目次
第1 この記事の対象
第2 広報ハンドブック(令和2年3月版)の「6-4 判決要旨等」
第3 報道機関向けの判決要旨の特徴
第4 判決書・判例集の要旨との違い
第5 弁護士・当事者等への交付
第6 資料の性格
第7 関連記事その他
第1 この記事の対象
1 この記事は,最高裁判所事務総局広報課の広報ハンドブック(令和2年3月版)のうち,報道機関向けの判決要旨・骨子と決定等要旨を扱う「6-4 判決要旨等」を掲載し,その内容を整理するものです。
判決要旨は,裁判所が報道機関の正確な報道のために作成して交付する資料であり,判決書そのものではありません。
2 弁護士が判決要旨の交付を申し出る場合の実務は判決要旨を弁護士が受け取るには―申出時期,便宜供与,静岡地裁令和7年11月27日判決,保存及び情報公開(AI作成)に,判決要旨の取扱いの変遷は判決要旨は誰に交付されるか―広報ハンドブック,平成28年・平成29年の事務連絡,美濃加茂市長事件及び情報公開答申(AI作成)に整理しています。
第2 広報ハンドブック(令和2年3月版)の「6-4 判決要旨等」
・ 最高裁判所広報課の,広報ハンドブック(令和2年3月版)55頁ないし57頁には,「6-4 判決要旨等」として以下の記載があります。
1 判決要旨等の提供の理由等
言渡し前に,記者クラブから広報担当に対して,判決言渡しの際,判決要旨・骨子を配布してほしい旨の要望が出されることがある。
記者は,言渡し後ごく短期間のうちに記事を作成しなくてはならない。記事の予定稿を用意することもあるようであるが,それでも記事をまとめるまでには,非常に慌ただしい作業となる。そのような中で短時間に判決文を読みこなす,あるいは判決理由の朗読を聴いて正確に要点を抽出するということは極めて難しいといえよう。このような状況から,正確な報道のためには,裁判所の方で要旨・骨子を提供するのが有効であるとして,これまでも便宜供与してきたところである。
2 判決要旨等作成のための協力依頼
判決要旨等の作成は広報事務であるが,実際には,事案や判断の内容に精通している裁判体の協力が不可欠である。判決を正確に報道してもらうためであり,記者クラブから要望があった場合には,広報担当者から速やかに裁判部(裁判官)に依頼することになる。
裁判部に判決要旨等の原案作成を依頼する際には,次の点にも配慮を願うとよい。
(1) 長文にならないよう配慮
紙面のスペースには限りがあるため,判決要旨が長文であると,一部がカットされて掲載されることになる。事件にもよるが,新聞に掲載される分量は,長くても3000字程度,骨子は300字程度とされている。これが要旨等の長さの目安になる。
(2) 分かりやすいよう配慮
例えば,当事者複数の民事事件の場合,記者は主文を見て認容総額を把握できないこともある。判決要旨中に認容総額を盛り込むと誤報が防げる。当事者多数の損害賠償事件などでは,認容総額(連帯して支払が命じられたときは,全体で支払うべき額),判決時の原告数と認容した原告数,認容最高・最低額等が分かるような一覧表を用意するなどの工夫が求められる。また,判決要旨の各項目ごとに見出しなどを付けると判決要旨の全体像が分かりやすい。判決要旨は,報道のためのもので,判例集に載せるものではない。重要な法律論であっても,記者が関心を示さないようなものは省き,判決要旨等は,一般読者を想定した,分かりやすいものを作成すべきであろう。
(3) プライバシー情報への配慮
判決要旨等の作成に当たっては,秘匿決定のされた事項等,関係者のプライバシーに関する情報に十分配慮することが求められる。
(4) 判決要旨等の部数への配慮
著名事件では,記者から判決要旨等を複数部数求められることがある。複数の記者が手分けをして記事を書くことがあるためと思われる。可能な範囲で配慮すべきであろう。
(5) 判決要旨を作成できないときの配慮
言渡し直前の要望で,判決要旨作成の時間的余裕がないような場合には,判決写しの要旨に当たる部分に傍線を引くだけでも,記者にとっては理解の助けになる。
3 判決要旨等の配布
判決要旨等は,言渡しがなされた後,広報担当者から記者に配布される例が多いようである。この扱いは,総務課が報道機関への窓口であることから適切といえる。
なお,判決要旨は,速報性が要求される報道機関の利用のために特別に作成したものであるが,刑事訴訟事件においては訴訟関係人から判決要旨の交付を求められることがある。そのような場合には,裁判体の意見を踏まえ,司法行政上の便宜供与として,当該訴訟関係人に対し,報道機関交付用の判決要旨を交付することが相当である。
おって,判決要旨等は,裁判所の広報業務の一環として作成された司法行政文書であることに変わりはなく,司法行政文書の開示の対象になり得るものとして扱う必要があることにも留意すべきである。
4 決定等要旨
仮処分や少年審判等については,公開手続でない以上,原則として,その決定等の写しを報道機関に便宜供与として交付することはないが,社会的に大きな注目を集める著名事件等である場合には,報道機関から決定要旨の提供が求められ,例外的に,決定等の主文を知らせるだけでなく,決定等要旨を作成し,報道機関に交付することがある。特に著名な少年事件では,社会に対する説明責任を果たし,家庭裁判所に対する社会の信頼を損なわないために,ある程度詳細な決定要旨を作成して,迅速に報道機関に交付する必要がある場合もある。
なお,決定等については,関係者への裁判結果の告知等がどの時点でなされたのか明確に分かりにくいところがあるなど,公開手続とは異なる場面が多いことから,報道機関に決定等要旨を交付する際には,裁判部等とよく連携をとる必要がある。
おって,少年事件の被害者等からは,自分たちが結果を知る前に報道されることへの不満が述べられることがある。このような不満への対応の実例として,被害者等(あるいはその代理人弁護士)に審判終了直後に決定要旨を持参又は取りに来てもらったものや,報道機関用より詳しい決定要旨を別途作成して被害者等に渡したものなどがあるので,参考とされたい。
第3 報道機関向けの判決要旨の特徴
1 作成の目的
上記の「6-4」によれば,判決要旨・骨子は,言渡し後のごく短時間で記事を作成しなければならない記者が,判決文を読みこなし,又は判決理由の朗読から正確に要点を抽出することが難しいため,正確な報道のために裁判所が提供する便宜供与です。
記者クラブから言渡し前に要望が出され,広報担当者から裁判部(裁判官)に原案の作成を依頼する流れが想定されています。
2 作成上の配慮
新聞に掲載される分量は,長くても判決要旨が3000字程度,骨子が300字程度とされ,これが要旨等の長さの目安とされています。
当事者多数の損害賠償事件では認容総額等が分かる一覧表を用意するなど,一般読者を想定した分かりやすさが求められています。
秘匿決定のされた事項等のプライバシー情報への配慮,部数への配慮,作成の時間がないときに判決写しの要旨に当たる部分に傍線を引く工夫も挙げられています。
3 配布と交付先
判決要旨等は,言渡しの後に広報担当者から記者に配布される例が多く,総務課が報道機関への窓口であることから適切な扱いとされています。
刑事訴訟事件で訴訟関係人から交付を求められた場合には,裁判体の意見を踏まえ,司法行政上の便宜供与として,報道機関交付用の判決要旨を交付することが相当であるとされています。
また,判決要旨等は司法行政文書であり,司法行政文書の開示の対象になり得るものとして扱う必要があるとされています。
4 決定等要旨
仮処分や少年審判等は公開手続ではないため,決定等の写しを報道機関に交付することは原則としてありませんが,社会的に大きな注目を集める著名事件等では,例外的に決定等要旨を作成して交付することがあるとされています。
少年事件の被害者等への対応の実例として,審判終了直後に決定要旨を持参し又は取りに来てもらった例と,報道機関用より詳しい決定要旨を別途作成して渡した例が紹介されています。
少年事件の報道対応は,少年事件についての報道対応の留意事項にも掲載しています。
第4 判決書・判例集の要旨との違い
1 令和7年度(情)答申第95号は,正式な判決内容は事件記録につづられる判決書に記載されるものであり,判決要旨は正式な判決書そのものではないとしています(同答申8頁)。
判決要旨だけで上訴を判断せず,主文,口頭で告知された内容,正式な判決書及び上訴期間を別に確認する必要があります。
2 上記の「6-4」は,判決要旨は報道のためのもので判例集に載せるものではなく,重要な法律論であっても記者が関心を示さないようなものは省き,一般読者を想定した分かりやすいものを作成すべきであるとしています。
判例集等に掲載される「判示事項」「裁判要旨」は,これとは目的の異なる別の資料です。
その意味と調べ方は最高裁判所判例解説(調査官解説)の意味・読み方・探し方(AIリライト)に整理しています。
第5 弁護士・当事者等への交付
1 令和7年度(情)答申第95号は,判決要旨が主として報道機関へ交付される一方,事件との特別な関係性に照らし,民事事件の当事者又は刑事事件の訴訟関係人等にも,要望を受けて司法行政上の便宜供与として交付されることがあるとしています(同答申4頁)。
弁護士が交付を申し出る時期・申出先・伝える事項,受領後の確認及び保存は,判決要旨を弁護士が受け取るには―申出時期,便宜供与,静岡地裁令和7年11月27日判決,保存及び情報公開(AI作成)に整理しています。
2 静岡地裁令和7年11月27日判決(令和6年(ワ)第699号)は,著名な刑事再審事件の判決要旨を,報道機関には言渡しと並行して5回に分けて交付し,弁護人には期日終了直後に全文を一括して交付した扱いについて,差別的取扱い及び国家賠償法上の違法を否定しました。
判決の内容は,上記の記事の第4に整理しています。
第6 資料の性格
・ 広報ハンドブックは,裁判所職員向けの司法行政実務上の参考資料です。訴訟法上の交付請求権を定める法令ではありません。具体的事件では,現行法令,裁判体及び当該庁の判断並びに最新の裁判例・答申を別に確認する必要があります。
・ 平成25年4月版の同じ項は,要旨・骨子は裁判官に作成してもらうしかないとし,報道機関以外に提供することは基本的に予定されていないとしていました(同版53頁~54頁)。
令和2年3月版は,判決要旨等の作成には裁判体の協力が不可欠であるとし,秘匿決定のされた事項等のプライバシー情報への配慮を加え,刑事訴訟事件の訴訟関係人には報道機関交付用の判決要旨を交付するのが相当であるとしています(同版55頁~56頁)。
この変化と平成28年・平成29年の事務連絡は判決要旨は誰に交付されるか―広報ハンドブック,平成28年・平成29年の事務連絡,美濃加茂市長事件及び情報公開答申(AI作成)に,版の違いとハンドブック全体の構成は最高裁判所の広報ハンドブックとは―総論・一般広報の内容と令和2年3月版の改訂点に整理しています。
第7 関連記事その他
1 東弁リブラ2022年11月号に「ジャーナリズムと弁護士の接点」が載っています。
2 以下の記事も参照してください。
・ 裁判所の報道対応の基礎
・ 司法記者クラブとは―司法記者の仕事,加盟社・所在地,法曹記者クラブとの違い
・ 裁判所の報道発表等
・ 裁判所の取材対応
・ 裁判所の庁舎内(敷地内)写真撮影
・ 法廷内写真撮影
・ 所長等就任記者会見,及び記者会見実施上の一般的な留意事項(最高裁判所の広報ハンドブックからの抜粋)
・ 判決要旨は誰に交付されるか―広報ハンドブック,平成28年・平成29年の事務連絡,美濃加茂市長事件及び情報公開答申
・ 判決要旨を弁護士が受け取るには―申出時期,便宜供与,静岡地裁令和7年11月27日判決,保存及び情報公開
・ 司法修習生による,司法研修所構内の写真撮影禁止に関する文書は存在しないこと
・ 最高裁判所における法廷内カメラ取材運用要領
・ 寺田逸郎最高裁判所長官の就任に伴う写真取材の要領
最高裁の広報ハンドブック(令和2年3月版)を掲載しています。https://t.co/wxJtzdrTuT pic.twitter.com/TtPJ3yu99n
— 弁護士 山中理司 (@yamanaka_osaka) January 9, 2022