第1 この記事の対象と結論
本記事は,令和7年司法試験の論文式試験のうち,選択科目の労働法第2問を対象として,法務省が公表した「出題の趣旨」及び「採点実感」から答案の評価項目を抽出し,5段階で重み付けをした上で,それらの評価項目を満たす模範解答を示すものである。
評価項目と重みは公式資料から本記事が独自に抽出・付与したものであり,法務省の採点基準や配点ではない。
法令と判例は,試験の実施日(令和7年7月16日)当時のものを基準としている。
本問は,冬季一時金をめぐるストライキに関連して,①ストライキを指揮した組合委員長に対する戒告処分,②現場監督者による組合批判の発言,③ストライキ当日に深夜まで勤務した従業員への「弁当代」の支給について,労働組合が労働委員会に救済を申し立てる場合の主張・求める救済と,労働委員会が発する命令を論じさせるものである。
公式資料から抽出できた評価項目は33項目である。
重み5(答案の骨格又は採点実感が評価の分かれ目とした事項)に当たるのは,ピケッティングの状況の分析・評価,「使用者の意を体して」の意味の理解(使用者の反組合的態度が前提となること),弁当代の支給についての不利益取扱いと支配介入の両面からの検討,及び組合員への金銭の支払まで命じ得るかという救済命令の限界の4項目である。
模範解答の結論は,①の戒告処分は不利益取扱い(労働組合法7条1号)及び支配介入(同条3号)に当たり,②の発言はY社に帰責される支配介入に当たり,③の弁当代の支給は支配介入には当たるが不利益取扱いには当たらず,組合員への支払命令は救済命令の限界を超える,というものである。
③の不利益取扱いの成否と支払命令の可否は,労働委員会の命令例でも結論が分かれており,第5の3で別の結論の命令例も紹介する。
第5の模範解答は,論文式答案で広く使われてきた型(問題提起,規範の定立,当てはめ及び結論の順に書く型)で示し,その後に出題の趣旨・採点実感を踏まえた解説を付けている。
公式資料が挙げる裁判例のうち1件(東京地裁昭和41年2月26日決定)は,裁判所ウェブサイトに掲載がなく,本記事では判示を確認できていない。
第2 評価項目の示し方と重み付けの基準
1 評価項目の示し方
評価項目は,本問の出題の趣旨(労働法第2問の部分)又は採点実感(労働法の総論及び第2問の部分)の記述から抜き出したものに限り,一つの項目に一つの判定対象だけを入れ,答案に何が書かれていれば満たすのかが分かる形に言い換えた。
各項目には,出題の趣旨と採点実感のどこに根拠があるかを,法務省が公表したPDFの頁と見出しで示した。
採点実感の「3⑵」は「3 採点実感等」の「⑵ 第2問について」を指し,その中の①②③は設問の①②③に関する段落を指す。
一方の資料に記載がない場合は,関連する範囲を読んだ上で「記載なし」と表示し,一般的な記述から導いたものは「間接」と表示した。
公式資料の文章は,評価の強さを示す短い語句を除いて引用せず,根拠となる記述の趣旨を要約して示している。
「〜しない」の形の項目は,採点実感が典型的な誤りとして指摘した事項である。
結論が分かれ得る論点は,結論ではなく検討の有無を項目にした。
2 5段階の重み付けの基準
重みは,公式資料の書きぶりの強さから本記事が付けたものであり,法務省の配点ではない。
①重み5:採点実感が「評価に差がつく」「評価に大きな差がつく」「評価の差につながっている」「ごく少数にとどまった」等と述べた事項,又は答案の骨格そのもの
②重み4:出題の趣旨が検討を求め,採点実感も取り上げた(できていた答案・できていなかった答案を指摘した)事項
③重み3:どちらか一方が明示する中核の理由付け
④重み2:一方が軽い表現で触れる補強の事項,又は典型的な誤りとして指摘された事項
⑤重み1:一方が控えめに触れるだけの事項
第3 本問の概要
菓子・米飯・総菜を製造販売するY社(従業員約400名)には,組合員80名のX組合がある。
X組合は,冬季一時金として基本給の1.25か月分を要求し,Y社の回答が1か月分に満たなければストライキを行うことを組合総会で決めていた。
令和6年11月13日の第1回団体交渉で,Y社は0.5か月分を提示し,「1か月分ですら」無理と回答した。
X組合は,11月14日正午頃に,翌15日午前0時からの24時間ストライキを通告した。
X組合とY社の間には,ストライキの開始時刻の24時間前に通告する旨の協定があった。
ストライキ当日,X組合は午前4時から9時まで工場の正面出入口付近に小型乗用車1台を置いて非組合員に協力を説得したが,入構は妨げず,工場には側面の出入口もあった。
Y社は通常の3分の2程度の人員で操業したが,業務は長時間に及んだ。
総菜ラインの現場監督者A(係長。使用者の利益代表者とされず,組合員資格があるが,非組合員)は,11月18日に担当ラインの従業員約40名を集め,ストライキを非難し,「卑怯なX組合に加入している者がいること自体、信じられない」等と述べた。
11月25日の第2回団体交渉で,X組合は,社内で批判の声が高まったことから,0.56か月分で協約を締結した。
Y社は,12月15日の始業時の点呼で,ストライキ当日に深夜まで勤務した75名に「社長からの感謝の気持ちです。」と言って一律2000円の「弁当代」を手渡し,12月20日には委員長Cを就業規則の「会社の風紀秩序を乱したとき」に当たるとして戒告処分にした。
設問は,X組合が①戒告処分,②Aの意見表明,③弁当代の支給について労働委員会に救済を申し立てる場合に,いかなる主張に基づきどのような救済を求めるべきか,労働委員会はどのような命令を発すると考えられるかを問う。
X組合が労働組合法5条1項の要件を満たすことは,設問の前提とされている。
第4 評価項目と重み
1 ①Cに対する戒告処分
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | ①について,不利益取扱い(労働組合法7条1号)及び支配介入(同条3号)を根拠に挙げ,不利益取扱いは7条1号の要件に即して論じる | 4 | 34頁(成立し得るのは1号と3号) | 31頁(3⑵①。7条1号の要件に即して論じる必要) |
| 2 | 争点を「労働組合の正当な行為」としての本件ストライキの正当性(手続と態様)に置き,7条1号と関連付けて設定する | 4 | 34頁(争点はストライキの正当性で,手続と態様の二つの観点) | 31頁(3⑵①。7条1号と関連付けずに争点を設定する答案) |
| 3 | ストライキの正当性を懲戒権の濫用(労働契約法15条)の観点から導かない | 2 | 記載なし | 31頁(3⑵①。散見された) |
| 4 | 戒告が不利益な取扱いであり,組合活動を理由とする(「故をもって」)ことは明らかとして簡潔に処理する | 2 | 34頁(「故をもって」は明らか) | 記載なし |
| 5 | ストライキの主体・目的(一時金要求が義務的団交事項か)に多くの紙幅を割かない | 2 | 記載なし | 31頁(3⑵①。主要な争点でないのに紙幅を割き過ぎ) |
| 6 | 協定に違反して約12時間前に通告した事実を,時間関係を正しく読んで指摘する | 4 | 34頁(協定に違反して12時間前倒しで予告) | 31頁(3⑵①。時間関係の誤読は一部,多くは正しく指摘) |
| 7 | 予告協定に違反したストライキの正当性について,協定の目的,使用者の予測可能性,違反の具体的影響等を組み込んだ判断枠組みを示す | 4 | 34〜35頁(裁判例を挙げ,これらの事情の検討を求める) | 31頁(3⑵①。判断枠組みを示す答案は比較的多かった) |
| 8 | 上記の要素に当たる問題文の事実(第1回団体交渉の回答,組合総会の決定,3分の2程度の人員での操業等)を挙げて評価する | 4 | 35頁(問題文に即して検討) | 31頁(3⑵①。事実を挙げながら検討) |
| 9 | 予告に関する裁判例(抜き打ちの指名ストの正当性を認めた例,予告時刻を前倒ししたストの正当性を否定した例)を踏まえる | 2 | 34頁(括弧書きで2件を参照) | 31頁(3⑵①。同じ2件を参照) |
| 10 | ピケッティングについて,ストライキの本質と説得活動の限界(御國ハイヤー事件)に基づく判断枠組みを示す | 4 | 35頁(御國ハイヤー事件) | 31頁(3⑵①。多くの答案が示せた) |
| 11 | 本件ピケッティングの状況(小型乗用車1台,午前4時から9時,入構を妨げない,側面の出入口,運搬業者の迂回,構外のデモ・集会)を,羅列でなく分析・評価して当てはめる | 5 | 35頁(状況を丁寧に検討) | 31頁(3⑵①。事実の分析・評価の程度で評価に差) |
| 12 | ①の支配介入(7条3号)該当性を,根拠に挙げるだけでなく判断枠組みを示して論じる(正当なストライキを理由とする委員長の懲戒は組合を弱体化させる) | 4 | 35頁(不利益取扱いが成立すれば支配介入も成立) | 31頁(3⑵①。論じていない答案が少なくなかった) |
| 13 | 労働組合法が支配介入を禁止する理由から説き起こして,①の支配介入該当性を論じる | 3 | 記載なし | 31頁(3⑵①。期待したが少数) |
| 14 | ①では1号が成立すれば3号も成立するという関係を踏まえ,1号を中心に検討する | 2 | 34頁(不利益取扱いの成否を中心に検討) | 記載なし |
| 15 | 求める救済として,戒告処分の撤回命令及びポストノーティス命令を示す | 4 | 35頁(是正措置の検討) | 30頁(3⑵①。撤回命令及びポストノーティス命令) |
| 16 | 「懲戒処分の無効命令」「無効確認命令」等,民事訴訟と混同した救済を求めない | 2 | 記載なし | 31頁(3⑵①。散見された) |
2 ②Aによる意見表明
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 17 | Aの発言が本件ストライキ及びX組合への非難並びに脱退勧奨を含み,支配介入(7条3号)に当たり得ることを示す | 4 | 35頁(②の段落) | 31頁(3⑵②。非難及び脱退勧奨) |
| 18 | 中心の争点を,Aの行為を「使用者」(7条柱書)の行為として帰責できるかに置く | 4 | 35頁(個人的な行為か使用者の行為か) | 31頁(3⑵②。中心的な争点) |
| 19 | A自身が「使用者」に当たるかの問題として設定しない | 2 | 記載なし | 31頁(3⑵②。一部見られた) |
| 20 | JR東海事件の規範(利益代表者に近接する職制上の地位にある者が使用者の意を体して支配介入を行えば,具体的な意思の連絡がなくても使用者の不当労働行為となる)を示す | 4 | 35頁(JR東海事件) | 31頁(3⑵②。多くの答案が示せた) |
| 21 | Aが利益代表者に近接する職制上の地位にあることを,会社組織上の立場から当てはめる | 3 | 35頁(Aの会社組織上の立場) | 記載なし |
| 22 | 「使用者の意を体して」を,使用者に反組合的意図ないし組合嫌悪をうかがわせる行為があることを前提とする意味で理解し,X組合に対するY社の態度を検討して当てはめる(Aが使用者のように振る舞ったことだけで帰責しない) | 5 | 35頁(X組合に対するYの態度等の検討) | 31〜32頁(3⑵②。理解して適用できた答案は少数で,評価に大きな差) |
| 23 | 発言の内容と,発言した際の状況を検討する | 3 | 35頁(発言内容,発言した際の状況) | 記載なし |
3 ③本件弁当代の支給
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 24 | ③について,不利益取扱い(7条1号)及び支配介入(同条3号)に当たると主張する | 4 | 35頁(③の段落) | 32頁(3⑵③) |
| 25 | 求める救済として,組合員に対する支払命令及びポストノーティス命令を示す | 3 | 記載なし | 32頁(3⑵③) |
| 26 | 「弁当代返還命令」「弁当代支給差止命令」等,実現可能性に乏しい救済や民事訴訟と混同した救済を求めない | 2 | 記載なし | 32頁(3⑵③。かなり目についた) |
| 27 | 支配介入を中心に検討し,支配介入と評価されれば不利益取扱いの意思(「故をもって」)も満たすという関係を示す(1号を中心とする構成も可) | 2 | 35頁(支配介入を中心に検討することが考えられる) | 記載なし |
| 28 | 支配介入の成立要件として,支配介入と評価される行為をする意思は不要だが,反組合的行為をする意思は必要とする理解を示す | 3 | 35頁(通説的な理解) | 記載なし |
| 29 | 全従業員の面前での手渡し,割増賃金の支払済み,前例のないこと,同時期の委員長の懲戒処分を評価する | 4 | 35頁(評価すべき事実の列挙) | 32頁(3⑵③。両面から十分に検討できた答案は多くない) |
| 30 | 本件弁当代の支給が争議行為の効果を減殺してけん制・抑制し,組合の弱体化を図るものとして支配介入に当たると評価する | 3 | 間接(35頁。スト不参加者への金員を不当労働行為とした労働委員会命令を参照) | 32頁(3⑵③。労働委員会命令等を参考に) |
| 31 | 不利益取扱いと支配介入の両面から検討し,1号については,組合員でない者でも所定時間を超えて勤務しなかった者は支給対象外であることから,不利益取扱いに当たらないとする余地を検討する | 5 | 記載なし | 32頁(3⑵③。この点の検討の差が評価の差) |
4 救済命令の内容と限界
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 32 | 是正措置について,労働委員会の広範な裁量と,その趣旨・目的による限界(第二鳩タクシー事件)を踏まえて検討する | 4 | 35〜36頁(第二鳩タクシー事件) | 32頁(3⑵③。救済命令の限界の検討) |
| 33 | ③の救済として組合員への金銭の支払まで命じ得るかを検討し,支払命令以外の方法(ポストノーティス,スト不参加者に弁当代等の名目で金員を支給するなどして支配介入してはならない旨の命令)を示す | 5 | 36頁(金銭給付まで命じ得るか) | 32頁(3⑵③。この点まで検討できた答案はごく少数) |
5 重みの分布
33項目の内訳は,重み5が4項目,重み4が14項目,重み3が6項目,重み2が9項目,重み1が0項目であり,重みの合計は112点である。
設問別では,①が16項目・52点,②が7項目・25点,③が8項目・26点,救済命令の内容と限界が2項目・9点である。
問題文に設問ごとの配点は示されていないので,この点数を配点の比率と読むことはできない。
重み5の4項目は,ピケッティングの状況の分析・評価(番号11),「使用者の意を体して」の意味の理解(番号22),弁当代の支給についての両面からの検討と1号の否定の余地(番号31)及び組合員への支払命令の限界と代替の救済(番号33)であり,いずれも採点実感が評価の差がついた点又はできた答案がごく少数にとどまった点として取り上げた事項である。
番号31と番号33は,結論ではなく検討の有無を評価する項目であり,反対の結論を採る答案も検討が尽くされていれば満たす。
第5 模範解答
1 答案の前提と表記
以下の答案は,第4の評価項目をできる限り満たすように作成したものであり,X組合の主張と救済の請求を示した上で,労働委員会が発すると考えられる命令を示す形で,試験の実施時(令和7年7月)の法令と,それまでに言い渡された判例を前提にしている。
答案は,旧司法試験の時代から論文式答案で広く使われてきた型によっている。
見出しを「1」「(1)」の順に下げ,論点ごとに,問題提起,規範の定立(「思うに,〜。よって,〜と解する。」),当てはめ(「本問では,〜といえる。」)及び結論(「よって」「したがって」「以上より」)の順に書き,反対の立場は「確かに,〜。しかし,〜。」の形で取り上げ,最後に「以上」と書く型である。
もっとも,採点実感が具体的な事実の分析・評価で評価に差がついたとしているため,規範の論証は争いの中心に絞り,問題文の事実を評価する当てはめに多くの字数を割いた。
答案の括弧書きで示した判例・裁判例は,裁判所ウェブサイトの判決全文で判示を確認したものに限った。
「判例同旨」は判例と同じ規範によるもの,「参照」は事案が異なるが判示の考え方を参考にしたものを示す。
字数は,見出しを含め,空白と改行を除いて2,271字である(2,500字以下としている)。
そのため,労働関係調整法の公益事業の予告義務の不適用や,予告協定違反を重く見た場合の別の結論の枝などは答案に書かず,第5の3で補っている。
2 答案
1 ①Cに対する戒告処分について
(1) X組合は,本件戒告が,Cが「労働組合の正当な行為」をしたことの「故をもつて」した不利益取扱い(労組法7条1号)であり,支配介入(同条3号)にも当たるとして,戒告処分の撤回とポストノーティスを求めるべきである。
戒告が懲戒処分として不利益であり,ストライキの指揮を理由とすることは明らかであるから,争点は本件ストライキの正当性である。主体・目的に問題はなく,手続と態様が問題となる。
(2) 手続について,X組合は24時間前通告の協定に反し,約12時間前に通告したにすぎない。
思うに,予告協定は使用者に争議対策の機会を与える趣旨であり,その違反は協定当事者の債務不履行にとどまる。よって,協定の目的,使用者の予測可能性,違反の具体的影響に照らし,その趣旨が実質的に失われた場合に限り正当性を失うと解する(東京高判平成13年9月11日参照)。
本問では確かに,X組合は事前にストライキの実施を決めていた。しかし,Y社は第1回団交で「1か月分ですら」無理と回答しており,ストライキを予測し得た。また,Y社は約12時間前の通告を受けて出勤を要請し,通常時の3分の2程度の人員で操業できた。原材料の大量廃棄はAの発言にあるにとどまる。よって,手続上の正当性は失われない。
(3) 態様について,ストライキの本質は労働力を使用者に利用させない点にあり,説得活動を超えて使用者の操業を阻止することは許されない(判例同旨・最判平成4年10月2日)。
本問では,車両は小型乗用車1台を出入口付近に置いたにすぎず,時間も早朝の5時間に限られた。説得に応じない者の入構は妨げられず,側面の出入口も使えた。運搬業者が側面を使ったのは説得を厄介に感じたからで,阻止されたからではない。デモと集会も構外で平穏である。よって,説得活動の範囲内であり,本件ストライキは正当である。
(4) したがって,本件戒告は7条1号に当たる。
また,3号は,使用者が組合の運営に干渉し組合を弱体化させることを禁じて団結権を守る趣旨であるところ,正当なストライキを理由に委員長を処分することは組合を弱体化させるから,3号にも当たる。
よって,労働委員会は,戒告処分の撤回とポストノーティスを命ずると考えられる。
2 ②Aによる意見表明について
(1) Aの発言は,ストライキとX組合を非難し,「加入している者がいること自体、信じられない」と脱退を促すものであり,支配介入に当たり得る。もっとも,Aは利益代表者ではないから,その発言をY社の行為として帰責できるかが問題となる。
思うに,利益代表者に近接する職制上の地位にある者が使用者の意を体して支配介入を行えば,具体的な意思の連絡がなくても使用者の不当労働行為となる(判例同旨・最判平成18年12月8日)。そして,意を体したといえるには,使用者に反組合的意図をうかがわせる行為があり,その意向を汲んだと評価できる実態が必要と解する。
本問では,Aは係長として工場長を直接補佐し,その指示を伝える立場にあるから,近接する職制上の地位にある。
そして,Y社は,発言の後間もなくスト指揮を理由に委員長を処分し,スト当日の就労者だけに謝礼を配っており,発言当時からストライキとX組合を嫌悪していたことがうかがわれる。Aの発言は,「会社の提案は現実的」とY社の立場をなぞり,幹部の処分を求めるものであり,Y社の意向を汲んだものといえる。よって,Y社に帰責される。
(2) そして,客観的に組合活動への非難と不利益取扱いの暗示を含む発言により組合の運営に影響を及ぼせば,主観的な目的がなくても支配介入となる(判例同旨・最判昭和29年5月28日)。
本問の発言は,事実に反する非難と処分の示唆を含み,直属の監督者が団交の継続中に部下約40名を集めて行い,その後組合員を含め批判が高まって早期妥結に至ったから,組合の運営に影響を及ぼした。よって,3号に当たり,労働委員会はポストノーティスを命ずると考えられる。
3 ③本件弁当代の支給について
(1) X組合は,3号及び1号に当たるとして,組合員への同額の支払とポストノーティスを求めるべきである。
支配介入の成立には,組合弱体化の結果を意図する必要はないが,反組合的な行為をする意思は必要と解する。
本問では,割増賃金は所定どおり支払済みで,特別な金員の前例もない。それにもかかわらず,Y社はスト当日の就労者に全従業員の面前で「社長からの感謝」として現金を手渡し,同時期に委員長を処分した。確かに,Y社は操業継続の対抗措置を採ることができる(前掲最判平成4年)。しかし,操業の継続と事後の公然たる謝礼は別であり,本件支給は争議の効果を減殺し,妥結後であっても今後の争議をけん制するものといえる。よって,3号に当たる。
(2) 他方,3号が成立すれば1号の「故をもつて」も基礎付け得るが,非組合員でも所定時間を超えて勤務しなかった者は支給対象外であり,支給の基準は組合活動と無関係に引かれている。よって,1号には当たらない。
(3) 救済命令の内容は労働委員会の広い裁量に委ねられるが,被害の救済という性質による限界がある(最大判昭和52年2月23日)。1号が成立せず,組合員は長時間の勤務をしていない以上,組合員への支払命令は被害の救済を超え,この限界を超えると解する。
以上より,労働委員会は,ポストノーティスと,スト不参加者に弁当代等の名目で金員を支給するなどして支配介入してはならない旨の不作為命令を発すると考えられる。
以上
3 出題の趣旨・採点実感を踏まえた解説
(1) 答案と評価項目の対応
答案の1は第4の番号1〜16(①),2は番号17〜23(②),3は番号24〜31(③)に対応し,番号32・33(救済命令の内容と限界)は1(4),2(2)及び3(3)で満たすようにした。
重み5の4項目は,1(3)のピケッティングの状況の評価(番号11),2(1)の「使用者の意を体して」の前提となるY社の態度(番号22),3(2)の支給の基準からの1号の否定(番号31)及び3(3)の支払命令の限界と不作為命令(番号33)に当たる。
(2) ①戒告処分―ストライキの正当性
出題の趣旨は,戒告が組合活動を理由とすることは明らかであり,争点はストライキの正当性,特に手続(予告協定違反)と態様(ピケッティング)であるとしている。
採点実感は,主体・目的に紙幅を割き過ぎる答案,正当性を労働組合法7条1号と関連付けない答案や,懲戒権の濫用(労働契約法15条)から論じる答案を指摘している。
答案は,主体・目的を1文で済ませ,手続と態様に字数を割いた。
予告協定違反について,公式資料は,抜き打ち的な指名ストの正当性を認めた東京地裁昭和41年2月26日決定と,予告時刻を前倒ししたストの正当性を否定した東京高裁平成13年9月11日判決を挙げ,協定の目的,使用者の予測可能性,協定違反の具体的影響等を問題文に即して検討することを求めている。
東京高裁平成13年9月11日判決は,争議行為の正当性を目的,手続,手段,態様等に照らして決すべきものとした上で,事前の通告に反してわずか5分前に前倒しを通告した事案について,会社が前倒しを予測していたとはいえず,運休249本等の重大な混乱が生じたことなどから正当性を否定している。
本問では,通告は約12時間前であり,第1回団体交渉の時点でストライキは予測し得たこと,Y社は3分の2程度の人員で操業できたことから,答案は正当性を肯定した。
もっとも,X組合は事前にストライキの実施を決めていたのに通告を遅らせたこと,生ものを扱う工場で業務が長時間に及んだことを重く見て,正当性を否定する構成もあり得る。
その場合でも,協約上の義務に違反する争議行為は債務不履行であって企業秩序の侵犯に当たらないとした最高裁昭和43年12月24日判決の考え方からすると,委員長を「会社の風紀秩序を乱した」として懲戒する理由とはならず,委員長を狙った処分として支配介入(3号)が問題となる。
なお,Aの発言にある原材料の大量廃棄と多大な損害は,問題文の地の文には記載がなく,確定した事実として扱っていない。
ピケッティングについて,採点実感は,多くの答案が御國ハイヤー事件の判断枠組みを示せた一方,事実を羅列するだけの答案もあり,事実の分析・評価の程度で評価に差がついたとしている。
答案は,車両が1台で通行を妨げる配置でないこと,時間が早朝の5時間であること,入構が妨げられず側面の出入口があったこと,運搬業者は説得を厄介に感じて自ら側面を使ったにすぎないことを,御國ハイヤー事件が許されないとした「説得活動の範囲を超え」た運行阻止と対比して評価した。
支配介入について,採点実感は,根拠に挙げながら該当性を論じない答案が少なくなく,支配介入を禁止する理由から説き起こす答案は少数にとどまったとしている。
答案は,3号の趣旨(組合の運営への干渉と組合の弱体化を禁じて団結権を守ること)から,正当なストライキを理由とする委員長の懲戒が組合を弱体化させることを導いた。
救済は,採点実感が示すとおり,戒告処分の撤回命令とポストノーティス命令であり,「無効確認命令」のような民事訴訟と混同した救済は求めない。
(3) ②Aの意見表明―「使用者の意を体して」の意味
採点実感は,A自身が「使用者」に当たるかという設定ではなく,Aの行為をY社に帰責できるかが中心の争点であり,多くの答案がJR東海事件の規範を示せたとしている。
差がついたのは「使用者の意を体して」の意味の理解である。
採点実感は,Aが使用者のように振る舞っていたことや,従業員がAを使用者と捉えていたことを理由に帰責する答案を不十分とし,意思の連絡がないのに帰責される理由は,使用者に反組合的意図ないし組合嫌悪をうかがわせる行為があり,その思いを汲み取ったと評価せざるを得ない実態があることにあるとしている。
JR東海事件の判決も,「特段の事情のない限り」使用者の意を体したものと認めるという判断を,使用者の態度を含む「以上のような事情の下においては」という前提の下で述べている。
答案は,Aの職制上の地位を当てはめた上で,Y社自身が,Aの発言の後間もなくストライキの指揮を理由に委員長を処分し,ストライキ当日の就労者だけに謝礼を配ったことから,発言当時からY社がストライキとX組合を嫌悪していたことを認定し,Aの発言がY社の立場をなぞって幹部の処分を求めたことと併せて帰責した。
これらのY社の行為はAの発言より後の出来事であるから,発言当時の態度を推認させる事情として位置付けている。
発言の内容と影響については,客観的に組合活動への非難と不利益取扱いの暗示を含む発言で組合の運営に影響を及ぼした場合は,主観的な目的がなくても支配介入に当たるとした最高裁昭和29年5月28日判決によった。
(4) ③弁当代の支給と救済命令の限界
出題の趣旨は,支配介入を中心に検討すること(1号を中心とする構成も可)を示し,支配介入の意思について,支配介入と評価される行為をする意思は不要だが反組合的行為をする意思は必要とする通説的理解を挙げ,評価すべき事実として,全従業員の面前での手渡し,割増賃金の支払済み,前例がないこと,同時期の委員長の懲戒処分を挙げている。
採点実感は,JR東日本(千葉動労・褒賞金)事件を参考に,支配介入は認めつつ,組合員でない者でも所定時間を超えて勤務しなかった者は支給対象外であることから不利益取扱いには当たらないとする判断の余地もあったとし,この点の検討の差が評価の差につながったとしている。
同事件では,中央労働委員会平成17年9月7日命令が,ストライキ後の褒賞金の支給も今後のストライキへの抑止力となるとして支配介入を認め,不利益取扱いは否定した。
その取消訴訟では,東京地裁平成18年9月27日判決が支配介入も否定したが,東京高裁平成19年5月17日判決は,褒賞金の支給が争議行為の効果を減殺してけん制・抑制し,組合の弱体化を図るものとして支配介入を認めた(最高裁平成19年11月15日決定で上告不受理)。
他方,出題の趣旨が挙げる陸奥製菓事件の青森地方労働委員会平成3年7月10日命令は,ストライキ当日に深夜まで働いた従業員への「感謝金」について,時間外割増賃金が支払われ前例がないこと等から,不利益取扱いと支配介入の両方を認め,組合員に1人当たり2,000円の支給と文書の手交を命じている。
このように,③の不利益取扱いの成否と組合員への支払命令の可否は,命令例でも結論が分かれる。
救済命令について,採点実感は,弁当代の支払命令が労働委員会の裁量の範囲を超えないかを検討し,ポストノーティス命令や,今後ストライキ不参加者に弁当代等の名目で金員を支給するなどして支配介入してはならない旨の命令で救済することも考えられ,この点まで検討できた答案はごく少数にとどまったとしている。
答案は,第二鳩タクシー事件の大法廷判決が示した裁量の広さと,被害の救済という性質による限界から,1号が成立せず組合員が長時間の勤務をしていない以上,支払命令はこの限界を超えるとし,ポストノーティス命令と不作為命令を予測した。
陸奥製菓事件のように支払を命じる結論を採ることも,理由を示せば許容されると考えられる。
(5) 答案の弱点と扱わなかった事項
答案の弱点は次の2点である。
第一に,予告協定違反の正当性の判断枠組みは,公式資料が挙げる下級審の裁判例から導いたものであり,これを正面から述べた最高裁判所の判例は,本記事では確認できていない。
公式資料が挙げる東京地裁昭和41年2月26日決定は,裁判所ウェブサイトに掲載がなく,本記事では判示を確認していない。
第二に,②の帰責の前提としたY社の反組合的態度は,問題文上はAの発言の後の出来事(委員長の処分,弁当代の支給)から推認するほかなく,発言当時の態度を直接示す事実は第1回団体交渉での回答程度にとどまる。
労働関係調整法の公益事業の予告義務(同法37条1項)は,Y社が同法8条1項の公益事業を営むものではないため問題とならず,答案では触れていない。
戒告処分の私法上の効力(民事訴訟で争う場合)と,ストライキによる損害の賠償請求(労働組合法8条)は,設問が労働委員会への救済申立てを問うものであるため,答案では扱っていない。
第6 関連記事
1 同じ年度の司法試験の別の模範解答
①令和7年度司法試験論文式試験の主要7科目の模範解答(AI作成)
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④令和7年度司法試験公法系第2問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した72項目と5段階の重み付け(AI作成)
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⑩令和7年度司法試験倒産法第1問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した38項目と5段階の重み付け(AI作成)
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⑫令和7年度司法試験租税法第1問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した33項目と5段階の重み付け(AI作成)
⑬令和7年度司法試験租税法第2問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した43項目と5段階の重み付け(AI作成)
⑭令和7年度司法試験経済法第1問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した25項目と5段階の重み付け(AI作成)
⑮令和7年度司法試験経済法第2問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した25項目と5段階の重み付け(AI作成)
⑯令和7年度司法試験知的財産法第1問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した25項目と5段階の重み付け(AI作成)
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⑲令和7年度司法試験環境法第1問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した26項目と5段階の重み付け(AI作成)
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㉑令和7年度司法試験国際関係法(公法系)第1問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した19項目と5段階の重み付け(AI作成)
㉒令和7年度司法試験国際関係法(公法系)第2問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した22項目と5段階の重み付け(AI作成)
㉓令和7年度司法試験国際関係法(私法系)第1問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した30項目と5段階の重み付け(AI作成)
㉔令和7年度司法試験国際関係法(私法系)第2問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した29項目と5段階の重み付け(AI作成)
2 本問の模範解答と関連する山中弁護士ブログの記事
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②会社施設を利用した組合活動―レターケース,組合掲示板,施設管理権及び支配介入(AI作成)
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④ストライキ不参加者への慰労金・弁当代は不当労働行為か―支配介入・不利益取扱い,救済命令の限界及び給与課税(AI作成)
第7 出典及び確認状態
1 公式資料
①法務省「令和7年司法試験の実施について」
②法務省「令和7年司法試験問題」
③令和7年司法試験論文式試験問題集(選択科目)
④法務省「令和7年司法試験の結果について」
⑤令和7年司法試験論文式試験出題の趣旨
⑥法務省「令和7年司法試験の採点実感」
⑦令和7年司法試験の採点実感(選択科目)
2 法令
①労働組合法(e-Gov法令検索)
②労働関係調整法(e-Gov法令検索)
③労働契約法(e-Gov法令検索)
3 裁判例・労働委員会命令
①最高裁判所第二小法廷平成4年10月2日判決(平成元年(オ)第676号,集民166号1頁)
②最高裁判所第三小法廷昭和43年12月24日判決(昭和39年(オ)第773号,民集22巻13号3194頁)
③最高裁判所第二小法廷平成18年12月8日判決(平成16年(行ヒ)第50号,集民222号585頁)
④最高裁判所第二小法廷昭和29年5月28日判決(昭和27年(オ)第1053号,民集8巻5号990頁)
⑤最高裁判所大法廷昭和52年2月23日判決(昭和45年(行ツ)第60号,民集31巻1号93頁)
⑥東京高等裁判所平成13年9月11日判決(平成12年(ネ)第4078号等)
⑦中央労働委員会平成17年9月7日命令(平成5年(不再)第22号,東日本旅客鉄道(千葉動労褒賞金))
⑧東京地方裁判所平成18年9月27日判決(平成17年(行ウ)第455号等)
⑨東京高等裁判所平成19年5月17日判決(平成18年(行コ)第283号)
⑩青森県地方労働委員会平成3年7月10日命令(平成元年(不)第2号,陸奥製菓)
4 確認状態
出題の趣旨は,全科目を収めたPDF(42頁)のうち,労働法第2問の部分(34頁〜36頁)を全て読んだ。
採点実感は,選択科目のPDF(45頁)のうち,労働法の「1 出題の趣旨・狙い等」「2 採点方針」(27頁)と,「3⑵ 第2問について」から「6 今後の法科大学院教育に求めるもの」まで(30頁〜33頁)を読んだ。
本記事の頁は,いずれも法務省が掲載したPDFの頁である。
条文は,e-Gov法令検索で,試験の実施日(令和7年7月16日)時点の版を確認した。
最高裁判所の判決(上記①〜⑤)と東京高等裁判所平成13年9月11日判決(上記⑥)は,裁判所ウェブサイトの判決全文で,引用した判示の文言を確認した。
上記⑦〜⑩は,中央労働委員会の労働委員会関係命令・裁判例データベースに掲載された全文で確認した。
上記⑧・⑨の判決は,裁判所ウェブサイトには掲載がなく,判例秘書での収録の有無は確認していないため,同データベースの事件番号とURLを出典として示した。
上記⑥の判決は,裁判所ウェブサイトでは事件名が「東日本旅客鉄道損害賠償」とされ,当事者の労働組合名は伏せられている。
公式資料が挙げる東京地裁昭和41年2月26日決定(労民集17巻1号102頁)は,裁判所ウェブサイトに掲載がなく,判示を確認していないため,答案では用いていない。