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危険運転事件の起訴・不起訴と検察官の決裁―名古屋地検の運用通知を読む

第1 交通事件について分かる庁内決裁の区分

危険運転致死傷事件や過失運転致死傷事件では,起訴・不起訴の内容だけでなく,検察庁内部で誰の決裁を受けるかという問題がある。
名古屋地検の令和6年10月15日付の次席検事通知(名地交発第14号)は,自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律(以下「自動車運転死傷処罰法」という。)の事件について,罪名と処分の種類に応じた決裁区分を別表「事件決裁要領表」にしている。

この通知は,同年6月10日付の検事正通達(名地企発第96号)と,同日付の「次席検事が指定する事件」に関する次席検事通知(名地企発第97号)を踏まえた運用資料である。
6月の次席検事通知は対象を本庁及び一部の区検に限るが,10月の運用通知には支部を含む経由先が明記されている。
以下では,令和6年のこの通知に書かれた区分を説明する。
その後の改廃を確認した現行の基準ではなく,全国共通の基準でもない。

一般的な配点・処分決裁の仕組みは,起訴・不起訴は誰が決めるのかを参照されたい。

第2 通知の表を読むための3つの記号

記号通知が定める取扱い
◎終局処分(被疑者死亡による不起訴を除く。)時に次席検事の決裁を要する
○終局処分時に,交通部長(岡崎支部では岡崎支部長)が次席検事の決裁を要すると判断したときは,次席検事が決裁する
△交通部長又は支部長の決裁で足りる。ただし,一宮・半田・豊橋の各支部では,支部長が交通部長の決裁を要すると判断したときは,交通部長が決裁する

○は「必ず次席検事の決裁を受ける」という意味ではない。
△についても,一部の支部では交通部長が決裁する場合があるため,「支部長だけで必ず完結する」という意味ではない。
以下の◎*は,◎のうち,豊橋支部で特別な経由先が定められた箇所を示す。

第3 罪名・処分別の決裁区分

表の条文番号は,通知が示す自動車運転死傷処罰法の条文番号である。
「不起訴」欄は,被疑者死亡による不起訴を除く。

通知の事件の種別条文公判請求不起訴家裁送致その他
危険運転致死第2条◎*◎○△
危険運転致傷第2条◎○○△
危険運転致死傷第3条◎○○△
過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱第4条◎○○△
過失運転致死第5条△○△△
過失運転致傷第5条△△△△
無免許危険運転致傷第6条第1項◎○○△
無免許危険運転致死傷第6条第2項◎○○△
無免許過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱第6条第3項◎○○△
無免許過失運転致死第6条第4項△○△△
無免許過失運転致傷第6条第4項△△△△

◎*は危険運転致死の公判請求に付されている。
この場合,豊橋支部では,交通部長の代わりに岡崎支部長を経て次席検事が決裁する。
危険運転致死の不起訴の欄にまで,この特別な経由先を広げて読むことはできない。

通知は,平成25年法律第86号による改正前の各犯罪(旧刑法第208条の2等)について,これに対応する自動車運転死傷処罰法の各犯罪に準ずるとしている。
旧規定の事件を調べる場合にも,適用される罪と表の区分の対応を確認する必要がある。

第4 本庁・岡崎支部・その他の支部の経由先

◎の場合,通知が示す経由先は次のとおりである。

取扱庁経由先
本庁交通部長の決裁を経て次席検事が決裁
岡崎支部岡崎支部長の決裁を経て次席検事が決裁
その他の支部各支部長及び交通部長の決裁を経て次席検事が決裁
豊橋支部で危険運転致死を公判請求する場合(◎*)交通部長の代わりに岡崎支部長を経て次席検事が決裁

○の場合,岡崎支部以外の支部では,各支部長の決裁を経て交通部長が決裁する。
その上で,交通部長又は岡崎支部長が次席検事の決裁を要すると判断したときに,次席検事が決裁するという構造である。

通知の表は決裁区分を示すが,その前後に行われる協議や個別指示の有無,具体的な決裁に要した日数までは示していない。

第5 起訴と不起訴で区分が違う具体例

1 危険運転致死と危険運転致傷

第2条の危険運転致死は,公判請求も,被疑者死亡を除く不起訴も◎である。
一方,第2条の危険運転致傷は,公判請求が◎であり,不起訴は○である。
死亡か傷害か,また,どの処分を予定するかによって,表の区分が異なる。

2 過失運転致死と過失運転致傷

第5条の過失運転致死は,公判請求が△,不起訴が○である。
したがって,この通知では,公判請求の方が常に高い職位の決裁を必要とするという整理にはなっていない。
第5条の過失運転致傷は,表の4つの処分欄がいずれも△である。

3 無免許の事件

第6条第1項ないし第3項の各類型は,公判請求が◎,不起訴と家裁送致が○,その他が△である。
一方,同条第4項の無免許過失運転致死は,過失運転致死と同じく,公判請求が△,不起訴が○である。
「無免許だから公判請求はすべて◎」とまとめることはできない。

第6 通知からは判断できない事項

通知は庁内の決裁経路を定める資料であり,危険運転致死傷罪と過失運転致死傷罪の成立要件や,個別事件でいずれの罪を適用するかという証拠評価の基準そのものではない。
どの処分案について,どの決裁区分を用いるかを読み取る資料である。

したがって,ある事件が不起訴になったという事実だけから,次席検事が必ず決裁したと推定したり,担当検察官と上司の意見が対立していたと推定したりすることはできない。
また,決裁区分の違いから,被害者に対する説明義務違反,国家賠償責任又は起訴の効力について直ちに結論を出すこともできない。

実際の事件について検討する際は,適用を検討された罪名,予定され又は実施された処分,取扱庁,処分当時の規程,特別の指示の有無を区別して確認する必要がある。
本記事で取り上げた資料は令和6年の運用通知であり,現在の事件について適用される規程は改めて確かめる必要がある。

第7 資料と関連記事

①「事件の決裁を要する「次席検事が指定する事件」について」の運用について(令和6年10月15日付の名古屋地検次席検事の通知)(全2頁。2頁の別表と注1~5を併せて読む必要がある。)
②事件の配点及び処分決裁について(令和6年6月10日付の名古屋地検検事正の通達)
③事件の決裁を要する「次席検事が指定する事件」について(令和6年6月10日付の名古屋地検次席検事の通知)
④起訴・不起訴は誰が決めるのか―検察官の決裁と事件配点(名古屋地検の規程から)
⑤各地の検察庁の執務規程
⑥検察権行使の機関(検察官の独任制官庁と検察官同一体の原則)
⑦e-Gov法令検索自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律