第1 この記事の対象と結論
平成26年司法試験・民事系科目第1問(民法)の解答例と評価表である。
評価項目と重みは公式資料から本記事が独自に整理したものであり,法務省の公式配点・公式解答ではない。
本問は,契約上の性能と賃料の対価関係,流産後の相続と和解の拘束力,土地所有と建物所有に基づく占有の関係を問う。
評価項目は全56項目,重み5は15項目,重み合計は224である。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象問題 | 平成26年司法試験・民事系科目第1問(民法) |
| 公式問題文 | 法務省・平成26年民事系問題PDFの第1問。PDF1頁は表紙,本文は2頁~4頁。 |
| 答案の基準時 | 平成26年の試験実施時。旧95条・旧611条・旧252条を用いる。 |
| 資料の状態 | 問題・趣旨・採点実感はいずれも対象範囲を確認した。趣旨は全科目PDF3頁~6頁の第1問部分,採点実感は全科目PDF14頁~24頁。詳細は第7参照。 |
| 主要事項 | 免震性能,賃料減額と相殺,886条の胎児,和解の効力,返還請求と登記 |
| 項目数と重み | N=56,重み5=15,W=224。公式の得点換算ではない。 |
| 主要裁判例 | 大阪高等裁判所平成19年3月23日判決・平成18年(ネ)第3265号。将来賃料の相殺の補足に用いる。最高裁判例と扱わない。最高裁判所第一小法廷平成25年2月28日判決(平成23年(受)第2094号,民集67巻2号343頁)は,相殺適状の要件の確認に用いる。 |
| 答案の分量 | 枠内本文は見出し・空白・句読点を含め,改行除外3476字,改行込み3593字。全小問合計5000字以内。 |
| 試験後の改正 | 旧95条の錯誤無効,旧611条の減額請求等を現行制度に置き換えない。 |
| 確認日 | 令和8年11月1日。 |
答案では,設問1は旧611条1項類推による当初からの月20万円と過払120万円の相殺により解除を否定する。
設問2はF2500万円,Dの返還4000万円,Bの追加2000万円という,和解の総額を維持する構成を採る。
設問3ではHのKに対する建物収去土地明渡請求を認める。
設問2の返還額は和解の解釈により別の構成も許される。
第4の評価表と,第5の答案・対応表・設問別解説を併せて参照されたい。
第2 評価項目の示し方と重み付けの基準
1 評価項目の示し方
一項目につき一つの判定対象を置き,条文名だけでなく,答案のどの判断を評価するかが分かる形に整理した。
頁数は法務省掲載の各PDFの通し頁であり,趣旨と採点実感では異なる。
明示されていない算定や補足は「間接」,読んだ対象範囲に記載がないものは「記載なし」と示す。
必須・高評価・誤りの回避・許容分岐と,重み1~5は別の軸である。
条件付き項目は,その構成を採った場合だけ適用する。
賃料減額と損害賠償,和解の一部維持と全部否定を,全答案への累積要求にしない。
2 5段階の重み付けの基準
重み5は主ルートの成立・結論を左右する中核,4は重要な要件や法理と効果の接続,3は補充理由・限定・分岐,2は周辺的な注意・記述改善,1は影響の小さい補足である。
どの段階にも一定数を割り当てる方法は採らず,本問での役割から判断した。
重み2の項目がないことも,その結果である。
公式資料にある「優秀」等の答案例は例示であり,機械的な加点表ではない。
ここでの重みも,公式得点,順位,合格確率を示すものではなく,同じ欠陥を重ねて減点する趣旨でもない。
第3 本問の概要
1 問題文と事実関係
詳細は第1の公式問題文を参照されたい。
設問1では,免震構造を理由に周辺より25%高い月25万円で借りた店舗が,通常耐震にとどまり免震化には建替えを要すると判明した。
Aは過去2年の120万円の過払を理由に今後6か月の支払を拒み,Cが解除した。
設問2では,Aが工事事故で死亡し,Dが使用者責任を負う。
Bと胎児が各2分の1の相続人であるとの前提で各4000万円の和解がされ,その後流産し,兄Fも相続人となる。
設問3では,Hが丁土地の持分を順次取得し,Kが丁上の丙建物を贈与されるが,土地の残持分と建物について移転登記がない。
| 時点・与件 | 法的な役割 |
|---|---|
| 平成20年10月~3年間,前月末払い | 相殺対象6か月が契約期間内であり,解除時までに3月分まで期限が来る。 |
| 平成22年9月10日減額請求,9月30日相殺と解する告知 | 過去の減額効果と,今後の債務の精算を分ける。 |
| 平成23年7月25日和解,8月31日支払,9月13日流産 | 流産を当然の合意時錯誤として扱わない。 |
| 土地①出資②登記③売買④未登記,建物⑤贈与⑥未登記 | Hの権利,土地対抗,Kの実体所有と敷地占有を区別する。 |
2 設問が求めること
| 設問 | 立場・対象 | 指定・仮定・除外 | 到達点 |
|---|---|---|---|
| 1 | Aの解除否定の主張 | 事実1~6,下線部の法律上の意義 | 債権発生と相殺から賃料不払の否定へ |
| 2⑴ | FのDへの請求 | A損害1億円。遺族固有損害は除外 | 根拠と額 |
| 2⑵ | DのBへの返還請求 | 和解の趣旨を踏まえる | 和解効力,返還根拠,額 |
| 2⑶ | BのDへの請求 | ⑵でDの請求が認められる場合 | ⑵と整合する根拠と額 |
| 3 | HのKへの収去・敷地明渡し | ①~⑥それぞれの意味を検討 | 所有・占有・登記の要件上の役割と成否 |
第4 評価項目と重み
1 設問1
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | Cの解除が賃料不払を理由とする旧541条の解除であることを示す。(区分:必須) | 4 | p3・設問1第2段落 | p14–15・3(1)ア |
| 2 | Aの主張を賃料債務の消滅による債務不履行の否定として構成する。(区分:必須) | 5 | p3・設問1第3段落 | p15・3(1)ア |
| 3 | 免震性能が契約上の給付内容となることを,割増賃料と説明の事実から根拠付ける。(区分:必須) | 5 | p4・①②の構成説明 | p15–16・3(1)ア |
| 4 | 通常耐震・営業可能・Cも被害者という事情が,採用する救済を妨げるかを検討する。(区分:必須) | 3 | 間接(p3冒頭の事案とp4の要件検討) | 間接(15頁~16頁・要件の当てはめ) |
| 5 | 複数の法理を羅列せず,一つの構成について根拠・要件・効果を一貫させる。(区分:必須) | 4 | p4・複数構成の位置付け | p15–17・3(1)ア・イ |
| 6 | 【適用条件:賃料減額構成】賃料の対価性から,給付不足に対応して賃料を減額する法的根拠を示す。(区分:必須) | 5 | p4・①の法的根拠 | p15–16・3(1)ア |
| 7 | 【許容分岐:旧611条類推】一部滅失の趣旨と性能欠如との共通性・相違を説明する。(区分:許容分岐) | 4 | p4・①の法的根拠 | p15・3(1)ア |
| 8 | 【許容分岐:危険負担】旧536条の要件・趣旨を質的給付不足に接続する。(区分:許容分岐) | 3 | p4・①の法的根拠 | p15・3(1)ア |
| 9 | 【許容分岐:契約解釈】合理的意思という結論だけでなく,その解釈を許す根拠を示す。(区分:許容分岐) | 3 | p4・①の法的根拠 | p15・3(1)ア |
| 10 | 【許容分岐:一部錯誤】契約全部でなく月5万円部分だけが無効となる理由を示す。(区分:許容分岐) | 3 | p4・①の法的根拠 | p16・3(1)ア |
| 11 | 【適用条件:賃料減額構成】請求後だけでなく契約当初から月20万円となることを説明する。(区分:必須) | 5 | p4・①の効果 | p15–16・3(1)ア |
| 12 | 【適用条件:賃料減額構成】25万円の25%を引くのでなく,25万円÷1.25で20万円を導く。(区分:必須) | 4 | 間接(p3–4・20万円と5万円の関係) | 間接(p15–16・減額範囲の説明) |
| 13 | 【適用条件:賃料減額構成】月5万円の24か月分,120万円の不当利得返還請求権を導く。(区分:必須) | 4 | p4・①の効果 | p16–17・3(1)ア・イ |
| 14 | 下線部の発言に相殺の意思表示が含まれると解し,賃料6か月分の消滅まで説明する。(区分:必須) | 5 | p4・設問1末段落 | p16・3(1)ア末段落 |
| 15 | 【許容分岐:損害賠償】559条・旧570条又は旧415条等について,責任要件と月5万円の損害を根拠付ける。(区分:許容分岐) | 4 | p4・②の法的根拠 | p16・3(1)ア |
| 16 | 【適用条件:損害賠償構成】月25万円の将来賃料6か月分にも対処できるよう将来損害を含む相殺を説明する。(区分:必須) | 5 | p4・②の効果 | p16–17・3(1)ア・イ |
| 17 | 借地借家法32条の将来の減額だけで過去2年分を精算できるとしない。(区分:誤りの回避) | 3 | 記載なし | 15頁~16頁・3(1)ア |
2 設問2小問⑴
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 18 | Dの715条による使用者責任をAの損害賠償請求権の発生根拠とする。(区分:必須) | 4 | p4・小問⑴ | p17–19・3(2)ア・イ |
| 19 | Aの損害賠償請求権を896条により相続する構成を示す。(区分:必須) | 4 | p4・小問⑴ | p17–19・3(2)ア・イ |
| 20 | 胎児自身の被害の721条でなく,相続に関する886条2項から流産を処理する。(区分:必須) | 5 | p4・小問⑴⑵ | p17–18・3(2)ア |
| 21 | 子・直系尊属がいない本件で,B4分の3・兄F4分の1の相続分を示す。(区分:必須) | 4 | 間接(p4・小問⑴) | p17–19・3(2)ア・イ |
| 22 | Fの請求額を設問指定の1億円の4分の1,2500万円とする。(区分:必須) | 5 | 間接(p4・小問⑴) | p19・3(2)イ |
| 23 | 当事者でないFにBDの和解・清算条項を及ぼせず,8000万円を基礎にしない。(区分:必須) | 5 | 間接(p4・小問⑴) | p17–19・3(2)ア・イ |
| 24 | 金銭債権が法定相続分に応じて当然分割承継されることを説明する。(区分:高評価) | 3 | 記載なし | p19・3(2)イ |
3 設問2小問⑵
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 25 | 886条の停止条件説又は解除条件説を選び,和解時の胎児の法的地位を明らかにする。(区分:必須) | 4 | p4–5・小問⑵ | p18・20・3(2)ア・イ |
| 26 | 胎児が相続しないことだけから不当利得を導かず,給付の原因となる和解の効力を先に検討する。(区分:必須) | 5 | p4–5・小問⑵ | p18・20・3(2)ア・イ |
| 27 | 和解で争われ互譲された事項と,その前提とされた事項を区別する。(区分:必須) | 5 | p5・小問⑵⑶末段落 | p18–20・3(2)ア・イ |
| 28 | 総額8000万円の確定と相続人への配分を分け,和解の全部又は一部の拘束力を理由付ける。(区分:必須) | 4 | p5・小問⑵ | p19–20・3(2)イ |
| 29 | 【許容分岐:胎児分4000万円返還・総額維持】胎児分の効力を否定する根拠と,Dの4000万円返還請求を接続する。(区分:許容分岐) | 4 | p5・小問⑵⑶ | p19・3(2)イ① |
| 30 | 【許容分岐:全部否定】胎児分にとどまらずB分も失効する理由を示し,Dの8000万円返還請求を導く。(区分:許容分岐) | 4 | p5・小問⑵⑶ | p19–20・3(2)イ② |
| 31 | 【許容分岐:配分修正】和解総額と相続分に従いDの返還請求を2000万円とする解釈の根拠を示す。(区分:許容分岐) | 3 | 間接(p5・和解の趣旨による解釈) | p20・3(2)イ③ |
| 32 | 【許容分岐:錯誤】流産が後発事情である難点を踏まえ,和解時の錯誤の存否を説明する。(区分:許容分岐) | 4 | p5・小問⑵ | p20・3(2)イ |
| 33 | 【許容分岐:錯誤】和解の確定効と,争いの対象外の前提についての錯誤を区別する。(区分:許容分岐) | 3 | p5・小問⑵ | p20・3(2)イ |
4 設問2小問⑶
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 34 | Dの返還請求について採った和解の効力を,Bの請求の根拠と額にも引き継ぐ。(区分:必須) | 5 | p5・小問⑶ | p18–20・3(2)ア・イ |
| 35 | 【適用条件:胎児分4000万円返還・総額維持】和解総額8000万円とBの相続分4分の3から追加2000万円を根拠付ける。(区分:必須) | 5 | p5・小問⑶ | p19・3(2)イ① |
| 36 | 【適用条件:全部否定】本来の1億円の請求権の4分の3,7500万円をBが承継することを説明する。(区分:必須) | 4 | p5・小問⑶ | p19–20・3(2)イ② |
| 37 | 和解をBについて維持しながら,理由なく1億円を基礎に追加3500万円を導かない。(区分:誤りの回避) | 4 | 間接(p5・小問⑶の整合要求) | p18–19・3(2)ア・イ① |
5 設問3
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 38 | 建物収去土地明渡請求を土地所有権に基づく返還請求として位置付ける。(区分:必須) | 5 | p5・設問3冒頭 | p21–23・3(3)ア・イ |
| 39 | 基本要件をHの土地所有とKの土地占有として示す。(区分:必須) | 5 | p5・設問3第2段落 | p21–23・3(3)ア・イ |
| 40 | ①の現物出資をHの共有持分3分の1の取得に結び付ける。(区分:必須) | 4 | p5・設問3第2~3段落 | p22・3(3)イ |
| 41 | 共有持分による構成では旧252条ただし書の保存行為として単独請求できるとする。(区分:許容分岐) | 4 | p5・設問3第3段落 | p22・3(3)イ |
| 42 | ③の売買を残持分の取得に結び付け,全部所有による構成との関係を明示する。(区分:許容分岐) | 4 | p5・設問3第2~3段落 | p22・3(3)イ |
| 43 | 177条の第三者を登記欠缺を主張する正当な利益を有する者とする。(区分:必須) | 4 | 間接(p5・177条の第三者) | p21–22・3(3)ア・イ |
| 44 | 丁土地の無権原占有者Kが177条の第三者に当たらない理由を示す。(区分:必須) | 4 | p5・設問3第3段落 | p21–22・3(3)ア・イ |
| 45 | ②の土地登記と④の未登記が,Kに対する本件請求の必要条件とならないことを説明する。(区分:必須) | 4 | p5・設問3第2~3段落 | p21–22・3(3)ア・イ |
| 46 | 争いのない主要事実も主張を要し,民訴法179条の証明不要と区別する。(区分:誤りの回避) | 3 | 記載なし | p21・3(3)ア |
| 47 | ⑤の贈与によるKの建物実体所有を明らかにする。(区分:必須) | 4 | p5–6・設問3末段落 | p22・3(3)イ |
| 48 | 建物所有による敷地占有を説明し,⑤を相手方占有要件に接続する。(区分:必須) | 4 | p5–6・設問3末段落 | p22・3(3)イ |
| 49 | ⑥の建物未登記でもKが実体所有者であることを理由に請求でき,②④の土地対抗問題と区別する。(区分:必須) | 4 | p5–6・設問3末段落 | p21–22・3(3)ア・イ |
| 50 | 実体所有者Kへの請求を,実体所有権を失った旧登記名義人への請求と取り違えない。(区分:誤りの回避) | 3 | 記載なし | p22・3(3)ア |
| 51 | ①~⑥を実体法の要件と攻撃防御の構造に配置し,応酬の時間順の羅列にしない。(区分:必須) | 4 | p5–6・設問3全体 | p21–23・3(3)ア・イ |
| 52 | 丙建物が丁土地上にあることを踏まえ,HのKに対する請求の成否を結論付ける。(区分:必須) | 3 | p5–6・設問3末段落 | p22–23・3(3)イ |
| 53 | 設問の①~⑥と自分の要件の附番を混同させない。(区分:誤りの回避) | 1 | 記載なし | p23・3(4) |
6 答案全体
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 54 | 各設問で実体法の根拠・要件・効果を具体的事実へ接続する。(区分:必須) | 4 | p3冒頭・法的構成力の要求 | p14・採点方針,p23–24・4 |
| 55 | 採用した構成と前後の結論を論理的に整合させる。(区分:必須) | 4 | p3冒頭,p4–5・構成と小問の整合 | p14・採点方針,p23・3(4) |
| 56 | 善解によらず意味を読み取れる明確な文章にする。(区分:必須) | 3 | 間接(p3冒頭・的確な論旨) | p23・3(4) |
7 重みの分布
重み5が15項目,4が28項目,3が12項目,2が0項目,1が1項目で,合計56項目,重み合計224である。
重み5は番号2・3・6・11・14・16・20・22・23・26・27・34・35・38・39である。
契約上の給付と賃料,相殺,相続額と和解の効力,返還請求の骨格が中心となる。
第5 模範解答
1 答案の前提と表記
以下は公式資料と照合したAI作成の解答例である。
民法は試験当時の改正前の制度による。
旧95条の効果は無効,旧611条1項は減額請求であり,現行法の当然減額をそのまま適用していない。
答案は1→(1)→アの階層を基本とし,本答案では二段階の見出しで整理した。
答案枠内は改行除外3476字であり,解説は字数に含めない。
個別判例の「判例同旨」という表示は付けず,将来賃料相殺に用いた下級審判決と,本問への解釈上の当てはめを区別する。
2 答案
1 設問1
(1) Cの解除は賃料不払という債務不履行を理由とするもの(民法541条)である。
Aは,下線部の発言が,過払賃料返還請求権と今後6か月分の賃料債権との相殺の意思表示であり,賃料債務が消滅している旨の主張であると説明すべきである。
(2) 賃貸人は契約に従った使用収益をさせる義務を負い,賃料はその対価である。
本件では,免震構造を備えることを理由に周辺より25%高い賃料が設定され,安全性を重視するAにCがその事情を説明している。
したがって,免震性能は契約上の給付内容である。
通常の耐震基準を満たし営業が可能でも,約束された使用収益の一部が欠けている。
民法611条1項は,賃借人の過失によらず物の一部が滅失した場合,給付の減少に応じた賃料減額を認めて対価の均衡を回復する。
その趣旨は,契約上予定された性能が欠け,給付の一部を実現できない場合にも妥当する。
物理的滅失とは異なるが,免震性能は建替え以外に回復不能で,使用収益の質的一部が失われている。
Aに過失もないから,同項を類推適用すべきである。
Cの故意・過失は要件でなく,Cも手抜き工事の被害者であることは妨げにならない。
Aは9月10日に減額を求めている。
契約当初から給付不足が続いていた以上,その時からの対価の不均衡を精算すべきであり,減額の効果も契約当初に遡ると解する。
これは,事情変更後の将来の賃料を改定する借地借家法32条の問題ではない。
免震性能への上乗せが25%であることをCも認めているから,相当賃料は25万円÷1.25=20万円となる。
既払24か月分のうち5万円×24=120万円は法律上の原因を欠く。
AはCに,同額の不当利得返還請求権を有する(703条)。
(3) 両債権はいずれも金銭債権で相互に対立し,Aの返還請求権は直ちに請求できる。
受働債権は平成20年10月から3年間という契約期間内の,金額の特定された6か月分の賃料債権である。
相殺適状には受働債権の弁済期が現実に到来していることを要する(505条1項)。
Aの発言は,6か月分の賃料について期限の利益を放棄する意思表示を含むと解する(136条2項)。
本件でCを害する事情はない。
将来の使用収益を条件とする賃料債権と捉える場合も,先払と同様の精算として,その条件不成就の利益も放棄する趣旨と解する。
これにより弁済期が到来し,相殺適状が認められる。
「今後6か月間」は相殺する対象を示し,その都度相殺する旨の期限を付すものではない。
返してもらうべき120万円を理由に6か月分を払わないという発言は,直ちに対当額を消滅させる相殺の意思表示と解される(506条1項)。
相殺という用語がなくてもよく,意思表示に条件・期限を付すことを禁ずる同項後段にも反しない。
平成22年10月分から平成23年3月分までの賃料は,20万円×6=120万円で相殺により消滅する。
前月末払いのため解除時には3月分まで支払期が到来しているが,不払はない。
よって,この不払を理由とするCの解除は認められない。
2 設問2
(1) 小問⑴
EがDの事業の執行中にクレーン操作を誤ってAを死亡させたことについて,Dは使用者責任を負う(715条1項)。
Aの損害賠償請求権は相続される(896条)。
問題は胎児自身の被害でなくAの権利の承継なので,適用条文は721条でなく886条である。
胎児は相続について生まれたものとみなされるが,死体で生まれた場合にはその取扱いを受けない。
本件では流産により胎児は相続せず,配偶者Bと兄Fが相続人となる。
相続分はBが4分の3,Fが4分の1である(889条1項2号,890条,900条3号)。
金銭債権は相続分に従って分割承継され,Fは1億円の4分の1である2500万円をDに請求できる。
Fは和解の当事者でなく,BにもFの権利を処分する権限はない。
契約の効力は原則として当事者間に限られるから,Dは8000万円の和解や清算条項をFに対抗できない。
(2) 小問⑵
和解は当事者の互譲により紛争を終わらせる契約である(695条)。
本件では,Aの死亡による賠償総額を8000万円と確定する合意と,各相続人の相続分に従って支払う合意を区別して解すべきである。
886条については,胎児は生きて出生したときに相続開始時へ遡って権利を取得するとの停止条件説を採る。
生存出生前の胎児に当然に権利能力や母の代理権を認めるものではない。
流産した以上,胎児を権利者とする和解の部分は効力を生じず,その相続分に対応する4000万円の給付部分には法律上の原因がない。
一方,早期解決のため賠償額を互譲して総額8000万円とした合意まで失効させる必要はない。
各4000万円の支払は当時予定した相続分による配分であり,その金額を事情の変化にかかわらず固定する趣旨ではなく,B自身に帰属する賠償額の算定基準を総額8000万円とする合意は維持されると解する。
Bは胎児分も現に受領し,Dはその給付により損失を被っている。
金銭利得の現存は推認され,反対事情も示されていないから,DはBに対し703条に基づき4000万円を返還請求できる。
B自身の相続分に関する追加給付は別の請求の問題であり,胎児分としての給付を当然にB分の弁済へ変更しない。
相続人や相続分は争われず和解の基礎とされたため,旧95条の錯誤を問題にする余地はある。
しかし,流産は和解後の出来事であり,出生への期待が外れただけで意思表示時の要素の錯誤となるものではない。
現在の相続権・代理権についての誤認を問題にするとしても,和解の確定効(696条)との関係と,総額の確定部分まで無効とする理由を別に示す必要がある。
本件では,前記の配分に関する合意の解釈による部分的処理を採る。
(3) 小問⑶
前記のとおり,Bは総額8000万円とする和解に拘束される。
流産により胎児が遡って相続権を取得しないことが確定し,Bの相続開始時からの相続分は,和解時に予定した2分の1でなく4分の3と確定する。
和解の趣旨に従い,8000万円×4分の3=6000万円の支払を受けるべきである。
B自身の分として既に受領した4000万円を控除し,BはDに和解に基づく2000万円の追加支払を請求できる。
Dの4000万円の返還請求とBの2000万円の追加請求は別個の債権であり,相殺すればBの返還元本は差額2000万円となる。
Fが和解に拘束されず2500万円を請求できることと矛盾しない。
Bについて和解を維持しながら,理由なく1億円を基礎に残額3500万円を請求することはできない。
3 設問3
(1) Hの請求は,丁土地の所有権に基づく返還請求としての建物収去土地明渡請求である。
基本的な要件は,請求者Hの土地所有と,相手方Kの土地占有である。
①の現物出資はHが丁土地の持分3分の1を取得したことを基礎付ける(176条)。
共有者も,無権原の第三者に対し,保存行為として単独で共有物全体の明渡しを求められる(旧252条ただし書)。
したがって,この構成によれば③による残持分取得は不可欠でない。
③の売買によってはHが残り3分の2も取得し,単独所有となる。
こちらの構成では①と③がHの全部所有を基礎付ける。
売買代金を支払った事実もあるが,物権変動は当事者の意思表示によって生じる。
(2) ②は3分の1の取得登記,④は残り3分の2の登記未了である。
177条の第三者は,登記の欠缺を主張する正当な利益を有する者をいう。
丁土地を無権原で占有するKはこれに当たらない。
よってHの持分又は全部所有をKに主張するために登記は必要でなく,②・④は本件請求の成立を左右しない。
①をKが争っていないとしても,所有権を基礎付ける主張は必要である。
争いがなければ証明を要しないこと(民事訴訟法179条)と,主張を要することは別である。
(3) ⑤の贈与によってKは丙建物の実体上の所有権を取得する(176条)。
建物所有者は建物所有を通じてその敷地を占有するから,⑤はKの土地占有を基礎付ける。
⑥の建物登記が未了でも,Kの所有権取得と土地占有を否定できず,Kは収去・明渡義務を免れない。
これは②・④の土地所有権の対抗問題とは異なる。
実体上の建物所有者Kを相手とする本問で,所有権を失った旧登記名義人の責任を論ずる必要はない。
丙建物が実際には丁土地上にある以上,乙土地上にあるとのC・Kの認識から丁土地の利用権が生じることもない。
よってHはKに対し丙建物の収去及び敷地の明渡しを請求できる。
以上
3 出題の趣旨・採点実感を踏まえた解説
(1) 答案と評価項目の対応
答案1は番号1~17,答案2(1)は18~24,同(2)は25~33,同(3)は34~37,答案3は38~53に対応する。
番号54~56は全体に掛かる。
主な中核は,答案1(2)の契約内容・減額と同(3)の相殺,答案2(1)のFの承継額と同(2)(3)の和解の拘束力,答案3(1)の返還請求の二要件である。
重み3以下のうち番号4・17は答案1(2),24は答案2(1),46・50・52・53は答案3,56は全体の表現に対応する。
第4の重み5・4の項目及び条件付きの項目について,模範解答との対応を次の表に示す。
| 番号 | 重み | 評価項目 | 答案の該当箇所・留保 |
|---|---|---|---|
| 1 | 4 | Cの解除が賃料不払を理由とする旧541条の解除であることを示す。(区分:必須) | 答案1(1)。当該段落の規範・事実評価・結論を参照。 |
| 2 | 5 | Aの主張を賃料債務の消滅による債務不履行の否定として構成する。(区分:必須) | 答案1(1)。当該段落の規範・事実評価・結論を参照。 |
| 3 | 5 | 免震性能が契約上の給付内容となることを,割増賃料と説明の事実から根拠付ける。(区分:必須) | 答案1(2)。当該段落の規範・事実評価・結論を参照。 |
| 5 | 4 | 複数の法理を羅列せず,一つの構成について根拠・要件・効果を一貫させる。(区分:必須) | 答案1(2)。当該段落の規範・事実評価・結論を参照。 |
| 6 | 5 | 【適用条件:賃料減額構成】賃料の対価性から,給付不足に対応して賃料を減額する法的根拠を示す。(区分:必須) | 答案1(2)。当該段落の規範・事実評価・結論を参照。 |
| 7 | 4 | 【許容分岐:旧611条類推】一部滅失の趣旨と性能欠如との共通性・相違を説明する。(区分:許容分岐) | 答案1(2)。当該段落の規範・事実評価・結論を参照。 |
| 8 | 3 | 【許容分岐:危険負担】旧536条の要件・趣旨を質的給付不足に接続する。(区分:許容分岐) | 答案1(2)。非採用の独立構成。下記の設問別解説で射程を示す。 |
| 9 | 3 | 【許容分岐:契約解釈】合理的意思という結論だけでなく,その解釈を許す根拠を示す。(区分:許容分岐) | 答案1(2)。非採用の独立構成。下記の設問別解説で射程を示す。 |
| 10 | 3 | 【許容分岐:一部錯誤】契約全部でなく月5万円部分だけが無効となる理由を示す。(区分:許容分岐) | 答案1(2)。非採用の独立構成。下記の設問別解説で射程を示す。 |
| 11 | 5 | 【適用条件:賃料減額構成】請求後だけでなく契約当初から月20万円となることを説明する。(区分:必須) | 答案1(2)。当該段落の規範・事実評価・結論を参照。 |
| 12 | 4 | 【適用条件:賃料減額構成】25万円の25%を引くのでなく,25万円÷1.25で20万円を導く。(区分:必須) | 答案1(2)。当該段落の規範・事実評価・結論を参照。 |
| 13 | 4 | 【適用条件:賃料減額構成】月5万円の24か月分,120万円の不当利得返還請求権を導く。(区分:必須) | 答案1(2)。当該段落の規範・事実評価・結論を参照。 |
| 14 | 5 | 下線部の発言に相殺の意思表示が含まれると解し,賃料6か月分の消滅まで説明する。(区分:必須) | 答案1(3)。将来賃料の精算は公式記載のない補足を含む。(2)参照。 |
| 15 | 4 | 【許容分岐:損害賠償】559条・旧570条又は旧415条等について,責任要件と月5万円の損害を根拠付ける。(区分:許容分岐) | 答案1(2)。非採用の独立構成。下記の設問別解説で射程を示す。 |
| 16 | 5 | 【適用条件:損害賠償構成】月25万円の将来賃料6か月分にも対処できるよう将来損害を含む相殺を説明する。(区分:必須) | 答案1(2)。非採用の独立構成。下記の設問別解説で射程を示す。 |
| 18 | 4 | Dの715条による使用者責任をAの損害賠償請求権の発生根拠とする。(区分:必須) | 答案2(1)。当該段落の規範・事実評価・結論を参照。 |
| 19 | 4 | Aの損害賠償請求権を896条により相続する構成を示す。(区分:必須) | 答案2(1)。当該段落の規範・事実評価・結論を参照。 |
| 20 | 5 | 胎児自身の被害の721条でなく,相続に関する886条2項から流産を処理する。(区分:必須) | 答案2(1)。当該段落の規範・事実評価・結論を参照。 |
| 21 | 4 | 子・直系尊属がいない本件で,B4分の3・兄F4分の1の相続分を示す。(区分:必須) | 答案2(1)。当該段落の規範・事実評価・結論を参照。 |
| 22 | 5 | Fの請求額を設問指定の1億円の4分の1,2500万円とする。(区分:必須) | 答案2(1)。当該段落の規範・事実評価・結論を参照。 |
| 23 | 5 | 当事者でないFにBDの和解・清算条項を及ぼせず,8000万円を基礎にしない。(区分:必須) | 答案2(1)。当該段落の規範・事実評価・結論を参照。 |
| 25 | 4 | 886条の停止条件説又は解除条件説を選び,和解時の胎児の法的地位を明らかにする。(区分:必須) | 答案2(2)。当該段落の規範・事実評価・結論を参照。 |
| 26 | 5 | 胎児が相続しないことだけから不当利得を導かず,給付の原因となる和解の効力を先に検討する。(区分:必須) | 答案2(2)。当該段落の規範・事実評価・結論を参照。 |
| 27 | 5 | 和解で争われ互譲された事項と,その前提とされた事項を区別する。(区分:必須) | 答案2(2)。当該段落の規範・事実評価・結論を参照。 |
| 28 | 4 | 総額8000万円の確定と相続人への配分を分け,和解の全部又は一部の拘束力を理由付ける。(区分:必須) | 答案2(2)。当該段落の規範・事実評価・結論を参照。 |
| 29 | 4 | 【許容分岐:胎児分4000万円返還・総額維持】胎児分の効力を否定する根拠と,Dの4000万円返還請求を接続する。(区分:許容分岐) | 答案2(2)。当該段落の規範・事実評価・結論を参照。 |
| 30 | 4 | 【許容分岐:全部否定】胎児分にとどまらずB分も失効する理由を示し,Dの8000万円返還請求を導く。(区分:許容分岐) | 答案2(2)。非採用の独立構成。下記の設問別解説で射程を示す。 |
| 31 | 3 | 【許容分岐:配分修正】和解総額と相続分に従いDの返還請求を2000万円とする解釈の根拠を示す。(区分:許容分岐) | 答案2(2)。非採用の独立構成。下記の設問別解説で射程を示す。 |
| 32 | 4 | 【許容分岐:錯誤】流産が後発事情である難点を踏まえ,和解時の錯誤の存否を説明する。(区分:許容分岐) | 答案2(2)。錯誤無効の結論は非採用。存否と確定効は答案2(2)末尾で検討。 |
| 33 | 3 | 【許容分岐:錯誤】和解の確定効と,争いの対象外の前提についての錯誤を区別する。(区分:許容分岐) | 答案2(2)。錯誤無効の結論は非採用。存否と確定効は答案2(2)末尾で検討。 |
| 34 | 5 | Dの返還請求について採った和解の効力を,Bの請求の根拠と額にも引き継ぐ。(区分:必須) | 答案2(3)。当該段落の規範・事実評価・結論を参照。 |
| 35 | 5 | 【適用条件:胎児分4000万円返還・総額維持】和解総額8000万円とBの相続分4分の3から追加2000万円を根拠付ける。(区分:必須) | 答案2(3)。当該段落の規範・事実評価・結論を参照。 |
| 36 | 4 | 【適用条件:全部否定】本来の1億円の請求権の4分の3,7500万円をBが承継することを説明する。(区分:必須) | 答案2(3)。非採用の独立構成。下記の設問別解説で射程を示す。 |
| 37 | 4 | 和解をBについて維持しながら,理由なく1億円を基礎に追加3500万円を導かない。(区分:誤りの回避) | 答案2(3)。当該段落の規範・事実評価・結論を参照。 |
| 38 | 5 | 建物収去土地明渡請求を土地所有権に基づく返還請求として位置付ける。(区分:必須) | 答案3(1)。当該段落の規範・事実評価・結論を参照。 |
| 39 | 5 | 基本要件をHの土地所有とKの土地占有として示す。(区分:必須) | 答案3(1)。当該段落の規範・事実評価・結論を参照。 |
| 40 | 4 | ①の現物出資をHの共有持分3分の1の取得に結び付ける。(区分:必須) | 答案3(1)。当該段落の規範・事実評価・結論を参照。 |
| 41 | 4 | 共有持分による構成では旧252条ただし書の保存行為として単独請求できるとする。(区分:許容分岐) | 答案3(1)。共有保存行為と全部所有を別のルートとして明示。 |
| 42 | 4 | ③の売買を残持分の取得に結び付け,全部所有による構成との関係を明示する。(区分:許容分岐) | 答案3(1)。共有保存行為と全部所有を別のルートとして明示。 |
| 43 | 4 | 177条の第三者を登記欠缺を主張する正当な利益を有する者とする。(区分:必須) | 答案3(2)。当該段落の規範・事実評価・結論を参照。 |
| 44 | 4 | 丁土地の無権原占有者Kが177条の第三者に当たらない理由を示す。(区分:必須) | 答案3(2)。当該段落の規範・事実評価・結論を参照。 |
| 45 | 4 | ②の土地登記と④の未登記が,Kに対する本件請求の必要条件とならないことを説明する。(区分:必須) | 答案3(2)。当該段落の規範・事実評価・結論を参照。 |
| 47 | 4 | ⑤の贈与によるKの建物実体所有を明らかにする。(区分:必須) | 答案3(3)。当該段落の規範・事実評価・結論を参照。 |
| 48 | 4 | 建物所有による敷地占有を説明し,⑤を相手方占有要件に接続する。(区分:必須) | 答案3(3)。当該段落の規範・事実評価・結論を参照。 |
| 49 | 4 | ⑥の建物未登記でもKが実体所有者であることを理由に請求でき,②④の土地対抗問題と区別する。(区分:必須) | 答案3(3)。当該段落の規範・事実評価・結論を参照。 |
| 51 | 4 | ①~⑥を実体法の要件と攻撃防御の構造に配置し,応酬の時間順の羅列にしない。(区分:必須) | 答案3(1)~(3)全体。当該段落の規範・事実評価・結論を参照。 |
| 54 | 4 | 各設問で実体法の根拠・要件・効果を具体的事実へ接続する。(区分:必須) | 答案全体。当該段落の規範・事実評価・結論を参照。 |
| 55 | 4 | 採用した構成と前後の結論を論理的に整合させる。(区分:必須) | 答案全体。当該段落の規範・事実評価・結論を参照。 |
(2) 設問1
出題の趣旨は,Aの主張を債務不履行の否定として捉え,賃料月20万円と過払返還の構成,又は賃料月25万円を維持する損害賠償構成を許容している。
採点実感は,根拠法理の羅列や不当利得の結論だけでなく,採用法理の趣旨・要件・効果を説明することを重視する。
答案は,免震性能を契約内容に取り込み,旧611条1項の趣旨を性能の欠如へ及ぼし,契約当初から対価の均衡を回復する構成を採った(番号2・3・5~7・11~14)。
旧611条の文言は物の一部の滅失を対象とするため,原始的な性能欠如へ当然に直接適用できるわけではない。
本答案は,物理的滅失との相違を示した上で質的一部不能へ類推し,請求後だけの減額では過去2年分を処理できないため遡及の理由も示した。
危険負担,契約解釈,一部錯誤を採る場合は,それぞれの根拠や一部無効の範囲を説明する必要があり,全てを併記する要求ではない(番号8~10)。
損害賠償構成では,過去の120万円だけでは月25万円の6か月分150万円に足りない。
559条・旧570条等又は旧415条を採るなら,責任要件と月5万円の損害,今後の月々の損害賠償を含む精算を説明する必要がある(番号15・16)。
Cが被害者であることも,無過失責任の構成と帰責性を要する構成とで役割が異なる。
公式資料に記載のない補足であるが,本答案は将来賃料相殺の条件・期限の問題にも短く触れた。
最高裁判所第一小法廷平成25年2月28日判決(平成23年(受)第2094号,民集67巻2号343頁)は,既に弁済期にある自働債権と弁済期の定めのある受働債権とが相殺適状にあるというためには,受働債権について期限の利益を放棄できるというだけでなく,放棄又は喪失等により弁済期が現実に到来していることを要するとした。
大阪高裁平成19年3月23日判決の裁判所判断部分は,賃料の前払も可能であることを考慮し,賃借人が賃料の支払期限の利益を放棄することも可能であるとし,将来賃料を条件付きとみる場合の利益放棄も検討している。
一方,同判決はその事案の順次相殺の通知を無効としたので,単に同判決が将来賃料の相殺を全面的に認めたと紹介することはできない。
本答案の即時精算という意思解釈は本記事の理解であり,公式資料が述べるものではない。
(3) 設問2小問⑴
採点実感は,胎児の相続について886条でなく721条を用いることと,Fにも8000万円の和解を及ぼすことを問題としている。
答案は,Aの715条の請求権を相続することを出発点に,886条2項と親族関係からFの4分の1を導き,1億円を基礎に2500万円とした(番号18~24)。
Fは和解当事者ではないため,Bが拘束される額とFの基礎額は一致する必要がない。
(4) 設問2小問⑵
出題の趣旨・採点実感は,相続しないから公平のため返すという説明にとどまらず,和解がなぜ効力を失うか,どの範囲で拘束力が残るかを検討することを求める。
答案は停止条件説を明示し,胎児部分は権利者の相続取得が生じないため効力を生じないと説明した上で,総額8000万円を基準にするB自身の合意は維持する(番号25~29)。
各4000万円という額を不変の固定額と扱うのではなく,その算定の基礎と配分を分けた解釈である。
採点実感は,Dの4000万円返還とBの追加2000万円,和解全部の失効によるDの8000万円返還とBの7500万円請求,配分を修正してDの2000万円返還・Bの追加なしという構成を,それぞれの理由と整合性に応じて評価している。
8000万円返還の構成では,胎児分だけでなくB分まで失効する理由が必要である。
本答案が一つを採ったことは,他の構成が不正解であるという意味ではない(番号30・31・36)。
錯誤を用いる場合,和解の争点と前提を区別するだけでは足りず,流産が合意後の出来事であることを処理する必要がある。
現時点の権利能力・代理権の誤認を問題にする余地はあるが,それでも要素性,重大な過失,確定効との関係及び無効の範囲を理由付けなければならない。
答案は錯誤を当然の全部無効の根拠とせず,契約の解釈による処理を採用した(番号32・33)。
(5) 設問2小問⑶
採点実感が強調するのは,小問⑵と⑶の連続性である。
答案はBを総額8000万円の合意に拘束させるので,Bの相続分4分の3に対応する6000万円から自己分4000万円を差し引き,追加2000万円とした(番号34・35・37)。
Bだけは和解の拘束を受けないこととして1億円から追加3500万円を導くことはしない。
Dの4000万円とBの2000万円は別債権で,相殺した差額と各請求額を混同しない。
(6) 設問3
出題の趣旨と採点実感が求める骨格は,所有権に基づく返還請求における請求者所有と相手方占有である。
答案はその二要件を先に置き,①③をHの権利取得,⑤をKの実体上の建物所有を通じた土地占有に配置した。
共有保存行為と全部所有のルートを区別し,どちらの構成でもKは無権原占有者として土地登記の欠缺を主張できないと説明する(番号38~45・47・48・51)。
②④の土地登記は177条の第三者の問題,⑥の建物登記は誰が実体上建物を所有して土地を占有しているかの問題である。
全てを「登記の有無は問題にならない」と一括しない。
Kが実体所有者である本問で,所有権を失った旧登記名義人への請求を論ずる必要もない。
また,所有の事実に争いがなくても主張は必要であり,証明不要と区別する(番号46・49・50・52・53)。
(7) 答案の弱点と扱わなかった事項
旧611条類推の範囲と遡及効果,和解の算定基準と配分の可分性,相殺意思の即時精算という解釈には説明上の争いがある。
本答案は一つの首尾一貫した立場を示すもので,公式唯一の解答ではない。
帰責性や信頼関係破壊の網羅的検討,遺族固有慰謝料,旧登記名義人の責任を広げず,設問の到達点に絞った。
答案の明瞭性と整合性も評価の対象となる(番号54~56)。
(8) 試験後の法改正
債権法改正により錯誤は旧法の無効から取消しの制度へ,賃借物の一部使用収益不能は現行611条の減額の制度へ改められた。
共有物の保存行為に関する条文の置き方も後に変わっている。
これらは本答案の基準時と分け,現行条文をそのまま平成26年の答案へ置き換えない。
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1 同じ年度の司法試験の記事
平成26年の公法系第1問の記事と,総合索引を案内する。
①平成26年司法試験公法系第1問(憲法)の模範解答と評価項目
②司法試験の過去問・参考答案一覧
2 同じ科目の別の年度の記事
①平成30年司法試験民事系科目第1問(民法)の模範解答と評価項目
②平成27年司法試験民事系第1問(民法)の模範解答と評価項目
3 本問の論点に関連する山中弁護士ブログの記事
①処分禁止の仮処分とは―登記請求権の保全,効力と仮差押えとの違い
②司法試験の出題法令の基準日
第7 出典及び確認状態
1 公式資料
①平成26年司法試験問題・法務省掲載ページと民事系問題PDF
②平成26年司法試験論文式試験問題出題趣旨
③平成26年司法試験の採点実感等に関する意見
問題は第1問本文(2頁~4頁),趣旨は全科目PDF3頁の民事系第1問見出しから6頁の第2問開始直前まで,採点実感は全科目PDF14頁~24頁の民事系第1問を確認した。
いずれも上記の法務省掲載PDFで確認した。
2 法令
①民法・e-Gov法令検索
②e-Gov法令API・平成29年4月1日時点の民法
民法95・136・176・177・252・415・505・506・536・541・559・570・601・611・695・696・703・715・721・886・889・890・896・900条を確認した。
借地借家法32条は2013年1月1日施行版,民事訴訟法179条は2012年10月1日施行版を確認した。
e-Govの履歴で遡れる民法の最も古い版は2016年10月13日施行版であり,平成26年5月時点の全文そのものではない。
同版に含まれる平成28年法律第27号(860条の2等)及び同第71号(733条・746条)は本記事の引用条文を改めていない。
答案の基幹命題は平成26年の公式趣旨・採点実感とも照合した。
3 裁判例
①大阪高等裁判所平成19年3月23日判決・平成18年(ネ)第3265号
②最高裁判所第一小法廷平成25年2月28日判決(平成23年(受)第2094号,民集67巻2号343頁)
①の判決本文を確認し,とりわけ6頁~9頁の「当裁判所の判断」を将来賃料相殺の補足に用いた。
2頁~6頁の控訴人の主張と裁判所の判断を区別した。
和解の錯誤や胎児に関する個別の判例原文は本記事で独立に全件確認しておらず,公式資料が許容する構成と条文に基づいて説明している。
4 確認状態
評価項目・5段階の重み・採用した契約解釈・答案は本記事独自の分析である。
公式資料が明示する要求,関連記述からの推論,許容分岐を区別した。
確認日は令和8年11月1日。