第1 この記事の対象と結論
本記事は,令和7年司法試験の論文式試験のうち,選択科目の倒産法第2問を対象として,法務省が公表した「出題の趣旨」及び「採点実感」から答案の評価項目を抽出し,5段階で重み付けをした上で,それらの評価項目を満たす模範解答を示すものである。
本問は,資金繰りに窮した運送会社A社の再生手続(監督命令が発せられた,いわゆるDIP型の手続)を素材として,スポンサーの選定に不服を持つ再生債権者からの管理命令の申立て(設問1),再生計画案の否決による再生手続廃止の決定後の破産手続への移行(設問2),及び廃止後の再度の再生手続開始の申立て(設問3)を問うものである。
公式資料から抽出できた評価項目は28項目であり,重み5(答案の骨格又は採点実感が評価の分かれ目とした事項)に当たるのは,スポンサー選定における公平誠実義務の具体的内容の指摘(番号5),再度の申立てが否決された再生計画案の問題点を改善した上でされたことの評価(番号23),及び再生計画案の可決の見込みがないことが明らかとはいえないことの検討(番号26)の3項目である。
答案の結論は,設問1⑵では管理命令の申立てを却下すべきであり,設問3では再生手続開始の決定をすることができる,というものである。
第5の模範解答は,論文式答案で広く使われてきた型(問題提起,規範の定立,当てはめ及び結論の順に書く型)で約2,400字に収め,その後に出題の趣旨・採点実感を踏まえた解説を付けている。
第2 評価項目の示し方と重み付けの基準
1 評価項目の示し方
評価項目は,本問の出題の趣旨(倒産法第2問の部分)又は採点実感(倒産法の部分)の記述から抜き出したものに限り,一つの項目に一つの判定対象だけを入れ,答案に何が書かれていれば満たすのかが分かる形に言い換えた。
各項目には,出題の趣旨と採点実感のどこに根拠があるかを,PDFの頁と見出し番号(採点実感の「3⑵イ」は「3 採点実感等」の「⑵ 第2問」の「イ 設問2」を指す。)で示し,一方の資料に記載がない場合は「記載なし」と表示した。
「記載なし」は,その資料の倒産法第2問に関する部分を全部読んだ上で,該当する記述がなかったことを意味する。
採点実感が不十分な答案として指摘した事項のうち,独立の注意点は「〜しない」の形の項目にした(番号4・11・22・28)。
設問1⑵と設問3の結論は,公式資料が「例えば…との解答が考えられる」として示したものであり,唯一の正答とはされていないため,結論そのものではなく,理由と一貫した結論を導いているかを項目にした(番号10・27)。
公式資料の文章は,評価の強さを示す短い語句を除いて引用せず,根拠となる記述の趣旨を要約して示している。
2 5段階の重み付けの基準
重みは,公式資料の書きぶりの強さから本記事が付けたものであり,法務省の配点ではない。
①重み5:採点実感が評価の分かれ目とした事項(設問の指定と採点実感の「高評価につながった」等が重なるもの),又は答案の骨格そのもの
②重み4:出題の趣旨が検討を求め,採点実感も採点の主眼・解答例・評価の記述で取り上げた事項
③重み3:どちらか一方が明示する中核の理由付け,又は評価を大きく下げる誤り
④重み2:一方が軽い表現で触れる補強の事項(「言及している答案」「丁寧である」等),又は典型的な誤りとして指摘された事項(「散見された」等)
⑤重み1:一方が控えめに触れるだけの事項
第3 本問の概要
A社は,運送業の収益悪化で資金繰りに窮し,公租公課も滞納したため,スポンサー候補のB社から意向表明書を受けた上で再生手続開始の申立てをし,監督命令を受けた。
A社は,債権者説明会でB社をスポンサーとする方針を説明し,監督委員の同意を得てB社から3000万円を借り入れ(本件借入れ),再生手続開始の決定を受けた。
B社の条件は,譲渡価格1億3000万円,全従業員の雇用継続,既存取引先との取引継続であった。
これに対し,再生債権者のノンバンクC社(再生債権比率15%)が紹介したD社の条件は,譲渡価格1億5000万円,80%程度の従業員の雇用継続,既存取引先との取引継続は保証しない,というものであった。
A社は,B社の信用補完と本件借入れが事業継続に寄与しているとして,B社への計画外の事業譲渡の許可を申し立てたが,E銀行(再生債権比率30%)など多くの債権者が異議を述べなかった一方,C社やF銀行(同25%)など5社が反対したため,申立てを取り下げた。
その後,B社への事業譲渡を内容とする再生計画案は,書面投票でC社・F銀行の反対と一部の棄権により否決され,令和7年3月28日に再生手続廃止の決定がされた。
A社は,B社と協議して譲渡価格を1億5000万円に引き上げ,債権者説明会を開いた上で,同年4月4日に再度の再生手続開始の申立てをしたが,C社は,否決されたのになおB社をスポンサーとする再度の申立ては不当であると主張している。
設問1は,⑴民事再生法が原則として管財人を選任しないこととした趣旨を,再生債務者が果たすべき義務に言及しつつ説明させ,⑵C社から管理命令の申立てがされた場合の裁判所の判断を,スポンサー選定における上記義務の具体的内容に言及しつつ論じさせる。
設問2は,再生手続廃止の決定後の破産手続への移行を,同決定の確定の前後に分けて説明させ,設問3は,再度の申立てに対して再生手続開始の決定をすることができるかを論じさせる。
問題文は,令和7年1月1日現在において施行されている法令に基づいて答えるよう指定している。
第4 評価項目と重み
1 設問1⑴(DIP型の趣旨と公平誠実義務)
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 再生債務者が再生手続開始後も業務遂行権及び財産の管理処分権を有すること(民事再生法38条1項)を条文とともに指摘し,管財人による管理が例外であることを示す | 4 | PDF26頁(〔第2問〕設問1小問⑴):38条1項の趣旨の説明を求める | PDF1頁(2):38条1項の趣旨の理解を採点の主眼に挙げる |
| 2 | DIP型が原則とされた趣旨(債務者の自主再生の意欲を生かしながら事業の再生を図ること等)を具体的に説明する | 4 | PDF26頁(同):趣旨の説明を求める | PDF3頁(3⑵ア):自主再生の意欲を生かすこと等の趣旨を的確に説明した答案は「高評価」 |
| 3 | 再生債務者は,債権者に対し,公平かつ誠実に業務遂行権等を行使し,再生手続を追行する義務を負うこと(38条2項)に言及する | 4 | PDF26頁(同):言及を求める | PDF1頁(2)・3頁(3⑵ア):同じ事項を採点の主眼に挙げる |
| 4 | 公平誠実義務が「債権者に対する」義務であることを看過しない(看過すると設問1⑵の義務内容の指摘も不十分になる) | 3 | 記載なし | PDF3頁(3⑵ア):看過する答案が散見され,それらは小問⑵の言及も不十分だったと指摘 |
2 設問1⑵(管理命令)
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 5 | スポンサー選定において再生債務者が果たすべき公平誠実義務の具体的内容(債権者の利益を犠牲にして専ら自己又は第三者の利益を図るような選定をしてはならないこと等)を指摘する | 5 | PDF26頁(〔第2問〕設問1小問⑵):具体的内容の指摘を求める | PDF3頁(3⑵ア):これを指摘した答案は「高評価」 |
| 6 | 管理命令(64条1項)の要件を示し,事例に即して具体的に検討する | 4 | PDF26頁(同):事例に即した具体的な検討を求める | PDF1頁(2):管理命令の要件の検討を採点の主眼に挙げる |
| 7 | 事実を摘示するだけで終わらず,その事実を評価して要件充足性を検討する | 3 | 記載なし | PDF3頁(3⑵ア):事実を評価して要件充足性を検討した答案は「高評価」 |
| 8 | 対価(譲渡価格)以外の条件(従業員の雇用継続,既存取引先との取引継続等)ではB社が上回っていることを評価する | 4 | PDF26頁(同):解答例の理由として挙げる | PDF3頁(3⑵ア):同じ解答例を挙げる |
| 9 | A社が専ら自社又はB社の利益を図ろうとしているかを検討し,公平誠実義務違反の有無を判断する | 4 | PDF26頁(同):解答例の理由として挙げる | PDF3頁(3⑵ア):同じ解答例を挙げる |
| 10 | 公平誠実義務違反がないことを理由に,管理命令を発令できないとの結論を,理由と一貫させて導く(許容される結論の一例) | 2 | PDF26頁(同):「例えば…との解答が考えられる」 | PDF3頁(3⑵ア):同じ |
| 11 | 管理命令が「特に必要があると認めるとき」にされる例外であることを意識しないまま要件を検討しない | 2 | 記載なし | PDF3頁〜4頁(3⑵ア):例外であることを意識せずに検討する答案が「散見された」 |
3 設問2(破産手続への移行)
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 12 | 再生手続廃止の決定は確定しなければ効力を生じないこと(195条5項)に言及する | 2 | 記載なし | PDF4頁(3⑵イ):言及している答案は「高評価につながった」 |
| 13 | 廃止決定の確定前でも,破産手続開始の申立てをすることができること(249条1項)を説明する | 4 | PDF26頁(〔第2問〕設問2):説明を求める | PDF1頁(2)・4頁(3⑵イ):同じ事項を挙げる |
| 14 | 確定前の申立てに係る破産手続開始の決定は,廃止決定の確定後でなければできないこと(249条2項)を説明する | 4 | PDF26頁(同):説明を求める | PDF4頁(3⑵イ):同じ事項を挙げる |
| 15 | 確定後は,破産手続開始の申立てがあればそれに基づき,なければ職権で破産手続開始の決定をすること(250条1項)を説明する | 4 | PDF26頁(同):説明を求める(「職権で…しなければならない」と記載) | PDF1頁(2)・4頁(3⑵イ):同じ事項を挙げる |
| 16 | 確定前の保全処分(251条1項)に言及する | 2 | 記載なし | PDF4頁(3⑵イ):言及している答案は「高評価につながった」 |
| 17 | 確定後に破産手続開始の申立てをすることにも言及する | 2 | 記載なし | PDF4頁(3⑵イ):言及している答案は「高評価につながった」 |
4 設問3(再度の再生手続開始の申立て)
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 18 | 再生計画案の否決後の再度の申立てを禁止する規定はないことを指摘する | 4 | PDF26頁(〔第2問〕設問3):指摘を求める | PDF4頁(3⑵ウ):同じ事項を挙げる |
| 19 | 濫用的な再度の申立ては25条3号・4号で防止できることを,再度の申立てが許される理由として示す | 4 | PDF26頁(同):理由として挙げる | PDF4頁(3⑵ウ):同じ事項を挙げる |
| 20 | 異なる再生計画の下で債権者と再調整して事業再生を図る機会を与えることが適当な場合があることを,再度の申立てが許される理由として示す | 2 | 記載なし | PDF4頁(3⑵ウ):指摘するのが「丁寧である」 |
| 21 | 25条の棄却事由に当たらなければ再生手続開始の決定をする(33条1項)という判断の枠組みを示す | 3 | PDF26頁(同):判断の枠組みとして示す | 記載なし |
| 22 | 再度の申立ての可否という一般論だけで検討を終えない(25条に基づいて事例を具体的に検討する) | 3 | 記載なし | PDF4頁(3⑵ウ):一般論のみでは十分な解答にならないと指摘 |
| 23 | 25条4号について,再度の申立てが,否決された再生計画案の問題点(譲渡価格)を改善した上でされたものであることを評価する | 5 | PDF27頁(同):解答例の中核の理由として挙げる | PDF4頁(3⑵ウ):事例を的確に検討できた答案は「高評価につながった」 |
| 24 | 25条4号について,債権者への説明会を開催したことを評価する | 4 | PDF27頁(同):解答例の理由として挙げる | PDF4頁(3⑵ウ):同じ解答例を挙げる |
| 25 | 25条4号について,迅速に申立てをしたことを評価する | 4 | PDF27頁(同):解答例の理由として挙げる | PDF4頁(3⑵ウ):同じ解答例を挙げる |
| 26 | 25条3号について,E銀行その他の債権者が反対しておらず,再生計画案の作成・可決・認可の見込みがないことが明らかとはいえないことを検討する | 5 | PDF27頁(同):解答例の中核の理由として挙げる | PDF4頁(3⑵ウ):事例を的確に検討できた答案は「高評価につながった」 |
| 27 | 棄却事由に当たらないとして,裁判所は再生手続開始の決定をすることができるとの結論を,理由と一貫させて導く(許容される結論の一例) | 2 | PDF27頁(同):「例えば…との解答が考えられる」 | PDF4頁(3⑵ウ):同じ解答例を挙げる |
5 答案全体
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 28 | 明文の規定がある事項について,条文を挙げずに論じたり,条文番号を誤ったり,項と号を混同したりしない | 2 | 記載なし | PDF1頁(3):第1問・第2問を通じて条文を正確に引用できていない答案が「散見された」 |
6 重みの分布
28項目の内訳は,重み5が3項目,重み4が13項目,重み3が4項目,重み2が8項目,重み1が0項目であり,重みの合計は95点である。
設問別では,設問1⑴が4項目・15点,設問1⑵が7項目・24点,設問2が6項目・18点,設問3が10項目・36点,答案全体が1項目・2点である。
本問の配点は50点であるが,設問ごとの配点は公表されていないため,上記の点数は配点の割合を示すものではない。
重み5の3項目は,いずれも設問が指定した検討事項について,採点実感が「高評価」につながったとした具体的な検討である。
番号5は,設問1⑵が「⑴で述べた再生債務者が果たすべき義務の具体的内容に言及しつつ」論じることを求め,採点実感が,公平誠実義務が債権者に対する義務であることを看過した答案は小問⑵でも義務内容の言及が不十分になったと述べている点で,設問1の骨格に当たる。
番号23と26は,設問3で,再度の申立てができるという一般論で終わらず,25条4号と3号の事由を事例に即して検討したかを分ける事項である。
第5 模範解答
1 答案の前提と表記
答案は,問題文の指定に従い,令和7年1月1日現在において施行されている民事再生法及び破産法(e-Gov法令検索で同日時点の条文を確認した。)に基づいて書いている。
法令名を書かない条文番号は民事再生法の条文であり,破産法の条文には法令名を付けた。
答案の階層は「1→(1)→ア」とし,各論点を問題提起,規範の定立,当てはめ及び結論の順に書いた。
字数は,見出し及び改行を除いて約2,400字である。
設問1⑵と設問3の結論は,公式資料が「例えば…との解答が考えられる」として示した結論と同じ方向を採ったが,公式資料は他の結論を排除していない。
設問2の250条1項は,条文の文言どおり「職権で…破産手続開始の決定をすることができる」と書いた(第5の3の(3)参照)。
2 答案
1 設問1⑴について
再生債務者は,再生手続開始後も業務遂行権及び財産の管理処分権を失わない(38条1項)。管財人による管理は,法人の財産の管理処分が失当であるとき等に限られる例外である(64条1項)。
その趣旨は,経営権を失わないことで債務者の自主再生の意欲を生かして早期の申立てを促し,事業を最もよく知る債務者の知見と信用を活用して,費用を抑えつつ事業の再生(1条)を図る点にある。
もっとも,開始後の再生債務者は,債権者全体の利益のために権限を行使すべき地位に立つ。そこで,再生債務者は,債権者に対し,公平かつ誠実に業務遂行権等を行使し,再生手続を追行する義務を負う(38条2項)。すなわち,債権者を平等に扱い,債権者の利益を犠牲にして自己又は第三者の利益を図ってはならず,財産と事業の価値を維持して弁済の最大化に努める義務である。この義務は監督委員の監督(54条)で担保され,違反があれば管理命令により権限が管財人に移る(64条1項,66条)。
2 設問1⑵について
(1) C社は再生債権者として「利害関係人」に当たり,A社は法人である。では,「財産の管理又は処分が失当であるとき,その他…特に必要があると認めるとき」(64条1項)といえるか。
前述した趣旨から,管理命令は再生債務者の権限を奪う例外的措置である。よって,公平誠実義務の違反があり,経営を委ねていては債権者全体の利益を守れない場合に限り,発令できると解する。
(2) スポンサー選定において,再生債務者は,譲渡価格だけでなく,譲渡の確実性や雇用・取引の継続による事業価値の維持を含め,債権者全体の利益の観点から合理的に選定しなければならない。とりわけ,債権者の利益を犠牲にして専ら自己又は第三者の利益を図るような選定をしてはならない。
(3) 本問では確かに,D社の譲渡価格はB社より2000万円高く,その差は弁済額に直結する。D社の紹介後にB社と価格を再交渉した形跡もない。
しかし,B社は全従業員の雇用と既存取引先との取引継続を約し,D社は8割程度の雇用にとどまり取引継続も保証しないから,対価以外の条件ではB社が上回る。B社の意向表明による信用補完と,監督委員の同意を得た本件借入れによって現に事業が継続しており,B社の選定には事業価値の維持という合理的理由がある。そうすると,A社は専ら自社やB社の利益を図ろうとしているわけではなく,弁済額も清算価値を上回る見込みである。
また,A社は債権者説明会で方針を説明し,契約に監督委員の同意を得て,裁判所の意見聴取(42条2項)も経ており,選定過程も公正といえる。C社・F銀行等5社は反対したが,E銀行(30%)など多くの債権者は異議を述べていない。
以上より,価格交渉の不足を考慮しても公平誠実義務違反とはいえず,価格の当否は債権者の決議で判断すれば足りる。
(4) したがって,64条1項の要件を満たさず,裁判所は申立てを却下すべきである。
3 設問2について
再生手続廃止の決定(191条3号)は確定しなければ効力を生じない(195条5項)。確定までは再生手続が係属し,破産手続開始の申立ては原則としてできない(39条1項)。
(1) 確定前でも,再生裁判所に破産手続開始の申立てをすることができる(249条1項)。ただし,開始決定は廃止決定の確定後でなければできない(同条2項)。その間,裁判所は,必要があれば職権で保全管理命令等の保全処分を命じて(251条1項1号),事業価値を保全できる。
(2) 確定後は,確定前の申立てがあればそれに基づいて破産手続開始の決定をし,申立てがなくても破産手続開始の原因(破産法15条1項,16条1項)があれば,職権で開始決定をすることができる(250条1項)。確定後に新たに申し立てることもできる。開始されれば,共益債権は財団債権となる(252条6項)。
4 設問3について
(1) 前提として,再度の申立ては許されるか。
再生計画案の否決後の再度の申立てを禁止する規定はなく,濫用的な申立ては25条3号・4号により棄却できる。また,計画案を改めて債権者と再調整し,事業再生を図る機会を与えるのが適当な場合もある。よって,再度の申立ても許され,25条の棄却事由がなければ開始決定をする(33条1項)と解する。A社は資金繰りに窮しており,開始原因(21条1項)もある。
(2) 次に,「可決の見込み…がないことが明らかであるとき」(25条3号)に当たるか。
本問では確かに,前件は否決され,C社は強く反対している。しかし,可決には議決権者の過半数と議決権総額の2分の1以上の同意が必要であるところ(172条の3第1項),C社の比率は15%にすぎない。前件で反対したF銀行(25%)も「特に意見がない」とし,E銀行(30%)その他の債権者は反対していない。よって,見込みがないことが明らかとはいえない。
(3) さらに,「不当な目的で…申立てがされたとき,その他申立てが誠実にされたものでないとき」(同条4号)に当たるか。
C社は,否決されたのになおB社をスポンサーとする再度の申立ては不当であると主張する。しかし,A社は,否決の主な原因であった譲渡価格をD社と同額の1億5000万円に引き上げ,雇用・取引継続の条件も維持しており,否決された計画案の問題点を改善している。書面投票では続行期日がなく(172条の5第1項),決議に付された後は計画案を修正できない(167条ただし書)から,改善案を問うには再度の申立てによるほかない。また,債権者説明会で経緯と条件を説明し,廃止から約1週間で迅速に申し立てている。よって,不当な目的や不誠実性は認められない。
(4) したがって,25条各号に当たらず,裁判所は再生手続開始の決定をすることができる(33条1項)。
以上
3 出題の趣旨・採点実感を踏まえた解説
(1) 答案と評価項目の対応
答案の1は番号1〜4に,2の(1)は番号6・11に,2の(2)は番号5に,2の(3)は番号7〜9に,2の(4)は番号10に対応する。
答案の3は,冒頭が番号12に,(1)が番号13・14・16に,(2)が番号15・17に対応する。
答案の4は,(1)が番号18〜21に,(2)が番号26に,(3)が番号22〜25に,(4)が番号27に対応し,答案全体で番号28の条文の摘示に注意した。
(2) 設問1(DIP型と管理命令)
設問1⑴では,38条1項の内容と趣旨に加えて,再生債務者の公平誠実義務(38条2項)が「債権者に対し」負う義務であることを明示することが重要である(番号3・4)。
答案では,この義務の内容を,債権者を平等に扱うこと,債権者の利益を犠牲にして自己又は第三者の利益を図らないこと,及び財産と事業の価値を維持して弁済の最大化に努めることに分けて示し,設問1⑵の規範へつないだ。
設問1⑵の中心は,スポンサー選定における義務の具体的内容(番号5)と,管理命令が例外であること(番号11)である。
本問ではD社の方が2000万円高く,D社の紹介後にB社と価格を再交渉した形跡もないため,答案ではこれをC社側の最も強い事情として先に認めた。
その上で,対価以外の条件ではB社が上回ること(番号8),B社の信用補完と本件借入れが現に事業継続に寄与していること,及び選定の過程に監督委員の同意と裁判所の意見聴取(42条2項)があることから,A社が専ら自社又はB社の利益を図っているとはいえない(番号9)とした。
管理命令は「特に必要があると認めるとき」の例外であるから,義務違反があることに加えて,経営を委ねていては債権者全体の利益を守れないことが必要であるとの規範を立て,例外性を意識した検討(番号11)とした。
(3) 設問2(破産手続への移行)と250条1項の文言
設問2は,廃止決定が確定しなければ効力を生じない(195条5項)ことを起点にすると,確定前と確定後の区別の意味が明確になる(番号12)。
確定前は,再生手続が係属しているため本来は破産手続開始の申立てができない(39条1項)が,249条1項がその例外を定め,同条2項が開始決定の時期を確定後に限っている(番号13・14)。
その間の保全処分(251条1項1号)は加点要素とされている(番号16)。
出題の趣旨及び採点実感は,確定後について「職権で破産手続開始の決定をしなければならないこと(同法第250条第1項)」を説明すると記載している。
しかし,e-Gov法令検索で確認した民事再生法250条1項の文言は,令和7年1月1日時点でも現在でも「職権で,破産法に従い,破産手続開始の決定をすることができる」であり,「しなければならない」は,破産手続開始後の再生債務者について定める同条2項の文言である。
答案は,条文の文言どおり「することができる」と書き,確定前の申立てがあればそれに基づいて開始決定をすることを併せて示した(番号15)。
(4) 設問3(再度の申立て)
設問3では,まず,再度の申立てを禁止する規定がなく,濫用的な申立ては25条3号・4号で棄却できること,及び債権者と再調整して事業再生を図る機会を与えるのが適当な場合があることを前提として示す(番号18〜20)。
採点実感は,この一般論だけでは十分な解答にならないとしている(番号22)ので,答案では,25条3号と4号のそれぞれについて事実を当てはめた。
25条3号については,可決要件(議決権者の過半数の同意と議決権総額の2分の1以上の同意。172条の3第1項)を示した上で,C社の比率が15%にすぎないこと,F銀行が「特に意見がない」に転じたこと,及びE銀行その他の債権者が反対していないことを評価した(番号26)。
25条4号については,否決の主な原因であった譲渡価格がD社と同額の1億5000万円に引き上げられたこと(番号23),債権者説明会の開催(番号24),及び廃止から約1週間という迅速な申立て(番号25)を評価した。
書面投票による決議では債権者集会の続行期日の制度がなく(172条の5第1項),決議に付された後は再生計画案を修正できない(167条ただし書)という点は,公式資料には書かれていないが,再度の申立てが改善案を債権者に問う唯一の方法であったことを条文で裏付けるものとして答案に加えた。
(5) 答案の弱点と扱わなかった事項
答案は,字数を約2,400字に収めるため,次の事項を書いていない。
①本件借入れの貸金債権が共益債権となるか(監督委員の「同意」のほかに120条2項の「承認」があったかは問題文に書かれていない。)と,破産手続での扱い
②破産手続への移行に伴う否認・相殺禁止の基準時の調整(252条1項)や,再生債権の届出を破産債権の届出とみなす決定(253条)
③令和7年4月4日の再度の申立ての時点で前件の廃止決定が確定していたか(廃止決定は公告から2週間の即時抗告期間を経て確定するため,問題文の日付からは確定前であった可能性もあるが,問題文に記載がない。確定前であれば39条1項との関係が問題となる。)
設問1⑵では,価格の再交渉をしなかった点を公平誠実義務違反に当たるとみて管理命令を肯定する構成もあり得るが,その場合も,管理命令が例外であることと,監督委員の監督や債権者の決議では是正できない事情を具体的に示す必要がある。
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1 同じ年度の司法試験の別の模範解答
①令和7年度司法試験論文式試験の主要7科目の模範解答(AI作成)
②令和7年度司法試験論文式試験の選択科目8科目の模範解答(AI作成)
③令和7年度司法試験公法系第1問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した40項目と5段階の重み付け(AI作成)
④令和7年度司法試験公法系第2問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した72項目と5段階の重み付け(AI作成)
⑤令和7年度司法試験民事系第1問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した96項目と5段階の重み付け(AI作成)
⑥令和7年度司法試験民事系第2問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した65項目と5段階の重み付け(AI作成)
⑦令和7年度司法試験民事系第3問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した75項目と5段階の重み付け(AI作成)
⑧令和7年度司法試験刑事系第1問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した59項目と5段階の重み付け(AI作成)
⑨令和7年度司法試験刑事系第2問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した51項目と5段階の重み付け(AI作成)
⑩令和7年度司法試験倒産法第1問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した38項目と5段階の重み付け(AI作成)
⑪令和7年度司法試験租税法第1問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した33項目と5段階の重み付け(AI作成)
⑫令和7年度司法試験租税法第2問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した43項目と5段階の重み付け(AI作成)
⑬令和7年度司法試験経済法第1問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した25項目と5段階の重み付け(AI作成)
⑭令和7年度司法試験経済法第2問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した25項目と5段階の重み付け(AI作成)
⑮令和7年度司法試験知的財産法第1問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した25項目と5段階の重み付け(AI作成)
⑯令和7年度司法試験知的財産法第2問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した35項目と5段階の重み付け(AI作成)
⑰令和7年度司法試験労働法第1問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した24項目と5段階の重み付け(AI作成)
⑱令和7年度司法試験労働法第2問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した33項目と5段階の重み付け(AI作成)
⑲令和7年度司法試験環境法第1問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した26項目と5段階の重み付け(AI作成)
⑳令和7年度司法試験環境法第2問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した28項目と5段階の重み付け(AI作成)
㉑令和7年度司法試験国際関係法(公法系)第1問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した19項目と5段階の重み付け(AI作成)
㉒令和7年度司法試験国際関係法(公法系)第2問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した22項目と5段階の重み付け(AI作成)
㉓令和7年度司法試験国際関係法(私法系)第1問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した30項目と5段階の重み付け(AI作成)
㉔令和7年度司法試験国際関係法(私法系)第2問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した29項目と5段階の重み付け(AI作成)
2 本問の模範解答と関連する山中弁護士ブログの記事
①令和8年度司法試験倒産法第2問の参考答案と予想される評価項目(AI作成)
②DIP型会社更生と東京地裁の小規模会社更生(AI作成)
③民事再生計画による100%減資とスポンサーへの第三者割当増資(AI作成)
④倒産実務と労働法の交錯―雇用・労働債権・労働組合・事業譲渡の実務(AI作成)
⑤米国のチャプター11と日本の民事再生手続の徹底比較(AI作成)
⑥法務省HPの司法試験・予備試験の資料の所在(AI作成)
⑦民事再生の再生計画案が否決されたとき(AI作成)
第7 出典及び確認状態
1 公式資料
①法務省「令和7年司法試験論文式試験問題集[選択科目]」(倒産法第2問はPDF4頁〜5頁)
②法務省「令和7年司法試験の論文式試験出題の趣旨」(倒産法第2問はPDF26頁〜27頁。掲載元は「令和7年司法試験の結果について」)
③法務省「令和7年司法試験の採点実感(選択科目)」(倒産法はPDF1頁〜4頁。掲載元は「令和7年司法試験の採点実感」)
2 法令
①民事再生法(平成11年法律第225号):1条,21条,25条,33条,38条,39条,42条,54条,64条,66条,120条,167条,172条の3,172条の5,191条,195条,249条〜253条
②破産法(平成16年法律第75号):15条,16条,78条,91条,93条
3 裁判例
答案は裁判例を引用していない。
設問3の検討に当たり,再度の個人再生手続の申立てについて民事再生法25条4号に当たらないとした名古屋高裁平成26年1月17日決定(平成25年(ラ)第441号)を裁判所ウェブサイトで確認したが,給与所得者等再生の事案であり本問の通常再生とは手続が異なるため,答案では用いなかった。
4 確認状態
公式資料は,令和8年10月9日に法務省ウェブサイトから取得したPDFで,倒産法第2問の部分(出題の趣旨PDF26頁〜27頁,採点実感PDF1頁〜4頁)を全部読んだ。
条文は,e-Gov法令APIで令和7年1月1日時点の民事再生法・破産法を取得して確認した。
民事再生法250条1項は,平成27年5月1日施行の版,令和7年1月1日時点の版及び令和8年10月時点の版のいずれも「することができる」であることを確認した。
通常再生における再度の再生手続開始の申立てやスポンサー選定と管理命令について,直接の先例は裁判所ウェブサイトの裁判例検索では見つからなかった(判例秘書等の有料データベースは検索していない)。