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令和8年度司法試験経済法第2問の参考答案と予想される評価項目―共同購入・購入価格の上限合意・一方的追随を3段階で検討する(AI作成)

第1 この記事の対象と結論(法務省とは関係のない独自の予想)

本記事は,法務省が公開した令和8年司法試験論文式試験問題集[選択科目]の経済法第2問(問題冊子16~17頁)について,問題文,独占禁止法及び公正取引委員会の公表資料から独自に作成した答案と予想評価項目を示すものである。法務省の出題の趣旨,採点実感又は採点基準を示すものではない。令和8年9月30日の執筆時点で,これらの公式資料は公表前であるものとして,その内容を参照していない。本記事の答案は,令和8年の出題の趣旨及び採点実感を踏まえたものではないため,「模範解答」ではなく「参考答案」と呼ぶ。

本記事の結論は,⑴B社・C社の共同購入と価格上限の合意には相互拘束があるが,この段階で競争の実質的制限を認めるには足りない,⑵A社が加わった購入価格上限の合意は国内のα購入市場における不当な取引制限となる,⑶D社は先行3社の行動を知って追随したが,意思の連絡が認められず合意参加者とはならない,というものである。⑴の結論には異論があり得る。公開再現答案には⑴から違法とするものがあるため,第5の4で根拠を照合した。

本記事には,公開答案との照合及び判例秘書での関連裁判例の確認を経た独立の予想答案を掲載する。評価項目と解説も本記事独自の予想である。

第2 本記事独自の評価項目の示し方と重み付けの基準

1項目に1つの判定対象を置き,問題文の具体的な手掛かりを対応させた。重み5は設問が各段階で明示に検討を求め,かつ答案の骨格となる事項,4は問題文の事実が示唆する主要論点又は関連判例の中核命題,3は具体的事実から導く中核の理由付け,2は補強又は典型的な誤りの回避,1は数値の正確な表記など控えめな事項を表す。重み5の数を他科目の比率に合わせる調整はしていない。重みは答案作成上の優先順位を示す便宜的な数字であり,公式配点や実際の得点ではない。結論が分かれ得る⑴では,違法・適法のいずれかの結論自体ではなく,市場と効果に即した論証を評価する。

第3 本問の概要と3段階の整理

差別化されない化学製品甲の国内向け販売シェアはA社30%,B社20%,C社20%,D社15%,その他3社と輸入の合計15%である。甲の原材料αは国内の主要10社が製造し,ほぼ全量を甲メーカー7社に供給する。αの輸出入と他用途への転用は限られる。α購入費用は甲の製造費用の約80%,製造費用は甲の製品価格の60~70%である。

⑴B社とC社は,購入希望数量の集約とB社による交渉・供給者選定という方針①,前年度の両社平均購入価格を「目標上限値」としてその額以下で交渉する方針②を合意した。しかし,ほとんどの取引で上限以下の購入には至らなかった。⑵A社は方針①を断り,方針②だけに同調し,A・B・Cの大多数の取引で上限以下の購入が実現した。⑶C社の担当外従業員が私的会食でこの取組をD社調達責任者に伝え,D社は自らの判断で同じ上限を使って交渉した。甲の製造販売は各社が独立して続けた。

本問では,購入側のα市場と販売側の甲市場を分け,B・Cの共同購入とAを含む価格上限合意を分け,時点ごとに合意参加者を確定する必要がある。公取委の共同調達に関する相談事例も,原材料の需要に占める共同購入者の割合と,川下製品の販売シェア・原材料費の割合を別々に検討している。

第4 本記事が独自に予想した評価項目と重み(法務省の資料ではない)

番号予想される評価項目重み問題文の手掛かり・一次資料
1⑴⑵⑶を別の時点・行為・参加者として整理する5設問「各段階」
2主たる検討条文を独禁法2条6項・3条の不当な取引制限とする5競争者間の共同調達・価格合意
3「共同して」に意思の連絡が必要で,単なる同調だけでは足りないと示す4⑶の一方向の情報提供,公取委の郵便区分機類事件審決
4αの国内購入市場を検討し,輸送困難・輸出入僅少・他用途への転用困難を評価する5冒頭のαに関する事情
5甲の国内向け販売市場を別途検討し,α購入市場と混同しない4甲の用途,輸入品の増加
6甲の販売シェアをαの購入シェアと同一視せず,推認の資料として使う27社へのα供給と各社の甲販売シェア
7方針①の購入数量集約,交渉一元化,供給者選定の共同化を特定する3⑴方針①
8方針②を将来の購入価格交渉に関する共同の上限設定と捉える5⑴方針②
9B・C間の方針①②の明示の合意と相互拘束を認定する4⑴「合意した」
10共同購入による調達の効率化可能性と価格競争の制限可能性を両方評価する3⑴「購入の合理化」,公取委の共同調達相談事例
11⑴のα購入市場で,2社の需要規模(甲の販売シェア合計40%を目安とする)と,供給者が販売先とし得る他の需要者(A社30%・D社15%等)の存在を評価する4冒頭と⑴
12⑴でほとんど上限以下に購入できなかった事実を,合意不存在ではなく競争効果の事情として扱う4⑴末尾
13⑴の甲販売市場で,共通費用及び方針①によるC社の購入数量等の情報の集約と,独立販売の両面を評価する3αの費用割合,⑴方針①,⑵後の独立販売の記載
14⑴の適法・違法を市場ごとの実質的制限の理由を付けて結論付ける5⑴全体
15Aは方針②のみ参加し,方針①の参加者に含めない4⑵A社調達責任者の発言
16Aの同調表明とその後の実施から,A・B・C間の意思の連絡を認定する5⑵9月・10月の経過
17⑵のα購入市場で,3社の需要規模,供給者の代替販路の乏しさ,残余企業の設備余力不足を評価する5冒頭と⑵
18大多数の取引で上限以下の購入が実現したことを,競争の実質的制限を示す事情として評価する4⑵末尾
19⑵の甲販売市場ではα費用が製品価格の約48~56%に相当すると計算する280%×60~70%
20甲販売価格・数量の合意がなく,各社独立販売である事実と輸入品の増加を評価する3冒頭,⑵後のなお書き
21購入側と販売側の実質的制限を別々に結論付ける5両市場の競争効果の違い
22調達合理化を抽象的な免罪符とせず,価格上限合意の必要性・効果と区別する2方針①と②,Aの不参加
23⑶の情報提供者が担当外従業員で,私的な会食で話したことを会社への帰属の事情として評価する2⑶冒頭
24Dが参加を求められたり,同調意思を先行3社に伝えたりした事実がないことを示す4⑶の経過
25Dの独自の経済判断・追随と,相互の意思の連絡とを区別する5⑶供給者を失わないとの判断
26Dの取引成功だけでA・B・C・Dの4社合意を推認しない2⑶末尾
27Dの評価が変わっても,先行するA・B・Cの合意の評価を維持する2⑵と⑶の時系列
28行為の対象,市場,競争効果,結論を対応させる3⑴⑵⑶の各結論と対応する市場
29B・Cの甲販売シェア合計を40%と正確に示す120%+20%=40%

重み5は9項目,4は8項目,3は5項目,2は6項目,1は1項目である。重みの合計は105だが,これは公式配点でも採点表でもない。とりわけ⑴の結論は採点予測の不確実性が高い。

第5 参考答案

1 答案の前提

以下は本記事の独立した予想答案である。
先に読みやすい段落表示を置き,同じ字句のCBT用原稿を続けて掲載する。
後者は自然に改行した92行で,各行30文字以内,合計2612文字(改行を除く)である。
CBTの選択科目1問につき4頁・各頁23行・1行30文字という上限に合わせた。
伊藤塾のCBT解説も参照した。
文中の判断は本記事独自の見解である。

2 答案(段落表示)

第1 判断枠組み

 独占禁止法2条6項の不当な取引制限は、事業者が他の事業者と共同して、対価等に関し相互に事業活動を拘束又は遂行し、公共の利益に反して一定の取引分野の競争を実質的に制限する行為であり、3条が禁ずる。「共同して」には意思の連絡を要し、互いに相手方の同調行動を認識・予測して歩調を合わせる意思が必要である。明示の約束は不要だが、行動の一致だけでは足りない。

競争の実質的制限とは市場の競争機能を損ない、価格をある程度自由に左右できる状態をもたらすことをいう。購入価格を共同で抑える場合も、この判断を要する。買手側の競争も保護される。

 本件では、化学物質αの供給者は、輸送の困難から輸出がほとんどなく、他用途への転用も限られ、ほぼ全量を7社に売っている。そこで、αの国内購入市場をまず検討する。甲は非差別化製品であり、国内向け甲の販売市場も別途検討する。輸入品の増加は後者の競争圧力となる。

ただし、甲の販売シェアはαの購入シェアそのものではない。αの用途と供給先がほぼ甲の国内メーカーに限られるため、購入量を推し量る資料として用いるにとどめる。

第2 ⑴B社・C社の合意

 B社とC社は甲市場で各20パーセントを占める競争者である。両社は購入希望数量をB社に集め、供給者の選択・購入を一元化する方針①を合意した。これは購入先と数量等の独立した決定を共同化する。

前年度平均購入価格以下で交渉する方針②も、各社の購入価格の目標上限をそろえる合意である。価格情報の単なる交換ではなく、将来の交渉方針を相互に拘束した。ただし、上限より高い価格での購入まで禁じたことは、問題文からは読み取れない。

 しかし、合意があっても直ちに3条違反とならない。両社の甲販売シェア合計40パーセントを購入量の目安とみても、供給者はA社30パーセント、D社15パーセント等の他の需要者にも販売し得る。実際、ほとんどの取引で目標上限値以下にできず、供給者に対する価格支配力の獲得は認め難い。

希望数量の集約は供給者選択と安定・効率的調達にも資する余地がある。とりわけαの価格は上昇基調にあり、上限を守ろうとしても供給者が応じない。失敗という結果だけを要件とはしないが、市場の現実の牽制力を示す重要な事情となる。供給者に残る他社向け販売を含め、価格決定の自由が実質的に失われたと認める根拠は足りない。

 甲販売市場では共同調達により原価がそろいやすい。αは製造費用の約8割を占めるから、この危険を軽視できない。方針①でB社はC社のα購入数量・価格を知り得るから、生産量の推知を通じた協調の危険もある。だが販売シェア合計は40パーセントで、甲の製造販売は各社が独立して続ける。販売価格・数量の合意はなく、国内価格は下落し輸入品も増加している。販売競争を実質的に制限したとはいえない。

方針①はB社に販売価格決定権を与えず、費用の共通化だけで販売競争の制限は導けない。よって⑴の両方針は相互拘束を伴うものの、現段階で不当な取引制限は成立しない。

第3 ⑵A社の参加後

 A社調達責任者はB・C両社からの勧誘に対し、方針②への同調をその場で表明し、翌月からその方針で供給者と交渉した。三社間に購入価格上限をそろえる意思の連絡があり、各社の自主的価格交渉を拘束する。

A社は調達責任者が明示的に同調し、会社がその方針を実行している。A社の参加時点は令和2年9月の意思表明時と捉えられ、10月以降の交渉はその実施を裏付ける。A社が方針①を断った事実は、同社を共同購入の参加者にはしないが、方針②の合意参加を妨げない。共同購入と購入価格合意は参加者及び制限行為の範囲を分けて評価する。

 購入市場で三社の甲販売シェアの合計は70パーセントで、α需要の大きさを示す。αのほぼ全量が7社に販売され、他の三社の甲製造設備には増産余力がない。供給者が三社を失って代替需要を得ることは困難である。従前は達成できなかった目標上限値以下の購入が、大多数の取引で実現した。

D社は15パーセントであり、輸入品は国内のαを購入しない。国内甲メーカーの購入額の正確な比率は不明でも、三社の需要の大きさは明白である。αの他用途への転用も難しく、供給者側の代替販路は限られる。

上限価格の実現は、三社参加後の交渉力の変化と整合する。これらから、三社は購入価格をある程度自由に左右できる状態を生じさせ、αの国内購入市場の競争を実質的に制限した。

甲販売市場でも、α購入費は製造費用の約8割、製造費用は価格の6~7割であり、α費用は甲価格の約48~56パーセントに相当する。三社の共通上限は原価の共通化を通じて協調を促し得る。しかし、購入実価まで同一との記載はなく、甲の販売価格等は各社が独自に決める。国内価格の下落と輸入品の増加もあり、この販売市場での実質的制限まで断定する必要はない。

甲輸入品の増加はα購入市場の牽制にならない。調達合理化や費用低減は競争促進に資することもあるが、A社は一元化に参加せず、方針②は購入価格を共同で抑えるものである。効率化だけで購入市場の競争制限を正当化できない。三社の価格合意は2条6項の不当な取引制限となり、3条に違反する。

B・C間の方針①に合理化余地があるとしても、それがA社を含む価格合意の必要性を示さない。購入先選定と上限価格の一体化を当然視せず、三社に共通する違法な行為を方針②に絞る。方針①まで三社合意としない。違反の射程は市場ごとに分ける。

第4 ⑶D社の追随

 C社の担当外従業員は私的会食で取組を伝えたが、D社に参加を求めた事実はない。D社も三社へ同調意思を伝えていない。D社は、供給者を失わずに値下げ交渉ができるとの自社判断で目標上限値を採用した。交渉成功と行動の類似は認められるものの、三社と協調を期待し合う関係は読み取れない。

従業員の発言は担当外の者による私的な情報伝達であり、それ自体からC社がD社の参加を申し入れたとは認められない。D社が先行三社の成功を知ったことと、その共通方針を互いに受け入れたことは異なる。D社には従前より高値で交渉していた事情があり、供給者の反応を見て値下げを試みる独自の動機がある。

したがってD社の意思の連絡は認定できず、同社を方針②の合意参加者とは評価しない。三社の⑵の違反評価は、これに左右されない。Dの15%を加算しない。

3 CBT用原稿(92行)

各行30文字以内の原稿を表示する。スマートフォンでは答案枠の中を横方向にスクロールできる。

92行の原稿を開く
第1 判断枠組み
 独占禁止法2条6項の不当な取引制限は、事業者が他の事業者と
共同して、対価等に関し相互に事業活動を拘束又は遂行し、公共の
利益に反して一定の取引分野の競争を実質的に制限する行為であり
、3条が禁ずる。「共同して」には意思の連絡を要し、互いに相手
方の同調行動を認識・予測して歩調を合わせる意思が必要である。
明示の約束は不要だが、行動の一致だけでは足りない。競争の実質
的制限とは市場の競争機能を損ない、価格をある程度自由に左右で
きる状態をもたらすことをいう。購入価格を共同で抑える場合も、
この判断を要する。買手側の競争も保護される。
 本件では、化学物質αの供給者は、輸送の困難から輸出がほとん
どなく、他用途への転用も限られ、ほぼ全量を7社に売っている。
そこで、αの国内購入市場をまず検討する。甲は非差別化製品であ
り、国内向け甲の販売市場も別途検討する。輸入品の増加は後者の
競争圧力となる。ただし、甲の販売シェアはαの購入シェアそのも
のではない。αの用途と供給先がほぼ甲の国内メーカーに限られる
ため、購入量を推し量る資料として用いるにとどめる。
第2 ⑴B社・C社の合意
 B社とC社は甲市場で各20パーセントを占める競争者である。
両社は購入希望数量をB社に集め、供給者の選択・購入を一元化す
る方針①を合意した。これは購入先と数量等の独立した決定を共同
化する。前年度平均購入価格以下で交渉する方針②も、各社の購入
価格の目標上限をそろえる合意である。価格情報の単なる交換では
なく、将来の交渉方針を相互に拘束した。ただし、上限より高い価
格での購入まで禁じたことは、問題文からは読み取れない。
 しかし、合意があっても直ちに3条違反とならない。両社の甲販
売シェア合計40パーセントを購入量の目安とみても、供給者はA
社30パーセント、D社15パーセント等の他の需要者にも販売し
得る。実際、ほとんどの取引で目標上限値以下にできず、供給者に
対する価格支配力の獲得は認め難い。希望数量の集約は供給者選択
と安定・効率的調達にも資する余地がある。とりわけαの価格は上
昇基調にあり、上限を守ろうとしても供給者が応じない。失敗とい
う結果だけを要件とはしないが、市場の現実の牽制力を示す重要な
事情となる。供給者に残る他社向け販売を含め、価格決定の自由が
実質的に失われたと認める根拠は足りない。
 甲販売市場では共同調達により原価がそろいやすい。αは製造費
用の約8割を占めるから、この危険を軽視できない。方針①でB社
はC社のα購入数量・価格を知り得るから、生産量の推知を通じた
協調の危険もある。だが販売シェア合計は40パーセントで、甲の
製造販売は各社が独立して続ける。販売価格・数量の合意はなく、
国内価格は下落し輸入品も増加している。販売競争を実質的に制限
したとはいえない。方針①はB社に販売価格決定権を与えず、費用
の共通化だけで販売競争の制限は導けない。よって⑴の両方針は相
互拘束を伴うものの、現段階で不当な取引制限は成立しない。
第3 ⑵A社の参加後
 A社調達責任者はB・C両社からの勧誘に対し、方針②への同調
をその場で表明し、翌月からその方針で供給者と交渉した。三社間
に購入価格上限をそろえる意思の連絡があり、各社の自主的価格交
渉を拘束する。A社は調達責任者が明示的に同調し、会社がその方
針を実行している。A社の参加時点は令和2年9月の意思表明時と
捉えられ、10月以降の交渉はその実施を裏付ける。A社が方針①
を断った事実は、同社を共同購入の参加者にはしないが、方針②の
合意参加を妨げない。共同購入と購入価格合意は参加者及び制限行
為の範囲を分けて評価する。
 購入市場で三社の甲販売シェアの合計は70パーセントで、α需
要の大きさを示す。αのほぼ全量が7社に販売され、他の三社の甲
製造設備には増産余力がない。供給者が三社を失って代替需要を得
ることは困難である。従前は達成できなかった目標上限値以下の購
入が、大多数の取引で実現した。D社は15パーセントであり、輸
入品は国内のαを購入しない。国内甲メーカーの購入額の正確な比
率は不明でも、三社の需要の大きさは明白である。αの他用途への
転用も難しく、供給者側の代替販路は限られる。上限価格の実現は
、三社参加後の交渉力の変化と整合する。これらから、三社は購入
価格をある程度自由に左右できる状態を生じさせ、αの国内購入市
場の競争を実質的に制限した。甲販売市場でも、α購入費は製造費
用の約8割、製造費用は価格の6~7割であり、α費用は甲価格の
約48~56パーセントに相当する。三社の共通上限は原価の共通
化を通じて協調を促し得る。しかし、購入実価まで同一との記載は
なく、甲の販売価格等は各社が独自に決める。国内価格の下落と輸
入品の増加もあり、この販売市場での実質的制限まで断定する必要
はない。甲輸入品の増加はα購入市場の牽制にならない。調達合理
化や費用低減は競争促進に資することもあるが、A社は一元化に参
加せず、方針②は購入価格を共同で抑えるものである。効率化だけ
で購入市場の競争制限を正当化できない。三社の価格合意は2条6
項の不当な取引制限となり、3条に違反する。B・C間の方針①に
合理化余地があるとしても、それがA社を含む価格合意の必要性を
示さない。購入先選定と上限価格の一体化を当然視せず、三社に共
通する違法な行為を方針②に絞る。方針①まで三社合意としない。
違反の射程は市場ごとに分ける。
第4 ⑶D社の追随
 C社の担当外従業員は私的会食で取組を伝えたが、D社に参加を
求めた事実はない。D社も三社へ同調意思を伝えていない。D社は
、供給者を失わずに値下げ交渉ができるとの自社判断で目標上限値
を採用した。交渉成功と行動の類似は認められるものの、三社と協
調を期待し合う関係は読み取れない。従業員の発言は担当外の者に
よる私的な情報伝達であり、それ自体からC社がD社の参加を申し
入れたとは認められない。D社が先行三社の成功を知ったことと、
その共通方針を互いに受け入れたことは異なる。D社には従前より
高値で交渉していた事情があり、供給者の反応を見て値下げを試み
る独自の動機がある。したがってD社の意思の連絡は認定できず、
同社を方針②の合意参加者とは評価しない。三社の⑵の違反評価は
、これに左右されない。Dの15%を加算しない。

4 公開答案との照合と解説

(1) 確認した公開答案の範囲

令和8年9月30日に,ウェブ検索で「令和8年司法試験/令和8年司法試験」「経済法」「第2問/第2問」「参考答案」「再現答案」「目標上限値」「共同購入」「α」を組み合わせ,note,予備校サイト及び一般検索の結果を確認した。問題本文に対応する公開の全文答案として本文まで確認できたのは,ヨビ氏「令和8年司法試験再現答案」の経済法第2問PDF1件である。これは受験者の再現答案であり,公式解答ではない。公開範囲を網羅したことや,他に公開答案が存在しないことは意味しない。

検索結果には「令和8年予備試験」の経済法解答速報が多数含まれたが,これは本問と異なる問題であるため比較から除外した。また,加藤ゼミナールの経済法過去問講座案内には令和8年司法試験分は公式資料公表後にPDFで提供するとあり,9月30日現在,この案内から本問の公開答案の本文は確認できなかった。

(2) 再現答案と本記事の相違

争点確認した再現答案の記述本記事の判断
⑴のB・C合意甲の製造販売市場で競争の実質的制限を肯定し,3条違反とするα購入市場と甲販売市場を分け,いずれも実質的制限の根拠が不足するとする
⑴の上限価格未達合意時点で実質的制限を肯定し,未達は結論を妨げないとする未達は合意を消さないが,市場での価格支配力を否定する重要な事情とする
⑵のAの参加方針②だけの共通拘束を肯定する同じ。ただし違法性の主たる市場をα購入市場とする
⑶のD情報提供と追随だけでは相互拘束に足りないとする同じ。担当外従業員の私的発言をC社の新たな合意と直結させない

再現答案には,B社20%とC社20%の合計を「50%」とする記載がある。しかし,問題文上の合計は40%であり,評価の前提を修正する必要がある。また,再現答案は「甲の価格に反映させようとする」と述べるが,問題文はその目的を明示せず,甲の製造販売は独立に続けると明記する。原価の共通化から川下価格の協調可能性を検討することは必要である一方,直ちに川下での価格合意を認定することはできない。

もっとも,⑴を違法とする構成も,B・Cが将来の購入上限を直接合意した点やα費用の高さを重視すれば検討に値する。目標上限値での購入失敗は違法性を機械的に否定しない。公取委の共同調達相談事例は,共同購入者が原材料需要に占める割合が高い場合の購入市場への効果と,川下の販売シェア・費用割合が高い場合の販売市場への効果をそれぞれ問題にする。本問ではαの正確な購入シェア及び各社の実際の購入価格が与えられない。したがって,どの市場でどの程度の価格決定力が生じたかを事実とともに示すことが,結論以上に重要と予想する。

⑵ではAの参加により先行2社が達成できなかった上限以下での取引が大多数で実現し,αの供給者には他用途・輸出等の逃げ道が乏しい。他方,甲の販売価格は下落し輸入品が増え,3社は甲を独立に販売している。α購入市場での実質的制限と甲販売市場への波及可能性を区別するのが本記事の構成である。⑶では,公取委の郵便区分機類事件審決が示す相互の認識・認容と歩調を合わせる意思に照らし,一方向の情報提供,Dの独自判断及び行動の一致だけで4社間の意思の連絡を認めることはできない。

5 判例秘書での裏取りと校訂

(1) 検索の範囲

令和8年9月30日に判例秘書INTERNETの判例検索を行った。裁判年月日を1日に限定した検索結果は,平成7年9月25日7件,平成24年2月20日16件,平成5年12月14日5件,平成20年12月19日19件であり,下表の判決4件の本文の該当箇所を読んだ。任意語「購入カルテル」は2件,「購入価格」は7911件であった。前者の1件を読んだが買手間の購入価格上限合意を直接判断した判決ではなく,残り1件及び後者の全件は未読である。この検索を買手カルテル判例の不存在証明とはしない。

判決・判例秘書番号判決本文で確認したこと本問への当てはめ
東京高判平成7年9月25日・平成6年(行ケ)144号〔東芝ケミカル〕、判例秘書の判例番号 L05020286、審決集42巻393頁意思の連絡には相互の認識・予測と歩調を合わせる意思が必要。明示合意までは不要で、価格についての情報交換と同調行動から推認し得る。合意した価格が全取引で実現しなくても、合意の不存在を直ちに意味しない。⑴の合意の存否と市場効果を分ける。⑶ではDの一方向の情報取得と追随だけで、先行3社との相互の期待を認定しない。
最一小判平成24年2月20日・平成22年(行ヒ)278号〔多摩談合・新井組〕、判例秘書の判例番号 L06710023、民集66巻2号796頁基本合意によって自由な価格決定が事実上拘束され、互いに認識・認容して歩調を合わせるとき、相互拘束と意思の連絡がある。競争の実質的制限は市場の競争機能を損なうことであり、参加者、他の事業者の協力見込み、実際の取引結果等を総合して判断した。⑴の目標未達だけで適法とはいえず、⑵の大多数の目標達成と代替販路の乏しさを合わせて評価する。ただし、同判決は売手側の入札談合であり、本問の買手交渉の結論は直接決めない。
東京高判平成5年12月14日・平成5年(の)1号〔トッパン・ムーア〕、判例秘書の判例番号 L04820426、高刑集46巻3号322頁一定の取引分野は、取引対象・地域・態様を踏まえ、共同行為の対象取引と影響範囲によって画定する。αの国内購入と甲の国内販売を分けて検討する。ただし、同判決が本問の両市場の実質的制限を判断したわけではない。
東京高判平成20年12月19日・平成19年(行ケ)12号〔郵便区分機類・差戻審〕、判例秘書の判例番号 L06320686、判時2043号51頁競争可能な2社について、長年の行動、内示の積極的な受入れ、全件での不自然な入札不参加の一致等から、黙示の意思の連絡を認めた。⑶のDには3社への参加表明や相互の期待を示す事情がなく、私的な一方向の情報伝達と独自の値下げ交渉は、同判決が重視した事情と異なる。

上表は判例秘書の見出し・要旨だけでなく、各判決の「事実及び理由」の該当段落を確認した結果である。判例秘書の文書内URLには認証情報が含まれるため載せず、下記の公取委公開本文を示す。

(2) 買手側の直接の行政実例

公取委平成20年10月17日排除措置命令・平成20年(措)17号〔溶融メタル等購入談合〕は、買手側6社が購入予定者を決め、他社がその者の決めた価格で購入できるよう協力し、溶融メタル等の購入分野の競争を実質的に制限したと認定した。買手間の協調も独禁法3条の対象となることを示す。ただし、入札等での購入予定者の割当てであり、本問の交渉目標上限値の共有とは行為態様が異なる。これは公取委の命令であり、判例秘書で読んだ裁判所の判決ではない。

公取委の共同購入相談事例も、価格交渉の共同委託が実質的な共同購入になり得る一方、購入市場と川下の販売市場への影響を別々に評価している。この事例は共同購入を常に適法とするものでも、常に違法とするものでもない。

(3) 固定答案からの校訂と残る評価幅

固定版の「上限を超える取引は選択肢から除かれる」は、方針②が上限以下を目指して交渉するという問題文から導けない。校訂版では、将来の交渉目標を共同で設定したことを相互拘束の対象とし、上限を超える購入の禁止は認定しない。これは問題文に加えていた事実の除去であり、上記裁判例が本問について直接判断したという意味ではない。

⑴の目標上限値での購入がほとんど実現しなかった事実は、合意の存在を否定する資料ではなく、競争機能への影響を判断する一事情である。
40%という数字はB・Cの甲販売シェアの合計であり、α購入シェアではない。
上限合意の直接性と原材料費の大きさを重視して⑴から違法とする構成には余地がある。
本記事は、供給者が販売先とし得る他の需要者(A社・D社等)が残り、目標が大半で実現しなかったことから、⑴単独では実質的制限を認める根拠が足りないとする立場をとる。
供給者が10社あることは、買手に対する供給者の対抗力が弱い方向の事情であり、この結論の根拠にはしない。
⑵ではA参加後の大多数の目標達成と供給者の代替販路の乏しさを加味して、α購入市場の競争の実質的制限を肯定する。
いずれも本問への推論であり、判例が本問の結論や採点基準を示したわけではない。

第6 関連記事

1 令和8年度の参考答案とハブ記事

主要7科目のハブ記事は公法系・民事系・刑事系の7問、選択科目8科目・16問のハブ記事は選択科目8科目の16問を案内する。主要7科目のハブが示す5段階の重み付けの考え方を本記事の予想評価項目にも参照した。ただし、重み5の割合を揃えるための調整はしていない。

選択科目の別問題

主要7科目

第7 出典及び確認状態

1 一次資料

  1. 法務省・令和8年司法試験論文式試験問題集[選択科目]:経済法第2問の問題冊子16~17頁を確認。
  2. 公正取引委員会・独占禁止法:2条6項・3条を確認。
  3. 公正取引委員会・企業間電子商取引市場の設立:共同調達の購入市場・川下市場の検討部分を確認。
  4. 公正取引委員会・郵便区分機類事件審決:意思の連絡に関する判断部分を確認。
  5. 公正取引委員会・事業者団体の活動に関する独占禁止法上の指針:共同事業と情報活動に関する考え方を確認。ただし本問の主体は事業者団体と確定されていないため,同指針の8条に関する規律を本問へ直接適用していない。
  6. 公正取引委員会審決等データベース・東芝ケミカル事件判決本文、同・多摩談合事件最高裁判決本文、同・トッパン・ムーア事件判決本文、同・郵便区分機類事件差戻審判決本文:判例秘書で確認した判決の公開本文。
  7. 公正取引委員会・平成20年度年次報告(溶融メタル等購入談合)、同・共同購入相談事例:買手側の直接例と共同購入の検討枠組み。

2 公開答案・関連記事

  1. ヨビ氏・令和8年司法試験再現答案の経済法第2問PDF:4頁全文を確認。受験者の再現であり,公式資料ではない。
  2. 山中弁護士ブログ・共同購入・購入価格カルテルと独占禁止法:本問に近い実務上の論点を整理した関連記事。

3 未確認事項

本問の公式な出題の趣旨,採点実感及び配点は未確認であり,本記事の重みも結論も法務省の判断を予告するものではない。