第1 記事の対象と結論
1 令和8年9月20日現在のアカウント資料等による整理
本記事は,令和8年9月20日現在の民事訴訟法,民事訴訟規則,裁判所の調達資料,GビズIDの公式資料並びに最高裁判所提供「はじめてTreeeSを利用する方へ(改訂版)」及び「TreeeSのアカウント概要資料(士業者用)」(ver.1.2,令和8年7月28日改訂)を基礎に,TreeeSで法律事務所の事務職員が行える操作を整理するものである。
これらの資料では,GビズID連携の有無と事件上の肩書ごとの操作範囲を確認できる。ただし,導入前の画面・権限を説明する資料であり,本番稼働後の実装を観察したものではない。
その後,令和8年9月19日に,最高裁判所がTreeeSの研修環境で配布している「TreeeS操作マニュアル 当事者用」(2026年7月2日発行)を確認した。
同マニュアルで確認できた事項は,後記第3の4,第4の3及び第5の3に書き加えた。
同マニュアルの全体の読み方は「TreeeS操作マニュアル(当事者用)の読み方―提出の入口,30日で消える一覧,手数料の納付及び送達の確認」で説明している。
2 三つは同じ種類の区分ではない
結論として,GビズIDメンバー,サポーター及びシステム送達受取人は,同列の三択ではない。
GビズIDメンバーは,GビズIDプライムを保有する組織の職員について作成する組織・認証上のアカウント区分であるのに対し,サポーター及びシステム送達受取人は,TreeeS上の事件への関与方法又は役割を示す区分である。
したがって,事務職員の登録方法を決めるときは,①どのアカウントで本人確認及びログインを行うか,②どの事件に関連付けるか,③提出,事件記録の常時閲覧及びシステム送達の受領のうち何を担当させるかを分けて検討する必要がある。
アカウントの種類だけを決めても,事件単位の権限設計が終わったことにはならない。
第2 できることの比較
1 比較表
| 区分 | GビズIDメンバーをTreeeSと連携する場合 | サポーター | システム送達受取人 | サポーター兼システム送達受取人 |
|---|---|---|---|---|
| 制度上の位置付け | 組織の職員向けの認証アカウント | 事件単位の提出補助の役割 | 事件単位の送達受領の役割 | 二つの事件上の役割を兼ねる区分 |
| 書面のオンライン提出 | 最高裁判所のアカウント概要資料では可能 | 可能 | その役割だけでは不可 | 可能 |
| 事件記録の常時閲覧 | 最高裁判所のアカウント概要資料では可能 | 不可 | 不可 | 不可 |
| システム送達の受領 | 最高裁判所のアカウント概要資料では可能 | サポーターであるだけでは受取人にならない | 可能 | 可能 |
| 確認上の留意点 | 最終的な裁判所公式権限表の確認が必要 | 送達も担当させる場合は別の指定が必要 | 送達対象文書の閲覧と事件記録の常時閲覧は別である | 常時閲覧が必要なら別の構成を検討する |
上表のうち,GビズIDと連携した事務職員が弁護士に代わって提出,事件記録の閲覧及びシステム送達の受領を行えるとの部分並びにサポーター兼システム送達受取人の操作範囲は,最高裁判所提供「はじめてTreeeSを利用する方へ(改訂版)」及び「TreeeSのアカウント概要資料(士業者用)」(ver.1.2,令和8年7月28日改訂)で確認した。
ただし,これらは導入前の仕様説明であるため,導入時には裁判所の最新の公式権限表及び実際の登録画面で再確認する必要がある。
2 調達資料の表を読む際の注意
最高裁判所の令和7年7月2日付調達資料62頁は,外部ユーザを当事者・代理人,サポーター,送達受取人及び第三者に分け,サポーターの例として司法書士及び法律事務所事務員等を挙げている。
同頁の注記は,サポーターにはオンライン提出が必要である一方,事件記録を閲覧できず,サポーターであることから直ちに受送達者となるものではないとしている。
同資料はシステム対応の観点から作られた調達資料であり,最終的な運用マニュアルではない。
特に,表中の技術的な利用可能性と,事件上の役割として当然に付与される権限を混同しないことが重要である。
第3 GビズIDメンバー
GビズIDメンバーは,GビズIDプライム利用者が所属職員へ権限を付与して作成する個人単位のアカウントである。最高裁判所提供資料上,TreeeSで弁護士に代わって提出・記録閲覧等を行える設計が示されるが,訴訟代理権そのものではない。
職員ごとのアカウント,サービス権限,メールアドレス,有効期限及び担当終了時の棚卸しは,TreeeSでGビズIDメンバーを使う方法を参照されたい。
第4 サポーター
サポーターは,本人又は代理人のために個別事件で提出操作を補助する役割である。サポーターであるだけでは,システム送達受取人にならず,訴訟記録一覧から常時記録を閲覧できるとも説明されていない。
事件単位の登録,提出権限,本人の依頼・承諾書面及び担当終了時の解除は,TreeeSのサポーターとはを参照されたい。
第5 システム送達受取人
1 システム送達を受けるための役割である
民事訴訟法109条の2第2項は,システム送達を受ける旨の届出をする場合に,送達受取人を届け出ることができるとしている。
民事訴訟規則45条の3は,その届出に関する方式を定め,送達受取人を届け出る場合には当該受取人の識別符号を届け出ることとしている。
システム送達受取人が閲覧する対象は,まず送達の対象となる電磁的記録である。
この役割があることだけで,事件記録全体の常時閲覧又は書面提出の権限まで当然に付与されるわけではない。
2 送達の効力発生時期を管理する
民事訴訟法109条の3第1項によれば,システム送達は,①送達対象の表示を閲覧した時,②送達対象をファイルに記録した時,③通知が発せられた日から1週間を経過した時のうち,最も早い時に効力を生ずる。
ただし,責めに帰することができない事由によって閲覧又は記録ができない期間は,1週間の期間に算入されない。
弁護士等の訴訟代理人がシステム送達を受ける旨の届出をしていない場合でもシステム送達をすることができ,その場合は通知を要せず,1週間の期間は措置がとられた日から起算される(民事訴訟法109条の4)。
送達受取人を事務職員にする場合,通知用メールだけでなく,TreeeSへのログイン可否,認証端末の故障,休暇中の代替確認及び受領後の弁護士への報告までを一つの期限管理手順にする必要がある。
単にメールを弁護士へ転送するだけの運用では,送達の効力発生時点と事務所内での把握時点がずれる危険がある。
3 送達受取人の届出と受信一覧の表示期間
当事者用操作マニュアルによれば,システム送達受取人を届け出るときは,送達関係情報届出欄の[送達受取人の届出]にチェックを入れ,[当事者等識別符号]に送達受取人のログインIDを入力する(資料上42頁・120頁)。
受信一覧に表示されたシステム送達・システム直送のファイルは,受信日から30日を経過すると表示されなくなる(資料上14頁)。
送達受取人を事務職員にする場合は,受信したファイルを30日以内に事務所の事件記録へ保存することも,期限管理の手順に入れておく必要がある。
システム送達の効力は,閲覧時,端末への記録時又は通知発信日から1週間経過時のうち最も早い時に生じる。受信一覧,最初に閲覧した職員及び期限管理は,TreeeSのシステム送達と期限管理を参照されたい。
第6 サポーター兼システム送達受取人
1 提出と送達受領を兼ねるが,常時閲覧とは別である
最高裁判所提供「TreeeSのアカウント概要資料(士業者用)」によれば,サポーター兼システム送達受取人は,書面の提出及びシステム送達の受領を行える一方,事件記録を常時閲覧することはできないとされる。
したがって,提出と送達受領を一人の事務職員に集約したい場合には候補となるが,過去の記録を随時確認しながら作業する必要がある場合には制約が残る。
役割を兼ねる場合でも,提出担当と送達担当のチェックリストを一つに混ぜない方がよい。
提出は送信前承認と受付結果,送達は通知受信時刻と効力発生時期というように,管理すべき証拠及び期限が異なるからである。
第7 登録前に決めること
1 後からGビズID利用へ切り替えられないとの改修方針がある
最高裁判所の令和8年4月3日付調達仕様書35頁は,法人又は士業者のユーザ登録画面について,GビズIDを使わずにTreeeSのユーザIDを取得した後は,GビズIDを利用する方法へ切り替えられない旨の注意文言を表示する改修方針を掲げている。
これは調達上の改修方針であり,本番環境で当該仕様が実装済みであることまでを証明するものではないが,正式案内を確認せずに暫定的な登録を先行させるべきでないことを示している。
2 二つの台帳を分けて管理する
事務所単位のアカウント台帳には,①プライム及びメンバーの利用者,②管理者,③利用可能サービス,④認証端末,⑤有効期限,⑥退職・異動時の停止手順を記録することが考えられる。
事件単位の権限台帳には,①事件番号,②事務職員の役割,③提出権限,④事件記録の常時閲覧権限,⑤送達受領権限,⑥通知先,⑦代替担当者を記録することが考えられる。
アカウント台帳と事件単位の権限台帳は,更新の契機が異なる。
前者は入退所,端末変更及び有効期限で更新し,後者は受任,事件への関連付け,担当変更及び終結で更新するのが分かりやすい。
第8 先行導入と再確認事項
1 名古屋での先行導入予定
愛知県弁護士会の令和8年5月15日付公開案内は,令和9年1月から,名古屋高等裁判所本庁並びに名古屋地方裁判所及び簡易裁判所の管内で,支部を含めてTreeeSを先行導入するとしている。
同案内は裁判所の利用者向け最終マニュアルではないため,対象事件,開始日及び経過措置は,導入前の裁判所公式案内で確認する必要がある。
2 導入時に再確認する事項
導入時には,①GビズIDメンバーをTreeeSで利用できる条件,②弁護士とメンバーの事件関連付け,③各役割の提出・閲覧・送達権限,④役割の追加及び解除手順,⑤退職者の権限停止,⑥送達通知の宛先及び代替受領,⑦登録後のGビズID連携変更の可否を確認する必要がある。
調達資料と本番画面が異なる場合は,本番稼働時の裁判所公式マニュアル及びサポート案内を優先すべきである。
利用を始める際は,研修環境と本番利用を区別し,登録前に利用するアカウントと案内の版を確認する。公式入口,認証画面のブックマークの注意及び登録前の確認は,TreeeSのログインと研修環境を参照されたい。
第9 関連記事
TreeeSの全体像及びmintsとの違いは,TreeeS(ツリーズ)とは―mintsとの違い,導入時期,アカウント及び法律事務所の準備(AI作成)で説明している。
GビズIDの種類及び取得前の注意は,TreeeS(ツリーズ)とは―mintsとの違い,導入時期,アカウント及び法律事務所の準備(AI作成)の第6で説明している。
事件台帳及び移行準備は,TreeeS(ツリーズ)とは―mintsとの違い,導入時期,アカウント及び法律事務所の準備(AI作成)の第8を参照されたい。
裁判所システムの沿革は,最高裁判所が開発しているmints,RoootS及びTreeeSで説明している。
mintsの全体像と論点別の入口は,mints(ミンツ)とは―料金・対象事件・登録・ログイン・提出・送達の実務Q&A(AI作成)にまとめている。
TreeeSの当事者用操作マニュアルの読み方は,TreeeS操作マニュアル(当事者用)の読み方―提出の入口,30日で消える一覧,手数料の納付及び送達の確認(AI作成)で説明している。
第10 出典
1 法令及び裁判所規則
e-Gov法令検索「民事訴訟法」109条の2から109条の4までを確認した。
裁判所「民事訴訟規則」45条の2及び45条の3を確認した。
2 裁判所の制度・調達資料
最高裁判所令和7年7月2日付調達資料62頁のアクタ一覧表及び注記を確認した。
最高裁判所令和8年4月3日付調達仕様書35頁の法人・士業者ユーザ登録画面に関する改修方針を確認した。
最高裁判所「民事裁判手続のデジタル化に関する規則案の概要・補足説明」21頁のシステム送達受取人及び送達対象文書の閲覧に関する説明を確認した。
裁判所「改正民訴法等に関する参考資料」で,現行の届出書式及び公開資料の更新状況を確認した。
最高裁判所「TreeeS操作マニュアル 当事者用」(2026年7月2日発行,TreeeS研修環境のトップ画面のヘッダー「マニュアル」から取得)資料上14頁・41頁~42頁・51頁・120頁・128頁・131頁を令和8年9月19日に確認した。
裁判所「民事訴訟規則」45条の4及び52条の11を令和8年9月19日に確認した。
最高裁判所提供「はじめてTreeeSを利用する方へ(改訂版)」,「TreeeSのアカウント概要資料(士業者用)」(ver.1.2,令和8年7月28日改訂)及び「GビズID取得のすゝめ」(日弁連会員専用サイト「新システム『TreeeS』に関する情報について」掲載,令和8年9月20日確認)。
3 GビズIDの公式資料
デジタル庁GビズID「申請アカウントの選択」及びGビズID利用規約で,メンバーの位置付け,管理義務,共用禁止及び有効期間を確認した。
GビズIDクイックマニュアルGビズIDメンバー編令和8年7月版1頁,3頁及び10頁~11頁で,アカウント体系,作成主体及び利用可能サービスの設定手順を確認した。
4 職能団体及び一般公開の解説
愛知県弁護士会「裁判所によるTreeeS(ツリーズ)の説明会」令和8年5月15日付で,名古屋における先行導入予定を確認した。
法会労メルマガ第662号で,各役割の操作範囲及びGビズID連携に関する一般公開の説明を確認したが,裁判所の公式マニュアルではないため,確定した最終仕様と断定する根拠には用いていない。