第1 所有名義だけで市道かどうかを決めない
市道に柵を設けられて通れなくなった場合と,市が路線を廃止して道路敷を売ろうとしている場合では,相手方も,求める措置も異なる。
最初に道路の法的状態と通行の実情を確かめ,行政への対応,妨害者への請求及び土地の税務を分けて検討することが大切である。
本記事は,2026年10月30日に確認した法令及び公的資料に基づく,初期相談のための整理である。
平成29年司法試験の行政法問題を手掛かりにしているが,試験当時の条文や設問上の事実を,現在の個別案件の事実として扱うものではない。
道路状の土地の登記名義が私人であることと,その土地が道路法上の道路区域に含まれていることは,別の問題である。
逆に,市が所有する細長い土地であるというだけで,供用中の市道だと決めることもできない。
道路担当部署では,路線認定,区域の決定・変更及び供用開始・廃止の公示を確認する。
登記,公図,境界に関する資料と,これらの行政上の資料を対応させ,柵や工作物の位置がどの区域に入るのかを調べる。
道路法18条は,区域の決定等の公示と図面の縦覧,供用開始・廃止の公示について定めている。
道路法4条の私権行使の制限には,所有権の移転等の例外がある。
また,区域の決定後,供用開始までの間については,同法91条が,道路管理者による権原取得の前でも土地の形質の変更や工作物の新築等を道路管理者の許可制とし,権原取得後の道路予定区域には同法4条等を準用している。
登記名義,管理者が取得した権原,供用の有無を一つの時点で混同しないことが重要である。
第2 通行妨害への対応は求める結果から選ぶ
1 道路管理者への相談と義務付け訴訟
道路法43条は,みだりに道路を損傷することや,みだりに道路に物件を堆積するなどして道路の構造又は交通に支障を及ぼすおそれのある行為等を禁じている。
同法71条1項は,同法若しくは同法に基づく命令の規定又はこれらの規定に基づく処分に違反している者等に対し,道路管理者が,道路に存する工作物その他の物件の移転・除却や道路の原状回復等を命ずることができる旨を定めている。
ただし,通行に困っている人が相談すれば,直ちに管理者の命令義務が確定するわけではない。
対象物の位置,設置者,設置の経緯,道路の利用状況及び危険の内容を伝え,管理者にどの処分を求めるのかを具体化する必要がある。
道路法違反の有無と,命令を発しない判断が違法かどうかも分けて検討する。
法令上の申請を前提としない義務付け訴訟では,行政事件訴訟法37条の2により,重大な損害のおそれ,損害を避けるための他の適当な方法の不存在及び原告の法律上の利益が問題になる。
本案では,処分をすべきであることが処分の根拠となる法令の規定から明らかであると認められるか,又は処分をしないことが裁量権の範囲を超え若しくはその濫用となると認められることが必要である(同条5項)。
近くに住んでいることだけで,これらの要件が満たされるとは限らない。
自宅への出入り,通勤・通学,介護や搬送などについて,誰が,どのような支障を受けるのかを具体的に整理する。
2 妨害者に対する民事請求との比較
最高裁昭和39年1月16日第一小法廷判決(昭和35年(オ)第676号,民集18巻1号1頁)は,村道の利用を妨害されたと主張する村民の民事上の妨害排除請求について,通行の利益を単なる反射的利益として一律に排斥した原判決を破棄し,名古屋高裁に差し戻した。
同判決は,村民各自は,他の村民の利益ないし自由を侵害しない程度において,自己の生活上必須の行動を自由に行い得る使用の自由権を有し,これには民法の保護を与えるべきであり,妨害が継続するときはその排除を求める権利を有すると判示した。
もっとも,この判決は,主張が真実であれば妨害の排除を求め得る権利があるかもしれないとして審理不尽等を理由に差し戻したものであり,請求を認容したものでも,あらゆる通行者の請求を当然に認めたものでもない。
また,道路管理者に対する義務付け訴訟の原告適格を直接判断した判決でもない。
妨害者への民事請求では,利用の必要性,妨害の内容,請求する撤去等の範囲と,その法的根拠を個別に検討する。
民事請求によって同じ通行上の損害を解消できる可能性があれば,義務付け訴訟の「他に適当な方法がない」という要件との関係も検討対象になる。
行政と民事では制度が違うという説明だけで済ませず,誰に何を求め,実際にどの支障を解消できるかを比較することが実務上の出発点である。
3 緊急時の手続を区別する
訴えを提起しただけで,処分の効力や執行が止まるわけではない。
処分の執行停止は行政事件訴訟法25条,行政に処分を求める仮の義務付けは同法37条の5という別の制度である。
後者には,本案の義務付け訴訟の提起に加え,償うことのできない損害を避けるための緊急の必要,本案について理由があるとみえることなどが必要である。
「重大な損害」が問題となる義務付け訴訟の提起の要件と,仮の義務付けの要件を同じものとして扱わず,求める結果に合う手続と証拠を検討する。
第3 路線廃止は利用実態と代替路を確かめる
道路法10条1項は,一般交通の用に供する必要がなくなったと認める場合に,路線の全部又は一部を廃止できる旨を定めている。
市が「使われていない」と説明する場合にも,調査対象,調査時点及びその前提を確かめることが重要である。
例えば,既に柵で通行できなくなっている期間の通行量だけでは,閉鎖前の需要や,通行を断念した人の必要性を十分に捉えられない可能性がある。
代替路についても,距離だけでなく,幅員,勾配,交通量,歩道,夜間の状況などを現地資料で比較する。
安全のための別の措置を検討する場合は,実施可能な現場条件を確認してから主張に組み込む。
自治体の廃止基準や隣接者への意見聴取の運用も確認する。
ただし,道路法10条自体が隣接者全員に拒否権を与えている,と決めつけることはできない。
個別の基準の文言と法的性質,利用者の情報を集める機能,例外を設ける場合の理由を調べる必要がある。
廃止に関する処分を争う場合は,どの行為を対象とするか,原告適格及び出訴期間を早期に検討する。
取消訴訟の期間は,原則として処分を知った日から6か月,処分の日から1年であるが,正当な理由がある場合や審査請求をした場合の規定もある。
通知の有無だけで期間を自己判断せず,公示や審査請求の経過を含めて確認する。
第4 道路敷の払下げと税務を区別する
1 廃止と売却の手続は同じではない
市道の廃止が検討されていることと,道路敷を希望者が買えることは,同じではない。
所有関係,行政上の廃止手続及び財産処分の条件をそれぞれ確認する。
例えば,横浜市の「道路敷地や水路敷地の払下げ」の案内は,払下げを受けるには事前に道路廃止等の手続が必要であり,土地代金は土地の位置,形状,用途地域,面積,幅等を考慮して市が評価すると説明している。
これは同市の案内である。
他の自治体の案件に価格算式や要件をそのまま当てはめず,担当部署の現行資料を確認する。
2 固定資産税と相続税・贈与税の評価を混同しない
私人が所有する私道については,固定資産税が非課税かどうかと,相続税・贈与税の評価がいくらになるかを分ける。
国税庁の説明では,私道の用に供される宅地は,原則として私道でないものとしての価額の30%で評価し,不特定多数の者の通行の用に供される私道は評価しない。
専用の路地状敷地など,この扱いをそのまま適用しないものもある。
これに対し,大阪市の固定資産税の案内では,公共の用に供する道路の非課税,公共用道路に準ずる道路の評価額ゼロ,その他の道路の10分の1評価を区別し,いずれにも該当しない単なる通路などは宅地等として評価するとしている。
税目と制度が異なるため,一方の認定だけで他方の評価を決めることはできない。
市が所有する土地の払下げ案件と,被相続人等が所有する私道の申告案件も区別する。
非課税の土地が通常の課税明細書に載っていない場合にも,所有権や土地の存在がなくなるわけではない。
大阪市は,固定資産税が非課税の公共用道路などは課税明細書に記載されないため,登記の申請に際しては法務局が指定する近傍類似の土地の評価証明書を取得する必要があると案内している(相続人申告登記を行う場合は不要とされている)。
登記のための資料は,申請先の指示に即して確認する。
第5 相談時にそろえたい資料
| 確認する問題 | 用意したい資料と確認点 |
|---|---|
| 道路の法的状態 | 路線・区域・供用の公示,区域図,道路台帳,登記,公図,権原取得に関する資料 |
| 通行妨害と損害 | 設置前後の写真,工作物の位置・寸法,設置者,日付,日常の利用経路と支障の記録 |
| 廃止の必要性 | 自治体の基準,調査資料,閉鎖前の利用実態,代替路の写真・距離・安全性,説明や意見提出の記録 |
| 売却と税務 | 自治体の売却案内,地積・境界資料,課税明細,評価証明,利用者・通行制限の実情,課税時期の状況 |
弁護士が手続と救済方法を整理し,税理士が税目ごとの評価と申告資料を確認する際にも,基礎となる図面と現況の記録を共有することが有用である。
道路担当部署の説明,登記上の表示及び税務上の評価が異なる目的で作られたものであることを意識して,必要な照会を組み立てる。
第6 関連記事・主な出典
① 平成29年司法試験公法系第2問(行政法)の参考答案と評価項目
② 私道をめぐる法律関係―通行権・2項道路・掘削・駐車・税金
③ 道路法(4条,10条,18条,43条,71条,91条)
④ 行政事件訴訟法(9条,14条,25条,37条の2,37条の5)
⑤ 最高裁昭和39年1月16日第一小法廷判決(昭和35年(オ)第676号,民集18巻1号1頁)・判決本文
⑥ 横浜市・道路敷地や水路敷地の払下げ
⑦ 国税庁・私道の評価,私道の用に供されている宅地の評価
⑧ 大阪市・私有道路の評価など,大阪市・登記申請時には課税明細書がご利用いただけます