裁判所の報道対応の基礎


目次
第1部 裁判所の報道対応の基礎
第2部 関連記事その他

第1部 裁判所の報道対応の基礎
・ 以下の記載は,最高裁判所広報課の,広報ハンドブック(令和2年3月版)16頁ないし24頁の記載を貼り付けたものです。

第1 報道機関についての基礎知識(原文の3-1)
1 新聞
(1) 全国紙,ブロック紙,県紙
    日本全域を配布エリアとする新聞を全国紙といい,朝日,毎日,読売,日経,産経の5紙がこれに当たる。これだけで新聞の総発行部数の5割以上を占めている。ブロック紙は,配布エリアが数県にわたる広いエリアにまたがっている新聞で,北海道新聞中日新聞,西日本新聞がこれに当たる。県紙は,一つの県を主たる配布エリアとする新聞である。
(2) 本社,支局
    全国紙の場合,東京本社,大阪本社,名古屋本社等の本社があり,東京本社を中心に連携をとりながら,各本社ごとに新聞を発行している。本社には,政治部,社会部等の部署が置かれ,取材や紙面の編集活動が行われている。また,おおむね各都道府県の県庁所在地には支局が置かれ,支局に属する記者は,主に各都道府県内の事件等を取材している。
(3) 記者クラブ詰め記者と遊軍記者
    記者は,記者クラブ詰め記者と遊軍記者に分けられる。前者は,取材対象となる省庁や企業等に置かれた記者クラブを拠点に取材活動をしている記者であり,後者は,記者クラブに属さず,平素は自分の得意分野を中心に企画ものの取材等を行い,大事件が発生した場合などには社会部長やデスク等の下でチームを組んで取材に当たる記者である。
2 テレビ
(1) キー局,ネット局,独立局
    キー局は,東京や大阪などに本社を置き,契約を結んだネット局を通じ,制作した番組等を全国的な放送網に乗せることができる放送局で,東京では日本テレビ,TBS,フジテレビ,テレビ朝日,テレビ東京があり,日本テレビがNNN,TBSがJNN,フジテレビがFNN,テレビ朝日がANN,テレビ東京はTXNというネットワークを持っている。
    ネット局は,おおむね県単位で放送を行っており,基本的に独立した局である。独自に地方ニュース等の番組を制作することもあるが,全国的なニュース映像等やドラマなどの番組をキー局から受けて放送する。
    NHKは,キー局であるが,ネット局があるわけではなく,NHK自体が独自の全国的な放送網を持っている。独立局は,県単位で放送を行っているが,特にネットワークに入っておらず,独自の放送を行っている局である。
(2) 制作会社
    テレビの番組,特に特集番組やドキュメンタリー,ドラマなどをテレビ局の依頼等を受けて制作している会社である。テレビ局の放送記者とは別の角度で裁判所に取材や撮影の依頼をすることがある。
(3) 放送記者,プロデューサー,ディレクター
    放送記者も基本的に新聞記者と同様であるが,自分で取材したことを自分でカメラに向かって話すことが多く,レポーターを兼任しているような場合もある。また,記者クラブ詰め記者と遊軍記者がいるところも新聞と同様である。このほか,特定のテーマで報道番組が作られる場合などの,番組制作の責任者をプロデューサー,制作の実務担当者をディレクターと呼ぶ。
3 通信社
    新聞社やテレビ局等に内外のニュースや各種の記事,写真等を供給することを主な業務としている報道機関である。裁判所を日常的に取材している通信社は,共同通信社及び時事通信社の二社である。
4 記者クラブ
    日本新聞協会は,「記者クラブに関する日本新聞協会編集委員会の見解」(2002年(平成14年)1月17日第610回編集委員会,2006年(平成18年)3月9日第656回編集委員会一部改定)の中で,「記者クラブは,公的機関などを継続的に取材するジャーナリストたちによって構成される「取材・報道のための自主的な組織』です。・・・・記者クラブは,公権力の行使を監視するとともに,公的機関に真の情報公開を求めていく社会的責務を負っています。・・・・記者クラブ制度には,公的機関などが保有する情報へのアクセスを容易にするという側面もあります。・・・・記者クラブは,『開かれた存在』であるべきです。日本新聞協会には国内の新聞社・通信社・放送局の多くが加わっています。記者クラブは,こうした日本新聞協会加盟社とこれに準ずる報道機関から派遣された記者などで構成されます。外国報道機関に対しても開かれており,現に外国報道機関の記者が加入するクラブは増えつつあります。」としている。なお,詳細については,日本新聞協会のホームページに前記見解が掲載されているので,参照されたい。おって,同ホームページ上には,この見解についての解説も掲載され,記者クラブの「目的と役割」,「組織と構成」,「記者会見」,「協定と調整」,「記者室」及び「紛争処理」が説明されており,参考になる。
5 裁判所の記者クラブ
    裁判所を取材する記者らも記者クラブを組織している。一般的に検察庁も併せて取材するが,警察を取材する記者クラブが兼ねていたり,県庁等地方公共団体を取材する記者クラブが兼ねていたりする場合もある。裁判所の広報との関係では,常時裁判所関係の取材を行っている記者たちの団体という意味で最も重要な相手方であり,実際上も記者クラブが主体となって裁判所に対して便宜供与を要請したり,裁判所側も記者クラブを相手にして各種申入れや調整を行ったりしており,広報担当者と記者との重要な接点となっている。記者クラブでは,一定期間ごとの持ち回りで幹事社を決め,この幹事社が,期間中,クラブ各社のまとめ役,連絡役を果たすことが多いようである。
6 新聞記者
(1) 社会部記者
    事件,スキャンダル,苦情などを広範囲に取材し,社会面の記事を中心に書いている。裁判所をはじめ司法関係を担当する記者はおおむね社会部に所属している。裁判所の広報担当者が最も頻繁に対応するのが社会部記者である。
(2) 経済部記者
    経済団体,企業,関係官庁等に取材し,経済面の記事を書いている。裁判所へは,経済関係の事件等について,取材に入ることがある。
(3) 論説委員
    主に時事的な話題をテーマとして取り上げ,社説欄等で新聞社としての見解,意見等を主張する。裁判所関係の論説は司法担当の論説委員が書くが,知識経験豊かな司法担当記者OBが多いようである。論説委員が直接裁判所に取材することもある。
7 その他の報道機関の記者
(1) 通信社の記者は新聞記者とほぼ同じである。
(2) 放送局では,報道ニュースは主に報道局の放送記者が取材する。裁判所についても新聞の社会部記者と同様に取材する。また,解説委員といい,ニュース解説等を担当する人たちがいるが,新聞の論説委員と同様に直接裁判所に取材することもある。そのほか,ドキュメンタリーなどの番組を担当するプロデューサーやディレクターが裁判所に関連取材をしてくることがある。
(3) 雑誌記者も,取り上げるテーマによっては裁判所に取材してくることがある。



第2 「責任者対応の原則」と「窓口一本化の原則」(原文の3-2)
1 責任者対応の原則
(1) 報道機関から取材の申込みがあった場合,報道機関に対する対応は,最終責任者である所長がこれに当たるのが原則である。なぜなら,報道機関に対する発言は,外部,世間一般に対し裁判所の公的見解を述べることだからである。
(2) 所長が報道機関と対応するについて,これを補佐して広報事務を担当するのは,事務局長,次長,総務課長,総務課職員である。
    実際には,総務課の職員が取材申込みを受ける窓口となり,総務課一事務局長一所長のラインで情報を上げて対応を検討することになる。取材内容に応じて,事実を確認し,必要があれば上級庁に相談の上,どのように対応するかを決め,所長が記者に回答するという手順である。
    具体的な対応においては,所長の指示の下に,事務局長,総務課長等が所長に代わって回答する場合が多い。例えば,裁判に関する報道対応においては,定型的に処理できるものも多く,このようなものについては,あらかじめ所長の委任を受け,事務局長又は総務課長限りの判断で対応して処理しても差し支えないといえよう。
2 窓口一本化の原則
    報道機関に対する対応は,責任者である所長一事務局長一総務課というラインで対応するのを原則とすることから,取材の申込みを受ける窓口も広報事務を担当する総務課に一本化することが必要である。窓口が幾つにも分かれていると,各窓口での対応がまちまちとなり,同一の事柄につき微妙に異なる回答を行ってしまい,その結果誤解や混乱を招く危険があるからである。


第3 報道対応の種類(原文の3-3)
    裁判所での報道対応は,おおむね,報道発表(情報提供),取材対応の二つに分けられる。
1 報道発表(情報提供)(以下「報道発表等」という。)
    国民に広く知ってもらう価値のある情報を裁判所が積極的に報道機関に提供することである。一般民間企業や行政省庁では,新製品や新たな施策を報道してもらうために頻繁に報道発表等をしているようであるが,裁判所の広報では,報道発表等を行う場面は余り多くはない。人事の報道発表や所長等就任記者会見等がこれに当たる(4-1~6を参照)。
2 取材対応
    報道機関からの取材の申込みに対応することである。裁判所はいわゆる政策官庁ではないため,受け身の「取材対応」が圧倒的に多くなる。これは,裁判に関するものにおいても,司法行政に関するものにおいても余り変わりはない(5-1~8を参照)。
    取材対応の一つとして,報道機関に便宜を供与することがある。特に,裁判所の本体業務である裁判の報道に当たっては,法廷内の記者席申請への対応,庁舎内・法廷内の写真撮影申請への対応,判決要旨・判決書写しの交付等がその内容となる(6-1~7を参照)。


第4 記者との接し方(原文の3-4)
    ふだん接することの多い記者との接し方において,次の点に留意する必要がある。
1 雑談がコメントとなる危険
    日頃から記者と顔を合わせていると,取材の申込み以外にも事件に関することなどについて,様々な質問を受けることがある。しかし,これに不用意に応答すると思わぬ結果を招くので注意を要する。時に不正確な雑談が裁判所の担当者のコメントとして記事になってしまうことがある上,誤報に結び付くこともある。
    事務局は,具体的事件について聞かれても,答えられる立場にない。このような場合,記者は往々にして一般論として尋ねてくることもあるが,具体的事件についての手掛かりを得ようという意図で尋ねていることが多く,一般論として説明しても,その事件についての説明と受け取られかねないことに注意が必要である。したがって,一般論としても説明は差し控えるべきである。さらに,個人的見解を聞かれることもあるが,明確に「個人的見解を述べる立場にない。」と断る必要がある。
2 法律知識の提供が必要な場合
    記者は,裁判の手続や法律用語など一般的法律知識についての理解が必ずしも十分とはいえないことが多い。そのため,これらについて質問をしてくることがある。この質問に対して適切な対応を怠ると,理解が不十分なまま記事になる可能性が高く,誤報に結び付くことがある。この場合には,責任者である所長に相談して,一般に公刊されている法律書で分かりやすいものを紹介する,場合によっては事件を担当していない所長等から記者に説明する,ということが必要になることもある。紹介する法律書は,外部に向けて刊行されているものであれば,裁判所の発行したものでも構わない。
3 「オフレコ」は原則用いない
    「オフレコ」とは,「オフザレコード(掲載禁止)」の略であり,発言を記録せず,公表もしないという意味であるが,記者との相当強い信頼関係があることが前提であり,報道対応としては原則用いるべきではない。
4 個別対応の原則
    記者は同じ会社内であっても独自に問題意識を持って取材活動をしている。記者からの取材については,個別に対応することを原則とし,同じ社であっても,他の記者に対して取材内容等を軽々に伝えてはならない。


第5 上級庁への情報提供等の際の留意事項(原文の3-5)
    報道対応は,飽くまでも当該庁が責任をもって行うべきものであるが,上級庁に情報提供等が必要と思われるものも少なくない。そのようなときには,次のことに留意されたい。
1 情報提供等の必要性
    記者からの取材事項等に応じて,遠慮なく上級庁に連絡や相談をすることを心掛けてもらいたい。情報提供等の必要性の有無等については,案件の重要性,複雑さや他庁への影響の可能性など様々な事情を考盧して判断することになる。
情報提供等の必要性について判断をしかねるような場合には,情報提供等の必要性も含めて上級庁に相談されたい。
2 緊急の際の第一報
    一般の国民の注目を集める事件や事故が発生するなどして,緊急の報道対応を要する場合や,裁判所が関係する事件や事故について報道がなされる可能性がある場合等には,まず「第一報」を入れておくことが重要である。まずは電話での一報ということだけで構わない。また,詳しい事情が正確に判明していない段階での断片情報でも差し支えない。第一報を受けると,上級庁は緊急事態への対応態勢をとることができる。第一報の意義はここにある。後でさほどの事態ではなかったと分かれば,その態勢を解除し,良しとすべきである。もちろん,第一報が無意味であったことになるものではない(5-5参照)。また,報道がされるような事件等については,上級庁含めて迅速に情報が共有されることが組織として望ましいことからも,迅速な第一報が重要である。
3 情報提供等の際の注意
    一般的に報道対応の情報提供等に当たっては,次の点を押さえておく必要がある。なお,事実関係の把握や対応方針の決定に時間を要するような場合には,作業が終わり次第,逐次連絡するようにする。
(1) まず,どのような取材を受けているのか,報道機関からの取材申込内容を正確に伝える。取材申込みを聴取したメモ等を活用する。
(2) 次に,その裁判所が把握した事実関係を正確に伝える。何が,いつ,どこで,なぜ発生したのか,今どうなっているのか,加えて,それはどのような意味を持っているのか,同種のことは従来あったのか,これからどのように対処する予定であるかなどを伝える。また,確認中の事実関係がある場合には,その点を明確に伝えることも必要である。
(3) さらに,その裁判所で考えている報道機関への対応案を伝える。上級庁としても正確な情報のやり取りなしには情報提供等に対して的確に応じることはできない。下級裁として上級庁に言いにくい事柄や時には何らかの失敗があったとしても,情報伝達する必要がある。
4 結果の報告
    報道対応の結果いかんによっては,他庁や上級庁に取材がされることもある。また,事前に検討した報道対応案と実際の対応結果とを分析することは,上級庁にとっても有益でもある。したがって,事案によっては,上級庁に対し,適宜対応結果について報告してもらいたい。


第2部 関連記事その他
1 ろこねっとHP(「日本全国の地域新聞を網羅した日本唯一の日本地域紙図書館が運営する地方紙情報サイト」とのことです。)の「記者クラブ」に,在京,大阪,神戸,京都,東海,北海道,東北,関東及び北信越/その他関西,山陰/山陽/中国,四国,九州/沖縄にある記者クラブの名前,住所及び電話番号が載っています。
2 送法は,公共放送事業者であるNHKの事業運営の財源を,NHKの放送を受信することのできる受信設備を設置した者に広く公平に受信料を負担させることによって賄うこととし,上記の者に対し受信契約の締結を強制する旨を定めた規定を置いています(最高裁平成30年7月17日判決。なお,先例として,最高裁大法廷平成29年12月6日判決参照)。
3 最高裁平成20年6月12日判決は,放送番組を放送した放送事業者及び同番組の制作,取材に関与した業者が取材を受けた者の期待,信頼を侵害したことを理由とする不法行為責任を負わないとされた事例です。
4 東弁リブラ2022年11月号「ジャーナリズムと弁護士の接点」が載っています。
5(1) 以下の資料を掲載しています。
・ 司法記者クラブ及び法曹記者クラブと最高裁判所との懇談会(令和元年12月18日開催分)
・ 司法記者クラブ(令和2年5月7日付)
・ 国税庁記者クラブ(日刊紙)常駐記者一覧表(令和元年6月現在)
→ 記者の氏名は黒塗りです。
(2) 以下の記事も参照して下さい。
・ 裁判所の報道発表等
・ 裁判所の取材対応
・ 法廷内写真撮影
・ 裁判所の庁舎内(敷地内)写真撮影
・ 判決要旨等
・ 法廷内記者席
・ 対象裁判が著名事件等である場合の留意事項
・ 少年事件についての報道対応の留意事項
・ 所長等就任記者会見,及び記者会見実施上の一般的な留意事項(最高裁判所の広報ハンドブックからの抜粋)
・ 司法修習生による,司法研修所構内の写真撮影禁止に関する文書は存在しないこと
・ 最高裁判所における法廷内カメラ取材運用要領
・ 寺田逸郎最高裁判所長官の就任に伴う写真取材の要領


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