司法修習生による取調べ修習の合法性

Pocket

目次
1 はじめに
2 司法修習生による取調べ修習の違法説の根拠
3 司法修習生による取調べ修習の合法説の根拠
4 相島六原則
5 違法説から合法説への反論
6 取調べ修習に関する国会答弁
7 司法修習生の取調べに関する裁判例
8 検察官面前調書
9 黙秘権に関するメモ書き(捜査機関の取調べ一般の話です。)
10 取調べに関する犯罪捜査規範の条文(犯罪捜査規範166条ないし182条の5)
11 関連記事その他

1 はじめに
(1) 司法修習生による取調べ修習の適法性は,昭和22年の第1期司法修習から問題となっていました(「造反-司法研修所改革の誘因-」(昭和45年6月10日発行)85頁)。
(2) 日弁連HPの「司法修習終了時点から見た司法修習生の実務修習について」8頁に,相島六原則の説明があります。

2 司法修習生による取調べ修習の違法説の根拠
① 取調べの主体について定めた刑事訴訟法198条1項は,「司法修習生」を主体としてあげていない。
   そのため,司法修習生による取調べは,同法197条1項ただし書が定める強制処分法定主義に違反する。
② 憲法31条の法定手続原則は,特に刑事手続においては厳格に解釈・運用されるべきである。司法修習生による取調べは法律上の明文の根拠を欠く以上,同原則違反で違憲である。
③ 取調べは被疑者に対して自己に不利益な供述まで求めるという点で,被疑者の人格の深いところまで立ち入るものであるところ,修習目的による取調べは,被疑者の人格を修習の道具として扱うものであり,人格の尊厳を趣旨とする憲法13条に違反する。

3 司法修習生による取調べ修習の合法説の根拠
① 被疑者の同意がある以上,許される。
② 将来の法曹を養成するという公益目的のためには取調べ修習は不可欠であり,それ故これを認める必要がある。
   医師のインターン制度と同じである。
③ 相島六原則を守れば,人権侵害のおそれは少ない。


4 相島六原則
・ 相島六原則は,相島一之司法研修所長が,昭和38年度司法修習生指導担当者協議会において述べた見解のことであります(「造反-司法研修所改革の誘因-」(昭和45年6月10日発行)87頁参照)ところ,その内容は以下のとおりです。
① 指導検察官が,あらかじめ個々の事件ごとに、事案の概要,問題点,発問の要領等を説明指導すること。
② 被疑者または参考人のいわゆる呼出は,指導検察官の責任で,かつ,その名において行い修習のみを目的とした捜査上不必要な呼出をしないこと。
③ 指導検察官は,被疑者または参考人に対し司法修習生の身分を説明し,検察官の取調べにさきだって司法修習生が発問を行なうことを告げ、その自由な意志に基づく承諾を得た場合に限って行うこと。
④ 指導検察官から被疑者に対し,あらかじめ供述拒否権の告知をすること。
⑤ 司法修習生が発問するにあたっては,指導検察官が同室し,十分な指導を行うこと。
⑥ 司法修習生が発問の結果作成した書面をそのまま検察官調書として流用することなく,指導検察官があらためて取調べを行ない供述調書を作成すること。


5 違法説から合法説への反論
① 被疑者と検察官の力関係,司法修習生というものについての一般人の理解からして,自由かつ真摯な同意とはいえない。
   法定手続原則は同意によって放棄できるものではない。
② 公益目的であっても個人の人格を踏みにじることは許されない。
   医師のインターン制度と取調べという権力の行使を同視することはできない。
③ 相島六原則を守ることは不可能である(現実に守られたという例はほとんどない。)。
   拘束時間が長くなることは明白である。
   大部屋で一斉にやらざるを得ず,プライバシー侵害が著しい。


6 取調べ修習に関する国会答弁
    高輪1期の矢口洪一最高裁判所事務次長は,昭和52年3月15日の衆議院法務委員会において以下の答弁をしています。
    現在はいわゆる検事代理の制度はございません。取り調べ修習というのは行われておりますが、これは稲葉委員御承知と思いますが、相島六原則というのにのっとりまして、一人前の指導検事が取り調べをするのを、率直に申し上げれば、事実上補助するということでございまして、自分の名前において、自分の責任において取り調べをするというものではございません。ただ、先走るようでございますが、裁判所においては、戦前戦後を通じまして、合議の傍聴といったようなこと、それから判決起案といったようなことは、これは司法修習生につきましても同様にやっておるようでございます。


7 司法修習生の取調べに関する裁判例
(1) 大阪高裁昭和59年10月16日判決(判例秘書に掲載)は, 検察修習中被告人からの事情聴取等を行った司法修習生に対し、弁護人が弁論要旨の原稿作成等弁護活動の一部を行わせたことについて、望ましくはないが訴訟手続を違法にするものではないと判示しました。
(2) 名古屋高裁平成15年8月13日判決(判例秘書に掲載)は,指導検察官が,司法修習生による取調の際,同室して指導監督を行わず,その取調べ結果を参考にして,要点を被告人から確認した上,岐阜地裁配属の55期司法修習生が作成したフロッピー内のデータを利用してパソコンを使って作成した供述調書につき,証拠能力を認めました。
(3) 迷惑防止条例に関する無罪判決の確定後に提起された国家賠償請求事件に関する横浜地裁平成24年10月12日判決(判例秘書に掲載)は,東京地裁配属の新61期司法修習生による取調べの適法性も争われましたところ,適法なものであったと判示しました。


8 検察官面前調書
(1) 検面調書の許容要件としては以下のものがあります。
① その供述者が死亡,精神若しくは身体の故障,所在不明若しくは国外にいるため公判準備若しくは公判期日において供述することができないこと(供述不能)(刑訴法321条1項2号前段)
② 公判準備若しくは公判期日において前の供述と相反するか若しくは実質的に異なった供述をしたこと(相反供述・実質的不一致供述)
    ただし,公判準備若しくは公判期日における供述よりも前の供述を信用すべき特別の情況の存すること(相対的特信情況)(刑訴法321条1項2号後段)が必要です。
(2) 刑訴法321条1項2号前段書面に特信情況を必要とすると,かかる特信情況は後段のような相対的特信情況ではなく,絶対的特信情況になります。
    なぜなら,後段の場合,公判廷供述があるからそれとの比較で特信情況の有無を判断できるのに対し,前段の場合,比較の対象となる公判廷供述がそもそも存在しないからです。
(3) 自己矛盾供述を理由として証拠能力が認められるのは裁面調書及び検面調書だけであり,員面調書を始めとする3号書面では証拠能力は認められません。
    なお,検面調書の場合,一方当事者である検察官が作成した調書であるにもかかわらず,相対的特信状況が認められる限り,第三者の供述を録取した書面は常に証拠能力が認められることとなります。
(4) 刑訴法321条1項2号前段は憲法37条2項に違反しません(最高裁大法廷昭和27年4月9日判決)。
(5) 令和4年4月現在,Wikipediaの「検察官面前調書」には以下の記載があります。
    司法警察員面前調書の場合と同様、被疑者の一人称(「私」)で記される、被疑者の供述内容を検察官が整理して記述する(担当の検察事務官に対する口授によりパソコンを使ってドラフトさせるのが通例である)ことから、しばしば「検察官の作文である」などと揶揄されることがある。記述が終わり次第、検面調書用の紙(端に赤い印が付されているのが特徴である)に印刷してそれを被疑者に提示し、読み聞かせを行って被疑者が納得すれば本人に最低限の署名または押印をさせ(現在の実務では、通常は最後の箇所に住所を書かせて署名と指印をさせ、さらに全てのページに指印させる)、完成する。


9 黙秘権に関するメモ書き(捜査機関の取調べ一般の話です。)
(1) 条文及び判例

ア 憲法38条1項は「何人も、自己に不利益な供述を強要されない。」と定め,刑事訴訟法198条2項は「取調に際しては、被疑者に対し、あらかじめ、自己の意思に反して供述をする必要がない旨を告げなければならない。」と定めています。
イ 憲法38条1項は,何人も自己が刑事上の責任を問われるおそれある事項について供述を強要されないことを保障したものです(最高裁大法廷昭和32年2月20日判決)。
ウ 供述拒否権を告知しないで取り調べたとしても憲法38条1項には違反しません(最高裁昭和28年4月14日判決)。
(2) 現行刑訴法施行当時の関係者の述懐
・ 「供述拒否権」(投稿者は本田正義福岡高検検事長)には以下の記載があります(ジュリスト551号(1974年1月1日付)94頁)。
    現行刑訴法が施行になった当初、検察官が頭をかかえこんだ問題のひとつは、被疑者に供述拒否権が認められ、取調に当たってこれを告知しなければならないと改められたことであった。というのは、従来の裁判では被疑者に対する取調によってその自供を求めるか、否認の場合にはその弁解をくわしく聞き出して、これらの供述が果たして真実かどうかを他の供述証拠と対比して決めるというやり方をとってきたからである。従って、もしも供述拒否権を告知したため、被疑者から「供述を拒否する」といわれて、弁解のひとことも聞き出すことができないとしたら、検察官は真相を究明することができず、全くお手あげになると危惧されたからである。
(中略)
    ところが施行以来二五年をむかえたわけだが、供述拒否権を行使して沈黙を守る被疑者は、特別の事件は別として、一般の事件では危惧されたほど多くないことがわかったのである。情況証拠だけで有罪無罪をきめなければならないケースも旧法当時より多くなったというものの、予想された数より遥かに少ないことがわかった。最も心配された贈収賄などの検挙摘発は、旧法当時のはなやかさはなかったとしても、どうにか曲がりなりにも行われてきて、検挙困難と推測したのはき憂であることがわかった。これは警察の捜査技術が長じたためでも、検察官の尋問技術が進歩したためでもない。日本人は供述拒否権の下においても供述してくれる国民だったためである。このため裁判は昔通り供述中心の審理が行われ、供述の証拠価値に関する攻防が裁判のやまとなっていることは、今日でも旧法当時と本質的に変わりがないといえるのである。


(3) 「黙秘権行使の戦略」の記載
ア 「黙秘権行使の戦略」の記載には以下の記載があります(季刊刑事弁護79号(2014年7月20日付))。
(21頁)
    最強の防御は黙秘である。けれども、黙秘権行使には大きな障害がある。前記のとおり、実務は逮捕・勾留中の被疑者の取調べ受忍義務を前提としている。最初に述べた取調べの実態はその義務を前提として存在する。しかも、わが国の警察官、検察官は黙秘権を行使する被疑者に対して、黙秘権を放棄し供述するよう説得し続けることが黙秘権侵害には当たらないと考えている。取調べにあたって「あなたには黙秘権がある」と告げたその舌の根も乾かないうちから「黙秘なんかするな」と「説得」して当然であるかのように考えている。警察官、検察官だけではない。同じように考えている裁判官も少なくない。
    そのうえ、人は黙っているのが苦痛である。無実の人は無実であるというだけでなく、なぜ無実かを説明したい。犯罪の成立そのものでなくとも、事実を争うときは争う理由を説明したい。事前に争いがなくても言い訳をしたい。とにかく、人を前にして沈黙することには苦痛を伴う。ほとんどの人はしゃべりたいのである。
    説得され続けると、もともとしゃべりたいのであるから、黙秘することはますます困難となる。それでも黙秘することは強靭な精神力をもつ限られた被疑者にしかできなかった。
(22頁)
    取調べの可視化は、黙秘権行使の障害を確実に弱くするだろう。強靭な精神力を持つ限られた被疑者しかできなかった黙秘を普通の被疑者でもできるものにする。
    「黙秘する」と述べる被疑者に対して取調官が1時間以上も「供述せよ」「供述せよ」と「説得」している場面の映像を見れば、それでも権利の侵害ではない、と考える人がそれほど多いとは思えない。取調官もそれに気づいているはずである。「説得」は抑制的なものになる。
    したがって、取調べが可視化されているときの黙秘権行使は、カメラの前で、「黙秘します」と述べ、それ以降は沈黙することでよい。可視化されていないときのように、取調官が脅したり、弁護人に対する悪口を言うことはないだろう。「説得」の時間も短時間で終わると考えられる。
    可視化以前には黙秘権を行使するだけで大変な力業であったのが、黙秘権を戦略的に行使することが可能になる。
(23頁)
    民事事件で依頼者に対して、相手方代理人のところにいって事情聴取を受け、陳述書を作成してもらえ、ただし、サインするときには陳述書の内容が正確であることをよく確認するように、と助言する弁護士はおそらく一人もいないだろう。
 取調官のところに行くのは仕方がないとしても、そこで取調べを受け調書作成に応じよ、というのはそれと基本的には同じである。黙秘権の行使をそのような基本に立ち帰って考えてみる必要がある。
イ 季刊刑事弁護79号(2014年7月20日付)41頁ないし73頁の「座談会 黙秘をどのように活用するか 具体的設例から考える」には,否認事件及び自白事件における個別のケースごとに,黙秘権を行使すべきかどうかに関する議論が載っています。
(4) その他
ア 共犯者がいる事件において黙秘権を行使して一切供述調書を作成しなかった場合,責任転嫁等を狙う共犯者の供述だけで捜査機関のストーリーが作成されるという怖さはあると思います。
イ 被害者がいる事件において黙秘権を行使して一切供述調書を作成しなかった場合,自分には全く落ち度がないなどという被害者の供述だけで捜査機関のストーリーが作成されるという怖さはあると思います。


10 取調べに関する犯罪捜査規範の条文(犯罪捜査規範166条ないし182条の5)
166条(取調べの心構え)
    取調べに当たつては、予断を排し、被疑者その他関係者の供述、弁解等の内容のみにとらわれることなく、あくまで真実の発見を目標として行わなければならない。
167条(取調べにおける留意事項)
① 取調べを行うに当たつては、被疑者の動静に注意を払い、被疑者の逃亡及び自殺その他の事故を防止するように注意しなければならない。
② 取調べを行うに当たつては、事前に相手方の年令、性別、境遇、性格等を把握するように努めなければならない。
③ 取調べに当たつては、冷静を保ち、感情にはしることなく、被疑者の利益となるべき事情をも明らかにするように努めなければならない。
④ 取調べに当たつては、言動に注意し、相手方の年令、性別、境遇、性格等に応じ、その者にふさわしい取扱いをする等その心情を理解して行わなければならない。
⑤ 警察官は、常に相手方の特性に応じた取調べ方法の習得に努め、取調べに当たつては、その者の特性に応じた方法を用いるようにしなければならない。
168条(任意性の確保)
① 取調べを行うに当たつては、強制、拷問、脅迫その他供述の任意性について疑念をいだかれるような方法を用いてはならない。
② 取調べを行うに当たつては、自己が期待し、又は希望する供述を相手方に示唆する等の方法により、みだりに供述を誘導し、供述の代償として利益を供与すべきことを約束し、その他供述の真実性を失わせるおそれのある方法を用いてはならない。
③ 取調べは、やむを得ない理由がある場合のほか、深夜に又は長時間にわたり行うことを避けなければならない。この場合において、午後十時から午前五時までの間に、又は一日につき八時間を超えて、被疑者の取調べを行うときは、警察本部長又は警察署長の承認を受けなければならない。
168条の2(精神又は身体に障害のある者の取調べにおける留意事項)
    精神又は身体に障害のある者の取調べを行うに当たつては、その者の特性を十分に理解し、取調べを行う時間や場所等について配慮するとともに、供述の任意性に疑念が生じることのないように、その障害の程度等を踏まえ、適切な方法を用いなければならない。
169条(自己の意思に反して供述をする必要がない旨の告知)
① 被疑者の取調べを行うに当たつては、あらかじめ、自己の意思に反して供述する必要がない旨を告げなければならない。
② 前項の告知は、取調べが相当期間中断した後再びこれを開始する場合又は取調べ警察官が交代した場合には、改めて行わなければならない。
170条(共犯者の取調べ)
① 共犯者の取調べは、なるべく各別に行つて、通謀を防ぎ、かつ、みだりに供述の符合を図ることのないように注意しなければならない。
② 取調べを行うに当たり、対質尋問を行う場合には、特に慎重を期し、一方が他方の威圧を受ける等のことがないようその時期及び方法を誤らないように注意しなければならない。
171条(証拠物の呈示)
    捜査上特に必要がある場合において、証拠物を被疑者に示すときは、その時期及び方法に適切を期するとともに、その際における被疑者の供述を調書に記載しておかなければならない。
172条(臨床の取調べ)
    相手方の現在する場所で臨床の取調べを行うに当たつては、相手方の健康状態に十分の考慮を払うことはもちろん、捜査に重大な支障のない限り、家族、医師その他適当な者を立ち会わせるようにしなければならない。
173条(裏付け捜査及び供述の吟味の必要)
① 取調べにより被疑者の供述があつたときは、その供述が被疑者に不利な供述であると有利な供述であるとを問わず、直ちにその供述の真実性を明らかにするための捜査を行い、物的証拠、情況証拠その他必要な証拠資料を収集するようにしなければならない。
② 被疑者の供述については、事前に収集した証拠及び前項の規定により収集した証拠を踏まえ、客観的事実と符合するかどうか、合理的であるかどうか等について十分に検討し、その真実性について判断しなければならない。
174条(伝聞供述の排除)
① 事実を明らかにするため被疑者以外の関係者を取り調べる必要があるときは、なるべく、その事実を直接に経験した者から供述を求めるようにしなければならない。
② 重要な事項に係るもので伝聞にわたる供述があつたときは、その事実を直接に経験した者について、更に取調べを行うように努めなければならない。
175条(供述者の死亡等に備える処置)
    被疑者以外の者を取り調べる場合においては、その者が死亡、精神又は身体の故障その他の理由により公判準備又は公判期日において供述することができないおそれがあり、かつ、その供述が犯罪事実の存否の証明に欠くことができないものであるときは、捜査に支障のない限り被疑者、弁護人その他適当な者を取調べに立ち会わせ、又は検察官による取調べが行われるように連絡する等の配意をしなければならない。
176条(証人尋問請求についての連絡)
    刑訴法第二百二十六条又は同法第二百二十七条の規定による証人尋問の必要があると認められるときは、証人尋問請求方連絡書に、同法第二百二十六条又は同法第二百二十七条に規定する理由があることを疎明すべき資料を添えて、検察官に連絡しなければならない。この場合において、証明すべき事実及び尋問すべき事項は、特に具体的かつ明瞭に記載するものとする。


177条(供述調書)
① 取調べを行つたときは、特に必要がないと認められる場合を除き、被疑者供述調書又は参考人供述調書を作成しなければならない。
② 被疑者その他の関係者が、手記、上申書、始末書等の書面を提出した場合においても、必要があると認めるときは、被疑者供述調書又は参考人供述調書を作成しなければならない。
178条(供述調書の記載事項)
① 被疑者供述調書には、おおむね次の事項を明らかにしておかなければならない。
一 本籍、住居、職業、氏名、生年月日、年齢及び出生地(被疑者が法人であるときは名称又は商号、主たる事務所又は本店の所在地並びに代表者の氏名及び住居、被疑者が法人でない団体であるときは名称、主たる事務所の所在地並びに代表者、管理人又は主幹者の氏名及び住居)
二 旧氏名、変名、偽名、通称及びあだ名
三 位記、勲章、褒賞、記章、恩給又は年金の有無(もしあるときは、その種類及び等級)
四 前科の有無(もしあるときは、その罪名、刑名、刑期、罰金又は科料の金額、刑の執行猶予の言渡し及び保護観察に付されたことの有無、犯罪事実の概要並びに裁判をした裁判所の名称及びその年月日)
五 刑の執行停止、仮釈放、仮出所、恩赦による刑の減免又は刑の消滅の有無
六 起訴猶予又は微罪処分の有無(もしあるときは、犯罪事実の概要、処分をした庁名及び処分年月日)
七 保護処分を受けたことの有無(もしあるときは、その処分の内容、処分をした庁名及び処分年月日)
八 現に他の警察署その他の捜査機関において捜査中の事件の有無(もしあるときは、その罪名、犯罪事実の概要及び当該捜査機関の名称)
九 現に裁判所に係属中の事件の有無(もしあるときは、その罪名、犯罪事実の概要、起訴の年月日及び当該裁判所の名称)
十 学歴、経歴、資産、家族、生活状態及び交友関係
十一 被害者との親族又は同居関係の有無(もし親族関係のあるときは、その続柄)
十二 犯罪の年月日時、場所、方法、動機又は原因並びに犯行の状況、被害の状況及び犯罪後の行動
十三 盗品等に関する罪の被疑者については、本犯と親族又は同居の関係の有無(もし親族関係があるときは、その続柄)
十四 犯行後、国外にいた場合には、その始期及び終期
十五 未成年者、成年被後見人又は被保佐人であるときは、その法定代理人又は保佐人の氏名及び住居(法定代理人又は保佐人が法人であるときは名称又は商号、主たる事務所又は本店の所在地並びに代表者の氏名及び住居)
② 参考人供述調書については、捜査上必要な事項を明らかにするとともに、被疑者との関係をも記載しておかなければならない。
③ 刑訴法第六十条の勾留の原因たるべき事項又は同法第八十九条に規定する保釈に関し除外理由たるべき事項があるときは、被疑者供述調書又は参考人供述調書に、その状況を明らかにしておかなければならない。

179条(供述調書作成についての注意)
① 供述調書を作成するに当たつては、次に掲げる事項に注意しなければならない。
一 形式に流れることなく、推測又は誇張を排除し、不必要な重複又は冗長な記載は避け、分かりやすい表現を用いること。
二 犯意、着手の方法、実行行為の態様、未遂既遂の別、共謀の事実等犯罪構成に関する事項については、特に明確に記載するとともに、事件の性質に応じて必要と認められる場合には、主題ごと又は場面ごとの供述調書を作成するなどの工夫を行うこと。
三 必要があるときは、問答の形式をとり、又は供述者の供述する際の態度を記入し、供述の内容のみならず供述したときの状況をも明らかにすること。
四 供述者が略語、方言、隠語等を用いた場合において、供述の真実性を確保するために必要があるときは、これをそのまま記載し、適当な注を付しておく等の方法を講ずること。
② 供述を録取したときは、これを供述者に閲覧させ、又は供述者が明らかにこれを聞き取り得るように読み聞かせるとともに、供述者に対して増減変更を申し立てる機会を十分に与えなければならない。
③ 被疑者の供述について前項の規定による措置を講ずる場合において、被疑者が調書(司法警察職員捜査書類基本書式例による調書に限る。以下この項において同じ。)の毎葉の記載内容を確認したときは、それを証するため調書毎葉の欄外に署名又は押印を求めるものとする。
180条(補助者及び立会人の署名押印)
① 供述調書の作成に当たつては、警察官その他適当な者に記録その他の補助をさせることができる。この場合においては、その供述調書に補助をした者の署名押印を求めなければならない。
② 取調べを行うに当たつて弁護人その他適当と認められる者を立ち会わせたときは、その供述調書に立会人の署名押印を求めなければならない。
181条(署名押印不能の場合の処置)
① 供述者が、供述調書に署名することができないときは警察官が代筆し、押印することができないときは指印させなければならない。
② 前項の規定により、警察官が代筆したときは、その警察官が代筆した理由を記載して署名押印しなければならない。
③ 供述者が供述調書に署名又は押印を拒否したときは、警察官がその旨を記載して署名押印しておかなければならない。
182条(通訳及び翻訳の場合の処置)
① 捜査上の必要により、学識経験者その他の通訳人を介して取調べを行つたときは、供述調書に、その旨及び通訳人を介して当該供述調書を読み聞かせた旨を記載するとともに、通訳人の署名押印を求めなければならない。
② 捜査上の必要により、学識経験者その他の翻訳人に被疑者その他の関係者が提出した書面その他の捜査資料たる書面を翻訳させたときは、その翻訳文を記載した書面に翻訳人の署名押印を求めなければならない。
182条の2(取調べ状況報告書等)
① 被疑者又は被告人を取調べ室又はこれに準ずる場所において取り調べたとき(当該取調べに係る事件が、第百九十八条の規定により送致しない事件と認められる場合を除く。)は、当該取調べを行つた日(当該日の翌日の午前零時以降まで継続して取調べを行つたときは、当該翌日の午前零時から当該取調べが終了するまでの時間を含む。次項において同じ。)ごとに、速やかに取調べ状況報告書(別記様式第十六号)を作成しなければならない。
② 前項の場合において、逮捕又は勾留(少年法(昭和二十三年法律第百六十八号)第四十三条第一項の規定による請求に基づく同法第十七条第一項の措置を含む。)により身柄を拘束されている被疑者又は被告人について、当該逮捕又は勾留の理由となつている犯罪事実以外の犯罪に係る被疑者供述調書を作成したときは、取調べ状況報告書に加え、当該取調べを行つた日ごとに、速やかに余罪関係報告書(別記様式第十七号)を作成しなければならない。
③ 取調べ状況報告書及び余罪関係報告書を作成した場合において、被疑者又は被告人がその記載内容を確認したときは、それを証するため当該取調べ状況報告書及び余罪関係報告書の確認欄に署名押印を求めるものとする。
④ 第百八十一条の規定は、前項の署名押印について準用する。この場合において、同条第三項中「その旨」とあるのは、「その旨及びその理由」と読み替えるものとする。
182条の3(取調べ等の録音・録画)
① 次の各号のいずれかに掲げる事件について、逮捕若しくは勾留されている被疑者の取調べを行うとき又は被疑者に対し弁解の機会を与えるときは、刑訴法第三百一条の二第四項各号のいずれかに該当する場合を除き、取調べ等の録音・録画(取調べ又は弁解の機会における被疑者の供述及びその状況を録音及び録画を同時に行う方法により記録媒体に記録することをいう。次項及び次条において同じ。)をしなければならない。
一 死刑又は無期の懲役若しくは禁錮に当たる罪に係る事件
二 短期一年以上の有期の懲役又は禁錮に当たる罪であつて故意の犯罪行為により被害者を死亡させたものに係る事件
② 逮捕又は勾留されている被疑者が精神に障害を有する場合であつて、その被疑者の取調べを行うとき又は被疑者に対し弁解の機会を与えるときは、必要に応じ、取調べ等の録音・録画をするよう努めなければならない。


182条の4(録音・録画状況報告書)
取調べ等の録音・録画をしたときは、速やかに録音・録画状況報告書(別記様式第十八号)を作成しなければならない。
182条の5(取調べ室の構造及び設備の基準)
取調べ室は、次に掲げる基準に適合するものとしなければならない。
一 扉を片側内開きとするなど被疑者の逃走及び自殺その他の事故の防止に適当な構造及び設備を有すること。
二 外部から取調べ室内が容易に望見されないような構造及び設備を有すること。
三 透視鏡を備え付けるなど取調べ状況の把握のための構造及び設備を有すること。
四 適当な換気、照明及び防音のための設備を設けるなど適切な環境で被疑者が取調べを受けることができる構造及び設備を有すること。
五 取調べ警察官、被疑者その他関係者の数及び必要な設備に応じた適当な広さであること。


11 関連記事その他
(1)ア 取調べ修習に関しては,「修習生って何だろう-司法試験に受かったら」(21世紀の司法修習を見つめる会)77頁ないし80頁の記載が参考になります。
イ 平成24年度初任行政研修「事務次官講話」「明日の行政を担う皆さんへ」と題する講演(平成24年5月15日実施)において,西川克行法務事務次官は以下の発言をしています(リンク先のPDF16頁)。
    (山中注:検察官の取調べに関して)分かっていただきたいのは、ごくごく普通の会話というのがほとんどの場合です。それで取調べが成立しているということで、それ以上のものではない。時には、嘘をついていると思ったら、その嘘を追及していますし、本当のことを言えという会話もあるわけですけれども、大体の場合は、普通に話をして普通に答えを聞いていけば、ある程度のことは話してくれるし、それから、その人の普段考えていて興味のある分野について、専門知識を提供してくれるというところはあるのかなと思っています。
(2)ア 検察修習における取調べの感想をブログに書いた結果,守秘義務違反としてマスコミ報道された事例については,「司法修習生の守秘義務違反が問題となった事例」を参照してください。
イ 前田恒彦 元検事によれば,捜査当局は捜査情報をマスコミにリークすることがあるみたいです。
① なぜ捜査当局は極秘の捜査情報をマスコミにリークするのか(1)
② なぜ捜査当局は極秘の捜査情報をマスコミにリークするのか(2)
③ なぜ捜査当局は極秘の捜査情報をマスコミにリークするのか(3)
(3) 最高検察庁HPに「録音・録画の実施状況」が載っています。
(4)ア 被疑者ノートは,逮捕・勾留された被疑者が取調べの状況を記録する書き込み式のノートでありますところ,日弁連HPの「被疑者ノート」から誰でもダウンロードできます。
イ 弁護士相談広場HP「逮捕後、警察の捜査官が作成する2つの書類。弁解録取書と身上調査書」が載っています。
ウ 弁護士・法務人材専門の総合転職エージェントNO-LIMIT「検察修習のリアルレポート・東京修習の場合|捜査実務修習・里親修習は何をする?」が載っています。
(5) 強制採尿令状の発付に違法があっても尿の鑑定書等の証拠能力が肯定されることはあります(最高裁令和4年4月28日判決)。
(6)ア 元検事が執筆した取調べに関する書籍としては,例えば以下のものがあります。
・ 自動車事故の供述調書作成の実務(2016年11月15日付)
・ 取調べハンドブック(2019年2月4日付)
イ 以下の資料を掲載しています。
・ 検察官調書作成要領
・ 検察修習の現状と展望
→ 司法研修所五十年史からの抜粋です。
ウ 以下の記事も参照してください。
・ 全国一斉検察起案
・ 検察終局処分起案の考え方
・ 第69期検察修習の日程
 各地の検察庁の執務規程
 司法修習等の日程(70期以降の分)

Pocket

スポンサーリンク