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判決要旨の取扱い及び刑事上訴審の事件統計-広報ハンドブック,事務連絡,情報公開答申及び平成12年~令和7年の終局区分(AI作成)

第1 この記事の対象と基準日

この記事は,裁判所が報道機関向けに作成する「判決要旨」について,平成28年から平成29年にかけて作成・公表された司法行政上の資料(広報ハンドブック,事務連絡,司法行政文書の不開示通知及び情報公開・個人情報保護審査委員会の答申)を整理するものである。
あわせて,高等裁判所及び最高裁判所における刑事訴訟事件の終局区分別既済人員を,司法統計年報に基づき平成12年から令和7年まで一覧にする。
調査の基準日は令和8年9月18日であり,統計は同日時点で裁判所ウェブサイトに掲載されている司法統計年報(刑事編)平成27年版から令和7年版まで,及び平成12年から平成27年までを集計した推移表PDFによる。

判決要旨の交付を申し出る際の現在の実務,申出先及び受領後の扱いは,判決要旨等で扱っている。
この記事は,その前提となった資料の内容と経過,及び刑事上訴審の統計を確認するための記事として位置付ける。

判決要旨は正式な判決書そのものではない。
上訴の判断では,判決要旨だけでなく,主文,正式な判決書及び上訴期間を別に確認する必要がある。

第2 判決要旨の性格と取扱いの変遷

1 広報ハンドブックの記載の変化

(1) 平成25年4月版

最高裁判所事務総局広報課の「広報ハンドブック(平成25年4月版)」の「6-4 判決要旨等」には,「要旨・骨子は,速報性が要求される報道機関の利用のために裁判部に特別に作成してもらったものであり,そのような報道機関以外に提供することは基本的に予定されていない。」との記載があった。
同じ箇所には続けて,要旨・骨子も裁判所の広報業務の一環として作成された司法行政文書であり,司法行政文書の開示の対象になり得るものとして扱う必要がある旨が記載されていた。
この記載は「基本的に予定されていない」という表現であり,報道機関以外への提供を禁止する文言ではなかった。

(2) 令和2年3月版

「広報ハンドブック(令和2年3月版)」55頁~57頁の「6-4 判決要旨等」では,判決要旨は速報性が要求される報道機関の利用のために特別に作成したものであるとしつつ,刑事訴訟事件では訴訟関係人から判決要旨の交付を求められることがあるとされた。
そのような場合には,裁判体の意見を踏まえ,司法行政上の便宜供与として,当該訴訟関係人に対し,報道機関交付用の判決要旨を交付することが相当であると記載されている。
同版は,判決要旨等が司法行政文書の開示の対象になり得ることにも引き続き触れている。

同版の該当箇所の全文は,判決要旨等に掲載している。
広報ハンドブックは裁判所職員向けの司法行政上の参考資料であり,訴訟法上の交付請求権を定める法令ではない。

判決要旨の性格については,裁判所の判決要旨は外部に出してもよいように手を加えたものであり,報道とは異なり正確であるとの評価を述べる次のX投稿もある。

2 平成28年12月20日付事務連絡

(1) 訴訟関係人への交付を相当とした内容

最高裁判所事務総局広報課長及び刑事局第二課長は,平成28年12月20日付で,高等裁判所事務局長及び地方裁判所事務局長に宛てて,事務連絡「訴訟関係人に対する刑事訴訟事件の判決要旨の交付について」を発出した。
同事務連絡は,刑事訴訟事件では,判決書原本の作成が判決宣告後になり判決書謄本の交付に時間を要する場合などに,訴訟関係人から判決要旨の交付を求められることがあるとしている。
その場合には,事務局において,裁判体の意見を踏まえ,司法行政上の便宜供与として,当該訴訟関係人に報道機関交付用の判決要旨を交付することが相当であると考えられるとしている。

同事務連絡は,訴訟関係人から裁判部に交付を求められた場合に備えて,裁判部から事務局に取り次ぐ旨をあらかじめ取り決めておくなど,裁判部と事務局が連携して対応に遺漏がないようにする必要があるとも述べている。
裁判部が報道機関交付用の判決要旨を保管していれば,特段の支障がない限り,事務局と協議した上で裁判部から交付することも考えられるとしている。
この事務連絡の考え方は,前記の令和2年3月版の広報ハンドブックの記載と同じ方向のものである。

(2) 大阪高裁の平成29年1月10日付文書

大阪高裁の平成29年1月10日付文書「訴訟関係人に対する刑事訴訟事件の判決要旨の交付について」は,次のX投稿で画像を掲載している。

3 平成29年7月25日付事務連絡

(1) 交付先を広げた趣旨

最高裁判所事務総局広報課長並びに総務局,民事局,刑事局,行政局及び家庭局の各第一課長は,平成29年7月25日付で,事務連絡「報道機関等への判決要旨等の交付について」を発出した。
同事務連絡は,判決要旨等を交付する目的が裁判結果等の内容を報道機関へ周知し,正確に報道してもらうことにあるとして,司法記者クラブからの依頼に基づいて作成された判決要旨等を,当該司法記者クラブ所属の報道機関に限らず,その目的にかなう報道機関にも交付して差し支えないとしている。

(2) 別紙に挙げられた交付先の例

別紙では,交付先として相当と考えられる報道機関の例として,日本新聞協会,日本専門新聞協会,日本地方新聞協会,日本民間放送連盟,日本雑誌協会及び日本インターネット報道協会(法人会員のみ)の各会員並びに外国記者登録証の保持者等が挙げられている。
他方,司法記者クラブ外の記者から判決要旨等の作成依頼があった場合は,従前どおり各庁の実情に応じて対応するとされている。
この事務連絡は報道機関への交付先を扱うものであり,訴訟関係人への交付を扱う平成28年12月20日付事務連絡とは対象が異なる。

4 経過の一覧

判決要旨の取扱いに関する主な資料を日付順に並べると,次のとおりである。
平成28年12月20日付事務連絡は名古屋高裁判決の約3週間後に発出されているが,両者の関係を示す資料は確認できていない。

年月日資料・出来事内容
平成25年4月広報ハンドブック(平成25年4月版)報道機関以外への提供は「基本的に予定されていない」
平成28年11月28日名古屋高裁判決(美濃加茂市長事件)第1審無罪判決を破棄して有罪
平成28年12月20日最高裁広報課長等の事務連絡訴訟関係人に報道機関交付用の判決要旨を交付することが相当
平成29年1月17日名古屋高裁長官の不開示通知判決要旨の存否を明らかにせず不開示
平成29年5月25日平成29年度(情)答申第4号存否応答拒否は妥当
平成29年7月25日最高裁広報課長等の事務連絡報道機関への交付先の例を提示
令和2年3月広報ハンドブック(令和2年3月版)訴訟関係人への交付が相当と明記
令和7年11月27日静岡地裁判決弁護人への判決要旨の一括交付について国家賠償請求を棄却
令和8年1月16日令和7年度(情)答申第95号報道機関に交付した判決要旨と当事者等に交付した判決要旨を区別

第3 美濃加茂市長事件の判決要旨と司法行政文書の開示

1 事件の経過と判決要旨の交付をめぐる指摘

(1) 第1審無罪から上告棄却まで

美濃加茂市長に対する受託収賄等被告事件では,名古屋地裁平成27年3月5日判決(平成26年(わ)第1494号)が無罪を言い渡した。
名古屋高裁平成28年11月28日判決は,第1審判決を破棄し,懲役1年6月,執行猶予3年及び追徴金30万円を言い渡したと報道されている(裁判長は村山浩昭裁判官)。
同判決は裁判所ウェブサイトに掲載されていない。
主任弁護人であった郷原信郎弁護士の平成29年12月14日のブログ記事によれば,最高裁は同月11日に上告棄却決定をした。
この決定も裁判所ウェブサイトに掲載されていない。

(2) 判決要旨の交付をめぐる弁護人の記述

郷原信郎弁護士の平成28年11月30日のブログ記事「村山浩昭裁判長は,なぜ「自分の目と耳」を信じようとしないのか」によれば,弁護人が名古屋高裁の担当書記官に判決要旨の交付を求めたが,判決謄本ができるまで待ってほしい,弁護人には判決要旨は渡せないとの回答であったとされる。
同記事は,判決言渡しの直後に判決要旨が報道機関に配布されていたとも述べている。
これらは弁護人側の記述であり,裁判所側の資料で確認できるものではない。

2 名古屋高裁の不開示通知と最高裁の理由説明書

(1) 名古屋高裁長官の存否応答拒否

名古屋高裁が報道機関に提供した同判決の判決要旨については,司法行政文書の開示の申出がされた。
名古屋高裁長官の平成29年1月17日付の不開示通知書(名高裁総第28号)は,文書の存否を答えること自体が,公にすると広報事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある情報(行政機関の保有する情報の公開に関する法律5条6号に相当)を開示することになるとして,存否を答えずに不開示とした。

(2) 最高裁判所事務総長の理由説明書

この判断に対する苦情申出について,最高裁判所事務総長は,平成29年2月23日付の理由説明書で,報道機関に交付する判決要旨の交付申請は報道機関の取材活動そのものであり,判決要旨が作成されたこと自体が公開され,個々の報道機関の取材活動の存在や内容が推知されると,取材源の秘匿を基本原則とする報道機関と裁判所との信頼関係を大きく損なうおそれがあると説明した。
同説明書は,本件の判決要旨が報道機関に配布された旨を一部の報道機関が報じていても,存否を秘匿する必要性が減殺されるわけではないとも述べている。

3 平成29年度(情)答申第4号

(1) 委員会の判断

情報公開・個人情報保護審査委員会の平成29年度(情)答申第4号(平成29年5月25日答申)は,名古屋高裁長官の存否応答拒否を妥当とした。
同答申は,報道機関は通常,判決要旨の交付を受けていることを基本的に公にせずに取材活動を行うという最高裁判所事務総長の説明を不合理とはいえないとした。
その上で,存否を明らかにして開示・不開示を判断すると,個別の事件で報道機関への判決要旨の交付・不交付の事実が公になり,取材活動の存在や内容が推知されて,報道機関との信頼関係が損なわれ,広報事務の遂行に支障を及ぼすおそれがあるとした。
なお,答申書のうち,「判決要旨の交付申請は,報道機関の取材活動そのものである。」との文章は,答申書が要約した最高裁判所事務総長の説明の部分にあり,委員会自身の判断の理由とは別である。

(2) 取材源の秘匿をめぐる最高裁決定との関係

取材源の秘密については,最高裁平成18年10月3日決定(第三小法廷,平成18年(許)第19号)の裁判要旨が,民事事件の証人となった報道関係者が民事訴訟法197条1項3号に基づき取材源に係る証言を拒絶できるかどうかは,報道の内容,性質,社会的意義・価値,取材の態様,将来の取材活動が妨げられることによる不利益の内容・程度等と,当該民事事件の内容,性質,社会的意義・価値,証言を必要とする程度,代替証拠の有無等の諸事情を比較衡量して決すべきであるとしている。
同決定は,その上で,当該報道が公共の利益に関するものであって,取材の手段・方法が一般の刑罰法令に触れるとか,取材源となった者が取材源の秘密の開示を承諾しているなどの事情がなく,しかも,当該民事事件が社会的意義や影響のある重大な民事事件であるため,取材源の秘密の社会的価値を考慮してもなお公正な裁判を実現すべき必要性が高く,そのために当該証言を得ることが必要不可欠であるといった事情が認められない場合には,証人は,原則として,取材源に係る証言を拒絶することができるとした。
同決定は証人の証言拒絶の場面の判断であり,司法行政文書の開示の場面に直接当てはまるものではない。
もっとも,同決定が,一定の事情がない限り取材源の秘密を原則として保護する枠組みを示したことと,判決要旨の交付の有無を事件を問わず一律に明らかにしない扱いとの関係は,検討の余地があると考えられる。

4 令和7年度(情)答申第95号による区別

(1) 報道機関交付分と当事者等交付分の区別

令和7年度(情)答申第95号(令和8年1月16日答申)は,静岡地裁における特定事件の判決要旨の開示申出について,報道機関に交付した判決要旨と,民事事件の当事者又は刑事事件の訴訟関係人等(当事者等)に交付した判決要旨を区別して検討した。
同答申は,最高裁判所事務総長が理由説明書で挙げた過去の答申を,報道機関に交付した判決要旨のみを対象とした事案であって本件とは事案が異なるとした。
その上で,当事者等に交付した判決要旨については存否応答拒否を相当でないとしつつ,静岡地裁がこれを保有していないとの説明は合理的であるとして,不存在を理由とする不開示となるべきものとし,結論として原判断を妥当とした。

(2) 判決要旨の保有期間と関連記事

同答申は,判決要旨は交付までの間,交付に必要な部数が一時的に保有されるにすぎず,交付先の記録等を残すことも通常は想定されないとしている。
同答申の詳しい内容及び静岡地裁令和7年11月27日判決(令和6年(ワ)第699号)の内容は,判決要旨等で扱っている。

第4 刑事上訴審の終局区分別統計

1 統計の単位と範囲

(1) 既済人員という単位

以下の数値は,司法統計年報(刑事編)の「刑事訴訟事件の種類及び終局区分別既済人員」の表(高等裁判所は第6表,最高裁判所は第3表)による。
単位は事件数ではなく,その年に終局した被告人の人数(既済人員)である。

(2) 高等裁判所の数値の範囲

高等裁判所の平成28年以降の数値は「控訴審」の行であり,再審を含まない。
平成27年の第6表では,控訴審の総数は6078人で後記の推移表PDFの値と一致し,再審は0人であった。

(3) 最高裁判所の数値の範囲

最高裁判所の平成28年以降の数値は「上告審」の行(第一審判決に対するもの及び第二審判決に対するもの)の合計であり,非常上告及び再審を含まない。
平成27年の第3表では,上告審の合計は1891人で後記の推移表PDFの値と一致した。
第一審判決に対するもの(跳躍上告)は,平成27年に1人(上告棄却)であり,平成28年以降は,平成30年に2人(上告棄却),令和4年に1人(上告棄却),令和6年に1人(取下げ)で,それ以外の年は0人である。

(4) 数値の出所と検算

平成12年から平成27年までの数値は,司法統計年報を基に作成した刑事訴訟事件の終局区分別既済人員の推移表(高裁及び最高裁)(平成12年から平成27年まで)による。
平成28年から令和7年までの数値は,裁判所ウェブサイトに掲載されている各年の司法統計年報(刑事編)のExcelファイルから転記した。
各行について,内訳の合計が総数と一致することを確認している。

2 高等裁判所(控訴審)の推移

(1) 年次別の終局区分

年総数破棄自判・有罪破棄自判・無罪破棄自判・その他破棄差戻し・移送控訴棄却取下げその他
平成12年7,18699212034,7471,40131
平成13年7,6291,1789074,9141,50516
平成14年8,3471,261210105,3881,64126
平成15年8,8751,288120105,8111,73321
平成16年9,1701,250220135,9681,88829
平成17年9,2641,203120156,0591,94134
平成18年9,3441,454200165,8511,95845
平成19年8,4221,159170125,6031,59536
平成20年7,962998130205,3101,57744
平成21年7,258792200124,8921,50834
平成22年6,856719210104,7081,36434
平成23年7,00566910064,9411,35326
平成24年6,618554150114,7451,25142
平成25年6,108547110114,3341,18124
平成26年5,890537110104,1411,15239
平成27年6,078549210194,3211,14424
平成28年5,910623240224,1471,06430
平成29年6,098547250154,49298237
平成30年5,710518311264,16393932
令和元年5,828494220144,28598429
令和2年5,332470120253,85094827
令和3年5,331484150143,83695725
令和4年4,82038060253,57880625
令和5年4,639371160193,41378931
令和6年4,928385120203,67181921
令和7年5,04036390133,83580317
平成12年~平成27年の合計122,01215,150247018581,73324,192505
平成28年~令和7年の合計53,6364,635172119339,2709,091274

(2) 期間ごとの割合

平成12年から平成27年までに終局した12万2012人のうち,破棄自判で有罪となったのが1万5150人(12.42%),破棄自判で無罪となったのが247人(0.20%),破棄差戻し・移送が185人(0.15%),控訴棄却が8万1733人(66.99%),取下げが2万4192人(19.83%),その他が505人(0.41%)である。
平成28年から令和7年までに終局した5万3636人のうち,破棄自判で有罪となったのが4635人(8.64%),破棄自判で無罪となったのが172人(0.32%),破棄自判のその他が1人,破棄差戻し・移送が193人(0.36%),控訴棄却が3万9270人(73.22%),取下げが9091人(16.95%),その他が274人(0.51%)である。

令和7年に終局した5040人のうち,破棄自判で有罪となったのが363人(7.20%),破棄自判で無罪となったのが9人(0.18%),破棄差戻し・移送が13人(0.26%),控訴棄却が3835人(76.09%),取下げが803人(15.93%),その他が17人(0.34%)である。
破棄(破棄自判及び破棄差戻し・移送)の合計が総数に占める割合は,平成28年の11.32%から令和7年の7.64%まで,おおむね低下している。

3 最高裁判所(上告審)の推移

(1) 年次別の終局区分

年総数破棄自判・有罪破棄自判・無罪破棄自判・その他破棄差戻し・移送上告棄却取下げその他
平成12年1,94110011,37155810
平成13年1,99701021,4335529
平成14年2,49510011,7906949
平成15年2,78332012,1596099
平成16年2,96301042,23771011
平成17年2,82800002,1856376
平成18年2,77920012,1366346
平成19年2,54100032,0155185
平成20年2,49703022,0114765
平成21年2,31103091,8464503
平成22年2,15001021,7114306
平成23年2,20811001,7604388
平成24年2,31301021,8954096
平成25年2,01720001,68731810
平成26年1,97442031,6183407
平成27年1,89100001,5653179
平成28年1,95710111,5973516
平成29年2,10601001,7763272
平成30年1,99341011,7022805
令和元年2,09130001,7423388
令和2年1,88100031,5183546
令和3年1,85210021,5782638
令和4年1,68521141,4072664
令和5年1,59101021,3382446
令和6年1,60800001,3342668
令和7年1,65620001,3972525
平成12年~平成27年の合計37,688141503129,4198,090119
平成28年~令和7年の合計18,42013421315,3892,94158

(2) 期間ごとの割合

平成12年から平成27年までに終局した3万7688人のうち,破棄自判で有罪となったのが14人,破棄自判で無罪となったのが15人,破棄差戻し・移送が31人,上告棄却が2万9419人(78.06%),取下げが8090人(21.47%),その他が119人(0.32%)である。
平成28年から令和7年までに終局した1万8420人のうち,破棄自判で有罪となったのが13人,破棄自判で無罪となったのが4人,破棄自判のその他が2人,破棄差戻し・移送が13人,上告棄却が1万5389人(83.55%),取下げが2941人(15.97%),その他が58人(0.31%)である。

令和7年に終局した1656人のうち,破棄自判で有罪となったのが2人,上告棄却が1397人(84.36%),取下げが252人(15.22%),その他が5人であり,破棄自判で無罪となった人及び破棄差戻し・移送となった人はいない。
最高裁判所で破棄自判の無罪となった人は,平成28年から令和7年までの10年間で4人にとどまる。

4 統計を読むときの限界

(1) 割合が示すもの

割合は,その年に終局した被告人の総数を分母として本記事で計算したものであり,個別の事件で控訴又は上告が認められる確率を示すものではない。
第6表及び第3表は,控訴又は上告を申し立てたのが検察官か被告人側かを区別していない。

(2) 理由別の表の重複計上

司法統計年報には,控訴理由別及び破棄理由別の表もあるが,二つ以上の理由がある場合はそれぞれの理由欄に計上されている。
理由別の数値を合計しても,破棄された人数にはならない。

(3) 年報の更新と東京高裁の集計

令和6年の司法統計年報(刑事編)については,令和8年9月17日付で正誤表及び更新版が掲載されており,本記事は更新版のExcelファイルを用いた。
東京高裁の令和7年の途中集計による破棄率等は,東京高裁の刑事控訴-破棄率,審理期間,保釈抗告及び大型記録事件(令和7年度)(AI作成)で扱っており,全国の年報とは母集団及び集計期間が異なる。

5 最高裁が破棄自判無罪とした例(平成29年3月10日判決)

(1) 判決の内容

最高裁平成29年3月10日判決(第二小法廷,平成27年(あ)第63号,集刑321号1頁)は,窃盗被告事件について,第1審の有罪判決(懲役1年,3年間執行猶予)を維持した広島高裁平成26年12月11日判決(平成26年(う)第1号)及び第1審判決をいずれも破棄し,被告人を無罪とした。
同判決は,置き忘れられた現金在中の封筒を窃取したとされる事件について,封筒内に現金が在中していたとの事実を動かし難い前提として,被告人以外に現金を抜き取る機会のあった者がいなかったことを理由に窃取を認定した第1審判決及び原判決の判断が,論理則,経験則等に照らして不合理で是認できないとして,刑事訴訟法411条3号により両判決を破棄したものであり,反対意見が付されている。

(2) 原審の裁判長と関連資料

広島高裁判決の裁判長は高麗邦彦裁判官であり,陪席裁判官は辛島明裁判官及び國分進裁判官である。
事件の経過は,煙石博さんの無罪を勝ちとる会のウェブサイトに広島高裁判決の写し等が掲載されているほか,現代ビジネスの記事でも紹介されている。

第5 控訴審の破棄自判と上訴に関する最高裁判例

1 無罪判決に対する検察官上訴

最高裁大法廷昭和25年9月27日判決(昭和24年新(れ)第22号,刑集4巻9号1805頁)は,下級審の無罪又は有罪判決に対し検察官が上訴し,有罪又はより重い刑の判決を求めることは,被告人を二重の危険にさらすものではなく,憲法39条に違反しないとした。
同判決は,一審の手続も控訴審の手続も上告審の手続も,同じ事件においては継続する一つの危険の各部分にすぎないとの考え方を前提としている。

2 第1審無罪判決を控訴審が破棄して有罪とする場合

(1) 昭和47年判決

最高裁昭和47年6月15日判決(第一小法廷,昭和44年(あ)第2560号,集刑184号637頁)は,第1審で無罪を言い渡された被告人に対し,控訴裁判所が事実の取調べの上で無罪判決を破棄し,自ら有罪の判決を言い渡すこと,及びこの場合にその控訴審判決に対して上訴で事実誤認等を争う途が閉ざされていることは,憲法31条ないし40条又はその精神に反するものではないとした。
刑事訴訟法405条が定める上告理由は憲法違反又は憲法解釈の誤り及び判例違反であり,事実誤認は,同法411条3号により,判決に影響を及ぼすべき重大な事実の誤認があって原判決を破棄しなければ著しく正義に反すると認めるときの職権破棄の対象となるにとどまる。

(2) 令和3年決定

最高裁令和3年5月12日決定(第一小法廷,令和2年(あ)第343号,刑集75巻6号583頁)は,原審が被告人質問を実施したが被告人が黙秘し,他に事実の取調べが行われなかった事案で,第1審が無罪とした公訴事実を原審が認定して直ちに自ら有罪の判決をしても,刑事訴訟法400条ただし書に違反しないとした。
控訴審で破棄した後に自判するか差し戻すかの考え方は,刑事控訴審で原判決を破棄した後の自判と差戻し―刑訴法400条と実務(AI作成)で扱っている。

3 原判決が破棄された場合の未決勾留日数

最高裁平成25年11月19日判決(第三小法廷,平成25年(あ)第507号,集刑312号49頁)は,控訴審が被告人の控訴に基づいて第1審判決を破棄する場合には,控訴申立後の未決勾留日数は刑事訴訟法495条2項2号により判決が確定して執行される際に当然に全部本刑に通算されるものであり,控訴裁判所には通算するか否かの裁量はなく,刑法21条により判決でその全部又は一部を本刑に算入する旨の言渡しをすべきではないとした。
同判決は,原判決のうち当審未決勾留日数を算入した部分を破棄し,その余の上告を棄却している。
控訴棄却の場合を含む算入の扱いは,刑事控訴審の未決勾留日数の算入―控訴棄却・原判決破棄の場合(AI作成)で扱っている。

第6 関連記事

判決要旨の申出実務,終局区分別統計の全体像及び刑事上訴に関する関連記事は,次のとおりである。
①判決要旨等
②終局区分別既済事件数の推移表
③刑事控訴の事実誤認―刑訴法382条の審査基準と論理則・経験則違反(AI作成)
④被告人側の上告があり,最高裁が被告人に有利に原判決を破棄した刑事判決56件(平成元年以降)(AIリライト)
⑤刑事事件の上告棄却決定に対する異議の申立て(AIリライト)
⑥最高裁判所事件月表(令和元年5月以降)
⑦最高裁判所調査官とは?職務・調査報告書・判例解説を解説(AIリライト)
⑧最高裁判所判例解説(調査官解説)の意味・読み方・探し方(AIリライト)

第7 出典・参考資料

1 法令

①刑事訴訟法(昭和23年法律第131号)400条,405条,411条,495条(e-Gov法令検索。令和8年9月18日確認)
②刑法(明治40年法律第45号)21条(e-Gov法令検索。令和8年9月18日確認)
③日本国憲法39条(e-Gov法令検索)

2 裁判例

①最高裁判所大法廷昭和25年9月27日判決(昭和24年新(れ)第22号,刑集4巻9号1805頁,裁判所ウェブサイト)
②最高裁判所第一小法廷昭和47年6月15日判決(昭和44年(あ)第2560号,集刑184号637頁,裁判所ウェブサイト)
③最高裁判所第三小法廷平成18年10月3日決定(平成18年(許)第19号,民集60巻8号2647頁,裁判所ウェブサイト)
④最高裁判所第三小法廷平成25年11月19日判決(平成25年(あ)第507号,集刑312号49頁,裁判所ウェブサイト)
⑤最高裁判所第二小法廷平成29年3月10日判決(平成27年(あ)第63号,集刑321号1頁,裁判所ウェブサイト)
⑥最高裁判所第一小法廷令和3年5月12日決定(令和2年(あ)第343号,刑集75巻6号583頁,裁判所ウェブサイト)
⑦名古屋地方裁判所平成27年3月5日判決(平成26年(わ)第1494号,裁判所ウェブサイト)
⑧静岡地方裁判所令和7年11月27日判決(令和6年(ワ)第699号,裁判所ウェブサイト)
⑨名古屋高等裁判所平成28年11月28日判決(裁判所HP未掲載。判決書は確認しておらず,日本経済新聞の報道及び弁護人のブログ記事により言渡しの事実を確認)
⑩最高裁判所平成29年12月11日決定(裁判所HP未掲載。決定書は確認しておらず,弁護人のブログ記事により上告棄却決定の事実を確認)

3 司法行政文書・答申

①最高裁判所事務総局広報課「広報ハンドブック(平成25年4月版)」6-4(転載として最高裁判所の広報ハンドブック)
②最高裁判所事務総局広報課「広報ハンドブック(令和2年3月版)」55頁~57頁(該当箇所の転載として判決要旨等)
③最高裁判所事務総局広報課長及び刑事局第二課長「訴訟関係人に対する刑事訴訟事件の判決要旨の交付について」(平成28年12月20日付事務連絡。令和元年7月8日付司法行政文書開示通知書により開示)
④最高裁判所事務総局広報課長ほか「報道機関等への判決要旨等の交付について」(平成29年7月25日付事務連絡。令和元年7月9日付司法行政文書開示通知書により開示)
⑤名古屋高等裁判所長官「司法行政文書不開示通知書」(平成29年1月17日付,名高裁総第28号)
⑥最高裁判所事務総長「理由説明書」(平成29年2月23日付。平成28年度(情)諮問第23号)
⑦情報公開・個人情報保護審査委員会「平成29年度(情)答申第4号」(平成29年5月25日)1頁~4頁
⑧情報公開・個人情報保護審査委員会「令和7年度(情)答申第95号」(令和8年1月16日)1頁~9頁

4 統計

①最高裁判所「司法統計年報(刑事編)」平成27年版第3表・第6表(第3表を含むPDF,第6表を含むPDF)
②最高裁判所「司法統計年報(刑事編)」平成28年版~令和2年版第3表・第6表(Excel。平成28年版:第3表・第6表,平成29年版:第3表・第6表,平成30年版:第3表・第6表,令和元年版:第3表・第6表,令和2年版:第3表・第6表)
③最高裁判所「司法統計年報(刑事編)」令和3年版~令和7年版(Excel。令和3年版,令和4年版,令和5年版,令和6年版(令和8年9月17日更新版),令和7年版)
④刑事訴訟事件の終局区分別既済人員の推移表(高裁及び最高裁)(平成12年から平成27年まで)(PDF1頁)

5 その他の資料

①郷原信郎「村山浩昭裁判長は,なぜ「自分の目と耳」を信じようとしないのか」(郷原信郎が斬る,平成28年11月30日)
②郷原信郎「【藤井浩人美濃加茂市長 冤罪】 日本の刑事司法は‟真っ暗闇”だった!」(郷原信郎が斬る,平成29年12月14日)
③日本経済新聞「美濃加茂市長に逆転有罪 高裁「贈賄側証言に信用性」」(平成28年11月28日)
④煙石博さんの無罪を勝ちとる会「広島高裁平成26年12月11日判決の写し」(PDF全21頁。判決書20頁に裁判官の署名欄)
⑤現代ビジネス「恐怖!地方の人気アナが窃盗犯にデッチ上げられるまでの一部始終」