第1 懲戒事由があっても,処分の動機と影響を点検する
組合員の言動が就業規則の懲戒事由に当たる場合でも,処分の理由や時期,重さによっては不当労働行為になる。
君津学園事件で,千葉県労働委員会は,懲戒処分を行う必要性と所定の手続の履行を認めた上で,過去に遡った複数の行為をまとめて処分した経緯と労使関係を検討し,本件の懲戒処分は労働組合法7条1号及び3号の不当労働行為に当たると判断した。
本記事は,令和7年1月31日付けの同委員会の命令書を基に,その判断の筋道と,処分の前に労使が確認しておく資料を整理する。
労働契約法15条は,懲戒が,労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められない場合は,権利を濫用したものとして無効とする。
労働組合法7条1号は,労働者が労働組合の組合員であることや労働組合の正当な行為をしたことなどを理由とする不利益な取扱いを禁じ,同条3号は,労働組合の結成・運営に対する支配介入を禁じる。
処分を検討する際は,同じ事実関係について,懲戒の私法上の効力と不当労働行為の成否をそれぞれ確認する必要がある。
第2 千葉県労働委員会が審査した四つの処分
高校を運営する法人が,組合の執行委員長に停職14日間,別の組合員に停職10日間(いずれも令和3年5月12日付け),副執行委員長に停職14日間(同年7月6日付け),さらに別の組合員に譴責(同月1日付け)の各懲戒処分をした。
組合は,これらの処分が不当労働行為に当たるとして,千葉県労働委員会に救済を申し立てた(千労委令和3年(不)第2号)。
処分の対象とされた行為の大部分は,入試問題の作問の在り方や労務管理などに関する労使間の話合いの場における行為であった。
委員会は,組合が法人に話合いを求めたこと自体は非難されるべきものとはいえないとしつつ,上長を長時間にわたって一方的に問い詰めたり,侮辱的な発言をしたりした各行為は,反訳書及び音声データで確認する限り,学校内での上長への対応として社会通念上の許容範囲を超えたものであるとした。
各組合員の行為は就業規則に定められた懲戒事由に該当すると認められ(命令書第4の1(1)~(4),17頁~27頁),法人には懲戒処分を行う必要性があり,弁明の機会を与える等の所定の手続を経ていることから手続上の瑕疵もないとされた(命令書30頁)。
第3 不利益取扱いと支配介入をどう判断したか
1 7条1号の不利益取扱い
委員会は,懲戒処分は,事実確認に時間を要する,障害となる事由が存在するといった事情が無ければ,非違行為を認識した際に遅滞なく行うことが,法人の主張する秩序維持という目的に資するとした。
その上で,発生から相当の期間が経過した後の行為に対する処分は,職場の秩序維持という目的の趣旨からすると妥当性を欠くとした(命令書30頁~31頁)。
法人は,前教頭の心情に配慮して当時は処分を見送ったと主張したが,委員会は,法人が前教頭を守るために取った対応は録音を勧めたことしか確認できないとした。
また,法人が,組合員らに自らの行為が非違行為であると認識し得る形で注意や指導をしたとは認められず,非違行為の都度処分をした事実もないため,その都度処分をした場合よりも重い処分となったと思われ,懲戒処分の量定として相当性を欠くとした(命令書32頁)。
組合は,法人が2年以上隠し録音を続け,処分を重くする方向で処分時期を選択したと主張した。
委員会は,法人が労働委員会にあっせんを申請するなど,労使関係の改善に向けて努力していなかったとまではいえないとして,当初からそうした目的で録音を続けたとは認めなかった。
ただし,あっせんが打切りになったことなどもあり,その後の処分を検討する際に,あっせん打切り前の行為も処分対象事由に加えたのではないかとした(命令書32頁~33頁)。
委員会は,執行委員長の就任と校長の赴任の頃から労使関係が悪化していった経過も踏まえ,直近の行為だけでなく過去に遡った複数の事案をまとめて処分したのは,職場の秩序維持だけでなく,組合員であったことも理由であったと認めた。
結論として,懲戒処分の必要性と不当労働行為意思とが競合的に存在したと認めた上で,不当労働行為意思が決定的動機となって処分が行われたとし,労働組合法7条1号の不利益取扱いに当たると判断した(命令書31頁~33頁)。
2 7条3号の支配介入
委員会は,懲戒処分のように行為そのものには反組合的な性質を含まないものについて支配介入が成立するためには,使用者が,組合弱体化や反組合的な結果を生じ,又は生じるおそれがあることを認識し,認容していたことが必要であるとした。
その上で,労使関係が悪化する中,組合の執行委員長,副執行委員長及び団体交渉に出席していた組合員に停職を含む懲戒処分を行えば,組合活動を萎縮させることは法人にとって容易に認識できるとした。
それでもなお過去の行為に遡って処分の対象とし,停職10日間ないし14日間の処分をしたことから,認識及び認容があったと認め,同条3号の支配介入に当たると判断した(命令書34頁)。
第4 処分前に労使が確認する資料
以下は,本命令の判断を踏まえた,記録の残し方についての実務上の整理である。
使用者側は,行為の日付,報告を受けた日,その後に行った事実確認や注意・指導,処分決定日を時系列で並べる。
事実確認に時間を要した場合や処分の障害となる事由があった場合は,その理由と当時の措置を残す。
複数の行為を処分理由に含めるときは,過去の行為を取り上げる理由と,直近の行為だけで選ぶ処分との違いを説明できるようにする。
同種の事案があれば,組合員かどうかにかかわらず処分基準を同じように用いているかも点検する。
組合側は,要求事項と発言の態様を分け,録音・反訳,団体交渉の申入書と議事録,注意・指導の記録,処分通知書を突き合わせる。
処分時期と団体交渉・あっせんの経過,対象となった組合員の役割,処分が組合活動に与えた影響を具体的に示すと,どの事実が不利益取扱い又は支配介入の主張を支えるかが明確になる。
行為の発生から時間が経ったことや事前の注意・指導がなかったことは,本命令では処分の妥当性と量定の相当性を検討する事情とされたものであり,各事案の経過と併せて評価する必要がある。
第5 救済の内容と命令の位置付け
千葉県労働委員会は,停職処分を受けた3人について,処分をなかったものとして取り扱い,処分が無ければ受けるはずであった賃金及び賞与の相当額を支払うこと,その算定に当たって組合と直ちに誠実に協議することを命じた。
譴責についても,処分をなかったものとして取り扱うよう命じ,さらに,命令書受領の日から1週間以内に,各懲戒処分が不当労働行為と認定されたこと等を記載した文書を組合に交付するよう命じた(命令書1頁~2頁,34頁)。
ここで取り上げたのは,令和7年1月31日付けの千葉県労働委員会の初審命令である。
千葉県労働委員会の労働委員会年報(令和7年)によると,使用者は令和7年2月14日に再審査を申し立て,年報の記載時点では中央労働委員会に係属していた(中労委令和7年(不再)第3号)。
再審査の結果によっては,本命令の判断が変更されることがある。
第6 出典・関連記事
千葉県労働委員会・千労委令和3年(不)第2号命令書(令和7年1月31日)
厚生労働省・労働委員会命令データベース「君津学園不当労働行為審査事件(概要情報)」
千葉県労働委員会「労働委員会年報(令和7年)」第2章第4節(再審査・行政訴訟事件)30頁
労働組合法(e-Gov法令検索)
労働契約法(e-Gov法令検索)
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