目次
第1部 裁判所の取材対応
第1 取材対応において念頭に置くべきこと(原文の5-1)
第2 取材対応における一般的な留意事項(原文の5-2)
第3 取材事項について総務課で即答できない場合の対処(原文の5-3)
第4 休日等における取材対応(原文の5-4)
第5 緊急時における取材対応(原文の5-5)
第6 裁判官等の裁判所職員に対する取材への対応(原文の5-6)
第7 支部等に対する取材への対応(原文の5-7)
第8 検察審査会に対する取材への対応(原文の5-8)
第2部 関連記事その他
第1部 裁判所の取材対応
・ 以下の記載は,最高裁判所広報課の,広報ハンドブック(令和2年3月版)34頁ないし48頁の記載を貼り付けたものです。
第1 取材対応において念頭に置くべきこと(原文の5-1)
裁判所には,司法機関として,維持し,あるいは守らなければならない原理,原則がある。その中でも特に取材対応において常に念頭に置かなければならない主なものを以下に掲げる。
一方で,裁判所の説明責任も念頭におく必要があり,この点を考慮することなく,漫然と回答を控える対応とならないよう注意が必要である。
1 裁判所の独立,裁判運営の適正
裁判所の主な職責は,様々な法的紛争を,法律の定めた手続に従って,適正かつ迅速に処理することである。こうした裁判事務は,裁判所にとってのいわば本体的業務であり,事務局の行う司法行政事務は,この裁判事務が円滑適正に行われることを側面からサポートするためにある。
ところで,裁判事務は,司法行政事務と異なり,受訴裁判所を中心とする裁判部が,その権限に基づき独立に判断・処理することを原則としている。したがって,広報担当者においては,裁判部の行うこのような権限行使にいささかでも支障となるおそれのある言動は厳に慎む必要がある。例えば,ある判決について,広報担当者が,その当否に触れたと受け取られるコメントをすることは,その者の意図のいかんを問わず,事務局による裁判への干渉(すなわち裁判の独立の侵害)と誤解されかねない。また,そうしたコメントが原因となって訴訟が紛糾すれば,その後の訴訟の適正な運営の障害ともなる。
広報事務は,前述したとおり,司法行政事務の一種であり,裁判事務をサポートすべきものである。広報担当者による不用意な言動が裁判事務の支障となるというようなことは,本末転倒であり,決してあってはならない。
2 裁判所の中立性,公平性の確保
裁判所は,その職務の性質上,中立性,公平性を厳に維持しなければならない。実際に中立性,公平性を維持するとともに,この点で国民に疑念を抱かれることも避けねばならない。裁判所は,取材対応を含め,広報活動全般にわたって,裁半ll所の中立性,公平性と矛盾しないかどうかという観点から配慮しなくてはならないのである。
例えば,事件の担当裁判官や裁判所書記官等が特定の事件について,法廷外,判決外で説明したり,論議したりすることは,手続の公正や判決の信頼性を傷つけ,ひいては裁判の中立性,公平性に疑念を抱かせることになる。司法行政部門であっても同様であり,裁判所にとって良かれと思ったとしても,このようなことは絶対にしてはならない(法廷内の裁判官の発言内容や判決内容についてコメントを出すなど。そもそも司法行政部門が裁判の内容等について発言することは,それだけで中立性,公平性に疑念を抱かせるおそれがある。)。
そのほか,次のような例がある。
(1) 裁判所内で事故やトラブルが発生したような場合に,裁判所が当事者的立場に立たされることが起こり得る。裁判所は,今後,その事故等の関係者を裁判しなければならなくなる可能性があることを前提に,取材対応に当たっても,裁判所の中立性,公平性について誤解を与えないような配盧が必要である。
(2) 事件当事者が裁判所内で一方的にデモンストレーション的な活動をし,これを報道させて宣伝効果を高めようと意図するような場合がある。このような場合に,裁判所が一方当事者の宣伝活動に協力するようなことをすると,裁判所の中立性,公平性を損なう。報道機関から取材の申込みがあった場合(原告の訴状提出場面や要請行動場面の庁舎内でのカメラ撮影を含む取材申込みなど)には,このような視点からその当否について検討しなければならず,報道機関に対して裁判所の立場をよく説明し,理解を求めなければならないこともあろう。
3 関係者のプライバシーの保護等
裁判所の扱う情報には,捜査の秘密に属する事項や企業秘密,少年事件における少年法61条に係る事項,閲覧等制限の申立や秘匿決定のなされた事項等,本来公開してはならない情報がある。
また,裁判においては,当事者はもちろんのこと,証人や鑑定人,刑事被告事件の被害者,あるいは代理人,弁護人,検察官等様々な人々が関与するところ,裁判所の取材対応によって,こうした人々のプライバシーが害されることがあってはならない。取材対応のなかで,こうした人々の氏名や住所,事件との関係を明らかにしてよいかどうかについては,細心の注意をもって検討することを要し,事項によっては,裁判事務への影響も考えなければならないので,裁判部の意見を聴く必要がある。
その他期日情報等の裁判関係情報を提供する場合にも,裁判部と連携しつつ,提供する情報に秘匿事項等の公開してはならない情報が含まれていないことを確認する必要がある。
第2 取材対応における一般的な留意事項(原文の5-2)
前述のとおり(5-1参照),個別具体的な事件について,報道機関から総務課に取材があった場合に,当該事件情報について,総務課が裁判部に照会すること自体が裁判の独立に触れるおそれがあり得る,ということに注意する必要がある。また,総務課が裁判事項について報道機関に回答する際には,回答が裁判体の判断であるかのように誤解されないように注意する必要もある。その他,一般的な留意事項は,次のとおりである。
1 心構え
(1) 誠実な対応
記者の取材事項をよく聴き,当方の伝えたいことを確実に伝えることが必要である。形式的な対応ではうまくいかない。
誠実な対応とは,結局,相手の問題意識等を理解した上で,裁判所側として可能な限りの対応を行うこと,といえる。当然,言えないことについては「言えない」と毅然と対応すべきである。また,知ったかぶりなど,その場限りのいい加減な対応は慎む。裁判部における当事者対応と基本的に同じであるといえよう。
(2) 取材拒否は禁物
記者から取材申込みがあった場合,仮に「回答できない。」,「ノーコメント」の対応になるとしても,取材自体は原則として受けるべきである。取材拒否は禁物である。
例えば,記者から会議に参加中の所長に取材申入れがあった場合には,「所長は会議中で取材を受けられない。」などと対応するのではなく,会議の場にメモを差し入れ,所長の指示を得た上で対応すべきである。
(3) 記事への介入は禁物
記事につき記者に圧力をかけていると受け取られるような対応をしてはいけない。また,記事は記者が書くものであり,取材を受けた裁判所の思いどおりの論調になるとは限らない。裁判所のコメント部分が言ったとおり正確に書かれなくてはならないのは当然であるが,裁判所側が記事内容等を指定したり,記事が出ないように止めたりすることはできない。このようなことを要求していると受け取られないよう,言動には注意しなければならない。信頼関係ができている記者から,記事の正確性を確実にするため,記事原稿のチェックを頼まれることもあるが,それを取材を受ける条件として要求することは,差し控えるべきである。
(4) 記者に正しく理解してもらえる努力を
取材対応の結果,誤報等がされては何の意味もない。記者が正しく理解するよう,分かりやすい説明等が求められる。このような対応を的確に行うためには,記者とのコミュニケーションをよく取り,その認識内容や問題関心等をよく理解することが必要である。
(5) 広報感覚を磨く
取材対応は,一見定型的に思えても,一件一件違っているといえる。急いで上級庁とも相談して対応すべき事案もあれば,数日かけて検討して対応できる事案もある。前例に従えばよいというものでもない。事案の特性を見極める感覚を磨く必要がある。
2 取材申込みを受ける際の留意事項
(1) 取材申込み
記者からの取材申込みは様々な形でされる。広報の窓口である総務課に電話で聞いてくる場合が最も多い。そのほか,総務課長を訪ねてくる場合,直接所長に面談を求めてくる場合などがある。訟廷や裁判部に聞いてくる場合もあり得る。
いずれの場合も,一番最初に取材申込みを受ける際の対応が肝心である。ここで記者の取材の趣旨等を的確に把握できないと,十分な対応が検討できず,行き違いによるトラブルや,ひいては誤報等を招いてしまう原因にもなる。
なお,総務課以外に取材申込みがあった場合には,「報道機関からの取材は,総務課が窓口として担当することになっていますので,総務課にお願いします。」と言って,総務課を案内するのが相当である(3-2参照)。
(2) 聴取事項記者から電話等で取材の申込みがあったときは,次の点を確認して,その場でメモを取るようにする。
① 会社名(所属),記者の氏名,連絡先
② 取材内容取材目的ないし取材動機や背景事情
③ どのような取材希望か取材希望日時ないし回答期限
④ 報道予定(掲載日,放送日,番組名等)
②及び③については,次のとおりである。
ア 取材内容(②)
記者が何を取材しているのかよく聴く。取材申込みの窓口担当が,取材内容をよく理解しないまま形式的に記者の言うことを聴き取っても的確な取材対応はできない。また,中には,誤った法律知識を前提に,事実関係や統計数値を尋ねてくる記者もいないわけではない。前提が誤っていないかなど,注意して取材内容を聴取しなければならない。
イ 取材目的ないし取材動機や背景事情(②)
これを知ることは的確な応答のために大切であるが,不用意に記者に質問すると,取材に不当に干渉していると受け取られるおそれがある。要は,取材の趣旨等をよく了解して対応したいので,どういう趣旨の取材なのか,よく分かるように教えてもらえないか,という姿勢で尋ねてみることである。
ウ どのような取材希望か(③)
記者が,所長との面談を求めているのか,所長のコメントを求めているのか,単なる事実関係等の照会・問合せ,資料提供の依頼なのかなどを聴取することが必要である。
エ 取材希望日時ないし回答期限(③)
必ず取材希望日時ないし回答期限を聴取する。この際,記者の希望日時までに,事実の確認や資料等を整える時間の余裕がないと思われる場合などには,回答期限をあいまいにせず,裁判所側で回答できそうな期限を明確に伝えることが必要であり,一旦回答期限を約束した以上は,それを守るよう努力すべきである。
なお,回答期限を定めた場合には,当該時刻に記者から回答を求める電話等をもらうようにしておけば,行き違いなどがなくなる(回答期限を設定できなかったとき,あるいは回答期限に電話をもらったが回答が準備できていなかったときなどは,「準備でき次第,裁判所から連絡します。」と対応する必要がある。)。
3 回答の際の留意事項
(1) 必ず発表するコメント等を紙に書いて用意した上で記者に伝える。記憶して話すというのは不正確になるので絶対にしない。
(2) 原則,口頭で,記者に正確に書き取ってもらえるように紙を見ながら文章を読み上げて伝える。漢字で同音異義語がある場合や固有名詞の場合,どの漢字か口頭で説明する気配りも必要である。
(3) コメントや質問事項を回答した後,別に質問を受けることもある。あらかじめ所長から質問に答えてよいと指示を受けている回答の範囲を超えて質問された場合には,その場で答えることなく,答えられるかどうかも含めて引き取り,改めて所長の指示を受けて対応する。
(4) 対応後は,速やかに,対応の際の状況を所長に報告する必要がある。コメントや回答の趣旨等が誤解されているおそれが見て取れる場合には,これに直ちに対処する必要があるからである。
なお,取材への対応は,記者と面接して行うことが望ましい。記者の表情や態度を見ることによって,思わぬ誤解や行き違いを防止することができるとともに,対面して丁寧に対応することによって,記者との間により深い信頼関係を築くことができるからである。もとより,取材内容が定型的な事実の確認にすぎないとき,来庁を求めることが記者の負担になるときなどには,電話対応で済ませる場合も多いであろう。また,既に記者との間に十分な信頼関係があるという場合にも,あえて面接を求めるまでのことはないと思われる。しかし,例えば,必ずしも十分な信頼関係が築かれていないような記者に対応するときや,対応に神経を要するような重要,微妙な案件については,電話対応で済ませるのではなく,面接により対応するのを原則とすべきである。
第3 取材事項について総務課で即答できない場合の対処(原文の5-3)
法廷内での出来事等,取材を受けた時点で総務課ではその事実関係が分からず,即答できないという場合には,次のとおり対処する必要があろう。
なお,即答できないことがあったとしても,それ自体を負い目に感じることはない。記者が強く即答を求めてきた場合には,事実関係をきちんと把握しなければ回答できないことを明確に記者に伝えるようにする。
1 裁判部との連携
総務課では取材の対象となる事件等に関する事実関係は分からないから,当然,裁判部から情報提供をしてもらう必要がある。的確な取材対応のためには,裁判部から広報担当者への迅速かつ正確な情報提供が不可欠となる。そのためにも,平素から総務課と裁判部との連携を密にしておくことが大切である。
2 正確な事実関係把握
例えば,法廷内で事故やトラブルがあったという場合,法廷に入っていた記者は,直ちに事実の確認や所長のコメント等を求めて,総務課に取材してくる。この場合,総務課は,まず,裁判部に事実関係について尋ねることから始めなければならない。記者から回答を急がされても,記者が持ち込んだ情報を前提にしてコメントを出すような対応は絶対にしてはならない。記者が正確に法廷内の事実や訴訟手続内での位置付けを認識しているとは限らないからである。裁判部から,正確な事実関係について適切に情報収集を行い,これを基に所長以下の広報担当で対応案を検討し,必要があれば上級庁に情報提供等するなどして対応することになる。
なお,以上のことは,裁判所内で事故等が生じたときにも同様である。記者と対応した際にこちらの事実関係の把握があやふやでは事態を紛糾させるだけである。事実関係の正確な把握は,あらゆる場面の報道対応の基本中の基本である。
第4 休日等における取材対応(原文の5-4)
休日や所長不在時に取材があった場合の取材対応について,特に留意すべきと思われる事項は,次のとおりである。
1 即時対応の必要
休日・夜間でも,責任者である所長の不在時でも,報道機関から取材が入ることはある。報道機関は休みなく取材活動を続けて新聞やニュース番組を提供しており,可能な限り,取材を受ける側もこれに対応しなくてはならない。さもないと,こちらの話を聞かずに記事を書いてしまい,誤報や一方的な記事となってしまうおそれがあるからである。特に,休日・夜間,とりわけ深夜の取材は,それだけ報道機関としてのニュース価値が高く,取材の必要性が高いとみてよいと思われる。
報道機関からの取材には,原則として,いつでも,直ちに対応する必要がある(直ちに回答する,という意味ではない。)。
2 休日・夜間の連絡態勢の確立
そこで,休日や夜間に取材があった場合にも,広報事務を担当する総務課職員から総務課長,事務局長,所長と連絡し,責任者である所長が対応できるように平素から連絡態勢を準備しておく必要がある。そのためには,休日・夜間の当直が記者対応をしないように,当直に取材があった場合のルール作りをしておかなければならない。
休日・夜間の取材についても,上級庁に相談の必要があるときには,直ちに連絡することが重要になる。そのための連絡態勢も平素から考慮しておくべきである。
3 責任者不在時の態勢
責任者である所長が不在の場合,まず,所長の出先に連絡できるときには連絡をとることになる。連絡不能の場合には,事務局長,次いで総務課長が,上級庁と相談しながら,所長に代わって対応することになる。
事案にもよるが,所長が不在であるからといって,締切時間に追われている記者をいたずらに待たせることは相当でない。
第5 緊急時における取材対応(原文の5-5)
突発的な事故やトラブルが起こった場合をはじめ,緊急時における取材対応は難しいものである。緊急時の取材対応について,特に留意すべきと思われる事項は,次のとおりである。
1 事実関係の迅速かつ正確な把握
まず,速やかに事実関係を調査することが必要である。迅速かつ正確な事実把握が取材対応の出発点である。緊急時には情報が錯綜したり,混乱していることもあるから,確かな情報と不確かな情報とをより分けながら,事実関係を把握する。
2 取材内容等の正確な聴取
報道機関から取材申込みがあった場合,相手方記者の特定,取材内容,回答期限等の必要事項を正確に聴き取ることが必要である。また,可能な範囲で取材目的,取材動機,背景事情等も教えてもらうようにする。
3 緊急の対応を要するかどうかの判別
事実関係の第一報が入ったり,記者からの取材を受けた時点で,その事案が緊急の取材対応を必要とするものかどうか,今後の広がりはどの程度か,の見極めをしなければならない。物事の先を読むというセンスが必要である。
4 所長への的確な情報集中
責任者である所長が的確な判断を行えるように,事実関係の第一報を所長に報告するとともに,記者からの取材についても報告することが必要である。緊急の対応を要すると判断した場合には,所長がほかの執務中であっても,迅速に報告しなければならない。その際,緊急の対応が必要と考える旨進言する。
その後,事実関係の調査が進めば,その都度,判明した事実を所長に報告する。新たな取材等があった場合も報告する。総務課一事務局長一所長に情報を集中させなければならない。
5 窓口の一本化
緊急の取材対応の場合も,対応は総務課一事務局長一所長のラインで行う。緊急の際には,情報の錯綜や混乱が起こりやすく,取材に対応する窓口は,絶対にこのラインに一本化しなければならない。総務課においても,当該情報の取扱いを総務課長,課長補佐等,特定の職員に集中させる必要がある。
6 上級庁への情報提供等
緊急の取材対応について上級庁に情報提供等する場合には,まず,第一報し,さらに詳細が判明し次第,又は取材があり次第,順次連絡を入れるという形で行うのが適切である。
7 報道対応案の作成
記者からの質問が予想される事項を念頭に置きながら,報道対応案を作成する。具体的には,事実関係,問題点についての裁判所の見方,裁判所の対応などについて,検討していくことになる。
8 所長による対応
記者の取材に対し,事実関係を説明するなり,裁判所のコメントを出すなりの対応は,原則として,責任者である所長が行う。又は所長の指示を受けた事務局長,総務課長等が行う。
また,実際に対応を行うに当たっては,報道機関の締切時間に配盧しなければならない。緊急の場合にこそ,この配慮は重要である。かつ,緊急の場合には,誤りが起こりやすく,また,訂正の時間もないことから,ふだん以上に正確な説明等に留意する必要がある。
9 平素の心掛け
緊急の場合の対応は,その場で急にうまくやろうと思っても難しいものがある。平素から緊急時のための準備を行っておくこと,通常時の取材対応を適切に行うこと,また,平素から記者たちとの間に信頼関係を醸成すること,といったことが緊急時に適切な対応をするために大切になってくる。
第6 裁判官等の裁判所職員に対する取材への対応(原文の5-6)
1 裁判官の場合
報道機関が,何らかの報道目的をもって,特定の裁判官を指名せずに,あるいは特定の事件を担当した裁判官,特定の地域の裁判所や特定の部署に勤務した経験のある裁判官,外国に長期留学研修した経験を有する裁判官など特定の裁判官を指名して,取材を申し入れてくることがある。取材の態様も,コメント依頼,質問事項への回答依頼,インタビュー依頼,テレビ,ラジオへの出演依頼,雑誌等の対談企画への出演依頼等,様々である。こうした裁判官に対する取材については,次のことに留意すべきである。
なお,当然のことながら,裁判官に対する取材への対応場面でも,裁判所の中立性,公平性に留意する必要がある。
(1) 企画内容等の確認
どのような企画内容であるか,企画の趣旨,目的はどのようなところにあるのかをよく確認する必要がある。特に,特定の裁判官を指名しての取材申入れには注意が必要である。なぜその裁判官である必要があるのか,よく確認する必要がある。
(2) 所長への報告等
企画内容等の確認ができたら,まずはそれを所長に報告し,指示を受ける。そのような取材を受けることの当否は,裁判官が公的な立場にあること,その言動が裁判と裁判所の信頼に影響を及ぼす可能性があることなどを考慮すると,単に当該裁判官個人の意向のみで決められるべきものではなく,裁判所として慎重に判断することが求められるからである。その上で,所長の指示に従い,必要に応じ当該裁判官に知らせる(場合によって,その意向も聴取する。)という手順を踏むべきである。所長の指示を受けることなく,当該裁判官に取材依頼があったことなどを説明し,話を進めることは不相当である。
(3) 直接裁判官に取材の申入れがあった場合
記者が直接,裁判官に取材を申し入れることがある。自宅への押し掛け取材,帰宅途上での取材等の場合もある。このような場合に備え,ふだんから裁判官には,記者から取材があった場合には,「取材の申入れは総務課が窓口になっているので,総務課に話をしてもらいたい。」と明確に対応してもらうよう伝えておく必要がある。記者から,「裁判官という立場を離れた○○さん個人への取材です。」と言われても,裁判官である以上,同じ対応をする必要がある。
なお,裁判官から,記者から取材等の申入れがあった旨の通報がなされた場合には,当該記者に対して,「取材の窓口は総務課になっているので,直接裁判官に取材を試みることは差し控えていただきたい。」と,裁判所の考え方を説明する必要がある。
(4) 取材への対応等
裁判所の中立性,公平性の観点からの検討を踏まえた上,取材を受けることを相当と判断した場合,例えば,それがインタビュー取材であれば,事前に,インタビュー内容を確認し,どのような回答等をするのが相当であるかなどをよく検討しておく必要がある。なお,最近では,テレビの生放送番組への出演依頼等がなされることもあるが,生放送番組は予期しない出来事が起きることなどもあり,依頼に応じるか否かについては,特に慎重な検討が必要である。
(5) 個別事件を前提とした取材依頼への対応等
個別事件を前提とした取材依頼に当該担当裁判官が応じることは相当ではない。「裁判官は弁明せず」の法格言(法諺)があるとおり,個別事件に関する裁判所の判断及び理由は,全て判決や決定の理由の中で示されるもので,これら以外の場面で判決等について弁明したり,コメントしたりすることは不適切であるとされている。また,これを疑わせるような可能性のある取材に応じることも同様である。番組に出演すること自体で,裁判所の中立性,公平性に疑いを持たれることもあり得る。いずれにしても,個別事件を前提とした,あるいはそうとられてもやむを得ないような取材には応じることができない,と肝に銘じておく必要がある。
2 一般職の場合
裁判官以外の裁判所職員に対する取材への対応については,基本的には,裁判官に対する取材への対応と同様の検討等を要する。
ただし,裁判官以外の裁判所職員に対する取材への対応については,「裁判官は弁明せず」の法格言(法諺)のある裁判官とは異なるが,守秘義務(国公法100条)が課せられていることには十分に留意する必要がある。特に,裁判所書記官,家庭裁判所調査官,執行官等,事件を担当し,裁判官に極めて近いところで仕事をしている職員については,慎重な検討が必要である。
これまでに取材依頼で応じたことがあるものとしては,次のようなものがある。
なお,当然のことながら,裁判官以外の裁判所職員に対する取材への対応場面でも,裁判所の中立性,公平性に留意する必要がある。
① 裁判所書記官,家庭裁判所調査官の仕事内容や仕事の魅力,やりがいなどを紹介するもの
② 裁判所事務官,裁判所書記官,家庭裁判所調査官を目指した動機,試験への準備などを紹介するもの
③ その他,地域の行事や個人的な趣味,活動などを紹介するもの(裁判所の職務とは直接関係のないもの)
第7 支部等に対する取材への対応(原文の5-7)
報道対応は責任者である所長が行うという原則は,支部における取材対応でも同様である。直接支部に取材申込みがあった場合には,庶務課(長)が窓口となり用件等を確認し,これを本庁の広報事務を担当する総務課などに連絡をした上,対応は,本庁で引き取って行うのが通常である。
しかし,支部所在地の報道機関等が支部に取材に来ており,本庁まで取材に行ってもらうことが難しいような場合には,所長の指示の下に,支部において回答することもあるであろう。支部で対応することとなった場合,支部長が対応するのが相当であるが,支部長が裁判に立ち会っていて記者への対応ができないとき,支部長が取材対象の事件に関与しているようなときなどは,支部長の指示を受けた庶務課長が対応することになろう。
なお,支部に取材対応を要する大型事件が係属した場合等については,本庁の広報事務を担当する総務課などが支部への応援態勢を組むのが相当である。
おって,本庁で対応するとしても支部で対応するとしても,本庁と支部との緊密な連絡,連携に留意する必要がある。
以上の点は,家庭裁判所出張所及び簡易裁判所についても同様である。
第8 検察審査会に対する取材への対応(原文の5-8)
1 原則的対応
検察審査会は,裁判所から独立した機関であるから,検察審査会に対する取材については,検察審査会事務局が取材対応することになる。裁判所の広報事務を担当する総務課は,当然には検察審査会に関する事務について権限を有していないことに留意する必要がある。
ただ,総務課に取材申込みがあったり,検察審査会事務局に直ちに引き継ぐことができない事情等がある場合には,総務課が記者と検察審査会との間の取次役をすることは差し支えない。その場合にも対応の主体が検察審査会であることを十分留意し,記者にもその理解を求める必要がある。
もっとも,取材対応に不慣れな検察審査会事務局から,その経験の豊富な総務課に支援,協力を求めることはあり得ることであり,それに応えて総務課が適切な助言をするなどの支援を行うことは望ましいことである。
2 検察審査会事務局における具体的な取材対応
報道機関からの取材に当たっては,捜査の秘密,審査会議の非公開,関係者のプライバシー保護等の事情に十分配慮した上で対応する必要がある。一般的に,議決前の段階では,申立ての有無等ごく一部の事項について確認に応じる程度に限られ,議決の要旨の掲示後は,掲示した日等の外形的な事実のほか,同要旨に記載された事項の範囲内で回答することになろう。
最高裁の広報ハンドブック(令和2年3月版)を掲載しています。https://t.co/wxJtzdrTuT pic.twitter.com/TtPJ3yu99n
— 弁護士 山中理司 (@yamanaka_osaka) January 9, 2022
第2部 関連記事その他
1 早稲田大学HPに載ってある「河合健司元仙台高裁長官講演会講演録 裁判官の実像」)には「。マスコミとは,喧嘩もしましたが,仲良くもしました。最後は送別会をやってもらいました。やはりマスコミとは喧嘩ばかりでは駄目です。仲良くしておかないとどこで足を引っ張られるか分かりません。皆さんも気を付けてください。」と書いてあります(リンク先のPDF4頁)。
2 以下の記事も参照してください。
・ 裁判所の報道対応の基礎
・ 裁判所の報道発表等
・ 法廷内写真撮影
・ 裁判所の庁舎内(敷地内)写真撮影
・ 判決要旨等
・ 法廷内記者席
・ 対象裁判が著名事件等である場合の留意事項
・ 少年事件についての報道対応の留意事項
・ 所長等就任記者会見,及び記者会見実施上の一般的な留意事項(最高裁判所の広報ハンドブックからの抜粋)
・ 司法修習生による,司法研修所構内の写真撮影禁止に関する文書は存在しないこと
・ 最高裁判所における法廷内カメラ取材運用要領
・ 寺田逸郎最高裁判所長官の就任に伴う写真取材の要領
取材の対価問題はかなり複雑なのですが、謝礼を支払うことは普通にありますよ。もちろん無報酬が原則ですが、支払うことは例外的とは言えないほど間々あります。私が実際に見聞きしたケースだと、著名人・芸能人、何とかアドバイザー・コンサル、元政治家、スポーツ選手、弁護士、私大教授などです。→
— 或る中堅記者 (@chuken_william) September 18, 2022
「金銭の介在により、真実性が歪みかねない」から「取材は無報酬が原則」なのに、記者の側は給料という金銭を得るし、新聞は有料で売るということは、まあ要するに自分たち記者は、会社から給料を得るため、購読者の歓心を買うために真実を歪めている、とバラしているという理解でよろしいだろうか? https://t.co/XHuXHyV6bO
— 飯山陽 Dr. Akari IIYAMA 新刊『中東問題再考』増刷決定 (@IiyamaAkari) September 18, 2022
一般の人に対する取材の場合は理解できますが、専門家などの特定の人に取材する場合、「相手の時間を奪っている」という感覚は持っていただきたいと思うんですよね。こういう場合の報酬って、情報の対価というよりも、奪った時間の対価という側面が強いのだろうと思います。 https://t.co/4aRJkUNsqt
— 中村剛(take-five) (@take___five) September 17, 2022