するサーバー,紙記録及び契約を管理処分する権限は管財人に専属するため,管財人が記録の消失を防ぎ,元管理者,保健所,電子カルテ事業者等との実施体制を作る必要性は高い。裁判所職員総合研修所の研究報告書も,管財人が破産財団の費用で記録を保管し,保存期間経過後に処分する実務を記載するにとどまり,管理者の地位の承継には触れていない(第10参照)。
第2 最初の72時間に行うこと
1 削除,返却,解約及び上書きを止める
まず,電子カルテ,画像管理システム,検査機器,クラウド,バックアップ媒体及びリース物件について,自動削除,アカウント停止,機器返却,初期化及び契約終了の日を確認する。ベンダーやリース会社には,記録保全のために処分を一時停止する対象と期間を明確に伝える。紙への一括印刷を先行させると,画像原データ,波形,更新履歴,監査ログ,添付ファイル又は検索情報を失うおそれがあるため,まず原データの保全可能性を確認する。
2 現在患者と未処理検査を優先する
治療継続中の患者,結果説明前の検査,予約済みの処置及び紹介状未作成の患者を抽出し,転院先への診療情報提供を優先する。単にカルテを保存しても,現在進行中の診療上の危険が解消されるわけではない。緊急性,連絡結果,提供資料及び未了事項を患者ごとに記録する。
3 記録台帳を作る
目次第1 資金使途の説明が問題になる場面第2 資金使途調査の法的な位置付け1 破産管財人による免責調査2 浪費は資産の減少だけでは決まらない3 裁量免責の予備的な検討4 免責許可と個別債権の非免責性は別問題である第3 調査対象期間の決め方1 多額の入金を起点とする2 中核期間と補充期間を分ける3 口座をまたぐ移動は支出として数えない第4 資金使途表の作り方1 取引単位の表を作る2 総額ではなく流れを示す3 立替金は支出と回収を対にする第5 主な支出区分と注意点1 破産者本人の生活費2 家族の生活費・介護費・医療費3 第三者への援助・貸付け・贈与4 債務の返済5 税金,専門家費用及び資産売却費用6 死亡前後の支出を分ける7 現金引出しと使途不明金第6 裏付資料の強さと限界1 証拠を四段階に分ける2 一部のレシートが証明する範囲3 資料が残っていない理由も客観化する第7 集計時に起こりやすい誤り1 二重計上2 異なる資産の売却代金を混同すること3 債権総額と個別債権額を混同すること4 概算値を確定額として扱うこと第8 破産管財人の報告書に対する意見の組み立て方1 報告書の記載を正確に分解する2 主位的主張と予備的主張を分ける3 人物評価より取引事実を先に示す第9 提出前のチェックリスト第10 出典
第1 資金使途の説明が問題になる場面
自己破産の免責調査では,多額の預金の払戻し,不動産・有価証券等の売却代金,退職金,保険解約返戻金又は借入金が短期間で減少している場合に,「いつ,いくらを,誰のために,何に使ったのか」が問題となる。
この問題は,単に通帳の出金額を合計すれば解決するものではない。
破産法上の浪費に当たる支出,通常の生活費,家族の介護・医療費,債務の弁済,税金,専門家費用及び使途不明金を区分し,それぞれを客観資料と結び付ける必要がある。
本記事は,令和8年9月16日現在の破産法及び破産規則を前提として,破産者又は申立代理人が資金使途を説明する際の整理方法を示すものである。
個別事件では,裁判所又は破産管財人から指定された書式,調査対象期間及び追加提出資料を優先する必要がある。
大阪地方裁判所第6民事部の寄稿「はい6民ですお答えします」Vol.289は,破産申立て直前の不動産売却代金による子の高額な留学費用,保険解約返戻金による家電一式の購入,親族への贈与,別居の成人した子の債務返済,受任通知後の個人型確定拠出年金への新たな積立て,配偶者への多額送金を例示する(『月刊大阪弁護士会』2026年7月号105~106頁)。
同部の寄稿は,その資金移動を申立て前から確認し,支出の必要性・相当性を説明するよう求める問題提起である。各支出について当然に否認が成立し,又は免責が不許可になるとした裁判例ではない。否認は破産法160条以下,免責は同法252条の各要件に即して分けて検討する。
※ 本記事はAIを利用して作成した一般的な解説であり,個別事件についての法的助言ではない。
第2 資金使途調査の法的な位置付け
1 破産管財人による免責調査
破産法250条1項は,裁判所が破産管財人に対し,免責不許可事由の有無及び裁量免責の判断に当たって考慮すべき事情を調査させ,書面で報告させることができると定めている。
同条2項により,破産者は,この調査に協力しなければならない。
破産規則75条1項も,裁判所が破産者に対し,免責不許可事由又は裁量免責に関する事情の調査に必要な資料の提出を求めることができると定めている。
したがって,資金使途の説明は,破産者が任意に作成する弁明資料にとどまらず,法定の免責調査に対する回答となる。
2 浪費は資産の減少だけでは決まらない
破産法252条1項4号は,浪費又は賭博その他の射幸行為によって,著しく財産を減少させ,又は過大な債務を負担したことを免責不許可事由としている。
そのため,多額の資産が減少したという結果だけで,同号に該当するわけではない。
まず個々の支出が浪費又は射幸行為に当たるかを判断し,次にその行為によって著しい財産減少又は過大な債務負担が生じたかを検討する必要がある。
他方で,支出目的が家族援助,介護又は従前の生活水準の維持であったというだけで,浪費性が当然に否定されるわけでもない。
支出の必要性,金額,時期,破産者の資産・収入,受益者及び回収可能性を具体的に検討する必要がある。
浪費の判断枠組みと裁量免責の限界については,破産免責の許可・不許可の限界事例で詳しく説明している。
3 裁量免責の予備的な検討
免責不許可事由がある場合でも,裁判所は,破産手続開始の決定に至った経緯その他一切の事情を考慮し,免責を許可することが相当と認めるときは,裁量免責を許可できる(破産法252条2項)。
したがって,資金使途の説明では,「すべてが必要な支出であり,一切浪費ではない」という主張だけに依存するべきではない。
①浪費に当たらない支出,②浪費と評価される可能性がある支出,③資料不足により評価を確定できない支出を区分した上で,仮に②又は③の一部が免責不許可事由に当たる場合にも,その金額・期間・破産原因への寄与が限定的であることを示す必要がある。
4 免責許可と個別債権の非免責性は別問題である
破産法253条1項各号は,免責許可決定が確定しても責任を免れない個別債権を定めている。
破産者一般について免責を許可するかという252条の問題と,特定の貸金・損害賠償金等が免責の効力を受けるかという253条の問題は分けて整理しなければならない。
同一の判決又は同一の債権者の債権に貸金返還請求権と不法行為損害賠償請求権が含まれる場合の検討方法については,破産法253条1項2号の「悪意で加えた不法行為」を参照されたい。
第3 調査対象期間の決め方
1 多額の入金を起点とする
資金使途調査では,不動産売却代金,退職金,保険解約返戻金又は多額の借入金など,問題となる資金が入金された日を起点とするのが分かりやすい。
入金前からの口座残高と混在している場合は,入金直前の残高も記録する。
終期は,問題となる資金がほぼ尽きた日,支払不能に至った日,破産準備を開始した日又は裁判所・破産管財人が指定した日のうち,調査目的に適した日とする。
数年間の生活全体を漫然と説明するのではなく,問題となる資金が大きく動いた中核期間を先に確定することが重要である。
2 中核期間と補充期間を分ける
中核期間だけでは,支出の背景又はその後の生活状況を説明できないことがある。
その場合は,①取引単位で全件を照合する中核期間と,②月別又は費目別の概算で補充する周辺期間を分ける。
両者を区別せず,長期間の概算額だけを提示すると,多額の入金直後の具体的な資金移動が見えなくなる。
反対に,中核期間だけを切り出して継続的な収入又は介護負担を無視すると,支出の相当性を誤って評価することがある。
3 口座をまたぐ移動は支出として数えない
本人名義のA口座から本人名義のB口座への振替は,資金の所在が変わっただけであり,外部への支出ではない。
この振替をA口座の出金とB口座からの支出の双方で計上すると,同じ資金を二重に費消したことになる。
家族名義口座への送金は,単なる口座移動とは限らない。
名義,管理者,送金目的,送金後の支出及び返還の有無を確認し,贈与,立替え,預け金,貸付け又は実質的な本人資金の移動のいずれに当たるかを検討する。
目次第1 5000万円を少し超える場合に先に確認すること第2 利用の入口と計画認可の両方に金額要件がある1 申立て・開始の段階2 再生計画の認可の段階第3 5000万円に何を含め,何を除くか1 条文ごとの算定対象2 住宅ローンと担保不足額3 元本だけでなく利息等を揃えて計算する第4 少額超過時の一部弁済と債務免除1 按分弁済の計算と実行の可否2 申立前に整理しておく資料3 債権者による真正な債務免除第5 申立前,申立後及び開始後では制限が異なる1 時期ごとの検討2 開始後の免除と,個人再生での否認規定第6 親族援助によって債務総額が減るとは限らない1 借入れ,贈与及び直接弁済の比較2 第三者弁済と求償・代位3 受け取って残っている援助金と清算価値4 継続的な援助と計画の履行可能性第7 届出後の異議は任意の減額手段ではない1 実体的な争いと異議留保2 評価申立ての期間と申立人3 免除等を裁判所に届け出る方法4 手続内確定の前後で計画策定への影響が異なる第8 給与所得者等再生では金額以外の要件も確認する1 収入と計画弁済総額2 議決権者が2社の場合第9 関連裁判例から分かることと分からないこと1 名古屋高裁平成26年1月17日決定2 最高裁第三小法廷平成29年12月19日決定3 東京高裁平成22年10月22日決定第10 相談・申立準備で揃える資料と裁判所運用1 資料を揃える2 公開資料で確認できた運用の範囲第11 関連記事と出典1 関連記事2 出典と確認範囲
第1 5000万円を少し超える場合に先に確認すること
個人再生を利用できるかは,「住宅ローン以外の借入元本が5000万円以下か」だけでは決まらない。
対象となる債権の範囲,利息・遅延損害金,担保による回収見込額及び手続の段階を確認する必要がある。
上限を少し超える場合には,計算の誤りや除外すべき債権がないかを調べた上で,申立前の一部弁済又は真正な債務免除によって有効に債務が減少するかを検討することになる。
ただし,按分弁済であれば当然に許容されるとはいえず,開始後に弁済して認可時までに減らせば足りるという制度でもない。
本記事は,令和8年9月10日現在の民事再生法,民法及び裁判所公表資料に基づく一般的な検討である。
条文から確認できる仕組みと,個別の弁済・免除について裁判所の取扱いを確認すべき事項を分けて説明する。
第2 利用の入口と計画認可の両方に金額要件がある
1 申立て・開始の段階
民事再生法221条1項は,継続的又は反復的に収入を得る見込みがあり,所定の除外をした再生債権の総額が5000万円を超えない個人について,小規模個人再生の利用を認めている。
給与所得者等再生も,同法239条1項によりこの金額要件を満たすことが前提となる。
債務者が自ら申し立てる場合,小規模個人再生又は給与所得者等再生を求める申述は,開始申立ての際にしなければならない(同法221条2項,239条2項)。
要件に該当しないことが明らかな場合の開始前の処理として,通常再生による手続又は申立ての棄却が定められている(同法221条6項・7項,239条3項・4項)。
したがって,金額要件を満たしていないことが明らかなまま,認可までの減額を予定して個人再生を申し立てればよいとはいえない。
一方,過去のある時点で5000万円を超えていたというだけで,その後に適法かつ有効な債務減少があっても永久に利用できなくなるという規定ではない。
2 再生計画の認可の段階
認可段階では,異議のなかった届出債権である「無異議債権」と,裁判所が額を定めた「評価済債権」の総額から,法定の除外額を控除した金額が問題となる。
この金額が5000万円を超えている場合は,小規模個人再生では同法231条2項2号,給与所得者等再生では同法241条2項5号により不認可となる。
開始段階の算定と認可段階の算定は,基礎となる債権と除外規定が異なる。
「5000万円以下」という数字だけを取り出さず,どの段階のどの金額を確認しているかを明確にする必要がある。
第3 5000万円に何を含め,何を除くか
1 条文ごとの算定対象
確認する段階
基礎となる金額
条文が除外するもの
小規模個人再生の利用要件。給与所得者等再生もこれを前提とする
再生債権の総額
住宅資金貸付債権,別除権の行使による弁済見込額,再生手続開始前の罰金等(221条1項)
計画認可の金額要件
目次第1 本記事の対象と結論1 三つの手続を区別すること2 結論第2 免責許可・免責不許可決定への即時抗告1 即時抗告ができる裁判と通常の抗告人2 抗告期間3 抗告状と相手方の住所第3 破産事件記録で債権者の住所を確認する1 破産者本人は利害関係人であること2 電話照会では記録内容を確認できないこと3 確認すべき記録と限界第4 免責確定後の請求異議の訴え1 免責許可決定の効力2 非免責債権の確認3 一つの債務名義に複数の債権が含まれる場合4 請求異議の訴え5 執行停止の申立て第5 請求異議で被告の住所が不明な場合1 被告表示と送達先2 住所調査の順序3 公示送達は最後の手段であること第6 戸籍の附票・附票の除票で分かる住所1 同じ本籍と同じ戸籍は異なること2 相手方が別戸籍になった後の住所3 誰が交付を請求できるか4 附票の住所と実際の居所,DV等支援措置第7 実務チェックリスト第8 関連記事出典
第1 本記事の対象と結論
1 三つの手続を区別すること
破産者又は破産債権者が転居した場合,①免責許可又は免責不許可の裁判に対する即時抗告,②破産事件記録の閲覧・謄写,③免責許可決定の確定後に提起する請求異議の訴えを区別する必要がある。
即時抗告は係属中の破産・免責事件における不服申立てであるのに対し,請求異議の訴えは債務名義の執行力を排除するための新しい訴訟であり,相手方住所の扱いも異なる。
本記事は,令和8年9月10日現在の法令及び裁判所の公開案内に基づき,住所が分からない場合の確認順序を整理するものである。
個別事件では,裁判書の内容,事件番号,公告日,債務名義の種類,破産債権の発生原因及び裁判所からの補正指示を確認する必要がある。
2 結論
免責の裁判に対する即時抗告では,抗告人の住所,事件番号,原裁判及び抗告の趣旨・理由を明らかにする必要があるが,破産者が抗告する際に個々の破産債権者を被告として,その全員の現住所を調査・記載する手続ではない。
他方,免責許可決定の確定後に破産債権者を被告として請求異議の訴えを提起する場合,訴状の被告表示と送達先を定めるため,原則として被告の住所調査が必要となる。
相手方の現住所が分からないときは,まず自分の破産事件記録に提出された債権者一覧表,債権届出書,名義変更届その他の書類を確認するのが合理的である。
裁判所が別事件の記録に新住所を保有しているからといって,新しい訴訟で裁判所が当然にその住所を探索し,訴状の被告表示を補ってくれるわけではない。
かつて同じ本籍であっただけでは,自己の戸籍の附票又は附票の除票から,別戸籍となった相手方の現在住所が分かるとは限らない。
同じ本籍と同じ戸籍は別の概念であり,古い戸籍の附票に記録されるのは,原則としてその戸籍に在籍していた期間中の住所履歴までである。
第2 免責許可・免責不許可決定への即時抗告
1 即時抗告ができる裁判と通常の抗告人
破産法252条5項は,免責許可の申立てについての裁判に対して即時抗告をすることができると定める。
通常は,免責不許可決定に対して破産者が,免責許可決定に対して不服の利益を有する破産債権者が即時抗告をすることになる。
免責許可決定を得た破産者又は免責不許可を求めていた債権者には,通常,その結論を自己に有利に変更する不服の利益がない。
もっとも,誰に抗告権があるかは原裁判の内容と抗告によって求める結論に即して判断する必要がある。
2 抗告期間
免責許可決定は公告されるため,即時抗告期間は公告が効力を生じた日から2週間である(破産法9条,10条及び252条7項)。
官報への掲載日の翌日に公告の効力が生じ,その日から2週間を計算する。
免責不許可決定は公告されないため,破産法13条によって準用される民事訴訟法の規定により,裁判の告知を受けた日から1週間が即時抗告期間となる。
許可と不許可とで期間が異なるので,決定正本の受領日だけを見て一律に2週間と扱ってはならない。
3 抗告状と相手方の住所
抗告状には,抗告人を特定する氏名・住所,原事件の裁判所・事件番号,原裁判の表示,抗告の趣旨及び理由を記載する。
提出先は原裁判所であり,免責事件の記録と結び付けて処理される。
この手続は,破産者が各破産債権者を被告として提起する新しい訴訟ではない。
したがって,破産者が免責不許可決定を抗告する場合,個々の債権者の現在住所を一から調査して抗告状に列挙することが通常の出発点にはならない。
目次第1 結論第2 §365の基本構造1 未履行契約であること2 引受け,拒絶及び譲渡第3 債務者がライセンサーである場合1 §365(n)の対象2 ライセンシーの選択3 商標ライセンスとMission Product判決4 SaaS及びソフトウェアの限界第4 債務者がライセンシーである場合1 §365(c)(1)の制限2 仮想テストと実際テスト第5 契約当事者別の実務対応1 ライセンシーの対応2 ライセンサーの対応3 契約締結時の共通チェック第6 主要裁判例第7 本記事の範囲と限界第8 出典1 法令2 裁判例3 実務解説・関連資料
第1 結論
米国のチャプター11で知的財産ライセンスを検討するときは,債務者がライセンサーであるのか,ライセンシーであるのかを最初に分ける必要がある。
その上で,①破産申立て時に未履行契約であったか,②対象が「知的財産」の法定定義に入るか,③契約と適用される非破産法がどの権利を残すか,④事件がどの巡回区で係属するかを確認することになる。
債務者の立場
中心となる条文
第一の確認事項
ライセンサー
11 U.S.C. §365(a),(g),(n)
拒絶後にライセンシーが使用権を維持できるか
ライセンシー
11 U.S.C. §365(b),(c),(f)
契約の引受け又は譲渡にライセンサーの同意が必要か
債務者がライセンサーである場合,特許,著作権,営業秘密等のライセンシーは,拒絶による契約違反を理由に終了を選ぶか,所定の支払と権利放棄を伴って破産申立て直前の契約上の権利を維持するかを§365(n)に基づき選択できる。
ただし,§365(n)は継続的な開発,保守,クラウド運用又はデータ移行を一般的に保証する制度ではない。
商標は11 U.S.C. §101(35A)の「知的財産」に列挙されていないため,§365(n)の法定保護にそのまま入るとはいえない。
もっとも,連邦最高裁のMission Product Holdings, Inc. v. Tempnology, LLC,587 U.S. 370 (2019)は,拒絶の効果を破産外の契約違反と同様に扱い,拒絶だけで既に付与された商標使用権を消滅させることはできないとした。
債務者がライセンシーである場合,契約の引受けにはデフォルトの治癒,金銭損失の補償及び将来の履行に関する十分な保証が問題となる。
さらに,適用される非破産法が第三者への履行又は第三者からの履行の受領を相手方に強いることを許さず,相手方が同意しないときは,§365(c)(1)が引受け又は譲渡を制限する。
第2 §365の基本構造
1 未履行契約であること
11 U.S.C. §365(a)の引受け又は拒絶の対象は「executory contract」である。
連邦破産法典に一般定義はないが,Mission Product判決は,当事者双方に少なくとも一定の履行が残っている契約と説明している。
ライセンスという名称だけで未履行性が決まるわけではない。
In re Exide Technologies,607 F.3d 957 (3d Cir. 2010)とIn re Interstate Bakeries Corp.,751 F.3d 955 (8th Cir. 2014) (en banc)は,資産譲渡取引に組み込まれた永久的・ロイヤルティ無料の独占的商標ライセンスにつき,統合された取引全体と残存する重要な義務を検討し,未履行契約ではないと判断した。
目次
第1 準自己破産とは1 破産法19条による役員等の申立て2 法人の自己破産及び債権者申立てとの違い第2 準自己破産の申立権者1 法人の種類ごとの申立権者2 一人の取締役による申立てと機関決定3 監査役,株主及び従業員第3 破産原因と疎明1 支払不能又は債務超過2 一部の役員等が申し立てる場合の疎明3 裁判所の調査と不誠実な申立て第4 申立書と準備資料1 申立書及び債権者一覧表2 役員資格と破産原因を示す資料3 会社の協力を得られず資料が不足する場合第5 管轄,特別代理人及び取下げ1 管轄裁判所2 特別代理人が問題となる場合3 申立ての取下げと即時抗告第6 申立費用と予納金1 申立人の予納義務2 国庫仮支弁は例外である3 法人財産からの支出と役員の立替え第7 申立てを検討する順序1 初期確認と資料保全2 直ちに申し立てず追加確認をする場合3 公開裁判例で確認できる事実経過第8 特定非常災害による債務超過の特例第9 出典・参考資料1 法令・裁判所規則2 裁判例3 裁判所・行政機関の運用資料4 文献5 関連記事
第1 準自己破産とは
本記事は,令和8年9月6日現在の破産法,破産規則及び裁判所の公開資料に基づき,法人の準自己破産を説明するものである。
準自己破産とは,法人の取締役等が,破産法19条によりその法人について破産手続開始を申し立てることをいう実務上の呼称である。
破産する債務者は法人であり,申立人となる取締役等が個人として自己破産する制度ではない。
1 破産法19条による役員等の申立て
破産法18条1項は,債権者又は債務者に破産手続開始の申立権を認めている。
これとは別に,同法19条は,法人の理事,取締役,業務を執行する社員又は清算人に,その法人について固有の申立権を認めている。
条文は「準自己破産」という名称を用いていないため,実際の手続を確認するときは,申立人が誰であり,18条又は19条のいずれに基づくのかを区別する必要がある。
2 法人の自己破産及び債権者申立てとの違い
三つの申立ては,いずれも法人を債務者とする破産手続であるが,申立人と申立時の疎明事項が異なる。
区分申立人申立時に問題となる疎明根拠法人の自己破産法人破産原因と財産状態を示す資料が必要であるが,破産法19条3項の対象ではない破産法18条1項準自己破産取締役等一部の取締役等による申立てでは破産原因となる事実の疎明が必要である破産法19条3項債権者申立て法人に対する債権者自己の債権と破産原因となる事実の双方の疎明が必要である破産法18条2項
債権者申立ての要件,予納金及び回収上の限界は,債権者による法人破産申立て―要件・予納金・回収リスク(AI作成)で説明している。
第2 準自己破産の申立権者
1 法人の種類ごとの申立権者
破産法19条1項が明示する申立権者は,次のとおりである。
①一般社団法人又は一般財団法人については理事
②株式会社又は相互会社については取締役
③合名会社,合資会社又は合同会社については業務を執行する社員
目次第1 自然災害債務整理ガイドラインの位置付け1 法的拘束力のない自主的な準則であること2 制度の中心となる三つの利点とその限界第2 対象となる災害,債務者及び債務1 対象となる災害2 対象となる債務者3 対象となる債務及び債権者第3 利用するための七つの要件1 ガイドライン本文が定める要件2 返済困難と災害との因果関係を示す資料第4 メリットと誤解しやすい限界1 個人信用情報に関する取扱い2 手元に残せる財産と500万円3 保証人の取扱い4 登録支援専門家の費用第5 手続の流れ1 最大元本債権者への着手申出2 登録支援専門家の委嘱と全対象債権者への申出3 一時停止4 調停条項案と特定調停第6 デメリット及び注意点1 多数決又は強制認可の制度ではないこと2 返済困難なら誰でも利用できるわけではないこと3 一時停止と費用に限界があること4 不成立時に他の債務整理を検討する必要があること第7 個人事業主と税務1 個人事業主の事業継続2 債務免除益の所得税上の取扱い第8 新型コロナウイルス感染症の特則第9 利用状況第10 被災後の初動第11 出典1 ガイドライン及び運用資料2 法令3 行政機関等の資料
自然災害によって住宅,勤務先又は事業に被害を受け,住宅ローンや事業性ローンを返済できなくなった個人は,「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」により,破産手続や個人再生手続によらずに債務の減免を受けられる場合がある。
もっとも,この制度は申出だけで債務を強制的に減免するものではなく,利用要件を満たした上で,対象債権者との合意を形成し,特定調停を経る必要がある。
本記事では,令和8年9月6日現在のガイドライン本文及びQ&Aに基づき,対象,要件,メリット,デメリット及び手続を整理する。
第1 自然災害債務整理ガイドラインの位置付け
1 法的拘束力のない自主的な準則であること
自然災害債務整理ガイドラインは,自然災害の影響によって既往債務を弁済できなくなった個人について,金融機関等との合意により,債務の全部又は一部の減免,返済猶予その他の債務整理を行うための自主的な準則である。
法令ではなく法的拘束力もないが,対象債権者,債務者その他の利害関係人が自発的に尊重し,遵守することが期待されている(自然災害債務整理ガイドライン本文2頁~3頁)。
2 制度の中心となる三つの利点とその限界
この制度では,①ガイドラインに基づく債務整理の事実等を信用情報登録機関へ報告・登録しない取扱い,②自由財産等を手元に残せる可能性,③登録支援専門家による無料の手続支援が用意されている。
他方,債務減免には対象債権者の合意形成が必要であり,保有できる財産額,新たな借入れ,保証人の責任又は手続成立が保証される制度ではない。
第2 対象となる災害,債務者及び債務
1 対象となる災害
対象は,東日本大震災及び平成27年9月2日以後に災害救助法の適用を受けた自然災害である。
東日本大震災については,令和3年4月1日から現在のガイドラインの対象に追加された(運営機関のガイドライン案内)。
個別の災害が対象に含まれるかは,更新される被災された皆さまへの案内で確認する必要がある。
2 対象となる債務者
対象となるのは,災害の影響により,既往債務を弁済できない状態又は近い将来に弁済できなくなることが確実と見込まれる状態にある個人であり,個人事業主も含まれる。
返済困難かどうかは,収入,財産,信用,債務総額,返済期間,利率及び家計の状況等を総合して判断される(ガイドラインQ&A10頁~13頁)。
住所が災害救助法の適用市町村外にあることだけで,当然に対象外となるわけではない。
住居又は事業所の直接被害に限らず,勤務先の被災による減収,取引先の被災による売上減少等であっても,災害と返済困難との合理的な因果関係を説明できれば対象となり得る。
3 対象となる債務及び債権者
対象となるのは,原則として災害発生前に負担していた住宅ローン,住宅のリフォームローン,事業性ローンその他の既往債務である。
災害発生後の借入れは,通常の自然災害ガイドラインでは対象とならない。
対象債権者は,銀行,信用金庫,信用組合,労働金庫,農漁協,政府系金融機関,貸金業者,リース会社,クレジット会社,債権回収会社及び保証会社等であり,必要があるときはその他の債権者を含めることができる。
債権者数による制限はなく,債権者が1名の場合でも利用できる(ガイドライン本文3頁~4頁及びガイドラインQ&A8頁)。
第3 利用するための七つの要件
1 ガイドライン本文が定める要件
ガイドラインを申し出るためには,次の要件を全て満たす必要がある。
①災害の影響により,既往債務を弁済できないこと,又は近い将来に弁済できなくなることが確実と見込まれること。
第1 チャプター11と民事再生の違いが分かる比較表第2 申立ての条件と経営権1 申立ての条件と開始の時点2 DIPと裁判所・債権者による監督第3 取立ての停止と担保権1 米国のオートマティック・ステイ2 日本の中止命令と別除権3 担保価値と事業に必要な資産の確保第4 DIPファイナンスと優先順位1 米国の融資保護と既存担保に優先する融資2 日本の共益債権と開始前後の区別第5 契約の継続・終了と事業売却1 米国の契約引受けと履行拒絶2 日本の双方未履行契約と倒産解除特約3 計画前の事業売却と清算型の出口第6 取引債権の回収と届出1 従前の売掛金と開始後の取引2 債権届出と期限を逃した場合3 相殺と既払金の返還請求第7 再建計画・再生計画の可決と認可1 計画案を提出する者と期限2 米国のクラス別投票と日本の議決要件3 同じ債権構成でも結論が変わる計算例4 反対者を拘束する認可とクラムダウン第8 株主・保証人・第三者への影響1 旧株主の持分と債務者の免責2 保証人と第三者の免責第9 小規模企業向けのサブチャプターⅤ第10 期間・費用と再生に失敗した場合1 手続の終結と弁済の完了2 米国の四半期手数料3 再建できない場合の清算への移行第11 日本企業の利用と国境を越える効力1 日本での外国倒産手続の承認援助2 米国のチャプター15との違い第12 取引先が申し立てたときの確認事項第13 出典1 法令・裁判所規則・金額改定告示2 裁判例3 司法機関・行政機関による制度説明4 執筆者による実務解説5 関連記事
第1 チャプター11と民事再生の違いが分かる比較表
チャプター11(Chapter 11)は,米国法典第11編の第11章に基づく倒産手続である。
日本の民事再生と同様に,債務者が経営を続けながら債務を整理する仕組みを備えるが,担保権者や株主を計画に取り込む方法,新規融資の保護,債権者の議決要件に大きな違いがある。
したがって,「米国版の民事再生」と理解するだけでは,担保の実行や売掛金の回収について判断を誤るおそれがある。
本記事は,令和8年8月31日を基準日として,一般事業会社の通常のチャプター11と,日本の法人企業の民事再生を比較する。
小規模企業向けのサブチャプターⅤは第9で説明し,個人再生,金融機関等の業種別特則及びステーブルコイン発行者の特則は対象外とする。
米国法令・判決に関する日本語の訳語は仮訳である。
基本となる法令は,米国法典第11編と民事再生法であり,以下の米国法の条番号は,特に断らない限り同編の条番号を指す。
比較事項
米国の通常のチャプター11
日本の民事再生
経営権
原則として債務者が経営を継続する
原則として再生債務者が業務・財産を管理する
申立て直後の保護
原則として申立てにより自動停止が生じる
開始前は保全処分・中止命令等を用いる
担保権の実行
自動停止の対象となり,計画による変更も問題となる
別除権として手続外での行使が原則である
新規融資
超優先権や,一定の条件下で既存担保に優先する担保を付けられる
第1 2026年8月3日に提出された2つの書面
第2 債権者と株主の取扱い
1 DIP融資の現金払い・出口融資・新株への振分け
2 シニア貸付の11%と一般無担保債権の100%
第3 2026年~2028年の財務予測
1 主要数値と債務再編による会計上の利益
2 出口融資と自動車メーカーの支援という仮定
3 未収録の企業価値評価と清算分析
第4 第三者への請求権放棄と計画の補充資料
1 投票の扱いとリリースへの参加は別に読む
2 Plan Supplementと計画の発効条件
第5 出典
第1 2026年8月3日に提出された2つの書面
本記事は2026年8月3日提出版の再建計画案,開示説明書案及び財務予測を説明する。
以下の条項・数値・未収録資料の記載は同提出版に関するものであり,後続の修正を反映した最新の確定条件を示すものではない。
2026年10月12日付け審理延期通知(Docket No. 2834)(https://elevenflo.com/documents/970617e4-8fde-48b5-8a03-41d4e4c4aee5/)は,開示説明書の承認審理を同年10月20日午後1時(米国東部時間。日本時間10月21日午前2時)へ延期したと通知している。
第1 結論と本記事の対象
第2 破産法162条による否認の要件
1 支払不能後又は破産申立て後の賃金支払
2 支払不能前30日以内の期限前払
3 一般従業員と内部者の違い
第3 賃金債権の順位が否認に与える影響
1 破産手続開始前3か月間の給料等
2 財団債権とならない賃金
3 財団の充足状況と有害性
第4 賃金支払に関係する裁判例
1 支払停止後に未払給料等を受領した事例
2 賃金支払資金の借入れのために担保を設定した事例
第1 債権者申立てを検討する場面
1 債権者も法人破産を申し立てることができる
2 申立ての目的を先に定める
第2 申立ての要件と管轄裁判所
1 債権と開始原因の二重の疎明が必要である
2 支払不能と支払停止
3 法人の債務超過
4 管轄は主たる営業所所在地の地方裁判所が原則である
第3 債権者側で準備する資料
1 自己の債権を示す資料
2 開始原因を示す資料
3 債権者が債務者の内部資料を入手できない場合
第1 支払不能と債務超過の違い
第2 支払不能の意味と判断方法
1 破産法2条11項の定義
2 支払能力に含まれる要素
3 確認資料
第3 債務超過の意味と判断方法
1 破産法16条1項の定義
2 帳簿上の債務超過と破産法上の債務超過
3 個人と法人の違い
第4 一方だけが認められる場合
1 債務超過であるが支払不能ではない場合
2 支払不能であるが債務超過ではない場合
第1 マレリのチャプター11は現在どの段階か
1 事業再建の手続と対象会社
2 通知済みの期日と計画案上の日程
第2 再建計画案が示す債権と株式の扱い
1 一般無担保債権の100%回収見込み
2 資金調達と既存株式
3 債権者委員会の申立てと期間延長命令
第3 取引先が確認する売掛金・支払許可・債権届出
1 契約相手と申立前後の債権
2 支払許可と個別支払
3 債権届出と個別の通知
第4 2022年の再建及び日本の手続との関係
第5 マレリのチャプター11についてよくある質問
1 マレリのチャプター11は,その後どうなったか
2 米国のチャプター11とは何か
3 マレリは,なぜチャプター11を申し立てたのか
4 マレリは潰れるのか,取引先は全額回収できるのか
5 マレリのチャプター11はいつまで続くのか
第1 この記事が扱う制度と基準時
1 早期事業再生法とは
2 制度の位置付け
第2 既存の事業再生手続との違い
1 事業再生ADR・民事再生との違いは何か
2 中小企業や個人事業主も利用できるか
第3 利用要件と対象債権
1 利用開始の要件
2 対象となる債権者と債権
3 担保付債権の扱い
第4 手続の流れ
1 確認申請と一時停止
2 一時停止と破産法上の支払停止
3 手続は何か月かかるか
4 4分の3の同意だけで借金を減らせるか
5 裁判所の認可
目次第1 本記事の対象と結論1 対象2 結論第2 条文の構造と2号の要件1 免責の原則と例外2 「悪意」は単なる故意ではない3 2号と3号の違い第3 積極的害意を判断する事情1 肯定方向に働く事情2 否定方向に働く事情3 行為時を中心とする時系列第4 裁判例が示す境界1 著作権侵害の故意があっても積極的害意を否定した例2 自己利益の優先から積極的害意を認めた例3 組織内の地位だけでは積極的害意を認めなかった例4 三つの裁判例の読み方第5 免責後に非免責性を争う手続1 破産手続内で当然に確定するわけではない2 破産債権者表と執行文付与の訴え3 既存の判決又は債務名義がある場合4 同一判決・同一債権者に複数の請求原因がある場合第6 債権者側の主張立証1 不法行為と積極的害意を分ける2 収集すべき資料3 消滅時効と証拠保全第7 破産者側の反論と検証1 通常の故意からの飛躍を指摘する2 履行・補填可能性を客観資料で示す3 事後対応の位置付けを誤らない第8 非免責債権の効果と区別すべき事項1 非免責であることは優先権ではない2 保証人等に対する権利3 免責不許可事由との区別第9 出典・参考資料1 法令2 裁判例・裁判所資料3 公文書4 文献
第1 本記事の対象と結論
1 対象
本記事は,破産者に対する不法行為に基づく損害賠償請求権が,免責許可決定の確定後も破産法253条1項2号の非免責債権として残るかを扱う。主な対象は,損害賠償債権を有する側と,免責後も請求を受けている破産者側であり,免責不許可事由や裁量免責そのものは,破産免責の許可・不許可の限界事例で扱っている。
2号該当性は,破産手続で免責を許可するかという問題とは別である。免責許可決定が確定していても2号債権には免責の効力が及ばず,反対に,行為が違法で故意に行われたとしても,2号の「悪意」まで立証できなければ原則どおり免責の対象となり得る。
2 結論
破産法253条1項2号の「悪意」は,民法上の不法行為を成立させる通常の故意では足りず,他人を害する積極的な意欲,すなわち積極的害意を意味すると解するのが現在の通説・裁判実務である。ただし,加害を唯一の目的とする敵意まで常に必要なのではなく,履行又は補填の見込みがないことを具体的に認識しながら,自己の利益を優先して相手方への損害を避け難い形で転嫁した場合には,客観的事情から積極的害意が認定されることがある。
実務上の要点は,次のとおりである。
① まず破産者本人について不法行為,損害及び因果関係を確定し,その上で積極的害意を別に検討する。
② 主観は,行為時の資金状況の認識,説明内容,金銭の使途,履行・補填の見込み及び発覚後の行動を時系列に並べて立証する。
③ 非免責債権該当性に争いがあれば,通常は破産手続の外で争われる。既存の判決や破産債権者表があっても,その記載だけで積極的害意が確定しているとは限らない。
④ 非免責であることは,破産手続内の配当順位を上げることでも,回収を保証することでもない。消滅時効と執行可能財産は別に確認する必要がある。
第2 条文の構造と2号の要件
1 免責の原則と例外
破産法253条1項本文は,免責許可決定が確定したとき,破産者が破産手続による配当を除いて破産債権について責任を免れると定める。同項ただし書はその例外を列挙し,2号を「破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権」としている。
2号は,それ自体が新しい損害賠償請求権を発生させる規定ではない。債権者は,①破産手続開始前の原因に基づく破産債権であること,②破産者本人について不法行為が成立すること,③請求する損害との因果関係があること,④その不法行為が積極的害意をもって行われたことを順に検討する必要がある。法人の不法行為が認められても,代表者又は従業員である個人の不法行為と積極的害意が当然に認められるわけではない。
2 「悪意」は単なる故意ではない
法務省「令和6年司法試験予備試験論文式試験出題趣旨」も,2号の「悪意」を「他人を害する積極的な意欲(積極的害意)」と説明している。この解釈は,平成16年制定の現行破産法が3号に「故意又は重大な過失」と明記し,しかも3号を「前号に掲げる請求権を除く」とした条文構造とも整合する。
したがって,不法行為の要件として故意が認められること,違法性の程度が高いこと又は行為者の対応が非難に値することだけでは足りない。他方,内心の敵意を直接示す供述がなければ成立しないものでもなく,客観的な行為の連鎖から積極的害意を推認することができる。
3 2号と3号の違い
比較点
2号
3号
第1 この記事が扱う対象1 問題の所在2 破産管財人の選任及び報酬の基本と,相続財産清算人が破産手続に移行する場面は別稿に譲ること第2 両制度の基本的な位置付け1 根拠規定と選任機関2 法的地位の違い第3 管理処分権限の範囲1 相続財産清算人の権限2 破産管財人の権限3 許可を要する行為と金額基準の違い第4 破産手続に特有で相続財産清算手続に存在しない制度1 双方未履行双務契約の処理2 相殺の禁止3 否認権4 担保権消滅の許可第5 債権の確定と弁済・配当の方法1 相続財産清算手続における請求申出の催告と弁済2 破産手続における債権届出・調査・確定と配当第6 報酬の決定方法の違い1 相続財産清算人の報酬2 破産管財人の報酬3 報酬決定に対する不服申立ての可否という違い第7 免責制度の射程1 破産法248条の「個人である債務者」2 相続財産清算手続に免責という概念がないこと第8 両制度の交わる場面――相続財産の破産第9 制度の沿革1 令和3年改正による名称変更2 国会審議における言及の有無出典・参考資料1 法令2 裁判例3 国会会議録第1 この記事が扱う対象1 問題の所在
相続人のあることが明らかでない相続財産と,債務者一般の財産とは,いずれも財産の清算を担う機関を裁判所が選任するという点で共通する。前者は家庭裁判所が選任する相続財産清算人(民法951条及び952条)が担い,後者は地方裁判所が選任する破産管財人(破産法)が担う。両者は選任の根拠法が異なるだけでなく,法的地位,管理処分権限の範囲,債権確定・弁済の方法,報酬の決定手続及び免責制度の有無という点でも制度設計が大きく異なる。本記事は,民法及び破産法の条文並びに公表された裁判例を確認した上で,相続財産清算人と破産管財人の制度上の違いを整理するものである。
比較事項相続財産清算人破産管財人対象と選任機関相続人のあることが明らかでない相続財産。家庭裁判所が選任する破産財団。破産事件を担当する地方裁判所が選任する管理・処分の権限保存・性質を変えない利用・改良を超える行為には家庭裁判所の許可を要する財団の管理処分権が専属するが,法78条2項の行為には原則として許可を要する弁済・配当と否認民法の清算手続による。破産法上の否認権はない債権調査・法定順位による配当を行い,否認制度がある個人の免責清算人の選任自体に個人の免責制度は伴わない個人の破産では別途免責の審理がある。法人・相続財産の清算とは区別する
相続財産に関する管理人には,相続財産清算人のほかにも,民法897条の2の相続財産管理人,不在者財産管理人,遺産分割中の財産管理者及び特別代理人という,似た名称の複数の制度が併存している。これらの選び方及び相互の違いについては,「相続財産清算人,相続財産管理人及び不在者財産管理人の違いと代位による相続登記」で整理しており,本記事では立ち入らない。本記事は,相続人のあることが明らかでない場合に選任される相続財産清算人(民法952条)を対象とし,これを破産管財人と比較する。清算手続の流れそのものは,「相続財産清算人とは」で整理している。
2 破産管財人の選任及び報酬の基本と,相続財産清算人が破産手続に移行する場面は別稿に譲ること
破産管財人の選任基準及び報酬の決定要素の詳細は,「破産管財人の選任基準と報酬の決まり方」で整理している。また,相続財産清算人が選任されている事件が相続財産の破産(破産法222条以下)に移行する場面,すなわち個人の破産事件の係属中に破産者が死亡した場合の取扱いについては,「破産者が死亡した場合の破産手続と免責手続」で詳細に整理している。本記事は,これらと重複する説明を避け,相続財産清算人と破産管財人という二つの制度そのものの違いに絞って記述する。
第2 両制度の基本的な位置付け1 根拠規定と選任機関
相続財産清算人は,相続人のあることが明らかでないときに,利害関係人又は検察官の請求によって家庭裁判所が選任する(民法951条及び952条1項)。これに対し,破産管財人は,破産法74条1項に基づき裁判所が選任する。破産財団に属する財産の管理処分権が管財人に専属することは,同法78条1項に定められている。破産事件の管轄は地方裁判所であるから(同法5条),破産管財人を選任するのは地方裁判所である。相続財産清算人は家庭裁判所,破産管財人は地方裁判所という選任機関の違いは,前者が相続法及び家事事件手続の枠組みに属し,後者が倒産法の枠組みに属することの帰結である。
2 法的地位の違い
相続人のあることが明らかでない場合,権利義務の帰属主体は,相続財産清算人個人ではなく,民法951条により法人とされた相続財産(相続財産法人)である。相続財産清算人は,この相続財産法人の代表者として管理・清算に当たる。これに対し,破産管財人は,破産財団に属する財産の管理及び処分をする権利そのものが専属する者である(破産法2条12項及び78条1項)。破産者自身は,破産手続開始の決定によってこの管理処分権を失う。
破産管財人の法的地位については,担保価値保存義務との関係で最高裁判所の判断が示されている。最高裁判所第一小法廷平成18年12月21日判決(平成17年(受)第276号,損害賠償請求事件,民集60巻10号3964頁)は,破産管財人が破産者の締結していた建物賃貸借契約を合意解除した際に賃貸人との間で開始決定後の未払賃料等に敷金を充当する旨の合意をし,質権の設定された敷金返還請求権の発生を阻害した事案について,当時破産財団に賃料等を支払うのに十分な銀行預金が存在しており現実に支払うことに支障がなかったなどの事情の下では,担保価値を維持すべき義務に違反すると判断した。この判断は,破産管財人が破産財団に属する財産の管理処分権者として,個別の担保権者との関係でも独自の注意義務を負う立場にあることを示している。相続財産清算人について,これに対応する義務の内容を正面から論じた公表裁判例は,本記事の調査の範囲では見当たらなかった。
第3 管理処分権限の範囲1 相続財産清算人の権限
民法953条は,不在者の財産の管理人に関する民法27条から29条までの規定を,相続財産清算人について準用する。このうち28条は,「管理人は,第百三条に規定する権限を超える行為を必要とするときは,家庭裁判所の許可を得て,その行為をすることができる」と定める。同法103条は,権限の定めのない代理人がすることのできる行為を,保存行為並びに物又は権利の性質を変えない範囲内での利用又は改良を目的とする行為に限っている。したがって,相続財産清算人の権限は,保存行為及び利用・改良行為が原則であり,これを超える行為,例えば不動産の売却,訴えの提起又は権利の放棄をするには,家庭裁判所の許可(権限外行為許可)を得なければならない。この許可を得ずにした権限外の行為は,代理権の範囲を超えた行為として,民法113条1項の無権代理の規律に服することになる。預金の解約や不動産・株式の売却など,行為の類型ごとの許可の要否は,「相続財産清算人の権限外行為許可」で整理している。
2 破産管財人の権限
これに対し,破産法78条1項は,破産財団に属する財産の管理及び処分をする権利が破産管財人に専属すると定める。相続財産清算人が保存行為及び財産の性質を変えない利用・改良の範囲を超える行為について家庭裁判所の許可を要するのに対し,破産管財人は当初から破産財団の包括的な管理処分権を有している。もっとも,この権限にも一定の制約がある。同条2項は,不動産に関する物権の任意売却,営業又は事業の譲渡,訴えの提起,権利の放棄など15類型の行為について,裁判所の許可を要すると定める。このうち第七号から第十四号までの行為,すなわち動産の任意売却,債権又は有価証券の譲渡,双方未履行契約の履行請求,訴えの提起,和解,権利の放棄,取戻権・別除権の承認及び別除権の目的財産の受戻しについては,最高裁判所規則で定める額以下の価額のものであれば許可を要しない(同条3項1号)。許可を得ないでした行為は無効であるが,善意の第三者に対しては対抗することができない(同条5項)。
3 許可を要する行為と金額基準の違い
破産管財人について,破産法78条3項1号が許可を不要とする価額は,破産規則25条により100万円と定められている。単なる実務上の目安ではなく,同法78条2項7号から14号までの行為に限って適用される法令上の基準である。不動産に関する物権の任意売却や事業譲渡などへ,この金額だけを理由に例外を広げることはできない。
相続財産清算人については,民法953条が準用する28条と103条により,保存行為及び財産の性質を変えない利用・改良の範囲を超える行為に家庭裁判所の許可が必要になる。全国一律の「100万円以下なら許可不要」という例外は定められていない。まず行為の内容を確認し,許可の要否や申立資料に疑問がある場合は,選任した家庭裁判所に確認する。
管財人の権限と本人・債権者の対応の基本は,破産管財人とは―役割・権限・手続の流れに整理している。
第4 破産手続に特有で相続財産清算手続に存在しない制度
破産法には,相続財産清算手続の根拠となる民法951条から959条まで及び953条が準用する27条から29条までには対応規定のない制度が複数置かれている。以下の4点は,いずれも相続財産清算人の権限を定める民法の規定には現れない。
1 双方未履行双務契約の処理
破産法53条1項は,破産者の相手方との間の双務契約について,破産者及び相手方の双方がまだ履行を終えていないときは,破産管財人が契約の解除をするか,破産者の債務を履行して相手方の債務の履行を請求するかを選択することができると定める。この選択権は,破産手続に特有の制度であり,相続財産清算人にはこれに相当する明文の権限は与えられていない。相続財産清算人が被相続人の締結した契約の帰趨を処理する場合には,個別の権限外行為許可の枠組みで対応することになる。
2 相殺の禁止
破産法71条及び72条は,一定の時期以後に生じた債務負担又は債権取得を理由とする相殺を禁止する。例えば,同法71条1項1号は,破産債権者が破産手続開始後に破産財団に対して債務を負担した場合の相殺を,善意悪意を問わず一律に禁止している。これは,破産手続開始後に生じた事情を利用して他の債権者に優先して満足を得ることを防ぐための強行規定である。相続財産清算手続には,これに相当する明文の相殺禁止規定はない。民法957条2項が準用する928条は,請求申出の期間が満了する前に清算人が弁済を拒むことができるとする規定であり,相続債権者が一方的な意思表示によってする相殺(民法505条1項)を止める規定ではない。そのため,例えば金融機関が被相続人に対する貸付金債権と相続財産法人の預金債権とを相殺した場合,相殺の要件を満たす限り,その債権者は他の相続債権者に先立って回収する結果となり得る。清算人が相殺の効力を争うには,相殺の要件を欠くことを個別に主張するほかない。これに対し,相続財産について破産手続が開始されれば,破産法71条及び72条の相殺禁止規定が問題となる。
3 否認権
破産法160条は,破産者が破産債権者を害することを知ってした行為を,破産手続開始後,破産財団のために否認することができると定める。同法162条は,支払不能になった後の既存債務についての担保の供与又は債務の消滅に関する行為についても,債権者の悪意を要件として否認の対象とする。相続財産清算手続には,これに対応する否認権の制度がない。相続財産清算人が清算の過程で不当に財産を減少させる行為をしても,清算手続そのものの枠内でこれを取り消す手段は用意されていない。
もっとも,相続財産清算人が管理する相続財産について破産法上の相続財産の破産(同法222条以下)が開始された場合には,話が別になる。同法234条は,「相続財産について破産手続開始の決定があった場合における第六章第二節の規定の適用については,被相続人,相続人,相続財産の管理人,相続財産の清算人又は遺言執行者が相続財産に関してした行為は,破産者がした行為とみなす」と定めており,相続財産清算人が管理処分権に基づいてした行為も,否認権の対象となり得る。この場面の詳細は,前記「破産者が死亡した場合の破産手続と免責手続」を参照されたい。
4 担保権消滅の許可
破産法186条1項は,破産財団に属する財産に担保権が存する場合において,その財産を任意に売却して担保権を消滅させることが破産債権者の一般の利益に適合するときは,破産管財人が,売却代金等に相当する金銭を裁判所に納付することによって当該財産に存する全ての担保権を消滅させることについて,裁判所の許可を申し立てることができると定める。相続財産清算手続には,これに相当する制度がない。そのため,相続財産である不動産に複数の抵当権が設定されている場合,清算人が任意売却をするには,後順位の担保権者を含む全ての担保権者から抹消について同意を得る必要があり,同意が得られなければ,担保権の実行による競売に委ねることになる。相続財産清算人による任意売却の進め方,担保権・差押えの処理及び売買契約の条項は,「相続財産清算人による不動産の任意売却」で整理している。
第5 債権の確定と弁済・配当の方法1 相続財産清算手続における請求申出の催告と弁済
相続財産清算人が選任され,家庭裁判所が相続人捜索の公告をしたときは,清算人は,全ての相続債権者及び受遺者に対し,2箇月以上の期間を定めて,その期間内に請求の申出をすべき旨を公告しなければならない(民法957条1項)。この請求申出の期間は,家庭裁判所が定めた相続人捜索の公告期間内に満了するものでなければならない。同条2項は,民法927条2項から4項まで及び928条から935条まで(932条ただし書を除く。)の規定を準用している。清算人は,請求申出の期間が満了するまでは,相続債権者及び受遺者に対して弁済を拒むことができる(民法957条2項,928条)。もっとも,これは弁済を拒む権利を定めたものであり,期間内の弁済を禁止する規定ではない。期間内に弁済したことによって他の相続債権者又は受遺者に弁済をすることができなくなったときは,清算人は,これによって生じた損害を賠償する責任を負う(同法957条2項,934条1項)。期間が満了した後は,期間内に申出をした相続債権者その他知れている相続債権者に,それぞれの債権額の割合に応じて弁済しなければならないが,優先権を有する債権者の権利を害することはできない(同法957条2項,929条)。
期間内に申出をしなかった相続債権者及び受遺者であっても,清算人に知れていた者は,清算から除かれない。除かれるのは,期間内に申出をせず,かつ,清算人に知れなかった者であり,その者は,相続財産について特別担保を有する場合を除き,残余財産についてのみ権利を行使することができる(同法957条2項,935条)。さらに,相続人捜索の公告期間内に相続人としての権利を主張する者がないときは,清算人に知れなかった相続債権者及び受遺者は,その権利を行使することができなくなる(同法958条)。届出のない債権が配当から当然に外れる破産手続とは,この点でも仕組みが異なる。
相続財産が全ての債務を弁済するに足りない場合,相続財産清算人は,各債権者の債権額の割合に応じて弁済(按分弁済)をすることになるが,破産手続のように裁判所の決定によって配当を実施する制度ではない。清算人が按分弁済を実施するに当たっては,個々の債権者との関係を整理し,実務上は債権者の同意を得た上で弁済を進める取扱いがされている。
2 破産手続における債権届出・調査・確定と配当
これに対し,破産手続には,破産債権の届出,調査及び確定という一連の手続が制度化されている。破産債権者は,裁判所が定めた期間内に債権を届け出て(破産法111条),破産管財人がこれを認めるか否かを判断する(同法117条以下)。管財人が認め,届出をした破産債権者から異議のない事項は確定し,破産債権者表の記載は,破産債権者の全員に対して確定判決と同一の効力を有する(同法124条1項・3項)。破産者本人に対する効力は,同法221条の要件と免責の効力を別に確認する必要がある。異議等のある債権は,原則として破産債権査定の申立てにより額等を確定する(同法125条)。ただし,開始時に訴訟が係属している場合や,執行力ある債務名義又は終局判決のある債権では,同法127条・129条による訴訟手続を確認する必要がある。
配当は,この確定手続を経た破産債権について実施される。破産法194条1項は,配当の順位を,優先的破産債権,一般の破産債権,劣後的破産債権及び約定劣後破産債権の順に定め,同一順位の債権については債権額の割合に応じて配当をすると定める(同条2項)。この配当は,破産債権者の個別の同意を要件とせず,裁判所が定める手続に従って実施される。相続財産清算手続における按分弁済が実務上債権者の同意を前提として進められるのに対し,破産手続における配当は法定の順位及び手続に従って実施されるという点で,両者は異なる。
第6 報酬の決定方法の違い1 相続財産清算人の報酬
民法953条が準用する29条2項は,「家庭裁判所は,管理人と不在者との関係その他の事情により,不在者の財産の中から,相当な報酬を管理人に与えることができる」と定める。相続財産清算人の報酬は,この規定に基づき,清算人からの申立てを受けて家庭裁判所が審判で定める。
2 破産管財人の報酬
破産法87条1項は,「破産管財人は,費用の前払及び裁判所が定める報酬を受けることができる」と定める。破産管財人の報酬についても,裁判所が審判類似の決定によって定める点は相続財産清算人と共通する。もっとも,同条2項は,「前項の規定による決定に対しては,即時抗告をすることができる」と明文で定めている。報酬額の決定要素及び地方裁判所ごとの運用の違いについては,前記「破産管財人の選任基準と報酬の決まり方」で整理している。
3 報酬決定に対する不服申立ての可否という違い
家事事件手続法85条1項は,「審判に対しては,特別の定めがある場合に限り,即時抗告をすることができる」と定める。破産法87条2項のように報酬決定に対する即時抗告を明文で認める規定は,相続財産清算人の報酬付与審判については見当たらない。したがって,家事事件手続法85条1項の原則に従う限り,相続財産清算人に対する報酬付与の審判については,即時抗告をすることができないと解される。破産管財人の報酬決定には明文で即時抗告が認められているのに対し,相続財産清算人の報酬付与審判にはこれに相当する規定が見当たらないという違いは,両制度の不服申立ての構造の違いを示している。
第7 免責制度の射程1 破産法248条の「個人である債務者」
破産法248条1項は,免責許可の申立てをすることができる者を,「個人である債務者(破産手続開始の決定後にあっては,破産者。)」と定める。免責は,破産手続によって弁済されなかった破産債権について,破産者が引き続き負う責任を免れさせる制度であり,個人(自然人)の経済生活の再生を目的とする。したがって,法人が免責を受けることは制度上想定されていない。
2 相続財産清算手続に免責という概念がないこと
相続財産清算人が管理する相続財産法人は,自然人ではない。相続財産清算手続は,清算後に残余財産があれば特別縁故者への分与(民法958条の2)を経て,なお残った財産を国庫に帰属させる(同法959条)ことによって終了するのであり,「免責」という概念そのものが登場しない。相続財産清算人が相続財産の破産(破産法222条以下)を申し立てた場合についても,破産者と扱われるのは相続財産自体であって自然人ではないため,免責という制度の適用を観念する余地に乏しい。この場面における相続人の免責申立ての可否をめぐる議論及び高松高等裁判所平成8年5月15日決定の判断については,前記「破産者が死亡した場合の破産手続と免責手続」で詳細に扱っているため,本記事では立ち入らない。
第8 両制度の交わる場面――相続財産の破産
相続財産清算人と破産管財人は,別々の法律に根拠を持つ別個の制度であるが,破産法第10章「相続財産の破産等に関する特則」(222条から244条まで)によって,相続財産が債務超過である場合には両者が接続する場面が用意されている。
破産法224条1項は,相続財産についての破産手続開始の申立権者として,相続債権者及び受遺者のほか,「相続人,相続財産の管理人,相続財産の清算人又は遺言執行者」を挙げている。相続財産清算人自身が,管理する相続財産について破産手続開始の申立てをすることができる。破産手続開始の原因は,相続財産をもって相続債権者及び受遺者に対する債務を完済することができないと認めるとき(債務超過)であり(同法223条),支払不能は要件とされていない。
同項は申立権を定める規定であり,相続財産が債務超過であることが判明した場合に,清算人に破産手続開始の申立てを義務付ける規定は現行の破産法にはない。破産手続によるかどうかは,破産手続に要する費用及び期間,債権の存否や額についての争いの有無,按分弁済について債権者の同意が得られるかどうか等を踏まえて検討することになる。
もっとも,相続財産清算人が選任されている事件が実際に相続財産の破産へ移行した場合の具体的な手続,相続財産清算人の任務がどのように扱われるか,及び相続人が固有財産で負う責任と熟慮期間との関係については,本記事では詳細に立ち入らない。これらの論点は,前記「破産者が死亡した場合の破産手続と免責手続」で,破産法226条及び227条の規定並びに関連する公表裁判例を含めて整理済みである。
これとは逆に,相続人自身について破産手続が開始されており,開始決定前に生じた相続について開始決定後に破産者が相続放棄をする場面もある。この場合に適用されるのは,相続財産自体の破産に関する破産法222条以下ではなく,相続人の破産に関する同法238条及び242条である。破産管財人は相続財産清算人になるのではなく,相続財産を破産者の固有財産と分別して管理及び処分する。相続不動産の売却・登記・税務は「破産手続開始後の相続放棄と破産法238条」で整理している。
第9 制度の沿革1 令和3年改正による名称変更
相続財産清算人は,令和3年法律第24号による民法の改正前は「相続財産管理人」と呼ばれていた。この改正は令和5年4月1日に施行され,相続人捜索の公告手続が一本化されるなどの変更もされている。この改正によって,民法897条の2に基づく別の相続財産管理人(相続財産の保存を目的とする制度)も新設されたため,現行法上は「相続財産の管理人」(民法897条の2)と「相続財産の清算人」(同法952条以下,旧「相続財産管理人」)とが並存することになった。破産法224条1項,230条1項及び234条も,この改正に伴って「相続財産の清算人」を独立の類型として明記するよう改められている。
2 国会審議における言及の有無
国会会議録検索システムを用いて,前記の令和3年改正を審議した第204回国会の衆議院及び参議院の各法務委員会の会議録を確認したが,「相続財産管理人」から「相続財産清算人」への名称変更の理由,相続人捜索の公告手続を一本化した趣旨,又は相続財産清算人制度と破産管財人制度との役割分担について,これらを正面から述べた政府答弁又は委員の発言は見当たらなかった。国会審議では,同じ改正の一部である所有者不明土地管理制度の必要性を説明する文脈で,従来の相続財産管理人及び不在者財産管理人について,管理の対象となる財産の範囲が広く,申立人や管理人の調査の負担及び予納金が大きくなりやすいという問題点が指摘されている(参議院法務委員会第9号,令和3年4月20日,豊田俊郎委員及び小出邦夫法務省民事局長の各発言)。名称変更及び公告一本化そのものの立法趣旨は,国会審議の会議録の範囲では確認することができなかった。
出典・参考資料1 法令
①民法(明治29年法律第89号)27条・28条・29条・103条・113条・505条・897条の2・927条・928条~935条・951条・952条・953条・957条・958条・958条の2・959条(e-Gov法令検索)
②破産法(平成16年法律第75号)2条・5条・53条・71条・72条・74条・78条・87条・111条・117条・124条・125条・127条・129条・160条・162条・186条・194条・221条・222条・223条・224条・226条・227条・230条・234条・248条(e-Gov法令検索)
③家事事件手続法(平成23年法律第52号)85条(e-Gov法令検索)
④ 破産規則25条(裁判所掲載PDF)。破産法78条3項1号の価額を100万円と定める。掲載先は裁判所の民事事件関係規則集で確認できる。
2 裁判例
①最高裁判所第一小法廷平成18年12月21日判決(平成17年(受)第276号,損害賠償請求事件,民集60巻10号3964頁,裁判所ウェブサイト)
3 国会会議録
①参議院法務委員会第9号(令和3年4月20日,国立国会図書館国会会議録検索システム)
第1 この記事が扱う対象
1 問題の所在
2 破産法が「死亡」という語を用いていないこと
第2 死亡の時期による場面の切り分け
1 破産手続開始の申立て前の死亡
2 申立て後,破産手続開始決定前の死亡
3 破産手続開始決定後の死亡
第3 続行される破産手続の範囲
1 破産財団及び破産債権の範囲
2 自由財産及び自由財産拡張の申立て
3 破産手続開始決定に対する即時抗告が係属している場合
第4 免責手続は破産者の死亡により終了すること
1 免責許可の申立権者が「個人である債務者」に限られること
2 高松高等裁判所平成8年5月15日決定
3 東京地方裁判所及び大阪地方裁判所の運用
4 免責事件の終局日をいつとするか
第1 この記事が扱う問題と結論1 破産者宛のゆうパックは破産管財人に回送されない2 記事の射程第2 回送嘱託の対象を画する条文1 破産法81条1項の二重の限定2 「郵便物」は四種類しかない3 小包郵便物が廃止された時点と根拠4 「信書便物」は制度としてほとんど機能していない第3 ゆうパックが「郵便物」に当たらない理由1 約款が別建てで貨物運送の構造をとっている2 ゆうパックには信書を入れられない第4 同じ文言の条文について政府が示している解釈第5 日本郵便のサービスごとの区分第6 転居届による転送との違い第7 回送嘱託の実務運用1 各地裁の運用2 回送期限の分かれ方3 嘱託書及び嘱託の取消し第8 回送をめぐる裁判例1 回送と開披は破産管財人に対する通知ではない2 回送嘱託を逃れる送付先の変更と詐欺破産罪第9 関係者ごとの実務上の対応1 破産管財人2 申立代理人3 破産者第10 隣接制度との比較と,文献を読むときの注意1 会社更生,民事再生,保全管理及び成年後見2 刊行時点の法令に基づく記述が残っている文献がある出典・参考資料1 法令2 裁判例3 公的資料・約款4 文献
第1 この記事が扱う問題と結論
1 破産者宛のゆうパックは破産管財人に回送されない
破産管財人が選任された事件では,裁判所がその職務の遂行のため必要と認めるとき,破産者宛ての郵便物等を管財人へ配達するよう嘱託できる。これが破産法81条1項の回送嘱託(実務では郵便回送嘱託又は郵便転送嘱託と呼ばれる。)である。破産の開始決定だけで,すべての事件・すべての送付物が自動的に管財人へ届くという説明は正確でない。もっとも,同項が対象としているのは「郵便物」と「信書便物」だけであって,ゆうパックはそのいずれにも当たらない。ゆうパックは郵便法上の郵便物ではなく貨物運送の対象となる荷物であるから,破産手続が開始された後も,破産者宛てのゆうパックは破産者本人の住所へそのまま配達される。破産管財人が郵便局の段階でこれを押さえる手段は,破産法には用意されていない。
回送された郵便物の閲覧・交付や,嘱託の変更・取消しについては,第9の破産者の対応を参照されたい。管財人の役割・権限と本人の説明義務の基本は,破産管財人とはに整理している。
この結論は,破産法81条1項の文言,郵便法14条が定める郵便物の種類,郵政民営化に伴う小包郵便物の廃止,及び日本郵便株式会社の約款の構造という四つの点から導かれる。本記事は,条文,約款及び裁判例に基づき回送嘱託の対象範囲を整理し,関係者ごとの対応と,個別事件で確認すべき事項を説明する。
2 記事の射程
本記事が扱うのは,破産手続開始決定後に破産者宛てに送られてくる物の配達先という問題であり,破産財団の範囲そのものや,破産者が荷物として受け取った物の帰属を確定する手続ではない。回送嘱託の期間や嘱託先の指定は裁判所ごとに運用が異なり,本記事が紹介するのはいずれも各文献の刊行時点の運用であるから,個別の事件では,係属裁判所の現在の運用と破産管財人の意向を確認する必要がある。また,日本郵便が提供するサービスの区分は約款の改正によって変わり得るので,実際に判断するときは,その時点の約款と各サービスの案内を確認していただきたい。
第2 回送嘱託の対象を画する条文
1 破産法81条1項の二重の限定
破産法81条1項は,「裁判所は,破産管財人の職務の遂行のため必要があると認めるときは,信書の送達の事業を行う者に対し,破産者にあてた郵便物又は民間事業者による信書の送達に関する法律(平成十四年法律第九十九号)第二条第三項に規定する信書便物(次条及び第百十八条第五項において「郵便物等」という。)を破産管財人に配達すべき旨を嘱託することができる。」と定めている。ここには二つの限定がかかっており,第一に嘱託の名宛人が「信書の送達の事業を行う者」に限られ,第二に嘱託の対象物が「郵便物」又は「信書便物」に限られる。日本郵便は信書の送達の事業を行う者であるから第一の限定は満たすが,ゆうパックは第二の限定を満たさない。
破産管財人に開披の権限を与える破産法82条1項も,対象を「破産者にあてた郵便物等」としており,81条1項と同じ範囲である。したがって,仮に何らかの経緯でゆうパックが破産管財人の手元に届いたとしても,82条1項を根拠としてこれを開けることはできない。
2 「郵便物」は四種類しかない
郵便法14条は,「郵便物は,第一種郵便物,第二種郵便物,第三種郵便物及び第四種郵便物とする。」と定める。第一種郵便物は,内国郵便約款16条により,筆書した書状,郵便書簡,及びこれら以外で第二種から第四種までに該当しないものとされている。現行の郵便法には小包郵便物という類型が存在せず,重量についても,同法15条1項2号イが第一種郵便物の上限を4キログラムと定めている。他方,ゆうパック運賃表は取り扱う荷物の最大限を長さ,幅及び厚さの合計1.7メートルと定めており,郵便物とは別の基準で大きさを画している。
3 小包郵便物が廃止された時点と根拠
かつての郵便法には小包郵便物という類型があり,ゆうパックはその一種であった。これが廃止されたのは郵政民営化のときであり,根拠は,郵便法の附則として残っている郵政民営化法等の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(平成17年法律第102号)の附則60条1項である。同項は「この法律の施行前に差し出された第十四条の規定による改正前の郵便法(以下この条において「旧郵便法」という。)第三十条に規定する小包郵便物(以下「小包郵便物」という。)については,なお従前の例による。」と定めており,同附則1条により,施行日は郵政民営化法の施行の日,すなわち平成19年10月1日である。
同附則60条7項から9項までは,届出済みの料金,認可済みの郵便約款及び業務方法書について,いずれも「小包郵便物に係るもの」又は「小包郵便物に係る部分」を除外して新法上の届出・認可とみなす旨を定めている。小包が郵便の枠組みから完全に外され,別の運送サービスへ移し替えられたことは,この経過措置の書きぶりからも確認できる。ゆうパックの約款が2007年10月1日実施とされているのも,この日から郵便とは別の約款で提供されるサービスになったからである。
4 「信書便物」は制度としてほとんど機能していない
破産法81条1項がもう一つの対象とする「信書便物」は,民間事業者による信書の送達に関する法律2条3項の「信書便の役務により送達される信書(その包装及びその包装に封入される信書以外の物を含む。)」である。もっとも,総務省が公表している信書便事業者一覧(令和8年6月29日現在)によれば,全国全面参入型である一般信書便事業者は現在も存在せず,特定信書便事業者が656者あるにとどまる。特定信書便役務は,長さ,幅及び厚さの合計が73センチメートルを超えるか若しくは重量が4キログラムを超える信書便物を送達するもの,差し出された時から3時間以内に送達するもの,又は料金が800円を超えるものに限られており(同法2条7項),一般の通信手段としては用いられていない。東京地方裁判所,大阪地方裁判所及び名古屋地方裁判所のいずれについても,郵便物についてのみ嘱託を行い信書便物については嘱託をしていないと文献が説明しているのは,この実情に対応したものである。
第3 ゆうパックが「郵便物」に当たらない理由
1 約款が別建てで貨物運送の構造をとっている
日本郵便が公表している各種約款のページには,内国郵便約款と,ゆうパック約款・運賃表,ゆうパケット約款・運賃表,標準貨物自動車運送約款などが並列して掲げられている。ゆうパック約款1条1項は,「この約款は,ゆうパック運賃,重量ゆうパック運賃,ゴルフゆうパック運賃,スキーゆうパック運賃,空港ゆうパック運賃,観光ゆうパック運賃,点字ゆうパック運賃及び聴覚障害者用ゆうパック運賃が適用される荷物の運送に適用されます。」と定めており,適用対象を明示的に「荷物の運送」としている。
条文の構成も郵便とは異なる。ゆうパック約款は,第2章が運送の引受け,第3章が荷物の引渡し,第4章が指図,第5章が事故という構成であり,登場人物は荷送人と荷受人,対価は運賃,添付書類は送り状である。とりわけ同約款17条1項は,荷送人が運送の中止,返送,転送その他の処分について指図をすることができるとし,同条2項でその権利は荷受人に荷物を引き渡した時に消滅すると定めている。処分権が荷送人に帰属し荷受人には与えられていないという点で,郵便物の取扱いとは発想が異なる。日本郵便のウェブサイトの案内も,「郵便物等」(手紙・はがき・レターパックなど)と「荷物等」(ゆうパック・ゆうパケットなど)を別のまとまりとして表示している。
2 ゆうパックには信書を入れられない
郵便法4条3項は,「運送営業者,その代表者又はその代理人その他の従業者は,その運送方法により他人のために信書の送達をしてはならない。ただし,貨物に添付する無封の添え状又は送り状は,この限りでない。」と定める。ゆうパックはこの「運送」に当たるから,適法に同封できる文書は,無封の添え状と送り状にとどまる。総務省の信書のガイドラインも,配送伝票を信書に該当しない文書として掲げている。
破産管財人が郵便物の開披によって発見しようとしているのは,固定資産税の課税通知,金融機関からの残高通知,証券会社や生命保険会社からの連絡といった信書であるから,制度の目的からみても,信書を入れられないゆうパックを対象に含める必要は乏しい。もっとも,ゆうパックで送られてくるのは物品そのものであり,その物品が破産財団に属する財産である場合もあるから,回送の対象外であることが破産管財人にとって支障とならないわけではない。この点は第9で改めて検討する。
第4 同じ文言の条文について政府が示している解釈
破産法81条1項と同一の文言を用いる規定として,民法860条の2第1項がある。これは,成年後見の事務の円滑化を図るための民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律(平成28年法律第27号)により新設され,平成28年10月13日に施行された規定であり,家庭裁判所が,成年後見人の請求により,期間を定めて,成年被後見人に宛てた郵便物又は信書便物を成年後見人に配達すべき旨を嘱託することができるとするものである。対象物の書きぶりは破産法81条1項と同じであり,異なるのは,成年後見人の請求によること,及び期間が6か月を超えられないこと(同条2項)である。
法務省は,この規定について公表しているQ&Aの中で,「郵便物等とは,郵便法上の『郵便物』又は民間事業者による信書の送達に関する法律第2条第3項に規定する『信書便物』をいいます(民法第860条の2第1項)。なお,物品の送付に利用される『ゆうパック』等は,『郵便物』に該当しないため,転送の対象には含まれません。」と明記している。同じQ&Aは,この転送が,日本郵便に受取人の住所変更を届け出ることによって行われる郵便物の転送(郵便法35条)とは異なるものであることも注記し,制度の趣旨として,株式の配当通知,外貨預金の入出金明細,クレジットカードの利用明細といった財産に関する郵便物を成年後見人が把握できるようにする点を挙げている。破産法81条1項に直接向けられた解釈ではないが,条文の文言が同一である以上,破産法の解釈としても同じ結論になると考えられる。
なお,令和8年の成年後見制度改正では法定後見が補助へ一元化されることになっており,制度の全体像が変わる。改正の内容は,令和8年成年後見制度改正と関係法律61本の整備で整理している。
第5 日本郵便のサービスごとの区分
目次
第1 はじめに──なぜ「限界事例」を論じるのか
1 本記事の狙いと対象読者
2 免責制度の基本的な仕組み
(1) 免責とは何か
(2) みなし免責許可の申立てと申立期間
(3) 免責の効力──自然債務化
第2 「限界」は不許可事由の有無ではなく裁量免責で決まる
1 統計が示す実像──不許可は例外中の例外
(1) 東京地裁倒産部の直近11年間の数値
(2) 大阪地裁第6民事部の数値
2 裁量免責の判断構造
(1) 破産法252条2項の趣旨
(2) 考慮すべき5類型の事情
(3) 判断の中心は不許可事由の内容・程度
目次第1 この記事が扱う対象1 倒産事件の論点を混同しないこと2 実務で先に確定すべき時点と資料第2 所有権留保と自動車1 留保所有権を確認する四つの事項(1) 最高裁平成22年判決(2) 最高裁平成29年判決2 自動車の評価と提出資料3 公布済みで未施行の担保法制4 譲渡担保法が所有権留保をどう変えるか第3 継続的給付契約と財団債権1 供給拒絶を制限する破産法55条1項2 申立て後・開始前の給付3 財団債権と免責4 公共下水道使用料5 未完成の請負は民法642条を先に確認する第4 法人破産における帳簿と電子データ1 法定保存期間2 受任直後の資料保全3 手続終了時の取扱い第5 支払不能と支払の停止1 両概念の違い2 受任通知に関する最高裁判例3 実務上の時系列表第6 否認権と詐害行為取消し1 否認類型を分けること2 第三者資金による弁済3 差押債権者への弁済4 回収額と費用対効果5 詐害行為取消しとの違い6 無限連鎖講の利益配当と不法原因給付第7 破産財団,自由財産及び将来請求権1 破産財団の範囲2 自由財産からの弁済3 将来の死亡保険金請求権4 第三者被保険者型の損害保険と未経過保険料
5 医療保険を残すための拡張と組入れ第8 租税等の請求権と交付要求1 租税債権の分類2 交付要求の性質と争い方3 税金以外の公的な返還金と税金の肩代わり4 財団不足時の按分と専門職の引継ぎ第9 破産管財人の職務と質権1 管財人の判断過程2 最高裁平成18年判決の三つの判断3 保険金請求権等に質権が設定されている場合第10 個人再生の申立てと再生計画1 5000万円要件と債権額の計算2 上限超過時の弁済・免除と届出後の異議3 親族援助と個人再生における否認規定4 不当目的・不誠実申立て5 不正な方法による再生計画の成立6 倒産解除特約の効力7 支払停止後に形成された受働債権と相殺第11 債権者企業の初動と私的整理1 信用不安を把握した債権者の初動2 法的整理と私的整理3 令和8年12月施行予定の早期事業再生制度第12 関連記事1 破産・免責2 強制執行第13 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 公的資料4 文献5 企業法務の解説
第1 この記事が扱う対象
1 倒産事件の論点を混同しないこと
倒産事件では,破産,民事再生,私的整理及び個別執行が相互に関係する一方,それぞれの制度目的と法的効果は異なる。本記事は,実務で繰り返し問題となる論点について,現行法上の結論,事実確認の順序及び判例の射程をまとめるものである。
同じ金銭債権であっても,破産債権,財団債権,優先的破産債権又は非免責債権のいずれに当たるかで,届出,弁済及び免責の扱いが変わる。また,条文上の全国共通ルール,裁判所ごとの提出資料・運用,専門家の経験則及び施行前の新制度は,同じ確度の情報として扱うべきではない。
2 実務で先に確定すべき時点と資料
個別論点を検討する前に,①支払不能及び支払停止の時期,②破産手続開始の申立日,③開始決定日,④問題となる契約又は処分の成立日,⑤登記・登録その他の対抗要件具備時,⑥給付期間又は納期限を時系列にする必要がある。これらの時点を曖昧にしたままでは,所有権留保,継続的給付,相殺,否認及び租税債権のいずれも正確に分類できない。
法人事件では,会計データ,預金履歴,総勘定元帳,契約書,担保資料,固定資産台帳,在庫資料,従業員関係資料及び電子メール等を早期に保全する。個人事件でも,預金履歴,保険,自動車,不動産,退職金,家計及び親族間取引の資料を,名義だけでなく取得原資と実質的な管理状況まで確認する必要がある。
第2 所有権留保と自動車
1 留保所有権を確認する四つの事項
自動車の所有権留保では,①販売会社,購入者及び信販会社の契約関係,②破産手続又は再生手続開始時の所有者登録,③留保所有権が担保する債権の範囲,④保証履行又は立替払による権利移転の根拠を確認する。信販会社が関与しているという事実だけで,別除権を行使できるとは限らない。
自動車の価額が被担保債権残高を上回るときは,担保権者が別除権を行使できる場合であっても,余剰価値が破産財団に帰属し得る。契約解釈と対抗要件の問題を解決した後に,査定額,残債務,処分費用及び余剰の有無を別に計算する必要がある。
(1) 最高裁平成22年判決
最高裁第二小法廷平成22年6月4日判決(平成21年(受)第284号,民集64巻4号1107頁)は,販売会社に留保された所有権が立替払をした信販会社へ移転し,立替金等を担保する旨の三者間合意があった事案を扱った。同判決は,再生手続開始時に信販会社を所有者とする登録がなければ,販売会社名義の登録が残っていても,信販会社がその合意に基づく留保所有権を別除権として行使することはできないとした。
(2) 最高裁平成29年判決
最高裁第一小法廷平成29年12月7日判決(平成29年(受)第408号,民集71巻10号1925頁)は,販売会社に留保された所有権について,保証人が売買代金残額を保証履行し,法定代位した事案を扱った。同判決は,破産手続開始時に販売会社を所有者とする登録があるときは,保証人が留保所有権を別除権として行使できるとしたため,前記判決との違いは保証人という呼称だけでなく,権利移転の法的原因と登録の対応関係にある。
2 自動車の評価と提出資料
自動車を評価するときは,初度登録年月又は初度検査年月だけで機械的に無価値とせず,車種,年式,走行距離,損傷,装備,中古市場,ローン残高及び処分費用を確認する。各裁判所の申立資料には地域差と改訂があるため,事件係属裁判所の最新資料を確認し,必要に応じて複数の査定資料又は価格資料を提出するのが安全である。
電子車検証では,券面だけで所有者情報等の全部を確認できない場合がある。自動車検査証記録事項又は電子車検証のICタグ情報も取得し,登録名義と契約書の記載を照合する必要がある。
自動車の換価額がオートローン残高等を上回るときは,剰余金返還請求権の発生・金額を確認した上で,ローン会社が別口のクレジット・物販債権との相殺を主張しているかを確認する。
支払停止後・破産開始前の剰余金債務には破産法71条1項3号と2項2号,開始後の債務負担には同条1項1号が問題となり,留保所有権の被担保債権の範囲だけでは結論が出ない。
大阪高裁昭和63年10月28日判決及び最高裁昭和47年・平成17年各判決との関係は,オートローン車の換価剰余金と別口債務の相殺で説明している。
3 公布済みで未施行の担保法制
譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律(令和7年法律第56号。以下「譲渡担保法」という。)は,譲渡担保及び所有権留保の効力,対抗要件,実行並びに倒産手続上の扱いを成文化した。同時に成立した譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(令和7年法律第57号)は,動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律を改正し,動産・債権譲渡登記制度を見直す。両法は,令和7年5月30日に成立し,同年6月6日に公布された。
両法は,一部の規定を除き,公布の日である令和7年6月6日から起算して2年6月を超えない範囲内において政令で定める日から施行される。同日を起算日とする2年6月の期間が満了するのは令和9年12月5日であるから,政令で定めることができる施行日の最終日も同日である。譲渡担保法の本則は,令和8年9月29日現在でも施行されておらず,施行期日を定める政令もe-Gov法令検索では確認できない。法務省の案内によれば,施行時には既存契約に関する経過措置も含めて再確認する必要がある。
したがって,現時点の事件は現行法及び前記最高裁判例により処理し,新法を現在の適用法として先取りしてはならない。他方,長期契約,集合動産担保及び施行日をまたぐ契約については,施行日,対抗要件及び経過措置を継続的に確認する必要がある。
4 譲渡担保法が所有権留保をどう変えるか
譲渡担保法のうち所有権留保契約を定めるのは第3章(109条から111条まで)である。同法109条1項は,所有権留保契約に基づく動産の所有権の留保は,所有権留保動産の留保買主等から留保売主等への引渡し(登記又は登録をしなければ権利の得喪及び変更を第三者に対抗することができない動産にあっては,留保売主等を所有者とする登記又は登録)がなければ第三者に対抗することができないとする。同法2条1号イ⑵は道路運送車両法による登録を受けた自動車を「登録自動車」と定義し,同条16号イは,所有権留保契約の目的となる動産から抵当権の目的とすることができるものを除きつつ,登録自動車をその除外の対象から外している。したがって,登録自動車の所有権留保では,留保売主等を所有者とする登録が対抗要件となる。
同法109条2項は,代金の支払債務又はその履行によって生ずる償還債務のみを担保する所有権留保について,引渡しがなくても第三者に対抗することができるという特則を置く。もっとも,同項の対象となる所有権留保動産からは登記又は登録を対抗要件とする動産が除かれているため,登録自動車はこの特則の対象から外れ,1項の原則に戻る。
目次第1 破産管財人の選任1 破産管財人を選任する者2 選任の際に考慮される事情3 公共調達との違い4 選任の公正性に関する経緯5 候補者の育成と知識・ノウハウの承継第2 破産管財人の報酬1 報酬の法的根拠2 報酬額を決める際の考慮要素3 配当との関係及び大阪地裁の過去の運用4 破産管財人報酬の源泉徴収5 報酬決定に対する即時抗告第3 出典
破産管財人は,破産者又は破産債権者が選ぶのではなく,破産事件を担当する裁判所が事件ごとに選任する。
破産管財人の報酬も当事者間の契約で決まるのではなく,形成された破産財団,管財業務の難易度及び配当との均衡などを踏まえて裁判所が定める。
本記事では,選任と報酬の法的根拠,国会答弁で示された考慮要素,地方裁判所ごとの運用差,源泉徴収及び報酬決定に対する即時抗告を整理する。
費用を確認するときは,申立代理人に支払う弁護士費用,申立人が納める予納金及び裁判所が定める管財人報酬を分ける必要がある。報酬の原資と予納金との関係は本記事の費用区分で,管財人の役割,権限及び手続全体は破産管財人とは―役割・費用・手続の流れで説明している。
第1 破産管財人の選任
1 破産管財人を選任する者
破産法74条1項は,「破産管財人は,裁判所が選任する。」と定め,同条2項は法人も破産管財人になることができると定めている。
破産規則23条1項は,裁判所は破産管財人を選任するに当たり,その職務を行うのに適した者を選任するものと定めている。
したがって,破産管財人の選任は,破産裁判所が個別事件について行う裁判であり,破産者又は破産債権者が管財人を選ぶ私法上の契約ではない。
2 選任の際に考慮される事情
最高裁判所事務総局民事局長は,令和元年11月15日の衆議院法務委員会において,破産管財人の選任では,次の事情を総合考慮すると説明している。
① 事件の規模,債務の内容,負債額,破産債権者数及び破産原因
② 財産の換価,債権回収その他の管財業務の内容及び難易度
③ 候補者の法曹経験及び破産管財人としての経験
④ 渉外事件,知的財産権,労働問題又は民事介入暴力など,事件処理に必要な特殊分野の経験
⑤ 候補者が担当している未済事件の件数及び進捗状況
⑥ 候補者と事件関係者との利害関係の有無
これらは一般的な考慮要素であり,特定の経験年数又は受任件数だけで選任されることを意味しない。
3 公共調達との違い
法務省民事局長は,令和元年5月15日の衆議院法務委員会において,破産管財人の選任は裁判によって行われるものであり,国が私人と締結する私法上の契約ではないと説明している。
同日の答弁では,破産管財人の費用及び報酬は国の予算ではなく破産財団から弁済され,予納金も破産財団へ組み入れられるため,破産管財人の選任は公共調達に該当しないと説明されている。
債権者が法人破産を申し立てる場合の要件,予納金及び回収リスクについては,債権者による法人破産申立て―要件・予納金・回収リスク(AI作成)で説明している。
もっとも,同答弁は,裁判所の選任が不当に偏っているとの誤解を受けないよう,適正な選任をすべきであるとも述べている。
4 選任の公正性に関する経緯
裁判官弾劾裁判所の公式記録によれば,昭和56年,谷合克行東京地裁判事補が,担当事件の破産管財人からゴルフ用品及び背広の供与を受けたことなどを訴追事由として罷免された。
矢口洪一最高裁判所事務総長は,昭和56年5月13日の衆議院法務委員会において,東京地裁が破産事件の処理を合議体に改めたこと,裁判官の同期又は友人であるという理由だけで破産管財人を選ばないこと及び非訟事件のチェック体制を検討することを説明した。
これは昭和56年当時の事件及び改善策に関する歴史的資料であり,現在の各裁判所の具体的な選任運用を直接示すものではない。
5 候補者の育成と知識・ノウハウの承継
令和7年度の実務協議会資料は,破産管財人の人材育成として,若手弁護士に比較的小規模な事件を担当させること,経験のある管財人の下で代理又は補助として実務を経験させること,必要に応じて助言者を置くことなどを検討課題として挙げる。
また,複雑な法人破産事件に対応できる人材の確保と,通常民事再生事件の監督委員等を担える人材の育成も課題とされている。
これらは,事件処理の質を維持しながら知識とノウハウを承継するための司法行政上の検討である。
個々の事件で誰を破産管財人に選任するかは,破産法74条及び破産規則23条に基づき裁判所が判断する。
育成策の存在から,特定の弁護士に選任を受ける権利が生じるわけではなく,候補者名簿への登載,個別事件への選任及び選任後の評価は区別して理解する必要がある。