第1 会社の債務が減れば経営者保証も減るか
1 会社の権利変更だけでは個人保証は消えない
早期事業再生法で会社の金融債務が減額されても,経営者の保証債務が当然に同じ割合で減額されるわけではない。
会社に対する対象債権の権利変更決議は,債権者が保証人等に対して有する権利や,第三者が提供した担保に影響を及ぼさない(法28条3項)。
会社の事業継続と経営者個人の債務整理を両立させるには,会社側の計画とは別に保証債務の扱いを確認する必要がある。
経済産業省Q&AのQ178は,早期事業再生手続と経営者保証ガイドラインによる保証債務整理を,実質的に一体で進めることを説明している。
ただし,会社側の多数決は保証債務の整理にもそのまま使えるものではなく,保証債務側には対象債権者全員の同意が必要である。
2 施行日とこの記事の対象
令和8年10月13日現在,本格的な早期事業再生手続は同年12月11日の施行前である。
以下は,同日施行版の法律と経済産業省Q&Aに基づき,会社の再生と経営者保証の整理を並行して検討する場面を扱う。
経営者保証ガイドライン自体は,早期事業再生法の施行前から利用されている準則である。
会社側の利用要件,一時停止及び裁判所認可の概要は,早期事業再生法の概要―対象債権,4分の3決議及び裁判所認可(AI作成)を参照されたい。
第2 会社側と保証人側の手続を分ける
1 4分の3の多数決が作用する範囲
会社側の権利変更議案は,原則として議決権総額の4分の3以上の同意によって可決される(法20条1項)。
1人で議決権総額の4分の3以上を保有する者がいる場合には,出席議決権者の頭数の過半数の同意も必要となる。
議決権者の全てが同意する場合には裁判所の認可を経ずに効力が生ずるが,それ以外の場合には認可が必要である(法29条)。
この会社側の権利変更は,会社に対する対象債権を調整するものである。
経営者個人の保証責任は,保証契約及び別途の整理の内容を確認しなければならない。
2 保証債務側は全員同意が必要である
経済産業省Q178によれば,早期事業再生手続と実質的に一体でガイドラインを利用する場合でも,対象となる保証債務の債権者全員の同意が必要である。
会社側の議決権額と,保証債務側の同意を得る相手は,別々に一覧化する必要がある。
| 比較する点 | 会社側 | 経営者保証側 |
|---|---|---|
| 整理する権利 | 会社に対する対象金融債権 | 個人に対する対象保証債権 |
| 同意 | 法定の議決要件。全議決権者同意の特例がある | 対象保証債権者全員の同意 |
| 裁判所の認可 | 全議決権者同意の場合を除き必要 | 会社側の認可によって保証が自動的に免除されるものではない |
| 検討する計画 | 会社の事業再生計画・権利変更議案 | 保証人の財産,残存資産,弁済及び免除の計画 |
第3 経営者保証ガイドラインを併用できる条件
1 早期事業再生手続は利用要件の一つを満たす
ガイドライン7項(1)は,主たる債務者について,中立かつ公正な第三者が関与する私的整理等を申し立てること,その手続が係属していること,又は既に終結していることを要件の一つとしている。
経済産業省Q178は,早期事業再生手続がこの種類の手続に該当すると説明している。
したがって,会社が早期事業再生手続を利用する場合でも,その他の要件を満たす限り,保証人についてガイドラインを利用できる。
会社が手続を利用したという事実だけで,保証債務整理の全ての要件が満たされるわけではない。
2 開示・経済合理性等も確認する
ガイドライン3項及び7項(1)は,保証契約の適用対象性,主たる債務者と保証人の誠実な対応及び適時適切な財産状況等の開示,反社会的勢力に関する要件等を定める。
さらに,会社と保証人の財産・債務を総合的に考慮し,破産による配当よりも多く回収できる見込みがあるなど,対象債権者にも経済合理性が期待できることが求められる。
保証人に破産法252条1項の免責不許可事由(10号を除く。)が生じておらず,そのおそれもないことも要件である。
ガイドラインは法的拘束力を持つ法律ではなく,当事者による自発的な尊重・遵守が期待される準則である(2項)。
要件に適合することと,具体的な減免内容について全員の同意が得られることは,分けて確認する必要がある。
第4 一体的に進めるために確認すること
1 会社と保証人の計画を早期に対応させる
経済産業省Q178は,会社側の手続と保証債務整理を並行する場合,原則として実質的に一体で進行することが適切であり,具体的な対応は指定確認調査機関と協議して進めることが考えられると説明する。
会社側の計画がまとまった後に,保証債務側の同意が得られていないことが判明しないよう,保証契約と対象債権者を早期に把握することが重要である。
ガイドライン7項(3)①は,保証債務についての一時停止や返済猶予の要請にも,連名の書面,全対象債権者への同時の要請及び従前の誠実な対応等の要件を定めている。
会社側で一時停止要請を行ったことだけで,保証人への請求も同じ条件で停止されると考えるべきではない。
保証人側の要請の必要性,時期及び内容も別に協議する。
2 財産と弁済計画を整理する
次の表は,ガイドラインの要件を検討し,会社と保証人の計画を対応させるための実務上の確認項目である。
実際に必要な資料と書式は,利用する手続と対象債権者に確認する必要がある。
| 資料・論点 | 確認する内容 |
|---|---|
| 借入れ・保証契約・残高一覧 | 会社債務と個人保証の対応,保証範囲,請求状況 |
| 保証債権者一覧 | 会社側の議決権者と保証側の同意対象を分ける |
| 会社・個人の財産と負債 | 個人名義の不動産,担保,他の保証,財産移転等を含む正確な開示 |
| 清算時と再生時の回収見込み | 会社と保証人を合わせた経済合理性 |
| 保証人の弁済計画 | 財産の評定,換価・処分,残存資産,減免・猶予の内容 |
| 会社と保証人の資金の関係 | 役員貸付・借入,報酬,事業用資産及び代位弁済の影響 |
資料を集める担当と,会社の資料との対応も先に決めておくと,保証契約や残高の食い違いを確認しやすい。
次の表は収集担当の例であり,法令又はガイドラインが一律に指定する提出担当や提出書類を示すものではない。
| 資料群 | 収集担当の例 | 会社側の資料との照合 |
|---|---|---|
| 借入・保証契約と残高 | 会社の経理担当と保証人 | 同じ借入について保証の範囲,債権者及び残高の基準日をそろえる |
| 個人の財産・他の債務 | 保証人と保証側の専門家 | 会社使用の個人所有資産,第三者担保及び会社との貸借を対応させる |
| 弁済計画・協議記録 | 会社側と保証側の専門家 | 会社の計画と個人の弁済計画を合わせ,全員同意が必要な範囲を確かめる |
例えば,会社の帳簿上の借入残高と保証契約の限度額は,同じ意味の数字ではない。
基準日,保証の範囲,契約の変更及び保証履行の有無を確認し,会社の計画と保証人の計画が別の残高を前提に進まないようにする。
第5 保証人が支払った場合の求償権
1 会社へ全額を請求し直せるとは限らない
保証人が支払えば,会社に対する求償や原債権への代位が問題となる。
経済産業省Q35は,法3条1項の確認後に代位弁済が行われた場合でも,代位取得する原債権は対象債権としての性質を失わず,権利変更の対象となると説明する。
また,対象債権を有する者の変更の手続も必要となる。
同Q35は,確認後に発生した事後求償権について,対象債権に該当するかにかかわらず,原債権の権利変更後の額を超える部分は行使できなくなると考えられる旨を説明している。
保証人への請求が会社側の権利変更で減らないことと,保証人が支払った全額を会社へ請求し直せることは,同じではない。
個々の支払の前後関係と求償権の性質を確認し,会社と保証人の計画に反映する必要がある。
2 保証の整理とM&A時の解除を区別する
会社売却時に金融機関から保証の解除を得る問題は,事業再生に伴う保証債務整理と異なる。
M&A契約上の解除義務や買主への補償請求だけで,銀行に対する保証債務が消えるわけではない。
会社売却後の問題は,M&A後に経営者保証が解除されないとき―銀行からの請求,買主への補償請求と買戻し(AI作成)を参照されたい。
第6 よくある質問
1 ガイドラインを使えば自宅を必ず残せるか
必ず残せるという制度ではない。
ガイドライン7項(3)③は,早期着手による回収見込額の増加等の経済合理性が認められる場合に,一定期間の生計費や華美でない自宅等を残存資産に含めることを検討する枠組みを定めている。
残す必要性,財産の状況及び回収見込み等を踏まえて協議し,対象債権者の同意を得る必要がある。
2 会社側で多数決が成立すれば保証側の反対も押し切れるか
会社側の多数決や認可によって,ガイドライン上の保証債務整理に反対する保証債権者を拘束することはできない。
保証債務側に必要な全員同意が得られるかを確認し,得られない場合の対応も,会社側の計画と合わせて検討する必要がある。
会社にとって最適な再生方法と,保証人にとって必要な債務整理方法が,常に一致するとは限らない。
3 会社の申請準備と同時に保証人は何を集めるか
保証人は,保証契約と保証残高,個人の財産・他の債務及び会社との貸借関係を整理し,会社側の債権一覧と対応させることが有用である。
会社側の準備が終わるまで保証人側の確認を待つ必要はない。
会社の法定申請書類と保証人側の協議資料は目的が異なるため,一つの提出書類一覧として混同せず,会社の準備は早期事業再生法の施行前準備―必要書類・資金繰り・金融機関との協議(AI作成)を参照されたい。
第7 根拠資料
1 法律と経済産業省Q&A
早期事業再生法(令和7年法律第67号)(https://laws.e-gov.go.jp/law/507AC0000000067)20条・28条・29条(令和8年12月11日施行版)を参照した。
経済産業省Q&A(令和8年6月版)(https://www.meti.go.jp/policy/economy/keiei_innovation/jigyosaisei/file/soukijugyousaiseihou_QA.pdf)Q35(PDF28頁)及びQ178(PDF84頁)も参照した。
Q35の求償権に関する記載は,同省による法の趣旨に基づく解釈の説明として紹介したものである。
2 経営者保証ガイドライン
経営者保証に関するガイドライン(https://www.zenginkyo.or.jp/fileadmin/res/abstract/adr/sme/guideline.pdf)2項・3項(PDF4〜5頁),7項(1)・(2)(PDF9〜10頁),7項(3)(PDF10〜14頁)を参照した。
関連資料は,全国銀行協会の経営者保証ガイドライン案内(https://www.zenginkyo.or.jp/adr/sme/guideline/)にも掲載されている。