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特別寄与料の請求―請求できる親族とできない人,相手方と負担額,6か月・1年の期間制限及び相続税(AI作成)

第1 特別寄与料とは何か

1 相続人ではない親族の貢献に報いる金銭請求

被相続人の親族が,無償で療養看護その他の労務を提供し,被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした場合,その親族は,相続の開始後,相続人に対し,寄与に応じた額の金銭の支払を請求することができる(民法1050条1項)。
この金銭を「特別寄与料」といい,請求する親族を「特別寄与者」という。
典型例は,亡くなった親の介護を長年担ってきた長男の妻のように,介護の担い手ではあったものの相続人ではない親族である。

本記事は,令和8年9月25日現在の法令及び確認できた裁判例に基づき,特別寄与料を請求できる人とできない人,請求の相手方と負担額,期間制限,手続及び相続税を整理するものである。
裁判所の特別の寄与に関する処分調停の案内のとおり,令和元年7月1日より前に開始した相続については,この申立てはできない。

2 寄与分との違い

相続人自身の貢献は,遺産分割の中で具体的相続分を修正する寄与分(民法904条の2)によって考慮される。
これに対し,特別寄与料は,遺産分割に参加して遺産の一部を取得する制度ではなく,相続人に対して金銭の支払を求める制度である。
特別寄与料が認められても,特別寄与者が土地の持分その他の遺産を当然に取得するわけではない。

項目寄与分特別寄与料
主張できる人共同相続人相続人ではない被相続人の親族(相続放棄をした者,相続欠格者及び廃除された者を除く。)
対象となる行為事業に関する労務の提供,財産上の給付,療養看護その他の方法(民法904条の2第1項)無償の療養看護その他の労務の提供に限られる
効果遺産分割における具体的相続分の修正相続人に対する金銭の支払請求
手続遺産分割の手続の中で主張し,審判では寄与分を定める処分の申立てが必要協議が調わなければ,家庭裁判所の特別の寄与に関する処分(調停・審判)
期間相続開始から10年を経過した後の遺産分割では原則として考慮されない(民法904条の3)相続の開始及び相続人を知った時から6か月,相続開始の時から1年

寄与分の主張方法は,遺産分割における寄与分の主張方法―費用対効果・証拠・申立時期で扱っている。

第2 請求できる親族と請求できない人

1 被相続人の親族であること

特別寄与者は,被相続人の親族でなければならない。
親族とは,6親等内の血族,配偶者及び3親等内の姻族である(民法725条)。

子の配偶者は1親等の姻族であるから,長男の妻が義理の親を介護した場合は,親族の要件を満たす。
被相続人に子がいて兄弟姉妹が相続人とならない場合の兄弟姉妹,子が生存していて相続人とならない孫なども,親族に当たる。
後記第3の3の静岡家庭裁判所の審判も,被相続人の子2人が相続人である事案で,被相続人の弟が申し立てたものである。

他方,内縁の配偶者,友人,近所の人,事業者等は,親族ではないから,どれほど献身的に介護をしても特別寄与者にはならない。
相続人がいない場合の特別縁故者への財産分与(民法958条の2)は別の制度であり,相続人がいない場合の相続財産清算人で扱っている。

2 除かれる人

民法1050条1項は,特別寄与者から「相続人、相続の放棄をした者及び第八百九十一条の規定に該当し又は廃除によってその相続権を失った者」を除いている。
したがって,次の人は特別寄与料を請求できない。

① 相続人(自らの貢献は寄与分として主張する。)
② 相続の放棄をした者
③ 相続欠格者(民法891条)
④ 廃除によって相続権を失った者(民法892条,893条)

特に注意を要するのは②である。
被相続人に債務があるなどの理由で相続を放棄した子は,相続人ではなくなるが,相続人ではない親族に当たるとして特別寄与料を請求できるわけではない。
介護の貢献を金銭で回収したいと考える相続人が放棄を検討するときは,放棄によって寄与分も特別寄与料も主張できなくなることを前提に判断する必要がある。

3 相続人の配偶者が介護した場合

長男とその妻が同居して親を介護した場合のように,家族単位で介護が行われていることは多い。
その場合でも,特別寄与料を請求できるのは,実際に療養看護その他の労務を提供した親族本人である。
誰が,いつ,どの介護をしたかを行為者ごとに記録しておかないと,相続人の寄与分として主張するのか,配偶者の特別寄与料として請求するのかを判断できず,相手方から実行者を争われたときに立証が難しくなる。

第3 特別の寄与の要件

1 無償の療養看護その他の労務の提供

民法1050条1項は,「被相続人に対して無償で療養看護その他の労務の提供をしたこと」を要件としている。
寄与分と異なり,金銭の援助や財産の給付は対象に含まれない。
介護の対価として十分な報酬や生活費を受け取っていた場合は,無償性が問題になる。

2 財産の維持又は増加

労務の提供によって,被相続人の財産が維持又は増加したことが必要である。
典型的には,家族が介護を担ったことで,被相続人が介護サービスや付添人の費用を支出せずに済んだという形で財産の維持が主張される。
精神的な支えや見舞いは,それ自体としては財産の維持又は増加に結び付きにくい。

3 「特別の寄与」の程度

(1) 静岡家庭裁判所令和3年7月26日審判

静岡家庭裁判所令和3年7月26日審判(令和3年(家)第9056号,第9057号,判例秘書L07660006。裁判所HP未掲載)は,被相続人の弟が,被相続人の長男及び二男に対し,療養看護等を理由に特別寄与料を請求した事案である。
申立人は,被相続人が通院や入退院をするようになった平成8年6月頃以後,妹とともに,入退院時の手続や付添い,必要品の購入や準備,書類の作成や提出,医師の説明の際の立会い等を行ったと主張した。

同審判は,妹が体調を崩した平成27年6月までの間,身元引受人として主に被相続人に関与していたのは妹であって,申立人自身の関与は年に数回程度面会等に訪れる限定的なものであったと認定した。
また,それ以後の申立人の関与も,申立人の主張を前提としても,月に数回程度入院先等を訪れて診察や入退院等に立ち会い,手続に必要な書類を作成し,身元引受けをする程度にとどまり,専従的な療養看護等を行ったものではないとした。
その上で,申立人が「その者の貢献に報いて特別寄与料を認めるのが相当なほどに顕著な貢献をしたとまではいえない」として,特別の寄与を否定した。

(2) この審判から分かること

この審判は家庭裁判所の1件の判断にすぎないが,身元引受け,手続の代行,時々の付添いといった関与だけでは足りず,療養看護の内容・頻度・期間が,特別寄与料を認めるのが相当といえる程度に達していることが求められることを示している。
請求する側は,要介護度,介護の時間帯と頻度,介護サービスの利用状況及び被相続人が免れた費用を,期間ごとに具体的に示す必要がある。

4 相続開始後の行為は含まれない

前記の静岡家庭裁判所の審判は,申立人が被相続人の死亡後に葬儀等の手続をしたことについて,特別の寄与として考慮し得るのは相続開始時までのものに限られるとして,主張自体失当とした。
葬儀の主宰,遺品整理,相続手続の代行等の負担は,特別寄与料の根拠にはならない。
葬儀費用の立替えは,別の法律関係(立替金の精算等)として整理することになる。

第4 誰に,いくら請求できるか

1 請求の相手方は相続人である

特別寄与料は,相続人に対して請求する(民法1050条1項)。
遺産そのものに対して権利を取得するのではなく,相続人に対する金銭債権として構成されている。
相続人が複数いるときは,相続人の1人又は数人だけを相手として請求することもできる。

2 相続人ごとの負担額

民法1050条5項は,「相続人が数人ある場合には、各相続人は、特別寄与料の額に第九百条から第九百二条までの規定により算定した当該相続人の相続分を乗じた額を負担する。」と定めている。
例えば,特別寄与料が300万円と定まり,相続人が子2人(法定相続分各2分の1)であれば,各相続人の負担額は150万円となる。
1人の相続人だけを相手にした場合に回収できるのはその相続人の負担額までであり,総額の支払を受けるには,相続分を有する相続人全員を相手にする必要がある。

3 遺言で相続分がないとされた相続人

(1) 最高裁令和5年10月26日決定

最高裁令和5年10月26日第一小法廷決定(令和4年(許)第14号,民集77巻7号1911頁)の事案では,被相続人Aの相続人は子B及び相手方の2名であり,特別寄与料を請求したのはBの妻であった。
Aは,財産全部をBに相続させる旨の遺言をしており,この遺言はBの相続分を全部と指定し,相手方の相続分をないものと指定する趣旨を含むものであった。
相手方はBに対して遺留分侵害額請求権を行使していたが,Bの妻は,相手方に対し,特別寄与料のうち相手方が負担すべき額の支払を求めた。

同決定は,民法1050条5項が,相続人間の公平に配慮しつつ,特別寄与料をめぐる紛争の複雑化,長期化を防止する観点から,明確な基準である法定相続分等によることとしたものであると述べた。
その上で,遺留分侵害額請求権の行使という同項が規定しない事情によって負担割合が修正されるものではないとして,「遺言により相続分がないものと指定された相続人は、遺留分侵害額請求権を行使したとしても、特別寄与料を負担しない」と判断した。

(2) 原審・原々審の理由付け

原々審の名古屋家庭裁判所令和4年3月18日審判(令和3年(家)第50094号,民集77巻7号1923頁)は,遺留分割合による負担を認めると,特別寄与者が相続分を有する相続人全員に請求した場合に特別寄与料の全額を超える支払を受ける事態が生じ得ることなどを指摘した。
原審の名古屋高等裁判所令和4年6月29日決定(令和4年(ラ)第152号,民集77巻7号1928頁)は,遺留分権利者は遺留分侵害額に相当する金銭債権を取得するのであって,相続財産を承継するものではないことなどを指摘した。

(3) 実務上の帰結

全財産を特定の相続人に相続させる遺言がある場合,特別寄与料を負担するのは,原則としてその相続人である。
請求する側は,請求先を決める前に遺言の有無と内容を確認し,相続分の指定があるかを読み取る必要がある。
遺留分侵害額請求の有無によって請求先を変えても,指定相続分のない相続人に負担させることはできない。

4 金額の決まり方と上限

当事者間の協議が調わないときは,家庭裁判所が,「寄与の時期、方法及び程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮して」特別寄与料の額を定める(民法1050条3項)。
条文には,日当や日数による計算式は定められていない。
前記の名古屋家庭裁判所の事案では,申立人は,要介護2の報酬相当額(1日当たり6232円)に介護日数2259日を乗じた額に裁量的な割合を乗じた額を主張していたが,同審判は負担割合の点で申立てを却下しており,この計算方法の当否は判断していない。

特別寄与料の額には上限がある。
「特別寄与料の額は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から遺贈の価額を控除した残額を超えることができない」(民法1050条4項)。
遺産のほとんどが遺贈されている場合には,特別寄与料が認められる余地が小さくなる。

第5 期間制限と手続

1 6か月と1年の期間制限

民法1050条2項ただし書は,特別寄与者が家庭裁判所に処分を請求できる期間について,「特別寄与者が相続の開始及び相続人を知った時から六箇月を経過したとき、又は相続開始の時から一年を経過したときは、この限りでない。」と定めている。
遺留分侵害額請求権の1年(民法1048条)よりも短い6か月の期間があり,相続手続の中でも特に短い期間制限である。

(1) 除斥期間とされた例

前記の静岡家庭裁判所の審判は,6か月の期間を除斥期間と解し,除斥期間は当事者による援用や主張がなくても期間の経過により請求権が消滅したものと判断すべきであるとして,相手方らが期間経過を主張することは信義則に反するとの申立人の主張を退けた。

(2) 「相続人を知った時」の意味

同審判は,「相続人を知った時」とは,当該相続人に対する特別寄与料の処分の請求が可能な程度に相続人を知った時をいうと解し,相続人の氏名及び住所を正確に知った時をいうとの申立人の主張を採用しなかった。
その事案では,申立人は,被相続人の長男の氏名と住居を生前から知っていたため,死亡日に長男を「知った」とされ,二男についても,長男を通じて預貯金の解約手続の連絡を取れるようになった頃には住所を調べることが容易であったとされた。
申立人は,相続人の代理人弁護士から支払を拒絶された約3か月後に調停を申し立てたが,同審判は,その時点では6か月の期間が経過していたから,仮に特別の寄与があったとしても申立ては却下を免れないとした。

(3) 交渉中も期間は進む

相続人との話合いや遺産の整理が続いている間も,6か月の期間は進行する。
請求する側は,被相続人の死亡を知った日と,各相続人を知った日を記録し,話合いの見込みが立たなくても期間内に家庭裁判所へ調停を申し立てるべきである。

2 協議,調停及び審判

特別寄与料の支払について当事者間に協議が調わないとき,又は協議をすることができないときは,特別寄与者は家庭裁判所に協議に代わる処分を請求できる(民法1050条2項本文)。
特別の寄与に関する処分は家事事件手続法別表第二に掲げる事項であり,調停を申し立てることもできる。

前記の裁判所の案内によれば,調停の申立先は相手方の住所地の家庭裁判所又は当事者が合意で定める家庭裁判所であり,申立手数料は,申立人1人につき1200円(相手方又は被相続人が2人以上の場合は,1200円に相手方の人数と被相続人の人数を乗じた額)である。
調停が不成立となった場合は,審判手続が開始される。

審判事件は,相続が開始した地を管轄する家庭裁判所の管轄に属する(家事事件手続法216条の2)。
家庭裁判所は,審判において当事者に金銭の支払を命ずることができ(同法216条の3),審判に対しては即時抗告ができる(同法216条の4)。
強制執行を保全するための仮差押え等の保全処分の制度もある(同法216条の5)。

3 遺産分割とは別の手続である

寄与分を定める処分の審判事件は遺産分割の審判事件と併合される(家事事件手続法192条)が,特別の寄与に関する処分について同様の併合の規定はない。
遺産分割の話合いや調停が続いていても,特別寄与料の期間制限は別に進む。
特別寄与料を求める親族は,遺産分割の手続とは別に,期間内に特別の寄与に関する処分を申し立てる必要がある。

第6 相続税

1 特別寄与料を受け取る側

特別寄与者が支払を受けるべき特別寄与料の額が確定した場合,特別寄与者は,その額に相当する金額を被相続人から遺贈により取得したものとみなされる(相続税法4条2項)。
民法上は相続人に対する金銭債権であっても,相続税法上は遺贈と同様に扱われる。

この事由により新たに相続税の申告書を提出すべきことになった者は,その事由が生じたことを知った日の翌日から10か月以内に申告書を提出しなければならない(相続税法29条1項)。
また,相続税額の2割加算は,被相続人の1親等の血族及び配偶者以外の者に適用される(相続税法18条1項)から,子の配偶者のような姻族や兄弟姉妹が特別寄与料を受け取った場合は加算の対象になる。
実際に相続税が課されるかは,遺産の総額や基礎控除等によって異なるので,金額が固まった段階で税理士に確認するのが相当である。

2 特別寄与料を支払う側

特別寄与料を支払うべき相続人は,相続又は遺贈により取得した財産の価額から,特別寄与料の額のうち自らの負担部分を控除して課税価格を計算する(相続税法13条4項)。
既に相続税の申告をした後に特別寄与料の額が確定したときは,その事由が生じたことを知った日の翌日から4か月以内に更正の請求をすることができる(相続税法32条1項7号)。
更正の請求の期限も短いので,審判の確定や調停の成立の日を記録しておく必要がある。

第7 請求する側と請求される側の確認事項

1 請求する側

① 被相続人の死亡を知った日と,各相続人を知った日を記録し,6か月・1年の期限を先に管理する。
② 自分が被相続人の親族に当たるか,相続人・相続放棄者等に当たらないかを戸籍で確認する。
③ 介護の期間,内容,頻度及び行為者を,要介護認定資料,介護サービスの利用記録,通院記録等で期間ごとに整理する。
④ 報酬や生活費を受け取っていないか,受け取っていた場合はその額と介護との関係を整理する。
⑤ 遺言の有無と内容を確認し,相続分の指定があれば,負担すべき相続人を特定する。

2 請求される側

① 申立てが6か月・1年の期間内にされたかを,死亡日,請求者が相続人を知った経緯及び申立日から確認する。
② 請求者が相続人,相続放棄者,相続欠格者又は被廃除者に当たらないかを確認する。
③ 主張される行為が相続開始前の無償の労務提供か,専従的な療養看護に当たる程度のものかを,客観資料と照らして検討する。
④ 自らの負担額が,特別寄与料の額に自らの法定相続分又は指定相続分を乗じた額にとどまることを確認する。
⑤ 特別寄与料を支払った場合の相続税の課税価格の控除と,更正の請求の期限を税理士と確認する。

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② 相続事件に関する実務メモ-期限・手続・財産調査
③ 遺留分に関するメモ書き
④ 遺留分侵害額請求の計算方法と請求を受けた側の対応―期限の許与・分割払い・遅延損害金
⑤ 相続人がいない場合の相続財産清算人―選任の申立て,公告,財産の調査・換価,弁済の順序,特別縁故者及び国庫帰属

第9 出典

1 法令

① e-Gov法令検索・民法725条,891条~893条,900条~902条,904条の2,904条の3,958条の2,1048条及び1050条(令和8年9月25日に現行条文を確認)。
② e-Gov法令検索・家事事件手続法192条,216条の2~216条の5及び別表第二。
③ e-Gov法令検索・相続税法4条2項,13条4項,18条1項,29条1項及び32条1項7号。

2 裁判例

① 最高裁判所第一小法廷令和5年10月26日決定(令和4年(許)第14号,民集77巻7号1911頁,裁判所ウェブサイト)。
② 名古屋高等裁判所令和4年6月29日決定(令和4年(ラ)第152号,民集77巻7号1928頁)。裁判所HP未掲載。判例秘書で全文を確認した。
③ 名古屋家庭裁判所令和4年3月18日審判(令和3年(家)第50094号,民集77巻7号1923頁)。裁判所HP未掲載。判例秘書で全文を確認した。
④ 静岡家庭裁判所令和3年7月26日審判(令和3年(家)第9056号,第9057号,判例秘書L07660006)。裁判所HP未掲載。判例秘書で全文を確認した。

3 裁判所の資料

① 裁判所・特別の寄与に関する処分調停(申立人,申立期間,申立先,費用及び必要書類)。