第1 本記事で整理する資料と対象
三井環元大阪高検公安部長の事件について、国会会議録では逮捕・起訴及び懲戒処分に関する政府の説明が確認できる。また、調査活動費の裏金流用疑惑や告発と逮捕の関係は、質問主意書と政府答弁書で取り上げられている。
本記事は、誰が、いつ、何について説明したかを一次資料に即して整理する。被疑事実や公訴事実に関する政府の説明、国会議員の指摘、裁判所の認定は区別される。以下に記載する国会答弁を、刑事判決の事実認定又は判決全文の代わりとして読むことはできない。
第2 平成14年の逮捕・起訴についての説明
1 4月22日の逮捕と4月26日の答弁
平成14年4月26日の衆議院法務委員会・森山法務大臣の答弁(発言5)は、4月22日に大阪地検が三井氏らを逮捕したと説明している。
大臣は、不動産取引に関連して虚偽の住民登録をし、登録免許税率の軽減に必要な証明書を取得したという被疑事実と、職権を乱用して前科調書を取得したという被疑事実を挙げた。また、情報を受けた大阪高検の内偵を経て大阪地検に捜査を指示し、罪証隠滅のおそれ等から令状を得て強制捜査に踏み切ったと説明した。
これは逮捕後の捜査段階における政府説明である。被疑事実の説明を、当該答弁の時点で有罪が確定していたという意味に読み替えることはできない。
2 5月10日の公判請求等と5月30日の公判請求
同年5月23日の参議院法務委員会・古田佑紀政府参考人の答弁(発言156)は、5月10日に電磁的公正証書原本不実記録・同供用、詐欺及び職権濫用で公判請求し、同日に別の収賄に関する事件で再逮捕したと説明する。
5月31日の衆議院法務委員会・森山法務大臣の報告(発言14)では、前日に収賄及び公務員職権乱用罪により公判請求したと報告された。異なる日付の起訴や再逮捕を、一回の手続としてまとめないことが必要である。
第3 本人の懲戒免職と監督責任の処分
1 三井氏の懲戒免職
5月23日の参議院法務委員会の発言158で、古田政府参考人は、三井氏について5月10日の公訴提起の前に、同日付で懲戒免職にしたと説明した。懲戒処分の時点と刑事公判の進行は別に確認される。
2 検事総長等の監督責任
5月31日の森山法務大臣の報告は、監督責任に関する処分として、大塚清明大阪高検次席検事を3か月間、俸給月額の10%の減給とし、原田明夫検事総長を戒告、東條伸一郎大阪高検検事長を1か月間、俸給月額の10%の減給とする旨が同日の閣議で決定されたと説明している。
同報告では、綱紀保持、人事評価の適正化、組織の再点検、前科照会の事実を事後に把握できるよう例規を改めることなども挙げられた。これらは国会で公表された当時の説明である。
監督者に対する懲戒処分を、調査活動費の不正流用について刑事責任が認定されたことと同一視することはできない。他の処分事例との比較は、平成14年5月以降の,検察官の懲戒処分事例を参照されたい。
第4 調査活動費について政府が説明したこと
1 経費の目的と適正執行に関する見解
平成20年4月4日付答弁書(答弁第233号)は、調査活動費を、検察庁の事件調査や情報収集等の調査活動のための経費と説明する。偽造領収書等による裏金流用の事例は承知していないとし、適正に執行されているとして、質問に挙げられた調査をする必要はないとの見解を示した。
平成14年5月23日の参議院法務委員会では、森山法務大臣が、指摘された告発の捜査・不起訴等を説明したうえで、検察庁全体について改めて調査を行ったわけではないとも答弁している(発言168)。適正執行という見解と、全ての支出を改めて調査したかという問いは区別する必要がある。
2 相互チェックと文書の保存
同委員会の発言170では、地方検察庁の支出に検事正だけでなく次席検事も実質的に関与させ相互チェックを図ること、会計手続上の書類に加え調査活動の具体的内容と決裁過程の記録の作成・保存を徹底することが説明された。
これは当時公表された管理方法である。この答弁だけで現在の運用や、過去の全ての支出の実態まで確認できるわけではない。
3 予算減少の理由と説明資料
平成20年4月15日付答弁書(答弁第270号)は、領収書等の証拠書類を整備して会計検査院の検査を受けていると説明した。予算減少については、調査方法等の見直しを平成11年度予算から反映したとし、見直しの検討経過を記載した文書は法務省として有していないとした。
平成22年1月29日付答弁書(答弁第9号)は、平成21年度予算額と平成22年度予算に計上された額を、それぞれ7511万8千円と説明する。減少の理由として、公安情勢の変化、調査方法の見直し、情報収集の多様化・効率化を挙げた。
予算額の減少という数字だけから、不正の存在又は不存在を確定することはできない。予算額と実際の支出額、使途、会計検査の具体的な範囲もそれぞれ別の確認対象である。
第5 告発の決意と逮捕の関係についての質問・答弁
平成20年4月7日提出の質問主意書は、三井氏が逮捕以前に実名で告発することを決意していたことを検察庁が把握していたかと質問した。同月15日の政府答弁は、その決意を検察当局は把握していなかったと承知していると回答した。
平成22年1月19日提出の質問主意書は、告発の決意と逮捕との関係について前政権の見解を新内閣にも問い直した。同月29日の政府答弁は、法と証拠に基づく逮捕であり、質問に示された関係はないと承知しているという説明を維持した。
このように、国会で関係が問われ、政府が否定する見解を示したことは確認できる。しかし、質問されたことだけで告発と逮捕の因果関係が裏付けられたことにはならない。また、政府の否定を、裁判所がその争点について判断した結果として紹介することもできない。
第6 資料を読む際に区別すべきことと関連記事
刑事裁判の事実認定や争点を検討するときは、実際の判決本文の該当箇所に当たる必要がある。質問主意書が報道や二審判決の内容を紹介している場合も、その紹介文は判決本文そのものではない。本記事では、刑事判決の認定内容・理由を国会資料から再構成していない。
黒川弘務東京高検検事長の賭け麻雀問題は別の行為と処分に関する記事である。本記事の処分事例や調査活動費の答弁を、黒川氏の事件の原因や同一の事実関係を示す資料として扱うことはできない。
公務員の守秘義務・取材対応・倫理規程は、検察官と報道機関の接触で整理している。内部告発に関する指摘があることと、接待、職権行使、情報提供など個別の行為の適否は、資料と適用規定に即して区別して検討する必要がある。