第1 恩赦願書を書く前に確かめること
個別恩赦を求めて願書を提出することを「出願」という。
本記事では,個別恩赦のうち復権を中心に,願書の理由欄と添付資料の組み立て方を説明する。
復権は,有罪の言渡しを受けたため法令の定めるところにより喪失し,又は停止された資格を回復するものであり,特定の資格についてだけ行うこともできる。
出願前に,資格を制限する法令,その制限が現在も続いているか,資格の回復後に必要となる登録等の手続を,根拠法令や所管窓口で確かめておく。
恩赦法9条・10条
平成28年3月31日付の法務省保護局総務課長の通知「恩赦上申事務規程の解説の送付について」(以下「平成28年解説」という。)は,上申権者が願書を受理するに当たり,刑法34条の2により刑の言渡しの効力が失われていないか,復権の出願については少年法60条1項に該当しないかなどを確認し,明らかに恩赦の出願ができないものは理由を付して本人に返戻すべきであるとしている。
これらに当たるかどうかも,出願の前に確かめておくとよい。
平成28年解説・第12条関係2
復権の出願は,刑の執行を終わり,又は執行の免除のあった後でなければすることができない。
保護観察に付されたことのある者は最後にその保護観察をつかさどった保護観察所の長に,その他の者は最後に有罪の言渡しをした裁判所に対応する検察庁の検察官に出願する。
特赦,特定の者に対する減刑及び刑の執行の免除については,出願先は恩赦法施行規則(以下「施行規則」という。)1条の2に,出願できる時期は施行規則6条に,それぞれ別の定めがある。
恩赦法施行規則1条の2・3条・6条・7条・恩赦の手続
第2 願書に記載する事項
1 施行規則9条の記載事項
施行規則9条1項は,願書に次の事項を記載するよう定めている。
① 出願者の氏名,出生年月日,職業,本籍及び住居
② 有罪の言渡しをした裁判所及び年月日
③ 罪名,犯数,刑名及び刑期又は金額
④ 刑執行の状況
⑤ 上申を求める恩赦の種類
⑥ 出願の理由
法人が出願する場合,①は法人の名称,主たる事務所の所在地及び代表者の氏名となる。
恩赦上申事務規程12条1項は,願書をできる限り恩赦願書(様式第8号)によらせるとしている。
平成28年解説は,様式第8号によらない願書であっても,施行規則9条1項の事項が漏れなく記載されていれば適法な願書として取り扱わなければならないとし,出願の理由は別紙を用いて記載しても差し支えないとしている。
恩赦法施行規則9条・恩赦上申事務規程・様式第8号・平成28年解説・第12条関係1・11
2 裁判と刑の執行状況を整理する
複数の裁判がある場合は,裁判ごとに分けて記載する。
裁判書や手元の納付資料を照合し,言渡日,確定日,仮納付日及び執行終了日を分けて控えておく。
平成28年解説は,願書の刑執行の状況欄には,出願者において判明している範囲で,罰金については刑執行終了の年月日等を記載するものとしている。
仮納付があるときはその経過も書き,執行終了日が分からなければ出願先に確かめる。
理由や添付資料の一覧を別紙にするときは,願書本体からそれぞれの別紙を特定できるようにする。
平成28年解説・第12条関係11
第3 復権の出願理由の書き方
1 資格制限と現在の支障をつなぐ
出願理由には,回復を求める資格,資格制限の根拠,現在できない業務,資格の回復後に予定することを順に書くと,どの支障について復権を求めているかが伝わりやすい。
業務分担を説明する場合は,どの工程を誰が引き継いでいるか,いつからそうなったかを具体的に書く。
資格の回復後の担当変更が検討段階にとどまるなら,検討中であることをそのまま記載する。
施行規則5条は,特定の資格についての復権の上申書には,回復すべき資格の種類を明記しなければならないと定めている。
本人の願書でも資格名と根拠条項を具体的に書いておけば,求める内容を上申権者が把握しやすい。
出願の理由を具体的に記載すべきことは平成28年解説(第12条関係11の(4))が示しており,令和元年10月22日付の法務省保護局総務課長の通知「即位の礼に当たり行う特別恩赦基準の事務処理について」(以下「令和元年事務処理通知」という。)第5の1も,その後の令和元年6月11日付の恩赦上申事務規程解説の同じ箇所を引いて,同じ趣旨を述べている。
恩赦法10条2項・恩赦法施行規則5条・令和元年事務処理通知・第5
2 理由欄の記載例
以下は,資格を要する業務の一部を同僚に引き継いでいる人を想定した架空の記載例である。
角括弧内は,資料で確かめられる本人の事情に置き換える。
私は現在,[担当業務]に従事しています。
[根拠法令・条項]による資格制限のため,担当案件のうち[資格を要する具体的な工程]は有資格の同僚が担当しています。
現在の業務分担は,所属長の事情説明書のとおりです(資料1)。
[資格名]について復権を受けた場合は,所管窓口で必要な登録手続を行う予定です。
勤務先では,登録後に私が当該工程を担当することを検討しています(資料1)。
第4 添付資料の組み立て方
1 本人確認・代理権の書類
施行規則9条1項は,願書に戸籍の謄本又は抄本を添付するよう定めており,法人の場合は登記事項証明書を添付する。
恩赦上申事務規程11条によれば,本人が外国人であるときは,戸籍の謄本又は抄本に代えて,住民票の写しその他の氏名,出生の年月日及び国籍等を証明する書類を添付する。
平成28年解説は,これらの証明書類はおおむね上申前6か月以内に作成されたものが適当であり,戸籍は抄本より謄本の添付が望ましいとしている。
また,平成28年解説は,恩赦の出願は本人自身が行うことが望ましいが代理人によっても可能であるとし,その場合は代理権限を証する書面を徴して恩赦上申書に添付するとしている。
恩赦法施行規則9条・恩赦上申事務規程11条・平成28年解説・第11条関係・第12条関係4
2 事情を説明する参考資料
恩赦上申事務規程12条2項は,「恩赦の出願に当たっては,情状に関する参考資料を提出させることができる。」と定めている。
中央更生保護審査会は,法務大臣に恩赦の申出をする場合には,あらかじめ,申出の対象となるべき者の性格,行状,違法な行為をするおそれの有無,その者に対する社会の感情その他の事項について必要な調査を行う。
事情に応じて,次のように資料を選ぶ。
恩赦上申事務規程12条・更生保護法89条・90条
① 仕事への影響は,業務分担や引継ぎを把握している担当者の事情説明書のほか,役員の就任・退任日は登記事項証明書,給与の支給実績は給与明細など,確かめたい事実に合った資料で示す。
② 謝罪や被害弁償の経過は,申出をした日,相手方の応答,その後に成立した合意や支払を分けて書き,示談書や領収書の写し等で裏付ける。
③ 事件後の取組は,何を始め,いつから継続しているかを日付のある記録で示し,支援機関の一般的な案内は支援の内容の説明にとどめ,本人の参加・受診は本人についての記録で示す。
添付一覧には,資料番号,書類名,作成者,日付又は対象期間及び本文のどの記述を裏付けるかを記載する。
同じ資料が複数の事実を裏付ける場合は,該当頁を明示すると照合しやすい。
平成28年解説は,願書の添付書類欄に情状に関する参考資料の標目を記載するものとしている。
推薦書や嘆願書は,作成者本人が自ら作成したものを添付する。
令和元年事務処理通知第5の2は,同一人物の筆跡と認められる多数の推薦書等が添付されていることもあるとして,願書の受理に当たり疎明資料等の作成の真正に注意するよう求めていた。
3 身上関係書と上申用の調査書
令和元年の御即位に伴う特別基準恩赦では,令和元年事務処理通知第4が,本人から出願があったときは恩赦願書の添付資料の一つとして身上関係書(別紙2(1))を本人から提出させ,これに基づいて情状等を調査して差し支えないが,提出させた場合はこれを上申書に添付するとしていた。
身上関係書の様式は,健康状態,学歴,職歴,家族,生計,罪を犯した後の状況,慰謝の状況等を本人が記載するものであり,記載しきれないときは身上関係書継続用紙(別紙2(2))を使うこととされていた。
この特別基準による本人の出願の期限は令和2年1月21日(3か月の延長枠は同年4月21日)であり,既に経過している。
現在の出願で身上関係書を求められるか,その様式はどうなるかは,出願先に確かめる。
即位の礼に当たり行う特別恩赦基準3項・令和元年事務処理通知・第4と別紙2
上申権者が作成する調査書(恩赦上申事務規程の様式第7号)は,中央更生保護審査会への上申書に添付する書類である。
復権の上申書には,判決の謄本又は抄本,刑の執行を終わり又は執行の免除のあったことを証する書類及び本人の行状等に関する調査書類を,上申権者が添付する。
これらは,本人が願書に添付する書類とは別の段階のものである。
恩赦法施行規則4条・恩赦上申事務規程10条・恩赦の調査書
第5 提出前と提出後に確かめること
提出前に,担当部署,宛名,提出方法,原本と写しの取扱いを出願先に確かめる。
平成28年解説によれば,刑務支所・拘置支所に収容されている者の事件や,保護観察所支部・検察庁支部の管内の事件では,願書の受理を支所又は支部で行わせて差し支えないが,その場合も願書の宛先は支所又は支部の長ではなく上申権者である。
願書と別紙の資料番号や日付は,資料本体と突き合わせる。
資料によって氏名の表記等が異なる場合は,その違いと理由を注記する。
願書と添付一覧の控えを残し,受理日を確かめる方法を窓口に尋ねておく。
平成28年解説は,願書を受理したときは受理印を明瞭に押して受理年月日を明確にするとし,これは施行規則8条の再出願の期間制限の起算日(願書を上申権者が受理した日)を確定するためであると説明している。
上申が理由のないときは,中央更生保護審査会から上申をした者に,上申をした者から出願者に,その旨が通知される。
施行規則8条により,本人の出願による上申が理由のないときは,その出願の日から1年を経過した後でなければ更に出願をすることができない。
平成28年解説は,これを同一案件についての再出願の制限とし,異なる種類の恩赦の出願には同条の適用はないとしている。
再び出願するときは,願書の付記欄に前回の出願の年月日を記載する。
恩赦法施行規則8条・10条・平成28年解説・第12条関係3・5・9・11
第6 関連記事
① 恩赦の手続は,出願先,出願できる時期及び審査の流れを扱う。
② 恩赦の調査書は,上申権者が作成する調査書(様式第7号)を扱う。
③ 令和元年の御即位恩赦における罰金復権の基準と最終結果は,令和元年の政令による復権と特別基準恩赦による復権を扱う。
④ 恩赦に関する記事の一覧は,恩赦に関する法令,通達及び関連記事をまとめている。
第7 出典
1 法令
① 恩赦法9条,10条及び12条(e-Gov法令検索,2026年11月8日確認)
② 恩赦法施行規則1条の2及び3条~10条(e-Gov法令検索,2026年11月8日確認)
③ 更生保護法89条及び90条(e-Gov法令検索,2026年11月8日確認)
2 法務省の資料
① 恩赦上申事務規程(昭和58年12月23日付の法務大臣訓令)10条~12条及び様式第8号
② 恩赦上申事務規程の解説の送付について(平成28年3月31日付の法務省保護局総務課長の通知)第11条関係及び第12条関係(PDF49頁~52頁)
③ 即位の礼に当たり行う特別恩赦基準(令和元年10月18日閣議決定)3項及び5項
④ 即位の礼に当たり行う特別恩赦基準の事務処理について(令和元年10月22日付の法務省保護局総務課長の通知)第4,第5及び別紙2