第1 事件の概要
1 判決の概要
仙台地裁令和6年12月13日判決(令和6年(わ)第56号)は,赤色信号の交差点に時速約96ないし100キロメートルで進入して死亡事故を起こした運転者について,赤色信号を殊更に無視したと認め,危険運転致死罪の成立を認めた。
同じ判決では,故意に自動車事故を作出して保険金等をだまし取った詐欺も認定され,被告人は両事件について懲役12年に処せられた。
審理したのは仙台地方裁判所第2刑事部であり,裁判長は54期の須田雄一裁判官である。
2 危険運転致死の事故
令和5年4月24日午前4時33分頃,仙台市内の信号機により交通整理の行われている交差点で,被告人が運転する普通乗用自動車が,信号に従って左方道路から進行してきた軽四の普通乗用自動車の右側部に衝突し,その運転者(当時61歳)が外傷性心破裂により死亡した。
被告人が自動車を運転し,対面信号機が赤色を表示していたのに時速96ないし100キロメートルで進行したことにより衝突し,被害者を死亡させたことには,当事者間に争いがなかった。
争点は,被告人が赤色信号を殊更に無視したか否かであった。
3 適用される条文
事故当時の自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律2条7号は,危険運転致死傷の対象となる行為として,「赤色信号又はこれに相当する信号を殊更に無視し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為」を定め,人を死亡させた者は1年以上の有期懲役に処するとしていた。
同じ内容の行為は,令和8年法律第52号による改正(令和8年7月21日施行)後の同法では2条10号に規定されており,刑は,令和7年6月1日から懲役に代わって拘禁刑となっている。
第2 赤色信号の認識と運転経過
1 被告人の供述と弁護人の主張
被告人は,事故現場の交差点の2つ前の交差点を通過する前に対面信号機が黄色であることに気付いたが,安全に止まれないと思って赤色信号で通過したところ,同乗者の発言などから交差道路にパトカーが停車していたことに気付き,追跡されるのではないかとパニックになり,後方を振り返って確認するなどしていたため,事故現場の交差点の赤色信号に直前まで気付かなかったと供述した。
弁護人も,この供述に基づき,被告人は赤色信号を殊更に無視したのではないと主張した。
2 前方を見て運転していたとの推認
判決は,被告人が2つ前の交差点を時速約86キロメートルで通過しつつ加速し,次の交差点にかけてカーブした道路でウィンカーを出して前方の車両を追い越し,元の車線に戻った上,時速約96ないし100キロメートルの高速度で事故現場の交差点に至った運転状況から,被告人は基本的に前方を見て運転していたと推認した。
その上で,手前の交差点から事故現場の交差点までの道路が一直線で見通しが良く,薄暗い時間帯で信号の灯火が見えやすかったことを踏まえ,被告人は遅くとも手前の交差点付近で事故現場の交差点の対面信号機が赤色であることを認識していたと認めた。
3 赤色信号に従う意思がなかったとの認定
判決は,被告人が手前の交差点から事故現場の交差点までの約5秒間,減速することなく高速度で進行したことから,赤色信号に従う意思がなかったと推認した。
さらに,被告人は2つ前の交差点でも,対面信号機が黄色であることを相当程度前で認識していたのにブレーキを掛けず,赤色に変わってから約3秒後に進入しており,判決は,この事情も赤色信号に従う意思がなかったことと整合し,推認を補強するとした。
4 供述の信用性
判決は,2つ前の交差点を通過した後の運転状況からすると,パニック状態で後方を振り返るなどしていたため赤色信号に気付かなかったというのは不自然であるとした。
また,パトカーが近づいてくる様子が全くない中で運転者が後方を直接目視しながら進行したということ自体が不自然であり,同乗者2名を含む3名全員が見通しのよい場所にある赤色信号に衝突直前まで気付かなかったというのもかなり不自然であるとして,被告人の公判供述を信用できないとした。
その結果,被告人は赤色信号を殊更に無視したと認められた。
第3 危険運転致死と詐欺を併せた量刑
1 詐欺の内容
同じ判決では,被告人が共犯者らと共謀の上,令和2年9月13日に故意に自動車事故を作出し,偶然の事故であるかのように装って保険会社等に保険金等を請求し,合計約665万円をだまし取った詐欺も認定された。
判決は,被告人が事故を作出するために自動車を運転する役目を担うなど重要な役割を果たしたとした。
2 量刑の理由
判決は,危険運転致死を量刑の中心とし,制限速度を大幅に超えた高速度で赤色信号を無視して交差点に進入した犯行態様は事故を発生させる危険が極めて高いとした。
また,被害者が自ら防ぐことのできない事故によって命を奪われた結果は重く,遺族に対する慰謝の措置が全くされていないこと,違反者講習を受けた経験を活かさず,警察官の追跡から逃れたいという身勝手な動機で犯行に及んだことから交通法規を軽視する姿勢は明らかであることを指摘した。
その上で,危険運転致死の犯情は同種事案(信号殊更無視,処断罪と同一又は同種の罪1件)の中でも重い部類に属するとした。
被告人が詐欺を認めて反省の気持ちを示していること,遺族に謝罪の言葉を述べていること,前科がないことなどの一般情状を考慮しても,懲役12年に処するのが相当であるとし,未決勾留日数中200日をその刑に算入した。
求刑は懲役15年であった。
第4 出典
裁判所HPの裁判例検索「仙台地方裁判所 令和6年12月13日判決(令和6年(わ)第56号)」
同判決の全文(PDF)(争点と判断は4頁~6頁,主文は1頁,量刑の理由は6頁~7頁)
e-Gov法令検索「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」
須田雄一裁判官(54期)の経歴