第1 司法記者クラブとは
1 裁判所を取材する記者の組織
司法記者クラブは,裁判所を継続的に取材する新聞社・通信社・放送局の記者が組織する記者クラブである。
最高裁判所事務総局広報課が作成した名簿は「司法記者クラブ名簿」と題し,その連絡先の欄では「司法記者会」の名称を用いている。
本記事では,この名簿その他の開示文書に基づき,司法記者クラブの加盟社,所在地,法曹記者クラブとの違い,裁判所がクラブに対して行う便宜供与及び司法記者の仕事を整理する。
2 記者クラブ一般の位置付け
日本新聞協会編集委員会の「記者クラブに関する日本新聞協会編集委員会の見解」(平成14年1月17日,平成18年3月9日一部改定)は,記者クラブを「取材・報道のための自主的な組織」と位置付けている。
同見解は,記者クラブを日本新聞協会加盟社とこれに準ずる報道機関から派遣された記者などで構成されるものとし,参加形態についても,常駐,非常駐,オブザーバー加盟など,各クラブの事情に応じた運用を挙げている。
また,「取材・報道のための組織である記者クラブとスペースとしての記者室は、別個のものだということです。」と述べ,組織としての記者クラブと,公的機関が設ける記者室を区別している。
3 裁判所の広報から見た司法記者クラブ
最高裁判所事務総局広報課の「広報ハンドブック」(令和2年3月版)は,「3-1 報道機関についての基礎知識」の「5 裁判所の記者クラブ」(18頁)で,裁判所を取材する記者らも記者クラブを組織しているとした上で,記者クラブを「常時裁判所関係の取材を行っている記者たちの団体という意味で最も重要な相手方」と位置付けている。
同じ頁は,記者クラブが主体となって裁判所に便宜供与を要請し,裁判所側も記者クラブを相手に各種の申入れや調整を行っているとし,「一定期間ごとの持ち回りで幹事社を決め,この幹事社が,期間中,クラブ各社のまとめ役,連絡役を果たすことが多いようである。」と説明している。
地方では,裁判所を取材する記者クラブが検察庁も併せて取材することが一般的であり,警察や県庁を取材する記者クラブが兼ねている場合もあるとされている(同頁)。
4 資料の時点と限界
本記事が用いる名簿は,平成31年2月18日現在と令和2年5月7日現在のものである。
令和8年10月18日に確認した限りでは,その後の名簿は公表されておらず,現在の加盟社・人数は確認できていない。
大阪高裁・大阪地裁・東京高裁・東京地裁の資料も,それぞれ作成・改定された時点のものであり,現在の運用と同じであるとは限らない。
第2 加盟社と人数
1 最高裁判所事務総局広報課作成の名簿
最高裁判所事務総長は,司法行政文書の開示申出に対し,平成31年2月18日付け司法記者クラブ名簿(平成31年4月26日付け最高裁秘書第2264号)と令和2年5月7日付け司法記者クラブ名簿(令和2年7月8日付け最高裁秘書第1608号)を開示した。
いずれの名簿も,常駐社と非常駐社に分けて,社名,電話番号,人数,キャップ及び記者の氏名を記載する様式である。
記者の氏名と内線番号・電話番号の一部は,行政機関情報公開法5条1号,2号イ及び6号に定める不開示情報に相当するとして開示されなかった。
| 区分 | 平成31年2月18日現在 | 令和2年5月7日現在 |
|---|---|---|
| 常駐社 | 15社・104名 | 15社・104名 |
| 非常駐社 | 20社・39名 | 20社・41名 |
| 合計 | 35社・143名 | 35社・145名 |
令和2年5月7日現在の名簿の合計人数「145」は,手書きで記入されている。
2 常駐社
常駐社は,両時点とも同じ15社であり,各社の人数は次のとおりである。
| 社名 | 平成31年2月18日 | 令和2年5月7日 |
|---|---|---|
| 朝日新聞 | 9名 | 9名 |
| 毎日新聞 | 10名 | 10名 |
| 読売新聞 | 10名 | 10名 |
| 日本経済新聞 | 8名 | 7名 |
| 産経新聞 | 5名 | 6名 |
| 東京新聞 | 6名 | 4名 |
| 北海道新聞 | 3名 | 3名 |
| 共同通信社 | 10名 | 10名 |
| 時事通信 | 6名 | 7名 |
| NHK | 10名 | 11名 |
| 日本テレビ | 5名 | 5名 |
| TBS | 5名 | 6名 |
| フジテレビ | 6名 | 6名 |
| テレビ朝日 | 8名 | 8名 |
| テレビ東京 | 3名 | 2名 |
3 非常駐社
非常駐社は,両時点とも次の20社である。
文化放送,河北新報,新潟日報,毎日放送,ニッポン放送,朝日放送,西日本新聞,日刊工業新聞,茨城新聞,ジャパンタイムズ,東京メトロポリタンテレビ,信濃毎日新聞,神奈川新聞,下野新聞,上毛新聞,アール・エフ・ラジオ日本,福島民報,福島民友,岩手日報及び東奥日報社
第3 所在地
1 最高裁判所と霞が関の2か所
両時点の名簿の欄外には,「司法記者会」の連絡先として,最高裁と霞が関の2つの電話番号が記載されている。
最高裁の番号は,最高裁判所(東京都千代田区隼町4番2号)の代表番号と同じであり,霞が関の番号は,東京高等裁判所・東京地方裁判所・東京簡易裁判所に共通の代表番号(東京都千代田区霞が関1-1-4の庁舎)と同じである(最高裁判所の所在地及び東京高等裁判所の所在地。令和8年10月18日確認)。
いずれも内線番号が併記されていることから,司法記者クラブは,最高裁判所の庁舎と,東京高裁・東京地裁の庁舎の双方に連絡先を持っていると考えられる。
東京弁護士会の会報「LIBRA」2015年9月号の座談会「続・司法記者は語る」(2頁~20頁)でも,司法記者クラブに配属された記者が,東京地裁と東京高裁の刑事・民事の裁判を担当している,地裁の刑事・民事を担当した後に最高裁を担当している,と述べている(3頁)。
2 大阪司法記者クラブ
地方の裁判所にも,裁判所を取材する記者クラブがある。
大阪高等裁判所の「裁判部における大阪司法記者クラブ名簿の利用に関する運用について」(平成29年4月5日,令和元年11月13日改定)は,大阪司法記者クラブ名簿が更新された場合,総務課広報係がその写しを民事訟廷庶務係に15部,刑事訟廷庶務係に6部配布し,各部等は施錠のできる保管庫に保管するなどして適切に管理し,不要となった写しを復元又は判読が不可能な方法で廃棄するとしている。
大阪地方裁判所の「公判前整理手続段階の報道対応について(刑事部,総務課申合せ)」も,本庁に係属する刑事事件の公判前整理手続について大阪司法記者クラブから取材の申出があった場合の対応窓口を総務課広報係としている。
第4 法曹記者クラブとの違い
1 法曹記者クラブは法務省の記者クラブ
司法記者クラブと名前の似た記者クラブに,法曹記者クラブがある。
当ブログ掲載の法曹記者クラブ名簿(平成31年2月18日現在)は,加盟社を計37社とし,電話番号の欄に「法務省代表」と「記者クラブ直通」を記載している。
また,最高裁判所事務総局広報課の平成26年4月1日時点の事務分掌では,報道第二係の担当事項として,「司法記者会に関する事項」と並べて「法曹記者会(法務省)に関する事項」を挙げている。
したがって,法曹記者クラブは法務省を拠点とする記者クラブであり,裁判所を拠点とする司法記者クラブとは別の組織である。
2 最高裁判所との懇談会の案内
司法記者クラブ及び法曹記者クラブと最高裁判所との懇談会(令和元年12月18日開催分)の資料では,最高裁判所事務総局広報課長が,令和元年11月1日付けで「司法記者クラブ員各位」と「法曹記者クラブ員各位」に別々の案内状を出し,各社の論説委員等にも個別に案内している。
案内状によれば,懇談会は最高裁判所特別会議室での立食形式であり,会費は懇談会後に改めて連絡するとされている。
出席者名簿は,「司法記者クラブ員(法ク兼任含む)」24名,「元クラブ員等」11名及び「法曹記者クラブ員」0名の合計35名とし,社ごとに「キャップ」と「最高裁担当者」の印を付けている。
両クラブを兼任する記者がいることと,司法記者クラブの各社にキャップと最高裁担当者が置かれていることがうかがわれる。
令和6年12月18日にも,最高裁判所特別会議室で「司法記者クラブ等と最高裁判所との懇談会」が開かれている(最高裁広報課と司法記者クラブとの懇親会に関する文書(令和6年12月18日開催分))。
第5 裁判所が司法記者クラブに行う便宜供与
1 便宜供与の性格
広報ハンドブック(令和2年3月版)は,報道機関への便宜供与を取材対応の一つと位置付け,裁判報道に当たっての便宜供与として,法廷内の記者席申請への対応,庁舎内・法廷内の写真撮影申請への対応,判決要旨・判決書写しの交付等を挙げている(20頁)。
便宜供与は個別の事案に応じて判断される司法行政上の取扱いであり(後記2の答申参照),記者クラブに加盟していれば一律に受けられるものとは限らない。
具体的な事件での判決要旨の交付と裁判例は,裁判所の報道対応の基礎及び判決要旨等で扱っている。
2 東京の裁判所の対応基準
東京地方裁判所の「司法記者クラブ加盟記者への各種対応基準(民事)」及び「司法記者クラブ加盟記者への各種対応基準(刑事)」(いずれも令和2年4月)は,具体的な取扱いの部分が不開示とされた。
情報公開・個人情報保護審査委員会の令和5年度(情)答申第38号(令和6年1月24日)は,最高裁判所事務総長の説明として,これらの文書は便宜供与の取扱いを類型化したものであり,便宜供与は最終的には裁判体の意向を確認するなどした上で個別の事案に応じて判断する性質のものであるから,記載は事務便宜上の目安にすぎないことを挙げている。
その上で,不開示部分を公にすると,具体の便宜供与の当否が問われることとなり,報道機関の取材活動の存在や内容が推知されて報道機関との信頼関係が損なわれるおそれがあるとして,不開示を妥当とした。
東京高等裁判所の「東京高裁における記者クラブ等への便宜供与(民・刑通常訴訟事件関係)」も,一覧表の部分が不開示とされ,令和3年度(情)答申第34号(令和4年1月25日)は,同様の理由でこれを妥当とした。
3 大阪の裁判所の資料に見る便宜供与
大阪地方裁判所総務課広報係の「裁判報道における便宜供与(民事事件関係)」(令和2年3月18日)は,項目として,期日情報の提供,記者席確保,法廷内写真撮影及び判決写しの交付を挙げている。
刑事事件関係の同じ資料は,期日情報の提供,記者席確保,法廷内写真撮影及び判決要旨の交付を挙げている。
いずれも事務の流れの図の多くが不開示であるが,期日情報の提供では開廷表が広報係を経由すること,記者席は担当部が法廷警察権に基づいて判断することが読み取れる。
開廷表の提供では,秘匿決定や閲覧等制限の対象となった当事者名・被告人名が報道機関に伝わらないようにする手当てが定められている。
大阪地裁の平成27年11月30日付けの申合せは,係属部が翌週分の開廷表を訟廷庶務係に交付する際に仮名処理又はマスキング処理を確認し,訟廷庶務係と総務課広報係も重ねて確認するとしている。
大阪高裁の平成27年12月25日付けの申合せ(令和2年12月14日改訂)も,当事者名が期日情報の一部として一般来庁者や報道機関等に提供されることがないよう,同様の確認を定めている。
4 判決要旨の交付の流れ
大阪地裁の「訴訟関係人に対する刑事訴訟事件の判決要旨の交付について(刑事部;総務課申合せ)」(平成29年3月15日)は,司法記者クラブからの申請により判決要旨を作成する場合の流れを次のとおり定めている。
① 司法記者クラブから総務課広報係に交付申請
② 総務課広報係から担当部に作成依頼
③ 担当部が判決要旨を作成・点検し,仮名処理メモとともに総務課広報係に交付
④ 総務課広報係が確認した上で司法記者クラブに交付
⑤ 訴訟関係人から交付申請があれば,担当部が交付
⑥ 宣告後1週間で総務課広報係と担当部が判決要旨を廃棄
大阪高裁の平成29年1月10日付けの同名の文書も,司法記者クラブからの申請による場合と訴訟関係人からの申請による場合に分けて,ほぼ同じ流れを定めている。
判決要旨の性格と交付先の変遷は,判決要旨の取扱い及び刑事上訴審の事件統計で整理している。
5 開廷表の提供の取扱い
東京地方裁判所が司法記者クラブに開廷表を提供する際の取扱いについては,「民事班その他の業務」と「配布物早見表」と題する書面の抜粋が特定され,その一部が不開示とされた。
令和4年度(情)答申第6号(令和4年5月24日)は,不開示部分には報道機関に対する便宜供与の具体的な方法及び内容が記載されていると認め,これが公になると取材源の秘匿を基本原則とする報道機関と裁判所との信頼関係が損なわれるとして,不開示を妥当とした。
第6 司法記者の仕事
1 所属と担当
広報ハンドブック(令和2年3月版)は,記者を,記者クラブを拠点に取材活動をする「記者クラブ詰め記者」と,記者クラブに属さず企画ものの取材等を行う「遊軍記者」に分けている(16頁)。
新聞の社会部記者について「裁判所をはじめ司法関係を担当する記者はおおむね社会部に所属している。」とし,裁判所を日常的に取材している通信社は共同通信社と時事通信社の2社であるとしている(17頁・18頁)。
裁判所関係の論説は司法担当の論説委員が書き,論説委員には司法担当記者のOBが多いようであるとも述べている(18頁)。
2 座談会に見る日々の取材
前記の「LIBRA」2015年9月号の座談会には,朝日新聞,毎日新聞,読売新聞,NHK及び共同通信の司法記者が出席している。
出席した記者は,司法記者クラブの勤務は記者の中では予定が立ちやすい一方,その日の判決は翌日の新聞に載せるため原稿を書く時間は短いと述べている(5頁)。
その日の裁判は裁判所の期日簿で確認し,記事にするかどうかはクラブのキャップと相談して決めていくとも述べている(5頁)。
記者クラブで配布される資料は毎日確認しているとの発言もある(18頁)。
3 記者会見と幹事社
裁判所の報道発表は,各社への情報伝達に漏れがないよう,記者クラブの幹事社を通じて行うのが一般的であるとされている(広報ハンドブック(令和2年3月版)25頁)。
高裁長官や地家裁所長の就任記者会見では,幹事社が代表質問の事項を裁判所に提出する例がある。
例えば,大阪高裁長官の就任記者会見(令和5年5月26日)の幹事社質問は,幹事社を毎日新聞とNHKとし,民事裁判のIT化,裁判記録の保存,傍聴席でのパソコン使用等を質問事項に挙げている。
就任記者会見の準備は,地家裁所長等の就任記者会見―準備資料・撮影録音・報道対応で扱っている。
座談会では,司法記者クラブで開かれる記者会見には,クラブに加入していない社を含む様々なメディアが出席することがあり,会見後に幹事社へ訂正を申し出ても全てのメディアに伝わるとは限らないとの指摘もある(10頁)。
事件の当事者や代理人が会見を開く場合は,この点を前提に準備する必要がある。
弁護士が取材を受けるときの一般的な確認事項は,弁護士が報道機関の取材を受けるときの確認事項―守秘義務,オフレコ及び原稿確認で扱っている。
第7 出典・関連記事
1 出典
① 日本新聞協会編集委員会「記者クラブに関する日本新聞協会編集委員会の見解」(平成14年1月17日,平成18年3月9日一部改定)
② 最高裁判所事務総局広報課「広報ハンドブック」(令和2年3月版)16頁~18頁,20頁,25頁
③ 最高裁判所事務総局広報課「司法記者クラブ名簿」(平成31年2月18日現在,令和2年5月7日現在)
④ 「法曹記者クラブ名簿」(平成31年2月18日現在)
⑤ 最高裁判所事務総局広報課の事務分掌(平成26年4月1日時点)
⑥ 最高裁判所との懇談会の資料(令和元年12月18日開催分,令和6年12月18日開催分)
⑦ 大阪高等裁判所が開示した司法記者クラブへの情報提供に関する文書(令和3年5月10日付けの開示文書)
⑧ 大阪地方裁判所が開示した司法記者クラブへの情報提供に関する文書(令和3年10月の開示文書)
⑨ 情報公開・個人情報保護審査委員会「令和3年度(情)答申第34号」(令和4年1月25日),「令和4年度(情)答申第6号」(令和4年5月24日)及び「令和5年度(情)答申第38号」(令和6年1月24日)
⑩ 東京弁護士会「LIBRA」2015年9月号の座談会「続・司法記者は語る」(2頁~20頁)
⑪ 最高裁判所「所在地」及び東京高等裁判所「所在地」(令和8年10月18日確認)
2 関連記事
① 裁判所の報道対応の基礎
② 最高裁判所の広報ハンドブックとは―総論・一般広報の内容と令和2年3月版の改訂点
③ 最高裁判所事務総局広報課の事務分掌
④ 裁判所の報道発表等
⑤ 法廷内記者席
⑥ 判決要旨等
⑦ 対象裁判が著名事件等である場合の留意事項
⑧ 歴代の最高裁判所秘書課長兼広報課長
⑨ 大阪地裁の事務分配等
⑩ 裁判所の所持品検査