第1 13億8082万円余の内訳
会計検査院は,令和7年度決算検査報告で,最高裁判所が裁判所職員向けのe事件管理システム「RoootS」に関する2契約で,仕様を満たさない成果物を合格扱いにして代金を支払ったと指摘した。
不当とされた支払額は,合計1,380,828,790円である。
問題になったのは,設計・開発契約では結合テストの終了条件とマニュアルの内容,TreeeSとの連携に向けた改修契約では要件定義書や基本設計書の完成状況である。
以下では,支払の時点でどの成果物がどの状態だったかを契約ごとに整理する。
①設計・開発契約 800,800,000円
最高裁判所は令和4年4月,一般競争入札により株式会社日立社会情報サービスと771,100,000円で契約した。
同年11月に29,700,000円を増額し,令和5年4月に変更後の契約額全額を支払った。
②改修契約 580,028,790円
最高裁判所は令和5年12月,RoootSをe提出・e記録管理システムのTreeeSと連携させるため,同社と随意契約を締結した。
令和6年4月に支払った令和5年度分の全額が指摘の対象となった。
会計検査院の案件本文は,改修契約の総額を1,663,085,820円とし,令和6年度分を1,083,057,030円と記載している。
指摘額に含まれるのは,設計・開発契約の全額と改修契約の令和5年度分である。
この区分を押さえると,RoootSの改修契約全体の額や,利用者向けTreeeS自体の開発費と混同せずに読める。会計検査院の案件本文45・47頁
第2 設計・開発契約で何が足りなかったか
1 結合テストを実施しても,終了条件を満たしていなかった
設計・開発契約では,複数のプログラムを開発し,個別の単体テストと,組み合わせたプログラムの結合テストまでを行うことになっていた。
結合テストの終了には,受注者が報告書を作成し,その内容について最高裁判所の承認を得る必要があった。
会計検査院によれば,受注者は令和5年2月13日から3月20日までの間に結合テストを実施し,3月31日に報告書を提出した。
報告書の承諾欄は空欄で,受注者も承認を得ていないと説明し,同日提出の年次報告書にも承認を得た旨の記載がなかった。
会計検査院は,これらの資料と説明から,契約上の終了条件を満たしていなかったと認定した。
同年4月にはプログラムに多数の不具合が発生し,結合テスト等が適切に行われていなかったことが判明した。
最高裁判所は不具合を解消して結合テストをやり直すことなどを求め,同年8月に報告書を再提出させた。会計検査院の案件本文46頁
2 マニュアルは表紙と目次だけだった
仕様書は,運用手順書や保守手順書から成るマニュアルに,RoootSを運用するための手順等を記載することを求めていた。
令和5年3月31日に納入されたマニュアルには表紙と目次しかなく,具体的な内容が記載されたものの提出は令和7年3月14日だった。
受注者の業務完了報告書にも,成果物の完成状態に疑問を示す記載があった。会計検査院の案件本文45・46頁
第3 改修契約では,現時点版で年度分を合格としていた
令和5年度に求められたのは,要件確認や基本設計等までの作業と,修正後の要件定義書一式や基本設計書等の納入だった。
令和6年3月29日に提出された業務完了報告書では,これらを整理中として現時点版を納め,完了後に完成版を提出する旨が示されていた。
最高裁判所はこの時点の提出物を合格とする検査調書に基づき,翌4月に令和5年度分を支払った。
修正後の要件定義書一式の完成版が提出されたのは令和6年9月,修正後の基本設計書等の完成版が提出されたのは令和7年3月であり,いずれも令和6年3月29日の提出期限を過ぎていた。
会計検査院は,令和5年度分の成果物に定められた期限と内容を基準に,この年度分の支払を検査した。会計検査院の案件本文45~47頁
第4 国の契約では,何を確認してから支払うのか
会計法29条の11第2項は,請負契約などで受ける給付の完了を確認するために必要な検査を求める。
予算決算及び会計令101条の4によれば,契約書,仕様書,設計書などが検査の基準になる。
同令101条の9は,検査完了時の検査調書の作成を原則とし,調書を作成すべき場合には,その調書に基づいて支払うことを求めている。
給付が契約に適合しないときは,契約事務取扱規則20条4項に従い,不適合の事実と措置についての意見を検査調書に記載し,契約担当官等に提出する。
同規則24条には契約金額200万円以下の完了検査について調書作成を省略できる場合があるが,完了前の部分払の検査や不適合が判明した場合にはこの省略は適用されない。
政府契約の支払遅延防止等に関する法律5~7条は,工事以外では,原則として給付終了の通知を受けた日から10日以内に検査するよう約定し,検査終了後に適法な支払請求を受けた日から30日以内に支払うよう約定することを求める。
不適合の是正・改善を求めたときの検査期間は,是正・改善後の給付終了通知の受領日から,約定した期間で計る。
契約の性質上,通常の規定によることが著しく困難な特殊な内容の契約では,当事者の合意により,検査・支払の各法定最長期間の1.5倍以内で別の期間を定められる。
契約に基づく適法な部分払を検討する場合は,既済・既納部分の確認と,予算決算及び会計令101条の10が定める限度額を先に確かめる。
請負の既済部分に対する部分払は原則としてその代価の9割が上限で,性質上可分な完済部分はその代価の全額まで支払える。
年度ごとの支払予定がある場合も,どの成果物をいつまでに完成させ,何を確認して支払うかは契約書と仕様書に戻って判断する。
第5 「不当」とされた金額から何が分かるか
会計検査院法29条3号は,法律・政令・予算への違反や,不当と認めた事項の有無を検査報告に掲げる根拠となる。
本件で会計検査院が問題にしたのは,支払時に成果物が仕様を満たしていなかったにもかかわらず,合格とする検査調書に基づいて支払ったことだった。
会計検査院は,最高裁判所で会計法令を守って給付の完了を確認することについての認識が欠け,職員への教育や指導が十分でなかったことなどを原因として挙げた。
後日,再テストの報告書や完成版が提出された事実も,会計検査院の案件本文に記載されている。
不当額は当時の支払についての会計検査上の指摘であり,全額の返還義務,損害の有無や金額,個別の責任を判断するには,契約の条項,後日の履行,実際の是正措置などを別途確認する必要がある。
案件本文45~47頁には,返還額や個別の責任の結論は示されていない。会計検査院の案件本文46・47頁
第6 発注者・受注者が検査に備えて残す記録
①成果物一覧と納入版
契約のどの要求に対応するかを,成果物名,版,提出日時,該当箇所で確認できるようにする。
表紙・目次だけの文書や整理中の現時点版は,完成版と区別して記録する。
②テストの終了と承認
テスト計画,実施結果,未解決の不具合,終了条件,承認者と承認日時をひも付ける。
承認欄が空欄なら,承認記録や年次報告書を突き合わせる。
③不適合への対応
仕様と異なる点,再提出・再検査の条件,契約変更の要否を記録する。
受注者の完了報告に留保がある場合は,該当する仕様と成果物を確認したうえで判定する。
④支払との照合
検査調書,適法な請求書,支出の記録をつなぎ,どの契約・年度・成果物について,どの判定に基づき支払ったかを後から確認できるようにする。
この整理は本件の検査資料から導ける実務上の手順である。
実際の契約では,契約書,仕様書,変更契約と適用される会計規程に沿って判定する。
第7 出典と関連記事
①会計検査院の報告のポイント(全2頁)と令和7年度決算検査報告の概要の案件本文(45~47頁)
②会計検査院の特徴的な案件一覧と首相官邸の報告手交記録(令和8年11月5日)
③最高裁判所が開発しているmints,RoootS及びTreeeS
④TreeeSの開発会社と契約額―日立社会情報サービスの受注範囲と「30億円超」報道の検証