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平成22年司法試験刑事系第2問(刑事訴訟法)の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した34項目と5段階の重み付け(AI作成)

第1 この記事の対象と結論

平成22年新司法試験の刑事系科目第2問(刑事訴訟法)について,法務省の出題の趣旨と採点実感を読み,34の評価項目と模範解答を示す。
設問1では,ごみの領置・復元と,押収した携帯電話の消去データの復元・分析を扱う。
設問2では,おとり捜査と秘密録音を検討した上で,反訳書全体,実際の会話,乙による会話後の説明の順に証拠能力を検討する。

本稿の答案では,捜査①・②は対象と方法が限定され,捜査③は当初の令状で審査された目的・対象に沿う範囲で適法とした。
反訳書は作成者Kによる真正の立証を要し,直接会話と会話後の説明は,その会話の存在と内容を立証する際の証拠の使い方に応じて採否を分けた。

資料対象該当頁
問題刑事系科目第2問PDF第5〜9頁
出題の趣旨刑事系科目第2問PDF第7〜9頁(第2問の部分)
採点実感刑事訴訟法PDF第23〜26頁

第2 評価項目の示し方と重み付けの基準

重みは,本問の検討で各項目が果たす役割を示す記事独自の基準である。
法務省の公式採点基準や配点,得点の推計とは区別する。

重み基準
5その設問の判断を大きく分ける核心
4結論を理由付きで支える主要な論証・当てはめ
3通常押さえる法的処理・事情の評価
2論証を補強する説明・個別事情・誤りの注意
1補充的な引用・記述範囲の確認

評価項目の番号は記事全体の通し番号である。
資料欄の「間接」は,その箇所の一般的な指摘を本項目に関連付けたことを示す。
適法性や証拠能力の判断が複数あり得る箇所では,採用した立場の規範,当てはめ及び法的帰結を評価する。

第3 本問の概要

1 問題文と事実関係

組織的なけん銃の密売を調べる司法警察員Pらは,甲が公道上の集積所に出したごみ袋を持ち帰り,その中のメモ片を復元した。
翌日には,甲のマンション敷地内の専用集積所に立ち入り,現場で袋内を確認してメモ片を持ち帰り,復元した。
Pは乙に甲との取引を申し込ませ,両者の通話と対面会話,それぞれに続く乙の説明を録音した。

乙が死亡した後,Pらは許可状に基づき乙の携帯電話を押収し,消去されていた発着信歴を復元・分析した。
丙女方で事情を聴いていた際,Pらが持参した乙の携帯電話に,甲の番号から着信があった。
Pは丙女の同意を得て応答してもらい,乙の携帯電話の録音機能で会話を記録した。
司法警察員Kは,ICレコーダーと携帯電話の録音を再生して反訳した。

2 設問が求めること

設問1は,捜査①から③の適法性を具体的事実に即して論じる。
捜査②では立入りと内容確認・領置を分け,捜査③では当初の押収と復元・分析を分けて,別個の令状の要否まで示す。

設問2は,前提となる捜査の適法性を含め,Kの捜査報告書の証拠能力を論じる。
検察官の立証趣旨は,本件けん銃譲渡に関する甲乙間及び甲丙女間の会話の存在と内容であり,弁護人は不同意である。
答案の到達点は,この用途における記載部分ごとの採否である。

第4 評価項目と重み

1 設問1・捜査①

番号評価項目重み出題の趣旨採点実感
1遺留物の領置に令状が要らない理由を,占有取得過程に強制がないことから説明する。4PDF 8頁「占有取得の過程に強制の要素」PDF 24頁(間接)「遺留物の領置として」
2遺留物に,占有者が自ら占有を放棄し支配を離脱させた物が含まれると定義する。3PDF 8頁「遺失物より広い概念」PDF 24頁(間接)「刑事訴訟法第221条」
3捜査①の排出・現認・公道上の置場を踏まえ,甲及び収集側の占有との関係で袋の遺留物性を判断する。4PDF 8頁「ごみ袋を置いたのを現認」PDF 23頁「公道上のごみ集積所」
4占有の放棄と区別して,通常の収集過程でごみの中身を見られないという期待の権利性と,本件での要保護性を検討する。5PDF 8頁「プライバシー権として権利性」PDF 23頁(間接)「遺留物の領置」
5捜査①の必要性を,重大なけん銃密売の組織性・巧妙さと通常の方法では証拠を得にくい事情から論じる。4PDF 8頁「組織的に,かつ,巧妙な手段」PDF 23頁「けん銃の組織的な密売事件」
6捜査①の手段の相当性を,通行人等が接触し得る置場と,現認した甲の袋に限った持帰りから論じる。4PDF 8頁「他者が拾うことも予想される」PDF 25頁(間接)「具体的事実を的確に抽出」
7袋・メモ片の取得と内容確認・裁断片の復元を区別し,秘匿利益と処分の必要性を評価する。3PDF 7頁(間接)「メモ片を持ち帰り」PDF 23頁「押収物についての必要な処分」

2 設問1・捜査②

番号評価項目重み出題の趣旨採点実感
8捜査②で,管理者の同意なしに敷地内の専用倉庫へ立ち入った行為の法的意味を,ごみの領置と分けて論じる。5PDF 8頁「管理者の同意なしに」PDF 24頁(間接)「マンション敷地内」
9倉庫の専用性と,居住棟から離れ無施錠で誰でも出入りできる実態を対置して,立入りの侵害程度を評価する。4PDF 8頁「その出入口は施錠されておらず」PDF 25頁(間接)「事実が持つ意味」
10捜査②で,専用置場への排出後の支配と中身を見られない期待を,公道上の捜査①と比べて評価する。4PDF 8頁「捜査①との違いを意識」PDF 23頁(間接)「個々の事例中」
11捜査②で現場確認が先,メモ片の領置と復元が後である順序を守り,手段の限界を示す。3PDF 7頁「ごみ袋から発見したメモ片」PDF 24頁(間接)「投棄したごみ袋」
12捜査②の必要性・相当性を,既に発見した同種メモと甲が排出した一袋への限定から評価する。3PDF 8頁「ごみの領置の必要性及び」PDF 25頁(間接)「個々の具体的な事実関係」

3 設問1・捜査③

番号評価項目重み出題の趣旨採点実感
13携帯電話の押収とは別に,復元・分析が当初の令状の効力内か,別個の令状を要する新たな侵害かを立てる。5PDF 8頁「別個の令状を必要とするか」PDF 24頁「当初の令状の効力として」
14押収物についての必要な処分と独立の検証の境界を示し,当初の令状の対象・目的と裁判官の審査に結び付ける。4PDF 8頁「令状裁判官の審査」PDF 23頁「押収物についての必要な処分」
15消去によって見えなくなった端末内の既存データを可視化する作業と位置付け,原データの破壊・改変や新規情報の取得と区別する。4PDF 8頁「破壊,改変等」PDF 24頁「データを復元・分析」
16対象が発着信歴であること,消去・私生活や通信関係,電話による取引,乙の死亡等から復元範囲と必要性を評価する。4PDF 8頁「具体的事実の分析」PDF 24頁「新たな権利侵害」

4 設問2・おとり捜査

番号評価項目重み出題の趣旨採点実感
17協力者を使って相手方に犯罪実行を働き掛ける捜査を,おとり捜査と定義する。3PDF 8頁「おとり捜査の意義を定義」PDF 23頁(間接)「おとり捜査や秘密録音」
18おとり捜査の適否を,機会提供型・犯意誘発型という呼称だけで決めず,必要性・補充性と働き掛けの相当性で判断する。5PDF 8頁「必要性・補充性」PDF 25頁(間接)「おとり捜査や秘密録音」
19顧客を暴力団関係者に限る組織的密売の態様から,通常の方法で摘発することの困難と本件手法の補充性を示す。4PDF 8頁「必要性・補充性」PDF 23頁(間接)「けん銃の組織的な密売事件」
20乙との過去の価格交渉と今回の具体的な申込み・応答から,甲の既存意思及び働き掛けの強さを評価する。4PDF 9頁「けん銃譲渡の働きかけ」PDF 23頁(間接)「おとり捜査や秘密録音」

5 設問2・秘密録音

番号評価項目重み出題の趣旨採点実感
21同意した会話当事者の支配下にある会話を録音する場合と,双方の同意を欠く傍受の相違を,会話の秘密の要保護性から説明する。5PDF 9頁「相手方の支配下」PDF 23頁(間接)「秘密録音」
22録音①につき,乙が通話相手として同意したことと乙側のICレコーダー接続を具体的に評価する。3PDF 9頁「録音①,②及び③」PDF 23頁(間接)「秘密録音」
23録音②につき,乙の同意と喫茶店で隣席から当該対話を録音した態様を具体的に評価する。3PDF 9頁「それぞれの状況」PDF 23頁(間接)「秘密録音」
24録音③につき,甲の突然の着信,丙女の同意と応答,押収端末の使用及びPの関与を踏まえて必要性・相当性を評価する。4PDF 9頁「それぞれの状況」PDF 23頁(間接)「秘密録音」

6 設問2・反訳書と会話

番号評価項目重み出題の趣旨採点実感
25検察官の指定した会話の存在と内容を一つの要証事実として固定し,証拠の使用目的をすり替えない。5PDF 9頁「会話の存在と内容」PDF 24頁「設定した立証趣旨を勝手に分断」
26Kが再生して反訳した報告書全体は,検証結果書面に準じ,Kの公判供述による真正立証を要すると論じる。5PDF 9頁「検証の結果を記載した書面に類似」PDF 24頁「捜査機関による検証に準じて」
27報告書全体の真正と,直接会話・会話後の説明それぞれの原供述に関する伝聞判断を別の層に置く。4PDF 9頁「これらの部分の証拠能力」PDF 25頁「会話部分及び説明部分とを分けて」
28報告書1⑴・2⑴・3の直接会話は,その内容の発言が交わされた事実を示すために使う限り非伝聞と論じる。5PDF 9頁「会話の存在を立証する」PDF 24頁「そのような内容の会話が存在」
29直接会話の価格提示・応諾,りんごとの同送や代金請求への言及を,発言事実から取引との関連を推認する具体例として示す。3PDF 9頁「なされたこと自体を証明」PDF 24頁(間接)「会話の主体によって会話を分断」

7 設問2・会話後の説明

番号評価項目重み出題の趣旨採点実感
30報告書1⑵・2⑵の乙の事後説明は,同じ会話の存在・内容を示すには説明の真実性に依存するので伝聞と論じる。5PDF 9頁「乙が知覚・記憶し,説明」PDF 24頁「後者だけが内容の真実性」
31乙の死亡を,刑訴法321条1項3号の供述不能に対応させる。3PDF 9頁「乙の死亡」PDF 24頁(間接)「証拠能力の有無を検討」
32聞き取れない直接会話の部分が,犯罪事実の存否を証明するために乙の説明を不可欠とするかを具体的に検討する。4PDF 9頁「けん銃という言葉など聞き取れない」PDF 24頁「犯罪事実の存否の証明には欠くことができない」
33直後の連続した説明と直前会話との整合を,特に信用すべき情況の根拠として評価する。4PDF 9頁「直前の会話内容と整合」PDF 24頁「会話に引き続いて一体」
34乙方でけん銃2丁とりんご入りの開封済み宅配箱が発見された事情を,説明の具体性・整合性の外部的裏付けとして評価する。4PDF 9頁「発見されたけん銃2丁」PDF 24頁「客観的状況とも整合」

8 重みの分布

評価項目は34件,重みの合計は136である。

重み項目数
10
20
39
416
59
合計34

9 重み5の事項

番号4は,占有放棄後も残る内容秘匿への期待を評価する項目である。
番号8は,敷地内への立入りの適法性を領置から分ける項目である。
番号13は,消去データの復元が当初の令状の効力に含まれるかを決める。

番号18は,おとり捜査の必要性・補充性と働き掛けの相当性を問う。
番号21は,片方が同意した録音と双方の同意がない傍受を分ける。
番号25は要証事実を固定し,番号26は反訳書全体の真正を扱う。
番号28と30は,直接会話と会話後の説明が真実性に依存するかをそれぞれ判断する。
以上の9項目は,採用する結論を問わず,該当する判断の分岐を説明する項目である。

第5 模範解答

1 答案の前提と表記

平成22年の試験実施時の法令・判例を基準にし,刑事訴訟法を「法」と表記する。
端末のデータの復元・分析は,当初の押収目的の範囲にあるかを検討し,録音の証拠使用は検察官が指定した立証趣旨の範囲で判断する。

2 答案

第1 設問1

1 捜査①

(1)刑事訴訟法(以下「法」という。)221条の遺留物を令状なく領置できるのは,取得の際にそれまでの占有者の支配を強制的に排除しないからである。
したがって,遺留物には,遺失物のほか,占有者が自ら事実上の支配を放棄した物も含まれる。
甲は不要物を入れた袋を組事務所前の公道上のごみ集積所に出した。
甲が回収に備えて支配を残した事情はなく,処分のために占有を放棄したと認められる。
収集が予定されていても,廃棄物を処理するための予定にとどまり,収集者が現に袋を排他的に支配していた事情もないから,遺留物性を否定しない(最決平成20年4月15日参照)。

(2)占有放棄後も,通常の収集の過程で袋の中身を見られないという期待には,内容に個人の生活等が表れる限り,プライバシーとして保護すべき面がある。
そこで,その期待の具体的な要保護性と,捜査の必要性,対象・方法の相当性を検討する。
本件は重大なけん銃の組織的密売であり,取引相手を暴力団関係者に限り,電話交渉と別所からの発送を用いるため,内偵だけでは証拠の入手が困難であった。
一方,公道上の集積所は通行人が接触し得る場所であり,収集まで中身に誰も接触しないことへの期待の要保護性は相対的に低い。
Pらは甲が袋を置くのを現認し,その一袋に対象を限って持ち帰ったのであり,領置の方法は相当である。

(3)袋内の確認と裁断片の復元は,持帰りとは異なる利益を制約する。
裁断は内容の秘匿意思を示すが,法222条1項が準用する111条1項・2項によれば,押収物についてその証拠価値を確認するために必要な処分を行える。
甲が密売責任者との情報を得ていたPらが,当該袋を確認し,日付・数字等から取引記録である可能性が認められた片に対象を絞って復元したことは,上記の必要性に照らして相当である。
よって,捜査①は適法である。

2 捜査②

(1)管理者の同意なしにマンション敷地内の専用倉庫に立ち入ったことは,袋の占有とは別に管理者等の場所に対する利益を制約する。
法197条1項ただし書にいう強制処分に当たるかは,有形力の有無だけで決まらず,意思を制圧し,重要な利益を実質的に制約して捜査目的を実現する態様かで判断する(最決昭和51年3月16日参照)。
専用施設であることは第三者の立入りを予定しない方向に働くが,倉庫は居住棟から離れ,無施錠で誰でも出入りでき,居住部分には立ち入っていない。
立入りに同意があったとはいえないものの,集積所に入り,甲の袋に対象を限る態様は,重要な管理利益を実質的に排除する程度には至らない。
重大な密売に関して前日の捜査①で同種のメモ片を発見しており,今回も甲が置くのを現認していたから,対象を絞った立入りは法197条1項本文上相当である。

(2)Pらは現場で袋内を確認した後にメモ片を持ち帰ったから,先行する確認には独自の根拠が要る。
専用の集積所に出された生活ごみでは,公道上の袋に比べ,中身を外部者に見られない期待の要保護性は高い。
もっとも,袋は処分される状態で置かれ,無施錠の倉庫で第三者の接触を排除する措置もなく,取引記録を求め甲の袋だけをその場で確かめた行為は,上記の必要性に照らして任意捜査の限界内にある。
排出によって甲は袋への事実上の支配を放棄し,収集側による現実の排他的な支配も認められないから,発見したメモ片は法221条の遺留物である。
関係する片に限った領置と,その後の復元も,捜査①と同様に必要かつ相当であり,捜査②は適法である。

3 捜査③

 端末の押収と,その端末に残る消去データの復元・分析とは別に検討する。
法218条1項,219条1項による令状は,裁判官が審査した被疑事実・対象に即して効力を持つ。
適法に押収した物について,法222条1項が準用する111条1項・2項により,押収目的を実現するために必要な処分を行える。
当初の令状の対象・目的を実質的に外れる調査や,その令状で正当化できない新たな権利侵害を伴う調査は,この必要な処分には含まれない。
その調査が強制処分に当たる場合は,検証等のため別個の令状を要する。

 消去により通常の操作では見えなくなった内部記録を,元のデータを破壊・改変することなく読める状態に戻す作業は,既存の記録を確認する手段である。
一方,消去された発着信歴の復元は,画面に現れている記録の閲覧より深く乙と通話相手の私生活・通信関係に立ち入る。
そこで,復元・分析が,裁判官による当初の審査に含まれ得る対象と目的に即したものかを検討する。

 当初の令状は,甲によるけん銃譲渡を被疑事実とし,乙の携帯電話を対象としていた。
甲乙間の交渉に電話が用いられており,その内部の通話履歴は,相手方や取引の連絡経過を特定する証拠となり得る。
乙の死亡により本人から事情を聴けず,送り状の記載だけでは甲との結び付きを確認できず,通常の操作では発着信歴が見られなかったので,直ちに科捜研でこれを復元する必要も大きい。
本問で示されるのは端末内の発着信歴の復元・分析であるから,既存データを可視化し,譲渡事件に関係する履歴の確認に必要な範囲で行ったと解する限り,当初の令状の効力内にあり,捜査③は適法である。

第2 設問2

1 報告書に先立つ捜査の適法性

(1)捜査機関又はその依頼を受けた協力者が,身分や意図を秘して犯罪の実行を働き掛け,相手方が応じて実行したところを検挙するのがおとり捜査である。
取引に応じるかは甲が決められ,強制処分には当たらない。
もっとも,警察が犯罪を作り出す危険があるため,法197条1項本文の下で,通常の捜査手段では摘発が困難か,他の手段で足りるか,働き掛けの程度が相当かを,従前の犯意を含めて検討する。

 組織的密売の相手は暴力団関係者に限られ,電話と宅配で秘密裏に取引されており,張込みとメモの分析だけでは具体的な譲渡の把握が困難である。
以前から交渉していた乙に再交渉を依頼する方法には,通常の内偵を補う必要があった。
乙には甲への敵意があるが,甲との以前の交渉は価格が折り合わず終わっており,乙は従前の交渉を再開する申込みをした。
甲は従前の価格を維持して,組の方法で発送することを提案したのであり,乙が新たな誘因や圧力で意思を作り出した形跡はない。
よって,重大な密売を捜査するための働き掛けとして適法である。

(2)会話を無断で記録されない利益や,通話の場合は通信の秘密に配慮を要する。
他方,話者は会話の内容を自ら相手方の認識・支配に置いており,相手方が同意する録音は,双方が知らないところで回線から通話を取得する場合に比べ,秘密の要保護性が低い。
録音対象と方法によっては新たな制約を生じ得るので,重要な利益を実質的に制約する態様か,任意捜査であれば必要かつ相当かを具体的に判断する。

 録音①は,通話当事者の乙の同意の下で,乙の携帯電話にICレコーダーを接続して甲との通話を記録したものである。
録音②は,乙の同意の下で,Pが喫茶店の隣席から取引の会話に対象を限って記録したものである。
録音①・②のうち甲との会話部分は,いずれも乙が対話当事者として受け取った会話を対象とする。
隠密な交渉の内容を正確に保全する必要に照らし,任意捜査として相当である。
乙自身の説明の録音も,本人の承諾を得て各会話の直後の説明に限っており,録音自体は適法である。

(3)録音③でPが用いたのは乙の押収端末であるが,端末の押収令状が新たな通話の収録まで許すものではない。
本件では甲から突然着信し,丙女は応答と録音に同意した上で,現に甲の対話相手となった。
丙女が乙の死亡と自分の立場を告げた後も,甲は自ら代金の支払を求め続けた。
Pが機器を操作し,途中で待合せを決めるよう促した点を考慮しても,相手方の同意があるその一回の取引関係の通話を記録したもので,強制処分に当たらない。
突発的な機会に譲渡の相手方・経過を確かめる必要があり,対象と方法も限定され,法197条1項本文により適法である。
以上の捜査の違法を理由に本件報告書を排除すべき事情はない。

2 反訳書の証拠能力

(1)弁護人は不同意であり,法326条1項による採用はできない。
司法警察員Kは,録音機器を再生して聞き取った内容を反訳した。
録音自体と,Kが聞き取った結果の記載は別であり,報告書全体は五官で観察した結果の記載として検証調書に類する。
そこで法321条3項に準じ,Kを公判で尋問し,真正に作成されたことを供述させることを要する。
音源の同一性,話者,反訳の対応を確かめた上で,直接会話と会話後の説明の証拠能力をそれぞれ検討する。

(2)立証趣旨は,本件けん銃譲渡に関する甲乙間及び甲丙女間の会話の存在と内容である。
報告書1⑴・2⑴・3をその内容の会話が交わされたこと自体の証明に用いる場合,話者の述べた事柄が真実であることを要しない。
例えば,甲が条件を提示し乙が応じたことから合意を,甲がりんごとの同送に言及して300万円を請求したことから本件取引との結び付きを推認できる。
この推論は,甲の述べた到着が真実だと認定することとは区別できる。
したがって,これらの部分はこの用途では法320条1項の伝聞証拠に当たらず,報告書の真正が立証されれば証拠能力がある。

(3)報告書1⑵・2⑵は,乙が先に交わした会話を説明した部分である。
同じ立証趣旨で先の会話を証明するには,乙が知覚・記憶した会話を正確に説明したことが必要であるから,伝聞に当たる。
署名又は押印のある録取書とは異なるが,乙本人の発声が機械的に固定され,原音と反訳の対応が証明されれば,供述の同一性を確かめられる。
そこで,法321条1項3号に準じて採否を判断する。
乙は死亡しており,公判で供述できない。

 1⑴は翌日の会合の約束を直接聞き取れる一方,目的物を示す語に聞き取れない箇所があり,1⑵は当初からけん銃を対象として交渉した経緯を明示する。
2⑴でも2丁の場合の総額部分と,受領後に何を渡すかを示す語が聞き取れず,2⑵はけん銃2丁,総額300万円,りんごとの同送等を明示する。
被告人が譲渡を否認する本件で,1⑵のうち最初の交渉の目的物をけん銃と特定する部分と,2⑵のうち合意の目的物・数量・総額等を明らかにする部分は,直接会話や他の証拠で補えない限り,犯罪事実の存否の証明に欠くことができない。
会合の予定や同送方法など直接会話で確認できる事実を繰り返す部分は,それだけで不可欠とはいえない。

 また,乙は警察の協力者で甲に敵意があり,甲に不利な説明をする動機があり得る。
しかし,各説明は会話に引き続き,記憶が鮮明な時点で会話と連続して録音された。
会合の約束や引渡条件は直前の会話で聞き取れる部分と整合する。
加えて,乙方でけん銃2丁とりんご入りの開封済み宅配箱が見付かり,特に2⑵にある目的物の数量と同送方法の説明は独立した物証とも符合する。
物証から発送者や説明の全てが証明されるわけではないが,具体的な一致は,直後にされた説明の信用性を支える。
以上から,本件では特に信用すべき情況を認め,報告書全体の真正が確認され,かつ証明に不可欠な範囲に限って1⑵・2⑵を採用できる。

3 出題の趣旨・採点実感を踏まえた解説

(1) 答案と評価項目の対応

答案の第1の1は番号1〜7,第1の2は8〜12,第1の3は13〜16に対応する。
第2の1(1)は17〜20,同(2)(3)は21〜24,第2の2(1)(2)は25〜29,同(3)は30〜34に対応する。

重み5・4の項目の対応を次に示す。

番号重み評価項目答案の該当箇所・留保
14遺留物の領置に令状が要らない理由を,占有取得過程に強制がないことから説明する。第1の1(1)「取得の際にそれまでの占有者の支配を強制的に排除しない」
34捜査①の排出・現認・公道上の置場を踏まえ,甲及び収集側の占有との関係で袋の遺留物性を判断する。第1の1(1)(2)の公道上の排出と現認
45占有の放棄と区別して,通常の収集過程でごみの中身を見られないという期待の権利性と,本件での要保護性を検討する。第1の1(2)「通常の収集の過程で袋の中身を見られないという期待」
54捜査①の必要性を,重大なけん銃密売の組織性・巧妙さと通常の方法では証拠を得にくい事情から論じる。第1の1(2)の組織的密売と内偵の困難
64捜査①の手段の相当性を,通行人等が接触し得る置場と,現認した甲の袋に限った持帰りから論じる。第1の1(2)の通行人の接触と一袋への限定
85捜査②で,管理者の同意なしに敷地内の専用倉庫へ立ち入った行為の法的意味を,ごみの領置と分けて論じる。第1の2(1)「場所に対する利益を制約する」
94倉庫の専用性と,居住棟から離れ無施錠で誰でも出入りできる実態を対置して,立入りの侵害程度を評価する。第1の2(1)の居住棟との距離・無施錠
104捜査②で,専用置場への排出後の支配と中身を見られない期待を,公道上の捜査①と比べて評価する。第1の2(2)「公道上の袋に比べ」
135携帯電話の押収とは別に,復元・分析が当初の令状の効力内か,別個の令状を要する新たな侵害かを立てる。第1の3「端末の押収と,その端末に残る消去データの復元・分析とは別」
144押収物についての必要な処分と独立の検証の境界を示し,当初の令状の対象・目的と裁判官の審査に結び付ける。第1の3の裁判官の審査,必要な処分と別個の令状
154消去によって見えなくなった端末内の既存データを可視化する作業と位置付け,原データの破壊・改変や新規情報の取得と区別する。第1の3「元のデータを破壊・改変することなく」
164対象が発着信歴であること,消去・私生活や通信関係,電話による取引,乙の死亡等から復元範囲と必要性を評価する。第1の3の発着信歴,通信関係,電話交渉と乙の死亡
185おとり捜査の適否を,機会提供型・犯意誘発型という呼称だけで決めず,必要性・補充性と働き掛けの相当性で判断する。第2の1(1)「他の手段で足りるか,働き掛けの程度が相当か」
194顧客を暴力団関係者に限る組織的密売の態様から,通常の方法で摘発することの困難と本件手法の補充性を示す。第2の1(1)の顧客限定,張込みとメモ,協力者の必要
204乙との過去の価格交渉と今回の具体的な申込み・応答から,甲の既存意思及び働き掛けの強さを評価する。第2の1(1)の価格交渉と従前の価格条件
215同意した会話当事者の支配下にある会話を録音する場合と,双方の同意を欠く傍受の相違を,会話の秘密の要保護性から説明する。第2の1(2)「会話の内容を自ら相手方の認識・支配に置いて」
244録音③につき,甲の突然の着信,丙女の同意と応答,押収端末の使用及びPの関与を踏まえて必要性・相当性を評価する。第2の1(3)の突発着信,丙女とPの役割
255検察官の指定した会話の存在と内容を一つの要証事実として固定し,証拠の使用目的をすり替えない。第2の2(2)「会話の存在と内容」
265Kが再生して反訳した報告書全体は,検証結果書面に準じ,Kの公判供述による真正立証を要すると論じる。第2の2(1)「法321条3項に準じ,Kを公判で尋問」
274報告書全体の真正と,直接会話・会話後の説明それぞれの原供述に関する伝聞判断を別の層に置く。第2の2(1)~(3)の報告書・会話・説明の別
285報告書1⑴・2⑴・3の直接会話は,その内容の発言が交わされた事実を示すために使う限り非伝聞と論じる。第2の2(2)「その内容の会話が交わされたこと自体の証明」
305報告書1⑵・2⑵の乙の事後説明は,同じ会話の存在・内容を示すには説明の真実性に依存するので伝聞と論じる。第2の2(3)「乙が知覚・記憶した会話を正確に説明したことが必要」
324聞き取れない直接会話の部分が,犯罪事実の存否を証明するために乙の説明を不可欠とするかを具体的に検討する。第2の2(3)の聞取不能箇所と他の証拠では補えない範囲
334直後の連続した説明と直前会話との整合を,特に信用すべき情況の根拠として評価する。第2の2(3)の会話直後と直前会話との整合
344乙方でけん銃2丁とりんご入りの開封済み宅配箱が発見された事情を,説明の具体性・整合性の外部的裏付けとして評価する。第2の2(3)のけん銃2丁・開封済み宅配箱との符合

(2) 設問1

出題の趣旨は,遺留物の領置の制度趣旨を示し,公道上の集積所とマンションの専用倉庫の違いを,支配の有無と内容秘匿の要保護性に結び付けることを求めている(番号1〜12)。
答案は,公道上の領置の判例を手掛かりとし,専用倉庫への立入りには別の評価を加えた。
採点実感が指摘するように,強制・任意の一般論で止まると,221条の遺留物に当たる理由と,領置の限界が示せない。

端末については,令状で許された押収と復元の法的根拠を分ける(番号13〜16)。
答案は,既存データを壊さずに可視化する処理と,対象や目的を広げる検証との差を示した。
222条1項と111条2項を通じた説明は,この答案が採用する構成であり,復元方法を問わず許されるという趣旨ではない。

(3) 設問2

出題の趣旨は,おとり捜査の必要性・補充性と働き掛けの程度,3回の録音それぞれの態様を具体的に検討することを求めている(番号17〜24)。
答案は,甲と乙の以前の交渉,顧客を限った密売方法,突然の着信と丙女の同意を,捜査方法を選ぶ理由やその限界に対応させた。

報告書については,採点実感が,全体の証拠能力と会話・説明の別を示すことを重視している(番号25〜34)。
答案は,Kが機器を再生して反訳したことを基礎に,報告書全体の真正を先に扱う。
検察官の指定に即して,そのような内容の会話が存在したことを要証事実とする。
直接会話については発言の事実を,乙の説明については先行会話についての叙述の真実性を検討する。
不可欠性と特信情況を分け,聞き取れなかった語,直後の説明,乙方で見付かったけん銃と開封された箱を使っている。

(4) 答案の弱点と扱わなかった事項

捜査②は,マンションの管理や住民の利益をより重く見る評価もあり得る。
捜査③は,処理が当初の令状の審査範囲に収まることを前提としており,別のデータや回線上の情報まで取得する場合には,その処分の根拠を別に検討する。
また,乙の説明に一致する物証は特信情況を支えるが,発送者や会話内容の全てを示すものではない。
乙の死因,緊急逮捕自体の適法性及び指定された立証趣旨以外の証拠利用は,設問が指定する検討対象から外れる。

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第7 出典

1 法務省公表資料

平成22年新司法試験論文式試験問題集[刑事系科目]の第2問(PDF第5〜9頁)。
平成22年新司法試験論文式試験出題の趣旨の刑事系科目第2問(PDF第7〜9頁の対象節)。
平成22年新司法試験の採点実感等に関する意見(刑事訴訟法)(PDF第23〜26頁)。

2 法令・判例

最高裁第二小法廷平成20年4月15日決定(平成19年(あ)第839号,刑集62巻5号1398頁)は,公道上のごみ集積所に排出されたごみを,捜査の必要がある場合には刑訴法221条により遺留物として領置できるとした。
最高裁第三小法廷昭和51年3月16日決定(昭和50年(あ)第146号,刑集30巻2号187頁)は,捜査における強制手段の意味と,任意捜査において許容される有形力の行使の限度を示した。
最高裁第三小法廷昭和56年11月20日決定(昭和55年(あ)第490号,刑集35巻8号797頁)は対話者自身による録音を扱った事案であり,捜査機関による本問の録音とは実施主体に違いがある。

最高裁第一小法廷平成16年7月12日決定(平成15年(あ)第1815号,刑集58巻5号333頁)は,少なくとも,直接の被害者がいない薬物犯罪等で通常の捜査方法だけでは摘発が困難な場合に,機会があれば犯罪を行う意思があると疑われる者を対象とするおとり捜査を,刑訴法197条1項に基づく任意捜査として許容した。

刑事訴訟法の条文は,法務省日本法令外国語訳データベースの平成18年改正時の日本語条文と,国立国会図書館の日本法令索引に掲載された試験日までの改正法による。
司法試験委員会決定の原則と当年の試験日程に従い,平成22年5月15日の施行法令を基準とした。
後発の電磁的記録に関する改正は本問の処分の根拠に用いていない。