第1 この記事の対象と結論
1 対象
本記事は,市街地再開発組合等が施行する第一種市街地再開発事業について,事業計画又はその変更に疑問がある地権者が,どの行政行為を,いつ,どの訴訟で争うべきかを整理するものである。
確認の基準日は令和8年9月23日である。個別事件では,施行者の種類,公告・通知の内容,変更前後の区域及び設計,処分時点の法令を改めて確認する必要がある。
2 結論
第一種市街地再開発事業では,都市計画決定,事業計画の認可・変更認可,権利変換計画の認可,権利変換処分,明渡請求等が段階的に行われる。これらを「再開発事業」と一括せず,各行為の直接の法的効果と出訴期間を別々に管理することが重要である。
とりわけ,事業計画の変更認可は常に取消訴訟の対象となるわけではない。新たな施行地区の編入を伴う変更と,施設建築物の設計,事業施行期間又は資金計画等だけを変える変更とでは,認可公告によって新たに生じる法的効果が異なるからである。
第2 再開発手続と地権者への影響
1 事業計画認可後の主な流れ
第一種市街地再開発事業では,おおむね次の順に手続が進む。
①都市計画決定又は変更
②施行者の認可又は組合設立認可と事業計画の確定
③必要に応じた事業計画の変更認可
④権利変換計画の作成,縦覧及び認可
⑤権利変換処分の公告・通知
⑥権利変換期日における権利の変動
⑦土地又は建物の明渡し,工事及び清算
同じ「計画」であっても,都市計画,事業計画及び権利変換計画は,根拠条文,定める内容,法的効果及び争う時期が異なる。
2 事業計画の認可公告によって生じる法的効果
事業計画の認可が公告されると,施行地区内では,一定の土地の形質変更,建築物の新築・改築・増築等に都道府県知事の許可が必要となる。また,権利変換手続開始の登記後は,宅地又は建築物の権利処分に施行者の承認が必要となる場合がある。
さらに,施行地区内の宅地所有者等が権利変換を希望せず,金銭の給付又は建築物の移転を希望するときは,都市再開発法71条に基づく申出を公告の日から起算して30日以内に行う必要がある。
したがって,地権者にとって事業計画の認可公告は,単なる事業方針の公表ではなく,建築・処分の制限及び権利変換を受ける地位へ移る起点となり得る。
3 権利変換処分と権利変換期日
都市再開発法86条によれば,権利変換に関する処分は,権利変換計画の認可等を公告し,関係権利者へ書面で通知することによって行われる。
同法87条は,権利変換期日に,施行地区内の土地が権利変換計画の定めに従って新たな所有者へ帰属し,従前の土地上の一定の権利が消滅すること等を定める。事業計画段階と権利変換段階では,生じる法的効果が異なる。
第3 事業計画・変更認可の処分性
1 処分性は名称でなく直接の法的効果から判断する
取消訴訟の対象となる「処分」に当たるかは,行政機関がその行為を「計画」「認可」又は「公告」と呼ぶかだけでは決まらない。その行為により,国民の権利義務を形成し,又はその範囲を直接確定することが法律上認められているかを検討する。
最高裁平成4年11月26日第一小法廷判決は,地方公共団体が定めて公告した第二種市街地再開発事業の事業計画決定について,抗告訴訟の対象となる処分に当たるとした。
最高裁平成20年9月10日大法廷判決は,市町村施行の土地区画整理事業の事業計画決定について,地区内の宅地所有者等が建築行為等の制限を伴う事業手続に従って換地処分を受けるべき地位に立たされること等を理由に,処分性を認めた。
2 第一種市街地再開発事業の当初認可
第一種市街地再開発事業の事業計画の認可公告後には,建築行為等の制限,宅地等の処分制限,30日以内の権利変換に関する選択等が生じ,特段の事情がない限り,その計画に従って権利変換処分へ進む。
この制度構造からは,施行地区内の宅地所有者等の法的地位に直接影響する当初の事業計画認可について,処分性を肯定する方向で検討することになる。ただし,施行者の種類と適用条文を特定した上で判断すべきである。
3 変更認可は変更内容により結論が異なる
裁判所が公表する第一種市街地再開発事業の判決全文では,事業計画の変更認可について,次の区別が示されている。
①新たな施行地区の編入を伴う変更では,新たに建築行為等の制限,宅地等の処分制限及び権利変換に関する選択が生じ得る。
②新たな施行地区の編入を伴わず,施設建築物の設計,事業施行期間又は事務所所在地等だけを変更する場合,当初認可の効果が残るだけで,新たな法的効果が生じないことがある。
③ただし,変更後の計画が当初計画との同一性を欠き,実質的に新たな事業計画と評価される特段の事情があれば,別の検討を要する。
したがって,変更認可の処分性を検討するときは,「変更が大きい」という評価語だけでなく,施行地区の編入,法定の行為制限,30日以内の選択,新旧計画の同一性を具体的に確認する。
第4 軽微な変更と縦覧・意見書手続
1 都市再開発法38条の手続
都市再開発法38条は,組合が定款,事業計画又は事業基本方針を変更しようとするときは,都道府県知事の認可を受けることを定める。
同条2項により,事業計画の変更には原則として,同法16条の縦覧・意見書の手続等が準用される。ただし,政令で定める軽微な変更は除かれる。また,従前の施行地区外の土地を新たに施行地区へ編入する場合には,同意要件も別に確認しなければならない。
2 施行令4条の列挙事由
都市再開発法施行令4条は,縦覧手続等を要しない軽微な変更として,主に次を挙げる。
①都市計画の変更に伴う設計の概要の変更
②施設建築物の延べ面積の増減が,最近の認可に係る延べ面積の10分の1を超えない設計概要の変更
③事業施行期間の変更
④資金計画の変更
⑤これらに準ずる軽微な設計概要の変更で国土交通省令が定めるもの
「都市計画変更に伴う」と説明されただけで,変更の全てが軽微になるわけではない。施行地区の拡張,公共施設の追加,施設建築物の設計,資金計画等を分解し,各部分が列挙事由に当たるかを確認する。
3 縦覧省略を争うために必要な資料
軽微な変更と扱われた理由を検証するには,少なくとも次の資料が必要である。
①変更前後の事業計画書,区域図及び設計図
②変更事項の新旧対照表
③施設建築物の延べ面積及び増減率の計算資料
④施行地区へ編入・除外された土地の一覧
⑤軽微変更該当性を判断した決裁文書,法務照会及びチェックリスト
⑥縦覧,意見書,同意,公告及び個別通知の実施記録
第5 違法性の承継
1 先行行為を争わなかった場合
事業計画認可と権利変換処分は,それぞれ異なる法的効果を持つ別の行政処分である。先行処分に取消事由があっても,出訴期間内に取り消されず公定力が残るときは,その違法を後行処分の取消訴訟で当然に主張できるわけではない。
違法性の承継を主張する場合は,「一連の手続である」というだけでなく,先行・後行の各処分の目的,法的効果,判断事項,結合関係及び先行段階で争う実効的な機会があったかを示す必要がある。
2 最高裁平成21年12月17日判決
最高裁平成21年12月17日第一小法廷判決は,建築基準法上の安全認定と後続の建築確認について,避難・通行の安全確保という同一目的を持ち,両者が結合して初めて効果を発揮する関係にあることを重視した。
同判決はさらに,安全認定の通知が申請者以外に予定されず,建築確認前には周辺住民の不利益が顕在化しにくいこと等から,先行処分を争う手続的保障が十分でないとして,建築確認の取消訴訟で安全認定の違法を主張することを認めた。
この判決は,あらゆる段階的行政手続に違法性の承継を認める一般公式ではない。再開発では,認可公告,30日以内の申出,縦覧・意見書,建築制限等の先行処分固有の効果があるため,同判決と同じ結論になるとは限らない。
3 再開発での確認事項
再開発事件では,次の両面を検討する。
①変更認可と権利変換処分が,変更後の区域・設計に従った権利変換を実現するためにどの程度結合しているか。
②変更認可の公告時に,具体的な権利床の減少又は配置変更を地権者が認識できたか。
③縦覧・意見書手続が行われたか,又は軽微変更として省略されたか。
④変更認可自体に処分性があり,独立して争う機会があったか。
⑤後続処分で初めて具体化した不利益は何か。
第6 出訴期間と執行停止
1 取消訴訟の出訴期間
行政事件訴訟法14条により,取消訴訟は,原則として処分又は裁決があったことを知った日から6か月を経過すると提起できず,処分又は裁決の日から1年を経過したときも提起できない。いずれも正当な理由がある場合の例外がある。
審査請求をした場合は,同条3項により裁決を知った日又は裁決の日を基準とする別の期間管理が必要となる。
2 処分ごとの期限表を作る
受任直後に,次の事項を処分ごとに整理する。
| 行為 | 基準日として確認する資料 | 主な争点 |
|---|---|---|
| 都市計画決定・変更 | 告示,縦覧記録 | 後続処分で違法を主張できるか |
| 事業計画認可・変更認可 | 認可日,公告,個別通知 | 処分性,原告適格,出訴期間 |
| 権利変換計画認可・処分 | 公告,書面通知,権利変換期日 | 配分内容,先行違法の承継 |
| 明渡請求等 | 処分書,送達記録 | 後行処分固有の違法,執行停止 |
「知った日」は相談者の記憶だけで決めず,公告の閲覧,説明会資料,郵便物,メール,登記,会議録及び代理人への通知等で認知経路を証拠化する。
3 執行停止を同時に検討する
取消訴訟を提起しても,処分の効力,執行又は手続の続行は当然には止まらない。工事,権利変換期日又は明渡しが迫っているときは,行政事件訴訟法25条の執行停止の要件と,疎明資料を直ちに検討する必要がある。
第7 裁量審査と証拠収集
1 法定基準と実際の考慮過程を対応させる
事業計画又は都市計画の適法性を争うときは,「計画が不合理である」と抽象的に述べるだけでは足りない。根拠法令が求める一体的整備,都市機能の更新,公共施設の配置,安全,交通,資金計画等の要素と,行政庁又は施行者が実際に用いた資料を対応させる。
重要な事実の誤認,考慮すべき事項の不考慮,考慮すべきでない事情の考慮,評価の明白な不合理等を,決裁文書,基礎調査,代替案比較及び試算の変遷から立証する。
2 変更前後を差分で見る
再開発紛争では,最終版だけでなく変更前の資料が重要である。
①施行地区の面積及び地番
②公共施設・施設建築物の位置,形状及び床面積
③事業費,補助金,保留床及び資金計画
④権利床の価額,面積及び配置
⑤各地権者への増減影響
⑥代替案と不採用理由
これらを新旧対照表にし,いつ,誰の提案で,どの資料を根拠に変更されたかを時系列化する。
第8 相談時の初動チェックリスト
1 最初に確認する事項
①施行者は個人,組合,地方公共団体,都市再生機構等のいずれか。
②相談者は施行地区内外のどの土地・建物に,どの権利を持つか。
③争いたいのは都市計画,事業計画認可,変更認可,権利変換処分又は明渡請求のいずれか。
④各行為の処分日,公告日,通知日及び知った日。
⑤変更は新たな施行地区の編入を伴うか。
⑥縦覧・意見書・同意・公告・個別通知は実施されたか。
⑦工事,権利変換期日又は明渡期限はいつか。
2 早期に確保する資料
①認可申請書,認可書及び公告
②変更前後の事業計画書,区域図及び設計図
③権利変換計画,縦覧資料及び意見書への回答
④従前資産評価,権利床試算及び個別説明資料
⑤総会・理事会・審査会・庁内会議の議事録
⑥面談記録,メール,請願・要望及び働き掛け記録
⑦登記事項証明書,郵便物及び閲覧記録
第9 関連記事
1 山中弁護士ブログの記事
第10 主要な一次資料と確認範囲
1 法令
①e-Gov法令検索「都市再開発法」(16条,38条,71条,83条,86条及び87条等)
②e-Gov法令検索「都市再開発法施行令」(4条)
③e-Gov法令検索「行政事件訴訟法」(14条及び25条)
2 裁判例
①最高裁平成4年11月26日第一小法廷判決(第二種市街地再開発事業の事業計画決定の処分性)
②最高裁平成20年9月10日大法廷判決(市町村施行の土地区画整理事業計画の処分性)
③最高裁昭和60年12月17日第三小法廷判決(土地区画整理組合設立認可と原告適格)
④最高裁平成21年12月17日第一小法廷判決(安全認定と建築確認の違法性の承継)
⑤裁判所公表判決全文・第一種市街地再開発事業の変更認可等(変更認可の処分性,新たな施行地区の編入,後続の権利変換処分)
本記事の裁判例の要約は,裁判所公表の判決全文に基づく。最高裁昭和59年7月16日第二小法廷判決・昭和59年(行ツ)第34号・判例地方自治9号53頁は,後発判決に引用があること及び書誌までは確認できたが,裁判所判例検索及び判例秘書の検索で原判決全文を確認できなかったため,本記事の結論の根拠には用いていない。