メインコンテンツへスキップ
       

遺言書の付言事項とは―法的効力・書き方・文例と相続トラブルを防ぐ注意点(AIリライト)

第1 付言事項の意味と目的

本記事は,令和8年10月18日時点の法令及び公表資料に基づき,付言事項の意味,書き方及び記載上の注意点を説明します。

付言事項とは,財産の分け方などの法的な処分とは別に,家族への感謝,遺言を作った経緯,配分の理由や希望を伝える記載です。
相続人にその内容を理解してもらい,遺言の実現を円滑にする役割がありますが,記載すれば必ず紛争を防げるというものではありません。

宇都宮地方法務局の「遺言について」も,感謝の気持ち,遺言書を作成した経緯や想い,遺産分配の理由など,法的に効力を生じない事項を記載できると説明しています。
付言事項を書くこと自体は,遺言書作成の必須条件ではありません。

第2 法的な強制力と解釈・証拠としての意味

「家族で仲良くしてほしい」などの希望を記載しても,その希望だけで相続人に法律上の義務を課すことはできません。
一方で,付言の記載が遺言本文の意味や生前の財産移動を検討する手掛かりになることはあります。
希望に強制力がないことと,記載された事情が解釈や証拠の資料になり得ることは区別する必要があります。

また,「付言事項」という見出しの下にあるから,すべての記載について法的効果を一律に否定できるわけではありません。
例えば,民法903条3項の特別受益の持戻し免除に当たる意思表示かどうかは,記載の内容と事情を確認して判断する問題です。
希望,事実の説明及び法的効果を持たせる意思表示を混在させず,必要な処分は本文で明確にしておくことが大切です。

具体的な遺言解釈の問題は,「任せる」「託す」と書かれた遺言は有効かで説明しています。
付言を不動産の特定や遺言本文の解釈の資料として読む場面は,未登記建物は誰のものかの第6も参照してください。

第3 書き方と文例

付言は本文の末尾にまとめる方法が一般的ですが,前書きに置くこともあります。
どこに置く場合でも,誰にどの財産を取得させるかという本文の処分と,その理由や気持ちを伝える部分を読み分けられるようにします。
次の文例は気持ちや理由を伝えるための例であり,財産の承継先や取得割合を定める本文の代わりになるものではありません。

1 家族への感謝を伝える文例

私の生活を支えてくれた家族の皆さんに感謝しています。
この遺言は,私が家族それぞれの生活を考えて定めたものです。
相互に事情を理解し,落ち着いて話し合ってくれることを願っています。

2 財産配分の理由を伝える文例

妻に自宅と預貯金を多く残すことにしたのは,これからも住み慣れた家で暮らし,生活費や介護費用を確保してほしいと考えたためです。
子どもたちへの感謝や愛情に差があるためではありません。

理由を書くときも,遺留分の問題が解消するわけではないことに注意が必要です。
財産を実際に承継させる条項については,相続させる遺言と特定財産承継遺言を参照してください。

3 生前贈与を説明する文例

私は,令和○年○月○日,長男○○に住宅取得資金として○万円を贈与しました。
今回の遺産の分け方では,この資金援助も考慮しています。
贈与契約書と振込記録は,保管している関係書類と併せて確認してください。

実際に記載するときは,贈与の相手,時期,対象財産,金額及び裏付け資料を具体的に確認します。
不確かな記憶を確定した事実として書いたり,「既に十分渡した」とだけ書いて根拠を残さなかったりすると,かえって争いになることがあります。

遺言者が「特別受益である」と書いたことだけで,贈与の事実,特別受益への該当性又はその評価額が確定するわけではありません。
相続開始後の調査・立証の進め方は,特別受益を効率よく主張・立証する方法で説明しています。

第4 遺留分を請求しないでほしいという付言の限界

遺言書に「遺留分を請求しないでほしい」と書かれていても,その希望だけで遺留分侵害額請求権が消滅するわけではありません。
遺言者の一方的な希望と,遺留分を有する相続人自身による放棄は別のものです。

相続開始前に遺留分を放棄するには,家庭裁判所の許可が必要です(民法1049条1項)。
裁判所「遺留分放棄の許可」も,遺留分を有する相続人が,被相続人の生存中に許可を得て放棄する手続を案内しています。
付言に希望を書いたことを,この許可の代わりにすることはできません。

他方で,請求する相続人が既に生前贈与を受けていたときは,その受益が遺留分侵害額の計算にどう反映されるかを別に検討します。
付言による権利の消滅と,受益を反映した計算の結果として請求額が減り,又は生じないことは同じではありません。
相続開始後に当事者がする放棄や和解も,遺言者の希望とは区別して,意思表示や合意の内容を確認する必要があります。

遺留分の権利者,放棄及び新旧法の区別は,遺留分に関するメモ書きで説明しています。
付言を読んで請求を迷っている場合も,権利行使の期限を別に確認してください。

第5 自書・本文との整合性などの注意点

1 自筆証書遺言の一部として書く付言も自書する

自筆証書遺言の一部として付言事項を書く場合は,付言の部分も自書します。
東京法務局「遺言書を作成するときの注意点」は,付言をパソコンで作成することを誤りの例として挙げ,自書を要しない例外は財産目録に限られると説明しています。
財産目録をパソコンで作れることを,付言にもそのまま当てはめないようにしてください。

これは自筆証書遺言として作成する場合の注意であり,公正証書遺言の作成方式と混同しないことが必要です。
付言部分に方式上の問題がある場合の遺言全体の効力は,具体的な記載や本文との関係を踏まえて検討する問題です。

2 本文との矛盾や一方的な非難を避ける

本文で定めた財産の取得者や割合と,付言に書いた説明が食い違っていないかを確認します。
葬儀についての希望,祭祀承継者の指定,葬儀費用を誰に負担させるかも,同じ問題として一括せず,それぞれの内容を明確にする必要があります。

相続人への悪口,確認していない財産取得の断定,過去の家族間の争いの蒸し返しは,反発を強めることがあります。
伝える必要のある理由と,記載することで新たな対立を招く表現を分け,家族関係や財産状況が変わったときは本文と併せて見直してください。

葬儀に関する希望と費用の扱いは,遺留分の計算で葬儀費用を差し引けるかも参照してください。

第6 出典及び実務書の記載

現在の制度や作成上の注意については,民法903条,968条,1046条及び1049条,前掲の宇都宮地方法務局,東京法務局及び裁判所の案内を参照してください。
以下では,付言事項の意義や注意点を説明した実務書の記載を紹介します。

1 新版 証書の作成と文例【遺言編】[三訂版]12頁には,付言に関して以下の記載があります。
  法定遺言事項以外にも、遺言者が、遺言の動機、心情、配分を定めた理由、相続人らに対する希望などを遺言書に記載するよう求めることがある。[付言]はその例を示したものである。付言は、本文末尾に記載するのが通常であるが、時に、本文の前書きとして記載することもある。表題は、「付言」のほか、「付言事項」、「付記事項」など多様である。法律上の効果を伴わないものであるが、相続人らに遺言の趣旨を理解してもらい、遺言内容の円滑な実現を図る上で有益なことがある。逆に、本文の内容と抵触したり、その解釈を混乱させるおそれがある記述は避けなければならない。また、生前贈与等について客観的な事実に反する記載をしたり、一部の相続人等に対するいたずらな非難、悪口を記載すると、紛争を誘発、助長させるおそれがあるといわれる。その意味で、付言を記載するか否か、どのような内容を記載するかについても、慎重な配慮が要請される。なお、本文の各条項に織り込んで記載することも当該条項の趣旨を明らかにする点で有用なことがあり得るが、記載の方法が不適当であると、かえって条項の趣旨を不明確にする危険もある。

2 ケース別 特殊な遺言条項 作成と手続のポイント-補充事項・付言事項,祭祀承継等102頁には,「(1) 付言事項の意味と目的」として以下の記載があります。
  遺言事項ではないことを遺言書に書いても、法的効力(強制力)がないだけで、それを書いてはいけないというものではありません。このように法的効力のない記載は「付言事項」と呼ばれています。付言事項は、遺言としての法的効力はありませんが、手紙(メッセージ)としての意味はあり、その記載内容が相続人等に伝わり、それが相続人等の行動に影響を及ぼせば、事実上の効果をもたらすことになります。
  遺言書は、相続紛争の予防を目的に作るものですから、法的効力を期待するのが本来ですが、法的効力のない付言事項が相続人等に一定の効果を及ぼして事実として紛争の予防ができるなら、遺言書に付言事項を書くことは意味があります。

3 改訂 遺言条項例300&ケース別文例集80頁には,「遺言者自身が,遺言書に特別受益の内容や価額を後日判断するための手がかりとなる事実を具体的に記載している場合は,利害関係人間の紛争を事前に予防する事実上の効果を有するから,このような事実があれば,遺言書に具体的に記載しておくとよい」と書いてあり,その条項例として以下の記載があります(同書267頁)。
  遺言者は,長女Aに対し以下のとおり生前に贈与した。遺言者が本遺言において長女Aに遺産を相続させなかったのは,以下のとおり.既に相当額の生前贈与をしたからであり、遺言者は.以上の理由により,長女Aが他の相続人に対し,遺留分減殺請求権を行使しないよう希望する。
① 平成○○年○○月○○日下記記載の土地及び建物(記載略)
② 平成××年××月××日金1000万円
③ (省略)

上記引用の「遺留分減殺請求権」は旧法上の用語です。令和元年7月1日以後に開始した相続について,遺留分権利者は,受遺者又は受贈者に対し,遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求します(民法1046条1項)。

第7 関連記事

公正証書遺言及び遺言無効確認請求訴訟に関する関連論点は,公正証書遺言の「口授」とは―要件・判例・無効訴訟の実務の「関連記事その他」も参照してください。