第1 本記事の対象
本記事は,新任の地方裁判所長,家庭裁判所長又は高等裁判所事務局長等を対象とする実務協議会で配布された,最高裁判所事務総局家庭局の「家庭裁判所の現状と課題」を,令和4年度から令和7年度まで読み比べたものである。
資料は,家事事件,人事訴訟事件,少年事件,家事調停,成年後見,子の返還申立事件,家裁調査官,法改正及びデジタル化を一つの冊子で扱う。法令又は個別事件の判断基準ではなく,家庭裁判所が当時どの課題に重点を置いていたかを知るための司法行政資料である。
第2 事件動向から分かること
1 家事事件全体と家事調停
令和4年度夏季資料によれば,令和3年の家事事件及び人事訴訟等事件の新受総件数は115万0372件で,そのうち家事審判事件は96万7413件,家事調停事件は13万2556件であった。
令和7年度夏季資料によれば,令和6年の新受総件数は121万7392件,家事審判事件は104万2229件,家事調停事件は12万8472件である。家事審判事件は増加する一方,家事調停事件は平成30年以降の緩やかな減少から,令和5年以降やや増加へ転じたとされる。
この比較からは,相続放棄及び成年後見関係事件等を含む家事審判事件が全体の増加を強く支えていることが分かる。ただし,統計の対象範囲と集計年をそろえて比較する必要がある。
2 子をめぐる事件と人事訴訟
各年度の資料は,面会交流を含む子の監護に関する処分について,社会的関心が高く,困難な事案も増えているとして,質の高い審理・判断を継続課題に挙げている。
人事訴訟については,新受件数だけでなく,未済事件及び平均審理期間の動向が扱われる。事件数の多少だけで家庭裁判所の負担を判断せず,事件の複雑性と審理期間も確認する必要がある。
3 少年事件
令和4年度夏季資料では,令和3年の少年保護事件の新受人員は4万5873人で,長期的な減少傾向が示されていた。他方,令和7年度夏季資料では,令和6年の新受人員は5万6259人で,令和5年に続いて増加したため今後の動向を注視する必要があるとしている。
長期的な減少と直近の増加を両方示すことが重要であり,一年分の数字だけから傾向を断定することはできない。
第3 デジタル化の位置付け
1 令和5年度以降の独立した章
令和5年度以降の資料は,冒頭に「家裁におけるデジタル化」を独立した章として置き,家事事件手続等と少年審判手続のデジタル化を分けて扱っている。
ウェブ会議の利用,電子データの提出・共有,裁判所内部の事件管理及び当事者の手続利用を,事件の性質や秘匿情報への配慮と併せて検討していることが分かる。
2 民事訴訟の全面デジタル化との区別
令和8年5月21日に全面施行された改正民事訴訟法等は,民事訴訟のオンライン申立て,電子提出・送達及び記録の電子化を対象とする。家事事件,人事訴訟,少年事件等が同日に一律に全面デジタル化されたという意味ではない。
裁判所の民事裁判手続のデジタル化に関する案内は,民事執行,倒産,家事及び少年等の手続について,別の法改正・施行日程があることを示している。家裁資料の記述を現在の運用として用いるときは,対象手続ごとの最新情報を確認する必要がある。
第4 各年度に共通する運用課題
1 家事調停と審理運営
資料は,利用者に分かりやすく納得感のある手続,適切な期日間隔,争点の把握,当事者への説明及び裁判官・家事調停委員・家裁調査官等の連携を継続して取り上げている。
2 成年後見と財産管理
成年後見では,意思決定支援,関係機関との連携,後見制度支援信託等の運用及び制度見直しが扱われる。財産管理関係事件では,不在者財産管理事件と相続財産清算事件の動向が異なるため,事件類型を分けて読む必要がある。
3 家族法改正への対応
嫡出推定制度,氏名の振り仮名,親権・監護等を含む家族法改正について,施行準備,申立てへの対応,関係機関との協議及び庁内研修が年度を追って具体化している。
4 家裁調査官と専門性
家庭裁判所調査官による調査,心理学・社会学等の専門的知見,少年・保護者及び子をめぐる紛争への関与も継続テーマである。裁判官だけでなく,調査官その他の職種を含むチームとして家庭裁判所を捉える必要がある。
第5 資料を読む際の注意点
①統計は原則として資料作成前の暦年の数字である。協議会の開催年度と統計年は一致しない場合がある。
②資料に記載された「課題」又は「取組」は,法的義務や個別事件の結論を示すものではない。
③家事審判,家事調停,人事訴訟,少年審判及び後見では,適用法令,公開性,関与職種及び運用が異なる。該当部分を事件類型ごとに確認する必要がある。