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判検交流に関する内閣答弁書・国会答弁・裁判例(AIリライト)

本記事は,判検交流をめぐる内閣答弁書,国会答弁及び関連裁判例から,政府及び最高裁判所がどのように説明してきたかを確認するための記事である。
「平成24年に廃止された刑事分野の交流」と,「現在も続く国の訟務・法令立案等の分野における交流」を区別し,答弁及び裁判例から確認できる事実と確認できない事実を整理する。

行政機関等へ出向した裁判官の身分,最新の勤務先及び人数,外部経験制度における位置付け並びに裁判官へ戻る場合の資料は,行政機関等への出向裁判官の記事で扱っている。
本記事では,これらを網羅的には繰り返さず,答弁書,会議録及び裁判例を理解するために必要な範囲に限定して説明する。

第1 本記事の対象と判検交流の範囲

1 本記事と「出向裁判官」記事の役割分担

本記事が扱う中心的な資料は,①判検交流に関する5件の内閣答弁書,②国会答弁の変遷,③判検交流又は訟務経験と裁判の公正が問題となった裁判例等である。
これらの資料から,交流の沿革,平成24年の見直しの範囲,政府及び最高裁判所の説明並びに個別事件における忌避の考え方を検討する。

これに対し,行政機関等への出向裁判官の記事は,出向中の身分,最新の勤務先及び人数,出向から裁判官へ戻る場合の資料等を中心に整理している。
したがって,現在の出向裁判官の全体像を確認する場合は同記事を,本件の内閣答弁書,国会答弁又は裁判例を確認する場合は本記事を参照されたい。

2 答弁を読むために必要な四つの類型

判検交流とは,一般に,裁判官の職にあった者を検察官に任命し,又は検察官の職にあった者を裁判官に任命する人事交流をいう。
もっとも,公的資料や議論で「判検交流」と呼ばれる人事には,性質の異なる次の類型が含まれる。

① 裁判官の職にあった者を検察官に任命し,検察庁で刑事事件の捜査・公判に従事させる交流

② 検察官の職にあった者を裁判官に任命し,裁判所で裁判に従事させる交流

③ 裁判官の職にあった者を訟務検事に任命し,国の指定代理人等として国の利害に関係する訴訟に従事させる交流

④ 裁判官の職にあった者を法務省民事局その他の行政機関に勤務させ,法令立案その他の行政事務に従事させる交流

平成24年に取りやめられたのは①及び②であり,③及び④まで廃止されたわけではない。
判検交流に関する答弁と人数を理解する上では,まず対象となる類型を確定する必要がある。

3 身分上の取扱いと関係法令

裁判官が法務省へ「出向する」と表現されることがあるが,裁判官の身分を保ったまま検察官として勤務する制度ではない。
裁判官を退職して検察官等に任命し,交流期間の終了後に改めて裁判官に任命する取扱いである。

裁判所法42条は検察官等としての在職年数を判事の任命資格に算入し,検察庁法18条及び19条は判事等の経歴を検事又は副検事の任命資格に関係させている。
ただし,交流の開始時期,期間,配置及び個別事件の担当を一括して定める「判検交流法」又は専用規則があるわけではない。

国を当事者とする訴訟については,国の利害に関係のある訴訟についての法務大臣の権限等に関する法律2条及び3条が,法務大臣の指定する職員又は弁護士に国の訴訟を行わせる仕組みを定めている。
裁判官出身の訟務検事が「指定代理人」として活動する場合の法的な土台は,この制度にある。

4 制度の是非と個別事件の公正は別の問題であること

日本国憲法76条3項は,全ての裁判官がその良心に従い独立して職権を行い,憲法及び法律にのみ拘束されると定めている。
また,民事訴訟法24条1項は,裁判官について裁判の公正を妨げるべき事情があるときに,当事者がその裁判官を忌避できると定めている。

行政事件訴訟についても,行政事件訴訟法7条により,同法に定めがない事項には民事訴訟の例が適用される。
したがって,判検交流という制度一般の是非と,特定の裁判官が特定の事件を担当することの可否は,区別して検討しなければならない。

第2 判検交流の沿革

1 正確な開始時期は確認できないこと

平成21年6月16日付け内閣答弁書は,法曹間の人材の相互交流が開始された経緯について,資料等が存在しないため不明であるとしている。
同月30日付け内閣答弁書も,裁判所法及び検察庁法の施行後相当早い時期から交流が行われているものの,開始の経緯を明らかにする資料はないとしている。

したがって,「判検交流は昭和49年に始まった」と断定することは正確でない。

2 昭和49年前後の協議

昭和55年3月4日の衆議院法務委員会では,昭和49年3月に最高裁判所と法務省との間で,裁判官と検察官が異なる分野の経験を積むこと及びおおむね3年後に元の職へ戻ることを念頭に置いた人事運用について協議があったことが取り上げられた。

最高裁判所及び法務省の答弁は協議の存在を認めた一方,裁判官又は検察官への復帰を法的に保証する協定又は合意文書があることは否定した。
昭和49年は判検交流の開始年ではなく,刑事分野を含む往復交流が拡大した時期として位置付けるのが正確である。

3 訟務分野の拡大

昭和40年代後半以降,公害訴訟,税務訴訟,国家賠償請求訴訟その他の国を当事者とする訴訟が増加した。
昭和52年及び昭和55年の国会答弁,日本弁護士連合会『日弁連五十年史』229頁~232頁並びに西川伸一『日本の裁判所―司法行政の歴史的研究―』PDF 154頁~169頁は,これに対応する法務省の訟務体制強化と裁判官出身者の増加を記録している。

西川伸一『日本の裁判所―司法行政の歴史的研究―』によれば,裁判官から法務省への異動者は,昭和50年34人,昭和53年42人,昭和56年47人,昭和59年51人,昭和62年63人へ増加した。
もっとも,この人数の推移だけから,個々の訴訟の結論に対する影響を推認することはできない。

第3 平成24年に廃止された交流と継続した交流

1 廃止された刑事分野の往復交流

平成24年4月1日,次の二つの交流を解消する人事異動が行われた。

① 裁判官の職にあった者を検察官に任命し,検察庁で捜査・公判を担当させる交流

② 検察官の職にあった者を裁判官に任命し,裁判所で裁判を担当させる交流

この範囲は,平成24年5月11日付け内閣答弁書に明記されている。

2 継続した訟務・法令立案分野

平成24年の措置後も,裁判官出身者が法務省で国の訴訟に関与する訟務分野及び法令立案等に関与する交流は継続した。
平成24年6月15日の衆議院法務委員会及び同年7月31日の同委員会でも,刑事の捜査・公判分野の交流を取りやめ,訟務分野は裁判官出身者の割合を縮小し,法務本省の法令立案等は継続するとの説明がされた。

平成25年3月22日の衆議院法務委員会では,法務大臣が,裁判実務経験者が法令立案及び訟務に従事する必要性を述べ,訟務検事をゼロにする考えではないと答弁した。

3 「判検交流は廃止」の正確な意味

平成24年5月8日の法務大臣閣議後記者会見には,「判検交流は廃止しました」との発言がある。
しかし,前後の内閣答弁書及び国会答弁によれば,この発言は,刑事事件の捜査・公判と裁判を担当させる往復交流の廃止を指す。

判検交流全体が平成24年に廃止されたとの説明は誤りである。
現在も続く訟務分野を論じる際に,「廃止済み」と「継続中」という一見矛盾する説明が現れるのは,対象となる交流の類型が異なるためである。

第4 判検交流に関する5件の内閣答弁書

1 平成21年の2件の答弁書

平成21年6月16日付け内閣答弁書(内閣衆質171第505号)は,①法曹間の人材交流には多様で豊かな知識・経験を備えた法曹を育成し,確保する意義があること,②交流開始の経緯は資料等が存在せず不明であること,③平成20年に裁判官から検察官に任命された者は56人,検察官から裁判官に任命された者は55人であったこと,④政府は交流によって裁判の公正・中立性が害されるとは考えていないことを回答した。

同月30日付け内閣答弁書(内閣衆質171第571号)は,交流が裁判所法及び検察庁法の施行後相当早い時期から行われていること並びに裁判官出身者が勤務する法務省内の部署等を回答した。
これにより,当時の「判検交流」が刑事の捜査・公判だけでなく,民事,訟務その他の部門を含む広い集合であったことが分かる。

2 平成22年12月7日答弁書

平成22年12月7日付け内閣答弁書(内閣衆質176第210号)は,平成21年に裁判官から検察官に任命された者が47人,検察官から裁判官に任命された者が50人であり,平成22年12月1日までの同年中はそれぞれ56人及び53人であるとした。
同答弁書も,人材育成上の意義があり,交流は裁判の公正・中立性を害しないとの政府見解を維持した。

3 平成24年5月11日答弁書

平成24年5月11日付け内閣答弁書(内閣衆質180第220号)は,平成24年4月1日に刑事分野の往復交流を解消したことを明記した。
他方,国側代理人として活動する検察官に占める裁判官出身者の割合が多すぎるとの指摘については,訟務分野の交流を廃止するのではなく,その割合を減らす見直しを行うと回答した。

4 平成28年2月12日答弁書

平成28年2月12日付け内閣答弁書(内閣衆質190第115号)は,生活保護基準引下げ訴訟を念頭に,個別事件を担当する裁判官の適否は裁判所が判断する事項であり,法務省と裁判所との間で取決めを設ける考えはないと回答した。
また,平成27年4月の法務省訟務局新設後の業務も踏まえ,裁判官出身者の任命を必要性に応じて行うとした。

第5 主な国会答弁と現在の運用

1 平成13年から平成23年まで

金築誠志最高裁判所人事局長は,平成13年3月16日の衆議院法務委員会で,訟務検事として担当した事件を裁判官に戻った後に担当することはないと説明した。
その上で,法曹はその時々の立場に応じて職責を全うし,裁判官になれば公正中立の立場を堅持するとの考えを示した。

大谷直人最高裁判所長官代理者は,平成22年3月12日の衆議院法務委員会で,判検交流を直接規律する規則はなく,正確な開始時期を示す記録も見当たらないと説明した。
同日の法務大臣答弁は,国側代理人の多くを裁判官出身者が占める構造は裁判の公正に対する疑念を招き得るとして,見直す考えを示した。

平成23年2月25日の衆議院予算委員会分科会では,法務大臣が,訟務分野の判検交流は行き過ぎた状態にあるとして縮小する考えを示した。
同年11月22日の衆議院法務委員会では,特定の規則はないこと,法令立案等に裁判実務経験者を配置する意義があること及び国の訴訟代理人に裁判官出身者が多すぎることは問題であることが説明された。

2 平成30年及び令和3年

平成30年3月30日の衆議院法務委員会では,法務大臣が,判検交流自体が裁判の公正中立性を害するとは考えていないとしつつ,国側代理人に占める裁判官出身者の割合は徐々に減らすべきであると答弁した。
同年4月4日の同委員会でも,人材育成上の意義と訟務部局の構成を見直す必要性の双方が述べられた。

令和3年3月12日の衆議院法務委員会では,法務省勤務の裁判官出身の検事は同年2月1日現在103人であり,そのうち国の指定代理人として活動する訟務検事は令和2年4月現在42人であると答弁された。
同日の法務大臣答弁は,国側代理人に占める裁判官出身者の割合を減らす見直しを続ける一方,民事訟務分野の交流は廃止せず,適材適所の配置を続けるとした。

令和3年4月20日の参議院法務委員会では,判検交流を直接規律する法律はなく,裁判官から検察官への任命は検察庁法,検察官から裁判官への任命は憲法及び裁判所法に基づくとの説明がされた。

3 令和5年答弁と令和6年答弁の違い

令和5年4月6日の参議院法務委員会では,裁判官出身の検察官を国の指定代理人に選任する際の明示的な運用基準はないと答弁された。
また,裁判官として国を当事者とする事件を担当した者が法務省訟務部局へ異動した場合に,同じ事件への関与を一律に禁止する明示的基準も示されなかった。

これに対し,令和6年4月8日の参議院決算委員会における法務大臣答弁は,裁判官として担当していた訴訟に,法務省異動後に国側として関与させない運用をしていると説明した。
令和5年の答弁は,同一訴訟への関与が直ちに職務上の問題になるとはいえないとの説明を含んでいたのに対し,令和6年の答弁は,同一訴訟には関与させない対応を明言した点で異なる。

この変化は重要であるが,令和6年に説明された対応が文書化された運用基準であるかは,国会答弁からは明らかでない。

4 令和7年の答弁

令和7年5月12日の参議院決算委員会では,令和6年12月1日現在,行政機関に在職する裁判官は168人であり,主な内訳は法務省101人,外務省11人,金融庁及び証券取引等監視委員会11人であると答弁された。
最高裁判所は,裁判官の身分を離れた後の具体的職務を網羅的には把握していないと答弁した。

同日の法務大臣答弁は,判検交流は三権分立に反するものではないとの政府見解を示した。
また,令和7年12月11日の衆議院法務委員会では,法務本省の勤務者について,検察官出身者が約120人,裁判官出身者が約70人であると答弁された。

この約70人は法務本省勤務者の数であり,令和6年12月1日現在の法務省在職裁判官101人又は国の指定代理人として活動する41人とは対象範囲が異なる。

第6 国会答弁に現れる人数資料の読み方

本節で取り上げる人数は,各答弁が何を対象とした数字であるかを確認するためのものであり,現在の出向裁判官の勤務先及び人数を網羅する一覧ではない。
最新の官職一覧表に基づく勤務先及び人数は,行政機関等への出向裁判官の記事を参照されたい。

1 集計対象と基準日の違い

判検交流の人数資料には,少なくとも次の異なる集合がある。

① 行政機関に在職する裁判官

② 法務省又は法務本省に勤務する裁判官出身者

③ 裁判官出身の訟務検事

④ 裁判官出身の訟務検事のうち,国の指定代理人として活動する者

基準日数字対象範囲
令和3年2月1日103人法務省勤務の裁判官出身の検事
令和2年4月42人国の指定代理人として活動する裁判官出身の訟務検事
令和5年4月41人国の指定代理人として活動する裁判官出身者
令和6年12月1日168人行政機関に在職する裁判官
令和6年12月1日101人上記168人のうち法務省在職者
令和7年12月約70人法務本省勤務の裁判官出身者

例えば,41人を法務省に勤務する裁判官出身者全体の人数と読むことはできない。
時系列比較をする際も,基準日だけでなく,法務省全体か訟務部門か,訟務検事全体か指定代理人かを確認する必要がある。

2 指定代理人数が示す範囲

令和6年4月8日の参議院決算委員会における法務大臣答弁によれば,国の指定代理人として活動する裁判官出身者は,平成24年4月の49人から令和5年4月の41人へ減少した。
平成24年の見直し後に人数は減ったが,訟務分野の交流自体は継続している。

この数字が示すのは,国の指定代理人として活動する裁判官出身者の推移である。
行政機関に勤務する裁判官出身者全体の人数又は法務省に勤務する裁判官出身者全体の人数を示すものではない。

第7 判検交流に関連する裁判例等

1 金沢地裁平成28年3月31日決定

金沢地裁平成28年3月31日決定(平成28年(行ク)第1号,判例時報2299号143頁)は,民事訴訟法24条1項に基づく忌避申立てを認めた。
担当裁判官が,裁判官任官の直前まで国側指定代理人として,当該事件と基本的事実関係及び主要争点を共通にする別件に積極的かつ中心的に関与していたこと等を重視したものである。

同決定は,訟務検事経験者が行政訴訟を担当することを一般的に禁止したものではない。
具体的な事件への関与の近接性,程度及び時期から,公正な判断への疑念を生じさせる事情があると判断したものである。

同決定は裁判所ウェブサイトには掲載されていない。
事件番号,掲載誌及び判断内容は,判例時報2299号143頁並びに国立国会図書館サーチに収録された判例評釈の書誌等で確認できる。

2 大阪高裁の税務訴訟での忌避申立て

司法制度改革推進本部行政訴訟検討会第12回会合議事録には,大阪法務局訟務部副部長から大阪高裁へ異動した裁判官に対する税務訴訟での忌避申立てが認められず,最高裁への不服申立ても認められなかったとの発言がある。

もっとも,公開された議事録から裁判年月日,事件番号及び掲載誌を特定することはできない。
したがって,これは公的会議で紹介された事例であり,金沢地裁決定と同じ精度で特定された公刊裁判例ではない。

3 一般的な制度関与と忌避に関する最高裁決定

次の2件は判検交流を直接扱う決定ではない。
しかし,一般的・制度的な職務関与と,個別事件の一方当事者としての具体的関与を区別するための比較対象となる。

(1) 最高裁平成3年2月25日第一小法廷決定

最高裁平成3年2月25日第一小法廷決定(平成2年(行ニ)第42号,民集45巻2号117頁)は,最高裁判所規則の制定に裁判官会議の構成員として参加した裁判官が,その規則の取消しを求める事件を担当することについて,忌避事由を認めなかった。

(2) 最高裁平成23年5月31日大法廷決定

最高裁平成23年5月31日大法廷決定(平成23年(す)第220号,刑集65巻4号373頁)は,最高裁判所長官として裁判員制度の実施に関する司法行政事務に関与したことを,同制度の憲法適合性が争われた刑事事件における忌避事由とはしなかった。

これらの決定と金沢地裁平成28年3月31日決定を対比すると,一般的な制度の設計・実施への関与だけで直ちに忌避事由となるわけではない一方,密接に関連する事件に一方当事者の代理人として直前まで具体的に関与した場合には,忌避が認められ得ることが分かる。

4 文献で判検交流の影響が論じられた訴訟

毎日新聞社会部『検証・最高裁判所―法服の向こうで―』PDF 192頁~210頁及び西川伸一『日本の裁判所―司法行政の歴史的研究―』PDF 154頁~169頁は,次の訴訟等を,裁判所と国側訟務部局との人的近接性を論じる材料として取り上げている。

① 川口税務署事件の東京地裁昭和59年7月2日判決(昭和48年(ワ)第6653号)及び東京高裁平成元年12月26日判決(昭和59年(ネ)第1851号,労働判例555号30頁)。文献によれば上告理由で判検交流の違憲性が主張されたが,今回確認できた資料から最高裁の事件番号及び判断内容を特定できないため,最高裁が違憲性について判断したとはいえない。

② 第一次横田基地騒音訴訟。文献は,国側が最高裁判所事務総局内部の裁判資料を証拠提出し,相手方の異議後に撤回した経緯を紹介するが,判決が判検交流の適法性を判断したものではない。

③ 安八水害訴訟の岐阜地裁昭和57年12月10日判決(判例時報1063号30頁)及び墨俣水害訴訟の岐阜地裁昭和59年5月29日判決(判例時報1117号13頁)。訟務経験のある裁判官の関与と結論の差を論じる文献があるが,両判決の間には河川管理の瑕疵に関する最高裁の判断があり,結論の違いを判検交流だけに帰することはできない。

④ 昭和57年に京都地裁で裁判官が検察官在職中の職務行為について証人尋問を受けたと文献が紹介する事例。公開資料から事件名,事件番号及び判決を特定できないため,裁判例として断定することはできない。

これらの訴訟は,判検交流の影響が当事者,弁護士会又は研究者によって議論された事例である。
各判決が判検交流を違法又は合憲と判断した事例でも,訴訟の結論と判検交流との因果関係を認定した事例でもない。

5 近時の回避・人事をめぐる事例

令和4年には,国を被告とする旅券発給拒否処分取消訴訟の裁判長が法務省訟務局長へ異動したことについて,関東弁護士会連合会が抗議声明を公表した。
これは人事及び制度運用への批判であり,判検交流を違法とする裁判所の判断ではない。

また,原子力発電所運転差止仮処分事件では,法務省訟務部局での勤務経験を有する裁判官が担当部へ異動した後,当事者側が回避又は忌避を求め,令和5年1月に担当替えが行われたと弁護士会意見書等が紹介している。
公開資料上,判検交流の違法性又は忌避事由についての正式な決定は確認できないため,運用上の担当替えと位置付けるべきである。

第8 答弁及び裁判例から分かる制度評価

1 政府及び最高裁判所の説明

政府及び最高裁判所は,裁判実務経験者が法令立案及び国の訴訟に従事することによって組織の専門性が高まり,異なる職務を経験することによって多様で豊かな知識・経験を有する法曹を育成できると説明している。
また,法曹はその時々の立場に応じて職責を全うするため,人事交流自体が裁判の公正中立性又は三権分立を害するものではないとの見解を維持している。

吉戒修一裁判官の『裁判官の歩き方』36頁,49頁及び54頁~60頁も,訟務部局で当事者の立場から訴訟に関与した経験が,その後に裁判官として事件を見る際の視野を広げた旨を記している。

2 弁護士会等の批判

これに対し,国を当事者とする訴訟の一方当事者として活動した者が裁判官に戻ること,裁判官が国側の訴訟責任者となること及び裁判所と法務省との間で継続的な人事交流が行われることは,裁判の公正に対する外観上の信頼を損なうとの批判がある。

日本弁護士連合会は昭和61年に判検交流の是正及び弁護士の活用を求めた。
さらに,関東弁護士会連合会の令和5年2月7日理事長声明広島弁護士会の令和5年3月22日会長声明及び京都弁護士会の令和7年5月22日意見書は,訟務分野を含む判検交流の廃止又は大幅な是正を求めている。

これらは弁護士会の政策的評価であり,判検交流が一般的に違法であること又は個々の裁判結果への因果関係を証明する資料ではない。

3 答弁及び裁判例から確認できる到達点

刑事の捜査・公判と裁判を担当させる往復交流は,平成24年に取りやめられた。
これに対し,訟務,法令立案及び他の行政機関への人事交流は続いている。

政府は,判検交流自体は裁判の公正中立性又は三権分立に反しないとの見解を維持している。
他方,国側代理人に占める裁判官出身者の割合は縮小され,同一訴訟への異動前後の関与を避ける運用が令和6年の国会答弁で説明された。

判検交流の法的評価は,制度全体を一括して違憲又は適法と断定するだけでは足りない。
交流の類型,異動前後の職務,個別事件との関係,運用基準の明確性及び公正の外観を分けて検討する必要がある。

第9 関連資料

関連記事の役割は,次のとおりである。

① 本記事は,判検交流に関する内閣答弁書及び国会答弁の内容,平成24年の見直しの範囲並びに関連裁判例等を論点別に検討する記事である。

行政機関等への出向裁判官の記事は,出向中の身分,最新の勤務先及び人数,外部経験制度における位置付け,出向から裁判官へ戻る場合の資料等を整理する記事である。

裁判官と検察官の人事交流に関する資料記事は,判検交流に関する内閣答弁書,国会会議録及び法務省資料の原文を一覧で確認するための記事である。

第10 出典

1 法令

日本国憲法76条3項

裁判所法42条

検察庁法18条及び19条

民事訴訟法24条

行政事件訴訟法7条

国の利害に関係のある訴訟についての法務大臣の権限等に関する法律

2 内閣答弁書・国会会議録

平成21年6月16日付け内閣答弁書(内閣衆質171第505号)

平成21年6月30日付け内閣答弁書(内閣衆質171第571号)

平成22年12月7日付け内閣答弁書(内閣衆質176第210号)

平成24年5月11日付け内閣答弁書(内閣衆質180第220号)

平成28年2月12日付け内閣答弁書(内閣衆質190第115号)

国立国会図書館「国会会議録検索システム」

3 裁判例・公的会議資料

① 金沢地裁平成28年3月31日決定・平成28年(行ク)第1号・判例時報2299号143頁(裁判所ウェブサイト未掲載)

② 東京地裁昭和59年7月2日判決・昭和48年(ワ)第6653号

③ 東京高裁平成元年12月26日判決・昭和59年(ネ)第1851号・労働判例555号30頁

④ 岐阜地裁昭和57年12月10日判決・判例時報1063号30頁

⑤ 岐阜地裁昭和59年5月29日判決・判例時報1117号13頁

最高裁平成3年2月25日第一小法廷決定・平成2年(行ニ)第42号・民集45巻2号117頁

最高裁平成23年5月31日大法廷決定・平成23年(す)第220号・刑集65巻4号373頁

司法制度改革推進本部行政訴訟検討会第12回会合議事録

4 書籍・弁護士会意見

① 毎日新聞社会部『検証・最高裁判所―法服の向こうで―』毎日新聞社,1991年,PDF 192頁~210頁

② 西川伸一『日本の裁判所―司法行政の歴史的研究―』晃洋書房,PDF 154頁~169頁

③ 西川伸一『増補改訂版 裁判官幹部人事の研究』PDF 173頁~181頁及び227頁~230頁

吉戒修一『裁判官の歩き方』商事法務,2013年,36頁,49頁及び54頁~60頁

⑤ 日本弁護士連合会『日弁連四十年』PDF 239頁~244頁

⑥ 日本弁護士連合会『日弁連五十年史』PDF 229頁~232頁

関東弁護士会連合会「行政訴訟の裁判長を被告国側の訴訟責任者に異動させた人事に強く抗議し,行政訴訟におけるいわゆる『判検交流』による『判検癒着』の廃絶を求める理事長声明」(令和5年2月7日)

広島弁護士会「公正な裁判を受ける権利が保障されるために判検交流の廃止を求める会長声明」(令和5年3月22日)

京都弁護士会「三権分立と公正な裁判を制度的に保障して確立するために,いわゆる『判検交流』の廃止等を求める意見書」(令和7年5月22日,同月30日訂正)