第1 この記事の対象と結論
地域脱炭素化促進事業の「ワンストップ特例」は,市町村が認定する地域脱炭素化促進事業計画について,関係行政機関への事前協議と同意を認定手続へ組み込み,個別法上の許可等があったものとみなす制度である。
しかし,ワンストップであることは,個別法の実体的な許可基準を緩和することを意味しない。また,全ての許認可が一括処理されるわけでもない。実務では,①事業が温対法の定義に入るか,②市町村の実行計画に必要事項が定められているか,③認定申請に含める個別法上の行為は何か,④協議先と同意要件は何か,⑤認定により生じる法的効果は何か,⑥特例対象外の許認可が残らないかを順に確認する必要がある。
第2 制度の入口―地域脱炭素化促進事業とは何か
地球温暖化対策の推進に関する法律(以下「温対法」という。)2条6項は,地域脱炭素化促進施設を整備する事業であって,地域の脱炭素化のための取組及び地域の環境の保全並びに地域の経済及び社会の持続的発展に資する取組を併せて行うものを,地域脱炭素化促進事業と定義している。
したがって,再生可能エネルギー設備を設置するだけで当然にこの制度の対象となるわけではない。施設整備,地域の脱炭素化,環境保全及び地域貢献を一体の事業計画として構成することが入口となる。
第3 市町村の実行計画と促進区域
温対法21条5項は,市町村の地方公共団体実行計画に,地域脱炭素化促進事業の目標,促進区域,施設の種類・規模,地域脱炭素化のための取組,地域の環境保全のための取組及び地域の経済・社会の持続的発展に資する取組を定めるよう努めることとしている。
同条7項により,促進区域は,環境省令で定める基準に従い,かつ,都道府県が定めた基準があるときはその基準に基づいて定めなければならない。関係者からの意見聴取,協議会での協議及び計画の公表も条文連鎖の一部であり,区域の指定だけを切り出して判断すべきではない。
環境省の現行Q&Aは,21条5項所定の促進事項が一つでも実行計画に定められていない場合,事業計画を認定できないと説明している。まず自治体計画の記載を確認し,不足があれば事業者の認定申請より前に計画側の整備を検討することになる。
第4 地域脱炭素化促進事業計画の認定手続
温対法22条の2第1項により,事業者は,促進区域を定めた市町村に対し,地域脱炭素化促進事業計画を作成して認定を申請できる。協議会が組織されているときは,あらかじめ協議会における協議が必要である。
申請計画には,申請者,事業の目標,区域,施設,実施期間,地域脱炭素化のための取組,環境保全のための取組,地域貢献の取組及び資金計画等を記載する。市町村は,実行計画との適合性,円滑かつ確実な実施可能性,関係法令への適合性等の認定要件を確認する。
個別法の特例を用いる行為が含まれるとき,市町村は関係行政機関へ協議し,同意を得なければ認定できない。事業者が個別行政庁への説明・資料作成を省略できる制度ではなく,窓口と法的効果を認定手続へ集約する制度と理解するのが安全である。
第5 ワンストップ特例の正確な意味
| 段階 | 主体 | 行為 | 法的意味 |
|---|---|---|---|
| 計画形成 | 市町村 | 実行計画に促進区域等を定める | 認定制度を使う前提を整える |
| 申請前 | 事業者 | 協議会で協議し,関係資料を整える | 認定申請の内容と関係者調整を具体化する |
| 認定審査 | 市町村 | 個別法の権限者へ協議する | 個別法の実体基準を認定過程で審査する |
| 同意 | 関係行政機関 | 個別法上の基準に照らして同意する | 市町村が認定するための要件となる |
| 認定後 | 法律 | 許可等があったものとみなす | 別個の許可申請を省ける範囲が生じる |
この連鎖の中心は,「申請一本化」ではなく,「事前協議・同意を経た認定に,個別法上の効果を結び付ける」点にある。協議先の同意が得られなければ,その特例を含む形での認定には進めない。
第6 許認可別の条文連鎖と法的効果
現行の温対法22条の2第4項は,温泉法,森林法,農地法,自然公園法,盛土規制法,河川法及び廃棄物処理法に関する許可・届出等を協議対象として列挙している。法的効果は一様ではなく,後続条文を最後まで読む必要がある。
| 接続類型 | 主な現行条文 | 確認すべき効果 |
|---|---|---|
| 許可等のみなし | 22条の6から22条の11 | 認定により,温泉法・森林法・農地法・自然公園法・盛土規制法・河川法上の許可等があったものとみなされる範囲 |
| 認定等のみなし・届出除外 | 22条の12 | 廃棄物処理法上の熱回収認定等のみなし,又は特定区域内の届出規定を適用しない範囲 |
| 手続の一部不適用 | 22条の13 | 環境影響評価法のうち適用されない章節 |
| 別制度との接続 | 21条の2,22条の4 | 農山漁村再生可能エネルギー法とのみなし・読替え,共同作成協定の認定みなし |
「準用」「読替え」「みなし」「不適用」は似て見えるが,法的効果が異なる。何が誰に対して,どの時点で生じるのかを条文ごとに一行化することが重要である。
第7 森林法・自然公園法の特例
森林法関係では,温対法22条の2第4項2号・3号による協議と同意を経た上で,22条の7により,開発許可又は保安林関係の許可があったものとみなされる。協議先の同意は,森林法上の許可基準に適合すると認めるときに行われるため,森林法の審査内容が消えるわけではない。
林地開発許可の周辺住民の原告適格,工事完成後の訴えの利益及び執行停止については,林地開発許可を争う実務に整理した。ワンストップ特例によるみなし許可であっても,紛争時には,認定処分と個別法上のみなし効果の関係,協議・同意の記録及び森林法上の許可基準への適合性を分けて確認する。
自然公園法関係では,国立公園は温対法22条の2第4項5号,国定公園は同項6号による協議・同意を経て,22条の9第1項により許可があったものとみなされるほか,同条2項により一定の届出規定が適用されない。許可のみなしと届出の不適用を区別し,行為地が国立公園か国定公園か,特別地域か普通地域か,対象行為が何かを先に確定する必要がある。地域制自然公園の仕組み,利用調整地区,風景地保護協定及び公園管理団体については,自然公園はなぜ地域制公園なのかで整理している。
第8 環境影響評価法の特例は配慮書手続だけである
温対法22条の13は,地域脱炭素化促進施設の整備について,環境影響評価法第2章第1節を適用しないと定めている。第2章第1節は計画段階環境配慮書の手続であり,方法書以降を含む環境影響評価手続の全てを免除する規定ではない。
また,この特例は,都道府県が温対法21条7項の基準を定めている区域における一定の施設に限られる。環境省Q&Aも,都道府県基準がない場合に促進区域を設定すること自体はできるが,この環境影響評価法特例は利用できないと整理している。
配慮書の手続が適用されなくても,事業が環境影響評価法の対象となる規模であれば,その後の手続は残る。太陽電池発電所の設置の工事の事業は,出力4万キロワット以上が第一種事業,3万キロワット以上4万キロワット未満が第二種事業であり(環境影響評価法施行令別表第一),第二種事業では届出と判定の手続(環境影響評価法4条)を経る。方法書以降の手続には電気事業法の特例があり,方法書の段階でも意見の概要の書類に事業者の見解を記載しなければならず(電気事業法46条の6第1項),方法書についての都道府県知事の意見は経済産業大臣に対して述べられる(同法46条の7第1項)。なお,令和8年4月1日施行の改正で環境影響評価法52条(環境影響評価に係る書類等の公開)が新設され,条例との関係を定める規定は61条から62条に繰り下がった。周辺住民の側から見た説明会・意見書・取消訴訟の整理は,太陽光発電施設の計画に周辺住民はどう関わり争えるかで扱っている。
都道府県基準は,事業で利用する再エネ種について定められているかまで確認する。風力の事業について,太陽光だけの基準があることをもって配慮書特例の前提を満たしたとは判断しない。
大規模な発電事業の早期計画段階で配慮書手続の特例を利用する場合は,認定の時期を分けて管理する。環境省の令和7年3月マニュアル別冊(本文45~46頁)は,評価書の確定通知後に改めて計画の変更申請をすることを認定条件として留保し,一括手続の特例をその変更申請で求める運用を示している。この場合,一括手続の特例は変更認定の際に適用され,当初の早期認定では適用されない。
したがって,事業者側の工程表と自治体の認定条件には,早期認定,方法書以降のアセス手続,評価書確定通知,変更申請・関係機関との協議及び変更認定を別の段階として記載する。早期の認定通知だけで林地開発許可等がそろったと判断し,工事へ進むことを避ける。配慮書特例と一括手続の時間的な関係は,温対法22条の3及び22条の13の効果と併せて確認する。
第9 特例対象外の許認可を落とさない
温対法22条の2第4項の列挙は,事業に必要となり得る全ての法令手続を含むものではない。例えば,事業用電気工作物の重要な設置・変更工事については,電気事業法47条による工事計画の認可が問題となり得るが,これは温対法の列挙対象ではない。
このほか,立地・設備・規模により,条例,都市計画法,建築基準法,文化財保護法その他の手続が別に必要となることがある。認定申請書を完成させる前に,「特例に入る手続」と「事業者が別ルートで行う手続」を一覧化するべきである。
第10 令和6年度司法試験問題の条文番号との違い
令和6年度司法試験環境法の問題は,当時の条文を前提としている。その後の改正により,問題文で用いられた条文番号と令和8年9月23日現在の条文番号は一致しない。
| 論点 | 令和6年問題当時 | 現行法 |
|---|---|---|
| 都道府県基準 | 21条6項 | 21条7項 |
| 森林法特例 | 22条の6 | 22条の7 |
| 自然公園法特例 | 22条の8 | 22条の9 |
| 環境影響評価法特例 | 22条の11 | 22条の13 |
過去問を実務資料へ転用するときは,問題時法の結論と現行法上の案内を分け,条文番号だけを機械的に置き換えないことが必要である。
第11 事業者・自治体の実務チェックリスト
| 項目 | 確認内容 |
|---|---|
| 基準日 | 申請・認定・工事の各時点で適用される法令,条例及び計画を確認したか |
| 定義 | 施設整備,脱炭素化,環境保全及び地域貢献が一体の事業か |
| 自治体計画 | 温対法21条5項の促進事項が全て定められているか |
| 区域 | 国基準及び都道府県基準に適合し,区域図と事業区域が一致するか |
| 協議 | 協議会,関係行政機関,権限移譲及び担当部署を特定したか |
| 条文連鎖 | 協議対象条文から,許可等のみなし・不適用を定める後続条文まで読んだか |
| 実体基準 | 個別法上の同意基準を満たす資料を準備したか |
| 認定の時期 | 大規模事業の早期認定と,評価書確定通知後の変更認定による一括手続を分けたか |
| 対象外手続 | 電気事業法,条例その他の別ルートを一覧化したか |
| 認定後 | 計画変更,報告,指導・助言及び認定取消しの条件を確認したか |
第12 調査範囲と確認状態
本記事は,令和8年9月23日現在のe-Gov法令検索に収録された温対法及び電気事業法の条文全文,環境省の「地域脱炭素化促進事業制度」ページ,令和7年3月改訂のマニュアル案内並びに令和8年3月更新のQ&Aを基礎としている。
令和6年度司法試験問題及び公式資料は,問題時法と現行法の差を確認するために用いた。本記事の作成に当たり,判例秘書で地域脱炭素化促進事業計画の認定又は各特例に関する裁判例検索はしていない。そのため,認定取消訴訟,原告適格,差止めその他の裁判例の有無・射程は未確認であり,本記事は個別紛争の結論を示すものではない。
令和8年10月10日の追記では,現行の温対法22条の2第4項5号・6号,22条の3,22条の9及び22条の13を再確認し,令和7年3月マニュアル別冊のPDF49~50頁(本文45~46頁)の特例運用を本文とページ画像で確認した。実際の都道府県基準は,対象事業の再エネ種と区域について個別に確認する必要がある。
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第14 出典
①e-Gov法令検索「地球温暖化対策の推進に関する法律」
②e-Gov法令検索「電気事業法」
③環境省「地域脱炭素化促進事業制度」
④令和6年司法試験選択科目の論文式試験問題
⑤令和6年司法試験論文式試験の出題の趣旨
⑥令和6年司法試験選択科目の採点実感
⑦環境省・地域脱炭素化促進事業マニュアル別冊(令和7年3月):PDF49~50頁(本文45~46頁)。
⑧温対法(令和8年1月1日施行版):今回の追記箇所の現行条文。