第1 若年定年退職者給付金とは
1 若年定年制から生じる不利益を補う給付金
自衛官は,定年に達した日の翌日に退職し,その定年は,勤務の性質に応じて階級ごとに政令で定められる(自衛隊法45条1項・2項)。
自衛隊法施行令60条・別表第9は,陸将・陸将補等を60歳,1等陸佐等を58歳,2等陸佐・3等陸佐等を57歳,1等陸尉から准陸尉まで,陸曹長及び1等陸曹等を56歳,2等陸曹・3等陸曹等を55歳と定めている(海上自衛官・航空自衛官も同じ。)。
統合幕僚長等の職にある将の定年は62歳,医師,歯科医師,薬剤師,警務官等である1等陸佐以下等の自衛官の定年は60歳とされている(同表の備考)。
これに対し,自衛官以外の隊員の定年は65歳である(自衛隊法44条の6第2項)。
ただし,令和5年4月1日から令和13年3月31日までの間は,同法附則8項により,期間に応じて61歳から64歳までの年齢に読み替えられる。
財政制度等審議会の「令和8年度予算の編成等に関する建議」(令和7年12月2日)は,自衛官には職務の特性上,一般の公務員の定年年齢を下回る年齢を定年年齢とする若年定年制がとられており,この制度から生じる不利益を補うことを目的として若年定年退職者給付金が支給されていると説明している(本文94頁)。
給付金は,防衛省の職員の給与等に関する法律(昭和27年法律第266号。以下「給与法」という。)27条の2から27条の14までに定められている。
給与法1条は,同法が定める事項として,若年定年退職者給付金を,国家公務員退職手当法の特例とは別に掲げている。
陸上自衛隊は,若年定年制の下にある准曹クラスの自衛官のキャリアパスと,退職後の再就職の例を紹介する動画を令和7年12月26日に公開している(若年定年退職者給付金そのものの説明はない。)。
2 本記事の基準日と確認した資料
本記事は,令和8年11月7日の時点でe-Gov法令検索に掲載されている給与法(令和8年10月1日施行の版)と,令和10年4月1日施行の未施行の版を基に,改正法の附則を衆議院ホームページの制定時の本文で確かめて整理したものである。
給付金の制度は,令和8年7月3日に公布された防衛省設置法等の一部を改正する法律(令和8年法律第53号。以下「令和8年改正法」という。)により,令和8年4月1日以後に退職した者について改められ,令和10年4月1日以後に退職する者について更に改められる。
実際の支給額は,政令で定める率,在職中の俸給,扶養親族,再就職後の所得等によって人ごとに異なる。
第2 支給を受けられる人
1 在職期間20年以上で若年定年等により退職した自衛官
給付金を受けられるのは,自衛官としての在職期間が20年以上である者その他これに準ずる者として政令で定める者(長期在職自衛官)で,次のいずれかに当たる者(若年定年退職者)である(給与法27条の2第1項)。
① 若年定年(自衛官以外の職員の定年以上の定年を除く。)に達したことにより退職した者
② 若年定年に達する日以前1年内に退職した者のうち,定員の減少や組織の改廃による過員・廃職又は勤務官署の移転により退職した者,国家公務員退職手当法8条の2第1項1号の早期退職募集(職員の年齢別構成の適正化を目的とする募集)に応募して認定を受け,退職すべき期日に退職した者,又は本人の事情によらずに若年定年まで勤務を続けることが困難な理由により退職した者として政令で定めるもの
③ 若年定年に達した後,自衛隊法45条3項・4項により引き続き勤務を命じられ,その期間が満了して退職した者,又は期間の満了前に本人の非違によらずに退職した者
②の「政令で定めるもの」は,任命に当たり内閣の承認を得た職にあった者が,職員の配置等の事務の都合により退職した場合とされている(防衛省の職員の給与等に関する法律施行令(以下「施行令」という。)20条3項)。
在職期間20年以上の者に「準ずる者」は,本人の事情によらずに又は任命権者等の要請に応じて自衛官以外の者となり,その後再び自衛官となって退職した場合の自衛官以外の者であった期間や,②に当たる者の退職の日から定年に達する日の翌日までの期間を,自衛官としての在職期間とみなして計算すると20年以上となる者である(施行令20条1項)。
自衛隊法45条の2第1項により定年退職者等として再任用された自衛官は,ここでいう自衛官から除かれている(給与法27条の2第1項)。
早期退職募集の仕組みは,令和8年4月の裁判所の早期退職募集実施要項2通を読む―裁判官6人・一般職29人の募集,認定の順位,応募の締切及び退職手当の割増し(AI作成)で扱っている。
2 在職期間の数え方(令和8年4月1日以後の退職者)
令和8年改正法による改正の前は,自衛官としての引き続いた在職期間が20年以上であることが要件とされていた。
改正後は,在職期間を自衛官となった日から退職した日までの期間とし,自衛官であった期間が2回以上あるときは,これを合算する(給与法27条の2第2項)。
ただし,在職期間中の行為に係る刑事事件で拘禁刑以上の刑に処せられて自衛隊法38条2項により失職した場合や,在職期間中の行為に関し同法46条の規定による免職の処分を受けた場合は,初めて自衛官となった日から失職の日又は処分の日までの自衛官であった期間を除く(給与法27条の2第2項ただし書)。
この改正は,令和8年4月1日以後に退職した者に適用され,同日前に退職した者には従前の例による(令和8年改正法附則1条2項・2条)。
3 支給されない場合
退職の日又はその翌日に国家公務員又は地方公務員(臨時的に任用される者,任期を定めて任用される者及び非常勤の者を除く。)となったときは,給付金は支給されない(給与法27条の2第1項ただし書)。
このほか,刑事事件や懲戒免職処分を受けるべき行為があった場合の支払差止め・不支給・返納の制度があり,第5で説明する。
第3 給付金の額と支給の時期
1 基本の計算式
給付金の額は,退職の日の俸給月額に,算定基礎期間の年数と法律で定める係数を掛けて計算する(給与法27条の3第2項)。
俸給月額は,3等陸佐・3等海佐・3等空佐の俸給の幅の最高の号俸の額が上限とされている(同項)。
算定基礎期間は,退職の日において定められている自衛官としての定年に達する日の翌日から,自衛官以外の職員の定年に達する日までの期間である(同項)。
令和10年3月31日までに退職した者については,この額に更に,支給の時期と算定基礎期間の年数を勘案して1を超えない範囲内で政令で定める率を掛ける(同項)。
この率は,算定基礎期間が3年以下なら第1回目・第2回目とも1であり,4年から7年までの各年数について1未満の率が定められている(施行令22条)。
ただし,第3の2の後期分と定年が60歳以上の者については年数の区分が読み替えられ,第1回目・第2回目とも1となるのは2年以下である(施行令附則15項・16項)。
若年定年に達した後に引き続き勤務して退職した者(第2の1の③)の給付金からは,延長して勤務した月数を勘案して政令で定める額が差し引かれる(給与法27条の3第3項,施行令23条)。
2 60歳の前と後で分けて計算する仕組み
当分の間,定年が60歳未満の若年定年退職者については,算定基礎期間を,定年に達する日の翌日から60歳に達する日までの「前期算定基礎期間」と,60歳に達する日の翌日から自衛官以外の職員の定年に達する日までの「後期算定基礎期間」に分け,別々に計算して支給する(給与法附則12項)。
前期分には第3の1の係数を使い,後期分にはこれより低い別の係数を使う(同項)。
後期分は,60歳に達する日の翌日の属する月の後に最初に到来する防衛省令で定める月と,60歳に達する日の翌日の属する年の翌々年の防衛省令で定める月の2回に分けて支給される(同項)。
定年が60歳以上の若年定年退職者(将・将補や,定年が60歳とされる医師等)については,後期分と同じ水準の係数で計算する(給与法附則13項)。
また,自衛官としての定年に達する日が令和5年4月1日から令和13年3月31日までの間にある者については,自衛官以外の職員の定年を,自衛隊法附則8項の期間に応じた61歳から64歳までの年齢で読む(給与法附則12項・13項)。
3 係数の改正と経過措置
令和8年改正法4条は,給与法27条の3第2項の係数を1.714・4.286(合計6)から2.571・6.429(合計9)に,附則12項の後期分の係数を1.38・2.07から1.84・2.76に改め,これらを令和8年4月1日から適用した(令和8年改正法附則1条1項1号・2項)。
ただし,令和8年改正法附則3条・4条により,令和8年度中(令和8年4月1日から令和9年3月31日まで)の退職者は合計7,令和9年度中の退職者は合計8とされる。
合計9となるのは令和10年4月1日以後の退職者であり,その時点で支給は3回払いに改められる(令和8年改正法5条,附則5条)。
退職の日ごとの係数は,次の表のとおりである。
| 退職の日 | 前期分の係数 | 後期分の係数 | 根拠 |
|---|---|---|---|
| 令和8年3月31日以前 | 1.714+4.286=6 | 1.38+2.07=3.45 | 改正前の給与法27条の3第2項・附則12項(令和8年改正法附則2条) |
| 令和8年4月1日~令和9年3月31日 | 2+5=7 | 1.532+2.298=3.83 | 令和8年改正法附則3条 |
| 令和9年4月1日~令和10年3月31日 | 2.286+5.714=8 | 1.684+2.526=4.21 | 令和8年改正法附則4条 |
| 令和10年4月1日以後 | 2.25+4.5+2.25=9(3回払い) | 1.15+2.3+1.15=4.6(3回払い) | 令和8年改正法5条による改正後の給与法27条の3第2項・附則12項 |
財政制度等審議会の参考資料は,改正前の制度を,60歳までの分は若年定年年齢と60歳との差1年につき退職時の俸給月額の6か月分,60歳以降の分は60歳と一般の国家公務員の定年年齢との差1年につき3.45か月分を支給することを基本とすると説明しており(参考資料(3)資料Ⅱ-3-17),これは表の1行目に当たる。
4 支給の時期と一時支給の特例
令和10年3月31日までに退職した者の給付金は,2回に分けて支給される(給与法27条の3第1項)。
第1回目は,1月から3月まで又は10月から12月までに退職した者には退職後最初に到来する4月,4月から9月までに退職した者には退職後最初に到来する10月に支給される(若年定年退職者給付金に関する省令(以下「省令」という。)1条1号)。
第2回目は,退職した年の翌々年の8月に支給される(給与法27条の3第1項,省令1条2号)。
申出をすれば,第1回目と第2回目を合わせて,退職した年の翌々年の第2回目の支給月に一度に受け取ることもでき,この場合も第4の所得による調整を受ける(給与法27条の5)。
第4 再就職後の所得による減額と返納
1 判定に使う額
第2回目の給付金は,退職した年の翌年(以下「退職の翌年」という。)の所得金額によって減額され,又は支給されない(給与法27条の4)。
ここでいう所得金額は,退職の翌年の事業所得の金額と給与所得の金額の合計額を給与所得の金額と仮定した場合の,給与等の収入金額に相当する金額である(同条4項)。
給与収入だけの人であれば,おおむねその年の給与の収入金額(額面)に当たる。
ただし,退職の翌年の途中から雇用された人等は,政令で定めるところにより年額に換算した金額で判定される(同項ただし書,施行令24条の2)。
給与の収入金額と給与所得の金額の違いは,所得税とは―税率・計算方法・所得控除・住民税との違い(AI作成)で扱っている。
判定には,次の三つの額を使う(給与法27条の4第1項・3項)。
以下の倍率は,定年が60歳未満の者の前期分(60歳までの分)のものである。
① 給与年額相当額:退職の翌年まで自衛官として在職していたと仮定した場合にその年に受けるべき俸給,扶養手当,営外手当,期末手当及び勤勉手当の合計額として,政令で定めるところにより計算した額(施行令24条)
② 支給調整下限額:給与年額相当額から,俸給月額に,令和8年3月以前の退職者は6,令和8年度中の退職者は7,令和9年度中の退職者は8を掛けた額を差し引いた額(令和8年3月以前の退職者は改正前の数値(令和8年改正法附則2条),令和8年度・令和9年度中の退職者は条文上の9を同法附則3条・4条で読み替えた数値である。)
③ 支給調整上限額:給与年額相当額から,俸給月額に,令和8年3月以前の退職者は1.714,令和8年度中の退職者は2,令和9年度中の退職者は2.286を掛けた額を差し引いた額(令和8年度・令和9年度中の退職者は,条文上の2.571を同法附則3条・4条で読み替えた数値である。)
後期分(60歳以降の分)の判定は,退職の翌年ではなく,61歳の年の所得金額で行う(給与法附則15項)。
後期分と定年が60歳以上の者については,支給調整下限額・支給調整上限額の倍率が,令和8年3月以前の退職者は3.45・1.38,令和8年度中の退職者は3.83・1.532,令和9年度中の退職者は4.21・1.684に読み替えられ,給与年額相当額も政令により70%等を掛けた額とされる(給与法附則13項・15項,令和8年改正法附則3条・4条,施行令附則15項・16項)。
2 減額・不支給・返納の段階
退職の翌年の所得金額に応じた扱いは,次のとおりである(給与法27条の4第1項から3項まで)。
① 支給調整下限額以下:第2回目の給付金は全額支給される。
② 支給調整下限額を超え支給調整上限額未満:第2回目の給付金は,その額に「支給調整上限額-所得金額」を「支給調整上限額-支給調整下限額」で割った率を掛けた額に減額される。
③ 支給調整上限額以上で給与年額相当額未満:第2回目の給付金は支給されず,第1回目の給付金の額に「所得金額-支給調整上限額」を「給与年額相当額-支給調整上限額」で割った率を掛けた額を返納する。
④ 給与年額相当額以上:第2回目の給付金は支給されず,第1回目の給付金の全額を返納する。
本記事では,この仕組みを次のように整理する。
政令で定める率が第1回目・第2回目とも1である場合(定年が60歳未満の者の前期分では,前期算定基礎期間が3年以下の場合)には,所得金額が支給調整下限額を超え給与年額相当額に満たない範囲で,前期算定基礎期間1年当たりの受取額は「給与年額相当額-所得金額」となり,退職の翌年の所得金額と1年当たりの給付金の合計が給与年額相当額で頭打ちになる。
財政制度等審議会の参考資料も,防衛人事審議会処遇・給与部会の中間提言を出所として,給与年額相当額(1佐以下の平均額736万円)に対し,再就職賃金が480万円なら給付金(1年当たり)は256万円となるという支給制限のイメージ図を示している(参考資料(3)資料Ⅱ-3-17)。
そして,退職の翌年という1年の所得金額で判定した結果が,前期算定基礎期間(定年が60歳以上の者は算定基礎期間)の全部の年数分の給付金に及ぶ(その後の所得が下がった場合の追給は第4の4)。
3 仮例で見る令和8年4月からの改正の効果
定年が60歳未満で,俸給月額40万円,前期算定基礎期間3年,給与年額相当額700万円の人を仮に考える(後期分は除き,政令で定める率は1である。)。
令和8年3月以前の退職であれば,前期分は第1回目が205万6800円(40万円×3年×1.714),第2回目が514万3200円(40万円×3年×4.286)で,合計720万円である。
令和8年度中の退職であれば,第1回目が240万円(40万円×3年×2),第2回目が600万円(40万円×3年×5)で,合計840万円である。
退職の翌年の所得金額が300万円であれば,いずれも支給調整下限額(改正前は460万円,令和8年度中の退職は420万円)以下であるから全額が支給され,改正による増加は120万円である。
退職の翌年の所得金額が520万円であれば,第2回目は,改正前は334万3200円に,令和8年度中の退職では300万円に減額され,前期分の合計はどちらも540万円(1年当たり180万円=700万円-520万円)となる。
この仮例のとおり,政令で定める率が1の場合,令和8年4月からの係数の引上げによる増加額は,再就職後の所得金額が改正後の支給調整下限額以下の人で最も大きく(この仮例では一律120万円),改正後と改正前の支給調整下限額の間では所得金額が高いほど小さくなり,所得金額が改正前の支給調整下限額以上の人の受取額は改正前と変わらない。
4 所得の届出と追給
給付金を受けられる者は,退職した年の翌々年の6月30日までに,退職の翌年の所得を届け出て,源泉徴収票等の書類を提出しなければならない(給与法27条の6第1項,省令6条・7条)。
後期分については,60歳に達する日の翌日の属する年の翌々年の6月30日までに,61歳の年の所得を届け出る(給与法附則15項,省令附則3項)。
第1回目を受けた者が正当な理由なく届出等をしないときは,第1回目の全部又は一部の返納や第2回目の全部又は一部の不支給の処分を受けることがあり,その前に処分の理由の通知と弁明の機会が与えられる(給与法27条の6第2項・4項)。
退職の翌年の所得金額が支給調整下限額を超えた者で,退職の翌年以後の各年の所得金額の平均(平均所得金額)が退職の翌年の所得金額を下回ったもの(平均所得金額が給与年額相当額以上の者を除く。)は,請求により給付金の追給を受けられる(給与法27条の7第1項)。
平均所得金額は,退職の翌年から,自衛官以外の職員の定年に達する日の翌日の属する年の前年まで(定年が60歳未満の者の前期分は,60歳に達する日の翌日の属する年の前年まで)の各年の所得金額の平均であり,その年数が2年以上ある場合に限られる(同項,給与法附則14項)。
後期分の平均所得金額は,61歳の年から自衛官以外の職員の定年に達する日の翌日の属する年の前年までの各年の所得金額の平均である(給与法附則15項)。
追給の額は,平均所得金額を退職の翌年の所得金額とみなして計算し直した額を基に定められる(同条2項・3項)。
追給の請求は,自衛官以外の職員の定年に達する日の翌日の属する年(定年が60歳未満の者の前期分は,60歳に達する日の翌日の属する年)の6月30日までに行い,追給は同じ年の8月に支給される(省令12条・14条,省令附則2項)。
第5 支払差止め・不支給・返納と死亡した場合の扱い
1 刑事事件や懲戒免職処分を受けるべき行為があった場合
在職期間中の行為に係る刑事事件で起訴された場合(拘禁刑以上の刑が定められている罪に係るものに限り,略式手続によるものを除く。)などには,給付金管理者(退職の日に免職の処分を行う権限を有していた者)は,まだ支払われていない給付金の支払を差し止める処分を行う(給与法27条の8第1項)。
在職期間中の行為に係る刑事事件で逮捕された場合等であって給付金を支払うことが公務に対する国民の信頼を確保する上で支障を生ずると認めるときや,在職期間中に懲戒免職処分を受けるべき行為をしたことを疑うに足りる相当な理由があると給付金管理者が思料するに至ったときにも,支払を差し止めることができる(同条2項)。
支払前に拘禁刑以上の刑に処せられ,又は在職期間中に懲戒免職処分を受けるべき行為をしたと認められた場合などには,まだ支払われていない給付金は支給されない(給与法27条の9第1項)。
支給後に,在職期間中の行為に係る刑事事件で拘禁刑以上の刑に処せられた場合や,在職期間中に懲戒免職処分を受けるべき行為をしたと認められた場合などには,生計の状況を勘案して,支給を受けた給付金の全部又は一部の返納を命じられることがある(給与法27条の10第1項)。
懲戒免職処分を受けるべき行為を理由とする返納の命令は退職の日から5年以内に限られ,命令の前には意見の聴取が行われる(同条2項・3項)。
国家公務員の退職手当にも退職後の返納の制度があり,黒川弘務元検事長の退職金――約5900万円の試算と返納制度(AI作成)で扱っている。
2 給付金を受ける前に死亡した場合
若年定年退職者が給付金の支給を受ける前に死亡したときは,給付金はその遺族に支給され,支給すべき遺族がないときは相続人に支給される(給与法27条の11第1項・2項)。
遺族は,配偶者(届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にあった者を含む。),子,父母,孫又は祖父母で,死亡の当時その者によって生計を維持していたものであり,この順序で支給を受ける(給与法27条の14第1項・2項)。
第6 令和10年4月1日以後に退職する者に適用される改正
1 3回払いへの変更
令和8年改正法5条は,令和10年4月1日以後に退職する者について,給付金を3回に分けて支給する仕組みに改める(令和8年改正法附則1条1項3号・5条)。
第1回目は退職した月の後に最初に到来する防衛省令で定める月,第2回目は退職した年の翌々年の防衛省令で定める月,第3回目は自衛官以外の職員の定年に達する日の翌日の属する年(定年に達する日からその年までの期間が1年以内であるときは,その翌年)の防衛省令で定める月に支給される(改正後の給与法27条の3第1項)。
定年が60歳未満の者の前期分では,第3回目は60歳に達する日の翌日の属する年(同様の場合はその翌年)の防衛省令で定める月に支給される(改正後の給与法附則14項)。
係数は,第1回目が2.25,第2回目が4.5,第3回目が2.25(合計9)であり,政令で定める率を掛ける規定は削られる(同条2項)。
60歳以降の後期分も3回払いとなり,係数は1.15,2.3,1.15(合計4.6)である(改正後の給与法附則12項)。
一時支給の申出は,第1回目と第2回目に限って認められる(改正後の給与法27条の5第1項)。
2 支給調整の見直し
改正後は,支給調整上限額の基準が給与年額相当額から「給与年額調整額」に改められる(改正後の給与法27条の4第1項)。
給与年額調整額は,給与年額相当額に,退職前5年間の各年における俸給の特別調整額,地域手当,住居手当,航空手当,乗組手当,勤勉手当等の合計額のうち最も高い額として政令で定める額を加えた額(加算調整上限額)までの範囲内で,政令で定めるところにより計算した額である(同項)。
支給調整上限額は,給与年額調整額から俸給月額の3倍を差し引いた額となり,支給調整下限額は,給与年額相当額から俸給月額の9倍を差し引いた額である(同項)。
後期分と定年が60歳以上の者については,9倍は4.6倍に,3倍は1.533333倍に読み替えられる(改正後の給与法附則13項・15項)。
退職の翌年の所得金額が支給調整下限額を超え支給調整上限額に満たないときは,3回分の給付金の合計額に「所得金額-支給調整下限額」を「加算調整上限額-支給調整下限額」で割った率を掛けた額の75%(支給調整額)が,第2回目から差し引かれる(改正後の給与法27条の4第1項)。
所得金額が支給調整上限額以上なら第2回目は支給されず,支給調整額が第2回目の額を超える部分は第1回目から返納し,所得金額が給与年額調整額以上なら第1回目の全額を返納する(同条2項・3項)。
第3回目は,自衛官以外の職員の定年に達する日の翌日の属する年の前年(定年が60歳未満の者の前期分は,60歳に達する日の翌日の属する年の前年)の所得金額が支給調整下限額を超え給与年額調整額に満たないときは,同じ方法で計算した額の25%が差し引かれ,その所得金額が給与年額調整額以上なら支給されない(同条4項・5項,改正後の給与法附則14項)。
所得の届出は,退職の翌年の所得(退職した年の翌々年に届出)と,第3回目の判定に使う年の所得(その翌年に届出)の2回となり(改正後の給与法27条の6第1項,附則14項),平均所得金額による追給の制度(給与法27条の7)は削除される。
定年が60歳未満の者は,後期分についても,61歳の年の所得と,自衛官以外の職員の定年に達する日の翌日の属する年の前年の所得を届け出る(改正後の給与法附則15項)。
給与所得のうち防衛省令で定めるものは,所得金額の計算から除かれる(改正後の給与法27条の4第6項)。
本記事では,この改正を,前期分の減額を退職の翌年の所得で一括して決め,その後に所得が下がったときは平均所得金額による追給で調整していた仕組みを改め,減額の4分の3を退職の翌年(後期分は61歳の年)の所得で,4分の1を後の年(前期分は60歳に達する日の翌日の属する年の前年,後期分と定年が60歳以上の者は自衛官以外の職員の定年に達する日の翌日の属する年の前年)の所得で判定する仕組みに改めたものと整理する。
また,減額の計算に用いる加算調整上限額と,支給調整上限額の基準となる給与年額調整額に地域手当等の手当分が加わるため,再就職後の所得金額が同じでも,改正前より減額が小さくなる場合がある。
他方,第3回目の判定に使う年の所得金額が高いと,第3回目は減額され,又は支給されない。
第7 財政制度等審議会の建議と改正の関係
財政制度等審議会の建議(令和7年12月2日)は,給付金について,令和8年度からの施行を目指し,水準の引上げや支給制限の仕組みに関する緩和措置等が検討されていると記している(本文94頁)。
そのうえで,見直しに当たっては,支給制限の緩和が就労意欲等に与える影響のエビデンスを検証するとともに,「複数年分の支給の可否を特定年の所得に基づいて一括して判定する方式」を見直し,所得水準の変化をより丁寧に反映する制度とすべきであると提言している(同頁)。
参考資料(3)の資料Ⅱ-3-17は,「自衛官の処遇・勤務環境の改善及び新たな生涯設計の確立に関する基本方針」(令和6年12月20日)が,令和8年度から施行することを目指して給付水準の引上げを検討するとしたことを抄録している。
同資料は,防衛人事審議会処遇・給与部会の「若年定年退職者給付金の給付水準の引上げ等に関する中間提言」(令和7年8月25日)が,支給制限の仕組みに関する何らかの緩和措置の必要性は理解できるとしつつ,引き続き具体的な分析・検討が必要とした部分も抄録している。
また,同資料は,改正前の制度では,60歳までの分は複数年分の支給の可否を退職の翌年の所得のみで,60歳以降の分は61歳の年の所得のみで判定していると説明している。
その後に成立した令和8年改正法は,給付水準を段階的に引き上げ(第3の3),令和10年4月1日以後の退職者については,手当分を加えた給与年額調整額を支給調整上限額の基準とし,減額の判定を2つの年の所得に分けた(第6)。
本記事では,後者を,建議が見直しを求めた一括判定の方式に手当てをしたものとみる。
建議が求めた就労意欲への影響のエビデンスの検証の内容は,改正法の条文には表れていない。
建議は,自衛官の定年年齢について,令和2年度から段階的に引き上げてきており(例:1曹54歳→56歳),令和10年度から更に段階的に引き上げられる予定であるとし(例:1曹56歳→58歳),自衛官の定年年齢を引き上げるべきとの意見もあったと記している(本文94頁の脚注82)。
算定基礎期間は自衛官としての定年に達する日の翌日から始まるので,自衛官以外の職員の定年が同じであれば,自衛官の定年が引き上げられるとその分だけ算定基礎期間は短くなる。
第8 退職を控えた自衛官と家族が確認すること
退職を控えた自衛官と家族は,次の点を確認しておくとよい。
① 退職の日が,令和8年3月以前,令和8年度中,令和9年度中,令和10年4月以後のどの区分に当たるか(係数と支給の回数が変わる。)
② 自衛官としての在職期間が20年以上あるか(令和8年4月1日以後の退職者は,自衛官であった期間を合算できる。)
③ 退職の日又はその翌日に国家公務員又は地方公務員(臨時的に任用される者,任期を定めて任用される者及び非常勤の者を除く。)とならないか(なると給付金は支給されない。)
④ 退職の翌年(後期分は61歳の年)の所得金額の見込みが,給与年額相当額,支給調整下限額及び支給調整上限額とどのような関係にあるか(令和10年4月以後の退職者は,給与年額調整額との関係と,第3回目の判定に使う年の所得の見込みも)
⑤ 退職した年の翌々年の6月30日までの所得の届出(後期分の届出,令和10年4月以後の退職者の第3回目に係る届出は別の時期にある。)
⑥ 令和10年3月以前に退職した者は,その後の所得が下がった場合の追給の請求
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第10 出典
1 法令
防衛省の職員の給与等に関する法律(昭和27年法律第266号)1条・27条の2~27条の14・附則12項~15項(e-Gov法令検索,令和8年10月1日施行の版及び令和10年4月1日施行の未施行の版)https://laws.e-gov.go.jp/law/327AC0000000266
防衛省の職員の給与等に関する法律施行令(昭和27年政令第368号)20条~24条の2・附則14項~16項 https://laws.e-gov.go.jp/law/327CO0000000368
若年定年退職者給付金に関する省令(平成21年防衛省令第5号)1条・6条・7条・12条・14条・附則2項・3項 https://laws.e-gov.go.jp/law/421M60002000005
自衛隊法(昭和29年法律第165号)38条・44条の6・45条・45条の2・46条・附則8項 https://laws.e-gov.go.jp/law/329AC0000000165
自衛隊法施行令(昭和29年政令第179号)60条・別表第9 https://laws.e-gov.go.jp/law/329CO0000000179
国家公務員退職手当法(昭和28年法律第182号)8条の2 https://laws.e-gov.go.jp/law/328AC1000000182
2 改正法
防衛省設置法等の一部を改正する法律(令和8年法律第53号)4条・5条・附則1条~6条(衆議院ホームページ「制定法律情報」)https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_housei.nsf/html/housei/22120260703053.htm
3 財政制度等審議会
財政制度等審議会「令和8年度予算の編成等に関する建議」(令和7年12月2日)https://www.mof.go.jp/about_mof/councils/fiscal_system_council/sub-of_fiscal_system/report/zaiseia20251202/index.html
同建議の本文94頁(「② 若年定年退職者給付金制度の見直し」及び脚注81・82)https://www.mof.go.jp/about_mof/councils/fiscal_system_council/sub-of_fiscal_system/report/zaiseia20251202/01.pdf
同建議の参考資料(3)資料Ⅱ-3-17「若年定年退職者給付金制度の見直し」https://www.mof.go.jp/about_mof/councils/fiscal_system_council/sub-of_fiscal_system/report/zaiseia20251202/05.pdf
4 動画
陸上自衛隊「②若年定年制自衛官 准曹クラスのキャリアパス」(YouTube,令和7年12月26日公開)https://www.youtube.com/watch?v=tfiTp3bZgyc