第1 担当検察官の判断と庁内決裁
検察庁の刑事事件の手続については,捜査手続における検察官の役割として,証拠に基づいて犯罪の成否,処罰の要否等を考慮して事件を起訴するか不起訴にするかを決めると説明している。
起訴・不起訴の判断を調べる際には,事件を担当する検察官と,検察庁内部で処分案の決裁を行う上司とを区別して考える必要がある。
名古屋地方検察庁の令和6年の規程・通達には,事件を誰に担当させるかという「配点」と,捜査事件の処分をどの職位の者が決裁するかという「処分決裁」の区分が定められている。
本記事は,令和6年4月1日現在の名古屋地方検察庁執務規程,同年6月10日付の検事正通達・次席検事通知及び同年10月15日付の次席検事通知を読むための解説である。
全国の検察庁に共通する最新の決裁基準を示すものではなく,その後の改廃や個別事件の実際の決裁経過までは,これらの資料からは分からない。
関連する制度の説明は,検察権行使の機関も参照されたい。
第2 4つの資料の役割
| 資料 | 何を定めているか | 読む際の注意 |
|---|---|---|
| 執務規程(令和6年4月1日現在) | 部局の所管,事務の決裁・専決・代決等の基本事項 | 第26条は,事件の配点,処理,公判立会い,上訴等に関する必要な事項を別に定めるとしている |
| 令和6年6月10日付検事正通達・名地企発第96号 | 事件の配点,捜査事件の処分決裁 | 配点と処分決裁は別の項目である |
| 同日付次席検事通知・名地企発第97号 | 処分決裁に関する「次席検事が指定する事件」 | 対象庁及び除外される事件を確認する必要がある |
| 同年10月15日付次席検事通知・名地交発第14号 | 自動車運転死傷処罰法の事件の決裁の運用 | 本庁・支部の経由先と,処分の種類による区別がある |
6月の通達が処分決裁の基本区分を置き,同日の次席検事通知がその指定事件を具体化し,10月の通知が交通事件の運用を示している。
この関係を踏まえ,指定事件の一覧だけで最終決裁者を決め付けないことが大切である。
各地の検察庁の執務規程に掲載した大阪地検の昭和61年12月15日付通知や,神戸地検の平成7年8月28日付通達にも,事件の種類と役職を対応させた決裁区分表がある。
大阪の掲載資料の別表の備考には,部長(又は副部長)限りの決裁事項についても,必要があると思料するときは次席検事及び検事正の決裁を受ける旨の記載がある。
神戸の掲載版でも,別表1の一定の事件について,次席検事が検事正の決裁を必要と認めた場合の区分を別に置いている。
これらは,それぞれの掲載版の表・本文・備考を一緒に読む必要があるという例であり,全国共通の現行基準を示すものではない。
また,徳島地検の平成18年6月26日付通達(掲載版の最終改正表示は令和元年6月12日)の別表2では,○は中間決裁者,◎は最終決裁者を意味する。
名古屋地検の令和6年10月の交通事件の通知の◎・○とは凡例が異なるため,同じ記号だけを取り出して他庁と比較することはできない。
第3 事件の配点は誰が行うのか
名地企発第96号の別添の1は,捜査事件又は公判事件の配点について,検事正が特に指定するものを除き,次の区分を定める。
| 対象 | 配点を行う者 |
|---|---|
| 地検本庁,名古屋区検(交通分室を除く。),春日井・瀬戸・津島の各区検 | 所管部長 |
| 名古屋区検交通分室 | 交通分室長 |
| 地検の支部及びその管内の区検(安城・豊田の各区検を除く。) | 支部長 |
| 安城・豊田の各区検 | その庁の庁務を掌理する検察官 |
所管部長又は支部長は,配点を副部長,副支部長又は検事正が指名する検察官にさせることができる。
配点をすべき者に差し支えがある場合の取扱いは,次席検事が定めるところによる。
したがって,「担当検察官が決まった」という事実と「処分の決裁が済んだ」という事実は別である。
第4 捜査事件の処分決裁の原則と例外
名地企発第96号の別添の2(1)は,捜査事件の処分決裁を所管部長又は支部長が行うことを基本とし,その指定する事件について,副部長,副支部長又は検事正が指名する検察官に処分決裁をさせることも認めている。
ただし,次の事件をこの基本区分から除いている。
①請訓又は報告を要する事件
②死刑又は無期懲役の求刑を相当とする事件
③直告事件又は検察官認知事件(明白な不起訴事件等の所管部長又は支部長が次席検事以上の決裁を要しないと判断するものを除く。)
④①から③までのほか,検事正又は次席検事が指定する事件
④の事件のうち,次席検事において検事正の処分決裁を要しないと判断するもの(検事正において別の指示をしたものを除く。)は,次席検事が処分決裁をするという規定がある。
このため,「次席検事の指定事件である」ことだけを根拠に,常に次席検事の決裁で終わるとはいえない。
また,名古屋区検交通分室で取り扱う道路交通法違反事件及び自動車の保管場所の確保等に関する法律違反事件については,交通部長が特に指定したものを除き,交通分室長が処分決裁をするという別の区分がある。
同じ「交通事件」という呼び方でも,この規定と,自動車運転死傷処罰法の事件に関する10月の運用通知とは区別して読む必要がある。
なお,ここで掲げた「懲役」等の表記は令和6年の資料の記載に対応するものである。
その後の法改正に合わせた内部規程の改定内容までを示しているわけではない。
第5 「次席検事が指定する事件」の範囲
1 通知が対象にする庁
名地企発第97号は,地検本庁又は名古屋・春日井・瀬戸・津島の各区検において処分決裁をする事件を対象としている。
この通知の指定基準を,そのまま名古屋地検管内のすべての支部に共通する基準として紹介することはできない。
2 公判請求をする事件
通知の1は,公判請求事件を原則として指定する一方,一定の類型を除外する。
除外されるのは,窃盗・占有離脱物横領・常習累犯窃盗のうち現行犯人逮捕に係るもの,薬物事犯のうち営利目的のない所持・使用等,道路交通法違反のうち無免許・速度違反・飲酒運転,出入国管理及び難民認定法違反のうち不法入国・不法残留・不法在留,青少年保護育成条例違反,いわゆる迷惑防止条例違反及び屋外広告物条例違反の各事件であり,さらに,その他の事件であって所管部長が次席検事の決裁を要しないと判断したものも除かれている。
ただし,新任検事が主任検察官であるものは,この除外の限りでないとされている。
これは,列挙された除外類型に当たっても,新任検事が主任検察官であれば1の指定対象となるという意味で読むことになる。
3 不起訴処分をする事件
通知の2は,法定刑の下限が懲役1年以上の罪に係る不起訴事件及び重要な問題点を含む不起訴事件を指定する。
ただし,所管部長が次席検事の決裁を要しないと判断した事件は除かれている。
資料が基準としているのは,法定刑の上限や実際に見込まれる刑ではなく,法定刑の下限である。
4 特に指示された事件
通知の3は,1及び2のほか,次席検事において特に指示した事件を挙げる。
以上の指定基準だけでは,特定の事件が実際にどの指示を受け,誰の決裁に付されたかまでは判定できない。
交通事件については,危険運転事件の起訴・不起訴と検察官の決裁に,10月の通知の表と支部ごとの取扱いを整理した。
第6 代決・専決と,規程から分からないこと
執務規程第21条は,各部局の事務について,順次上司を経て検事正が決裁するという基本形を定め,支部の事務は支部長,区検の事務は庁務を掌理する検察官が,特に定める場合を除き決裁するとしている。
第22条は,別に定める事務について次席検事及び所管の部局の長が決裁するという専決を定め,第23条は,決裁者が出張,休暇等により決裁できない場合において急を要するときの代決と,速やかな経過の報告を定める。
さらに第24条は,職員が担当事務に関し,重要又は特異な事項その他必要があると認める事項について,速やかに上司に報告し,その指揮,命令を受けることを定めている。
配点・処分決裁の通達にも差し支えがある場合の取扱いがあるため,通常の決裁者の一覧だけで,すべての具体的な決裁経路を再現できるわけではない。
また,これらの資料は内部の事務処理を定めるものであり,犯罪の成立要件,証拠の評価,不起訴理由の認定や,決裁手続に違反した場合の起訴の効力について判断した裁判例ではない。
したがって,特定事件について「次席検事が不起訴にした」「決裁規程に違反するから起訴は無効である」といった結論を,この規程だけから導くことはできない。
公判立会いや上訴に関する決裁区分についても,今回取り上げた配点・処分決裁の通達だけで説明し尽くすことはできない。
第7 告訴事件・司法修習との関係
執務規程第5条第1項は,特別捜査部の所管事務のうち検事正があらかじめ指定する事件として,検察官が告訴又は告発を受けた事件,検察官が自ら犯罪を認知した事件及び愛知県警察本部刑事部捜査第二課から送致又は送付を受けた事件を掲げる。
一方で同条第2項は,検事正が,財政経済関係事件又は同条第1項各号の事件に関する事務のうち適当と認められるものについて,事件を指定して他の部に所属する検察官に取り扱わせることができると定めている。
そのため,「検察庁に告訴した事件は必ず特捜部が捜査する」といった説明は正確ではない。
執務規程の別表には,総務部企画調査課の教養係の事務として,司法修習生の修習指導が記載されている。
これは修習指導の庁内所管を示すものであり,各修習生の配属部,担当事件,修習日程を確定する資料ではない。
また,6月の通知にいう「新任検事」と司法修習生は別の立場である。
関連する実務の説明は,検察修習の実際及び名古屋修習の情報にまとめている。
第8 資料と関連記事
①名古屋地方検察庁執務規程(令和6年4月1日現在)(第5条,第21条ないし第26条,別表等)
②事件の配点及び処分決裁について(令和6年6月10日付の名古屋地検検事正の通達)(全3頁)
③事件の決裁を要する「次席検事が指定する事件」について(令和6年6月10日付の名古屋地検次席検事の通知)(全2頁)
④「事件の決裁を要する「次席検事が指定する事件」について」の運用について(令和6年10月15日付の名古屋地検次席検事の通知)(全2頁)
⑤各地の検察庁の執務規程
⑥危険運転事件の起訴・不起訴と検察官の決裁―名古屋地検の運用通知を読む
⑦検察官の人事評価―検察官調査表の評価項目,評点,弁護人対応及び保存期間(AI作成)
⑧検察庁ホームページ刑事事件の手続について