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M&Aの契約締結後に実行できないとき―前提条件・延期・解除・条件放棄(AI作成)

第1 契約締結とクロージングは別の段階である

M&Aの最終契約に署名しても,その日に代金の支払と株式の移転を行うとは限らない。
必要な許認可,重要取引先の同意,借換え,経営者保証の解除等を準備し,クロージング日に実行する契約がある。
署名後にこれらの準備が整わないときは,前提条件,準備のための義務,延期・解除の規定を分けて読む。

この記事は,主として非上場会社の株式譲渡を対象に,最終契約の締結後に予定どおり実行できない場合の確認手順を説明する。
前提条件が一つ満たされないことから,契約全体が当然に無効となり,違約金や損害賠償が発生すると決め付けることはできない。

第2 前提条件・誓約事項・解除条項を分ける

1 何の義務に付された前提条件か

クロージングの前提条件(CP)は,買主又は売主が実行日に義務を履行するための条件として定められることがある。
契約自体の効力発生に付された条件なのか,代金支払等の実行義務の条件なのかを確認する。
民法127条の条件に関する規定を挙げるだけでは,個別契約のどの部分が条件付きかまでは決まらない。

例えば,取引先の同意が未取得でも,秘密保持,通常の事業運営,情報提供又は同意取得へ向けた協力の義務は既に発生していることがある。
実行義務の条件が満たされないことと,それまでの義務が存在しないことは別である。

2 条件を満たすために誰が何をするのか

「銀行の同意を得る」という条件だけでなく,誰が相談し,誰が資料を提出し,どの期限までに,どの程度の対応をする義務を負うかを定める。
第三者の判断そのものを保証する義務か,合理的な努力等を尽くす義務かによっても検討は変わる。
条件の未成就と,そのための準備義務の違反を分けて記録する。

3 期限経過後に使える手段を確認する

契約で定めた最終期限までに条件が満たされない場合,誰が解除できるか,通知・催告が必要か,自分の義務違反により未成就を招いた当事者にも解除権があるかを確認する。
契約上の解除条項とは別に法定解除を検討する場合も,民法541条・542条・543条の要件を個別に検討する必要がある。

第3 最終契約後に取得を断念した公表例

ローソンの平成21年3月14日発表は,am/pmの株式及び貸付債権の取得に関する最終契約を同月13日に締結したことを公表し,実行に向けた前提条件として商標権者との合意等を挙げていた。
しかし,同年5月19日の発表では,商標権者との合意形成が困難であること等を踏まえ,協議の結果,株式等の取得を断念した旨を公表した。

この事例は,最終契約の締結発表と買収の実行完了が同じではないことを示す。
一方,企業の発表は裁判所の判断ではなく,契約全文もこれらの発表から確認できない。
誰に契約違反や損害賠償責任があったかまでを,この発表だけで断定することはできない。

第4 実行前に作る条件確認表

1 条件・担当・証拠・期限を一つの表で管理する

次の表は管理のための例であり,すべての案件で各項目が法的な前提条件となるという意味ではない。
実際の契約条項の番号と対応させて使う。

項目確認する証拠担当・期限と未了時の対応
株式の権利・譲渡承認株主名簿,定款,承認決議,必要な株券売主・対象会社。未了の手続と代替日程
重要契約の同意相手方の同意書,対象契約と変更条件相談担当者,回答期限,不同意時の対応
許認可・届出根拠法令,行政庁の確認,受理・許可等の書面必要な手続,実行前後の期限,事業継続への影響
資金・保証解除融資実行条件,返済明細,金融機関の解除書面買主・金融機関・売主。実行順序と資金不足時の扱い
代金・書類の同時履行送金確認方法,交付書類一覧,担当者の連絡先当日の停止判断者,実行記録,完了確認の方法

2 株式譲渡でも同意や許認可の確認を省かない

株式譲渡では対象会社という法人は通常存続するが,契約が支配権の変更に同意・解除等を結び付けていることがある。
いわゆるCOC条項の対象事由,通知・同意の時期及び相手方の権利を読む。
許認可についても,業種別の法令や許可条件により必要な手続が異なるため,「株式譲渡ならすべてそのまま使える」という前提を置かない。

株券発行の有無と当事者間・会社との関係の区別は,名義株の解消方法で整理している。

3 経営者保証は解除の完了を別に確認する

買主が「解除する」と約束したことと,金融機関が保証を解除したことは同じではない。
株式代金を受け取ったことや代表取締役を退任したことだけで,従前の保証が消えるわけでもない。
実行条件,金融機関の判断,返済・借換え,当日の書面確認を連動させる。

具体的な確認は,中小M&Aで経営者保証を残さないためにを参照されたい。

第5 延期する場合と条件を放棄する場合

1 延期は日付以外も見直す

実行日を延ばすときは,新たな実行日と最終期限,追加費用,資金調達の有効期間,通常の事業運営義務,基準財務数値及び表明保証の時点を確認する。
期限変更の合意が,従前の違反の免責や請求権の放棄まで含むのかも明らかにする。
口頭の「少し待つ」という連絡だけで,どの期限が延びたのか曖昧にしない。

2 条件放棄は第三者の承諾や法令を置き換えない

条件を利益として持つ当事者が,契約の定めに従って条件を放棄し,実行を選択できることがある。
ただし,放棄できる者,対象条件,方法及び効果を確認する必要がある。
当事者間の放棄で,行政上必要な許可,銀行の保証解除又は取引先の承諾そのものを作り出すことはできない。

未了事項を残して実行する場合は,対象事項,期限,担当,費用,未了によるリスク及び実行後の請求権を具体的に合意する。
条件放棄と,関連する表明保証違反・誓約違反についての請求権放棄を同一視しない。
「実行後も権利を留保する」と書けば必ず十分というわけではなく,関連条項との整合性を確かめる。

第6 実行しない場合の解除と損害賠償

条件未成就,債務不履行及び損害賠償は別々に検討する。
損害賠償では,民法415条の要件と,契約の責任配分,免責,補償及び違約金の定めを確認する。
融資や第三者同意が得られなかったという結果だけで,常に売主又は買主の責任になるわけではない。

他方,条件が満たされることを故意に妨げたような場合には,民法130条の適用等が問題になり得る。
すべての未成就条件が自動的に満たされたことになる規定ではなく,妨害行為や当事者の立場等を検討する必要がある。

解除等を通知する前に,契約上の根拠,未了条件,準備義務の履行状況,催告・通知及び既に発生した費用を整理する。
解除後も存続する秘密保持,費用負担,紛争解決等の条項と,交付済みの金銭・資料の扱いを確認する。

株式代金・役員退職金の支払関係や後払いの危険は,中小M&Aの売却代金と役員退職金で整理している。

第7 参照資料

民法及びローソンの最終契約締結発表,取得断念の発表を参照した。
発表資料に記載された当時の事実と,個別契約の法的評価を区別する必要がある。

実務上の論点整理として,木俣貴光『企業買収の実務プロセス〔第3版〕』(中央経済社,2021年)も参照した。
本記事の条件確認表は管理のための提案であり,業種別の法令確認や個別契約の判断を置き換えるものではない。