判決要旨の取扱い及び刑事上訴審の事件統計


目次
1 判決要旨の取扱い
2 刑事上訴審の事件統計
3 関連記事その他
1 判決要旨の取扱い

(1) 最高裁判所の広報ハンドブックの「6-4 判決要旨等」によれば,「要旨・骨子は,速報性が要求される報道機関の利用のために裁判部に特別に作成してもらったものであり,そのような報道機関以外に提供することは基本的に予定されていない。」とのことです。
(2)ア   藤井浩人美濃加茂市長の弁護人をしていた郷原信郎弁護士ブログ「村山浩昭裁判長は,なぜ「自分の目と耳」を信じようとしないのか」によれば,美濃加茂市長に対する名古屋高裁平成28年11月28日判決(逆転有罪判決。平成29年12月11日上告棄却決定)の場合,名古屋高裁は,美濃加茂市長及びその弁護人に対し,報道機関に提供した判決要旨の交付を拒んだみたいです。
   しかし,最高裁判所の広報ハンドブックによれば,判決要旨を報道機関以外に提供することは「基本的に」予定されていないとなっていますが,禁止されているわけではありません。
イ  第一審で無罪を言い渡された被告人に対し,控訴裁判所が事実調のうえ,右無罪判決を破棄し,自ら有罪の判決を言い渡すこと,及びこの場合,右控訴審判決に対し,上訴において事実誤認等を争う途が閉ざされていることは,憲法31条ないし40条又はその精神に反するものではありません(最高裁昭和47年6月15日判決)。
(3)ア 名古屋高裁の平成29年1月17日付の司法行政文書不開示通知書によれば,名古屋高裁平成28年11月28日判決(被告人は藤井浩人美濃加茂市長)の判決要旨が存在するか否かを答えた場合,名古屋高裁の広報事務の適正な遂行に支障を及ぼす恐れがあるため,文書の存否自体を回答できないそうです。
イ 平成29年2月23日付の最高裁判所事務総長の理由説明書によれば,名古屋高裁平成28年11月28日判決(被告人は藤井浩人美濃加茂市長)の判決要旨が存在するか否かを答えた場合,取材源の秘匿を基本原則とする報道機関と裁判所との信頼関係を大きく損なうおそれがあり,ひいては,裁判報道に係る広報事務の遂行を困難にする可能性が高いから,開示できないそうです。
   ただし,最高裁平成18年10月3日決定が「民事事件において証人となった報道関係者が民訴法197条1項3号に基づいて取材源に係る証言を拒絶することができるかどうかは,当該報道の内容,性質,その持つ社会的な意義・価値,当該取材の態様,将来における同種の取材活動が妨げられることによって生ずる不利益の内容,程度等と,当該民事事件の内容,性質,その持つ社会的な意義・価値,当該民事事件において当該証言を必要とする程度,代替証拠の有無等の諸事情を比較衡量して決すべきである。」と判示していることとの整合性はよく分かりません。
ウ 平成29年度(情)答申第4号(平成29年5月25日答申)は,「判決要旨の作成は,報道機関からの申請を受けて対応するのが一般的であるところ,この判決要旨の交付申請は,報道機関の取材活動そのものである。当該申請が個別の記者の独自の取材活動の一環として行われた場合はもとより,幹事社を経由しての司法記者クラブ全体からの申請で行われた場合であっても,判決要旨が作成されたことが公開され,報道機関の取材活動の存在,内容が推知されてしまうことは,取材源の秘匿を基本原則とする報道機関と裁判所との信頼関係を大きく損なうおそれがあり,ひいては,裁判報道に係る広報事務の遂行を困難にする可能性が高い。」ということで存否応答拒否は妥当であるとする答申を出しました。
(4) 以下の事務連絡を掲載しています。
① 訴訟関係人に対する刑事訴訟事件の判決要旨の交付について(平成28年12月20日付の最高裁判所広報課長等の事務連絡)
② 報道機関等への判決要旨等の交付について(平成29年7月25日付の最高裁判所広報課長等の事務連絡)

2 刑事上訴審の事件統計 (1) 高等裁判所終局区分別既済事件数の推移表の第9参照)    平成12年から平成27年までの統計でいえば,高等裁判所に係属した刑事事件12万2012件のうち,破棄自判で有罪となったのが1万5150件(12.42%),破棄自判で無罪となったのが247件(0.20%),破棄差戻し等が185件(0.15%),控訴棄却が8万1733件(66.99%),控訴取下げが2万4192件(19.83%)です。    平成27年の統計でいえば,高等裁判所に係属した刑事事件6078件のうち,破棄自判で有罪となったのが549件(9.03%),破棄自判で無罪となったのが21件(0.35%),破棄差戻し等が19件(0.31%),控訴棄却が4321件(71.09%),控訴取下げが1144件(18.82%)です。 (2) 最高裁判所終局区分別既済事件数の推移表の第10参照) ア   平成12年から平成27年までの統計でいえば,最高裁判所に係属した刑事事件3万6788件のうち,破棄自判で有罪となったのが14件,破棄自判で無罪となったのが15件,破棄差し戻し等が31件,上告棄却が2万9419件,上告取下げが317件,その他が9件です。    平成27年の統計でいえば,最高裁判所に係属した刑事事件1891件のうち,破棄自判で有罪となったものが0件,破棄自判で無罪となったものが0件,破棄差戻し等が0件,上告棄却が1565件,取下げが317件,その他が9件です。 イ 最高裁平成29年3月10日判決は,窃盗事件について,広島高裁平成26年12月11日判決(担当裁判官は31期の高麗邦彦裁判官,51期の辛島明裁判官及び56期の国分進裁判官)を棄して無罪判決を言い渡しました(事件の詳細につき,煙石博さんの無罪を勝ちとる会HP及び「恐怖!地方の人気アナが窃盗犯にデッチ上げられるまでの一部始終」参照)。

3 関連記事その他

(1) 無罪判決に対して検察官が上訴することは憲法39条の一事不再理の原則に違反しません(最高裁大法廷昭和25年9月27日判決)。
(2) 控訴審が被告人の控訴に基づいて第1審判決を破棄する場合には,控訴申立後の未決勾留日数は,刑訴法495条2項2号により,判決が確定して執行される際当然に全部本刑に通算されるべきものであって,控訴裁判所には,上記日数を本刑に通算するか否かの裁量権が委ねられておらず,刑法21条により判決においてその全部又は一部を本刑に算入する旨の言渡しをすべきではありません(最高裁平成25年11月19日判決)。
(3) 原審が被告人質問を実施したが,被告人が黙秘し,他に事実の取調べは行われなかったという事案につき,第1審が無罪とした公訴事実を原審が認定して直ちに自ら有罪の判決をしても,刑訴法400条ただし書に違反しません(最高裁令和3年5月12日決定)。
(4) 以下の記事も参照してください。
・ 弁護人上告に基づき原判決を破棄した最高裁判決の判示事項(平成元年以降の分)
・ 刑事事件の上告棄却決定に対する異議の申立て
・ 最高裁判所事件月表(令和元年5月以降)
・ 最高裁判所調査官
・ 最高裁判所判例解説


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