本記事は,司法修習49期から53期までの検事任官について日本弁護士連合会が指摘した「女性枠」を,2001年の国会答弁,日弁連の調査,期別の任官者数及びその後の推移から整理するものである。
確認できるのは,日弁連が調査に基づいて「女性枠」が存在したと判断した一方,法務省は国会で枠の設定を明確に否定したことである。
したがって,「女性枠」が法務省の公的方針として存在したと確定したものとして扱うのではなく,日弁連の調査結果と法務省の説明を区別して読む必要がある。
第1 「女性枠」の意味と2000年から2001年までの経過
1 日弁連要望書がいう「女性枠」
日本弁護士連合会「森山法務大臣に対する検察官任命に関する要望書」は,「女性枠」を,女性の司法修習生から検事に任用する人数を原則として司法研修所の各クラス1人,例外的に2人に限る明示又は黙示の取決め,申合せ又は慣行という意味で用いている。
これは,同要望書における問題設定であり,法令上の制度名でも,法務省が存在を認めた採用区分でもない。
2 問題提起から日弁連要望書までの時系列
| 年月日 | 確認できる出来事 |
|---|---|
| 2000年10月4日 | 53期司法修習生有志が請願文書を提出した。 |
| 2001年1月 | 日弁連の特別調査チームが調査を開始した。 |
| 2001年3月22日 | 参議院法務委員会で検事任官の「女性枠」が取り上げられた。 |
| 2001年8月24日 | 日弁連理事会が要望書案を一部修正の上で承認した。 |
| 2001年9月11日 | 日弁連要望書の日付である。 |
2001年8月24日は日弁連内部の理事会承認日であり,9月11日は公表された要望書の日付であるから,両者を混同すべきではない。
第2 2001年3月22日の参議院法務委員会答弁
1 53期司法修習生有志の請願文書
第151回国会参議院法務委員会第3号の会議録によれば,但木敬一法務大臣官房長は,2000年10月4日に53期司法修習生有志から請願文書が提出されたと説明した。
同請願文書は,女性検事の職務適性に関する否定的な発言が検察内部にあると指摘していた。
但木官房長は,検察が長く男性中心の職場であったことは否めず,そのような意識を持つ検事が全くいないとはいえないと述べる一方,性別を問わず能力のある者が職務を担う時代になっているとの認識を示した。
2 委員による指摘と法務省の否定
(1) 49期以降のクラス別任官者数に基づく指摘
林紀子参議院議員は,同委員会で配付された資料を基に,49期以降は女性の検事任官者が1クラス1人,多くても2人であり,複数の女性司法修習生が教官から女性の採用はクラスで1人と告げられたと指摘した。
これは質問者による事実評価であり,法務省が認めた事実ではない。
(2) 法務省は枠を設定したことを否定したこと
これに対し,但木官房長は,性別を問わず適性のある者が検事になるべきであるとした上で,次のとおり答弁した。
「法務省としてそういう枠をつくったつもりは全くございません。」
さらに,教官の発言が問題になったため司法研修所の教官にも確認したが,そのような意識はないと思うと説明した。
この答弁は,「女性枠」が存在したとの日弁連の判断とは明確に異なるため,両者を併記する必要がある。
第3 日弁連の調査と法務大臣への要望
1 アンケート調査及び面接調査
(1) 対象者数,回答者数及び面接者数
日弁連は,「検察官任官における『女性枠』を考える53期修習生の会」(土井香苗代表)から要請を受け,特別調査チームを設けた。
アンケート調査は,司法研修所49期から53期までの弁護士全員2857人を対象とし,504人から回答を得たものであり,回答率は17.6%であった。
面接調査の対象者は33人であった。
(2) 日弁連が調査から導いた判断
49期から53期までの60クラスでは,女性任官者が0人のクラスが9,1人のクラスが33,2人のクラスが18であり,3人以上のクラスはなかった。
日弁連は,教官等から「女性枠」に関する情報を聞いたとの回答が具体的であり,任官を勧め,又は諦めさせたとする事例も確認されたとして,「女性枠」が存在し,法務省及び検察庁の政策又は方針によって行われていたと判断した。
もっとも,アンケートの回答率は17.6%であるため,この判断の根拠と調査規模を併せて示すことが重要である。
2 日弁連が要望した事項
日弁連は,森山眞弓法務大臣に対し,次の事項を速やかに確立して公表するよう求めた。
① 「女性枠」を撤廃し,女性を差別的に取り扱わない方針を明確にすること。
② 性差別のない公正な任命基準を設けること。
③ 任官希望者に公平な応募機会を保障する手続を設けること。
④ 不採用者から請求があった場合に本人へ理由を開示すること。
⑤ 女性司法修習生を積極的に検事へ任命する政策を立案し,実行すること。
第4 46期から59期までの検事任官者数
1 期別の任官者数及び女性任官者数
既存記事に掲載されていた46期から59期までの任官者数は,法務省が後年の各期資料で公表した重複する10期分の合計値と突合した結果,訂正を要しない。
| 司法修習期 | 任官者数 | 女性任官者数 | 女性割合 |
|---|---|---|---|
| 46期 | 75人 | 11人 | 14.7% |
| 47期 | 86人 | 16人 | 18.6% |
| 48期 | 71人 | 12人 | 16.9% |
| 49期 | 70人 | 16人 | 22.9% |
| 50期 | 73人 | 11人 | 15.1% |
| 51期 | 72人 | 16人 | 22.2% |
| 52期 | 69人 | 16人 | 23.2% |
| 53期 | 74人 | 10人 | 13.5% |
| 54期 | 76人 | 20人 | 26.3% |
| 55期 | 75人 | 22人 | 29.3% |
| 56期 | 75人 | 19人 | 25.3% |
| 57期 | 77人 | 19人 | 24.7% |
| 58期 | 96人 | 30人 | 31.3% |
| 59期 | 87人 | 26人 | 29.9% |
女性割合は,本記事が女性任官者数を任官者数で除して小数第2位を四捨五入したものである。
2 49期から53期までと54期から59期までの比較
49期から53期までの任官者は合計358人であり,女性は69人,女性割合は19.3%である。
これに対し,54期から59期までの任官者は合計486人であり,女性は136人,女性割合は28.0%である。
54期以降に女性任官者数及び割合が増えたことは確認できるが,この前後関係だけから,それ以前に枠が存在したこと又は日弁連の要望によって枠が撤廃されたことまで証明されるわけではない。
第5 書籍が伝える日弁連側と法務省側の説明
1 『司法の病巣』119頁のクラス別集計
産経新聞司法問題取材班『司法の病巣』(角川書店,2002年)119頁は,54期では76人中20人の女性が任官したことを紹介した上で,49期から53期までの60クラスについて,女性任官者が0人のクラスは9,1人は33,2人は18であり,3人のクラスはなかったと記載している。
この集計は日弁連側の問題提起を支える資料であるが,同書の説明は119頁だけで終わっていない。
2 同書120頁の法務省側の説明
同書120頁は,法務省人事課長が「女性枠」の存在を否定し,能力,意欲及び適性を修習期間を通じて判断していると説明したことも記載している。
また,54期では同じクラスから女性3人が検事になった例があったとする。
したがって,同書を引用する場合も,日弁連側の集計と法務省側の否定を一体として紹介するのが適切である。
日本女性法律家協会『日本女性法律家協会70周年のあゆみ―誕生から現在,そして未来へ―』(司法協会,2020年)24頁も,2000年の修習生の会による問題提起と2001年の日弁連要望書を,女性裁判官及び女性検察官の採用を求めた同協会の取組の沿革に位置付けている。
第6 その後の女性検事の任官状況と現在の課題
1 76期から78期までの任官実績
法務省が公表した直近3期の任官実績は,次のとおりである。
| 司法修習期 | 任官日 | 任官者数 | 女性任官者数 | 女性割合 |
|---|---|---|---|---|
| 76期 | 2023年12月14日 | 76人 | 31人 | 40.8% |
| 77期 | 2025年3月27日 | 82人 | 28人 | 34.1% |
| 78期 | 2026年3月26日 | 68人 | 33人 | 48.5% |
78期では,女性任官者は68人中33人であり,49期から53期までの各期の女性任官者数を上回っている。
もっとも,法務省の公表資料では78期のクラス別内訳を確認できないため,49期から53期までの60クラスと同じ尺度で比較することはできない。
2 検事全体の女性割合と継続就業
法務省が内閣府の会議に提出した2024年12月資料によれば,2024年3月31日現在,副検事を含まない検事は1994人であり,女性は559人,女性割合は28.0%である。
同資料は,2019年度から2023年度までの平均について,司法修習終了者に占める女性が約26%であるのに対し,検事任官者に占める女性は約41%であったとする。
同資料は,女性検事の積極的な登用に加え,継続就業のため,転勤時の両立環境に配慮するなどの具体的施策を進めるとしている。
検事任官後の基本的な異動形態(2020年11月の法務省開示文書)は,任官後の異動の基本形態と,初期の配置が原則として異なる高検管内にまたがることを示している。
検察官の男女共同参画の取組に関する国会答弁資料及び女性検察官の活躍を推進するための取組に関する国会答弁資料には,2022年10月28日の衆議院法務委員会に向けて作成された資料が収録されている。
検察官の男女共同参画の取組に関する国会答弁資料(令和4年10月28日付の衆議院法務委員会)を添付しています。 pic.twitter.com/jjzSPmbdXr
— 弁護士 山中理司 (@yamanaka_osaka) March 6, 2023
女性検察官の活躍を推進するための取組に関する国会答弁資料(令和4年10月28日付の衆議院法務委員会)を添付しています。 pic.twitter.com/Vhyj41Re4x
— 弁護士 山中理司 (@yamanaka_osaka) March 6, 2023
検事任官後の基本的な異動形態(令和2年11月の法務省の開示文書)を添付しています。 pic.twitter.com/oQr90m38pA
— 弁護士 山中理司 (@yamanaka_osaka) November 28, 2020
第7 直接関連するブログ内の記事
昭和51年の30期前期修習で発生した女性司法修習生に対する差別発言問題は,司法研修所における女性司法修習生をめぐる別の歴史資料を扱っている。
現行60期以降の検事任官者に関する法務省のプレスリリースは,各期の法務省公表資料を確認するための一覧である。
第8 出典
1 公文書・歴史資料
① 国会会議録検索システム「第151回国会参議院法務委員会第3号」(2001年3月22日)。
② 日本弁護士連合会「森山法務大臣に対する検察官任命に関する要望書」(2001年9月11日)。
③ 日本弁護士連合会『平成13年度会務報告書』26頁~27頁及び293頁~294頁。
2 統計・データ
① 法務省「検事の採用実績」。
② 法務省「第76期検事任官者について」,同「第77期検事任官者について」及び同「第78期検事任官者について」。
③ 法務省「司法分野における女性の参画拡大に係る取組状況」(2024年12月,PDF2頁~3頁)。
④ 内閣府男女共同参画局「第2節 司法分野」(令和7年版男女共同参画白書)。
3 文献
① 産経新聞司法問題取材班『司法の病巣』(角川書店,2002年)119頁~120頁。
② 日本女性法律家協会『日本女性法律家協会70周年のあゆみ―誕生から現在,そして未来へ―』(司法協会,2020年)24頁,193頁~195頁及び203頁~205頁。