第1 本記事の対象と結論
1 本記事の対象
本記事は,金銭債権を保全するために大阪地方裁判所に仮差押命令を申し立て,仮差押命令の発令を受け,不動産の仮差押えの登記又は第三債務者への送達によって仮差押えの執行がされるまでの流れを説明するものである。
調査基準日は令和8年9月17日である。
大阪地方裁判所の運用として書く事項は,同日に確認した大阪地方裁判所第1民事部(保全部)の裁判所ウェブサイト上の案内に記載があるものに限っている。
案内に記載のない面接の時間帯や,申立てから発令までの日数の目安は,本記事では取り上げない。
運用は変更されることがあるから,実際に申し立てる際は,最新の案内を確認し,不明な点は担当書記官に問い合わせる必要がある。
仮差押えの要件,効力及び債務者側の手続を含む全体像は,仮差押えとは―要件・手続の流れ・担保・効力・解放金・担保の取戻しの全体像で説明している。
2 結論
大阪地方裁判所で仮差押命令(不動産又は債権の仮差押え)を得るまでの流れは,おおむね次のとおりである。
| 段階 | 内容 | 根拠 |
|---|---|---|
| ①管轄の確認 | 本案の管轄裁判所又は仮に差し押さえるべき物の所在地を管轄する地方裁判所に申し立てる | 民事保全法12条 |
| ②申立て | 申立書に疎明資料及び添付資料を添えて第1民事部の受付窓口(本館3階)へ持参する | 民事保全法13条,大阪地裁の案内 |
| ③債権者面接 | 原則として全件で実施され,申立ての翌日に行われることが多い(代理人弁護士の申立事件はウェブ会議も可) | 大阪地裁の案内 |
| ④担保決定 | 担保提供の期間は原則として7日 | 民事保全法14条1項,大阪地裁の案内 |
| ⑤担保の提供 | 法務局への現金供託又は許可を得た上での支払保証委託契約の締結 | 民事保全法4条1項,民事保全規則2条,大阪地裁の案内 |
| ⑥証明書の提出 | 午後4時までに提出すれば原則として同日中に発令 | 大阪地裁の案内 |
| ⑦保全執行 | 不動産は裁判所書記官が仮差押えの登記を嘱託し,債権は第三債務者に仮差押命令を送達する | 民事保全法47条3項,50条1項 |
| ⑧執行期間 | 債権者に保全命令が送達された日から2週間 | 民事保全法43条2項 |
実務上特に注意すべき点は,次のとおりである。
①債権者面接は申立ての翌日に行われることが多く,差支え日時は受付の場で聞かれるから,申立日後2,3日分の予定を把握しておく必要がある。
②担保提供期間内に担保提供の証明書を提出しないと,申立ては却下される。
③証明書の提出が午後4時を過ぎると,発令は翌日以降になる。
④供託金を電子納付する場合は,供託所で入金が確認されてから供託書正本が交付されるので,その時間を見込んでおく必要がある。
⑤東京地方裁判所民事第9部の案内(令和8年9月17日確認)では,保全事件の申立ては令和8年5月21日から始まった民事訴訟の全面電子化の対象外とされており,大阪地方裁判所第1民事部の案内も申立書を受付窓口に持参するよう求めている。
第2 申立ての準備
1 管轄
(1) 民事保全法の定め
民事保全法12条1項は,「保全命令事件は、本案の管轄裁判所又は仮に差し押さえるべき物若しくは係争物の所在地を管轄する地方裁判所が管轄する。」と定める。
本案の管轄裁判所は第一審裁判所であり,本案が控訴審に係属するときは控訴裁判所である(同条3項)。
仮に差し押さえるべき物が債権であるときは,その債権は第三債務者の普通裁判籍の所在地にあるものとされる(同条4項)。
(2) 大阪地方裁判所の管轄チェックチャート
大阪地方裁判所第1民事部の案内は,大阪地方裁判所に管轄がないのに申立てをする例が比較的多く見られるとして,管轄の有無を十分に検討してから申し立てるよう求めている。
同部が公表している「管轄チェックチャート(仮差押え)」は,大阪市,豊中市,吹田市,高槻市,枚方市,東大阪市等の地域を大阪地方裁判所本庁の管轄区域とし,堺市等は堺支部,岸和田市等は岸和田支部に申し立てるべき事件としている。
同チャートでは,すべての対象不動産等の所在地又は第三債務者の住所地が本庁の管轄区域内にあれば,本庁に管轄があるとされている。
これに対し,債務者の住所地や義務履行地等の本案の管轄を根拠とする場合は,請求債権額が140万円を超えていなければ,管轄する簡易裁判所へ申し立てる流れになっている。
(3) 専門部と家庭裁判所
大阪地方裁判所第1民事部の案内によれば,被保全権利の本案訴訟が商事事件(第4民事部),労働事件(第5民事部)又は知的財産事件(第21民事部・第26民事部)等の特殊事件である場合は,その保全事件も当該特殊部が担当する。
また,被保全権利が離婚に伴う財産分与請求権である場合は,家庭裁判所の専属管轄とされている。
地方裁判所の専門部の一般的な説明は,地方裁判所の専門部及び集中部―意味と主要地裁の担当部を参照されたい。
2 申立書,疎明資料及び目録
(1) 申立書の記載と疎明
保全命令の申立ては,その趣旨並びに保全すべき権利及び保全の必要性を明らかにしてしなければならず,保全すべき権利及び保全の必要性は疎明しなければならない(民事保全法13条)。
申立ての理由においては,保全すべき権利及び保全の必要性を具体的に記載し,かつ,立証を要する事由ごとに証拠を記載しなければならない(民事保全規則13条2項)。
債権に対する仮差押命令の申立書には,第三債務者の氏名又は名称及び住所等を記載する(同規則18条1項)。
不動産に対する仮差押命令の申立書には,登記事項証明書や不動産の価額を証する書面等を添付する(同規則20条1号)。
大阪地方裁判所第1民事部は,債権仮差押命令申立書(陳述催告の申立書を含む)と不動産仮差押命令申立書の書式サンプルを公表している。
債権仮差押えの書式例では,預金債権について,差押えのない預金を先にするなどの順序を付けて「頭書金額に満つるまで」仮に差し押さえる形の仮差押債権目録が示されている。
同部の案内は,これ以外の書式例として,同部が編集した『令和6年度 請求債権目録記載例集・仮差押債権目録記載例集』(大阪弁護士協同組合発行)も挙げている。
預金や給料を対象とする場合の債権の特定については,預金・給料の仮差押え―取扱店舗の特定,差押禁止の範囲及び陳述催告で説明する。
(2) 決定用の目録の通数
大阪地方裁判所第1民事部の「必要な収入印紙,郵便切手,目録数」の一覧表(令和6年10月1日以降)では,債権者,債務者及び第三債務者が各1名の場合の決定用目録の枚数として,次の例が示されている。
①不動産の仮差押え:当事者目録,請求債権目録及び物件目録が各3枚,登記(登録)用物件目録及び登記(登録)用義務者目録が各2枚
②債権の仮差押え:当事者目録,請求債権目録及び仮差押債権目録が各4枚
同部の担保決定の案内は,保全命令の正本を迅速かつ正確に作成するため,正本用の目録等を遅くとも担保決定後速やかに提出するよう求めている。
3 申立ての費用
(1) 申立手数料(収入印紙)
民事保全法の規定による保全命令の申立ての手数料は,2,000円である(民事訴訟費用等に関する法律別表第一の10の項ロ)。
大阪地方裁判所第1民事部の一覧表も,仮差押命令申立事件の収入印紙を「原則2,000円(事案に応じて倍増することがある)」としている。
(2) 郵便切手
同じ一覧表によれば,仮差押命令申立事件の郵便切手は,当事者等が各1名(か所)の場合,次のとおりである。
①不動産:債務者数×1,220円と,登記所数×(660円+590円)の合計2,470円
②債権:債務者数×1,220円と,第三債務者数×1,290円に,陳述催告がある場合の第三債務者数×(590円+110円)を加えた合計3,210円
不動産の仮差押えについては,登録免許税額が10万円を超える場合は補償額を加算し,滞納処分による差押えがある場合は滞納処分庁の数に応じて110円を加えるとされている。
(3) 登録免許税
不動産の仮差押えの登記の登録免許税は,債権金額の1,000分の4である(登録免許税法別表第一の一(五))。
大阪地方裁判所第1民事部の案内(令和8年9月17日確認)には,仮差押えの登記の登録免許税を収入印紙で納めるのか,国税の納付書で現金納付した領収証書を提出するのかについての記載は見当たらなかったので,納付方法は担当書記官に確認する必要がある。
同部の「保全執行解放に必要な書類」は,執行の解放のために仮差押えの登記の抹消が必要な場合について,「登録免許税(収入印紙)(物件1筆につき1000円)」を挙げているが,これは抹消登記についての記載である。
参考までに,東京地方裁判所民事第9部の「保全事件の発令まで」の案内(令和8年9月17日確認)では,不動産仮差押えの発令に際し必要な登録免許税を,請求債権額の1,000円未満を切り捨てて1,000分の4を乗じ,100円未満を切り捨てた額としている。
その上で,同案内は,「登録免許税額が3万円を超えるときは国税納付書の領収証書でお願いします。」としている。
また,同部の「民事第9部の概要」の案内は,登記嘱託書を保全命令の発令日の夕方に速達で発送するとしている。
これらは東京地方裁判所の取扱いであり,大阪地方裁判所で同じ取扱いがされているかは,同部の案内からは確認できない。
4 電子申立てはできるか
民事保全法6条の3は,最高裁判所の定める裁判所に対し,最高裁判所規則で定めるところにより,電子情報処理組織を用いて申立て等をすることができると定めている。
もっとも,令和5年法律第53号による民事保全等の手続のデジタル化の全面施行日は,法務省の案内(令和7年12月26日最終更新)では「公布から5年以内の政令で定める日(具体的な施行日は今後決定)」とされている。
東京地方裁判所民事第9部の案内(令和8年9月17日確認)では,保全事件の申立ては,令和8年5月21日から始まった民事訴訟の全面電子化の対象外であり,従前どおり書面を提出する必要があるとされている。
大阪地方裁判所第1民事部の案内には電子申立てについての記載はなく,申立書に疎明資料等を添えて受付窓口に持参するよう案内されている。
民事訴訟でmintsを利用できる範囲は,mintsを利用できる裁判所と対象事件―旧法事件,少額訴訟,支払督促及び対象外手続で説明している。
第3 申立てから担保決定まで
1 申立ての受付
大阪地方裁判所では,第1民事部が担当する一般の民事保全事件は,民事訟廷事務室ではなく同部が直接受け付ける。
第1民事部の書記官室は,大阪地方裁判所の本館建物の3階西側にあり,仮差押え及び仮処分の申立ての窓口は「受付②」である。
同部の手続の流れの案内によれば,金銭債権又は不動産の仮差押え事件等の審尋の必要がない事件(無審尋事件)では,申立て及び切手等の提出,債権者の裁判官面接,担保決定,立担保証明の提出,保全命令の発令という順序で手続が進む。
2 債権者面接
(1) 原則として全件で実施される
大阪地方裁判所第1民事部は,民事保全事件の申立てを受け付けたときは,原則として全件について債権者面接を実施している。
同部の案内によれば,債権者面接の目的は,債務者の言い分を十分に聞く機会がないまま迅速な処理を求められる民事保全手続において,裁判官が直接債権者と面接して詳細な事情を確認し,補正を要する点を指摘するとともに,疎明資料の原本を直接閲読して的確な心証を形成することにある。
面接は数回にわたる場合がある。
(2) 申立ての翌日に行われることが多い
同部では,担当書記官及び担当裁判官が一件記録をひととおり閲読して事件処理の方向性を見出してから債権者面接に臨み,面接に先立って補正や補充を求めることがある。
そのため,申立ての当日よりも翌日に債権者面接を行うことが多いとされている。
同部の案内は,翌日までに補正や補充を行ってから面接をする方が,結果として早期の発令に至る事案も少なくないとしている。
ただし,第三債務者から債務者への弁済期が切迫しているなど,特に緊急を要する事件の場合は,申立書の受付けの段階で担当書記官と相談するよう案内されている。
(3) ウェブ会議による債権者面接
同部の案内には,「【現在、当部では、代理人弁護士申立事件については、ウェブ会議による債権者面接も実施しています。】」と記載されている。
したがって,代理人弁護士が申し立てる事件では,裁判所に出向かずに債権者面接を受けることも考えられる。
担保決定の案内によれば,代理人弁護士申立事件でウェブ会議による債権者面接を実施する場合で,いったん正本用の目録等を提出した後に目録等の訂正があったときは,訂正後の目録等の提出は不要とされている。
(4) 差支え日時の確認
受付担当書記官は,申立てを受理したその場で債権者面接の差支え日時を確認する。
そのため,申立てをする債権者又は代理人は,申立日後2,3日分の予定を把握しておく必要がある。
3 担保決定
(1) 担保提供期間は原則として7日
無審尋事件では,債権者面接の後に裁判官による担保決定がされる。
保全命令は,担保を立てさせて,若しくは相当と認める一定の期間内に担保を立てることを保全執行の実施の条件として,又は担保を立てさせないで発することができる(民事保全法14条1項)。
大阪地方裁判所第1民事部の案内によれば,担保提供の期間は原則として7日であり,その期間内に担保提供の証明書を提出しないまま期間を経過すると,民事保全の申立ては却下される。
担保の額の決まり方は,仮差押えの担保金はいくらか―目的物の価格を基準とする算定方法,担保基準表及び立て方で説明する。
(2) 担保提供の予定日の連絡
同部の案内は,担保決定の告知を受けたら速やかに担保提供の予定日を担当書記官に連絡するよう求めている。
これは,担保提供の証明書の提出後,速やかに保全命令の発令に至るために必要とされている。
第4 担保の提供と発令
1 担保の提供方法
(1) 供託と支払保証委託契約
大阪地方裁判所第1民事部の案内では,担保の提供方法として,法務局への現金供託と,許可を得た上での金融機関等との間での支払保証委託契約の締結が挙げられている。
民事保全法4条1項は,担保を立てるべきことを命じた裁判所の所在地を管轄する地方裁判所の管轄区域内の供託所に金銭又は裁判所が相当と認める有価証券を供託する方法その他最高裁判所規則で定める方法によるとしている。
支払保証委託契約による方法は,民事保全規則2条が定めている。
(2) 支払保証委託契約(ボンド)による場合
民事保全規則2条は,裁判所の許可を得て,銀行等との間で支払保証委託契約を締結する方法によって担保を立てることができるとし,その契約の内容として,担保取消しの決定が確定した時等に契約の効力が消滅することなどを定めている。
大阪地方裁判所第1民事部の「申立書等書式のサンプル」(令和8年9月17日確認)には,支払保証委託契約による担保提供の許可を求める申請書の書式は掲載されていない。
他方,同部の担保取消しの案内では,担保取消申立書,担保権利者の同意書及び「支払保証委託契約原因消滅証明申請書」の書式が,担保提供方法が金銭供託の場合と支払保証委託契約の場合とに分けて公表されている。
したがって,支払保証委託契約を利用する場合は,許可の求め方と銀行等に提出する書面を,担保決定の段階で担当書記官に確認しておく必要がある。
なお,東京地方裁判所民事第9部の「その他の手続(電子申立て不可)」の案内は,担保物変換の手続について,契約先の銀行等が裁判所の書面を要求する場合には支払保証委託契約による立担保の許可申請書を提出し,許可決定謄本の交付を受けるとしている。
また,同部の「保全事件の発令まで」の案内は,担保が支払保証委託契約による場合には,発令に際して担保目録が1通必要になるとしている。
(3) 管轄区域外の供託所への供託
遅滞なく管轄の供託所に供託することが困難な事由があるときは,裁判所の許可を得て,債権者の住所地又は事務所の所在地等を管轄する地方裁判所の管轄区域内の供託所に供託することができる(民事保全法14条2項)。
大阪地方裁判所第1民事部は「管轄区域外への供託許可申請書」の書式を公表しており,その例では,債権者の本店所在地と代理人の住所地がいずれも東京都であることを理由に,東京法務局での供託の許可を求めている。
第三者が債権者に代わって供託する場合の「第三者供託許可申請書」の書式も公表されている。
(4) 大阪法務局本局
大阪法務局本局は,大阪市中央区大手前三丁目1番41号の大手前合同庁舎にあり,供託の事務を取り扱っている(現金取扱庁)。
同局の案内による窓口対応時間は,午前9時から午後5時までである。
大阪法務局の「大阪法務局本局 庁舎移転のお知らせ」によれば,本局は令和5年1月に大手前合同庁舎へ移転し,同庁舎の3階から5階までに入居しており,供託は4階で取り扱われている(3階は不動産登記)。
同局の「大阪法務局本局への電話によるお問合せ先一覧」では,供託に関する問合せ先は06-6942-9467とされている。
(5) 電子納付の場合の注意
供託は,登記・供託オンライン申請システムを利用してオンラインで申請し,供託金を電子納付することもできる。
法務省の案内によれば,電子納付は供託の受理が決定された日から7日の間に行う必要があり,書面の供託書正本は,供託所で供託金の入金が確認された後に,送付又は窓口での受取りによって交付される。
東京法務局の「裁判上の担保(保証)の手続について」も,窓口での現金納付の場合は納付時に供託書正本を交付し,電子納付の場合は供託所での入金確認後に交付するとしている。
大阪地方裁判所では,後記のとおり証明書の提出時刻によって発令日が変わるから,電子納付を選ぶ場合は,供託書正本の交付を受けて裁判所に提出するまでの時間を見込んでおく必要がある。
2 証明書の提出
担保を提供したときは,その旨の証明書を裁判所に提出しなければならない。
大阪地方裁判所第1民事部の案内によれば,証明書は,供託の場合は供託書正本及びその写し,支払保証委託契約の場合は金融機関との支払保証委託契約締結証明書である。
供託書正本は,写しと照合の上,その場で返還される。
立担保の書面の提出窓口は「受付①」とされている。
3 午後4時までの提出と発令
大阪地方裁判所第1民事部の案内は,「担保提供期間内に担保決定のとおりに担保提供がされ,その証明書が午後4時までに提出されたときは,原則として同日中に保全命令を発令してその決定正本を債権者に交付送達いたします。」としている。
ただし,事案によっては翌日以降の発令となることもあり,証明書の提出が午後4時を過ぎた場合には翌日以降の発令となる。
発令を急ぐ事件では,担保決定の後,供託の手続と証明書の提出を午後4時までに終えられるよう段取りを組むことが重要である。
第5 発令後の仮差押えの執行
1 執行の申立ては原則として不要
保全命令を発した裁判所が保全執行裁判所となる不動産の仮差押えの登記や債権の仮差押えの執行では,保全命令の発令に引き続いて執行手続が開始され,保全執行の申立ては必要ないと説明されている(司法研修所編『民事弁護教材 改訂 民事保全(補正版)』37頁~38頁,51頁)。
仮差押えの登記をする方法による不動産の仮差押えの執行と,債権に対する仮差押えの執行は,いずれも仮差押命令を発した裁判所が保全執行裁判所として管轄する(民事保全法47条2項,50条2項)。
2 不動産の仮差押え
(1) 裁判所書記官による登記の嘱託
不動産に対する仮差押えの執行は,仮差押えの登記をする方法又は強制管理の方法により行う(民事保全法47条1項)。
仮差押えの登記は,裁判所書記官が嘱託する(同条3項)。
登記所は嘱託に従って仮差押えの登記をし,登記が終了したときは,登記事項証明書等を執行裁判所に送付する(同教材44頁~45頁)。
(2) 登記前の処分に注意
仮差押えの登記がされる前に債務者が第三者に所有権を移転する登記をしてしまえば,その不動産に対する仮差押えの執行はできなくなる。
申立て前に登記情報を確認する方法は,登記情報提供サービスの使い方―地番検索,家屋番号,当日明細及びPDF保存で説明している。
3 債権の仮差押え
(1) 第三債務者への送達と効力の発生
債権に対する仮差押えの執行は,保全執行裁判所が第三債務者に対し債務者への弁済を禁止する命令を発する方法により行う(民事保全法50条1項)。
差押えの効力は差押命令が第三債務者に送達された時に生ずるとする民事執行法145条5項は,債権の仮差押えの執行に準用されている(民事保全法50条5項)。
したがって,第三債務者に送達される前に預金が払い戻されていれば,その部分は仮差押えの対象にならない。
(2) 債務者への送達の時期
保全執行は,保全命令が債務者に送達される前であっても,することができる(民事保全法43条3項)。
前記教材は,実務では,効力発生前に仮差押債権が処分されないよう,債務者に対する送達は第三債務者への送達から数日遅らせて行われていると説明している(同教材51頁~52頁)。
東京地方裁判所民事第9部の「民事第9部の概要」の案内(令和8年9月17日確認)は,無審尋事件について,登記・登録嘱託書や第三債務者宛ての決定正本は発令日の夕方に速達で発送し,債務者には原則として発令日の1週間後に決定正本を発送するとしている。
同部の「保全事件の発令まで」の案内も,「債務者あての決定正本の発送は,決定発令日の翌日から起算して1週間後(債権者への交付日が月曜日ならば,債務者への発送は翌週の月曜日(休日にあたるときは,その翌日以降の最初の平日))にする扱いとなっています。」としている。
大阪地方裁判所第1民事部の案内には,債務者に対する決定正本の送達の時期についての記載は見当たらなかった。
したがって,大阪地方裁判所で債務者への送達をどの程度遅らせているかは,本記事では断定せず,必要があれば担当書記官に確認されたい。
また,債権者以外の者は,口頭弁論若しくは債務者を呼び出す審尋の期日の指定があり,又は債務者に対する保全命令の送達があるまでの間は,事件の記録の閲覧等を請求することができない(民事保全法5条ただし書)。
(3) 第三債務者に対する陳述催告
債権の仮差押えでは,債権者の申立てがあるときは,裁判所書記官は,仮差押命令を送達するに際し,第三債務者に対し,送達の日から2週間以内に仮差押えに係る債権の存否等について陳述すべき旨を催告する(民事保全法50条5項,民事執行法147条1項)。
陳述催告は債権者の申立てがあるときに行われるものであり,大阪地方裁判所第1民事部の債権仮差押命令申立書の書式サンプルでも,「第三債務者に対する陳述催告の申立書」が申立書と併せて示されている。
第三債務者の陳述によって,預金等が実際にあったかどうかがおおむね判明する。
(4) 送達ができなかった場合
前記教材は,第三債務者への送達が「転居先不明」等の理由で返送されてきた場合,債権者は別の送達場所を探して上申書を提出しないと,債権者への命令送達の日から2週間を経過した時点で仮差押命令を執行できなくなると注意している(同教材51頁)。
4 保全執行期間は2週間
民事保全法43条2項は,「保全執行は、債権者に対して保全命令が送達された日から二週間を経過したときは、これをしてはならない。」と定める。
大阪地方裁判所では,証明書を午後4時までに提出した場合,原則として同日中に決定正本が債権者に交付送達されるから,その日が執行期間の起算の基準となる。
前記教材は,通説は執行期間内に執行の着手があればよいと解していると説明している(同教材39頁)。
第6 発令に至らなかった場合と担保の取戻し
1 却下と即時抗告
保全命令の申立てを却下する裁判に対しては,債権者は,告知を受けた日から2週間の不変期間内に,即時抗告をすることができる(民事保全法19条1項)。
即時抗告を却下する裁判に対しては,更に抗告をすることができない(同条2項)。
大阪地方裁判所第1民事部の一覧表によれば,保全事件の即時抗告の申立手数料は「3,000円(ただし基本事件の1.5倍)」であり,申立書の提出先は民事訟廷事件係(本館1階)である。
民事訴訟法332条の即時抗告期間(1週間)とは異なるから,期間の管理に注意する必要がある(即時抗告・執行抗告・再抗告・特別抗告・許可抗告の期限,理由書期限及び執行停止参照)。
2 申立ての取下げ
疎明が足りない場合や,発令後に事情が変わった場合には,申立ての取下げが問題になる。
大阪地方裁判所第1民事部は,保全事件の取下げに必要な書類として,取下書の正本及び副本(副本は債務者及び第三債務者の数)と,債務者及び第三債務者の数に応じた郵便切手(各110円)等を案内している。
取下げに債務者の同意が要るか,取下げの方式及び執行の解放については,仮差押えの取下げ―債務者の同意の要否,書面での取下げ,執行の解放及び担保の取戻しで説明する。
3 担保の取戻し
立てた担保は,本案で勝訴した場合でも自動的には戻らず,担保取消し等の手続が必要である。
大阪地方裁判所第1民事部は,民事訴訟法79条1項から3項までの事由ごとに,担保取消しの申立てに必要な書類と書式を案内している。
担保取消しの3類型と簡易の取戻しは,仮差押えの担保(供託金)を取り戻す方法―担保取消しの3類型,簡易の取戻し及び所要期間で説明する。
第7 関連記事
仮差押えの全体像と各論は,次の記事で説明している。
①仮差押えとは―要件・手続の流れ・担保・効力・解放金・担保の取戻しの全体像
②仮差押えの担保金はいくらか―目的物の価格を基準とする算定方法,担保基準表及び立て方
③仮差押えの担保(供託金)を取り戻す方法―担保取消しの3類型,簡易の取戻し及び所要期間
④仮差押えと差押えの違い―処分禁止の効力,時効の完成猶予及び破産手続開始による失効
⑤仮差押解放金とは―金額の決まり方,供託による執行の取消し及び債権者の回収方法
⑥仮差押えを受けた債務者の対抗手段―保全異議,起訴命令,事情変更による保全取消し及び保全抗告
⑦仮差押えの取下げ―債務者の同意の要否,書面での取下げ,執行の解放及び担保の取戻し
⑧債務名義があっても仮差押えはできるか―保全の必要性と東京高裁平成24年11月29日決定
⑨預金・給料の仮差押え―取扱店舗の特定,差押禁止の範囲及び陳述催告
手続の基盤と,仮差押えの後の強制執行については,次の記事がある。
①地方裁判所の専門部及び集中部―意味と主要地裁の担当部
②訴訟費用とは——費目,計算方法,敗訴者負担と回収手続(令和8年5月のIT化・令和6年10月の郵便料金改定に対応)
③民事裁判手続のデジタル化(IT化)-mints・ウェブ会議・電子訴訟
④mintsを利用できる裁判所と対象事件―旧法事件,少額訴訟,支払督促及び対象外手続
⑤即時抗告・執行抗告・再抗告・特別抗告・許可抗告の期限,理由書期限及び執行停止
⑥登記情報提供サービスの使い方―地番検索,家屋番号,当日明細及びPDF保存
⑦弁護士会照会
⑧債権差押命令の申立てと取立て・配当の実務
⑨電子記録債権(でんさい)の仮差押え―債権の特定,送達及び決済停止の実務
第8 出典・参考資料
1 法令・裁判所規則
①民事保全法(平成元年法律第91号)4条,5条,6条の3,12条,13条,14条,19条,43条,47条,50条(e-Gov法令検索)
②民事執行法(昭和54年法律第4号)145条,147条(e-Gov法令検索)
③民事訴訟法(平成8年法律第109号)332条(e-Gov法令検索)
④民事訴訟費用等に関する法律(昭和46年法律第40号)別表第一(e-Gov法令検索)
⑤登録免許税法(昭和42年法律第35号)別表第一(e-Gov法令検索)
⑥民事保全規則(平成2年最高裁判所規則第3号)2条,13条,18条,20条,31条(裁判所ウェブサイト掲載の条文)
2 裁判例
本記事では,裁判例を取り上げていない。
3 裁判所等の案内
①大阪地方裁判所「保全部(第1民事部)」
②大阪地方裁判所第1民事部「第1民事部のご案内」
③大阪地方裁判所第1民事部「第1民事部で取り扱う事件(手続)」
④大阪地方裁判所第1民事部「民事保全事件の手続の流れ」
⑤大阪地方裁判所第1民事部「民事保全事件の申立て」
⑥大阪地方裁判所第1民事部「担保決定」
⑦大阪地方裁判所第1民事部「保全命令の発令」
⑧大阪地方裁判所第1民事部「管轄」
⑨大阪地方裁判所第1民事部「申立書等書式のサンプル」
⑩大阪地方裁判所第1民事部「保全事件の取下げに必要な書類」
⑪大阪地方裁判所第1民事部「保全執行解放に必要な書類」
⑫大阪地方裁判所第1民事部「担保取消しの手続」
⑬大阪地方裁判所第1民事部「大阪地方裁判所第1民事部における収入印紙,郵便切手,決定に係る目録数(令和6年10月1日~)」
⑭東京地方裁判所民事第9部「民事第9部の概要」
⑮東京地方裁判所民事第9部「保全事件の申立て(電子申立て不可)」
⑯東京地方裁判所民事第9部「保全事件の発令まで」
⑰東京地方裁判所民事第9部「その他の手続(電子申立て不可)」
⑱大阪法務局「大阪法務局(本局)」
⑲大阪法務局「大阪法務局本局 庁舎移転のお知らせ」
⑳大阪法務局「大阪法務局本局への電話によるお問合せ先一覧」
㉑法務省「オンラインによる供託手続について」
㉒東京法務局「裁判上の担保(保証)の手続について」
㉓法務省「民事関係手続等における情報通信技術の活用等の推進を図るための関係法律の整備に関する法律について」
4 文献
①司法研修所編『民事弁護教材 改訂 民事保全(補正版)』(日本弁護士連合会,平成25年)37頁~39頁,44頁~45頁,51頁~52頁