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判決要旨は誰に交付されるか―広報ハンドブック,平成28年・平成29年の事務連絡,美濃加茂市長事件及び情報公開答申(AI作成)

第1 この記事の対象と基準日

この記事は,裁判所が報道機関向けに作成する「判決要旨」について,平成28年から平成29年にかけて作成・公表された司法行政上の資料(広報ハンドブック,事務連絡,司法行政文書の不開示通知及び情報公開・個人情報保護審査委員会の答申)を整理するものである。
調査の基準日は令和8年9月18日である。
高等裁判所及び最高裁判所における刑事訴訟事件の終局区分別既済人員(平成12年から令和7年まで)と,控訴審の破棄自判に関する最高裁判例は,刑事控訴審・上告審の終局区分別統計―平成12年~令和7年の破棄・棄却の推移と控訴審の破棄自判に関する最高裁判例(AI作成)で扱っている。

判決要旨の交付を申し出る際の現在の実務,申出先及び受領後の扱いは,判決要旨を弁護士が受け取るには―申出時期,便宜供与,静岡地裁令和7年11月27日判決,保存及び情報公開(AI作成)で扱っている。
広報ハンドブック(令和2年3月版)の「6-4 判決要旨等」の全文は,報道機関向けの判決要旨とは―裁判所が配る要旨・骨子の作成手順,分量の目安及び交付先(広報ハンドブック6-4)(AI作成)に掲載している。
この記事は,その前提となった資料の内容と経過を確認するための記事として位置付ける。

判決要旨は正式な判決書そのものではない。
上訴の判断では,判決要旨だけでなく,主文,正式な判決書及び上訴期間を別に確認する必要がある。

第2 判決要旨の性格と取扱いの変遷

1 広報ハンドブックの記載の変化

(1) 平成25年4月版

最高裁判所事務総局広報課の「広報ハンドブック(平成25年4月版)」の「6-4 判決要旨等」には,「要旨・骨子は,速報性が要求される報道機関の利用のために裁判部に特別に作成してもらったものであり,そのような報道機関以外に提供することは基本的に予定されていない。」との記載があった。
同じ箇所には続けて,要旨・骨子も裁判所の広報業務の一環として作成された司法行政文書であり,司法行政文書の開示の対象になり得るものとして扱う必要がある旨が記載されていた。
この記載は「基本的に予定されていない」という表現であり,報道機関以外への提供を禁止する文言ではなかった。

(2) 令和2年3月版

「広報ハンドブック(令和2年3月版)」55頁~57頁の「6-4 判決要旨等」では,判決要旨は速報性が要求される報道機関の利用のために特別に作成したものであるとしつつ,刑事訴訟事件では訴訟関係人から判決要旨の交付を求められることがあるとされた。
そのような場合には,裁判体の意見を踏まえ,司法行政上の便宜供与として,当該訴訟関係人に対し,報道機関交付用の判決要旨を交付することが相当であると記載されている。
同版は,判決要旨等が司法行政文書の開示の対象になり得ることにも引き続き触れている。

同版の該当箇所の全文は,報道機関向けの判決要旨とは―裁判所が配る要旨・骨子の作成手順,分量の目安及び交付先(広報ハンドブック6-4)(AI作成)に掲載している。
広報ハンドブックは裁判所職員向けの司法行政上の参考資料であり,訴訟法上の交付請求権を定める法令ではない。

判決要旨の性格については,裁判所の判決要旨は外部に出してもよいように手を加えたものであり,報道とは異なり正確であるとの評価を述べる次のX投稿もある。

2 平成28年12月20日付事務連絡

(1) 訴訟関係人への交付を相当とした内容

最高裁判所事務総局広報課長及び刑事局第二課長は,平成28年12月20日付で,高等裁判所事務局長及び地方裁判所事務局長に宛てて,事務連絡「訴訟関係人に対する刑事訴訟事件の判決要旨の交付について」を発出した。
同事務連絡は,刑事訴訟事件では,判決書原本の作成が判決宣告後になり判決書謄本の交付に時間を要する場合などに,訴訟関係人から判決要旨の交付を求められることがあるとしている。
その場合には,事務局において,裁判体の意見を踏まえ,司法行政上の便宜供与として,当該訴訟関係人に報道機関交付用の判決要旨を交付することが相当であると考えられるとしている。

同事務連絡は,訴訟関係人から裁判部に交付を求められた場合に備えて,裁判部から事務局に取り次ぐ旨をあらかじめ取り決めておくなど,裁判部と事務局が連携して対応に遺漏がないようにする必要があるとも述べている。
裁判部が報道機関交付用の判決要旨を保管していれば,特段の支障がない限り,事務局と協議した上で裁判部から交付することも考えられるとしている。
この事務連絡の考え方は,前記の令和2年3月版の広報ハンドブックの記載と同じ方向のものである。

(2) 大阪高裁の平成29年1月10日付文書

大阪高裁の平成29年1月10日付文書「訴訟関係人に対する刑事訴訟事件の判決要旨の交付について」は,次のX投稿で画像を掲載している。

3 平成29年7月25日付事務連絡

(1) 交付先を広げた趣旨

最高裁判所事務総局広報課長並びに総務局,民事局,刑事局,行政局及び家庭局の各第一課長は,平成29年7月25日付で,事務連絡「報道機関等への判決要旨等の交付について」を発出した。
同事務連絡は,判決要旨等を交付する目的が裁判結果等の内容を報道機関へ周知し,正確に報道してもらうことにあるとして,司法記者クラブからの依頼に基づいて作成された判決要旨等を,当該司法記者クラブ所属の報道機関に限らず,その目的にかなう報道機関にも交付して差し支えないとしている。

(2) 別紙に挙げられた交付先の例

別紙では,交付先として相当と考えられる報道機関の例として,日本新聞協会,日本専門新聞協会,日本地方新聞協会,日本民間放送連盟,日本雑誌協会及び日本インターネット報道協会(法人会員のみ)の各会員並びに外国記者登録証の保持者等が挙げられている。
他方,司法記者クラブ外の記者から判決要旨等の作成依頼があった場合は,従前どおり各庁の実情に応じて対応するとされている。
この事務連絡は報道機関への交付先を扱うものであり,訴訟関係人への交付を扱う平成28年12月20日付事務連絡とは対象が異なる。

4 経過の一覧

判決要旨の取扱いに関する主な資料を日付順に並べると,次のとおりである。
平成28年12月20日付事務連絡は名古屋高裁判決の約3週間後に発出されているが,両者の関係を示す資料は確認できていない。

年月日資料・出来事内容
平成25年4月広報ハンドブック(平成25年4月版)報道機関以外への提供は「基本的に予定されていない」
平成28年11月28日名古屋高裁判決(美濃加茂市長事件)第1審無罪判決を破棄して有罪
平成28年12月20日最高裁広報課長等の事務連絡訴訟関係人に報道機関交付用の判決要旨を交付することが相当
平成29年1月17日名古屋高裁長官の不開示通知判決要旨の存否を明らかにせず不開示
平成29年5月25日平成29年度(情)答申第4号存否応答拒否は妥当
平成29年7月25日最高裁広報課長等の事務連絡報道機関への交付先の例を提示
令和2年3月広報ハンドブック(令和2年3月版)訴訟関係人への交付が相当と明記
令和7年11月27日静岡地裁判決弁護人への判決要旨の一括交付について国家賠償請求を棄却
令和8年1月16日令和7年度(情)答申第95号報道機関に交付した判決要旨と当事者等に交付した判決要旨を区別

第3 美濃加茂市長事件の判決要旨と司法行政文書の開示

1 事件の経過と判決要旨の交付をめぐる指摘

(1) 第1審無罪から上告棄却まで

美濃加茂市長に対する受託収賄等被告事件では,名古屋地裁平成27年3月5日判決(平成26年(わ)第1494号)が無罪を言い渡した。
名古屋高裁平成28年11月28日判決は,第1審判決を破棄し,懲役1年6月,執行猶予3年及び追徴金30万円を言い渡したと報道されている(裁判長は村山浩昭裁判官)。
同判決は裁判所ウェブサイトに掲載されていない。
主任弁護人であった郷原信郎弁護士の平成29年12月14日のブログ記事によれば,最高裁は同月11日に上告棄却決定をした。
この決定も裁判所ウェブサイトに掲載されていない。

(2) 判決要旨の交付をめぐる弁護人の記述

郷原信郎弁護士の平成28年11月30日のブログ記事「村山浩昭裁判長は,なぜ「自分の目と耳」を信じようとしないのか」によれば,弁護人が名古屋高裁の担当書記官に判決要旨の交付を求めたが,判決謄本ができるまで待ってほしい,弁護人には判決要旨は渡せないとの回答であったとされる。
同記事は,判決言渡しの直後に判決要旨が報道機関に配布されていたとも述べている。
これらは弁護人側の記述であり,裁判所側の資料で確認できるものではない。

2 名古屋高裁の不開示通知と最高裁の理由説明書

(1) 名古屋高裁長官の存否応答拒否

名古屋高裁が報道機関に提供した同判決の判決要旨については,司法行政文書の開示の申出がされた。
名古屋高裁長官の平成29年1月17日付の不開示通知書(名高裁総第28号)は,文書の存否を答えること自体が,公にすると広報事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある情報(行政機関の保有する情報の公開に関する法律5条6号に相当)を開示することになるとして,存否を答えずに不開示とした。

(2) 最高裁判所事務総長の理由説明書

この判断に対する苦情申出について,最高裁判所事務総長は,平成29年2月23日付の理由説明書で,報道機関に交付する判決要旨の交付申請は報道機関の取材活動そのものであり,判決要旨が作成されたこと自体が公開され,個々の報道機関の取材活動の存在や内容が推知されると,取材源の秘匿を基本原則とする報道機関と裁判所との信頼関係を大きく損なうおそれがあると説明した。
同説明書は,本件の判決要旨が報道機関に配布された旨を一部の報道機関が報じていても,存否を秘匿する必要性が減殺されるわけではないとも述べている。

3 平成29年度(情)答申第4号

(1) 委員会の判断

情報公開・個人情報保護審査委員会の平成29年度(情)答申第4号(平成29年5月25日答申)は,名古屋高裁長官の存否応答拒否を妥当とした。
同答申は,報道機関は通常,判決要旨の交付を受けていることを基本的に公にせずに取材活動を行うという最高裁判所事務総長の説明を不合理とはいえないとした。
その上で,存否を明らかにして開示・不開示を判断すると,個別の事件で報道機関への判決要旨の交付・不交付の事実が公になり,取材活動の存在や内容が推知されて,報道機関との信頼関係が損なわれ,広報事務の遂行に支障を及ぼすおそれがあるとした。
なお,答申書のうち,「判決要旨の交付申請は,報道機関の取材活動そのものである。」との文章は,答申書が要約した最高裁判所事務総長の説明の部分にあり,委員会自身の判断の理由とは別である。

(2) 取材源の秘匿をめぐる最高裁決定との関係

取材源の秘密については,最高裁平成18年10月3日決定(第三小法廷,平成18年(許)第19号)の裁判要旨が,民事事件の証人となった報道関係者が民事訴訟法197条1項3号に基づき取材源に係る証言を拒絶できるかどうかは,報道の内容,性質,社会的意義・価値,取材の態様,将来の取材活動が妨げられることによる不利益の内容・程度等と,当該民事事件の内容,性質,社会的意義・価値,証言を必要とする程度,代替証拠の有無等の諸事情を比較衡量して決すべきであるとしている。
同決定は,その上で,当該報道が公共の利益に関するものであって,取材の手段・方法が一般の刑罰法令に触れるとか,取材源となった者が取材源の秘密の開示を承諾しているなどの事情がなく,しかも,当該民事事件が社会的意義や影響のある重大な民事事件であるため,取材源の秘密の社会的価値を考慮してもなお公正な裁判を実現すべき必要性が高く,そのために当該証言を得ることが必要不可欠であるといった事情が認められない場合には,証人は,原則として,取材源に係る証言を拒絶することができるとした。
同決定は証人の証言拒絶の場面の判断であり,司法行政文書の開示の場面に直接当てはまるものではない。
もっとも,同決定が,一定の事情がない限り取材源の秘密を原則として保護する枠組みを示したことと,判決要旨の交付の有無を事件を問わず一律に明らかにしない扱いとの関係は,検討の余地があると考えられる。

4 令和7年度(情)答申第95号による区別

(1) 報道機関交付分と当事者等交付分の区別

令和7年度(情)答申第95号(令和8年1月16日答申)は,静岡地裁における特定事件の判決要旨の開示申出について,報道機関に交付した判決要旨と,民事事件の当事者又は刑事事件の訴訟関係人等(当事者等)に交付した判決要旨を区別して検討した。
同答申は,最高裁判所事務総長が理由説明書で挙げた過去の答申を,報道機関に交付した判決要旨のみを対象とした事案であって本件とは事案が異なるとした。
その上で,当事者等に交付した判決要旨については存否応答拒否を相当でないとしつつ,静岡地裁がこれを保有していないとの説明は合理的であるとして,不存在を理由とする不開示となるべきものとし,結論として原判断を妥当とした。

(2) 判決要旨の保有期間と関連記事

同答申は,判決要旨は交付までの間,交付に必要な部数が一時的に保有されるにすぎず,交付先の記録等を残すことも通常は想定されないとしている。
同答申の詳しい内容及び静岡地裁令和7年11月27日判決(令和6年(ワ)第699号)の内容は,判決要旨を弁護士が受け取るには―申出時期,便宜供与,静岡地裁令和7年11月27日判決,保存及び情報公開(AI作成)で扱っている。

第4 関連記事

判決要旨の内容,申出実務及び交付をめぐる情報公開に関する関連記事は,次のとおりである。
①報道機関向けの判決要旨とは―裁判所が配る要旨・骨子の作成手順,分量の目安及び交付先(広報ハンドブック6-4)(AI作成)
②判決要旨を弁護士が受け取るには―申出時期,便宜供与,静岡地裁令和7年11月27日判決,保存及び情報公開(AI作成)
③裁判所の報道対応の基礎
④不開示事由に該当するとされた下級裁判所の司法行政文書
⑤最高裁判所の司法行政文書-短期保有・廃棄・不存在に関する答申12件(AIリライト)
⑥裁判所の「不存在」答申の読み方―未作成・非保有・一部開示の区別(AI作成)
⑦裁判所の情報公開――通達・司法行政文書の開示手続と判決情報の公開(AIリライト)
⑧刑事控訴審・上告審の終局区分別統計―平成12年~令和7年の破棄・棄却の推移と控訴審の破棄自判に関する最高裁判例(AI作成)
⑨最高裁判所の広報ハンドブックとは―総論・一般広報の内容と令和2年3月版の改訂点(AI作成)
⑩司法記者クラブとは―司法記者の仕事,加盟社・所在地,法曹記者クラブとの違い(AI作成)

第5 出典・参考資料

1 法令

①民事訴訟法(平成8年法律第109号)197条1項3号(e-Gov法令検索。令和8年10月18日確認)

2 裁判例

①最高裁判所第三小法廷平成18年10月3日決定(平成18年(許)第19号,民集60巻8号2647頁,裁判所ウェブサイト)
②名古屋地方裁判所平成27年3月5日判決(平成26年(わ)第1494号,裁判所ウェブサイト)
③静岡地方裁判所令和7年11月27日判決(令和6年(ワ)第699号,裁判所ウェブサイト)
④名古屋高等裁判所平成28年11月28日判決(裁判所HP未掲載。判決書は確認しておらず,日本経済新聞の報道及び弁護人のブログ記事により言渡しの事実を確認)
⑤最高裁判所平成29年12月11日決定(裁判所HP未掲載。決定書は確認しておらず,弁護人のブログ記事により上告棄却決定の事実を確認)

3 司法行政文書・答申

①最高裁判所事務総局広報課「広報ハンドブック(平成25年4月版)」6-4(転載として最高裁判所の広報ハンドブック)
②最高裁判所事務総局広報課「広報ハンドブック(令和2年3月版)」55頁~57頁(該当箇所の転載として報道機関向けの判決要旨とは―裁判所が配る要旨・骨子の作成手順,分量の目安及び交付先(広報ハンドブック6-4)(AI作成))
③最高裁判所事務総局広報課長及び刑事局第二課長「訴訟関係人に対する刑事訴訟事件の判決要旨の交付について」(平成28年12月20日付事務連絡。令和元年7月8日付司法行政文書開示通知書により開示)
④最高裁判所事務総局広報課長ほか「報道機関等への判決要旨等の交付について」(平成29年7月25日付事務連絡。令和元年7月9日付司法行政文書開示通知書により開示)
⑤名古屋高等裁判所長官「司法行政文書不開示通知書」(平成29年1月17日付,名高裁総第28号)
⑥最高裁判所事務総長「理由説明書」(平成29年2月23日付。平成28年度(情)諮問第23号)
⑦情報公開・個人情報保護審査委員会「平成29年度(情)答申第4号」(平成29年5月25日)1頁~4頁
⑧情報公開・個人情報保護審査委員会「令和7年度(情)答申第95号」(令和8年1月16日)1頁~9頁

4 その他の資料

①郷原信郎「村山浩昭裁判長は,なぜ「自分の目と耳」を信じようとしないのか」(郷原信郎が斬る,平成28年11月30日)
②郷原信郎「【藤井浩人美濃加茂市長 冤罪】 日本の刑事司法は‟真っ暗闇”だった!」(郷原信郎が斬る,平成29年12月14日)
③日本経済新聞「美濃加茂市長に逆転有罪 高裁「贈賄側証言に信用性」」(平成28年11月28日)