第1 書類が混在するPDFを整理する流れ
契約書や領収書をまとめてスキャンしたPDFは,①ページの向きを整える,②書類の境目と名前の候補を出す,③人が境目と名前を確かめる,④別ファイルに書き出す,という順で整理できる。
AIに任せやすいのは②である。
人は,元の何ページがどのファイルに入るかと,ファイル名が内容と合っているかを確かめる。
元PDFはそのまま保存し,編集は作業用の複製で行う。
分割したファイル名に元のページ範囲を必ず含める必要はないが,対応表を残しておくと,抜けや重複を見つけやすい。
第2 向きを整えてから,画像と文字で境目を探す
1 横長のページと横倒しの文字を見分ける
横長の配置図でも,文字が正しい向きに表示されていれば,その向きのままで読める。
一方,縦長の契約書ページを横倒しに取り込んだときは,文字が読める向きに直す。
補正後は,見出しだけでなくページの下端や欄外も表示し,読みやすさを確認する。
2 書類の境目とファイル名は別々に確認する
文字情報を持つPDFでは,そこから日付,表題,番号などを取り出せる。
画像だけのスキャンPDFでは,文字情報を使うためにOCRで読み取る方法がある。
ページ画像の表題位置,罫線,続きページの表示と,文字から得た領収書番号や日付を合わせて見ると,書式が同じ別書類や,書式が違う同じ書類を見分ける手掛かりになる。
AIへの指示では,書類の種類に加え,何を別書類の手掛かりにするかを具体化するとよい。
例えば,契約書の表紙と同じ契約番号の別紙は一組にし,領収書番号が変わったときは別書類の候補とする。
名称は各書類の表題と番号を使い,日付が読めないときは推測で補わず,確認が必要な項目として返すよう指定する。
指示文の例は,「元PDFのページ番号で,各書類の開始・終了ページ,表題,番号,日付,ファイル名の候補を表にしてください。契約番号が同じ別紙は契約本文とまとめ,領収書番号が変わる箇所は別書類の候補としてください。各境目の根拠を一言で示し,判読できない項目は確認が必要と記してください。」というものである。
第3 架空の5ページを分割・リネームする
1 分割前のPDF
次は,一括スキャンを模した架空のPDFである。
元PDFのページ番号を使って,分割位置と出力名を照合する。
| 元PDFのページ | 内容 | 確認する点 |
|---|---|---|
| 1 | 保守業務委託契約書の表紙・本文前半 | 契約番号は C-001 |
| 2 | 同じ契約書の本文後半 | 文字が横倒し。正しい向きに補正する |
| 3 | 同じ契約書の別紙「配置図」 | 横長だが文字は正位置。契約番号は C-001 |
| 4 | 領収書 R-001 | 2026年10月1日。同じ発行元・様式の1通目 |
| 5 | 領収書 R-002 | 2026年10月8日。同じ発行元・様式の2通目 |
2 誤分割を直す
例えば,AIが1〜3ページを契約書,4〜5ページを「領収書一式」と提案することがある。
4・5ページは様式と発行元が同じでも,それぞれに別の領収書番号と発行日がある。
そこで4ページと5ページの間に境目を入れ,各ページの原画像で番号・日付を確認してから,それぞれのファイル名に反映する。
| 書類 | 修正後の元ページ | 出力ファイル名 |
|---|---|---|
| 保守業務委託契約書(別紙込み) | 1〜3 | 保守業務委託契約書_C-001.pdf |
| 領収書 R-001 | 4 | 領収書_R-001_2026-10-01.pdf |
| 領収書 R-002 | 5 | 領収書_R-002_2026-10-08.pdf |
修正後は3ファイルを開き,3頁・1頁・1頁で合計5頁になることを確認する。
合計頁数が合っていても,同じ頁を二重に入れ,別の頁を落とすことがある。
対応表と各ファイルを見比べて,元の1〜5ページが重複なくそろい,2ページ目が読める向きで,3ページ目の別紙が契約書に残っていることを確認する。
3 次回に使う分割ルールを具体化する
今回の修正を次にも生かすなら,「同一様式であっても,領収書番号が変わるページの間は別書類の候補とする」と書く。
各ページに共通番号が印字された複数ページの書類もあるため,番号が同じという理由だけで結合せず,頁番号や内容の続きも見る。
AIにルールの改善案を出させる場合も,採用する項目は人が選ぶ。
第4 裁判所へ提出する証拠は,号証と標目で照合する
裁判所の準備の手引は,原則として枝番がある場合を除いて一つの証拠を一つのファイルで提出し,ファイル名は証拠番号に加えて証拠説明書に記載する標目のとおり記載するものとしている。
また,複数の領収書に枝番を付して一つのファイルで提出する場合の証拠番号欄の入力例として,「甲001-1~20」を示している。
例えば,業務用の整理名を付けた領収書をmintsで提出する段階では,確定した号証と標目に合わせて提出用の名称を作る。
複数の領収書に同じ号証の枝番を付す場合は,枝番のまとまりと提出先の案内を確認する。
証拠番号欄,証拠説明書,PDFの表示とファイル名の対応は,提出前にまとめて点検する。
証拠の命名と提出前の確認は,mintsで証拠を提出する方法に具体例を掲載している。
スキャン時の両面読み取りや可読性の確認は,裁判書類のPDF化とスキャナー設定を参照されたい。
第5 提供元の説明に見る,AIによる分割・命名の機能
書類の自動分割・リネーム機能を案内する製品例として,PDF編集アプリ「ワケテナ」がある。
提供元の公式ガイドは,同アプリについて,AIによる書類の自動分割・リネームを搭載し,特許第7914498号を取得済みであると説明している。
同ガイドによれば,利用者がGoogle GeminiのAPIキーを設定すると,書類の境界検出,ファイル名の提案,横向き・上下逆のページの回転補正等のAI機能を使うことができ,分割位置やファイル名は結果を見て手動で調整できるとされる。
AIの結果を手動で修正した後に,その差分をもとにルールの改善案をAIが提案する機能も案内されている。
これらは提供元が説明する機能であり,本記事で製品を使って処理結果や精度を検証したものではない。
上の架空例も,ページ範囲と命名の考え方を示すために構成したものであり,製品の出力や精度を示す実測例ではない。
第6 機密書類を扱う場合の確認
外部のAIサービスへ書類の画像や抽出文字を送る構成では,送信先と送る範囲を確かめる。
例えば,上記の公式ガイドは,AI機能ではGoogle Geminiがページを読み取ると説明し,業務用書類には送信内容がGoogleの製品改善に利用されない有料枠を推奨している。
法律事務所で使う場合は,利用するサービス・契約に即して,入力できる資料の範囲,保存・削除,学習利用,人的閲覧の扱いを確認する。
操作を試す段階では,架空のPDFなど業務上の秘密を含まない資料を用いるとよい。
事務所内の利用規程の作り方は,法律事務所の生成AI利用ガイドラインの作り方を参照されたい。
第7 出典
①裁判所「民事訴訟フェーズ3に向けた準備の手引」(29頁・30頁)
②ワケテナ公式ガイド(トップページ。提供元による機能説明)
③ワケテナ公式ガイド「AI分割・命名」(提供元による機能説明)
④特許第7914498号(J-PlatPat)(提供元の公式ガイドが掲げる特許番号)