刑事事件の上告棄却決定に対する異議の申立て


目次
1 総論
2 異議の申立て期間及び申立て理由
3 異議の申立てを認容して決定を訂正した事例
4 刑事事件の上告棄却決定の確定時期
5 上告棄却決定に対する異議申立てについての元最高裁判事のコメント
6 上告審の未決算入基準
7 関連記事その他

1 総論
(1) 刑訴法414条・386条1項3号により上告を棄却した最高裁判所の決定に対しては,刑訴法414条・386条2項・385条2項前段・428条2項により異議の申立てをすることができます(最高裁大法廷昭和30年2月23日決定参照)。
(2) 最高裁大法廷昭和26年12月26日決定は,上告棄却決定に対する異議申立ては不適法としていたものの,3年余り後に出された最高裁大法廷昭和30年2月23日決定によって判例変更されました。

2 異議の申立て期間及び申立て理由
(1) 異議の申立て期間
・ 異議の申立ては,上告棄却決定が被告人本人に送達された日(刑訴法358条及び最高裁昭和32年5月29日決定)から3日以内に行う必要があります(刑訴法414条・386条2項・385条2項後段・422条)。
(2) 異議の申立て理由
ア 異議の申立ては,決定の内容に誤りのあることを発見した場合に限りできます(最高裁昭和36年7月5日決定)。
イ 上告棄却決定に対する異議の申立てについて,申立書自体には何ら具体的理由が付されてなく,異議申立て期間内に理由書の提出もないときは,刑訴法414条・386条2項・385条2項・426条1項により,決定で申立てを棄却されます(最高裁昭和42年9月25日決定)。

3 異議の申立てを認容して上告棄却決定を訂正した事例
・ 異議の申立てを認容して決定を訂正した事例としては以下のものがあります。
① 上告趣意書最終提出日の通知が適法にされていなかったのに,上告趣意書不提出として上告棄却決定をしていたため,同決定を取り消し,上告趣意書最終提出日を変更する旨の決定をしたもの(最高裁昭和33年2月4日決定
② 上告棄却決定前に被告人が死亡していたことが判明したため,同決定を取り消して公訴棄却の決定をしたもの(最高裁昭和42年5月17日決定
③ 刑の執行と競合する未決勾留日数を算入していたため,主文中の算入部分を削除するなどしたもの(最高裁昭和42年12月25日決定

4 刑事事件の上告棄却決定の確定時期
・ 刑事事件の上告棄却決定が確定するのは,3日間の異議申立期間が経過したとき,又はその期間内に異議の申立てがあった場合には,これに対する裁判が被告人に送達されたときとなるのであって,上告審判決の確定時期に関する刑訴法418条に準じた取扱いとなっています(逐条実務刑事訴訟法1167頁及び1168頁)。

5 上告棄却決定に対する異議申立てについての元最高裁判事のコメント
・ 「法廷に臨む 最高裁判事として」13頁には以下の記載があります。
    刑事事件の上告棄却決定に対する異議事件で「判決は、上告の趣意は量刑不当の主張であって刑訴四○五条の上告理由にあたらないとあるが判決、決定の生命はその論理性にあり、理由がすべてである。実質的な理由の記載のない決定は最高裁の権威をおとし、当事者の納得も得られず、裁判に対する信頼をうしなわせるものである。」旨の主張がされた。
    この事件を処理した日の私の日記には「そうは言っても現在の制度のもとでは上告理由のないことが明白な事件についてはそのような処理にならざるを得ない。すべての事件について当事者の納得を得られるような理由を記載することは物理的に不可能なほど事件に追われている。そこに実務を担っている者の辛さがある。また法律がそこまでの要求をしていないと考えられることを理由に自分を納得させている」とある。

6 上告審の未決算入基準
・ 情状弁護ハンドブック96頁には以下の記載があります。
    上告審においては,上告申立から上告審の判決までの通常審理期間を4か月として,4か月内での判決については未決勾留日数が算入されず,上記期間を経過した場合に限って算入される取扱いとなっています。
    上告審の平均審理期間は平成18年において3.1か月とされており (最高裁判所事務総局刑事局), 4か月を超える審理がなされることは通常事案においては少ないといえます。したがって,上告をすることにより未決勾留日数が算入される可能性は低いことから,被告人から上告すべきか否かを問われた際には上記事情も伝えておくことがよいといえます。

7 関連記事その他
(1)ア 訂正の申立て(刑事訴訟法415条)は上告審判決に対してできるのであって,上告棄却決定に対してすることはできません(最高裁大法廷昭和30年2月23日決定)。
イ 訂正の申立て及び異議の申立ては,いずれも,本案事件の裁判に関するものであり,判決又は決定の内容に誤りのあることを発見した場合にのみ許される訂正を求める手続です(最高裁昭和52年4月4日決定)。
(2) 最高裁判所のした保釈保証金没取決定に対しては刑訴法428条の準用により異議の申立てをすることができます(最高裁昭和52年4月4日決定)。
(3) 上告棄却決定に刑訴法436条1項各号所定の再審事由がある場合,再審請求ができます(最高裁大法廷昭和31年5月21日決定)。
(4)ア 最高裁令和4年7月20日決定は,上告趣意書の差出最終日に弁護人が辞任し差出最終日には被告人に弁護人がなかったとしても,差出最終日までに上告趣意書を差し出さなかったことを理由に被告人の上告を棄却したことが正当であるとされた事例です。
イ 最高裁令和5年3月7日決定は, 被告人が弁護人に対し上告趣意書差出最終日前に被告人作成の上告趣意書を送付したが,弁護人が上告棄却決定後にこれを裁判所に提出したという事案につき,上告棄却決定に判断遺脱はないとされた事例です。
(5)ア 以下の資料を掲載しています。
・ 刑事上訴事件記録の送付事務について(令和3年6月18日付の最高裁判所訟廷首席書記官の事務連絡)
イ 以下の記事も参照してください。
・ 刑事の再審事件
・ 最高裁判所における刑事事件の弁論期日
・ 弁護人上告に基づき原判決を破棄した最高裁判決の判示事項(平成元年以降の分)
 最高裁判所事件月表(令和元年5月以降)
・ 判決要旨の取扱い及び刑事上訴審の事件統計
・ 最高裁判所調査官
・ 最高裁判所判例解説


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