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令和8年度司法試験国際関係法(公法系)第1問の参考答案と予想される評価項目―外交的保護・犯罪人引渡し・外交官免除(AI作成)

第1 この記事の対象と結論(法務省とは関係のない独自の予想)

本記事は,司法試験の国際公法(正式科目名「国際関係法(公法系)」)の令和8年・第1問を扱う。主な論点は,外交的保護・犯罪人引渡し・外交官免除である。参考答案,評価項目と重み付け,設問別の解説を掲載している。年度をまたいで論点を復習する場合は,司法試験の国際公法―過去問・答案と論点別ガイドを参照。分野の基本は,国際公法とは―国際法・国際私法との違いと基本事項で説明している。

作成日:令和8年9月30日

この記事の参考答案、評価項目及び重み付けは、法務省が公表した問題と条約・国際法委員会資料等を基に独自に作成した予想であり、法務省の採点基準・配点を示すものではない。令和8年度の国際関係法(公法系)の出題の趣旨と採点実感は、作成時点で未公表である。これらを読んで作成したものでもない。本記事の答案は、令和8年の出題の趣旨及び採点実感を踏まえたものではないため、「模範解答」ではなく「参考答案」と呼ぶ。

対象は、令和8年度司法試験の選択科目「国際関係法(公法系)」第1問(配点50点、問題冊子38~39頁)である。「公法系科目第1問(憲法)」とは別の問題である。法務省の問題掲載ページから選択科目の問題冊子を確認できる。

本記事の結論は、①B国はXの財産没収につき、請求提示時までのB国籍継続を前提に外交的保護を行使できる、②C・D間に引渡条約がなければD国は原則として引渡義務を負わず、条約があれば対象犯罪・双方可罰性等の条約上の条件と政治犯罪例外を吟味する、③E国裁判所は、Qによる個人的利得目的の有償講演を、外交関係に関するウィーン条約31条1項(c)の公務外の職業上又は商業上の活動と評価して民事裁判権免除を否定したと考えられる、というものである。③には単発の講演が「活動」に当たるかという解釈上の留保がある。

第2 本記事独自の評価項目の示し方と重み付けの基準

以下の項目は、各設問の動詞と指定事項、問題文に明示された事実、関連条文の要件から予想した。各行は「答案に書かれていれば何を確認できるか」を一つずつ示す。これは独自の学習用チェックリストであり、実際の採点項目や得点を再現したものではない。

重み5は、設問が問う結論を導く答案の骨格となる法源・要件と決定的な当てはめ、重み4は問題文の事実が示唆する重要事項や中心的な補強、重み3は具体的事実から導く主要な理由付け、重み2は補強事項又は典型的な誤りの回避、重み1は除外指示の遵守など控えめな事項とした。この5段階の考え方は令和8年度の主要7科目の参考答案一覧と整合するよう整理した。ただし、各項目の重みは本問の設問と事実に即した予想であり、他科目の件数や比率に合わせて調整していない。重みは点数ではない。令和7年の同科目の採点実感は、基本概念と主要条約・判例の正確な理解、設問に即した事例の考察、論理的な構成と理由付けを重視すると述べる。ただし、これは前年の一般的な採点方針を参照したにとどまり、本問の公式評価項目を示す資料ではない。

第3 本問の概要

XはA国籍で出生し、B国民Yとの婚姻後にB国法によりB国籍を取得し、A国籍を失った。B国に居住し、C国に財産を所有するXは、C国の核開発政策に対する抗議運動に参加し、C国政府に財産を没収された。C国で政府措置による損害を救済する手段は外国人には開かれていない。設問1は、没収の国際違法性を前提に、B国の外交的保護の可否を問う。

A国民Pは同じ抗議運動のリーダーの一人で、D国へ逃亡した。C国は内乱罪による訴追のため引渡しを求める。設問2は、C・D間に引渡条約がない場合とある場合を分け、D国の義務を問う。

C国外交官Qは、E国の新聞社甲にC国事情についての講演を自ら申し出た。「個人的な利得」を目的と明言し、講演料を個人口座で前受けしたが、当日来場せず返金にも応じなかった。設問3は、甲の返金訴訟でE国裁判所がQの民事裁判権免除を否定した理由を問う。C国とE国は外交関係に関するウィーン条約の当事国である。

第4 本記事が独自に予想した評価項目と重み(法務省の資料ではない)

1 設問1――外交的保護

番号評価項目重み根拠・問題文の手掛かり
1B国がXの損害を国家間請求として取り上げる外交的保護の構造を示す4国際法委員会・外交的保護条文案1~3条
2没収の国際違法性は設問上の前提として受け入れる2設問1のただし書
3国籍国による保護と、被害時から請求提示時までの国籍継続を示す5同条文案3~5条
4B国籍取得とA国籍喪失が没収より前であり、Xは被害時にB国民だったと示す5問題冊子38頁の時系列
5請求提示時までB国籍が続くことを条件として明示する4同条文案5条1項
6A国籍で出生したことやC国での財産所有・短期滞在を、B国の請求資格を否定する事情としない3問題冊子38頁の国籍・居住・財産の事実
7B国籍の取得が国際法に反しない方法によることを確かめ、国籍の真正な結合を一般的な追加要件として機械的に課さない2国籍の取得は条文案4条(同条注釈(7)・(8))、継続は5条で吟味
8個人の被害に基づく請求には原則としてC国の国内救済完了が必要と示す5同条文案14条
9外国人は全救済手段を利用できないため、実効的に利用可能な国内救済がないと当てはめる5同条文案15条(a)・(d)、問題冊子38頁
10B国には行使権があっても、Xに対する行使義務まで当然に生じるわけではないと結ぶ3同条文案2条・19条

2 設問2――犯罪人引渡し

番号評価項目重み根拠・問題文の手掛かり
11C国の訴追権とD国の引渡義務を分ける4設問2の「D国は…義務を負うか」
12引渡条約がない場合に、一般国際法上の包括的な引渡義務はないと示す5ICJ・ロッカービー事件の小田裁判官反対意見20段落。法廷意見ではない
13内乱罪について別の特別条約・合意による義務は問題文上与えられていないと示す3問題冊子38頁
14引渡条約がある場合には、その条約の対象犯罪・条件により義務を判定すると示す5欧州犯罪人引渡条約1~2条は条約条項の比較例
15双方可罰性や法定刑の閾値等を、実際の条約文言に従って吟味する4同条約2条。ただしC・D間に直接適用されない
16「内乱罪」という罪名のみからD国法での可罰性を断定しない3Pの具体的行為とD国法が不明
17内乱罪の政治秩序に対する性質から政治犯罪例外の適否を論じる5同条約3条は比較例
18暴力行為や重大な普通犯罪の事実が示されていないことを踏まえ、内乱罪を純粋政治犯罪と評価する3問題冊子38頁の事実の限界
19政治犯罪例外がある条約とない条約を分け、例外がない条約で政治犯不引渡しの原則を拒否の根拠にできるか(慣習国際法としての地位)を検討し、義務的・裁量的な拒否事由も一律に扱わない4適用条約の文言は問題文にない。最高裁昭和51年1月26日判決(昭和47年(行ツ)第65号、集民117号15頁)
20PがA国民である以上、「D国民は引き渡さない」という論点を決定的理由にしない2問題冊子38頁

3 設問3――外交官の民事裁判権免除

番号評価項目重み根拠・問題文の手掛かり
21外交官は在任中、私的契約に関する訴訟でも原則として接受国の民事裁判権から免除されると示す5外交関係に関するウィーン条約31条1項
2231条1項(c)の例外の「接受国内」「公務外」「職業上又は商業上の活動」「関連訴訟」を挙げる5同条約31条1項(c)
23講演内容がC国情勢でも、それだけでQの公務と断定しない3個人的利得目的との明示
24Qが自ら講演を提案し、有償の役務提供を引き受けた事実を評価する4問題冊子38頁
25講演料の事前振込先がQ個人の口座であることを、個人の収益活動の根拠とする4問題冊子38頁
26甲の返金請求は当該講演の取引から直接生じた訴えと示す4問題冊子38~39頁
27有償の私的契約一般をすべて「商業上の活動」としない4英国最高裁 Basfar v Wong 判決28~32、59~61段落を参照。家事労働の事案であり本問の結論を直接決めない
28一回限りの講演が「活動」に当たるかにつき、継続性を要求する解釈にも触れる3国際法委員会1958年資料56頁
29それでもQ自身が対価を得る役務の提供者となった点から、裁判所が例外に当てはめた理由を示す5設問3は免除否定判示の理由を問う
3042条の個人利得目的の活動禁止と、31条1項(c)の免除例外を区別する4同条約31条・42条

4 答案全体

番号評価項目重み手掛かり
31設問1~3をそれぞれ独立に結論まで書く43つの設問の指示
32条文・規範の後に具体的事実を評価し、結論へつなげる4前年の採点方針も参照
33与えられない条約文言・具体的犯罪行為・講演の反復性を補って断定しない2問題文が置いていない事実

上表の33項目の内訳は、重み5が10項目、4が12項目、3が7項目、2が4項目、1が0項目である。重み1に当たる周辺事項を独立の項目として立てていないため、5段階の全てに項目を割り当ててはいない。これは問題文から予想した重要度の分布であり、主要7科目の分布と同じ割合にそろえたものではない。

重みの合計を実際の配点に換算することはできない。とくに設問2は条約の内容が示されていないため、引渡義務の有無を無条件で確定する答案より、条件と拒否事由を分ける答案が、問題文に忠実だと考える。

第5 参考答案

1 答案

以下は、選択科目1問の入力上限を4頁×23行×1行30文字として、92行・各行30文字以下に整えた答案である。
改行を除き2632文字。
答案は、令和8年の出題の趣旨等を参照せずに、問題文と一次資料から作成したものである。
CBTの行数・字数の説明も参照されたい。
答案中にURLは入れず、出典は第7にまとめた。

第1 設問1
1 外交的保護とは、国が自国民に対する他国の国際違法行為を理
由に、その責任を外交交渉等の平和的手段で追及することである。
国籍国の権利であり、被害者個人がその行使を国に強制できるもの
ではない。Xの財産没収による直接の損害を、B国が自国の請求と
して取り上げる場面であり、X自身の国際請求とは区別される。責
任追及には原状回復や賠償の請求を含み得る。本問ではC国の没収
の国際違法性は所与であり、抗議運動の鎮圧自体は検討しない。
2 原則として、被害時から国が請求を正式に提示する時まで、被
害者が当該国の国籍を継続して有することを要する。両時点の国籍
があれば継続は推定される。Xは婚姻後、B国法に従いB国籍を取
得し、それに伴いA国籍を喪失した。その後にC国で財産を没収さ
れているから、被害時の国籍国はA国でなくB国である。C国籍も
ない。請求提示時までB国籍を維持すれば、B国には国籍に基づく
請求資格がある。出生地や従前のA国籍はこれを妨げない。国籍は
各国の国内法によるが、取得方法は国際法に反してはならない。本
件の取得に国際法違反を示す事情はなく、婚姻に伴う自動取得であ
っても、A国籍を失った以上B国は保護できる。B国内居住の事実
も実質的結び付きを示す。ノッテボーム事件の真正な結合を、全て
の帰化に追加される一般要件とは解しない。本件はC国に対する請
求であり、国籍の濫用や仮装を示す事情もないからである。
3 個人の被害を理由とする請求には、通常、C国で利用可能な司
法・行政上の救済手段を尽くす必要がある。しかし、合理的に利用
可能で実効的な救済がない場合には、国内救済完了は要求されない
。C国法上、救済手段はいずれも外国人に開かれていない。Xは外
国人であるから、実際に提訴しなくても例外に当たる。救済の結果
が不確実なだけの場合と違い、利用資格そのものが法により否定さ
れる。C国での短期滞在と財産所有は、C国との関連が全くないと
いう別の例外の根拠にならず、救済不能の判断を左右しない。
4 よって、国籍継続を前提にB国はC国に外交的保護を行使でき
るが、行使義務はない。行使の方法と請求内容もB国が選択する。
第2 設問2
1 C国には領域内の行為を処罰する管轄があり得るが、それだけ
でD国に引渡義務は生じない。引渡しは国家間の法的根拠とその要
件・拒否事由によって決まる。
2 C・D間に引渡条約がない場合、一般国際法は他国の請求に応
じて犯罪人を引き渡す包括的義務を課していない。内乱罪につき引
渡し又は訴追を特に義務付ける条約その他の合意も与えられていな
い。したがってD国はC国にPを引き渡す国際法上の義務を負わな
い。「引き渡すか訴追するか」の義務も、対象犯罪についての特別
の根拠なしには生じない。C国の引渡請求だけでは足りない。これ
はD国法に基づく任意の引渡しまで禁止する結論ではない。
3 引渡条約がある場合は、条約がPの行為を引渡対象とし、双方
可罰性、法定刑等の条件を満たすかを確認する。罪名が一致する必
要はないが、Pが抗議運動の指導者だったというだけでは、具体的
行為やD国法上の可罰性は確定できない。法定刑の閾値もC・D双
方の法で吟味する。内乱罪という名称だけで判断してはならない。
4 さらに、政治犯罪について引渡しを拒める旨の条項があるかが
重要である。国連の犯罪人引渡モデル条約等、多くの条約は政治犯
罪を拒否事由とするが、これらはC・D間にそのまま適用される法
源ではない。内乱罪は国家の政治秩序を直接対象とする純粋政治犯
罪の典型と評価し得る。他方、実際の暴力行為や重大な普通犯罪が
あれば条約上の除外・限定が問題となるが、そのような事実は本問
に記載がない。政治犯罪例外を定める条約なら、D国は引渡しを拒
否でき、引渡義務を負わない。例外を定めない条約では、政治犯不
引渡しの原則が確立した慣習国際法とはいえない以上(最判昭和5
1年1月26日)、義務を免れない。判断をD国に委ねる条約等も
あり、例外の効果は文言による。Pへの政治的迫害の危険も独立の
拒否事由となり得るが、条約規定と具体的な危険を確認せずに当然
の不引渡しとはできない。
5 結局、条約の存在だけで義務を断定できない。対象犯罪・要件
を満たし、政治犯罪例外等の拒否事由がなければD国は条約上引渡
義務を負うが、そうでなければ負わない。PがA国民である以上、
D国民の不引渡しは本件の決定点でない。要件判定はD国が行う。
第3 設問3
1 外交官Qは在任中、接受国Eの民事裁判権から原則として免除
される。私的な契約に関する訴えであるだけで当然に免除が消える
わけではない。免除は外交機能の保護を目的とする。
2 もっとも、外交関係に関するウィーン条約31条1項(c)は
、接受国内で公の職務の範囲外で行う職業上又は商業上の活動に関
する訴えを例外としている。Qは甲の依頼を待ったのではなく、講
演を自ら申し出て、対価の支払を求めた。一方的な政治的説明や無
償の外交広報でなく、新聞社との有償の役務取引である。しかも「
個人的な利得」を目的と明言し、講演料を個人口座へ先払いさせて
いる。C国情勢が講演の題材でも、派遣国の指示による公務とは示
されていない。甲の返金請求は、E国内で予定されたこの有償活動
から直接生じている。生活用品の購入や家事の依頼と異なり、Q自
身が市場に役務を有償で提供している。講演が履行されなくても、
勧誘、依頼の受諾、報酬受領という取引は現に生じた。
3 同号の「活動」は、単に対価のある私的契約一般と同義ではな
い。単発の商取引を除く解釈もあり、講演が一度限りである点には
反対論が成り立つ。しかし裁判所は、Qが自ら提案し、個人の利益
のため有償の役務提供を営利取引として引き受けた一連の行為を、
日常生活に付随する私的取引ではなく同号の商業上の活動と評価し
たと解せる。講演の題材だけで公務とするのは、利得目的と報酬の
個人帰属に反する。したがって本件返金訴訟では免除がない。
4 同条約42条は個人の利益のための職業・商業活動を禁止する
が、違反自体が免除を失わせるのではない。直接の根拠は31条1
項(c)である。派遣国Cによる明示の免除放棄も認められない。
判決の強制執行の可否や返金義務の実体的当否は、本設問の対象外
である。仮に同号の活動性を厳格に解するなら、一回限りという事
実から判示には疑問が残るが、裁判所の理由としては以上である。

2 設問別の解説と異論

(1) 外交的保護――国籍の基準時と国内救済

外交的保護では「誰が請求するか」と「誰が損害を受けたか」を分ける必要がある。
財産を失ったのはXであるが、C国の責任を国家間で追及する権利を行使するのはB国である。
国際法委員会の外交的保護条文案は条約ではないものの、国籍国、国籍継続、国内救済という検討順序を示す有力な整理である。
Xは没収前にB国籍を取得しA国籍を失ったから、出生時のA国籍に引きずられてB国の請求資格を否定してはならない。
条文案4条は、国籍の取得が国際法に反しない方法によることを求める。
同条の注釈によれば、違反の立証責任は国籍を争う国にあり(注釈(7))、婚姻に伴う自動的な取得のように国際法上問題となり得る場合でも、旧国籍を失ったときは新国籍国が外交的保護を行使できる(注釈(8))。
本問にB国籍の取得の違法をうかがわせる事実はない。
ただし、請求提示時の国籍維持は明記すべきである。

国内救済について、Xが救済を試みなかった事実だけを見て「未完了」とするのは誤りである。C国法上、外国人にはどの救済手段も開かれていない。条文案14条の「利用できる」救済手段がなく、15条(a)又は(d)の例外として捉えられる。C国内の別荘所有や短期滞在を理由に「C国との関連が全くない」とすることはできないので、15条(c)よりも救済手段の利用不能を理由にするのが適切である。

(2) 犯罪人引渡し――条約の有無だけで結論を決めない

引渡条約がない場合、C国が内乱罪で訴追したいというだけでは、D国に引渡義務は生じない。特定の犯罪について引渡し又は訴追を求める別の条約等があれば別だが、本問では示されていない。条約がある場合も、「締結されているから義務あり」と短絡できない。対象犯罪、双方可罰性、刑の重さ、拒否事由は条約の文言に従う。欧州犯罪人引渡条約には政治犯罪をめぐる規定があるが、C・D間の条約の中身を証明するものではない。

Pは政府の核開発政策への抗議運動のリーダーで、訴追名目は内乱罪である。
内乱罪は国家の政治秩序そのものに向けられた罪であり、暴力行為等の普通犯罪の事実が示されていない本問では、純粋政治犯罪の典型と評価しやすい。
欧州犯罪人引渡条約3条1項のように政治犯罪を拒否事由とする条項があれば、D国は引渡しを拒否でき、引渡義務を負わない。

もっとも、C・D間の条約にそのような条項があるかは示されていない。
条項がない場合に政治犯不引渡しの原則を根拠に拒否できるかは、同原則が慣習国際法として確立しているかによる。
最高裁昭和51年1月26日判決(昭和47年(行ツ)第65号、集民117号15頁)は、退去強制の事案で、「いわゆる政治犯罪人不引渡の原則は未だ確立した一般的な国際慣習法であると認められないとした原審の認定判断」を正当として是認した。
答案はこの立場により、条項がなければ条約上の義務は残るとするが、同原則の慣習法性を認めて拒否できるとする答案も、理由が示されていれば成り立つ。

Pが何をしたか、D国法で処罰されるかも不明であるから、答案では、条約上の引渡要件と拒否事由を分けて条件付きで結ぶ。

(3) 外交官の免除――私的契約と商業活動の境界

外交関係に関するウィーン条約全体の制度と主要条文は,同条約の総合解説で確認できる。
外交官個人の民事裁判権免除,私的な有償活動,免除の放棄と強制執行の区別は,外交官の民事裁判権免除で詳しく扱う。
本節では,設問3が与えた事実と,免除を否定した理由を説明するという問いに即して検討する。

外交関係に関するウィーン条約31条1項は、外交官の民事裁判権免除を原則とし、(c)で接受国内における公務外の職業上又は商業上の活動に関する訴訟を例外とする。42条は外交官による個人的利得のための活動を禁止するが、その違反だけを根拠に免除が消えるわけではない。免除否定の直接の根拠は31条1項(c)である。

Qの講演は一回限りである。
国際法委員会の1958年資料(56頁)には、特別報告者の見解として、「商業上の活動」は単一の商取引ではなく継続的活動を指すという記載がある。
また、英国最高裁の Basfar v Wong 判決は、日常生活のための私的契約と外交官が行う収益活動を区別する。
ただし、同判決は家事労働者の搾取をめぐる事案で、本問の一回の講演について結論を直接示していない。

本問では、Qが自ら講演を売り込み、個人的利得のための対価を求め、個人口座で報酬を受領している。甲はQの有償の役務提供の相手方として返金を求める。裁判所は、この一連の取引を、生活に付随する消費ではなくQ自身の商業上の活動と捉えたと説明できる。ただし、継続性を厳格に求める立場からは反対論があることを残しておくのが、判示の理由を説明する答案として正確である。強制執行は31条3項の別問題である。

3 公開答案の調査結果

令和8年9月30日、一般公開ウェブを対象に、「令和8年/令和8年」「司法試験」「国際関係法(公法系)/国際公法」「第1問/第1問」「参考答案/解答例/再現答案/講評」と、事実関係を示す「外交的保護」「内乱罪」「外交官」「講演料」を組み合わせて検索した。辰已法律研究所、アガルート、伊藤塾、BEXA、note、動画サイト等の公開候補も調べた。

確認できた範囲では、この令和8年度司法試験・国際関係法(公法系)第1問について、全文を読める独立の公開答案は見つからなかった。 令和4年度の公開再現答案の全文は読み、外交的保護について国籍継続と国内救済を順に検討する構成、引渡しについて政治犯罪を条約の条項に結び付ける構成を比較した。ただし、同答案の設問では具体的な引渡条約の政治犯条項が与えられており、条約内容を示さない本問の引渡義務の結論には転用できない。同答案の事実評価や結論を本記事にコピーしていない。

検索で見つかった令和7年度の辰已法律研究所の講評は別年度の問題を扱う。また、令和8年度の予想問題は本試験前に作られた別の問題である。これらを本問の公開答案として扱ったり、一致を主張したりしていない。検索で到達できない会員制教材、未索引のページ、SNS投稿等の不存在までは確認できない。

参照した令和8年度司法試験・公法系科目第1問(憲法)の見本記事は、対象科目が異なるので、見出し、評価項目表、5段階の重み付け、資料の区別という記事構成だけを参考にした。本問の結論の根拠にはしていない。

第6 関連記事

関連する基礎解説:外交的保護、犯罪人引渡し、外交官の民事裁判権免除も参照されたい。これらは本問の公式解説ではない。

関連記事:令和8年度司法試験論文式試験の選択科目8科目の参考答案(AI作成)。

同年度の関連する参考答案:国際関係法(公法系)第2問、国際関係法(私法系)第1問、国際関係法(私法系)第2問。選択科目全16問は上記の一覧記事から確認できる。

本問の論点別解説:外交的保護とは|国籍継続・国内救済完了・国が行使できない場合。

第7 出典及び確認状態

  1. 公式問題:法務省・令和8年司法試験問題及び選択科目問題冊子38~39頁。第1問の事実関係、各設問、配点50点を確認した。
  2. 過年度の一般的採点方針:法務省・令和7年司法試験の採点実感(国際関係法〔公法系〕)「2 採点方針」。令和8年度第1問の評価項目・配点を示すものではない。
  3. 外交的保護:国際法委員会・外交的保護条文案(2006年)1~5条、14~15条、19条、同条文案の注釈4条注釈(7)・(8)。条約ではなく、条文案として引用した。
  4. 犯罪人引渡し:国際法委員会・「引渡しか訴追か」2014年最終報告49~55項(同義務の慣習国際法上の地位を扱う節で、慣習法化を否定したものと解してはならないとする(53項)。慣習法上の地位はなお決着していないことを示す資料として、答案第2の2の同義務についての記述の補助に用いた)、欧州犯罪人引渡条約1~3条。後者がC・D間で効力を持つ条約とは仮定していない。最高裁昭和51年1月26日判決(昭和47年(行ツ)第65号、集民117号15頁)は、政治犯罪人不引渡の原則の慣習国際法としての確立を否定した原審の判断を是認した国内判例として引用した。ICJ・ロッカービー事件における小田裁判官反対意見20段落は一般国際法上の引渡義務の説明を補助する資料で、裁判所の法廷意見ではない。答案中の国連モデル条約への言及については、国連デジタルライブラリーの書誌と検索表示で2~3条の要点を確認したが、本文ファイルには直接アクセスできなかったため、本記事の主要な条文根拠にはしていない。
  5. 外交官の免除:外交関係に関するウィーン条約31条・42条、国際法委員会1958年資料(A/CN.4/116。第10会期に特別報告者サンドストレームが各国政府の意見と自らの結論をまとめた文書)56頁(条文草案24条1項(c)(条約31条1項(c)の原案)についてのオーストラリア政府の意見に対する特別報告者の見解)、英国最高裁 Basfar v Wong 判決28~32、59~61段落。後者は類似の解釈問題を扱う比較資料で、本問と同一事案ではない。
  6. 答案の形式:伊藤塾・司法試験CBTの説明を参照。1問92行・各行30文字以下となるよう本文を機械的に検査した。