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平成24年司法試験刑事系第1問(刑法)の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した23項目と5段階の重み付け(AI作成)

第1 この記事の対象と結論

本記事は,平成24年司法試験刑事系第1問(刑法)の問題と,公式の出題の趣旨・採点実感を踏まえた模範解答及び評価項目を示す。
評価項目は23項目,重み5は6項目,重み合計は88である。
重みは記事独自の重要度であり,法務省の配点ではない。

項目内容
対象問題平成24年司法試験・刑事系科目第1問(刑法)
問題文法務省の問題PDFの物理2頁~4頁を実読
答案の基準時平成24年の試験時における刑法を対象とする。後年の拘禁刑化等を遡及させない
出題の趣旨実読済み。物理9頁~11頁の刑事系第1問の節
採点実感実読済み。物理23頁~26頁の刑事系第1問
主要事項無断担保設定,議事録偽造,再横領,抵当権者に対する背任,共謀共同正犯と身分,罪数
項目数等N=23,n5=6,W=88
主要判例公式趣旨が示す最高裁大法廷平成15年4月23日判決等。各原文の確認範囲は第7に示す
答案分量5000字以内。下記答案の可視本文は見出しを含め,改行を除いて2886字
試験後の改正採用条文は平成19年版と試験時までの改正法を照合。後年の拘禁刑・電磁的記録文書等の文言を紙文書の検討へ混入させない
確認日令和8年11月3日

採用する結論は,甲に文書偽造・行使,抵当権設定と売却の二個の業務上横領,Dに対する背任を認め,乙には後の売却についての共謀共同正犯を認めるものである。
議事録の名義人は総会から作成権限を付与された甲と構成する。
第4に評価表,第5に答案と解説を置く。

第2 評価項目の示し方と重み付けの基準

1 評価項目の示し方

公式の出題の趣旨と採点実感を,一つの項目につき一つの判断対象が分かる形に整理した。
注意点のうち正しい論述の裏返しに当たるものは同じ項目へまとめ,同一の不足を別枠で重ねて減点するものとはしない。
根拠欄の「間接」は一般的説明から当該要求を導いたことを,「記載なし」は対象範囲を実読して独立の記載を認めなかったことを示す。

2 5段階の重み付けの基準

重み5は中核的な法律構成・判断枠組み,4は重要な規範・理由付け・当てはめ,3は通常の検討,2は補助的な検討,1は補足的な言及を表す。
公式資料に登場する回数や両資料への登場だけで重みを決めず,本問で各項目が果たす役割を基準とした。
項目数や合計値は公式得点,合格可能性又は他年度との難易度比較を示さない。

第3 本問の概要

1 問題文と事実関係

A合同会社の代表社員甲は,会社所有地を管理・処分する権限を有する。
甲は,賭博費用で生じた個人の借入金の返済資金を得るため,必要な社員総会の承認を得ず,土地にDのための抵当権を設定した。
承認があったとする議事録を実名署名・自己の印で作成し,Dへ交付して,1億円を借り,抵当権設定登記がされた。

甲は1か月後,他への処分をしないこと等を約し,Dの同意を得て登記を抹消したが,抵当権自体は存続する。
その時点で甲に転売等の意思はなかった。
後に乙が売却を提案した際は甲が拒んだが,さらに借金返済に窮した甲から事情を聞いた乙が売却を勧め,甲も承諾した。

土地はEへ1億円で売却され,所有権移転登記も完了した。
甲は乙に1000万円を払い,残額を私的な返済や賭博に費消した。
乙はEからも300万円の仲介手数料を受けた。
D・Eの善意無過失については,それぞれ問題文が示す取引の承認・正規性についての信頼の範囲で用い,Eが抵当権を知らなかったという事実を補わない。

2 設問が求めること

設問立場・対象指定・仮定・除外到達点
第1問甲・乙の刑法上の罪責特別法違反の点を除く。具体的な事実の摘示を求める各犯罪の成否,共犯関係,身分の処理及び罪数

第4 評価項目と重み

1 抵当権設定と議事録

番号評価項目重み出題の趣旨採点実感
1抵当権設定における横領と背任の関係を,法益と構成要件から区別する410頁(1)24頁3(2)ア①
2他人の物の占有・保管に関する反復継続した事務という業務を示す410頁(1)・間接24頁3(2)ア②③
3濫用のおそれのある支配力を含む占有を定義し,甲の法律上の支配を認定する410頁(1)・間接24頁~25頁3(2)ア④⑤
4A社所有の他人物と,A社から甲への委託信任関係を認定する39頁(1)23頁2・間接
5無断の抵当権設定を不法領得意思の発現と評価し,業務上横領の成否を論じる510頁(1)25頁3(2)ア⑥
6不動産横領の既遂時期を理由とともに示し,登記完了に当てはめる410頁(1)25頁3(2)ア⑦
7偽造・作成者・作成名義人を正確に捉え,内容虚偽と名義冒用を区別する410頁(2)25頁3(2)ア⑧
8議事録の文書全体・定款の授権から名義人を確定し,実名の甲との不一致を論じる510頁(2)25頁3(2)ア⑧
9署名・押印と採用した名義構成に即して,有印・無印を区別する310頁(2)25頁3(2)ア⑨
10行使目的・事実証明文書性及びDへの交付による行使を検討する310頁(2)23頁2

2 売却による甲の責任

番号評価項目重み出題の趣旨採点実感
11先行横領後も他人性と委託占有が残ることから,売却による再横領を検討する510頁(3)23頁~24頁2
12初回の罪名を導いた基準と矛盾せず,後の売却の罪名を選ぶ310頁~11頁(3)24頁3(1)・間接
13Dに対する自己の債務と抵当権保全事務を区別し,他人事務処理者性を論じる510頁~11頁(3)23頁~24頁2・25頁3(2)ア⑫
14Dに対する任務違背・図利目的・対抗不能による財産損害を具体的に認定する410頁(3)・間接23頁~24頁2・間接

3 乙の共犯

番号評価項目重み出題の趣旨採点実感
15乙の事情認識・故意を認定して,売却についての意思連絡と共謀時点を示す511頁(5)25頁3(2)イ②
16甲乙がそれぞれ相手方の行為を利用して利益を得る相互利用補充関係を評価する411頁(5)25頁3(2)イ②③
17利益1300万円・犯意誘発・仲介の重要性を総合し,乙の正犯性と教唆等との差を論じる511頁(5)25頁3(2)イ③④
1865条の身分連帯と科刑を区別し,非身分者乙の横領・背任の処理を一貫させる411頁(5)25頁3(2)イ⑤

4 罪数と答案の構成

番号評価項目重み出題の趣旨採点実感
19二個の横領の罪数を,同一主体・客体・法益と追加侵害・意思の別異から理由付ける411頁(4)25頁3(2)ア⑩⑪
20偽造・行使,横領・背任などの全犯罪対を整理し,甲と乙の罪数を示す311頁(4)(5)25頁3(2)イ⑥
21Dの抵当権・Eの所有権取得を前提に,財産処分へ向けた欺罔の有無を簡潔に扱う2記載なし24頁2
22登記抹消時点の虚偽の意思を創作せず,抹消依頼の詐欺論で答案を膨らませない1記載なし25頁3(2)ア⑭
23主要論点に分量を配分し,事実の意味を説明しながら規範・当てはめ・結論をつなぐ411頁末段26頁3(2)エ

5 重みの分布

重み1は1項目,2は1項目,3は5項目,4は10項目,5は6項目であり,総項目数は23,重み合計は88である。
N=1+1+5+10+6=23,W=1+2+15+40+30=88となる。

番号5を重み5としたのは,最初の土地処分に適用する犯罪類型と,後続処分の前提を決める中心争点だからである。
番号8を重み5としたのは,総会名義又は授権された甲という構成の一貫性が偽造の成否を左右するからである。
番号11を重み5としたのは,同一土地に対する二度目の侵害の独立性が後のA社に対する責任を決めるからである。
番号13を重み5としたのは,他人の土地を担保に供した者の背任主体性という独立の中心争点だからである。
番号15を重み5としたのは,乙の関与を犯罪の共同実現へ結び付ける前提であり,単なる意思連絡では足りないからである。
番号17を重み5としたのは,乙の責任形式を決定する,具体的事実評価を要する中心争点だからである。

第5 模範解答

1 答案の前提と表記

平成24年の刑法上の甲乙の罪責を対象とし,特別法は除く。
議事録の名義人を授権された甲とする構成を採り,甲の責任,乙の責任,罪数の順に示す。
答案は法務省の公式解答ではなく,本記事の採用見解による。

2 答案

1 甲の罪責

(1) 抵当権設定

横領罪は委託された個別財産の所有権と信任関係を,背任罪は全体財産と信任関係を保護する。
占有物を領得する行為が両罪に当たる場合,法益侵害は重なるから法条競合として重い横領罪を適用する。
本件では,まず業務上横領罪(刑法253条)を検討する。

業務とは他人の物の占有・保管に関して反復継続する事務をいい,占有には,濫用のおそれのある法律上の支配力も含む。
土地はA社の所有であり,甲にとって他人の物である。
甲は代表社員としてA社の委託に基づき不動産を管理・処分する権限を継続的に有する。
この権限により土地を処分できるから,A社の機関である甲にも業務上の占有がある。

横領とは不法領得の意思を実現する一切の行為であり,その意思は委託の任務に背き,権限なく所有者でなければできない処分をする意思である。
甲は,賭博費用で生じた私的な借入金の返済資金を借りるため,定款上必要な承認を得ず,会社の土地に個人債務1億円を担保する抵当権を設定した。
土地の交換価値を自己の資金調達のために利用する処分であり,不法領得の意思が認められる。

不動産への抵当権設定による横領は,設定登記を備えて第三者にも対抗できる負担を生じさせた時に既遂になると解する。
甲は設定登記を完了し,会社の土地に確実な担保負担を課したから,業務上横領罪が成立する。

(2) 議事録の作成・交付

本件議事録は,A社の利益相反取引承認の事実を証明する文書である。
甲は融資と登記のためDへ提出する予定で作成しており,行使の目的もある。

偽造とは,作成名義人と作成者との人格的同一性を偽ることをいう。
作成者は文書の意思内容を表示した者,名義人は文書全体からその意思内容の表示主体と理解される者である。
氏名が一致しても,表示された資格・権限が人格的同一性を左右する場合がある。

本件では定款が,承認決議をした総会で互選された者が議事録を作成し,署名押印する旨を定める。
別紙は総会の開催,甲の選任,B・Cの承認を記載し,「議事録作成者 代表社員甲」と表示する。
そこで名義人は,単なる甲個人でなく,総会から議事録作成権限を付与された甲と解する。

実際には総会も互選もなく,内容を表示した甲にはその資格・権限がない。
会社の財産処分権限は,総会の意思を証明する文書の作成権限を当然に含まない。
権限ある者が内容だけを偽った場合と異なり,授権された甲の名義を無権限の甲が冒用している。
自署・自己の印によってその名義を表示したので,有印私文書偽造罪(159条1項)が成立する。

甲はこれを必要書類と共にDへ交付し,真正な議事録として認識可能な状態に置いたから,同行使罪(161条1項)も成立する。

(3) 土地の売却

ア A社に対する業務上横領

抵当権設定後も土地はA社の物であり,甲の委託に基づく占有も続く。
甲は,売却代金を自己の借金返済等に充てるため,無断で土地をEへ売却し,移転登記を完了した。
不法領得の意思に基づく処分である。

既に抵当権設定が横領と評価され,担保額と土地時価も同額なので,売却は不可罰的事後行為にすぎないとの反論がある。
しかし,担保設定は交換価値に負担を課しても所有権を会社に残すのに対し,売却はその所有権自体を失わせる。
担保が全額を把握することから,残存する所有権と委託信任関係まで消滅するわけではない。
売却には先行行為の評価に尽くされない新たな侵害があり,再度の業務上横領罪が成立する。

イ Dに対する背任

背任罪(247条)の主体は,信任関係に基づいて他人の財産上の利益を保護する事務を処理する者である。
単なる自己の債務履行者では足りない。

甲はDに借金を返すだけでなく,A社の代表社員として会社所有地の担保設定・登記を担当する立場にあった。
さらに,不売却・再設定禁止と必要時の再登記協力を約して,Dに登記を抹消させた。
これは存続するDの抵当権を保全する事務を引き受けたものである。
土地が甲個人の所有物でないことも踏まえれば,自己の借金返済と別の他人事務を処理する者といえる。

甲は自己の返済資金を得るため,約束に反して売却・移転登記を行った。
Dは登記を欠くため,通常の取引により所有権を取得したEに抵当権を対抗できず,優先弁済を受ける担保の実効性を失う。
EがDを害する背信的な取引をした事情は示されていない。
甲にはこの財産的損害の認識と自己図利目的があり,任務違背もあるから,背任罪が成立する。
A社の所有権侵害とDの担保利益侵害は本人・法益を異にし,後者は前者に吸収されない。

ウ D・Eへの詐欺

Dは善意無過失で必要な承認を信じ,融資額に見合う有効な抵当権を取得する。
Eも甲の権限濫用を知らず,正規の会社取引と善意無過失で信じて相応の土地所有権を取得する。
承認の欠缺や私的費消目的だけから,それぞれの財産処分に向けた欺罔・財産的損害を認めることはできず,詐欺罪は成立しない。

2 乙の罪責

共謀共同正犯(60条)には,共同して犯罪を実現する意思連絡と,それに基づく実行が必要であり,直接実行しない者にも,自己の犯罪としての重要な関与があれば正犯性を認める。

乙は,甲から,会社に無断で抵当権を設定し,登記を抹消した経緯等を聞いた上で,売却を強く勧め,甲も承諾した。
乙はA社の所有権とDの担保利益を害する事情を認識している。
甲は乙の仲介を利用して返済資金を得ようとし,乙は甲の売却を利用して甲から1000万円,Eから300万円を得ようとしており,犯罪の共同実現について相互認識・相互利用補充の意思がある。

乙は犯意を誘発しただけでなく,書類・代金の授受を仲介して取引の実現に重要な役割を果たした。
1300万円という相当の独自利益もあり,単なる教唆・幇助でなく,後の業務上横領と背任の共謀共同正犯となる。
最初の提案は甲に拒絶されており,その時点や先行する抵当権設定・文書作成へ共謀を遡らせない。

乙は土地の占有者でもA社の業務者でもない。
しかし,占有という構成的身分は65条1項により連帯し,業務上横領罪の共同正犯が成立する。
業務という加重身分は同条2項により連帯せず,乙には252条1項の通常横領の刑を科す。
Dの事務処理者という身分を欠く点も,65条1項により背任罪の共同正犯の成立を妨げない。

3 罪数

甲の有印私文書偽造と同行使は通常の手段結果関係にあり,牽連犯(54条1項後段)となる。
文書行使と横領は具体的に利用関係があっても,犯罪類型上通常の手段結果関係にはなく,併合罪である。

二個の横領は主体・客体・保護法益が同じでも,1年以上隔たり,新たな資金需要と意思決定に基づき,担保負担から所有権喪失へ追加侵害を加える独立の行為であるから,包括せず併合罪とする。

後のA社に対する横領とDに対する背任は,一個の売却・移転行為が両罪に触れる観念的競合(54条1項前段)であり,これと先の文書犯罪の科刑上一罪及び初回横領とは併合罪(45条前段)である。
乙については,後の横領の共同正犯(通常横領の刑)と背任の共同正犯が観念的競合となる。

以上

3 出題の趣旨・採点実感を踏まえた解説

(1) 答案と評価項目の対応

答案の1は抵当権設定・議事録・売却について,2は乙の関与について,3は全体の罪数について論じる。
1の設定部分は番号1~6,文書部分は番号7~10,売却部分は番号11~14・21,2は番号15~18,3は番号19・20に対応する。

番号5・8・11・13・15・17が重み5の中核である。
番号4・9・10・12・20~22は,基本要件・行使・一貫性又は補助的検討として同じ論述に接続する。
番号23は各部の説明と分量配分を横断して確認する。

第4の重み5・4の項目について,模範解答との対応を次の表に示す。

番号重み評価項目答案の該当箇所・留保
14抵当権設定における横領と背任の関係を,法益と構成要件から区別する1(1)冒頭
24他人の物の占有・保管に関する反復継続した事務という業務を示す1(1)業務・占有
34濫用のおそれのある支配力を含む占有を定義し,甲の法律上の支配を認定する1(1)業務・占有
55無断の抵当権設定を不法領得意思の発現と評価し,業務上横領の成否を論じる1(1)私的担保設定
64不動産横領の既遂時期を理由とともに示し,登記完了に当てはめる1(1)既遂時期
74偽造・作成者・作成名義人を正確に捉え,内容虚偽と名義冒用を区別する1(2)偽造の定義
85議事録の文書全体・定款の授権から名義人を確定し,実名の甲との不一致を論じる1(2)授権された甲という構成
115先行横領後も他人性と委託占有が残ることから,売却による再横領を検討する1(3)ア・残存所有権と追加侵害
135Dに対する自己の債務と抵当権保全事務を区別し,他人事務処理者性を論じる1(3)イ・自己債務との区別
144Dに対する任務違背・図利目的・対抗不能による財産損害を具体的に認定する1(3)イ・任務違背と対抗不能
155乙の事情認識・故意を認定して,売却についての意思連絡と共謀時点を示す2・事情認識と合意
164甲乙がそれぞれ相手方の行為を利用して利益を得る相互利用補充関係を評価する2・甲乙それぞれの利用意思
175利益1300万円・犯意誘発・仲介の重要性を総合し,乙の正犯性と教唆等との差を論じる2・利益と仲介の重要性
18465条の身分連帯と科刑を区別し,非身分者乙の横領・背任の処理を一貫させる2・65条と科刑
194二個の横領の罪数を,同一主体・客体・法益と追加侵害・意思の別異から理由付ける3・別意思と追加侵害
234主要論点に分量を配分し,事実の意味を説明しながら規範・当てはめ・結論をつなぐ1~3の規範・事実評価・分量配分

(2) 第1問

ア 抵当権設定と議事録

趣旨(1)は横領・背任の関係を示した上で抵当権設定を評価することを求め,採点実感は業務・占有の理解及び既遂時期の不記載を問題にする。
答案は,保管事務と濫用可能な法律上の支配力を定義し,代表社員の管理処分権を委託占有へ結び付ける(番号1~6)。
登記時既遂の理由は本記事が採用する解釈であり,公式趣旨が既遂時期の唯一の結論を明示したものではない。

趣旨(2)は,議事録の名義を社員総会とする構成と,作成権限を付与された甲とする構成を示す。
答案は後者を採り,実名の一致だけで内容虚偽とせず,定款・総会の互選・資格表示を文書全体として評価する(番号7~10)。
他の名義構成を採る場合も,作成者との同一性及び有印・無印をその構成と一貫させる必要がある。

イ 売却とDに対する背任

趣旨(3)はA社とDを区別し,再横領と他人事務処理者性をそれぞれ検討することを求める。
答案は,担保設定後も所有権と委託占有が残ること,売却が所有権自体を失わせることから,先行行為に評価し尽くされない侵害を示す(番号11・12)。

Dとの関係では,甲個人の返済事務だけでなく,他人所有地の抵当権保全を担当する代表社員という立場と,抹消時の約束を評価する(番号13・14)。
Dに対する土地横領とするのは,土地の所有者がA社であることを取り違える。
D・Eへの詐欺は,取得した担保・所有権を前提とする財産処分に向けた欺罔の問題として短く扱う(番号21)。
抹消時の転売意思を後の結果から創作し,抹消依頼の詐欺を独立して長く論じる必要はない(番号22)。

ウ 乙の共犯と罪数

趣旨(5)は,犯罪を行う意思の相互認識・相互利用補充意思と正犯性を,具体的事実から検討することを求め,採点実感は乙の故意を認定しないまま意思連絡を認めた答案を問題にする。
答案は甲が乙の仲介を利用する利益と,乙が甲の売却を利用する利益を両方向に述べる(番号15・16)。
犯意を誘発したことだけで教唆と決めず,1300万円の利益と書類・代金の仲介を合わせて自己の犯罪としての関与を認める(番号17)。
利益が甲より小さいという一点だけで正犯性を否定するのも適切でない。

占有という構成的身分と業務という加重身分を分け,乙について成立罪と科す刑を区別する(番号18)。
二個の横領の罪数処理は,趣旨が特に理由を求める箇所である。
同じ主体・物・法益という事情に対し,時間の隔たり,新たな意思,追加侵害を示した。
この罪数の理由付けは本記事の見解であり,趣旨が引用する平成15年判決自体が二個の横領の罪数を示したと説明してはいない(番号19・20)。

(3) 答案の弱点と扱わなかった事項

議事録の名義,抵当権保全事務の他人性,既遂時期及び二個の横領の罪数には,採用構成に即した説明を要する。
本答案は一つの許容構成を示すものであり,唯一の模範解答と位置付けない。
特別法上の罪,甲乙以外の者の独立の罪責,民事訴訟による担保回復,独立の代金横領等は設問の中心から外れるため扱わなかった。
判例の原文と法改正履歴の独立照合の限界は第7に示す。

第6 関連記事

1 同じ年度の司法試験の記事

司法試験・司法修習の記事一覧から,同年度の関連記事を参照されたい。

2 同じ科目の別の年度の記事

①平成28年司法試験刑事系第1問(刑法)の模範解答と評価項目
②令和2年度司法試験刑事系第1問の模範解答と評価項目

3 本問の論点に関連する山中弁護士ブログの記事

①法務省HPの司法試験・予備試験の資料の所在
②司法試験の出題法令の基準日

第7 出典及び確認状態

1 公式資料

①平成24年司法試験論文式試験・刑事系科目の問題:物理2頁~4頁の第1問を実読。
②平成24年司法試験論文式試験問題出題趣旨:物理9頁~11頁の刑事系第1問の節を実読。
③平成24年司法試験の採点実感等に関する意見:物理23頁~26頁の刑事系第1問を実読。

2 法令

刑法の旧版のうち45条,54条,60条,65条,157条,159条,161条,246条,247条,252条及び253条を確認した。
日本法令外国語訳データベース掲載の日本語旧版は平成19年法律第54号反映版である。
日本法令索引の刑法沿革により,その後の平成22年法律第26号及び平成23年法律第74号の刑法改正部分を照合し,本稿採用条文に変更がないことを確認した。
刑法全条文の平成24年版を新たに再構成したものではなく,現行条文の文言や刑名を当時の答案へそのまま転記していない。

3 裁判例

公式趣旨は,議事録について最高裁昭和45年9月4日決定(昭和44年(あ)第1421号,刑集24巻10号1319頁)及び最高裁平成15年10月6日決定(平成14年(あ)第1164号,刑集57巻9号987頁),再横領について最高裁大法廷平成15年4月23日判決(平成13年(あ)第746号,刑集57巻4号467頁),背任の主体について最高裁昭和31年12月7日判決(刑集10巻12号1592頁)及び最高裁平成15年3月18日決定(平成11年(あ)第941号,刑集57巻3号356頁),身分共犯について最高裁昭和32年11月19日判決(刑集11巻12号3073頁)を参考判例として挙げる。
この列挙と,昭和31年判決及び昭和32年11月19日判決の判例集の巻号頁は公式趣旨の記載によるもので,その他の事件番号・巻号頁は裁判所HPの裁判例詳細ページで確認した。
このうち,平成15年10月6日決定全3頁,平成15年3月18日決定全2頁,平成15年4月23日判決全4頁を直接確認した。
それぞれ権限を伴う名義,担保価値の保全任務,再横領に関する原文を確認したもので,異なる事案の判示から本問への適用には,第5で示す推論を含む。
別途,最高裁第三小法廷昭和32年7月2日判決(昭和31年(あ)第3710号,集刑119号713頁)の原文全2頁について,業務上横領の非身分者に対する65条1項・2項の処理を確認した。

4 確認状態

問題,出題の趣旨及び採点実感は上記の対象範囲を実読済みである。
公式資料の要求と本記事の評価項目・重みは区別し,名義構成の許容分岐と罪数等の記事独自の理由付けは第5で示した。
上記に全頁確認を記したもの以外の判例原文は,一律に実読済みとは扱わない。
確認日は令和8年11月3日である。