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司法修習生による取調べ修習の合法性(AIリライト)

この記事は,司法修習生が検察修習において被疑者や参考人を取り調べる「取調べ修習」の適法性が,どのように論じられてきたかを整理するものです。
違法とする見解と合法とする見解の双方の根拠,指導上の歯止めとされた相島六原則,昭和52年の国会答弁,及び司法修習生の取調べが問題となった裁判例を,公表された一次資料に基づいて示します。
取調べ修習は現在も行われていますが,その法的な位置づけを直接定めた明文の規定はなく,昭和22年の第1期司法修習の当初から議論の対象とされてきました。

第1 取調べ修習とは何か

1 検察修習における取調べ修習

司法修習のうち検察修習では,司法修習生が,指導検察官の指導の下で,被疑者や参考人に発問し,その供述を録取する取調べ修習を行うことがあります。
これは,将来法曹となる者に取調べの実際を経験させることを目的とする実務修習の一環です。

もっとも,取調べの主体を定めた刑事訴訟法198条1項は,取調べをすることができる者として検察官,検察事務官及び司法警察職員を挙げるにとどまり,司法修習生を掲げていません。
そのため,司法修習生が自らの名において取調べを行うことはできず,取調べ修習は,あくまで指導検察官による取調べを事実上補助する形で行われています。
この点は,後述する昭和52年の国会答弁でも同じ理解が示されています。

2 適法性が問題とされてきた経緯

取調べ修習の適法性は,昭和22年の第1期司法修習のころから問題とされてきました(『造反-司法研修所改革の誘因-』85頁)。

刑事弁護に長く取り組んだ五十嵐二葉弁護士は,その回顧録において,第18期の修習生の中に,法曹資格がないのに取調べをするのは違法であるとして取調べ修習の拒否運動を行った者がいたと回想しています。
同弁護士自身は,多くの検察官と修習生が同席する大部屋で取調べ修習を経験したと述べています。
これは当事者の回想であって当時の公文書ではありませんが,後述する違法説がプライバシー侵害を問題とする状況の一端がうかがわれます。

第2 取調べ修習を違法とする見解

司法修習生による取調べを違法とする見解は,主に次の3点を根拠とします。

① 取調べの主体を定めた刑事訴訟法198条1項は,司法修習生を主体として挙げていない。
そのため,司法修習生による取調べは,同法197条1項ただし書が定める強制処分法定主義に違反する。

② 憲法31条の法定手続の保障は,特に刑事手続において厳格に解釈・運用されるべきである。
司法修習生による取調べは法律上の明文の根拠を欠くから,同条に違反し違憲である。

③ 取調べは,被疑者に対して自己に不利益な供述までも求める点で,被疑者の人格の深いところに立ち入るものである。
修習を目的とする取調べは,被疑者を修習の道具として扱うものであり,個人の尊厳を趣旨とする憲法13条に違反する。

第3 取調べ修習を合法とする見解

これに対し,司法修習生による取調べを合法とする見解は,主に次の3点を根拠とします。

① 被疑者の同意がある以上,許される。

② 将来の法曹を養成するという公益目的のためには取調べ修習は不可欠であり,これを認める必要がある。
かつての医師のインターン制度と同様に位置づけられる。

③ 後述する相島六原則を守れば,人権侵害のおそれは小さい。

第4 相島六原則

相島六原則は,相島一之司法研修所長が,昭和38年度の司法修習生指導担当者協議会において述べた見解です(『造反-司法研修所改革の誘因-』87頁参照)。
その内容は次のとおりです。

① 指導検察官が,あらかじめ個々の事件ごとに,事案の概要,問題点,発問の要領等を説明指導すること。

② 被疑者又は参考人のいわゆる呼出しは,指導検察官の責任で,かつ,その名において行い,修習のみを目的とした捜査上不必要な呼出しをしないこと。

③ 指導検察官は,被疑者又は参考人に対し司法修習生の身分を説明し,検察官の取調べに先立って司法修習生が発問を行うことを告げ,その自由な意思に基づく承諾を得た場合に限って行うこと。

④ 指導検察官から被疑者に対し,あらかじめ供述拒否権の告知をすること。

⑤ 司法修習生が発問するに当たっては,指導検察官が同室し,十分な指導を行うこと。

⑥ 司法修習生が発問の結果作成した書面をそのまま検察官調書として流用することなく,指導検察官があらためて取調べを行い供述調書を作成すること。

第5 違法説からの再反論

違法説は,合法説の各根拠に対して次のように再反論します。

① 被疑者と検察官との力関係や,司法修習生に対する一般の理解からすれば,自由かつ真摯な同意とはいえない。
また,法定手続の保障は,同意によって放棄できるものではない。

② 公益目的であっても,個人の人格を踏みにじることは許されない。
医師のインターン制度と,取調べという公権力の行使とを同視することはできない。
なお,そのインターン制度自体,無給かつ過酷な実態が問題視され,昭和42年のインターン闘争を経て昭和43年に廃止された制度です。

③ 相島六原則を現実に守ることは難しく,これが守られたという例はほとんどないとされる。
拘束時間が長くなることも避けられず,大部屋で一斉に行わざるを得ないためプライバシーの侵害が著しい。

第6 取調べ修習に関する国会答弁

取調べ修習については,政府側の説明として国会答弁が残っています。
高輪1期(第1期)の司法修習生であった矢口洪一は,昭和52年3月15日の衆議院法務委員会(第80回国会・法務委員会第3号)において,稲葉委員の質問に対し次のように答弁しました。
その当時の肩書は最高裁判所事務次長であり,会議録では併任していた最高裁判所事務総局総務局長事務取扱の肩書で記録されています。

現在はいわゆる検事代理の制度はございません。取り調べ修習というのは行われておりますが,これは稲葉委員御承知と思いますが,相島六原則というのにのっとりまして,一人前の指導検事が取り調べをするのを,率直に申し上げれば,事実上補助するということでございまして,自分の名前において,自分の責任において取り調べをするというものではございません。ただ,先走るようでございますが,裁判所においては,戦前戦後を通じまして,合議の傍聴といったようなこと,それから判決起案といったようなことは,これは司法修習生につきましても同様にやっておるようでございます。

この答弁は,取調べ修習が指導検察官の取調べを事実上補助するものであって,司法修習生が自らの名と責任で取調べを行うものではないという理解を,政府として示したものです。

第7 司法修習生の取調べに関する裁判例

司法修習生の取調べが問題となった裁判例として,次の4件があります。
いずれも下級審の裁判例で,判例秘書に掲載されており,裁判所ウェブサイトには掲載されていません。

1 東京高裁昭和57年4月8日判決

被告人や参考人に直接発問してその供述を録取したのが司法修習生であったとしても,各供述調書は検察官が自ら被告人らを直接かつ実質的に取り調べて作成したものといえるから,その作成過程に違法はなく,公訴提起の手続も検察官がその固有の権限に基づき自らの判断と責任において行ったものであって無効ではない,と判示しました。

2 大阪高裁昭和59年10月16日判決

検察修習中に被告人からの事情聴取等を行った京都地裁配属の第37期司法修習生について,弁護人が弁論要旨の原稿作成等の弁護活動の一部を行わせたことは,望ましくはないが訴訟手続を違法にするものではない,と判示しました。

3 名古屋高裁平成15年8月13日判決

指導検察官が,岐阜地裁配属の第55期司法修習生による取調べの際に同室して指導監督を行わず,その取調べ結果を参考にして要点を被告人から確認した上で,司法修習生が作成したフロッピー内のデータを用いてパソコンで作成した供述調書について,証拠能力を認めました。

4 横浜地裁平成24年10月12日判決

迷惑防止条例違反についての無罪判決が確定した後に提起された国家賠償請求事件において,東京地裁配属の新第61期司法修習生による取調べの適法性も争われましたが,その取調べは適法なものであった,と判示しました。

第8 取調べの録音・録画と弁護人立会いをめぐる近時の状況

取調べ修習は指導検察官による取調べを前提とするものであるため,取調べそのものをめぐる制度の変化とも関わります。

平成28年の刑事訴訟法改正により,取調べの録音・録画(いわゆる可視化)が制度化されました。
刑事訴訟法301条の2は,裁判員裁判の対象事件(死刑又は無期拘禁刑に当たる罪の事件,及び短期1年以上の拘禁刑に当たる罪であって故意の犯罪行為により被害者を死亡させた事件)と,検察官が独自に捜査した事件について,逮捕又は勾留されている被疑者の取調べの録音・録画を原則として義務づけています(平成31年6月1日施行)。

他方,取調べへの弁護人の立会いは制度として認められておらず,その是非が議論されています。
日本弁護士連合会は,自由と正義2024年5月号で「取調べへの弁護人立会い」を特集しています。
また,最高検察庁は取調べの録音・録画の実施状況を公表しています。

第9 関連資料・関連記事

1 取調べ修習・検察修習に関する資料

2 取調べの録音・録画・立会いに関する資料

3 当ブログの関連記事

出典

1 法令

  • 刑事訴訟法197条,198条,301条の2(e-Gov法令検索の現行条文により確認)
  • 日本国憲法13条,31条(e-Gov法令検索の現行条文により確認)

2 裁判例

  • 最高裁判所第三小法廷平成8年10月29日決定(平成6年(あ)第611号,刑集第50巻9号683頁) 裁判所ウェブサイト
  • 最高裁判所第一小法廷令和4年4月28日判決(令和3年(あ)第711号,刑集第76巻4号380頁) 裁判所ウェブサイト
  • 東京高等裁判所昭和57年4月8日判決(判例秘書に掲載。裁判所ウェブサイト未掲載)
  • 大阪高等裁判所昭和59年10月16日判決(判例秘書に掲載。裁判所ウェブサイト未掲載)
  • 名古屋高等裁判所平成15年8月13日判決(判例秘書に掲載。裁判所ウェブサイト未掲載)
  • 横浜地方裁判所平成24年10月12日判決(判例秘書に掲載。裁判所ウェブサイト未掲載)

3 公文書・国会答弁

4 文献

  • 『造反-司法研修所改革の誘因-』(昭和45年6月10日発行)85頁,87頁
  • 21世紀の司法修習を見つめる会『修習生って何だろう-司法試験に受かったら』77頁から80頁
  • 五十嵐二葉『コドモノクニ・山道・フランス語-ある弁護士の軌跡』(日本評論社,2023年)第5章
  • 司法研修所五十年史(「検察修習の現状と展望」として抜粋を掲載)
  • 自由と正義2024年5月号「特集 取調べへの弁護人立会い」

5 ウェブ資料