第1 国籍は登記事項証明書には表示されない
1 国籍を申し出ることと登記簿に載ることは別である
令和8年10月5日から,個人が所有権の保存・移転等の登記を申請する際は,検索用情報の一つとして国籍等を申し出ることになった。日本人も外国人も対象となり,国外に住所がある個人も含まれる。
しかし,申し出た国籍等が土地・建物の登記事項証明書に表示されるわけではない。
法務省民事局長令和8年9月4日付け民二第872号通達(以下「872号通達」という。)第2の1は,記録された国籍等を登記所の内部情報として保有し,不動産登記法に基づく公開の対象とはしないと説明している。
国籍情報の保管先は,登記記録とは別の「検索用情報管理ファイル」である。国籍等を申請書に書くこと,その情報がファイルに記録されること,第三者に登記事項証明書で公示されることを区別して理解する必要がある。
2 第三者による申請書の閲覧は別の問題である
国籍が登記事項証明書に出ないことから,申請書や添付書類も誰にも見られないと結論付けることはできない。
登記事項証明書の交付と,登記簿の附属書類の閲覧は,根拠条文と要件が異なる。国籍を記載した登記申請書や,国籍等を証するために提出した資料については,附属書類の閲覧制度の問題を別に検討する必要がある。
本記事は,令和8年10月5日時点の不動産登記法,不動産登記規則及び872号通達に基づいて,この違いを整理する。申出の対象と必要書類については,不動産登記の国籍申出―日本人も対象・必要書類と相続登記の注意点を参照されたい。
第2 登記事項証明書と附属書類の閲覧の違い
1 登記事項証明書は何人も請求できる
不動産登記法119条1項は,何人も,手数料を納付して,登記記録に記録されている事項を証明する登記事項証明書の交付を請求できると定めている。
例えば,買主が購入予定の土地について所有者や抵当権の有無を調べることは,この登記情報の公示制度に基づく。
これに対し,検索用情報として内部管理される国籍等は,通常の登記事項証明書に新たな国籍欄を設けて公示する制度ではない。証明書を取り寄せれば所有者の国籍が分かるという説明は適切でない。
2 第三者の附属書類閲覧には正当な理由が必要である
不動産登記法121条3項は,登記簿の附属書類の閲覧について,正当な理由がある部分に限って請求できると定めている。ただし,地図や建物所在図等は同条1項・2項により別に扱われる。
登記事項証明書の交付を受けられる人が,そのまま申請書や添付書類を無制限に閲覧できるわけではない。正当な理由は,閲覧したい書類の部分と関連付けて問題になる。
国籍への単なる関心を,当然に閲覧の正当な理由とみなすこともできない。閲覧の可否は,請求の目的,請求者と対象登記との関係,必要とする書類及び部分を明らかにした上で,登記所の審査を受けることになる。
3 自己が申請人であった登記には別の規定がある
不動産登記法121条4項は,自己が申請人である登記に係る附属書類について,同条3項の正当な理由による制限によらず,手数料を納付して閲覧を請求できると定めている。
したがって,本人が自分の提出した登記申請書等を確認する場合と,第三者が他人の申請書等を見ようとする場合も区別する必要がある。
もっとも,この規定は附属書類の閲覧に関するものであり,検索用情報管理ファイルについて国籍の証明書を交付することを定めた規定ではない。本人であることだけを理由に,登記事項証明書から国籍情報を取得できることにもならない。
第3 申請書や旅券の写しを提出するときの注意点
1 申請書と添付情報には国籍が含まれる
国籍等の申出では,申請情報に国籍等を記載し,原則として,それを証する公務員作成の情報等を提供する(不動産登記規則158条の39第1項6号・2項)。
外国籍の人について,872号通達は,国籍又は地域が記載された住民票の写し,旅券の写し,在留カードの写し及び特別永住者証明書の写しを例示している。日本国籍の人については,本籍地が記載された住民票の写し及び戸籍の附票の写し等が例示されている。
登記簿の国籍欄が公開されないことと,国籍を含む資料を登記所へ提出することは両立する。このため,依頼者に対しては「国籍は登記事項証明書には表示されない」と説明しつつ,申請書等の閲覧制度は別にあることも説明するのが適切である。
2 必要な証明を満たし,重複提出を避ける
法務省の申出案内は,既に提出する住所証明情報等が氏名の振り仮名,生年月日及び国籍等を証する情報を兼ねる場合,重ねて提出する必要はないと説明している。
また,日本国内に住所がある日本国籍の人については,住所を証する情報として住民票コードを提供し,登記官が住基ネットで日本国籍を確認できる場合,別途の国籍証明情報を要しないとされている(872号通達第2の2(1)エ)。
必要な証明が足りるかを確認した上で,同じ事実を証明するための書類を機械的に重複させないことが大切である。ただし,プライバシーを理由に,証明に必要な欄まで独自に塗りつぶして提出してよいということにはならない。提出する写しの範囲や処理は,必要な証明事項を確認して登記所と調整する必要がある。
3 写しの証明と閲覧時の取扱いを混同しない
872号通達は,旅券等の写しについて,申出人が原本と相違ない旨を証明すれば足り,原本還付の手続は要しないとする。有効期限のある旅券は,有効期限を過ぎたものを国籍等の証明に用いることはできない。
これは提出時に写しを利用できるという取扱いである。第三者の閲覧請求があった際の審査や,どの部分を閲覧させるかという問題まで一律に決めるものではない。
特定の申請書や添付書類が閲覧されることを懸念する場合は,対象登記の受付年月日・受付番号,資料の種類,懸念する記載を特定して管轄登記所に確認する。国籍が記載されているというだけで,書類の全部が必ず閲覧禁止になる,又は必ず開示されると断定するのは避けるべきである。
第4 検索用情報管理ファイルと行政機関の情報連携
1 内部管理と行政利用は区別する
872号通達は,国籍等を把握する目的として,外国人による不動産保有の実態把握及び相続登記の適正・円滑化を挙げている。また,不動産ベース・レジストリに提供することを通じて,行政機関間の情報連携に活用される見込みであると説明している。
これは,行政機関による利用の説明である。誰でも取得できる登記事項証明書の公示範囲を広げるという説明ではない。
さらに,「活用される見込み」という通達の記載から,特定の機関への情報提供が既に完了していることや,すべての行政機関がすべての情報を閲覧できることまで推測してはならない。
2 保存期間と記録の変更
不動産登記規則158条の38第3項は,検索用情報管理ファイルの情報の保存期間を永久と定めている。同規則158条の41第1項は,記録された事項に変更,錯誤又は遺漏があると認めるとき,登記官が職権で変更後又は更正後の事項を記録すると定めている。
帰化,国籍喪失,国籍離脱又は国籍選択等で国籍等が変わった場合について,872号通達は,単独申出により変更後の国籍等を記録できることを説明している。
国籍が変わった場合は,登記事項証明書に国籍の変更を載せる申請を考えるのではなく,検索用情報の記録を更新するための手続と証明資料を確認する必要がある。
3 本人の情報確認も対象資料から考える
不動産登記法155条は,登記簿及びその附属書類等に記録された保有個人情報について,個人情報保護法の開示等に関する規定の適用除外を定めている。
したがって,個人情報だから一般の個人情報開示請求で必ず取得できる,という説明も適切でない。自分の申請書を確認したい場合,記録された国籍の誤りを直したい場合,行政機関による利用状況を知りたい場合では,対象となる資料と手続が異なる。
まず確認したい情報と保管先を具体化し,附属書類の閲覧,検索用情報の変更・更正,又は対象情報に応じた情報確認の手続を担当窓口に確認するのがよい。
第5 よくある疑問
1 登記事項証明書で外国人所有の土地を探せるか
今回の国籍等の申出制度によって,登記事項証明書に国籍が表示されるようになるわけではない。所有者の氏名や住所から国籍を決め付けることもできない。
2 売買の相手方に国籍を知らせる制度か
国籍等の申出は登記所に対する手続である。申出制度だけを根拠に,売買の相手方へ国籍を公示する仕組みが設けられるわけではない。取引の本人確認や契約時に必要となる資料は,登記の公開制度とは別に判断する。
3 公開されないなら申し出なくてもよいか
公開されるかどうかと,申出事項であるかどうかは別である。対象となる登記の申請では国籍等を申し出るものとされ,記載がなければ補正を求められる。
補正と単独申出の却下の違いについては,不動産登記の国籍申出―日本人も対象・必要書類と相続登記の注意点の第4・第6を参照されたい。
第6 出典・関連記事
①不動産登記法119条,121条3項・4項,155条。
②不動産登記規則158条の38から158条の41まで(令和8年10月5日施行の条文)。
③法務省民事局長令和8年9月4日付け民二第872号通達第2の1,第2の2(1)エ・オ及び(2)。
④法務省「検索用情報の申出について」。
⑤令和8年4月から義務化された不動産の住所等変更登記――期限,過料及びスマート変更登記。
⑥不動産登記の主要判例・調査資料・関連記事一覧。