目次第1 結論―生成AIは下書きの補助に限る1 生成AIに任せやすい作業2 生成AIに任せてはいけない作業第2 AIへ入力する前に事実と証拠を分ける1 先に事実経過表を作る2 学習に使わない設定を確かめてから入力する第3 生成AIで訴状の下書きを作る1 裁判所の公式書式から始める2 請求の趣旨,原因及び証拠を対応させる3 補正前提で提出しない第4 生成AIで答弁書・準備書面の下書きを作る1 相手方の主張と一対一で対応させる2 認める,否認する,不知を区別する3 提出期限を守る第5 架空判例・誤った法令・引用を確認する1 裁判例は五項目で照合する2 法令はe-Govの現行条文で確認する3 別のAIへの質問だけでは検証にならない第6 mints又は紙で裁判所へ提出する1 本人の電子提出の位置付け2 mintsは期限より前に準備する3 提出版と作業版を分ける第7 提出前チェックリスト1 内容の確認2 法令・裁判例の確認3 提出の確認第8 弁護士へ相談した方がよい場面第9 出典・参考資料1 法令・規則2 所管機関の解説・Q&A・運用資料3 国外の裁判所利用者向け公表資料
第1 結論―生成AIは下書きの補助に限る
1 生成AIに任せやすい作業
生成AIは,本人訴訟で使う事実経過表の作成,訴状・答弁書・準備書面の下書き,相手方の主張との対応表の作成及び文章の整理に利用できる。
もっとも,生成AIが読みやすい文章を出力したことと,その内容が事実及び法律に照らして正しいことは別問題である。
生成AIを使う場合も,訴状及び準備書面は民事訴訟法及び民事訴訟規則の要件を満たす必要がある。
本人が最終的に確認すべき対象は,①記載した事実,②その事実を裏付ける証拠,③引用した法令,④引用した裁判例,⑤請求額・日付・当事者名,⑥提出先及び提出期限である。
2 生成AIに任せてはいけない作業
生成AIに,資料にない事実を補わせたり,実在を確認していない判例をもっともらしく追加させたり,証拠の内容を有利に変えさせたりしてはならない。
不明な箇所は推測で埋めず,「要確認」と表示させる必要がある。
生成AIは,請求の選択,消滅時効,管轄,訴額,立証の見通し又は和解条件について,個別事件に応じた確実な法律判断を保証するものではない。
提出後には簡単に訂正できない事項もあるため,重要な判断は弁護士への相談を検討すべきである。
本記事は,令和8年9月3日現在の法令及び裁判所資料に基づき,同年5月21日以後に提起する第一審の通常民事訴訟を中心に説明する。
保全,執行,倒産,家事,行政,刑事,控訴及び上告では手続が異なる。
本人訴訟での利用は,次の順序で読むことができる。
手続を選ぶ判断と,下書きを作る作業を分け,期限が近い場合はAIでの作成よりも裁判所の案内や相談先への確認を優先することが考えられる。
段階本記事の案内確認すること準備第2:事実・証拠・入力原資料,推測との区別,情報の取扱い下書き第3:訴状・第4:答弁書等公式書式,請求・事実・証拠の対応検証第5:法令・判例・引用原文の実在・内容・時点・事案の違い提出前第7:チェックリスト提出する完成版,期限,方法,控え相談第8:弁護士へ相談する場面判断に迷う点,失われそうな証拠,費用と選択肢
AI法律相談の使い方,費用,弁護士の役割を先に確認したい場合は,AI弁護士とはを参照されたい。
第2 AIへ入力する前に事実と証拠を分ける
1 先に事実経過表を作る
訴状又は準備書面の文章から作り始めると,事実,評価及び推測が混ざりやすい。
まず,手元の契約書,メール,領収書,写真その他の資料を確認し,次の項目を持つ事実経過表を作るとよい。
項目記入例日付令和○年○月○日出来事契約を締結した情報源契約書・メール相手方と争いがあるか争いなし/あり/不明対応する証拠甲第○号証未確認事項署名者の権限を要確認
出来事は,資料に書かれている事実と,自分の記憶だけによる事実を分ける。
生成AIには,「資料にない日付,人物,合意内容又は会話を補わず,不明な箇所は要確認と表示すること」と指示する。
2 学習に使わない設定を確かめてから入力する
本人訴訟の資料には,当事者の氏名,住所,電話番号,生年月日,勤務先,口座,病歴その他の個人情報が含まれ得る。
個人情報保護委員会は,一般の利用者に対し,入力した個人情報が機械学習に利用され,他の情報と結び付いて出力されるリスクや,出力に不正確な個人情報が含まれるリスクを示し,利用規約及びプライバシーポリシーを確認するよう注意喚起している。
「学習オフ」は,入力をモデルの訓練又は改善に利用しないという一つの条件であって,保存,人的アクセス,再委託,国外処理,安全監視ログ,外部コネクタ又はアプリケーション状態まで一括して停止する表示ではない。
入力前に,現に使用するサービス,プラン,アカウント及び機能を特定し,利用規約,プライバシー資料,DPAその他の契約,保持・削除,接続先及び実際の設定を確認する。DPA確認の項目は,法律事務所が生成AIのDPAを確認するときのチェックリスト(AI作成)で整理している。
本人訴訟の当事者は,まず氏名,住所,電話番号,生年月日,勤務先,口座,病歴その他の識別情報を入力しなくても目的を達成できるかを検討し,公開情報又は仮名化した必要最小限の情報から始めるのが安全である。
当事者名を単純な記号に置き換えると人物又は時系列を取り違えるおそれがある場合は,全資料を通じて一貫した仮名を用い,対応表を生成AIへ入力しない方法もある。実名の保持が作業上必要であると判断する場合は,学習オフだけでなく上記の処理条件を確認し,特に機密性の高い資料又は訴訟に不要な第三者情報は入力しない。
個人情報保護委員会の注意喚起は,利用目的の範囲内であること及び機械学習その他の応答生成以外の目的で取り扱われないこと等の確認を求める資料であり,特定の生成AIへの実名入力を一般的に許可する資料ではない。弁護士による守秘義務上の評価は,学習オフ設定のClaudeコード及びGoogle AI Ultraの利用は弁護士の守秘義務等に違反しないという個人的意見に記載した当職の見解であって,本人訴訟の利用者にそのまま当てはまる法的保証ではない。
第3 生成AIで訴状の下書きを作る
1 裁判所の公式書式から始める
民事訴訟法134条は,訴えを訴状の提出によって提起し,訴状に当事者及び法定代理人並びに請求の趣旨及び原因を記載するよう定めている。
民事訴訟規則53条は,請求を理由付ける事実を具体的に記載し,立証を要する事由ごとに重要な関連事実及び証拠を記載するよう定めている。
裁判所ウェブサイトの「民事訴訟で使う書式」には,貸金,建物明渡,売買代金,請負代金,賃金その他の訴状書式及び記載例がある。
生成AIに白紙から訴状を作らせるのではなく,事件類型に合う公式書式と,自分で確認した事実経過表を基礎にする方がよい。
訴額が140万円以下の請求は原則として簡易裁判所,それ以外の一般的な民事訴訟は地方裁判所が第一審裁判所となるが,土地管轄には被告の住所地以外の特則もある。
提出先,訴額又は請求の構成に疑問がある場合は,送信前に確認する必要がある。
(続きを読む...)生成AIを使った本人訴訟-訴状・準備書面の作成,架空判例の確認及び裁判所への提出(AI作成)