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司法修習生が見た裁判・検察・弁護の現場―第53期の体験記から現在の司法修習を考える(AI作成)

第1 この記事の結論

司法修習生は,裁判官,検察官及び弁護士の仕事を外から見学するだけでなく,指導を受けながら実際の事件を素材とする修習を行う。そのため,法曹三者の仕事の進め方,組織の慣行及び当事者との接し方を,同じ時期に比較して見ることができる立場にある。

『司法修習生が見た裁判のウラ側―修習生もびっくり!司法の現場から―』(司法の現実に驚いた53期修習生の会編,現代人文社,2001年)は,第53期司法修習生が実務修習で見聞きした出来事を集めた体験記である。本書は,裁判官室と検察官の関係,勾留・保釈,刑事裁判の進行,合議,取調べと供述調書,国選弁護,検事任官選考等について,公式の制度説明だけでは分からない疑問を具体的に記録している。

ただし,本書が扱うのは主として1999年から2000年頃の実務であり,匿名の体験記を中心とする。個々の記述を現在の裁判所,検察庁又は弁護士会の一般的運用として扱うことはできない。本記事では,本書が記録した当時の体験,本書の編者らによる評価及び現在の公式制度を区別する。

第2 本書と第53期司法修習の位置付け

1 本書が作られた経緯

本書の編者らは,司法試験の学習で理解していた憲法・刑事訴訟法上の原則と,実務修習中に目にした運用との間に隔たりがあるのではないかという疑問から,体験談を集めたと説明している(同書2頁から5頁)。

その一方で,あとがきでは,掲載した事例が全ての実務庁又は全ての実務家に共通するものではなく,多くの優れた実務家から指導を受けたことも明記している。また,個別事件の当事者のプライバシー及び法曹との信頼関係を守りながら,一般化して検討できる制度上の問題を取り上げたとしている(同書206頁及び207頁)。

したがって,本書の価値は,個々の経験だけから司法実務全体を断定できることではない。法曹になる前の司法修習生が何に違和感を持ち,法曹組織の内側と市民から見える姿との間にどのような隔たりを感じたかを記録した点にある。

2 第53期当時と現在の司法修習の違い

第53期の司法修習は,1999年4月から2000年10月までの1年6か月であった。司法研修所での前期修習3か月,実務修習12か月及び後期修習3か月からなり,実務修習では民事裁判,刑事裁判,検察及び弁護の各分野を3か月ずつ修習した(同書8頁から10頁)。

これに対し,裁判所の現在の説明では,司法修習の期間は少なくとも1年間であり,導入修習の後,民事裁判,刑事裁判,検察及び弁護について各2か月,合計約8か月の分野別実務修習を行い,さらに選択型実務修習及び集合修習をそれぞれ約2か月行う。裁判所「司法修習生」及び司法研修所「司法修習の概要」で現行制度を確認できる。

項目第53期当時現在の公式説明
修習期間1年6か月少なくとも1年間
司法研修所での修習前期3か月・後期3か月導入約1か月・集合約2か月
分野別実務修習4分野を各3か月4分野を各2か月
その他の課程現在の選択型実務修習はなかった選択型実務修習を約2か月

本書を読む場合は,この制度上の違いを前提とする必要がある。

第3 裁判修習で見たもの

1 裁判官室に出入りする検察官

本書は,刑事部の裁判官室に検察官が出入りし,係属事件,被告人の前科又は暴力団との関係等について話す場面があったとする複数の体験を掲載している(同書13頁から25頁)。修習生らは,起訴状だけを見て予断なく審理を始めるという起訴状一本主義や,裁判所の公平な外観との関係に疑問を示した。

裁判官と検察官が同じ庁舎又は近接する職場で仕事をし,日常的な接点を持つこと自体から,個別事件について不適切な情報交換があったとはいえない。本書の記述が示す重要な点は,裁判の当事者から見えない場所での接触が,公正さに対する信頼へどのような影響を与えるかという問題である。

2 勾留・保釈と「人質司法」

令状担当裁判官の下で修習した執筆者は,勾留請求が多数認められ,否定された事件でも準抗告による取消しを裁判官が意識しているように見えたと記録している。また,証拠隠滅又は逃亡のおそれを個別具体的に検討せず,罪名や事件類型から広く認めているのではないかという疑問を述べている(同書26頁から35頁)。

これは匿名の観察と評価であり,当時の全ての勾留判断を示す統計ではない。しかし,身体拘束による自白への圧力,裁判官の責任回避及び事件処理上の負担が,勾留・保釈の判断に影響していないかという問題は,本書の中心的な問題提起の一つである。

3 迅速な事件処理と充実した審理

本書は,刑事裁判の冒頭手続で,裁判官が被告人又は弁護人に書証への同意を促したように見えた場面や,情状証人を調べるために続行を求める弁護人と,一回で審理を終えようとする裁判所との緊張を記録している(同書36頁から48頁)。

迅速な裁判は被告人の利益にもなるが,審理の速度を優先するために必要な主張・立証が制限されるのであれば問題となる。本書の修習生らは,事件処理件数だけでなく,個々の被告人に必要な審理が行われたかを検討すべきであると考えた。

4 合議,心証形成及び裁判官の組織

合議事件について,本書には,若い裁判官が判決案を作成し,裁判長の意見が結論又は量刑に強く影響したように見えたとの記述がある。他方,配属部によっては自由に意見を述べることができたとの体験もあり,修習生の見方は一様ではない(同書49頁から51頁及び189頁から195頁)。

また,審理前又は審理の早い段階で結論が固まっているように見えた事件,経験則という言葉によって別の見方が退けられたと感じた場面及び裁判官が組織内の評価を意識しているように見えた場面も記録されている(同書52頁から59頁)。

修習生が合議や裁判官の内心を完全に知ることはできない。しかし,理由を明確にし,異なる見方を検討し,組織内の序列から独立して判断することが,裁判への信頼に不可欠であるとの問題提起として読むことができる。

5 裁判官によるハラスメントと申告

本書には,女性の司法修習生が裁判官から性的な言動を受け,修習生側が裁判所へ申告した事例が収録されている。申告当初は問題が小さく扱われたと感じたものの,書面による申入れ等を経て,裁判所長が問題を認め,裁判官から謝罪を受けたとされる(同書60頁から68頁)。

この事例は,現在の相談制度又は対応結果を示すものではない。それでも,指導・評価を受ける立場にある司法修習生が,指導担当者又は配属先の実務家について声を上げる際の困難と,口頭申告だけで終わらせず,経過を記録して組織へ伝えることの意味を示す歴史的資料である。現在の相談先については,司法修習生の相談窓口―ハラスメント・人間関係・就職活動で困ったとき(AI作成)で整理している。

6 裁判官の市民的自由

本書は,青法協問題,裁判官の政治的活動及び寺西判事補事件等を題材に,裁判官の市民的自由と司法行政による統制についても検討している(同書69頁から76頁)。ここでも,個々の裁判官の適否だけでなく,裁判官が組織内の人事評価を意識することが裁判内容へ影響しないかという問題意識が一貫している。

第4 検察修習で見たもの

1 司法修習生による取調べ

本書の検察修習では,司法修習生が指導担当検察官の下で被疑者を取り調べ,取調べ結果を踏まえて供述調書案を作成した体験が詳しく記録されている(同書79頁から94頁)。

取調べが他人から見える部屋で行われた例,修習生が被疑者を叱った例,被疑者の供述を検察官が考える事件の筋に沿って整理するよう指導された例等があり,執筆者らは,被疑者の人格及び供述の正確性を守るための教育が十分であったかを問い直している。

現在も,裁判所の公式説明は,検察修習において,指導係検事等の指導の下で被疑者・参考人の取調べ等を学び,体験するとしている。他方,本書の個別体験が現在も同じ形で行われていることを意味するものではない。取調べ修習の法的な位置付けについては,司法修習生による取調べ修習の合法性(AIリライト)で整理している。

2 供述調書は誰の言葉か

本書では,供述調書は被疑者が話した内容をそのまま記録するものではなく,検察官が証拠に照らして事実と認めた内容を文章にするものだと指導されたとの体験が繰り返し登場する。修習生が作成した案に検察官が修正を加え,後日,被疑者に読み聞かせて署名・指印を求めたとの例もある(同書88頁から101頁及び181頁から188頁)。

修習生らが問題としたのは,調書に記載された文章だけを読んでも,質問,説得,叱責又は異論がどのように交わされたかが分からない点である。本書は,取調べの録音・録画が広く制度化される前に,取調べ過程を外部から検証できるようにする必要性を述べていた。

3 勾留請求とえん罪への問題意識

検察修習に関する章では,勾留請求をしない判断が例外的に扱われたとの体験,供述の変化が調書へどのように反映されたかという疑問及び被疑者に有利な事情が十分に記録・開示されない危険が論じられている(同書95頁から111頁)。

ここでも,本書は個別事件の有罪・無罪を再判定した資料ではない。本書の意義は,捜査側の立場で事件を担当した司法修習生自身が,捜査機関の描く「事件の筋」が形成された後に,これと異なる供述又は証拠をどのように扱うべきかという問題を提起した点にある。

4 検察官との人間関係と組織

本書は,執務時間後の会食等を通じて,検察官,裁判官及び司法修習生の人間関係が作られる様子も記録している(同書102頁から105頁)。また,検察庁内部では,上位者が事件処理方針を変更した場合に担当検察官が従う組織構造について,座談会で議論している。

人間関係を築くこと自体は不適切ではない。問題は,事件処理の公正さと,外部から見た公正さを保つために,個別事件に関する接触及び組織内の指示をどのように統制するかである。

第5 弁護修習で見たもの

本書の弁護修習に関する章は,国選弁護人が被告人との接見を十分に行わず,公判準備も乏しかったと修習生が感じた事例を取り上げている(同書127頁から134頁)。修習生が指導担当弁護士の仕事を学ぶ立場にある一方,その仕事に疑問を感じた場合に,どこまで批判的に検討できるかという教育上の問題も示している。

本書刊行後,被疑者国選弁護制度の導入及び対象事件の拡大,日本司法支援センターによる国選弁護人契約等,刑事弁護を取り巻く制度は大きく変化している。そのため,本書の事例を現在の国選弁護活動の一般像とすることはできない。他方,事件記録を読み,当事者本人と面会し,必要な主張・立証を具体的に行うという弁護活動の基本を修習生がどのように学ぶかという問題は,現在にもつながる。

現在の弁護修習については,弁護修習の実際―指導担当弁護士・個別修習・合同修習と成績評価(AI作成)で整理している。

第6 検事任官選考と「女性枠」問題

本書は,検事任官を希望する司法修習生が,指導担当検察官又は司法研修所教官による評価を意識し,発言,交友関係又は活動を自制する可能性を論じている(同書112頁から126頁)。指導する側が採用評価にも関係する場合,率直に疑問を述べることが不利益につながるのではないかという不安が生じるとの指摘である。

第4部では,49期から53期の検事任官について,女性の任官者数がクラスごとに制限される「女性枠」があったのではないかという問題を取り上げている。第53期の修習生らは,女性修習生の経験と期別の任官状況を調べ,2000年10月4日に法務省へ申入れを行ったと記録している(同書135頁から168頁)。

もっとも,「女性枠」の存在は,当時から法務当局が否定していた。本書は問題を提起した修習生側の資料であり,それだけで制度の存在が確定するわけではない。この論点は,修習生側の主張,法務当局の説明,日弁連の調査,国会答弁及び実際の女性任官者数を分けて検討する必要がある。49期から53期までの検事任官で指摘された「女性枠」と女性任官者数(AIリライト)で資料別に整理している。

第7 座談会で繰り返された問題

本書後半の第53期修習生座談会では,裁判,検察及び任官選考に共通する問題が議論されている(同書169頁から205頁)。

1 「事件の筋」と事実認定

実務家が早い段階で事件の筋を立てることは,証拠を整理し,判断を進めるために必要である。他方,本書の修習生らは,最初に立てた筋と合わない証拠又は供述を軽視すれば,結論に合わせて事実を選ぶことになると指摘した。

2 指導と評価による萎縮

司法修習生は,裁判官,検察官又は弁護士から個別指導を受ける。同時に,成績評価や任官・就職を意識する立場でもある。指導担当者の見解に反対することが自分の評価へ影響すると感じれば,疑問を口にしにくくなる。本書は,指導を受けることと批判的に検討することを両立できる仕組みが必要であると考えている。

3 組織の論理と個人の判断

裁判所及び検察庁には,事件を継続的かつ公平に処理するための組織が必要である。しかし,組織内の人事評価,上位者の意向又は従来の慣行が,個々の裁判官・検察官の判断を不当に狭めてはならない。本書では,裁判官の増員,人権教育,法曹一元,任官選考の透明化,指導と採用の分離,判断理由の明示等が提案された。

これらは本書の編者・座談会参加者による提案であり,その後に採用された制度を示すものではない。ただし,制度の内側に入った司法修習生が,何を法曹倫理の問題として捉えたかを知る資料となる。

第8 現在の司法修習生が本書から学べること

1 「実務はこうしている」で検討を終えない

実務上の慣行には,長年の経験に基づく合理性がある場合も多い。しかし,法令,適正手続及び当事者の権利との関係を説明できなければならない。本書は,司法修習生が素朴な疑問を持つこと自体に意味があると示している。

2 観察した事実と自分の評価を分ける

裁判官室に誰が入ったか,どのような言葉を聞いたかという観察と,その行為が癒着又は不公正であるという評価は同じではない。体験を記録するときは,日時,場所,発言,資料等の客観的事実と,自分がそこから推測したことを分ける必要がある。

3 守秘義務と制度批判を両立させる

現在の司法修習生も,具体的事件を扱うため秘密保持義務を負う。本書のあとがきは,当事者のプライバシー及び個別事件の秘密を守りながら,一般化できる制度上の問題を社会へ伝えるという考え方を示した。ただし,何を公表できるかは事案ごとに異なり,匿名化すれば常に公表できるわけではない。

4 現在の制度は現在の資料で確認する

司法修習の期間・日程,修習生の身分,給付金,兼業,採用選考及び相談窓口は,本書刊行後に変化している。現在の制度については,司法修習・司法修習生とは―期間・内容・給付金・修習地・身分・二回試験(AI作成)及び裁判所の最新資料で確認する必要がある。

第9 まとめ

『司法修習生が見た裁判のウラ側』は,第53期司法修習生が,法曹三者の実務を間近で経験したからこそ抱いた疑問を記録した資料である。裁判官室と検察官の関係,身体拘束,審理の迅速化,合議,取調べ,供述調書,国選弁護,任官選考及びハラスメントという論点は,いずれも法曹倫理と司法に対する信頼に関わる。

同時に,本書は,問題事例が全ての実務家に共通するものではないと明記している。本書を現在の実務の証明として読むのではなく,当時の修習生が発した問いを手掛かりに,現行制度と実際の運用を一次資料に基づいて検討することが重要である。

第10 参考資料

・司法の現実に驚いた53期修習生の会編『司法修習生が見た裁判のウラ側―修習生もびっくり!司法の現場から―』(現代人文社,2001年11月30日第1版第1刷,2002年4月20日第1版第3刷)

・裁判所「司法修習生」

・司法研修所「司法修習の概要」

・司法研修所「司法修習生採用選考」