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裁判所が使う生成AIの特許が争われたら,裁判官全員を忌避できるか(AI作成)

第1 同じ生成AIを使うだけで,裁判官全員を忌避できるか

受訴裁判所が,事件記録の要約などの日常業務で,民間の生成AIサービスを現に使っていると仮定する。
例えば,閲覧権限のある記録から関連箇所を取り出し,要約とともに参照元のページを表示する機能である。
第三者である特許権者が,この機能を提供する会社に対して特許権侵害を理由に差止めを求め,提供会社は,出願前に公表された技術資料と特許請求の範囲との対比を示して,特許の新規性又は進歩性を具体的に争っている。
受訴裁判所では,差止請求の対象に含まれる機能を,対象となる実装で日常的に使っているものとする。

このように特許の有効性が相応の根拠を伴って争われ,判断の結果によって受訴裁判所が現用機能を利用できなくなる可能性があっても,それだけで全国の裁判官が一律に事件から外れるわけではない。
民事訴訟法24条1項の忌避では,担当裁判官について裁判の公正を妨げるべき事情があるかを,契約や導入判断への関与,判決の結果と所属庁の利害との結び付き,その事件での機能の利用などから具体的に検討する。

ここでの「相応の根拠」は,資料の公表時期と内容を特定し,請求項の構成との対応や相違点を説明できるという事例の前提である。
特許が実際に無効かどうかも,担当裁判官に忌避事由があるかどうかも,それぞれの争点に即した判断を要する。
本稿は,実在のサービスについて紛争が起きていることや,全国の裁判所が同じサービスを使っていることを前提としない。

ここでいう「忌避」は当事者の申立てである。
裁判官が監督権を有する裁判所の許可を得て自ら外れることは「回避」,法定事由により職務から外れることは「除斥」という。
以下は令和8年11月6日を基準とする日本の民事訴訟についての検討である。

民事訴訟法6条,10条,20条の2,23~26条(e-Gov法令検索),民事訴訟規則10~12条(裁判所,PDF4頁)

第2 特許の無効が争われる三つの手続

1 侵害訴訟で相手方が無効を主張する場合

この例では,第三者の特許権者が提供会社に対して差止めを請求し,提供会社が特許法104条の3第1項に基づく無効の抗弁を主張する。
裁判所が,その特許が特許無効審判により無効にされるべきものと認めれば,特許権者は相手方に対して権利を行使できない。
この判断自体で特許権が誰に対しても消滅するわけではない。
差止めの対象や,判決の結果として提供会社が機能を継続して提供できるかは,請求の内容や当事者の対応による。

新規性については,例えば,出願前に公表された一つの技術資料を特定し,請求項に係る発明の各構成がその資料から認定される発明に備わっていることを,対応箇所を示して主張する。
進歩性については,例えば,出願前の主たる技術資料に記載された発明と請求項に係る発明の相違点を示し,別の公知技術を組み合わせる動機付けなど,当時の当業者がその相違点を容易に埋められたとする理由を示す。

特許権者は,資料が実際に出願前に頒布され,又は公衆に利用可能になっていたか,引用箇所に請求項の構成が開示されているか,組合せに技術上の阻害要因があるかなどを争い得る。
こうした資料と主張がそろっていることは,特許の有効性が実質的な争点になっているという意味を持つ。
その事情だけで,担当裁判官が一方に偏るおそれまで基礎付けられるわけではない。

平成12年のキルビー事件最高裁判決は,現行の104条の3が設けられる前に,特許の無効理由が明らかであるときは,特段の事情がない限り権利行使が権利濫用に当たるとした。
現在の要件は,特許法104条の3の文言に即して確認する。

特許法29条,100条,104条の3,123条,125条,141条,178条,181条(e-Gov法令検索),特許庁「特許・実用新案審査基準」第III部第2章「新規性・進歩性」,最高裁平成12年4月11日判決(平成10年(オ)第364号,民集54巻4号1368頁。キルビー事件,判決理由五,六)

2 特許庁に無効審判を請求する場合

特許そのものの無効を求める手続は,特許庁の特許無効審判である。
無効審決が確定すると,原則として特許権は初めから存在しなかったものとみなされる。
特許法125条ただし書は,後発的な無効理由の一部について別の扱いを定める。

特許庁で審判を担当する審判官について公正を妨げるべき事情があるときは,特許法141条に基づく忌避が問題となる。
この場面で判断対象となるのは審判官である。

特許法100条,104条の3,123条,125条,141条,178条,181条(e-Gov法令検索),特許庁・審判便覧59-01「除斥及び忌避の原因など」

3 審決の取消しを求める場合

無効審判の審決に対する取消訴訟は,東京高裁の専属管轄で,知的財産高等裁判所が担当する。
裁判所は審決の適法性を審査し,取消判決が確定すれば特許庁がさらに審理する。
この訴訟の担当裁判官に対する忌避は,民事訴訟法の規定により考える。

特許法100条,104条の3,123条,125条,141条,178条,181条(e-Gov法令検索),知的財産高等裁判所案内・Ⅳ2「特許権に関する審決取消訴訟」

第3 どの事情が忌避の判断を左右するか

1 誰の特許で,誰の利用が制約されるのか

想定した事例では,第三者が特許を持ち,裁判所が利用する生成AIの提供会社が被告となる。
差止請求の範囲によっては,提供会社が係争機能を停止したり,別の実装へ切り替えたりし,裁判所の業務にも影響する可能性がある。
契約上の提供範囲,現行版での使われ方,代替機能の有無,切替えに要する期間や費用を確認すると,業務への影響がどの程度具体的かを判断しやすい。

係争機能と裁判所の利用との結び付きは,特許請求の範囲,差止請求の対象,裁判所で使うバージョンと設定を照合して確かめる。
同じサービスでも,裁判所向けの構成が異なったり,問題の機能が無効化されていたりすれば,判断の結果が実際の利用に及ぼす影響は異なる。
一方,新規性・進歩性の検討では,請求項に係る発明と出願前の技術を対比する。
この二つの照合を分けると,どの技術が争われ,裁判所のどの業務が影響を受け得るかが明確になる。

逆に,提供会社が自社特許を競合会社に行使し,競合会社が無効を主張する場合には,特許が無効にされるべきものと判断されても,それ自体が提供会社による裁判所へのサービス提供を差し止めるものではない。
特許を持つ者と差止請求を受ける者が誰かによって,裁判所の利用への影響は変わる。

特許法29条,70条,100条,104条の3,123条,125条,141条,178条,181条(e-Gov法令検索)

2 裁判所側の契約と担当裁判官の関係をどう見るか

共通のアカウントを与えられている場合や,一般の事務で使っている場合は,そこから事件の結果に関する個人の利害までは分からない。
受訴裁判所で使われる機能の停止が現実的な問題になる場合は,代替できるか,担当裁判官がその調達判断や紛争対応を担ったかを確認する。
国がサービスの利用者として訴訟の当事者となる場合も,担当者がどのような立場で関わったかが検討の出発点となる。

担当裁判官自身が,一方当事者から事件の結果に左右される報酬を得る立場にある,係争特許から収益を得る,争点となった機能について一方の主張の形成に深く関与したといった仮定では,公正への疑念を具体的に検討する必要がある。
企業の株式保有を考える場合も,保有の実態と利害の大きさ,判決とのつながりを確認する。
裁判官本人,配偶者又は元配偶者が当事者である,裁判官が当事者の法定範囲の親族である,裁判官が事件について証人となった,裁判官が当事者と事件について共同義務者であるといった場合には,民訴法23条の除斥事由を先に確認する。

例えば,係争機能の停止による業務への影響が具体的で,担当裁判官がその機能の選定に直接関与し,契約の継続や代替措置の決定にも関与しているとすれば,これらの事情を合わせて公正への影響を検討する。
同じ庁で勤務する裁判官でも,このような関与の有無は異なり得る。
担当裁判官が係争機能を日常業務で使っている事情と,その事件自体の記録処理や争点整理に使った事情も分けて考える。

民事訴訟法6条,10条,20条の2,23~26条(e-Gov法令検索)

3 争われているサービスをその事件で使ったとき

その事件で利用したという場合でも,表記の点検と,当事者の主張を要約させた場合と,無効理由や証拠の評価を出力に依拠して行った場合とでは,裁判への関わり方が異なる。
使った製品と版,入力した資料,何を出力させたか,出力のどの部分が争点整理や判断に反映されたかを具体化する。
例えば,相手方の無効主張が要約で脱落したという疑いなら,元の主張書面の箇所と,その後の争点整理でどう扱われたかを対応させる。

裁判官本人の利害や関与を理由とする忌避と,主張が抜けたことや判断の材料について反論の機会が得られなかったことを争う手続上の問題は,区別して検討する。
同じ事実が両方に関係することはあり得る。
利用状況や判断の材料を確認できるようにすることは公正を確保するうえで重要だが,民訴法の忌避の規定から,AIの全ログを当事者に開示する一般的な義務やAI利用を一律に拒める権利までは導けない。

民事訴訟法6条,10条,20条の2,23~26条(e-Gov法令検索),日本国憲法32条,76条,81条(衆議院)

第4 司法行政への関与と,個別事件への関与を分ける先例

1 最高裁規則の制定に参加した裁判官

最高裁平成3年2月25日第一小法廷決定は,裁判所支部の廃止を定めた最高裁規則の取消しを求める事件で,その規則を審議した裁判官会議に参加した第二小法廷の裁判官3人に対する忌避を,理由がないとして却下した。
裁判官会議への全員参加と,最高裁がその規則をめぐる訴訟の最終審を担当することが制度上予定されている点を理由とした。
旧民訴法の事案だが,組織としての活動への参加から,担当裁判官が直ちに事件を扱えなくなるわけではないことを考える手がかりになる。

この決定は,最高裁規則の制定と最終審の関係を扱ったものである。
民間事業者との契約について,判決により裁判所側の責任や負担が具体的に変わる場合や,担当裁判官が紛争に関与した場合には,その事情を別に検討する必要がある。

最高裁平成3年2月25日決定(平成2年(行ニ)第42号,民集45巻2号117頁)

2 裁判員制度の実施に関わった最高裁長官

最高裁平成23年5月31日大法廷決定は,裁判員制度の憲法適合性を争う刑事事件で,同制度の実施に関わった最高裁長官への忌避を退けた。
制度の調査や広報,司法行政の立場からの発言と,具体的事件についての法的見解を示すことを区別した。
刑事事件の先例であるため,民事のAI特許事件を直接判断したものとしては扱えない。

最高裁大法廷平成23年5月31日決定(平成23年(す)第220号,刑集65巻4号373頁)

3 別地域の同種事件で一方の代理を務めた裁判官

平成30年4月4日の衆議院法務委員会で,山尾委員は,生活保護の集団訴訟で,別地域の同種事件に国側の代理人として関与した裁判官への忌避が申し立てられた事案を示した。
最高裁長官代理者は,申立てが認められ,その裁判官は当該事件を担当しないことになったと答弁した。
これは具体的な当事者側での訴訟活動が問題になった例であり,認容の結果を国会答弁で確認できる。

第196回国会・衆議院法務委員会第6号(山尾委員と最高裁長官代理者の質疑)

第5 誰について,いつ,どのように申し立てるか

1 除斥,忌避,回避の使い分け

除斥は民訴法23条1項の事由に当たるときに生じ,裁判所は申立て又は職権で除斥の裁判をする。
忌避では,当事者が対象裁判官と公正を妨げるべき事情を具体的に示して申し立てる。
回避は民訴規則12条による裁判官側の手続である。

当事者がその裁判官の面前で弁論をし,又は弁論準備手続で申述した後は,原則としてその裁判官を忌避できない。
原因を知らなかった場合と,原因が後に生じた場合は例外である。
申立ては原因を明示して,対象裁判官が所属する裁判所に行う。
申立てをした日から3日以内に,その原因を疎明する。
例外に当たることを主張するときは,その事実についても同じである。
したがって,どの事情をいつ知ったかは,理由の具体性とともに重要になる。

民事訴訟法6条,10条,20条の2,23~26条(e-Gov法令検索),民事訴訟規則10~12条(裁判所,PDF4頁)

2 誰が決め,事件はどう進むか

地裁の裁判官への忌避は,その裁判官の所属する裁判所の合議体が決定する。
対象裁判官は,自身の忌避についての裁判に関与できない。
民訴規則11条により意見を述べることはできる。
簡裁裁判官の忌避については,所在地を管轄する地裁が決定する。

忌避を理由ありとする決定には不服申立てができず,理由なしとする決定には即時抗告ができる。
申立てがあったときは,民訴法26条により決定が確定するまで訴訟手続を停止するのが原則で,急速を要する行為は例外となる。

民事訴訟法6条,10条,20条の2,23~26条(e-Gov法令検索),民事訴訟規則10~12条(裁判所,PDF4頁)

第6 担当全員が外れると,どこで裁判を受けるのか

例えば,係争機能の採用や契約維持への直接の関与などが重なり,担当合議体の全員について忌避事由が認められたとする。
まず,同じ裁判所の別の裁判官で裁判体を構成できるかを確認する。
代わりの裁判官が同じサービスの利用者であっても,その事情だけで当然に担当できなくなるわけではない。
事件を引き継ぐ裁判官についても,契約等への関与や事件での使用状況を個別に検討する。
管轄裁判所が法律上又は事実上裁判権を行うことができないときは,民訴法10条1項により,その直近上級の裁判所が申立てにより決定で管轄裁判所を定める。
同じ機能を他の庁も利用しているという事情だけで,同項の要件が満たされるわけではない。

民訴法4条又は5条によって地方裁判所に管轄が生じる特許権等に関する訴えについては,同法6条1項により,対象地域に応じて東京地方裁判所又は大阪地方裁判所に専属する。
同法20条の2には,同条所定の事情がある場合の移送の定めもある。
どの裁判官なら担当できるかと,別の裁判所がどの規定により審理を引き継げるかは,別々に判断する。
新規性・進歩性が具体的に争われていることや,現用機能への影響が見込まれることから,直ちに他の裁判所への移送が決まるわけではない。
最高裁を含めて代わりの裁判官が一人もいない極端な場合に,民訴法10条だけで当然に解決できるとはいえない。

比較すると,米国連邦最高裁の United States v. Will は,連邦裁判官の報酬に関わり他に審理できる裁判官を確保できない事件で,英米法上の rule of necessity を論じた。
日本の特許訴訟で利害のある裁判官が当然に審理できるとする根拠にはならない。

民事訴訟法6条,10条,20条の2,23~26条(e-Gov法令検索),日本国憲法32条,76条,81条(衆議院),United States v. Will, 449 U.S. 200, 213–217 (1980)

第7 実際の導入状況をどう読むか

令和8年5月に公表された最高裁長官会見は,前年度の民事裁判での生成AIの試行と,事務補助への利用の可能性に言及している。
最高裁の公表資料には同年1月に締結した検証支援契約が掲載され,同年9月の公告には新たな利用実証の入札が記載されている。
デジタル庁の「源内」の展開資料では最高裁への一部展開が示され,同年10月公表の利用状況調査では最高裁判所事務総局が対象に含まれる。
これらの資料から確認できるのは,各資料が対象とする試行,調達,展開又は調査の範囲である。

本稿の事例は,受訴裁判所が現用している機能の実装を対象に差止めが求められ,その特許の新規性又は進歩性が具体的な先行技術に基づいて争われるという仮定である。
公開の導入・調達資料を読む際には,契約の対象,係争対象になり得る機能が実際に利用されているか,さらにその機能が当該事件で使われたかを区別する。
調達資料に製品や契約先の記載があることだけでは,特定の機能の実装や事件ごとの利用状況までは確かめられない。

最高裁長官の憲法記念日記者会見(令和8年5月掲載),最高裁の契約公表資料(PDF3頁),令和8年9月25日の入札公告(JETRO掲載),デジタル庁・源内の展開状況(PDF3頁),同・第1回利用状況調査(PDF3~5頁)

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第9 出典

民事訴訟法(平成8年法律第109号)(e-Gov法令検索)
民事訴訟規則(平成8年最高裁判所規則第5号)(裁判所ウェブサイト)
特許法(昭和34年法律第121号)(e-Gov法令検索)
日本国憲法(衆議院ウェブサイト)
最高裁平成12年4月11日判決(平成10年(オ)第364号,民集54巻4号1368頁)
最高裁平成3年2月25日決定(平成2年(行ニ)第42号,民集45巻2号117頁)
最高裁大法廷平成23年5月31日決定(平成23年(す)第220号,刑集65巻4号373頁)
第196回国会衆議院法務委員会議録第6号(平成30年4月4日)
特許庁・審判便覧59-01「除斥及び忌避の原因など」
特許庁・特許・実用新案審査基準 第III部第2章「新規性・進歩性」
知的財産高等裁判所・知的財産高等裁判所案内
最高裁判所・最高裁判所長官の憲法記念日記者会見の概要(令和8年5月掲載)
最高裁判所・競争入札に係る契約の公表資料(令和8年1月契約分)
最高裁判所・裁判事務における生成AI利用実証等一式の入札公告(令和8年9月25日,日本貿易振興機構の政府調達データベース掲載)
デジタル庁・ガバメントAI源内の展開状況(令和8年5月)
デジタル庁・ガバメントAI源内の利用状況アンケート調査結果の概要(令和8年10月)
United States v. Will, 449 U.S. 200 (1980)