第1 株主が変わることと契約当事者が変わること
株式譲渡では,通常,対象会社の株主が変わっても,取引契約の当事者である対象会社自体は変わらない。
しかし,契約に株主構成や支配権の変更を対象とする条項があれば,事前承諾や通知が必要になることがある。
「契約当事者は同じだから確認不要」と判断せず,重要契約の条項を確認する必要がある。
1 COC条項が対象とする変更を読む
COC条項は,チェンジ・オブ・コントロール,すなわち支配権の変更に着目した条項である。
株式の過半数取得だけを対象とするのか,間接的な支配株主の変更,合併や会社分割,特定者への譲渡まで含むのかは,契約によって異なる。
COCという見出しがなくても,解除事由・通知事項・表明事項などに同じ趣旨の規定が置かれる場合がある。
2 事業譲渡の契約移転と区別する
契約上の地位を別の会社へ移すことは,株式譲渡による株主変更とは別の問題である。
民法539条の2は,契約当事者の一方と第三者による契約上の地位の譲渡について,相手方の承諾を定めている。
事業譲渡で契約当事者を変更する場面と,対象会社を当事者のまま維持する株式譲渡の場面を混同しないことが重要である。
第2 承諾・通知・解除の条項を分けて確認する
1 同じ支配権変更でも契約上の効果は異なる
「事前の書面承諾が必要」,「変更後に通知する」,「相手方が解除できる」,「条件変更を協議する」という条項では,必要な行為とリスクが異なる。
通知すれば承諾を得たことになるとは限らず,回答がないことを承諾と扱えるかも契約の定めを確認する必要がある。
違反時の効果も,条項の文言と具体的事情に即して検討する。
NEDOは,委託研究開発に関係する技術のライセンスについて,支配構造の変化を契機とする解除や条件見直しを扱うCOC条項への留意を示している。
これは当該制度の文脈での留意事項であり,株式譲渡のすべてに法律上の承諾義務を課すものではない。
2 承諾取得の担当・費用・期限を決める
売主と買主の間では,誰が取引先へ説明し,どの資料を提出し,いつまでに承諾を得るかを定める。
情報開示の時期には秘密保持や取引への影響も考慮する。
承諾の条件として保証の追加,取引条件の変更,費用の支払等を求められた場合に,誰の判断と負担で応じるかも決めておくとよい。
第3 M&Aの前提条件と第三者の権利を分ける
1 契約一覧に重要度と対応を記録する
借入れ,賃貸借,販売代理,重要顧客,ライセンス,システム利用などの契約について,支配権変更を対象とする条項の有無を確認する。
対象となる変更,承諾・通知の時期,違反時の効果,担当者,取得証拠を一覧にする。
契約の重要性に応じて,実行前に完了させる事項と,実行後に対応する事項を分ける。
2 売主・買主間の条件放棄だけでは解決しない
承諾取得をM&A契約の実行前提条件とした場合,その条件を放棄して実行するかどうかと,取引先との契約違反がなくなるかどうかは別の問題である。
売主・買主間で条件を放棄しても,第三者が持つ契約上の権利を当然に消滅させることはできない。
承諾未取得のまま実行するなら,取引継続の見通し,代替手段,損失負担を具体的に検討する必要がある。
条件未達時の延期・解除・放棄については,M&Aの契約締結後に実行できないとき―前提条件・延期・解除・条件放棄(AI作成)を参照されたい。
第4 許認可・個人情報・業務継続も別に確認する
契約上の承諾が不要であっても,業法上の届出,許認可,個人情報の取扱いなどの確認が不要になるわけではない。
対象会社の事業と変更の内容ごとに,適用される法令や所管行政庁の手続を調べる必要がある。
一つの承諾書で,すべての制度上の要件を満たせると考えないことが重要である。
また,従来の親会社名義で契約していたシステム等は,対象会社自身が継続利用できる権利を持っているかを確かめる。
対象会社の株主変更だけを確認しても,親会社との契約関係や利用許諾の問題は残り得る。
実行日から請求・受注・決済を続けられるかという業務面からも契約一覧を点検することが望ましい。
第5 参考資料
塩野誠・宮下和昌『事業担当者のための逆引きビジネス法務ハンドブック M&A契約書式編』(東洋経済新報社,2018年)147~149頁の解説を参照した。
具体的な承諾義務と違反時の効果は,対象となる契約の文言と適用法に即して判断する必要がある。
– e-Gov法令検索・民法539条の2
– NEDO「適切なライセンスの実施について(依頼)」・COC条項への留意
– 東洋経済新報社の書籍紹介