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令和7年度司法試験国際関係法(公法系)第2問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した22項目と5段階の重み付け(AI作成)

第1 この記事の対象と結論

本記事は,令和7年司法試験の論文式試験のうち,選択科目「国際関係法(公法系)」の第2問を対象として,法務省が公表した「出題の趣旨」及び「採点実感」から答案の評価項目を抽出し,5段階で重み付けをした上で,それらの評価項目を満たす模範解答を示すものである。
問題文は令和7年司法試験論文式試験問題(選択科目)の35頁にある。

本問は,A国が領有するX島と本土との間の海峡(X海峡)を舞台に,国連海洋法条約上の通航権(設問1),国連海洋法条約の非締約国であるB国の軍艦の触雷による損害についてのA国の国家責任(設問2),締約国であるC国が国際海洋法裁判所に付託した場合の管轄権(設問3)を問うものである。
出題の趣旨によれば,海洋法,国家責任法及び慣習国際法と条約との関係という国際法の基本的分野の知識と理解を確認する問題である。

結論は,次のとおりである。
①設問1:X海峡は37条の国際海峡に当たるが,島の海側に同様に便利な航路があるため38条1項ただし書により通過通航は認められず,45条1項⒜の無害通航が適用され,その無害通航は同条2項により停止できない。
②設問2:A国が機雷を設置した証拠はないから,設置自体の責任は追及できない。B国は,ICJのコルフ海峡事件判決にならい,慣習国際法に基づき,A国が機雷の敷設を知りながら通告・警告をしなかった不作為の責任を追及することになる。
③設問3:両国とも国際海洋法裁判所を選択しているから,選択の相違は管轄権を否定する根拠にならない。A国は,C国自身が軍事的活動に関する紛争を除外する宣言をしていることから,298条3項によりC国はA国の同意なしに本件を付託できないと主張することになる。

公式資料から抽出できた評価項目は22項目である。
そのうち重み5(答案の骨格又は採点実感が評価の分かれ目とした事項)に当たるのは,45条2項の停止の禁止(番号6),A国の通告・公表義務と警告義務の指摘(番号10),その不作為の当てはめ(番号11)及び298条3項(番号19)の4項目である。
第5の模範解答は,論文式答案で広く使われてきた型(問題提起,規範の定立,当てはめ及び結論の順に書く型)で示し,その後に出題の趣旨・採点実感を踏まえた解説を付けている。

第2 評価項目の示し方と重み付けの基準

1 評価項目の示し方

評価項目は,本問の出題の趣旨(国際関係法(公法系)〔第2問〕の部分)又は採点実感(国際関係法(公法系)の「3 採点実感等」のうち第2問の部分である「⑵」)の記述から抜き出したものに限り,一つの項目に一つの判定対象だけを入れ,答案に何が書かれていれば満たすのかが分かる形に言い換えた。
各項目には,出題の趣旨と採点実感のどこに根拠があるかを,PDFの頁と見出しで示し,一方の資料に記載がない場合は「記載なし」,一般的な記述から導いたものは「間接」と表示した。
「記載なし」は,その資料の第2問に関する部分を全て読んだ上で該当する記述がなかったことを意味する。

公式資料の文章は,評価の強さを示す短い語句を除いて引用せず,根拠となる記述の趣旨を要約して示している。
番号15と番号21は,公式資料が誤り又は不十分な答案として挙げた事項を「〜しない」の形にした項目である。
番号12と番号13は,義務の根拠についての選択肢であり,いずれか一方を満たせば足りる。

採点実感の「⑶ 答案の水準と評価」と「4 法科大学院教育に求めるもの」は,第1問と第2問に共通する一般的な記述であり,本問の設問に結び付く具体的な指摘を含まないため,独立の評価項目にしていない(そのため「答案全体」の表は置いていない)。

2 5段階の重み付けの基準

重みは,公式資料の書きぶりの強さから本記事が付けたものであり,法務省の配点ではない。

①重み5:採点実感が「極めて少数」「一部の答案のみ」「少数の優れた答案」等と述べて評価の分かれ目とした事項,又は答案の骨格そのもの
②重み4:出題の趣旨が検討を求め,採点実感も取り上げた事項
③重み3:どちらか一方が明示する中核の理由付け
④重み2:一方が軽い表現で触れる補強の事項,又は典型的な誤りとして指摘された事項
⑤重み1:一方が控えめに触れるだけの事項

第3 本問の概要

A国の沿岸(基線)から20海里の地点にA国が領有するX島があり,諸国の船舶は,X島と本土の間のX海峡を航行することもあれば,X島から海側に12海里以上離れた水路を航行することもあった。
A国は,国連海洋法条約への加入の際に,外国の軍艦はA国の許可なくX海峡を航行できないとの宣言をし,紛争解決手段として国際海洋法裁判所を選択した上,領海を12海里,排他的経済水域を200海里とした。
その結果,X海峡は,A国の排他的経済水域の一部分と他の部分との間にあるA国領海内の海峡となった。

B国(非締約国)とC国(締約国。国際海洋法裁判所を選択し,298条1項⒝により軍事的活動に関する紛争を除外する宣言をしている)は,A国の宣言に抗議し,通航権を確認するために軍艦をX海峡に派遣したところ,両国の軍艦が機雷に触れて損傷し,乗組員に多数の死傷者が出た。
A国は機雷の設置を否定しており,設置の証拠はないが,A国はX海峡を厳格な監視下に置いており,何者かが機雷を敷設しようとすればA国に知られずに行うことはできなかった。

設問1は国連海洋法条約上X海峡で外国船舶に認められる通航権を,設問2はB国がA国の責任を追及する根拠として考えられる国際法上の主張を,設問3はC国が286条に従って国際海洋法裁判所へ付託した場合に管轄権を否定するためにA国が考えられる主張を,それぞれ問う。

第4 評価項目と重み

1 設問1(X海峡の通航権)

番号評価項目重み出題の趣旨採点実感
1国連海洋法条約37条(国際海峡の定義)を示し,X海峡が第3部第2節(通過通航)の適用される国際海峡に当たるかを論じる439頁〔第2問〕設問1(第3部第2節が適用される国際海峡に当たるか否かを論じることを求める)39頁3⑵設問1(多くの答案が37条の定義に触れた)
2地理的基準として,X海峡がA国の排他的経済水域の一部分と他の部分との間にあることを問題文の事実に当てはめる439頁〔第2問〕設問1(問題文の該当箇所を挙げて踏まえることを求める)39頁3⑵設問1(多くの答案が地理的基準を当てはめた)
3使用基準として,X海峡が国際航行に使用されていること(諸国の船舶の航行)を問題文の事実に当てはめる3記載なし39頁3⑵設問1(使用基準を当てはめたのは半数弱の答案)
438条1項ただし書(島の海側に同様に便利な排他的経済水域等の航路があるときは通過通航を認めない)を,X島の海側12海里以上の水路の事実に当てはめる439頁〔第2問〕設問1(問題文の該当箇所と38条に照らすことを求める)39頁3⑵設問1(多くの答案が38条1項ただし書に触れた)
545条1項⒜により,通過通航が除外される海峡には無害通航の制度が適用されることを示す439頁〔第2問〕設問1(45条に照らすことを求める)39頁3⑵設問1(多くの答案が45条1項⒜に触れた)
645条2項により,その無害通航は停止してはならないことを示す539頁〔第2問〕設問1(45条に照らすことを求める)39頁3⑵設問1(45条2項に触れる優れた答案は「極めて少数」)

2 設問2(B国によるA国の責任追及)

番号評価項目重み出題の趣旨採点実感
7B国は国連海洋法条約の非締約国であるから,A国とB国の関係は慣習国際法により規律されることを示す440頁〔第2問〕設問2(慣習国際法に基づく議論が必要とする)39頁3⑵設問2(この点に触れない答案も多かった)
8A国が機雷を設置した証拠はないから,機雷の設置自体についてA国の責任を追及することはできないことを踏まえる339頁〔第2問〕設問2(設置自体の責任は追及できないとする)記載なし
9A国がX海峡を厳格な監視下に置き,知られずに敷設できなかった事実から,A国が機雷の敷設を知っていたことを導く339頁〔第2問〕設問2(コルフ海峡事件判決の認定と問題文の事実を対応させる)記載なし
10A国が負う慣習国際法上の義務として,自国の領海内の航行上の危険(機雷の存在)を外国船舶に通告・公表する義務と,接近する軍艦に差し迫った危険を警告する義務を指摘する539頁〔第2問〕設問2(コルフ海峡事件判決の通告義務と警告義務)39頁3⑵設問2(的確に指摘したのは「一部の答案のみ」)
11A国が機雷の存在を知りながら通告・警告をしなかった不作為が義務違反となり,A国の国際責任を生じさせることを本問の事実に当てはめる539頁〔第2問〕設問2(何ら行動をとらなかった不作為が責任を生じさせたとする)39頁3⑵設問2(当てはめを適切に論じたのは一部の答案)
12義務の根拠として,領域使用の管理責任(自国領域を他国の権利に反する行為に知りながら使わせない義務)に依拠する(番号13との選択)439頁〔第2問〕設問2(同判決は義務を領域使用の管理責任などから導いたとする)39頁3⑵設問2(根拠として領域使用の管理責任に依拠する)
13義務の根拠として国連海洋法条約24条2項を参照する場合は,同項の慣習法性に言及する(番号12との選択)440頁〔第2問〕設問2(条約と慣習国際法との関係に留意するよう求める)39頁3⑵設問2(慣習法性に言及する必要がある)
14先例としてICJのコルフ海峡事件判決(1949年)を参照する439頁〔第2問〕設問2(同判決で争われたような問題とする)39頁3⑵設問2(優れた答案は先例として参照した)
15B国について,国連海洋法条約24条2項等の条約上の義務違反をそのまま追及しない340頁〔第2問〕設問2(B国は条約上の義務違反を追及できないとする)記載なし

3 設問3(国際海洋法裁判所の管轄権)

番号評価項目重み出題の趣旨採点実感
16286条を出発点とし,裁判所への付託に関する第15部第2節・第3節の構造を踏まえる440頁〔第2問〕設問3(286条に始まる第2節・第3節)39頁3⑵設問3(286条を出発点とすることを求める)
17A・C両国とも287条1項で国際海洋法裁判所を選択しているから,A国は選択の相違を根拠に管轄権を否定できないことを示す440頁〔第2問〕設問3(選択の相違を根拠とする主張はできないとする)39頁3⑵設問3(両国の選択を踏まえることを求める)
18C国の298条1項⒝に基づく宣言(軍事的活動に関する紛争を第2節の手続から除外)を指摘する440頁〔第2問〕設問3(C国の宣言を挙げる)39頁3⑵設問3(「非常に多くの答案」が触れた)
19298条3項(宣言国は,除外された種類の紛争を他の締約国の同意なしに付託できない)に依拠して,A国が管轄権を否定することを示す540頁〔第2問〕設問3(同項に依拠して管轄権を否定する主張が考えられるとする)39頁3⑵設問3(同条3項に触れたのは「少数の優れた答案」)
20選択的除外の宣言の効果が相互主義に依拠すること(ICJ規程36条2項の受諾宣言の留保の相互主義,ノルウェー公債事件)に触れる2記載なし39頁3⑵設問3(想起されたことは評価される)
21宣言の効果を,ICJ規程36条2項の相互主義やノルウェー公債事件を挙げるだけで説明し,298条3項に触れないままにしない2記載なし39頁3⑵設問3(それを挙げるにとどまる答案が多かった)
22本問の事実関係に即して,A国の立場から,本件紛争がC国の除外した軍事的活動に関する紛争に当たるとして管轄権を否定する主張を組み立てる3間接(40頁〔第2問〕設問3は同項に依拠した主張を示すが,該当性の中身は示さない)39頁3⑵設問3(本問の事実関係に即し,A国の立場から主張することを求める)

4 重みの分布

22項目の内訳は,重み5が4項目,重み4が11項目,重み3が5項目,重み2が2項目,重み1が0項目であり,重みの合計は83点である。
設問別では,設問1が6項目・24点,設問2が9項目・35点,設問3が7項目・24点である。
番号12と番号13は選択肢の関係にあるため,答案が両方を満たす必要はない。

重み5の4項目は,設問1の45条2項(番号6),設問2の通告・公表義務と警告義務の指摘及びその不作為の当てはめ(番号10・11),設問3の298条3項(番号19)であり,いずれも採点実感が,触れた答案を「極めて少数」「一部の答案のみ」「少数の優れた答案」とした事項である。
いずれも,条文の最後の項まで読むこと,又は判例の義務の内容を具体的に書くことで差がついた事項である。

第5 模範解答

1 答案の前提と表記

以下の答案は,第4の評価項目をすべて満たすように作成したものであり,試験の実施時(令和7年7月16日)の条約と,それまでに示された判例を前提にしている。
条文は,断りのない限り国連海洋法条約の条文である。

答案は,旧司法試験の時代から論文式答案で広く使われてきた型によっている。
見出しを「1」「(1)」の順に下げ,論点ごとに,問題提起(「〜が問題となる。」),規範の定立(「思うに,〜。よって,〜と解する。」),当てはめ(「本問では,〜といえる。」)及び結論(「よって」「以上より」)の順に書き,最後に「以上」と書く型である。
設問2と設問3は,問題文が指定したB国又はA国の立場から考えられる主張を組み立て,設問3では相手方の反論とその評価も示した。

答案の括弧書きで示した国際判例は,判決又は命令の本文で判示を確認したものに限った。
答案の字数は,改行と行頭の字下げを除いて2,486字である。

2 答案

1 設問1について
(1) 本問では,X島は基線から20海里に位置し,A国は領海を12海里としたから,X海峡は全域がA国の領海となり(3条,121条2項),海峡内に公海又は排他的経済水域(以下「EEZ」という。)の航路はない(36条は適用されない)。
 そこで,X海峡が第3部第2節の適用される国際海峡(37条)に当たるかが問題となる。
 X海峡は,A国のEEZの一部分と他の部分との間に位置するから,地理的基準を満たす。
 また,諸国の船舶がX海峡を現に航行しているから,国際航行に使用されているといえる(コルフ海峡事件ICJ判決〔1949年〕は,交通量ではなく地理的状況と国際航行への使用を決定的基準とした)。
 よって,X海峡は37条の国際海峡に当たる。
(2) もっとも,海峡が沿岸国の島及び本土から構成され,島の海側に航行上及び水路上の特性において同様に便利なEEZ等の航路があるときは,通過通航は認められない(38条1項ただし書)。
 本問では,X海峡はA国のX島と本土から構成され,X島から海側に12海里以上離れたEEZの水路を諸国の船舶が現に航行していたから,同様に便利な航路があるといえる。
 よって,X海峡には第2部第3節の無害通航の制度が適用され(45条1項⒜),その無害通航は停止してはならない(同条2項)。
 これは,沿岸国が安全の保護のため領海での無害通航を一時的に停止できる(25条3項)のと異なる,強化された無害通航である。
 仮に海側の水路が同様に便利といえなければ,全ての船舶が通過通航権を有し,その妨害・停止は許されない(38条1項,44条)。
(3) では,A国の宣言により軍艦の通航を許可制にできるか。
 軍艦も無害通航権を有する(17条,第2部第3節C款)。
 思うに,条約の規定の法的効果を自国について排除・変更する一方的声明は名称を問わず留保であり(条約法条約2条1項⒟),本条約は明示の許可のない留保を禁じ(309条),宣言による法的効果の排除・変更も認めない(310条)。
 よって,A国の宣言は通航権を制限する効果を持たないと解する。
 以上より,X海峡では,軍艦を含む全ての外国船舶に,停止されない無害通航権(予備的に通過通航権)が認められる。
2 設問2について
(1) B国は非締約国であるから,本条約はA・B間に適用されず(条約法条約34条),A・B間は慣習国際法により規律される。
 コルフ海峡事件判決は,平時において国家は,国際航行に使用される海峡を沿岸国の事前の許可なく軍艦で無害通航する権利を有するとした。
 本問では,A国の宣言はB国を拘束せず,B国の通航は,通航権の確認を目的としても,態様が無害である限り適法である(同判決)。
(2) A国が機雷を設置した証拠はないから,機雷の設置自体についてA国の責任を追及することはできない。
 領域を支配する事実だけでは,一応の責任も挙証責任の転換も生じないからである(同判決)。
(3) そこで,B国は,A国が機雷の存在を知りながら通告・警告しなかった不作為について責任を追及すべきである。
 同判決は,排他的な領域支配のため直接証拠を示し得ない被害国には間接証拠への広い依拠を認め,機雷の敷設を知る沿岸国は,領域使用の管理責任(自国領域を他国の権利に反する行為に使わせない義務),人道の基本的考慮及び海上交通の自由に基づき,自国領海内の機雷の存在を船舶一般に通告し,接近する軍艦に差し迫った危険を警告する義務を負うとした。
 A国は本条約24条2項の航行上の危険の公表義務も負うが,B国がこれを援用するには,同項が同判決の示した慣習国際法上の義務を反映していることを示す必要がある。
 本問では,A国はX海峡を厳格な監視下に置き,知られずに機雷を敷設することはできなかったから,A国は敷設を知っていたと推認できる。
 また,B国は派遣を事前に発表しており,A国は接近を予見できたのに,機雷の存在を通告せず,警告もしなかったから,これらの義務に違反する(国家責任条文2条)。
(4) よって,B国は,軍艦の損傷と乗組員の死傷について,A国に完全な賠償(金銭賠償)を求め得る(同条文31条,34条,36条)。
3 設問3について
(1) 本条約の解釈又は適用に関する紛争は,第3節の規定に従うことを条件として,第2節の裁判所に付託される(286条)。
 A・C両国とも287条1項でITLOSを選択しているから(同条4項),A国は選択の相違を根拠に管轄権を否定することはできない。
(2) そこで,A国は,第3節の298条に依拠し,ITLOSは管轄権を有しないと主張することが考えられる。
 C国は,298条1項⒝に基づき軍事的活動に関する紛争を第2節の手続から除外する宣言をしている。
 そして,同条3項は,宣言を行った締約国は,除外された種類の紛争を他の締約国の同意なしにいかなる手続にも付することができないと定める。
 これは,選択条項受諾宣言の留保を相手国も援用できるとする相互主義(ICJ規程36条2項,ノルウェー公債事件ICJ判決〔1957年〕)と同じ考え方を明文化したものである。
 よって,A国は,自らは宣言をしていなくとも,本件がC国の除外した種類の紛争に当たる限り,同意を拒んで管轄権を否定できる。
(3) では,本件は軍事的活動に関する紛争に当たるか。
 A国は,本件は,C国がA国の宣言に対抗して通航権を確認するために軍艦を派遣した示威行動と,兵器である機雷による死傷をめぐる紛争であるから,軍事的活動に関する紛争に当たると主張する。
 これに対し,C国は,ITLOS2019年5月25日命令(ウクライナ軍艦抑留事件)が,区別は活動の性質の客観的評価によるとし,軍艦の通航自体を一般に軍事的活動とはいい難いとした点を援用すると考えられる。
 A国は,同事件は法執行の文脈であったのに対し,本問は示威目的の派遣と兵器による死傷であると区別して反論することになる。
 もっとも,通航自体は全ての船舶に認められた権利の行使であるから,この主張が認められるかは微妙である。
以上

3 出題の趣旨・採点実感を踏まえた解説

(1) 答案と評価項目の対応

答案の1は第4の番号1〜6(設問1),2は番号7〜15(設問2),3は番号16〜22(設問3)に対応する。
重み5の4項目は,1(2)の45条2項(番号6),2(3)の通告・公表義務と警告義務及びその不作為の当てはめ(番号10・11)並びに3(2)の298条3項(番号19)に当たる。

(2) 設問1(X海峡の通航権)

出題の趣旨は,X海峡が第3部第2節の適用される国際海峡に当たるかを論じた上で,X海峡が排他的経済水域の一部分と他の部分との間にある海峡であるという事実と,X島の海側に12海里以上離れた水路があるという事実の両方を踏まえ,38条と45条に照らして通航権を論じることを求めている。
採点実感によれば,多くの答案は37条の定義と地理的基準に触れ,38条1項ただし書と45条1項⒜にも触れていたが,使用基準まで当てはめたのは半数弱,45条2項の停止の禁止に触れた答案は極めて少数であった。

答案は,地理的基準と使用基準を分けて当てはめ,使用基準については,交通量ではなく地理的状況と国際航行への使用を決定的基準としたコルフ海峡事件判決を示した。
その上で,X島の海側の水路を諸国の船舶が現に使っていることから「同様に便利」な航路があるとし,45条1項⒜の無害通航と同条2項の停止の禁止を導き,25条3項の一時停止との違いも示した。

もっとも,「同様に便利」かどうかは本来,航程,水深等の航行上・水路上の特性を比べて決まるところ,問題文はその比較の事実を示していない。
そこで答案は,同様に便利といえない場合には通過通航権が認められ,妨害・停止が許されないこと(38条1項,44条)も予備的に示した。

A国の加入時の宣言(外国の軍艦はA国の許可なく航行できない)の効力は,出題の趣旨・採点実感のいずれにも記載がない。
答案は,問題文の目立つ事実に応える補足として,名称を問わず条約の規定の法的効果を排除・変更する一方的声明は留保であり(条約法条約2条1項⒟),国連海洋法条約は明示の許可のない留保を禁じている(309条,310条)ことから,宣言は通航権を制限しないとした。

(3) 設問2(B国によるA国の責任追及)

出題の趣旨は,本問がコルフ海峡事件判決(1949年)で実際に争われたような触雷の国家責任の問題であり,A国が機雷を設置した証拠がない以上,設置自体の責任は追及できず,厳格な監視の事実から,どのような責任を追及できるかが問題になるとしている。
同判決は,機雷の敷設はアルバニアに知られずに行うことはできなかったとした上で,アルバニアは自国の領海における機雷の存在を船舶一般に通告する義務と,接近する英国軍艦に差し迫った危険を警告する義務を負い,警告する時間が十分あったのに何もしなかった不作為が責任を生じさせるとした。

採点実感は,B国が非締約国であることから,A国とB国の関係が慣習国際法によって規律されることに触れない答案も多かったとし,義務の根拠として,領域使用の管理責任に依拠するか,国連海洋法条約24条2項を参照する場合にはその慣習法性に言及する必要があるとした。
その上で,A国が負う航行上の危険の通告・公表義務を的確に指摘し,当てはめを適切に論じたのは一部の答案のみであり,これらの優れた答案は先例としてコルフ海峡事件を参照していたとしている。

答案は,まず条約法条約34条から慣習国際法による規律を示し,判決の判示(領域を支配する事実だけでは一応の責任も挙証責任の転換も生じないこと,排他的な領域支配のため直接証拠を示し得ない被害国には間接証拠への広い依拠が認められること)を使って,設置自体の責任から不作為の責任へと進んだ。
義務の根拠には,判決が挙げた三つの原則(領域使用の管理責任,人道の基本的考慮,海上交通の自由)を示し,24条2項については,B国が援用するには同項が判決の示した慣習国際法上の義務を反映していることを示す必要があるという形で触れた。
当てはめでは,厳格な監視からA国の認識を推認し,B国が派遣を事前に発表していたことからA国が軍艦の接近を予見できたことを,警告の義務違反の事情として使った。

B国の軍艦が「通航権を確認するために」派遣されたことについて,コルフ海峡事件判決は,不当に否定された権利を確認するための英国軍艦の通航も,その態様が国際法に合致する限り適法であるとした。
答案はこの点を1文で示した。

(4) 設問3(国際海洋法裁判所の管轄権)

出題の趣旨と採点実感は,286条を出発点とし,両国とも287条1項で国際海洋法裁判所を選択しているから,A国は選択の相違を根拠に管轄権を否定できないことを踏まえた上で,C国の298条1項⒝の宣言に依拠してA国の立場から主張することを求めている。
採点実感によれば,非常に多くの答案がC国の宣言に触れたが,その効果については,多くの答案がICJ規程36条2項の強制管轄権受諾宣言の留保に関わる相互主義とノルウェー公債事件を挙げるにとどまり,298条3項に触れたのは少数の優れた答案であった。
相互主義が想起されたこと自体は評価されている。

答案は,286条から書き始め,298条3項(除外の宣言をした締約国は,除外された種類の紛争を他の締約国の同意なしにいかなる手続にも付することができない)を中心に置き,それが選択条項受諾宣言の相互主義(ノルウェー公債事件では,ノルウェーがフランスの留保を相互主義により援用できるとされた)と同じ考え方を明文化したものであることを添えた。

本件が「軍事的活動に関する紛争」に当たるかについては,公式資料に記載がない。
答案は,A国の主張として,C国がA国の宣言に対抗して通航権を確認するために軍艦を派遣した示威行動と,兵器である機雷による死傷をめぐる紛争であることを挙げた。
これに対するC国の反論の根拠として,国際海洋法裁判所の2019年5月25日の暫定措置命令(ウクライナ軍艦抑留事件)を示した。
同命令は,軍事的活動と法執行活動の区別は主として活動の性質の客観的評価によるとし,軍艦の通航自体を一般に軍事的活動とはいい難いとし,通航制度の解釈の対立を核心とする紛争は軍事的性質のものではないとした。
そのため,答案は,A国の主張が認められるかは微妙であると評価した。

(5) 答案の弱点と扱わなかった事項

答案は2,500字以内に収めるため,設問2の救済を金銭賠償の一言にとどめ,被害国の地位(国家責任条文42条)や,乗組員の死傷が国家機関への直接の侵害であって外交的保護の要件を要しないことは書いていない。
設問3では,管轄権を否定するための主張として,本件紛争が条約の解釈又は適用に関する紛争ではないという主張(288条1項)や,意見交換の義務(283条)を尽くしていないという主張も考えられるが,公式資料に記載がなく,いずれも決定力が弱いため答案には入れていない。

設問1の「同様に便利」の認定は,諸国の船舶が実際に海側の水路を使っていたという事実からの推認であり,航程や水深の比較の事実が問題文にない以上,予備的な枝(通過通航)を残した。
設問2の24条2項の慣習法性は,答案では「反映していることを示す必要がある」という条件の形にとどめ,慣習法であると断定していない。

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1 同じ年度の司法試験の別の模範解答

①令和7年度司法試験公法系第1問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した40項目と5段階の重み付け(AI作成)
②令和7年度司法試験公法系第2問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した72項目と5段階の重み付け(AI作成)
③令和7年度司法試験民事系第1問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した96項目と5段階の重み付け(AI作成)
④令和7年度司法試験民事系第2問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した65項目と5段階の重み付け(AI作成)
⑤令和7年度司法試験民事系第3問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した75項目と5段階の重み付け(AI作成)
⑥令和7年度司法試験刑事系第1問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した59項目と5段階の重み付け(AI作成)
⑦令和7年度司法試験刑事系第2問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した51項目と5段階の重み付け(AI作成)
⑧令和7年度司法試験倒産法第1問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した38項目と5段階の重み付け(AI作成)
⑨令和7年度司法試験倒産法第2問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した28項目と5段階の重み付け(AI作成)
⑩令和7年度司法試験租税法第1問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した33項目と5段階の重み付け(AI作成)
⑪令和7年度司法試験租税法第2問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した43項目と5段階の重み付け(AI作成)
⑫令和7年度司法試験経済法第1問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した25項目と5段階の重み付け(AI作成)
⑬令和7年度司法試験経済法第2問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した25項目と5段階の重み付け(AI作成)
⑭令和7年度司法試験知的財産法第1問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した25項目と5段階の重み付け(AI作成)
⑮令和7年度司法試験知的財産法第2問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した35項目と5段階の重み付け(AI作成)
⑯令和7年度司法試験労働法第1問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した24項目と5段階の重み付け(AI作成)
⑰令和7年度司法試験労働法第2問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した33項目と5段階の重み付け(AI作成)
⑱令和7年度司法試験環境法第1問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した26項目と5段階の重み付け(AI作成)
⑲令和7年度司法試験環境法第2問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した28項目と5段階の重み付け(AI作成)
⑳令和7年度司法試験国際関係法(公法系)第1問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した19項目と5段階の重み付け(AI作成)
㉑令和7年度司法試験国際関係法(私法系)第1問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した30項目と5段階の重み付け(AI作成)
㉒令和7年度司法試験国際関係法(私法系)第2問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した29項目と5段階の重み付け(AI作成)
㉓令和7年度司法試験論文式試験の主要7科目の模範解答(AI作成)
㉔令和7年度司法試験論文式試験の選択科目8科目の模範解答(AI作成)

2 本問の模範解答と関連する山中弁護士ブログの記事

①直線基線はどこまで認められるか――低潮高地,内水化,無害通航及び外国軍艦(AI作成)
②日本の領海は何海里か-12海里,基線,接続水域,特定海域及び無害通航(AIリライト)
③令和8年度司法試験国際関係法(公法系)第2問の参考答案と予想される評価項目―難民該当性・反政府勢力への武器供与・ICJの管轄権(AI作成)
④令和8年度司法試験・国際関係法(公法系)第1問の参考答案と予想される評価項目――外交的保護、犯罪人引渡し、外交官の民事裁判権免除(AI作成)
⑤国際海峡の通航制度―通過通航,停止されない無害通航,外国軍艦と日本の特定海域(AI作成)

第7 出典及び確認状態

1 公式資料

①法務省「令和7年司法試験の実施について」
②法務省「令和7年司法試験問題」
③令和7年司法試験論文式試験問題(選択科目)
④法務省「令和7年司法試験の結果について」
⑤令和7年司法試験論文式試験出題の趣旨
⑥法務省「令和7年司法試験の採点実感」
⑦令和7年司法試験の採点実感(選択科目)

2 法令

①海洋法に関する国際連合条約(外務省・和文と英文)
②United Nations Convention on the Law of the Sea(国際連合)
③Vienna Convention on the Law of Treaties(国際連合)
④Statute of the International Court of Justice(国際連合)
⑤Articles on Responsibility of States for Internationally Wrongful Acts(国際法委員会,2001年)

3 裁判例

①国際司法裁判所 コルフ海峡事件(英国対アルバニア)本案判決(1949年4月9日)
②国際司法裁判所 ノルウェー公債事件(フランス対ノルウェー)判決(1957年7月6日)
③国際海洋法裁判所 ウクライナ軍艦3隻抑留事件(ウクライナ対ロシア)暫定措置命令(2019年5月25日)

4 確認状態

問題文は,上記③のPDFの35頁(国際関係法(公法系)〔第2問〕)を読んだ。
出題の趣旨は,上記⑤のPDFの39頁~40頁の国際関係法(公法系)〔第2問〕の部分を全て読んだ。
採点実感は,上記⑦のPDFの37頁~40頁(国際関係法(公法系))のうち,「1 出題の趣旨等」「2 採点方針」,「3 採点実感等」の冒頭と第2問の部分(⑵),「⑶ 答案の水準と評価」及び「4 法科大学院教育に求めるもの」を全て読んだ。
第4の表の頁は,いずれも上記⑤・⑦のPDFの頁である。

国連海洋法条約の条文は,国際連合の英文正文と外務省の和文(公定訳)で,3条,17条,19条,24条,25条,29条~31条,34条~39条,44条,45条,121条,279条~283条,286条~288条,293条,295条,297条~299条,304条,309条及び310条を確認した。
条約法条約は2条1項⒟,19条,21条,34条及び36条を,ICJ規程は36条を,国家責任条文は2条,4条,31条,34条,36条,39条及び42条を,いずれも国際連合の英文で確認した。
国家責任条文は条約ではなく,答案では慣習国際法を示す資料として引いた。

コルフ海峡事件判決は,国際司法裁判所のウェブサイトのPDFが自動取得の制限で開けなかったため,同PDFの本文を全文で掲載した法令データベース(lagen.nu)の本文で判示を確認し,国際航行に使用される海峡の通航権の判示が判決集28頁にあることを海洋法条約の注釈書(バージニア大学海洋法条約注釈)の引用で確かめた。
ノルウェー公債事件判決も同じデータベースの本文で確認した。
ウクライナ軍艦3隻抑留事件の暫定措置命令は,国際海洋法裁判所のウェブサイトのPDF(同裁判所の判例集2018~2019年283頁以下)の64項~77項を確認した。
同事件の附属書VII仲裁の先決的抗弁に関する判断(2022年)は本文を確認できなかったため,本記事では使っていない。