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平成23年司法試験刑事系第1問(刑法)の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した28項目と5段階の重み付け(AI作成)

第1 この記事の対象と結論

本記事は,平成23年司法試験刑事系科目第1問(刑法)を扱う。
出題の趣旨及び採点実感から独自に抽出した28項目と5段階の重み付け,模範解答案及びその解説を示す。
評価項目と重みは法務省の公式採点基準・配点ではない。

項目内容
対象平成23年司法試験刑事系科目第1問(刑法)
問題文法務省・刑事系科目問題のPDFの2頁~4頁を確かめた
答案の基準時平成23年の試験実施時。後年の改正・裁判例を答案の根拠にしない。
公式資料出題の趣旨はPDFの9頁~11頁(刑事系科目第1問の節),採点実感はPDFの24頁~27頁を確かめた。
評価項目N=28。重み5は7項目,重み合計W=99。許容分岐を全答案へ累積要求しない。
主な争点現場共謀,第三者のための防衛,量的過剰防衛,後行行為の共犯,殺人未遂及び自招侵害
答案の字数5000字以内。下記答案は見出しを含み,空白・改行を除いて3528字。
主要裁判例公式の出題の趣旨が挙げる平成20年5月20日・同年6月25日の各最高裁決定及び平成6年12月6日最高裁判決。各判例の確認範囲は第7の3に示す。
条文の版答案に用いた条文は,平成19年法律第54号反映版の原文と,試験前の平成22年法律第26号の改正部分で照合した(第7の2)。
確認日令和8年11月4日

答案案は,甲の最初の二つの傷害罪と最後の殺人未遂罪(過剰防衛),乙の後行する傷害罪と強要未遂罪を認め,丙の傷害行為等には正当防衛を認める構成を採る。
これは本記事の事実評価による一案であり,殺意の肯定を公式指定の結論とするものではない。

第4に評価表,第5に答案と対応表・解説を置く。
とくに重み5は番号2・3・7・9・12・17・20であり,犯罪類型,防衛の成否及び共犯の対象を分ける核心として選んだ。

第2 評価項目の示し方と重み付けの基準

1 評価項目の示し方

一項目には一つの判定対象を置き,具体的な論証・事実評価が答案にあるかを判定する。
出典欄の頁は公式PDFの通し頁であり,頁の後の(1)・2・3(2)イ等は各資料の見出し番号である。
引用は原文の短い字句に限った。
公式資料の記載から評価単位へ具体化する操作及び重みの判断は本記事の推論である。

「通常」「注意」は種別,「許容分岐」は採用構成に応じた適用範囲を示す。
注意を重み2へ自動配属せず,不採用の分岐を欠落として累積評価しない。
「記載なし」は当該問題の関連範囲を確かめた結果であり,一般的な記述を具体化した部分は「間接」と区別する。

2 5段階の重み付けの基準

5は設問の判断を大きく分ける核心,4は結論を理由付きで支える主要な論証・当てはめ,3は通常押さえる法的処理・事情の評価,2は論証を補強する説明・個別事情・誤りの注意,1は補充的な引用・記述範囲の確認とする。
注意も誤りの影響から個別に重み付けする。
重み4に両公式資料への登場を必須とせず,重み5の件数・割合も先に割り当てない。

第3 本問の概要

1 問題文と事実関係

甲が乙を殴るなどしたのに対し,丙が乙を助け,甲が丙にも暴行を加えたため,乙と丙が甲へ反撃する。
甲が逃げると,乙は約300メートル追ってナイフで切り付け,丙は制止する。
車に逃れた甲に乙がナイフを突き出した後,乙は車外ステップへ乗り,ナイフを車内に落とす。
それに気付いた甲が加速・蛇行して乙を転落させ,乙は重傷を負うが生存する。

細部は公式問題文による。
最初の反撃,逃走後の切付け,車両からの振落としを,行為者と時点を混同せずに分けて検討する必要がある。

2 設問が求めること

設問立場・対象指定・除外到達点
第1問甲・乙・丙の刑事責任特別法違反の点を除く。問題文が与えた認識と行為経過を使う。構成要件,違法性阻却・過剰防衛,共犯の範囲及び罪数を理由付きで示す。

第4 評価項目と重み

1 甲の歩道上の行為

番号評価項目重み出題の趣旨採点実感
1甲の歩道上の各暴行につき,傷害・因果関係・故意を簡潔に認定する。310頁(1)「それぞれの暴行と傷害との因果関係」24頁2「構成要件該当性」

2 甲の車両走行

番号評価項目重み出題の趣旨採点実感
2甲の振り落としについて,車高・速度・距離・蛇行・路面から殺人の実行行為性を検討する。510頁(1)「行為の客観面として殺人の実行行為性」24頁2「殺人の実行行為性の有無」
3甲の危険事情の認識と振り落とす意思から,未必の殺意の有無を理由付きで認定する。510頁(1)「構成要件実現の認識・認容」24頁2「行為の主観面である殺意の有無」
4甲の防衛を検討する対象を,加速・蛇行による振り落とし行為として特定する。310頁(1)「正当防衛又は過剰防衛の成否」25頁3(2)エ「どの行為を対象として検討するのか」
5ナイフ落下後のしがみ付き・攻撃の気勢も評価し,侵害の範囲と急迫性を判断する。410頁(1)「侵害の急迫性が認められるか」25頁3(2)オ「その後も乙が攻撃の気勢を示し続けているにもかかわらず」
6危険な振り落としを選んだことと,逃走・身体防衛の意思の有無を区別して認定する。410頁(1)「防衛の意思が認められるか」24頁2「防衛の意思」
7乙の凶器喪失後の侵害と振り落としの危険を比較し,防衛手段の必要性・相当性を判断する。510頁(1)「防衛手段として必要最小限度か否か」26頁3(2)「防衛行為の相当性」
8甲が採り得た別の侵害排除手段を,凶器喪失・施錠・乙の姿勢と結び付けて具体化する。410頁(1)「他の侵害排除手段があったかどうか」26頁3(2)「どのような手段を採り得たのか」
9甲の先行暴行が後の侵害を招いた点につき,自招侵害による防衛制限の成否を検討する。510頁(1)「自招侵害の成否にも言及すべき」25頁3(2)カ「自招侵害について全く検討」
10自招侵害につき,前後の時間・場所の近接性と双方の侵害程度を比較して結論を導く。410頁(1)「時間的・場所的近接性」24頁2「自招侵害の問題」

3 乙・丙の各行為

番号評価項目重み出題の趣旨採点実感
11乙の蹴りによる腰背部打撲と丙の殴打による頭部打撲を区別し,他者の結果を負う根拠を示す。310頁(2)「それぞれの傷害を生じさせた暴行」24頁2「乙丙間の甲に対する傷害」
12助けを求めた丙,これに応じた乙,相互の加勢の経緯から黙示の現場共謀を認定する。511頁(2)「暴行時の具体的状況等を子細に検討」24頁2「黙示の(現場)共謀の有無」
13乙の救助意思と仕返し意思の併存を検討し,防衛意思を自動的に否定しない。411頁(2)「丙を助ける意思と甲に対する仕返しの意思が併存」26頁3(3)ウ「攻撃の意思があっても」
14甲の締付け継続と乙への攻撃移行を踏まえ,乙丙の反撃時の急迫不正の侵害を認定する。3間接(共同防衛の一般的記述を具体化)。11頁(2)「急迫不正の侵害」間接(共同防衛の一般的記述を具体化)。24頁2「侵害の急迫性」
15乙丙の素手の反撃の回数・強度・甲の体格と攻撃を比較し,防衛の相当性を判断する。3間接(共同防衛の一般的記述を具体化)。11頁(2)「相当性の各要件」間接(共同防衛の一般的記述を具体化)。24頁2「防衛行為の相当性」
16逃走する甲への乙のナイフ切付けについて,傷害成立と当該時点の防衛否定を説明する。311頁(2)「もはや侵害が継続していたとは認められず」26頁3(3)エ「ナイフで甲の前腕部を切り付けた行為」
17第1・第2場面の乙の行為につき,時間・場所の連続性,侵害継続,防衛意思から一体の量的過剰防衛かを検討する。511頁(2)「反撃行為と一体のものとして(量的)過剰防衛」26頁3(3)エ「一体と評価することができるか」
18丙の最初の押す行為の第三者防衛を簡潔に認定し,中核論点に分量を振り向ける。2記載なし26頁3(4)「甲の胸付近を強く押した行為」
19丙の第1場面の共同実行の構成要件該当性と,正当防衛による違法性阻却を段階別に示す。311頁(3)「乙の場合と同様」24頁2「次に違法性」

4 丙の後行行為への関与

番号評価項目重み出題の趣旨採点実感
20適法な共同防衛の後は,離脱の有無だけでなく,後行の報復傷害について新たな共謀があるかを検討する。511頁(3)「後行行為の時点での新たな共謀」25頁2「正当防衛行為の共謀」
21【許容分岐】先行共謀の射程を限定する構成を採る場合は,共同防衛の合意に後のナイフ切付けが含まれない理由を示す。適用条件は先行共謀の射程から後行行為を除外する構成を採ることであり,新たな共謀から処理する本記事の答案には適用しない。411頁(3)「乙の切り付け行為は共謀の範囲外」間接(論点名の言及を具体化)。25頁2「共謀の射程範囲」
22【許容分岐】ナイフ切付けまで先行共謀の範囲内とする構成では,その前提を明示して丙の離脱の成否を論じる。適用条件はナイフ切付けも先行共謀の範囲内とする構成を採ることであり,本記事の答案には適用しない。411頁(3)「丙が共犯関係から離脱しているか」記載なし

5 各場面に関する注意

番号評価項目重み出題の趣旨採点実感
23【注意】共謀と個別の傷害原因を認定しながら,刑法207条の同時傷害の特例を重ねて適用しない。3記載なし26頁3(3)イ「同時傷害の特例」
24【注意】甲の故意の振り落としを,自動車運転過失致傷や危険運転致傷で処理しない。4記載なし25頁3(2)イ「危険運転致傷罪あるいは自動車運転過失致傷罪」
25【注意】甲の逃走後の不救助から,根拠・結果との関係を欠いた保護責任者遺棄致傷を追加しない。2記載なし25頁3(2)キ「保護責任者遺棄致傷罪」
26【注意】意識不回復という与件を脳死へ置き換えず,人の死の時期の議論を追加しない。1記載なし26頁3(2)ケ「脳死は人の死か」
27【注意】丙の実体法上の結論を,訴訟の主文である無罪の語だけで表さず,罪責を負わない等とする。2記載なし26頁3(4)「刑事訴訟法第336条」
28【注意】甲の第1~第3場面の全行為の一体性は,罪数等の検討実益を示して必要な範囲だけで扱う。1記載なし25頁3(2)ク「甲の行為が全体として1個と評価」

6 重みの分布

重み1は2項目,2は3項目,3は8項目,4は8項目,5は7項目で,N=2+3+8+8+7=28,W=2+2×3+3×8+4×8+5×7=99である。
これは表の全行の分布であり,同時に充足すべき項目数や公式配点を意味しない。
注意6項目は誤りの回避を示し,肯定項目の不充足と同じ誤りを二重に減点しない。

番号2を重み5とした理由:殺人未遂と傷害の入口を分ける核心。故意とは別の客観面を閉じる必要がある。

番号3を重み5とした理由:擬律を変える主観面の核心。重傷結果だけにも,死亡認容の明示文の有無だけにも依存しない。

番号7を重み5とした理由:正当防衛と過剰防衛を分ける核心。結果の重大さのみでは判定しない。

番号9を重み5とした理由:防衛の成立可能性そのものを制限する入口の核心。最初の攻撃者だから一律不可とも,逃走したから無関係とも扱わない。

番号12を重み5とした理由:各人の行為を超える結果帰責と後行行為の射程を左右する核心。友人関係だけでは足りない。

番号17を重み5とした理由:正当防衛で終えた前段と違法な後段の関係を決める核心。距離や凶器変更だけで切断しない。

番号20を重み5とした理由:採用する判例型の筋道で丙への帰責を分ける核心。先行の共同意思を当然に違法な後行行為へ延長しない。

第5 模範解答

1 答案の前提と表記

試験実施時の刑法を基準とし,特別法違反を除く。
甲の車両走行には未必の殺意を認め,丙の後行行為は新たな共謀の有無から処理する立場を採る。
答案は法務省の公式解答ではなく,本記事の採用見解による。

2 答案

第1 歩道上の攻防

1 甲の乙に対する行為

甲は,乙の腹部を殴り,しゃがみ込んだ乙の髪をつかんで顔面を3回膝蹴りし,歯牙破折等を生じさせた。
故意の有形力行使により生理的機能を害しているから,傷害罪(刑法204条)が成立する。
乙と肩が触れたのは人通りの多い歩道での出来事であり,その後の無礼な態度やすごむ言動も,このような攻撃を正当化する急迫不正の侵害ではない。
甲は怒りから先に暴行しており,正当防衛(36条1項)は成立しない。

2 丙の押す行為と甲の丙に対する行為

丙が甲の胸を強く押す行為は暴行に当たるが,乙に対する甲の攻撃は現に続いており,急迫不正の侵害がある。
丙は乙を助ける意思で甲を引き離すために押しただけで,必要かつ相当な行為であるから,第三者のための正当防衛として違法性が阻却される。
したがって,これを受けた甲には不正な侵害がなく,丙を蹴り,頭部を締め上げて腹部打撲等を負わせた行為に正当防衛は成立しない。
甲には丙に対する傷害罪が成立する。
乙・丙は別の被害者であり,甲の各攻撃も別個だから,両傷害罪は併合罪(45条前段)となる。

3 乙の蹴りと丙の殴打

乙の蹴りは甲の腰背部打撲を,丙の殴打は頭部打撲をそれぞれ生じさせており,各自の故意の暴行と傷害との因果関係がある。
さらに,それぞれが他方の行為による傷害まで負うかを検討する。
丙が助けを求め,乙がこれを認識して救助のために甲を蹴り,丙も甲が乙へ向かうのを阻止するため殴っている。
両者にはその場で相互に助けて甲の攻撃を排除する意思連絡と共同実行があるから,傷害罪の共同正犯(60条,204条)の構成要件に該当する。
もっとも,甲は丙の頭部を締め続けており,乙が何度か蹴ってもやめなかった。
乙の蹴りには丙の身体への急迫不正の侵害を排除する必要がある。
乙は仕返しも考えたが,防衛の意思と憤激・報復感情は両立し得る。
丙救助の意思が明示されており,専ら攻撃のために侵害を利用したとはいえない。
また,甲が丙の頭部を離しただけでは侵害は終了していない。
甲は直ちに乙へ向かっており,体格にも勝る甲が攻撃を続ける具体的危険がある。
丙の背後からの2回の殴打は乙を守るための行為である。
乙・丙が素手で加えた反撃は,甲の継続する攻撃の強さ,それまでの蹴りが奏功しなかったことに照らし必要かつ相当である。
共同全体の反撃の程度を評価しても,防衛の限度を超えない。
したがって,乙・丙の上記傷害行為はいずれも正当防衛として違法性が阻却される。

第2 逃走後の切付けと制止

1 乙

甲が全速力で逃げた時点で,乙・丙への侵害は終了した。
乙は面子を潰されたことに逆上し,約300メートル追った上,刃体約10センチメートルのナイフで甲の左手付近に切り掛かり,左前腕切創を負わせた。
乙には傷害罪が成立し,報復の攻撃に正当防衛は成立しない。
手付近を狙った事情から,この段階で殺意までは認めない。
なお,先行する防衛行為と一体の量的過剰防衛として処理できるか。
一体性は時間・場所の連続性だけでなく,侵害の継続と行為者の防衛意思等から判断すべきである。
本件は同じ夜の一連の出来事で,約300メートルの移動にすぎず,時間・場所の連続性は否定し難い。
しかし,甲は攻撃をやめて逃走し,乙は専ら面子を取り戻す報復のためにナイフを使った。
侵害も防衛意思も続いておらず,前段と一体の防衛とは評価できない。
したがって,後行の切付けに36条2項は適用されない。

2 丙

丙は乙が何をするか心配して追い,ナイフをしまうよう何度か叫び,実際に乙を引き離している。
最初の共同防衛は適法であり,その共同意思を違法な報復の共同意思として当然に延長することはできない。
後行の切付けについて新たな共謀の有無を判断すべきところ,報復を共同する新たな合意はない。
同行・追跡だけから傷害の共謀を認めることはできず,乙の切付けについて丙に共同正犯・幇助犯は成立しない。
そもそも共謀がない以上,共犯関係からの離脱を理由とする必要もない。
乙の両肩をつかんで強く引いた行為は暴行に当たり得るが,乙はナイフで甲を切り付けており,甲への急迫不正の侵害がある。
丙は制止目的で必要な程度の力を用いて引き離したにとどまるから,正当防衛となる。

第3 走行中の車付近の行為

1 乙

乙は,車窓の隙間からナイフを甲の頭部・顔面に向けて何度か突き出し,降車を求めている。
これは身体への有形力行使であるとともに,生命・身体への害悪を示して義務のない降車をさせようとする行為である。
甲は降りておらず,強要未遂罪(223条1項・3項)が成立する。
暴行・脅迫はその手段として評価し,別に重ねない。
頭部・顔面へのナイフの突き出しは極めて危険であり,殺人未遂も問題となる。
しかし,傷害を負わせることや降車を強いることの認識と,死亡結果を認容したこととは別である。
実際の刺突距離・力の程度等が明らかでなく,降車要求の手段という事情もあるから,殺意は認めず,殺人未遂罪を否定する。
先の切付けによる傷害罪は,降車を強いる行為とは別の行為であり,既に完成している。
両者はそれぞれ独立し,併合罪となる。

2 甲の加速・蛇行による殺人未遂

甲の行為に殺人未遂罪(199条,203条)が成立するか。
殺人の実行行為は,人を死亡させる現実的危険を有する行為である。
甲は,乙が車高の高い四輪駆動車の運転席側ドアの下のステップに両足を乗せてしがみついている状態で,車をさらに加速し,ハンドルを急激に左右に切り,約200メートルも蛇行を続けた。
速度は時速約50キロメートルに達し,路面はアスファルトである。
不安定な姿勢の乙が振り落とされれば頭部を硬い路面に強打する危険が大きく,その危険は生命を失わせる程度に達する。
殺人の実行行為性が認められる。
殺意については,死亡結果の認識・認容が必要で,未必的なものでも足りる。
甲は乙の把持する姿勢と車高・走行状態を認識し,頭などを路面に強打することを予想していた。
その認識は,単なる軽い転倒の予想にとどまらず,高速走行する高い車体から頭部を硬い路面に打ち付けられる致命的危険の認識を含むと評価できる。
それでも逃走実現を優先して加速・蛇行を重ね,振り落とそうとしたから,死亡しても行為を遂行する意思があったと推認する。
逃走は目的・動機であり,この死亡危険の認容と両立する。
よって未必の殺意を認める。
乙の頭蓋骨骨折・脳挫傷は上記危険が現実化したものだが,乙は生存している。
したがって,殺人未遂罪の構成要件に該当する。
負傷結果を別の傷害罪として重複評価しない。

3 正当防衛・過剰防衛

甲は最初に乙らへ暴行しているが,自ら侵害を招いたという一事でその後の防衛を全て否定すべきではない。
同じ夜の一連の経過で約300メートルしか離れておらず,先行暴行との時間・場所の近接性は認められる。
他方,甲は激しい暴行をやめて逃走し,車内に退避しようとしているのに,乙は追い掛けてナイフまで用いた。
甲の先行暴行も歯を折るなど激しかったことを踏まえても,乙の攻撃は凶器による身体枢要部への攻撃へと危険を大きく増している。
退避後のこのような攻撃まで甲が甘受すべきとはいえない。
甲はこの時点で自己の身体を守ることができる。
ナイフを落とした後も,乙は車にしがみつき,窓をたたきながら降車・停止を要求している。
凶器の喪失で危険は低下したが,一連の執拗な攻撃が終わったとはいえない。
甲はこれを認識し,乙から逃れるために運転しており,急迫不正の侵害と防衛の意思が認められる。
しかし,防衛行為は侵害を排除するのに必要かつ相当な限度でなければならない。
本件では車のドアは施錠され,乙はナイフを失い,車外で身体を支えるため手足を使っている。
甲は低速走行を続け,急激な蛇行を控えるなど,乙の生命身体に対する危険を抑えて離脱する余地がある。
それなのに,乙が路面に頭などを強く打ち付けられることを認識しながらさらに加速し,約200メートルも急激な蛇行を続け,時速約50キロメートルで転落させる行為は,低下した侵害の危険と比べて過大である。
よって,正当防衛は成立しないが,防衛の程度を超えた行為として過剰防衛(36条2項)に当たり,殺人未遂罪の刑の任意的減免を受け得る。
甲のこの殺人未遂罪と第1の二つの傷害罪は,攻撃の対象・場面を異にする別行為であり,併合罪となる。

第4 結論

甲には乙・丙への歩道上の各傷害罪と,乙を転落させた殺人未遂罪が成立し,併合罪となる。
殺人未遂には過剰防衛が認められる。
乙には追跡後の傷害罪と強要未遂罪が成立し,併合罪となる。
丙の各行為は正当防衛となり,乙の後の攻撃の共犯にもならない。

3 出題の趣旨・採点実感を踏まえた解説

(1) 答案と評価項目の対応

答案の第1は番号1・11~15・18・19・23,第2は番号16・17・20~22,第3は番号2~10・24~26・28,第4は番号27に対応する。
番号21・22は答案で採用しない別構成であり,答案第2の2の構成を採る場合の累積要求ではない。
重み3以下の通常項目は,上記の番号範囲と各場面の解説で対応を示す。

第4の重み5・4の項目及び条件付きの項目について,模範解答との対応を次の表に示す。

番号重み評価項目答案の該当箇所・留保
25甲の振り落としについて,車高・速度・距離・蛇行・路面から殺人の実行行為性を検討する。答案第3の2第1段落
35甲の危険事情の認識と振り落とす意思から,未必の殺意の有無を理由付きで認定する。答案第3の2・殺意の段落
54ナイフ落下後のしがみ付き・攻撃の気勢も評価し,侵害の範囲と急迫性を判断する。答案第3の3・ナイフ喪失後
64危険な振り落としを選んだことと,逃走・身体防衛の意思の有無を区別して認定する。答案第3の3・逃走目的
75乙の凶器喪失後の侵害と振り落としの危険を比較し,防衛手段の必要性・相当性を判断する。答案第3の3・相当性
84甲が採り得た別の侵害排除手段を,凶器喪失・施錠・乙の姿勢と結び付けて具体化する。答案第3の3・低速走行等の代替方法
95甲の先行暴行が後の侵害を招いた点につき,自招侵害による防衛制限の成否を検討する。答案第3の3冒頭・自招侵害
104自招侵害につき,前後の時間・場所の近接性と双方の侵害程度を比較して結論を導く。同・近接性と凶器使用の比較
125助けを求めた丙,これに応じた乙,相互の加勢の経緯から黙示の現場共謀を認定する。答案第1の3・救助の意思連絡
134乙の救助意思と仕返し意思の併存を検討し,防衛意思を自動的に否定しない。答案第1の3・報復感情の併存
175第1・第2場面の乙の行為につき,時間・場所の連続性,侵害継続,防衛意思から一体の量的過剰防衛かを検討する。答案第2の1後段・一体性の判断
205適法な共同防衛の後は,離脱の有無だけでなく,後行の報復傷害について新たな共謀があるかを検討する。答案第2の2・新たな共謀の不存在
214【許容分岐】先行共謀の射程を限定する構成を採る場合は,共同防衛の合意に後のナイフ切付けが含まれない理由を示す。適用条件は先行共謀の射程から後行行為を除外する構成を採ることであり,新たな共謀から処理する本記事の答案には適用しない。不採用。第2の2は新たな共謀から処理。解説(3)参照。
224【許容分岐】ナイフ切付けまで先行共謀の範囲内とする構成では,その前提を明示して丙の離脱の成否を論じる。適用条件はナイフ切付けも先行共謀の範囲内とする構成を採ることであり,本記事の答案には適用しない。不採用。先行する違法な広い共謀を前提としない。解説(3)参照。
244【注意】甲の故意の振り落としを,自動車運転過失致傷や危険運転致傷で処理しない。答案第3の2は故意の殺人未遂から検討。

(2) 歩道上の攻防

出題の趣旨は,まず各自の暴行と傷害結果の因果関係を確認し,他方の行為による結果まで負うかを現場共謀から検討するよう求めている。
答案は乙の蹴りと丙の殴打が生じさせた傷害を分け,救助の呼び掛けと応答から意思連絡を認定した上で,違法性を別に判断した(番号11・12・19)。

採点実感は,乙に報復感情があることから直ちに防衛意思を否定する答案や,共謀を論じながら同時傷害の特例を適用する答案を問題としている。
答案は救助の意思と憤激が併存することを示し,侵害の継続と反撃の程度を評価する(番号13~15・23)。
丙の最初の押す行為の検討は簡潔にする(番号18)。

(3) 逃走後の切付けと丙の関与

出題の趣旨は,乙の後行する切付けを,先行行為と一体の量的過剰防衛と評価できるかも検討対象としている。
答案は時間・場所の連続性を認めつつ,甲の侵害の終了と乙の防衛意思の消失を区別し,一体の防衛行為とは評価しなかった(番号16・17)。

丙については,先行共謀の射程,広い共謀を認めた上での離脱,先行する適法な共同防衛と後行する違法行為の新たな共謀を区別する構成がある。
本答案は最後の構成を採り,丙の制止の発言と実際に乙を引き離した行為から,切付けについての新たな共謀を否定した(番号20)。
番号21・22は許容分岐として残し,不採用を欠落とはしない。

(4) 車両からの振落とし

出題の趣旨と採点実感は,殺人の実行行為性と殺意を区別し,個々の事実が何を意味するかを論証することを求めている。
答案は車高,速度,距離,路面,急激な操舵及び乙の姿勢から客観的危険を検討し,その認識と,なお振り落とす意思から未必の殺意を推認する(番号2・3)。
殺意肯定は本記事の事実評価であり,公式資料がこの結論だけを指定したものではない。

ナイフを失ったことは,侵害の終了と相当性を同時に決める事実ではない。
答案は乙の執拗な追撃と要求から急迫性及び防衛意思を認める一方,施錠,凶器喪失,身体を支える姿勢から,低速走行等の他の方法を具体的に挙げ,相当性を否定した(番号4~8)。
低速走行で安全に離脱できる余地の評価には争いが残るため,結果が重いことだけで過剰とする論証にはしていない。

自招侵害では,最初に甲が暴行したことだけで全ての防衛を否定しない。
答案は同夜・約300メートルという近接性と,退避後の凶器使用への危険の増大を対比している(番号9・10)。
この比較の視点は,出題の趣旨が自招侵害の参考判例として挙げる最高裁平成20年5月20日決定についての説明に従ったものである。

乙の車窓からの行為を強要未遂とする処理と罪数は,公式資料に記載のない補足である。
降車を要求する目的だけから殺意が論理的に否定されるわけではなく,殺意の否定は本答案の事実評価である。

(5) 答案の弱点と扱わなかった事項

殺意の認識・認容の推認,低速走行による回避可能性,自招侵害の比較,乙の強要未遂及び罪数には,反対の構成もあり得る。
本答案は一つの許容構成を示すものであり,唯一の模範解答と位置付けない。
丙の別構成を全て答案へ併記すること,乙の脳死の議論,甲の逃走後の保護責任者遺棄致傷,甲の全行為を一体の防衛とする処理は採っていない。

第6 関連記事

1 同じ年度の司法試験の記事

①平成23年司法試験公法系第1問(憲法)の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した25項目と5段階の重み付け(AI作成)
②平成23年司法試験公法系第2問(行政法)の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した31項目と5段階の重み付け(AI作成)
③平成23年司法試験民事系第1問(民法)の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した38項目と5段階の重み付け(AI作成)
④平成23年司法試験民事系第3問(民事訴訟法)の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した33項目と5段階の重み付け(AI作成)

2 同じ科目の別の年度の記事

①平成24年司法試験刑事系第1問(刑法)の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した23項目と5段階の重み付け(AI作成)
②平成28年司法試験刑事系第1問(刑法)の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した55項目と5段階の重み付け(AI作成)
③令和2年度司法試験刑事系第1問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した68項目と5段階の重み付け(AI作成)

3 本問の論点に関連する記事

①法務省HPの司法試験・予備試験の資料の所在―年度別の実施・結果・出題趣旨・採点実感のページ一覧(AI作成)
②司法試験の出題法令の基準日―平成18年以降の年度別六法リンク(AI作成)

第7 出典及び確認状態

1 公式資料

①法務省・平成23年新司法試験論文式試験問題・刑事系科目:PDFの2頁~4頁の第1問を確かめた。
②法務省・平成23年新司法試験論文式試験問題出題趣旨:PDFの9頁~11頁の刑事系科目第1問の節を確かめた。
③法務省・平成23年新司法試験の採点実感等に関する意見:PDFの24頁~27頁の刑事系科目第1問を確かめた。

2 法令

答案に用いた刑法36条,45条,60条,199条,203条,204条及び223条並びに評価項目で触れた207条を確認した。
日本法令外国語訳データベース掲載の刑法日本語版は平成19年法律第54号反映版である。
日本法令索引の刑法沿革によれば,その次の改正は平成22年法律第26号であり,その刑法改正部分は31条,32条及び34条の刑の時効に関するものであるから,上記の条文に変更はない。
その後の平成23年法律第74号(同年6月24日公布)以降の改正は,答案の根拠にしていない。

3 裁判例

公式の出題の趣旨は,自招侵害について最高裁平成20年5月20日第二小法廷決定(平成18年(あ)第2618号,刑集62巻6号1786頁),量的過剰防衛の一体性について最高裁平成20年6月25日第一小法廷決定(平成20年(あ)第124号,刑集62巻6号1859頁),正当防衛後の後行行為の共謀について最高裁平成6年12月6日第三小法廷判決(平成2年(あ)第335号,刑集48巻8号509頁)を参考判例として挙げる。
この列挙は出題の趣旨の記載により,各判例の法廷・事件番号・判例集の巻号頁は裁判所ウェブサイトの詳細ページで確かめた。
本記事は判決原文の判示を引用せず,各判例の考え方を出題の趣旨の説明の範囲で用いた。

4 確認状態

問題,出題の趣旨及び採点実感は上記の対象範囲を確かめた。
公式資料の要求と本記事の評価項目・重みは区別し,答案の採用構成と許容分岐は第5で示した。
確認日は令和8年11月4日である。