令和7年司法試験の論文式試験の選択科目[環境法]〔第2問〕(太陽光発電施設の設置工事の事業と環境影響評価)について,法務省の出題の趣旨と採点実感から評価項目を抽出し,5段階で重み付けした上で,模範解答と解説を示す。
評価項目と重みは本記事が独自に作成したものであり,法務省の採点基準や配点ではない。
第1 この記事の対象と結論
本記事は,令和7年司法試験の論文式試験のうち,選択科目[環境法]〔第2問〕(配点50点)を対象として,法務省が公表した「出題の趣旨」及び「採点実感」から答案の評価項目を抽出し,5段階で重み付けをした上で,それらの評価項目を満たす模範解答を示すものである。
試験は令和7年7月16日に実施されたので,法令と判例はその時点のものを前提にしている。
本問は,太陽光発電事業者Aが甲川沿いの土地に太陽光発電施設乙を設置する事業を題材に,環境影響評価法(以下「法」という。)の第二種事業の判定(スクリーニング)とその導入目的(設問1),法に基づく環境影響評価の項目と条例による横出し・手続の上乗せの可否(設問2),景観の保全を理由に施設の設置許可の取消しを求める住民Cの原告適格(設問3)を問うものである。
公式資料から抽出できた評価項目は28項目であり,重み5(答案の骨格又は採点実感が評価の分かれ目とした事項)に当たるのは,項目の選定の指針が環境基本法14条各号の確保を旨とすること(法11条4項)の指摘,公衆参加の拡充という観点による補強,景観利益に関する最高裁平成18年3月30日判決(国立マンション事件)等への言及,及び同判決の示した要件への当てはめの4項目である。
模範解答の結論は,設問1⑴が法4条3項による判定,設問2⑴後段が「法に抵触する」,設問2⑵後段が「法に抵触しない」,設問3が「Cは原告適格を有する」である。
設問2の2つの後段について,出題の趣旨と採点実感は,抵触する・しないのいずれの結論もあり得るとしているので,結論そのものは評価項目にしていない。
第2 評価項目の示し方と重み付けの基準
1 評価項目の示し方
評価項目は,本問の出題の趣旨(環境法〔第2問〕の部分)又は採点実感(環境法の【第2問】の部分と,両問に共通する採点方針)の記述から抜き出したものに限り,一つの項目に一つの判定対象だけを入れ,答案に何が書かれていれば満たすのかが分かる形に言い換えた。
番号は記事全体で通しにしている。
各項目には,出題の趣旨と採点実感のどこに根拠があるかを,法務省掲載のPDFの頁で示し,一方の資料に記載がない場合は「記載なし」,関連する記述から推し量ったものは「間接」と表示した。
「記載なし」は,その資料の本問に関する部分を全部読んだ上で記載が無かったことを意味する。
公式資料の文章は,評価の強さを示す短い語句を除いて引用せず,根拠となる記述の趣旨を要約して示している。
採る結論によって求められる理由付けには,評価項目の欄の冒頭に「(許容分岐)」と付けた。
避けるべき誤りは「〜しない」の形の項目として示した。
重み5の項目も,全ての答案に必須という意味ではない。
2 5段階の重み付けの基準
重みは,公式資料の書きぶりの強さから本記事が付けたものであり,法務省の配点ではない。
本問では,採点実感が「少数にとどまった」「ごく少数」「思いのほか少なく」と述べた事項を評価の分かれ目として重み5とし,出題の趣旨が解答として求め,採点実感も期待した解答として取り上げ又は不足を指摘した事項を重み4とした。
①重み5:採点実感が評価の分かれ目とした事項,又は答案の骨格そのもの
②重み4:出題の趣旨が検討を求め,採点実感も取り上げた事項
③重み3:どちらか一方が明示する中核の理由付け
④重み2:一方が軽い表現で触れる補強の事項,又は典型的な誤りとして指摘された事項
⑤重み1:一方が控えめに触れるだけの事項
第3 本問の概要
太陽光発電事業者Aは,B県の甲川沿いに所有する本件土地に太陽光発電施設乙を設置する事業(乙事業)を計画している。
本件土地は,B県甲川流域保全条例により,甲川の生態系や景観の保全が重要な地区として指定された区域内にあり,文化財保護法上の重要文化的景観に選定された区域に隣接している。
Aは,乙事業が法の第二種事業に当たるとして,法4条1項に基づいて経済産業大臣に届け出た。
設問1は,⑴経済産業大臣が環境影響評価を行う必要があると判定するのはどのような場合か,⑵第一種事業のほかに第二種事業の類型が設けられた理由を問う。
設問2では,Aが方法書の環境影響評価の項目に歴史的・文化的環境などの人工的環境要素を入れず,住民の批判を受けたB県知事が臨時の公聴会を開き,地元の歴史研究者の指摘も踏まえて,歴史的・文化的環境を項目に含めるべきとの意見を述べ,Aがこれを取り入れた。
B県議会は,法に基づく手続を条例で拡充する検討を始めた。
⑴は,Aが人工的環境要素を入れる必要はないと考えた理由(環境基本法の関連規定に触れて)と,条例で法の方法書の項目に人工的環境要素を入れることを事業者に義務付けることが法に抵触するかを,⑵は,環境の保全の見地からの意見を有する者の意見について事業者が負う手続的義務の方法書段階と準備書段階の違いと,条例で知事に方法書の意見の前の公聴会の開催を義務付けることが法に抵触するかを問う。
設問3では,条例が,指定区域内の工作物の建築等に知事の許可を要するとし,許可の基準の一つに「当該土地及びその周辺における生態系及び景観を著しく悪化させるおそれがないこと」を置き,許可の前に土地が属する地域の住民の意見を聴くと定めている。
知事はAの申請を許可した。
本件土地が属する地域の住民で,長年甲川の良好な景観を保全する活動を続けてきたCが,B県を被告として許可の取消訴訟を提起する場合の訴訟要件についての主張を,B県の反論を踏まえて論じることが求められる。
問題文に挙げられた以外の条例の内容は考慮しなくてよいとされている。
第4 評価項目と重み
1 設問1(第二種事業の判定とその導入理由)
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 法4条3項を示し,届出を受理した者が,乙事業の「環境影響の程度が著しいものとなるおそれがある」と認めるときに,環境影響評価が必要と判定することを端的に述べる | 4 | 37頁(〔設問1〕⑴。同条3項に基づく解答を求める) | 35頁(端的に述べることを求め,条文の指摘を欠く答案が一定の割合あった) |
| 2 | 法は規模が大きく環境影響の程度が著しいおそれがある事業を対象とし(法1条,2条2項・3項),第一種事業には環境影響評価が義務付けられるのに対し,第二種事業は必要性を個別に判定することを示す | 2 | 37頁(〔設問1〕⑵) | 記載なし |
| 3 | 第二種事業は第一種事業に準ずる規模(比が0.75以上。法2条3項,同法施行令6条)の事業であることを示す | 1 | 37頁(〔設問1〕⑵の括弧書き) | 間接(35頁。適切な説明の例の中で触れる) |
| 4 | 準ずる規模でも,個別の事業の内容や実施地域の環境条件によっては環境影響の程度が著しいものとなるおそれがあることを,第二種事業を設けた理由として説明する | 4 | 37頁(〔設問1〕⑵) | 35頁(適切な説明の一つ。多くの答案が説明できていた) |
| 5 | 規模で一律に要否を決めると,基準をわずかに下回る規模にすることで「アセス逃れ」が生じ得ることを,理由として説明する | 4 | 37頁(〔設問1〕⑵) | 35頁(適切な説明の一つ) |
2 設問2⑴(人工的環境要素と条例による横出し)
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 6 | 項目等の選定(法11条1項)が,環境基本法14条各号に掲げる事項の確保を旨として定められた指針(法11条4項)によることを示す | 5 | 37頁(〔設問2〕⑴前段。法5条,11条1項・4項) | 35頁(期待した解答だが「少数にとどまった」) |
| 7 | 環境基本法14条各号(環境の自然的構成要素の良好な状態の保持,生物の多様性の確保及び自然環境の体系的保全,人と自然との豊かな触れ合い)には,歴史的・文化的環境などの人工的環境要素が含まれないことを示す | 4 | 37頁(〔設問2〕⑴前段) | 35頁(同上の期待した解答) |
| 8 | 環境省告示の基本的事項が,項目の範囲に「環境への負荷」「一般環境中の放射性物質」も含めていることに触れる | 1 | 37頁(〔設問2〕⑴前段のなお書き) | 記載なし |
| 9 | (許容分岐)法11条・環境基本法14条に触れない場合でも,環境基本法の他の規定に触れて合理的に説明する | 1 | 記載なし | 35頁(一定の点数を付与した) |
| 10 | 法61条2号の「この法律の規定に反しないものに限る」という文言を解釈して,法の評価項目以外の項目への条例による横出しが認められるかの結論を導く(結論はいずれも可) | 4 | 37頁(〔設問2〕⑴後段。法文上明らかでなく,いずれの結論もあり得る) | 35頁(文言を解釈して結論を導く必要がある) |
| 11 | (許容分岐)抵触するとの結論を採る場合,法の義務を超えて事業者に不当な負担を課すことになるという観点から論じる | 3 | 記載なし | 35頁(論じ方の例。できている答案は多くはなかった) |
| 12 | (許容分岐)抵触しないとの結論を採る場合,法で規定されていない内容であるという観点から論じる | 3 | 記載なし | 35頁(同上) |
| 13 | 法と条例の関係を一般的に論じるだけでなく,環境影響評価制度の特質を考慮して論じる | 3 | 記載なし | 35頁(徳島市公安条例事件判決から導く答案にも一定の点数を付けたが,制度の特質を考慮したものをより高く評価した) |
3 設問2⑵(意見の取扱いと公聴会の義務付け)
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 14 | 方法書の段階では,事業者は知事等に意見の概要を送付すれば足り,見解の送付は義務付けられていないこと(法9条)を示す | 4 | 37頁(〔設問2〕⑵前段) | 35頁(根拠条文を指摘しつつ説明できた答案は多くはなかった) |
| 15 | 準備書の段階では,意見の概要に加えて,その意見についての事業者の見解の送付が義務付けられていること(法19条)を示す | 4 | 37頁(〔設問2〕⑵前段) | 35頁(同上) |
| 16 | 方法書の段階で知事に公聴会を義務付けるという純然たる手続の上乗せについて,法61条2号を解釈して結論を導く(結論はいずれも可) | 4 | 38頁(〔設問2〕⑵後段) | 35頁(同号の解釈を求め,いずれの結論もあり得るとする) |
| 17 | (許容分岐)抵触しないとの結論を採る場合,事業者に不当な負担を課すものではないことを理由とする | 3 | 記載なし | 35頁(多くの答案が挙げた理由) |
| 18 | 環境影響評価制度の本質的要素である公衆参加を拡充する観点から結論を補強する | 5 | 38頁(公衆参加の観点を取り込んだ解答は高く評価される) | 35頁(「ごく少数」の答案が補強しており,高く評価した) |
4 設問3(Cの原告適格)
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 19 | Cは許可の相手方でないから,原告適格(行政事件訴訟法9条1項の「法律上の利益」)が争点となることを示す | 4 | 38頁(〔設問3〕) | 35頁(原告適格が争点となる) |
| 20 | 行政事件訴訟法9条1項・2項を示し,根拠法規が不特定多数者の具体的利益を一般的公益の中に吸収・解消させるにとどめず,個々人の個別的利益としても保護する趣旨を含むかを,同条2項に従って検討する | 4 | 38頁(〔設問3〕) | 35頁(同条1項及び2項を指摘した上での主張を求める) |
| 21 | Cが景観利益を有する者であることを主張する | 4 | 38頁(Cの景観利益への言及を期待) | 35頁(景観利益を有する者であることの説明を求める) |
| 22 | 景観利益に関する最高裁平成18年3月30日判決(国立マンション事件)又は広島地裁平成21年10月1日判決(鞆の浦の埋立免許差止め事件)に言及する | 5 | 記載なし | 36頁(言及する解答が「思いのほか少なく」) |
| 23 | Cが①良好な景観に②近接する地域内に居住し③その恵沢を日常的に享受している者に当たることを当てはめる | 5 | 間接(38頁。Cの景観利益への言及) | 36頁(当てはめまでできた答案は「ごく少数」) |
| 24 | 条例が景観を著しく悪化させるおそれがないことを許可基準の一つとしていること,及びCが許可の際に意見を聴かれる地域の住民であることを,行政事件訴訟法9条2項に当てはめる | 4 | 38頁(条例の内容への言及を期待) | 36頁(いずれか又は両方を当てはめた答案は一定の割合) |
| 25 | B県の反論を踏まえて論じる | 3 | 38頁(〔設問3〕) | 記載なし |
| 26 | 出題の意図を離れて,環境権を根拠に原告適格を論じない | 2 | 記載なし | 36頁(環境権を根拠とする答案があった) |
| 27 | 原告適格を主張するとの結論だけで終わらせず,理由を示す | 2 | 記載なし | 36頁(結論のみの記述で終わる答案があった) |
5 答案全体
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 28 | 根拠条文がある場合は条文を指摘して説明する(設問1⑴の法4条3項,設問2⑵前段の法9条・19条等) | 3 | 記載なし | 35頁(根拠条文の指摘は解答の基本とする) |
6 重みの分布
28項目の内訳は,重み5が4項目,重み4が12項目,重み3が6項目,重み2が3項目,重み1が3項目であり,重みの合計は95点である。
設問別では,設問1が5項目・15点,設問2⑴が8項目・24点,設問2⑵が5項目・20点,設問3が9項目・33点,答案全体が1項目・3点である(法務省は設問ごとの配点を公表していない)。
重み5の4項目は,番号6(項目の選定の指針と環境基本法14条),番号18(公衆参加の拡充),番号22(景観利益に関する判例への言及)及び番号23(同判例の要件への当てはめ)であり,いずれも採点実感が「少数にとどまった」「ごく少数」「思いのほか少なく」と述べた事項である。
第5 模範解答
1 答案の前提と表記
以下の答案は,第4の評価項目を満たすように作成したものであり,試験の実施時(令和7年7月)の法令と,それまでに言い渡された判例を前提にしている。
設問3は,Cの立場からの主張を,B県の反論を踏まえて論じる形にしている。
答案は,論文式答案で広く使われてきた型によっている。
見出しを「1」「(1)」「ア」の順に下げ,問題提起,規範の定立,当てはめ及び結論の順に書き,反対の立場は「確かに,〜とも思える。しかし,〜。」の形で取り上げ,最後に「以上」と書く型である。
設問1⑵,設問2⑴前段及び設問2⑵前段は制度の説明を求める問いなので,条文と理由を簡潔に示し,事実の当てはめは設問1⑴,設問2⑵後段及び設問3に割いた。
答案の括弧書きで示した判例は,裁判所ウェブサイトで判示を確認したものに限った。
「判例同旨」は判例と同じ規範によるもの,「参照」は事案や手続の種類が異なるが判示の考え方を参考にしたものを示す。
字数は見出しを含めて約2,400字である。
2 答案
1 設問1について
(1) 小問⑴について
経済産業大臣は,届出の日から60日以内に,B県知事の意見(法4条2項)を勘案して判定を行い,乙事業が「環境影響の程度が著しいものとなるおそれがある」と認めるときに,環境影響評価その他の手続が必要と判定する(同条3項1号)。本問では,本件土地が生態系や景観の保全のため条例で指定された区域内にあるから,判定基準(同条9項,発電所アセス省令16条22号ワ)に照らし,このおそれが認められ得る。
(2) 小問⑵について
法は,規模が大きく環境影響の程度が著しいおそれがある事業を対象とし(1条,2条2項・3項),第一種事業には環境影響評価を義務付ける一方,第一種事業に準ずる規模(比が0.75以上。施行令6条)の第二種事業については,その要否を個別に判定する。
その理由は,第一に,環境影響の程度は個別の事業の内容や実施地域の環境条件によって異なり,準ずる規模でも影響が著しいおそれのある事業があり得るからである。第二に,規模で一律に要否を決めると,基準をわずかに下回る規模にして手続を免れる,いわゆるアセス逃れが生じ得るからである。
2 設問2について
(1) 小問⑴について
ア Aの考えの理由
事業者は,方法書に環境影響評価の項目等を記載し(法5条1項7号),項目等を選定するが(11条1項),その選定の指針は環境基本法14条各号に掲げる事項の確保を旨として定められる(11条4項)。同条は,①環境の自然的構成要素の良好な状態の保持,②生物の多様性の確保及び自然環境の体系的保全,③人と自然との豊かな触れ合いを掲げ,歴史的・文化的環境などの人工的環境要素を含まない。Aは,そのため法の項目に入れる必要はないと考えたのである。
イ 条例による義務付け
法61条2号は,対象事業等の環境影響評価の手続を条例で定めることを,「この法律の規定に反しないものに限」り妨げないとするが,法の項目以外の項目への横出しが許されるかは文言上明らかでない。
確かに,人工的環境要素は法が規定していない内容であるから,横出しは法に反しないとも思える。しかし,法は,項目の範囲を環境基本法14条各号の確保を旨とする国の指針に委ね(11条4項),事業者が負う義務の範囲を全国一律に画している。法の方法書の項目そのものに人工的環境要素を加えさせることは,法の義務を超えて事業者に不当な負担を課し,法の手続の統一性を損なう。
よって,法に抵触する。ただし,法の手続とは別の条例独自の手続で調査等を求めることは妨げられない。
(2) 小問⑵について
ア 方法書段階と準備書段階の違い
方法書の段階では,事業者は意見の概要を知事等に送付すれば足り(9条),見解の送付は義務付けられていない。これに対し,準備書の段階では,意見の概要に加えて当該意見についての事業者の見解を送付しなければならない(19条)。項目等を絞り込む方法書段階と,評価の結果を示す準備書段階とで,意見への応答の要否を分けたものである。
イ 公聴会の義務付け
知事に公聴会を義務付けることは,知事の意見形成に関する純然たる手続の上乗せであり,61条2号の地方公共団体における手続に当たる。事業者には新たな義務が生じず,不当な負担はない。また,公衆参加は環境影響評価制度の本質的要素であり,法も方法書段階で説明会と意見書の提出の機会を設けている(7条の2,8条)。本問でも,臨時の公聴会で地元の歴史研究者の指摘を得て知事意見に反映できたように,公聴会は公衆参加を拡充するもので,法の趣旨に沿う。確かに,手続の遅延も懸念されるが,知事意見の期間(施行令で原則90日)内の開催とすれば足りる。よって,法に抵触しない。
3 設問3について
(1) 原告適格
本問許可は処分であり,被告はB県である(行政事件訴訟法11条1項1号)。Cは許可の相手方でないから,Cに「法律上の利益」(同法9条1項)があるかが問題となる。
(2) 判断基準
処分の根拠法規が,不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず,個々人の個別的利益としても保護する趣旨を含むかを,同条2項に従って判断する(判例同旨・最大判平成17年12月7日)。
(3) Cの主張
良好な景観に近接する地域内に居住し,その恵沢を日常的に享受している者の景観利益は,法律上保護に値する(最判平成18年3月30日参照,広島地判平成21年10月1日参照)。Cは,長年保全活動を続けてきた甲川の良好な景観(①)に近接する本件土地の属する地域に居住し(②),その恵沢を日常的に享受している(③)。
そして,本問条例は,「当該土地及びその周辺」の景観を著しく悪化させるおそれがないことを許可基準とし,その土地が属する地域の住民の意見を聴くとする。これは,周辺住民の景観利益を個別に考慮する趣旨といえる(同条2項)。景観は一度損なわれると回復が困難であり,乙の運営中も侵害が続く。
よって,Cは原告適格を有すると主張できる。
(4) B県の反論
B県は,景観は「国民共通の資産」(景観法2条1項)として公益に属し,意見聴取は判断資料を得るためのものにすぎないこと,前記平成18年判決は民事の判断であること,保全活動は公益的関心にとどまること(最判平成元年6月20日参照)を反論とし得る。
(5) 検討
確かに,保全活動だけでは個別的利益は認められない。しかし,条例が「周辺」の景観と地域の住民の意見を許可の判断に取り込んでおり,Cはまさに意見を聴かれる地域の住民であること,侵害が回復困難であることからすれば,①から③までを満たすCの景観利益は個別的利益としても保護されていると解する。したがって,Cは原告適格を有する。
以上
3 出題の趣旨・採点実感を踏まえた解説
(1) 答案と評価項目の対応
答案の1(1)は番号1・28,1(2)は番号2〜5,2(1)アは番号6・7,2(1)イは番号10〜13,2(2)アは番号14・15,2(2)イは番号16〜18,3(1)は番号19,3(2)は番号20,3(3)は番号21〜24,3(4)・(5)は番号25に対応する。
番号8は字数の都合で答案に含めていない(下記⑸)。
番号9・12は答案が採らなかった構成の場合の項目であり,番号12の理由は答案の2(1)イで反対の見方として示した。
番号26・27は答案が避けた誤りである。
(2) 設問1
設問1⑴は,採点実感が法4条3項を示して「端的に」述べることを求め,条文の指摘を欠く答案が一定の割合あったと指摘している(番号1・28)。
答案は,判定の根拠として同項と判定基準(同条9項,発電所アセス省令16条22号ワ)を挙げ,本件土地が条例で指定された区域内にあることを1文で当てはめた。
判定基準の具体的な内容は公式資料が求めた事項ではないので,評価項目には入れていない。
設問1⑵では,出題の趣旨と採点実感がそろって,①準ずる規模でも事業の内容や地域の環境条件によって影響が著しくなり得ることと,②規模で一律に決めると基準をわずかに下回る規模にする「アセス逃れ」が生じ得ることの2つを挙げている(番号4・5)。
採点実感によれば,多くの答案はこのいずれか又は両方を説明できていた。
(3) 設問2
設問2⑴前段で採点実感が期待したのは,項目の選定(法11条1項)が環境基本法14条各号の確保を旨とする指針(法11条4項)によること,同条各号には人工的環境要素が含まれないことの説明であり,そのような解答は「少数にとどまった」とされる(番号6・7)。
出題の趣旨は,なお書きで,環境省告示の基本的事項が項目の範囲に「環境への負荷」と「一般環境中の放射性物質」も含めていることに触れている(番号8。答案では字数の都合で省いた)。
設問2⑴後段について,出題の趣旨は,法61条2号が「この法律の規定に反しないものに限」って条例を許すものの,法の評価項目以外の項目への横出しを認めるかは法文上明らかでないとし,抵触する・しないのいずれの結論もあり得るとする(番号10)。
採点実感は,抵触するなら「法の義務を超えて事業者に不当な負担を課す」こと,抵触しないなら「法で規定されていない内容である」ことの観点から論じることを挙げ,徳島市公安条例事件の最高裁判決から結論を導く答案にも一定の点数を付けたが,環境影響評価制度の特質を考慮したものをより高く評価したとする(番号11〜13)。
答案は抵触するとの結論を採り,非抵触の理由は「確かに」で示した。
設問2⑵前段は,方法書段階では意見の概要の送付(法9条),準備書段階では意見の概要と事業者の見解の送付(法19条)という違いを,条文を示して説明すればよい(番号14・15)。
なお,乙のような発電所の事業には電気事業法の特例があり,方法書段階でも意見の概要の書類に事業者の見解を記載しなければならず(同法46条の6第1項),方法書についての知事の意見は経済産業大臣に対して述べる(同法46条の7)。
公式資料はこの特例に触れておらず,設問も「法の規定による環境影響評価の場合」と限定しているので,答案は法の一般の手続によった。
設問2⑵後段について,採点実感は,多くの答案が事業者に不当な負担を課さないことを理由に抵触しないと結論付けた中で,環境影響評価制度における公衆参加を拡充する観点で補強した答案が「ごく少数」あり,高く評価したとする(番号17・18)。
出題の趣旨も,公衆参加の観点を取り込んだ解答は環境影響評価制度の本質的要素の一つを意識している点で高く評価されるとしている。
(4) 設問3
出題の趣旨は,Cの原告適格について,処分を定めた法規が不特定多数者の具体的利益を一般的公益に吸収・解消させず個々人の個別的利益としても保護する趣旨を含むかを行政事件訴訟法9条2項に従って検討し,Cの景観利益と条例の内容に言及することを期待している(番号19〜21・24)。
採点実感は,景観利益について,最高裁平成18年3月30日判決(国立マンション事件)又は広島地裁平成21年10月1日判決(鞆の浦の公有水面埋立免許差止め事件)に言及する答案が「思いのほか少なく」,Cが①良好な景観に②近接する地域内に居住し③その恵沢を日常的に享受している者に当たるとの当てはめまでした答案は「ごく少数」だったとする(番号22・23)。
答案は,この3つの要件に番号を振って事実を当てはめた。
平成18年判決は民事の不法行為の事件であり,取消訴訟の原告適格を判断したものではないので,答案では「参照」とし,B県の反論にもこの点を挙げた。
他方,条例が景観を著しく悪化させるおそれがないことを許可基準の一つとしていることと,Cが許可の際に意見を聴かれる地域の住民であることを,9条2項に当てはめた答案は一定の割合あったとされる(番号24)。
環境権を根拠にする答案や,原告適格を主張するとの結論だけで終わる答案は,採点実感が問題点として挙げている(番号26・27)。
(5) 答案の弱点と扱わなかった事項
答案は,字数を約2,400字に抑えるため,基本的事項の別表(番号8)を省き,判定基準の当てはめを1文にとどめた。
設問2⑴後段は,抵触しないとの結論も十分にあり得る(出題の趣旨・採点実感)。
その場合は,人工的環境要素は法が規定していない内容であり,法61条2号の「この法律の規定に反しない」に当たる,という理由付けになる(番号12)。
設問3では,訴訟要件のうち原告適格を中心に論じ,出訴期間(行政事件訴訟法14条)と,工事の完了による訴えの利益の消滅(建築確認について最高裁昭和59年10月26日判決)は扱っていない。
工事の進み具合が問題文に書かれておらず,公式資料も原告適格を中心に置いているためである。
Cの景観保全活動は,それだけでは個別的利益を基礎付けないとするのが答案の立場であり,史跡を研究対象とする学術研究者の原告適格を否定した最高裁平成元年6月20日判決をB県の反論の根拠として挙げた。
第6 関連記事
1 同じ年度の司法試験の別の模範解答
①令和7年度司法試験公法系第1問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した40項目と5段階の重み付け(AI作成)
②令和7年度司法試験公法系第2問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した72項目と5段階の重み付け(AI作成)
③令和7年度司法試験民事系第1問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した96項目と5段階の重み付け(AI作成)
④令和7年度司法試験民事系第2問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した65項目と5段階の重み付け(AI作成)
⑤令和7年度司法試験民事系第3問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した75項目と5段階の重み付け(AI作成)
⑥令和7年度司法試験刑事系第1問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した59項目と5段階の重み付け(AI作成)
⑦令和7年度司法試験刑事系第2問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した51項目と5段階の重み付け(AI作成)
⑧令和7年度司法試験倒産法第1問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した38項目と5段階の重み付け(AI作成)
⑨令和7年度司法試験倒産法第2問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した28項目と5段階の重み付け(AI作成)
⑩令和7年度司法試験租税法第1問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した33項目と5段階の重み付け(AI作成)
⑪令和7年度司法試験租税法第2問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した43項目と5段階の重み付け(AI作成)
⑫令和7年度司法試験経済法第1問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した25項目と5段階の重み付け(AI作成)
⑬令和7年度司法試験経済法第2問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した25項目と5段階の重み付け(AI作成)
⑭令和7年度司法試験知的財産法第1問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した25項目と5段階の重み付け(AI作成)
⑮令和7年度司法試験知的財産法第2問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した35項目と5段階の重み付け(AI作成)
⑯令和7年度司法試験労働法第1問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した24項目と5段階の重み付け(AI作成)
⑰令和7年度司法試験労働法第2問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した33項目と5段階の重み付け(AI作成)
⑱令和7年度司法試験環境法第1問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した26項目と5段階の重み付け(AI作成)
⑲令和7年度司法試験国際関係法(公法系)第1問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した19項目と5段階の重み付け(AI作成)
⑳令和7年度司法試験国際関係法(公法系)第2問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した22項目と5段階の重み付け(AI作成)
㉑令和7年度司法試験国際関係法(私法系)第1問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した30項目と5段階の重み付け(AI作成)
㉒令和7年度司法試験国際関係法(私法系)第2問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した29項目と5段階の重み付け(AI作成)
㉓令和7年度司法試験論文式試験の主要7科目の模範解答(AI作成)
㉔令和7年度司法試験論文式試験の選択科目8科目の模範解答(AI作成)
2 本問の模範解答と関連する山中弁護士ブログの記事
①林地開発許可を争う実務―周辺住民の原告適格、工事完成後の訴えの利益及び執行停止(AI作成)
②地域脱炭素化促進事業のワンストップ特例―温対法・森林法・自然公園法・環境影響評価法の条文連鎖(AI作成)
③令和8年度司法試験環境法第2問の参考答案と予想される評価項目――自然公園法の地域制・草原保全・風景地保護協定・損失補償(AI作成)
④法務省HPの司法試験・予備試験の資料の所在―年度別の実施・結果・出題趣旨・採点実感のページ一覧(AI作成)
⑤太陽光発電施設の計画に周辺住民はどう関わり争えるか―再エネ特措法の説明会,環境影響評価の意見書,条例の許可と景観利益による原告適格(AI作成)
第7 出典及び確認状態
1 公式資料
①法務省「令和7年司法試験問題」
②令和7年司法試験論文式試験問題(選択科目)
③法務省「令和7年司法試験の結果について」
④令和7年司法試験論文式試験出題の趣旨
⑤法務省「令和7年司法試験の採点実感」
⑥令和7年司法試験の採点実感(選択科目)
⑦令和7年司法試験受験案内
2 法令等
①環境影響評価法(e-Gov法令検索)
②環境影響評価法施行令(e-Gov法令検索)
③発電所の設置又は変更の工事の事業に係る計画段階配慮事項の選定並びに当該計画段階配慮事項に係る調査,予測及び評価の手法に関する指針,環境影響評価の項目並びに当該項目に係る調査,予測及び評価を合理的に行うための手法を選定するための指針並びに環境の保全のための措置に関する指針等を定める省令(e-Gov法令検索)
④環境基本法(e-Gov法令検索)
⑤行政事件訴訟法(e-Gov法令検索)
⑥景観法(e-Gov法令検索)
⑦電気事業法(e-Gov法令検索)
⑧環境影響評価法の規定による主務大臣が定めるべき指針等に関する基本的事項(平成9年環境庁告示第87号。環境省環境影響評価情報支援ネットワーク)
3 裁判例
①最高裁判所大法廷昭和50年9月10日判決(昭和48年(あ)第910号,刑集29巻8号489頁)
②最高裁判所大法廷平成17年12月7日判決(平成16年(行ヒ)第114号,民集59巻10号2645頁)
③最高裁判所第一小法廷平成18年3月30日判決(平成17年(受)第364号,民集60巻3号948頁)
④広島地方裁判所平成21年10月1日判決(平成19年(行ウ)第16号)
⑤最高裁判所第三小法廷平成元年6月20日判決(昭和58年(行ツ)第98号,集民157号163頁)
⑥最高裁判所第二小法廷昭和59年10月26日判決(昭和58年(行ツ)第35号,民集38巻10号1169頁)
4 確認状態
出題の趣旨は,法務省掲載のPDF(全42頁)のうち環境法〔第2問〕の部分(36頁〜38頁)を全て読んだ。
採点実感は,選択科目のPDF(全45頁)のうち環境法の部分の採点方針(34頁)と【第2問】の部分(35頁〜36頁)及び末尾の「今後の出題について」「学習者及び今後の法科大学院教育に求めるもの」(36頁)を読んだ。
第4の頁は,いずれもPDFの印字頁である。
法令は,e-Gov法令APIで令和7年7月16日時点の版を取得して確認した(環境影響評価法は令和7年6月20日施行の改正後の版)。
試験日より後の改正は答案に反映していない。
なお,条例との関係を定める環境影響評価法の規定は,試験日の時点では61条であったが,環境影響評価法の一部を改正する法律(令和7年法律第73号)の令和8年4月1日施行の部分により62条に繰り下がっている(文言は同じ)。
答案と本記事は,試験日の時点の条番号(61条2号)によっている。
裁判例は,いずれも裁判所ウェブサイトで裁判年月日・事件番号と判示を確認した。
上記④の判決は,採点実感が「判時2060号3頁」として挙げているが,裁判所ウェブサイトには掲載誌の欄が無いため,掲載誌は確認していない。
同判決の判決書では地名が伏せられており,事件の通称(鞆の浦)は採点実感の記載による。
上記⑤の判決は,裁判所ウェブサイトの掲載誌の表示による(判例時報の掲載頁は確認していない)。
上記①及び⑥の判決は,第5の3の解説で触れるだけで,答案では用いていない。
環境影響評価法61条2号により法の評価項目以外の項目を条例で横出しすることの可否について,環境省の解釈は確認していない。
出題の趣旨と採点実感がいずれの結論もあり得るとしているので,答案の結論は一つの考え方として示した。