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令和6年度司法試験刑事系第2問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した28項目と5段階の重み付け(AI作成)

第1 この記事の対象と結論

本記事は,令和6年司法試験の論文式試験のうち,刑事系科目第2問(刑事訴訟法)を対象として,法務省が公表した「出題の趣旨」及び「採点実感」から答案の評価項目を抽出し,5段階で重み付けをした上で,それらの評価項目を満たす模範解答を示すものである。

本問は,覚醒剤の密売拠点と疑われるアパートの捜査を素材として,〔設問1〕で,職務質問に伴う所持品検査に続いて捜索差押許可状により差し押さえられた覚醒剤の鑑定書の証拠能力を,〔設問2〕で,喫茶店内での約20秒のビデオ撮影(【捜査①】)と,向かいのビルから約2か月間毎日24時間続けたビデオ撮影(【捜査②】)の適法性を論じさせるものである。

公式資料から抽出した評価項目は28項目である。
採点実感が問題のある答案として挙げた事項は,正しい書き方の項目にまとめるか,「〜しない」の形の項目にした。
重み5(答案の骨格)に当たるのは,番号1・3・6・9・10・15・20の7項目であり,所持品検査の違法が派生証拠である鑑定書に影響するという問題の把握,所持品検査の限界の判断基準,違法収集証拠排除法則の判断基準,派生証拠の証拠能力に関する自説とそれに整合する当てはめ,強制処分と任意処分の区別の基準及び任意処分の限界の比較衡量である。

第5の模範解答は,鑑定書の証拠能力を否定し,【捜査①】を適法,【捜査②】を違法とした。
もっとも,出題の趣旨は,鑑定書の証拠能力についても各ビデオ撮影の適否についても,結論はともかく,具体的事実の意味を的確に評価して論じることを求めており,いずれの結論も成り立つ。

本記事は,人工知能(AI)が,まず出題の趣旨・採点実感を読まずに答案を作り,その後に公式資料と照合して書き直した結果をまとめたものである。
第5の3(6)に,公式資料を読まずに作った答案で落ちた点を挙げた。

第2 評価項目の示し方と重み付けの基準

1 評価項目の示し方

評価項目は,本問の出題の趣旨(刑事系科目〔第2問〕の部分)又は採点実感(刑事系科目第2問)の記述から抜き出したものに限り,一つの項目に一つの判定対象だけを入れ,答案に何が書かれていれば満たすのかが分かる形に言い換えた。

各項目には,出題の趣旨と採点実感のどこに根拠があるかを,PDFの頁と,採点実感については見出し番号(「(1)」は「2 採点実感」の⑴,「(2)」は同⑵,「3(1)」は「3 答案の評価」の⑴)で示し,一方の資料に記載がない場合は「記載なし」と表示した。
公式資料の文章は,短い語句を除いて引用せず,根拠となる記述の趣旨を要約して示した。

採点実感が不十分な答案として挙げた事項は,正しい書き方の項目の裏返しであればその項目の括弧書きにまとめ,独立の注意点は「〜しない」の形の項目(番号14・28)にして,同じ5段階で重みを付けた。
番号28は,採点実感が「不良の水準」の一般的な説明として両設問に共通して挙げた誤りの型のうち,〔設問2〕の例に当たるものであり,設問別の表ではなく「答案全体」の表に置いた。
番号19は,出題の趣旨が強制処分と評価する場合に限って検討を求める事項(許容される別の構成)である。
採点実感だけに現れる事項は,出題の趣旨に由来する事項へ格上げしていない。

この一覧は,法務省の公式な採点基準ではなく,公式資料から独自に抽出した評価単位である。

2 5段階の重み付けの基準

重みは,公式資料の書きぶりの強さから本記事が付けたものであり,法務省の配点ではない。

①重み5:答案の骨格そのもの(問題の所在,判断の枠組み及び派生証拠の自説)であり,出題の趣旨が検討を求め,採点実感も「答案の評価」の水準を分ける要素として取り上げた事項
②重み4:出題の趣旨が検討を求め,採点実感も取り上げた(評価した,又は多くの答案の不足を指摘した)事項,若しくは採点実感が「答案の評価」の水準を分ける要素として挙げた事項
③重み3:どちらか一方が明示する中核の理由付け,当てはめ又は事実の評価(採点実感が「不良の水準」の例に挙げた誤りを避けることを含む)
④重み2:一方が軽い表現で触れる補強の事項,又は典型的な誤りとして指摘された事項
⑤重み1:一方が控えめに触れるだけの事項,又は許容される別の構成

第3 本問の概要

司法警察員Pは,覚醒剤の密売拠点と疑われる本件アパート201号室から出てきた人物が,路上で甲に封筒を渡し,甲がこれを手提げかばんに入れるのを目撃して,甲に職務質問を行った。
甲には覚醒剤使用の前科があり,覚醒剤常用者の特徴を示していたが,封筒の中を見せるよう求められると走って逃げ出した。
追い付いて前方に回り込んだPは,甲から「任意じゃないんですか。」と言われたのに,いきなりかばんのチャックを開け,手を差し入れて在中物を探り,書類を持ち上げてその下の注射器を取り出した。
甲は警察署への任意同行に応じたが,かばん等の任意提出には応じなかった。

Pは,職務質問の経緯を記載した捜査報告書①と,注射器発見の経緯を記載した捜査報告書②を疎明資料として,甲の身体及び所持品を捜索すべき場所等とする捜索差押許可状の発付を受けた。
捜査報告書①には,密売拠点と疑われるアパートから出てきた人物からの封筒の受領,前科,常用者の特徴及び逃走が記載されていたが,捜査報告書②には,チャックを開けたところ注射器が入っていた旨だけが記載され,手を入れて探り書類の下から取り出したことは記載されていなかった。
許可状に基づく捜索で,かばん内側のサイドポケットから封筒が発見され,その中の白色結晶が差し押さえられ,覚醒剤である旨の鑑定書が作成された。
第1回公判期日で,弁護人は,検察官が請求した鑑定書の取調べに異議がある旨の意見を述べた。

他方,Pは,201号室の賃貸借契約の名義人である乙に覚醒剤所持の前科があり,前科記録上,乙の首右側に小さな蛇のタトゥーがあることを把握した。
Pは,深夜に同室へ入った乙と酷似する男性を尾行し,喫茶店で,店長の承諾を得て,少し離れた席から同男性を約20秒間ビデオ撮影した(【捜査①】)。
さらに,Pは,組織的な密売の実態を明らかにするため,向かいの3階建てのビルの2階の窓のそばに,所有者及び管理会社の承諾を得てビデオカメラを設置し,約2か月間,毎日24時間,同室の玄関ドアや共用通路を撮影し続けた(【捜査②】)。
その映像には,ドアが開けられるたびに,玄関内側や奥の部屋に通じる廊下が映り込んでいた。

〔設問1〕は,鑑定書の証拠能力について,〔設問2〕は,【捜査①】及び【捜査②】のビデオ撮影の適法性について,いずれも具体的事実を摘示しつつ論じさせるものである。

第4 評価項目と重み

1 設問1(鑑定書の証拠能力)

番号評価項目重み出題の趣旨採点実感
1鑑定の対象の覚醒剤は令状に基づき差し押さえられた(差押手続自体は違法でない)が,先行する所持品検査(承諾なく,いきなりかばんに手を差し入れて探り,注射器を取り出した)の違法性が鑑定書(派生証拠)の証拠能力に与える影響が問題となることを示す521頁:差押手続自体は違法でないが,先行手続の違法が鑑定書の証拠能力に与える影響を把握する7頁(1):同旨。8頁(2):問題の所在を把握できない答案を指摘
2Pが注射器を発見した手続の法的性質を,警職法上の職務質問に付随する所持品検査(行政警察活動)と特定する(性質を明らかにしないまま,漫然と刑訴法197条1項ただし書の「強制の処分」の意義を論じない)421〜22頁:注射器発見の手続は警職法上の職務質問とそれに付随する所持品検査7頁(1):行為の性質を所持品検査と捉える答案を評価。8頁(2):行政警察活動か司法警察活動か不明確なまま「強制の処分」を論じる答案を指摘
3所持品検査の限界について,最判昭和53年6月20日の基準(承諾原則,捜索に至らない程度の行為は強制にわたらない限り,必要性・緊急性・法益の権衡を考慮した相当性)と警職法2条1項の解釈を示す522頁:昭和53年6月20日判決や警職法の条文の解釈を意識7〜8頁(1):同判決・警職法を意識した法解釈を示す答案を評価
4承諾がないこと,いきなり手を差し入れて探り取り出した態様等の具体的事情を挙げて法的評価を加え,所持品検査の適法性の結論を示す422頁:具体的事情を挙げて適切な法的評価を加える7頁:同旨
5違法収集証拠排除法則の根拠(適正手続の保障,司法の廉潔性の保持,将来の違法捜査の抑止)を示す422頁:排除の根拠(適正手続の保障,司法の廉潔性の保持,将来の違法捜査の抑止)8頁(1):根拠・要件・考慮要素を示す答案を評価
6排除の判断基準(最判昭和53年9月7日:令状主義の精神を没却するような重大な違法があり,将来の違法捜査抑制の見地から相当でない場合)を示す522頁:昭和53年9月7日判決を踏まえた排除の判断基準8頁(1):同判決を踏まえた答案を評価
7排除の判断に際して考慮される要素(違法の程度,令状主義潜脱の意図,違法と証拠との関連性,証拠の重要性等)を示す422頁:判断の際に考慮される要素8頁(1):考慮要素
8昭和53年判決が証拠物に関する判示であること(押収手続が違法でも物の性質・形状に変異はない)と手続的価値の重要性を踏まえる2記載なし8頁(2):同判決が証拠物に関する判示で手続的価値の重要性を説くことを踏まえない答案を指摘
9派生証拠の証拠能力に関する自説(違法性の承継論,毒樹の果実論,端的に排除法則を適用する考え方等)を明示し,その論拠を示す(派生証拠の判断枠組みを示さないまま,漫然と違法収集証拠排除法則を当てはめない)522頁:承継論・毒樹の果実論・端的適用説など。自説と論拠を説得的に8頁(2):派生証拠の判断枠組みを示すことが求められていた。判断枠組みを示さず漫然と排除法則を当てはめる答案を指摘
10自説と論理的に整合する当てはめ(承継論なら違法な先行手続の結果を利用した後行手続への違法の承継→後行手続について排除法則,毒樹の果実論なら第1次証拠と第2次証拠の関連性)(承継論を採りながら「違法が証拠に承継される」と説明し,又は先行手続の違法の重大性だけを検討しない。毒樹の果実論を採りながら違法な「手続」と「証拠」の関連性を基準にしない)522頁:自説との論理的整合性。毒樹の果実論ならどれが一次証拠かに留意8〜9頁(2):承継論・毒樹の果実論それぞれの論理の取り違えを指摘
11捜査報告書①に,覚醒剤所持の可能性が高いことをうかがわせる事情(密売拠点から出てきた人物からの封筒の受領等)が記載されていることの意味を検討する422頁:報告書①に覚醒剤所持の可能性が高いことをうかがわせる事情9頁(2):どの立場でも丁寧な検討が必要
12捜査報告書②に,手を入れて探り書類の下から注射器を発見したことが記載されていないことの意味を検討する(報告書①②に触れずに「令状主義に反するから重大な違法」と結論付けない)422頁:報告書②に手を入れて探り書類の下から発見したことの記載がない9頁(2):同旨。報告書①②に触れずに重大な違法と結論付ける答案を指摘
13具体的事実を羅列せず,各事実の意味を評価して,所持品検査の違法性から鑑定書の証拠能力に至る過程を論じ結論を示す(結論の方向は問わない)422頁:事実を書き写して羅列せず,その意味を評価して結論を導く(結論は問わない)8頁(1):具体的事情を抽出・分析して結論を導く答案を評価
14鑑定書について伝聞法則(刑訴法321条4項の準用)の論述を全面的に展開しない(弁護人の証拠意見からすれば,争点は違法収集証拠排除法則の適用の有無である)3記載なし10頁3(4):伝聞法則の論述を全面的に展開する答案を不良の水準の例に挙げる

2 設問2(ビデオ撮影の適法性)

番号評価項目重み出題の趣旨採点実感
15強制処分に対する規律の趣旨・根拠を踏まえ,強制処分と任意処分を区別する基準を論述する(昭和51年決定。撮影の判例は強制処分性を明示的に判断していないこと)522頁:強制処分の規律の趣旨・根拠を踏まえた区別の基準。撮影の判例は強制処分性を明示判断していない7頁1:同旨
16強制処分性が問題となる理由(各撮影は検証類似の性質を有し,無令状の検証は218条3項・220条に限られるから,強制処分なら令状主義違反で違法)を示す(なぜ違法か,なぜ令状が必要かを説明せずに,強制処分に当たるから違法とだけ書かない)4記載なし8頁(1):検証類似の性質,無令状の検証は218条3項・220条だけ,を踏まえる答案を評価。9頁(2):問題となる理由がない答案を指摘。なぜ令状が必要かの説明がない答案も指摘
17捜査①が強制処分かを,侵害される権利・利益の性質を踏まえて検討する323頁:各撮影により侵害される権利・利益の性質を踏まえる記載なし
18捜査②が強制処分かを,侵害される権利・利益の性質(玄関ドア開閉時に不可避的に見える住居内部,継続撮影)を踏まえて両方向から検討する(ドアの開閉に伴って不可避的に見える部分であることを捨象し,「私的領域への侵入」という言葉や撮影期間の長さだけで強制処分としない)423頁:同上9頁(2):開閉に伴い不可避的に見える部分であることを捨象する答案を指摘
19強制処分と評価する場合に,法定の強制処分類型(検証)に該当するか等を検討する123頁:強制処分と評価するなら法定の類型に当たるかを検討記載なし
20任意処分の限界の判断枠組み(侵害される権利・利益の内容・程度と,目的達成のために当該手段を採る必要性との比較衡量による相当性。昭和51年決定・平成20年決定)を示す(昭和51年決定をあらゆる任意処分の一般原則のように扱って,必要性・緊急性・相当性を漫然と列挙しない)523頁:侵害の内容・程度と手段を採る必要性の比較衡量9頁(2):同旨。必要性・緊急性・相当性の漫然とした列挙を指摘
21捜査①により制約される権利・利益の内容・性質・制約の程度を明示する(単に「プライバシー」とだけ書かない)423頁:喫茶店での撮影で制約される権利・利益の内容・性質・程度9頁(2):権利・利益を「プライバシー」の一語で済ませる答案を指摘
22捜査①で,同一性確認の目的のために目視や写真撮影ではなくビデオ撮影を用いることの意味(必要性)を検討する(喫茶店という場所の公共性だけで相当性を認めない)423頁:目視や写真撮影ではなくビデオ撮影を用いる意味9頁(2):その必要性を検討しない答案を指摘。喫茶店の公共性のみで相当性を認める答案も指摘
23捜査②について,捜査①との相違(制約される権利・利益の内容や性質,捜査目的,撮影の期間・態様)を意識して論じる423頁:捜査①との権利・利益,目的,期間・態様の相違を意識9頁3(1):権利・利益の内容や程度の違い,目的・必要性を分析する答案を優秀とする
24捜査②により制約される権利・利益の内容・性質・制約の程度を明示する(単に「プライバシー」としない)(単に「プライバシー」とだけ書かない)423頁:制約される権利・利益の内容・性質・程度を明示9頁(2):「プライバシー」の一語で済ませる答案を指摘
25組織的密売の実態解明という目的のために,約2か月間24時間継続撮影という方法を用いることの意味を検討する423頁:約2か月間24時間継続撮影という方法を用いる意味記載なし
26玄関内部や奥の部屋に通じる廊下が映り込んでいたことの意味を検討する(住居の内部が見えている点を無視しない)423頁:玄関内部や奥の部屋に通じる廊下が映り込んでいた意味9頁(2):住居内部が見えている点に全く配慮しない答案を指摘
27捜査②について,捜査の必要性及びビデオ撮影という方法を採る必要性(張り込み困難等)を具体的に検討した上で適否を判断する(必要性を検討せずに撮影期間の長さだけで違法としない)3記載なし9頁(2):捜査の必要性や撮影方法の必要性を検討せず期間の長さだけで違法とする答案を指摘

3 答案全体

番号評価項目重み出題の趣旨採点実感
28関係条文・法原則を踏まえた法解釈を示さないまま,事例中の事情をただ書き写して結論付けない(〔設問2〕であれば,強制処分の意義や任意処分としての適法性の限界を論じずに,撮影の事情を書き写して適否を決めない。〔設問1〕の同じ型の誤りは番号13)423頁:〔設問1〕と同様,事実を書き写して羅列せず,各事実の意味を評価して論じる10頁3(4):法解釈を論じず事例中の事実を書き写す答案を不良の水準とし,〔設問2〕の例として強制処分の意義・任意処分の限界を論じない答案を挙げる

4 重みの分布

28項目の内訳は,重み5が7項目,重み4が16項目,重み3が3項目,重み2が1項目,重み1が1項目であり,重みの合計は111点である。
〔設問1〕は14項目・58点,〔設問2〕は13項目・49点,答案全体は1項目・4点である(設問ごとの配点は公表されていない)。
重み5の7項目は,〔設問1〕の問題の所在(番号1),所持品検査の限界の判断基準(番号3),排除法則の判断基準(番号6),派生証拠の自説とそれに整合する当てはめ(番号9・10),〔設問2〕の強制処分と任意処分の区別の基準(番号15)及び任意処分の限界の比較衡量(番号20)であり,いずれも答案の骨格であって,出題の趣旨が検討を求め,採点実感も「答案の評価」で取り上げた事項である。

〔設問1〕では,所持品検査の限界(番号3・4)と排除法則の判断基準(番号6)に加え,派生証拠の証拠能力に関する自説(番号9)と,捜査報告書①②の意味(番号11・12)が中心である。
〔設問2〕では,強制処分と任意処分の区別の基準(番号15)と任意処分の限界の比較衡量(番号20)を土台に,【捜査②】の住居内部の映り込みと約2か月間24時間の撮影の意味(番号18・25・26)が中心である。

第5 模範解答

1 答案の前提と表記

以下の答案は,第4の評価項目をすべて満たすように作成したものであり,試験の実施日である令和6年7月13日(刑事系科目第2問の実施日)の法令と,それまでに言い渡された判例を前提とした。
刑事訴訟法,警察官職務執行法及び覚醒剤取締法は,e-Gov法令検索の時点指定(令和6年7月13日)で条文を確認した。
覚醒剤取締法の罰則は,問題文の参照条文のとおり「懲役」である。

答案は,旧司法試験の時代から論文式答案で広く使われてきた型によっている。
見出しを「1」「(1)」「ア」の順に下げ,論点ごとに,問題提起,規範の定立(「思うに,〜。よって,〜と解する。」),当てはめ(「本問では,〜といえる(①)。」)及び結論(「よって」「したがって」)の順に書き,反対の見方は「確かに,〜とも思える。しかし,〜。」の形で取り上げ,最後に「以上」と書く型である。

答案の括弧書きで示した判例は,裁判所ウェブサイトの判決全文で判示を確認したものに限った。
「判例同旨」は判例と同じ規範によるもの,「参照」は事案が異なるが判示の考え方を参考にしたもの,「前掲」は既に掲げた判例を示す。

字数は,空白・改行を除いて約5,400字である。
実際の答案で分量を減らす場合は,重み5・4の評価項目に対応する部分を残し,職務質問・停止の適法性(1(2)ア)や判例との事案差の記述を短くすることになる。

2 答案

1 設問1について
(1) 本問鑑定書の対象である覚醒剤は,捜索差押許可状(以下「本件令状」という。)に基づいて差し押さえられており,差押手続それ自体に違法はない。しかし,これに先行してPが行った所持品検査に違法があれば,その違法が派生証拠である本問鑑定書の証拠能力に影響しないか。
 弁護人の異議の趣旨からして,違法収集証拠排除法則の適用の有無が問題となる。
(2) 所持品検査の適法性
ア Pの職務質問(警察官職務執行法(以下「警職法」という。)2条1項)は,甲が密売拠点と疑われる本件アパートから出てきた人物から封筒を受け取ってかばんに入れ,覚醒剤使用の前科を有し,覚醒剤常用者の特徴を示していたことから,適法である。逃げ出した甲を追い掛けて前方に回り込んだ行為も,身体に触れることのない停止の求めであり,適法である。
イ では,Pが本件かばんのチャックを開け,手を差し入れて在中物を探り,書類を持ち上げて注射器を取り出した行為(以下「本件検査」という。)は適法か。本件検査は,職務質問に附随して行われた所持品検査であり,行政警察活動であるから,警職法2条1項の下での許容限度が問題となる。
 所持品検査は,口頭による質問と密接に関連し,職務質問の効果をあげる上で必要性,有効性の認められる行為であるから,同項による職務質問に附随して行うことができ,所持人の承諾を得て行うのが原則である。もっとも,捜索に至らない程度の行為は,強制にわたらない限り,承諾がなくても,必要性,緊急性,害される個人の法益と保護されるべき公共の利益との権衡などを考慮し,具体的状況の下で相当と認められる限度においてのみ許容されると解する(判例同旨・最判昭和53年6月20日)。
 本問では,甲は「封筒の中を見せてもらえませんか」と求められるや逃げ出し,追い付かれると「任意じゃないんですか」と述べており,所持品の開示を拒む意思を明示していた。にもかかわらず,Pは説得を試みることなく,「いきなり」チャックを開け,手を差し入れ,のぞき込みながら在中物を手で探り,書類を持ち上げてその下の注射器を取り出した。
 これは,施錠されていないチャックを開けて内部を一べつする程度にとどまらず,かばんの内部を物色して物を取り出すものであり,所持品の内容というプライバシーを直接侵害する点で,捜索そのものに当たるといえる。
 本問では確かに,密売拠点からの封筒の受領,前科,常用者の特徴及び逃走から,封筒に覚醒剤が入っている疑いは濃く,所持品検査の必要性は高い。しかし,甲は追い付かれて立ち止まっており,凶器の所持をうかがわせる事情もないから,令状によらずにかばんの内部を探るほどの緊急性があったとはいえない。
 したがって,本件検査は所持品検査の許容限度を超えた違法なものである。
(3) 違法収集証拠排除法則
 思うに,証拠物は押収手続が違法であってもその性質・形状に変わりはないから,手続の違法から直ちに証拠能力を否定すれば真相の究明を害する。他方,真相の究明も適正な手続(憲法31条)の下で行われるべきであり,令状主義(憲法35条)に反して得た証拠を許容すれば,司法の廉潔性が害され,将来の違法捜査も抑止できない。
 よって,証拠物の押収等の手続に,令状主義の精神を没却するような重大な違法があり,これを証拠として許容することが将来における違法な捜査の抑制の見地からして相当でないと認められる場合には,その証拠能力は否定されると解する(判例同旨・最判昭和53年9月7日)。その判断は,①違法の程度(態様,令状主義潜脱の意図等),②違法と証拠との関連性の程度,③証拠の重要性等を総合して行う。
(4) 派生証拠の判断枠組み
 本問鑑定書は,本件検査によって直接得られた証拠ではない。では,本件検査の違法は,その後の手続で得られた証拠にどのように影響するか。
 思うに,捜査は一連の手続として進められ,先行手続の違法な結果を後行手続で利用することを許せば,令状主義は容易に潜脱される。よって,後行手続が先行手続と同一目的に向けられ,先行手続によりもたらされた状態を直接利用してされた場合には,後行手続も違法性を帯び(違法性の承継),その後行手続により得られた証拠について排除法則を適用すると解する(最判昭和61年4月25日参照)。本問では,本件検査で得た注射器それ自体は差し押さえられておらず,その結果が令状請求という後行手続に利用されているから,手続間の関係を問うこの考え方が適する。
 そして,後行手続の違法の重大性は,先行手続の違法の程度に加え,後行手続が先行手続の結果に依存した程度(他の独立の資料の有無,司法審査の介在等)を考慮して判断する(最判平成15年2月14日,最決平成21年9月28日参照)。
(5) 本問へのあてはめ
ア 後行手続への承継
 Pは,本件検査で発見した注射器を甲に示して任意同行を求め,その発見の経緯を記載した捜査報告書②を疎明資料として本件令状を請求し,同じ本件かばんを捜索して覚醒剤を差し押さえた。これらは,いずれも甲の覚醒剤所持の嫌疑を解明するという本件検査と同一の目的に向けられ,本件検査によりもたらされた状態を直接利用したものといえる。よって,本件令状による捜索差押えは,本件検査の違法性を帯びる。
イ 違法の重大性
 まず,本件検査は短時間で,身体に対する強制を伴わず,嫌疑も濃かったから,内ポケットから所持品を取り出した行為の違法を重大でないとした前掲最判昭和53年9月7日と近いとも思える。しかし,同判決の事案は「必ずしも諾否の態度が明白ではなかつた」被告人に対するものであったのに対し,甲は拒絶の意思を明示しており,Pはこれを顧みずに捜索に及んでいる(①)。
 次に,捜査報告書①には,密売拠点と疑われる場所から出てきた人物からの封筒の受領,前科,常用者の特徴及び逃走が記載されており,本件検査と無関係に得られたこれらの資料だけでも令状の発付はあり得たとも思える。しかし,本件令状は捜査報告書①②を併せて請求されたものであり,捜査報告書①だけで発付されたかは仮定にとどまる(②)。
 さらに,捜査報告書②には「チャックを開けたところ注射器が入っていた」旨のみ記載され,手を入れて探り,書類の下から取り出したことは記載されていない。これにより,令状裁判官には本件検査が許容される所持品検査であるかのように示され,違法を審査する機会が奪われた。
 かかる記載は違法を糊塗するものであり,Pに令状主義を潜脱する意図があったことがうかがわれる(①)。そうである以上,司法審査の介在も違法を希釈する事情とは評価できない(②)。この点で,潜脱の意図がなかった前掲最決平成21年9月28日や,適法に発付されていた別件の令状の執行と併せて差押えがされた前掲最判平成15年2月14日の覚醒剤とは異なる(②)。加えて,差押えの対象は本件検査で探られた本件かばんの在中物そのものであり,本件かばんは本件検査を契機とする任意同行によって警察署まで運ばれていた(②)。
 確かに,覚醒剤は所持罪の立証に不可欠の証拠である(③)。しかし,違法を糊塗して得た令状による証拠を許容すれば,同種の違法を誘発するから,抑止の必要は大きい。
(6) したがって,本件令状による覚醒剤の差押えには令状主義の精神を没却する重大な違法があり,これを許容することは将来の違法捜査抑制の見地から相当でないから,覚醒剤及びその鑑定結果を記載した本問鑑定書の証拠能力は否定される。よって,検察官の証拠調べ請求は却下されるべきである。

2 設問2について
(1) ビデオ撮影は,対象者の容ぼう等を五官の作用で認識し記録する点で,検証の性質を有する。そして,無令状の検証は218条3項及び220条の場合に限られ,捜査①②はいずれにも当たらないから,これらが「強制の処分」(197条1項ただし書)に当たれば,令状なくされた以上,違法となる。そこで,強制処分の意義が問題となる。
 思うに,同項ただし書が強制処分を法定し令状主義に服させた趣旨は,重要な権利・利益を制約する処分について,国会が定めた類型と裁判官の事前審査を要求する点にある。よって,強制処分とは,個人の意思を制圧し,身体,住居,財産等に制約を加えて強制的に捜査目的を実現する行為など,特別の根拠規定がなければ許容することが相当でない手段をいい,合理的に推認される個人の意思に反して私的領域に侵入し,重要な法的利益を侵害する処分はこれに当たると解する(最決昭和51年3月16日,最大判平成29年3月15日参照)。
 また,任意処分であっても,何らかの権利・利益を侵害するおそれがある以上,その侵害の内容・程度と,捜査目的を達成するために当該手段を採る必要性とを比較衡量し,具体的状況の下で相当と認められる限度においてのみ許容される(197条1項本文,前掲最決昭和51年3月16日参照)。なお,撮影の適否に関する判例(最大判昭和44年12月24日,最決平成20年4月15日)は,強制処分性を明示的に判断することなく,この枠組みで適法性を判断している。
(2) 捜査①について
ア 捜査①が制約するのは,みだりに容ぼう・姿態を撮影されない自由(憲法13条,前掲最大判昭和44年12月24日参照)であり,その内実は,容ぼうや身体的特徴を記録・保存され,他の資料と照合されない利益である。
 もっとも,撮影場所は不特定多数の客が出入りする喫茶店であり,人は他の客から容ぼう等を観察されること自体を受忍せざるを得ない。撮影されたのも外部から見える首右側や飲食する様子である。よって,重要な法的利益を侵害するとはいえず,捜査①は任意処分である。
イ 次に,比較衡量について見ると,本件アパート201号室は密売拠点との情報があり,9月16日には同室から出てきた人物から甲が封筒を受け取り,甲の本件かばんから覚醒剤が発見されている。同室の賃貸借契約の名義人である乙には覚醒剤所持の前科があり,深夜の午前1時30分頃に同室へ入った男性の顔は乙と「極めて酷似」していた。よって,同男性が乙であると疑う合理的な理由があり,同人を特定する必要があったといえる。
 そして,顔だけでは特定できず,決め手は前科記録上の首右側の「小さな」蛇のタトゥーの形状であった。目視では前科記録と照合できる資料が残らず,静止画では,着席して飲食し首の向きが変わる男性の小さなタトゥーの形状を確実に捉えられるとは限らない。そのため,短時間の動画で記録する必要があった。
 他方,侵害の程度を見ると,撮影は全体で約20秒にとどまり,少し離れた席から店長の承諾を得て行われた。飲食の様子や後方の客が映ってはいるものの,短時間の撮影に不可避的に伴う付随的なものにすぎない。
 したがって,捜査①は,必要性に比して侵害の程度が小さく相当と認められ,適法である。
(3) 捜査②について
ア 捜査②は,捜査①と比べ,目的が乙の特定ではなく組織的密売の実態解明であり,期間・態様も約2か月間毎日24時間の継続撮影である。制約されるのも,容ぼうにとどまらず,住居への出入りの状況や訪問者という交友関係,さらには開扉時の住居内部である。
 そこで,捜査②は強制処分に当たるか。本小問では確かに,住居は憲法35条が保障する私的領域の中核であり,その内部まで反復して撮影する継続的,網羅的な記録は,私的領域への侵入として強制処分に当たるとも思える。
 しかし,撮影の主な対象は,公道から見通せる玄関ドアと共用通路であり,出入りする者は通行人から観察されること自体を受忍せざるを得ない。撮影は所有者及び管理会社の承諾を得た向かいのビルからされ,乙らの住居や所持品に機器を装着したものでもない。住居内部も,ドアの開閉に伴って公道からも不可避的に見え得る範囲が映り込んだにすぎない。よって,捜査②は私的領域への侵入とまではいえず,任意処分にとどまる。
イ では,捜査②は相当と認められる限度にあるか。
 まず,乙は既に特定され,201号室を拠点とする密売の嫌疑は濃い。覚醒剤の営利目的所持(覚醒剤取締法41条の2第2項)等の組織的密売は重大であり,共犯関係や搬入状況を解明する必要は大きい。そして,玄関ドアは幅員約5メートルの公道に面し,ドア横には公道を見渡せる腰高窓もあるため,気付かれずに張り込んで間断なく監視することは困難であり,カメラによる監視の必要性は高い。
 しかし,捜査②は,10月3日から12月3日までの約2か月間,毎日24時間撮影を続けたものであり,乙ら以外の訪問者や共用通路を通る者の行動まで網羅的に蓄積している。
 しかも,ドアが開けられるたびに住居内部が反復して記録されているのに,画角の調整等によりこれを避ける措置はとられていない。出入りの状況を把握する目的であれば,撮影する時間帯や期間を区切り,必要性を見直しながら行うことができたのに,その限定もない。かかる侵害は,前述した必要性を考慮しても,捜査目的を達成するために必要な限度を超えているといえる。
 したがって,捜査②は相当と認められる限度を超え,違法である。
 なお,捜査②を強制処分と解すれば,検証として裁判官の令状を要するのに,これを得ていない以上,同じく違法である。

以上

3 出題の趣旨・採点実感を踏まえた解説

(1) 答案と評価項目の対応

答案の1(1)は番号1・14,1(2)は番号2〜4,1(3)は番号5〜8,1(4)は番号9・10,1(5)は番号10〜13に対応する。
答案の2(1)は番号15・16・20,2(2)は番号17・21・22,2(3)は番号18・19・23〜27に対応する。
各項目の括弧書きに掲げた,採点実感が問題視した書き方にも当たらないように書いた。
答案全体の番号28は,〔設問2〕の各段落で,規範を示した後に事実の意味を評価してから適否を結論付けることで満たすようにした。

(2) 設問1

出題の趣旨は,覚醒剤の差押えそれ自体は捜索差押許可状によるもので違法ではないものの,先行する所持品検査で,Pが甲の承諾を得ずにかばんに手を差し入れて探り,注射器を取り出したことの違法が,鑑定書の証拠能力に影響するかを問題としている。
そこで答案は,まず,注射器を発見した手続を,警職法上の職務質問に付随する所持品検査(行政警察活動)と位置付け,最高裁昭和53年6月20日判決の基準に従って違法とした。
この順序を逆にして,所持品検査の性質を示さずに刑訴法197条1項ただし書の「強制の処分」の意義から論じる答案は,採点実感が問題視している(番号2の括弧書き)。

派生証拠の証拠能力については,出題の趣旨が,違法性の承継論,毒樹の果実論,派生証拠にも端的に排除法則を適用する考え方を挙げ,どの立場でもよいが,自説とその論拠,自説と整合する当てはめを求めている。
答案は,注射器それ自体は差し押さえられず,その発見の結果が令状請求という後行手続に利用されたという本問の事実構造から,手続間の関係を問う違法性の承継論を採った。
承継論を採る以上,「違法が証拠に承継される」と説明したり,先行手続の違法の重大性だけを検討したりせず(番号10の括弧書き),後行手続である捜索差押えが先行手続の違法を帯びるかを,同一目的・直接利用(最高裁昭和61年4月25日判決)で判断し,その後行手続の違法の重大性を検討した。

捜査報告書①②について,出題の趣旨と採点実感は,どの立場でも丁寧な検討が必要であるとし,これに触れずに「令状主義に反するから重大な違法」と結論付ける答案を問題視している(番号12の括弧書き)。
答案は,報告書①が違法な所持品検査と無関係な疎明資料であり,これだけでも令状が発付され得たという証拠能力を肯定する方向の事情を先に認めた上で,報告書②の不記載が令状裁判官に違法を審査する機会を失わせた点を,最高裁平成15年2月14日判決(違法を糊塗する虚偽記載等)及び最高裁平成21年9月28日決定(潜脱の意図の有無)との対比で評価した。

(3) 設問2

採点実感は,各ビデオ撮影が検証に類似する性質を持ち,無令状の検証は刑訴法218条3項と220条に規定されているだけであるから,強制処分に当たれば令状なく行われた撮影は違法になる,という問題の所在を示す答案を評価している(番号16)。
答案の2(1)の冒頭はこれに当たる。

出題の趣旨は,任意処分の限界を,侵害される権利・利益の内容・程度と,目的を達成するために当該手段を採る必要性との比較衡量で判断するとしており,採点実感は,最高裁昭和51年3月16日決定を一般原則のように扱って必要性・緊急性・相当性を漫然と列挙する答案を問題視している(番号20の括弧書き)。
答案は,比較衡量の形で規範を立て,最高裁平成20年4月15日決定は当てはめの比較対象にとどめた。

【捜査①】については,喫茶店という場所の公共性だけで相当性を認めず(番号22の括弧書き),目視(照合できる資料が残らない)や写真(首の向きが変わる中で小さなタトゥーの形状を確実に捉えられるとは限らない)ではなく,短時間の動画で記録する必要性を書いた(番号22)。

【捜査②】については,【捜査①】との違い(目的,期間・態様,制約される利益)を冒頭に置き(番号23),住居内部の映り込みを,ドアの開閉に伴って公道からも不可避的に見え得る範囲と評価して任意処分にとどまるとした上で(番号18),約2か月間毎日24時間の撮影による第三者を含む行動の蓄積と住居内部の反復記録を,張り込みが困難であるという必要性と比較衡量した(番号20・24〜27)。
「私的領域への侵入」という言葉や撮影期間の長さだけで強制処分又は違法とする答案(番号18・27の括弧書き)と,住居内部が見えている点に全く配慮しない答案(番号26の括弧書き)は,いずれも採点実感が問題視している。
さらに採点実感は,強制処分の意義や任意処分としての適法性の限界を論じないまま,事例中に現れた事情をただ書き写して結論付ける答案を,「不良の水準」の〔設問2〕の例に挙げている(番号28)。

(4) 結論の許容幅と扱わなかった事項

鑑定書の証拠能力について,報告書①の存在と司法審査の介在を重く見て,最高裁平成15年2月14日判決の覚醒剤の部分と同様に関連性は密接でないとし,証拠能力を肯定する答案も成り立つ。
【捜査②】について,必要性の高さと代替手段の乏しさを重く見て適法とする答案や,住居内部の撮影を重く見て強制処分(検証)に当たり令状がない以上違法とする答案も成り立つ。
いずれの場合も,採らなかった見方の論拠を示し,自説の論拠で手当てすることが求められる。

捜査機関の嘱託による鑑定書の伝聞法則上の扱い(刑訴法321条4項の準用。最高裁昭和28年10月15日判決)は,採点実感が,弁護人の証拠意見からすれば争点は排除法則であることが明らかであるのに伝聞法則を全面的に展開する答案を不良としているため(番号14),答案では扱わなかった。
甲の現行犯逮捕の適法性,甲の警察署での滞留(留め置き)及び【捜査②】の映像の証拠能力も,設問の対象ではないので扱わなかった。

(5) 問題文の事実の使い道

本問の事実は,ほぼすべてが特定の要件又は考慮要素のために置かれている。
例えば,甲の「任意じゃないんですか」という発言は承諾がないことと拒絶の意思の明示(違法の重大性),捜査報告書①の記載は違法と無関係な疎明資料(関連性を弱める方向),捜査報告書②の不記載は違法の糊塗(違法を重大とする方向),「約20秒」と,10月3日から12月3日までの「毎日24時間」は侵害の程度,幅員約5メートルの公道と腰高窓は張り込みの困難(必要性),玄関内側の映り込みは住居内部の撮影(強制処分該当性と相当性)に使う事実である。
同じ評価対象について反対方向の事実があるときは,「確かに,〜とも思える。しかし,〜。」の形で両方を評価することになる。

(6) 公式資料を読まずに作った答案で落ちた点

本記事の作成では,AIが出題の趣旨・採点実感を読まずに答案を作り,その答案を固定した上で公式資料と照合した。
本記事の評価単位で測ると,読まずに作った答案は,論点の発見率で約9割,重みを付けた網羅率で約75%であった(この数値も法務省の配点ではない)。
落ちた点は次のとおりであり,いずれも本問に限らず落ちやすい点である。

①ビデオ撮影が検証の性質を持ち,無令状の検証を許す規定に当たらないから強制処分なら違法になる,という問題の所在を書かなかった(番号16)。
②違法収集証拠排除法則の根拠のうち一つを,字数を減らす際に削った(番号5)。
③最高裁昭和53年9月7日判決が証拠物に関する判示であることを規範の理由に入れなかった(番号8)。
④派生証拠について判例を二つ並べるだけで,自説(理論の名称と論拠)を示さず,当てはめで二つの考え方を混在させた(番号9・10)。
⑤任意処分の限界を比較衡量の形で書かず,判例の当てはめの文言で規範を代用した(番号20)。
⑥目視や写真ではなくビデオを用いる意味を書かなかった(番号22)。
⑦【捜査①】と【捜査②】の違いを対比しなかった(番号23)。

他方,捜査報告書①②の意味(番号11・12),住居内部の映り込みの評価(番号18・26)及び【捜査②】の必要性の具体的な検討(番号27)は,読まずに作った答案でも書けていた。

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⑪法務省HPの司法試験・予備試験の資料の所在―年度別の実施・結果・出題趣旨・採点実感のページ一覧(AI作成)

第7 出典及び確認状態

1 公式資料

①法務省「令和6年司法試験論文式試験問題集[刑事系科目第2問]」(問題PDFの5頁〜8頁)
②法務省「令和6年司法試験論文式試験出題の趣旨」(刑事系科目〔第2問〕。PDFの21頁〜23頁)
③法務省「令和6年司法試験の採点実感(刑事系科目第2問)」(刑事系科目のPDFの7頁〜10頁)
④法務省「令和6年司法試験の実施日程等について(令和5年8月2日司法試験委員会決定)」
⑤法務省「令和6年司法試験の結果について」,「令和6年司法試験の採点実感」

2 法令

①刑事訴訟法197条,218条,220条,321条
②警察官職務執行法2条
③日本国憲法13条,31条,35条
④覚醒剤取締法19条,41条の2,41条の3
いずれもe-Gov法令検索で,令和6年7月13日時点の条文を確認した。

3 裁判例

①最高裁昭和28年10月15日判決(刑集7巻10号1934頁)
②最高裁昭和44年12月24日大法廷判決(刑集23巻12号1625頁)
③最高裁昭和51年3月16日決定(刑集30巻2号187頁)
④最高裁昭和53年6月20日判決(刑集32巻4号670頁)
⑤最高裁昭和53年9月7日判決(刑集32巻6号1672頁)
⑥最高裁昭和61年4月25日判決(刑集40巻3号215頁)
⑦最高裁平成15年2月14日判決(刑集57巻2号121頁)
⑧最高裁平成20年4月15日決定(刑集62巻5号1398頁)
⑨最高裁平成21年9月28日決定(刑集63巻7号868頁)
⑩最高裁平成29年3月15日大法廷判決(刑集71巻3号13頁)

4 確認状態

(1) 照合の方法

出題の趣旨は刑事系科目〔第2問〕の部分を,採点実感は刑事系科目第2問の部分を全て読み,第4の各項目の根拠とした記述が抽出テキストに実在することを機械的に照合した。
裁判例は,いずれも裁判所ウェブサイトの判決全文で,答案と本記事で用いた判示の文言を確認した。
①の判決は,答案では用いず,第5の3(4)で触れるだけである。

(2) 公式資料と一次資料の区別

本記事の評価項目は公式資料の記述に基づくが,判例の判示と条文は,判決全文と試験時点の条文で別に確認した。
その結果,次の点に留意が必要である。

①出題の趣旨と採点実感は,【捜査②】の撮影場所を「近隣のマンションの一室」としているが,問題文では「3階建てのビル」の2階の部屋である(結論への影響はない)。
②出題の趣旨が排除の根拠として挙げる「司法の廉潔性の保持」は,最高裁昭和53年9月7日判決の判決文にはない語であり,学説上の根拠付けである。
③派生証拠の「違法性の承継論」「毒樹の果実論」という名称も判例の用語ではなく,判例は,同一目的・直接利用(最高裁昭和61年4月25日判決),密接な関連(最高裁平成15年2月14日判決),関連性(最高裁平成21年9月28日決定)という言葉で判断している。
④撮影の適否に関する最高裁昭和44年12月24日大法廷判決と最高裁平成20年4月15日決定が強制処分性を明示的に判断していないという出題の趣旨の記述は,両判決の判決文と一致する。
⑤採点実感が挙げる刑訴法218条3項及び220条は,試験時点の条文(218条3項は身体の拘束を受けている被疑者の写真撮影等,220条は逮捕の現場での検証等)と一致する。

(3) 残る不明点

被告人方の玄関付近を継続的に撮影した捜査の適否を判断した下級審の裁判例(東京地裁平成17年6月2日判決,さいたま地裁平成30年5月10日判決等とされるもの)は,裁判所ウェブサイトに掲載がなく,判決文を確認できなかったため,答案と本記事では用いていない。
掲載がないことは不存在を意味せず,【捜査②】の当てはめの補強材料になり得るが,答案の結論には影響しない。
その後,令和8年10月4日に,東京高裁昭和63年4月1日判決(判例秘書の判例番号 L04320116),東京地裁平成17年6月2日判決(同 L06034610)及びさいたま地裁平成30年5月10日判決(同 L07350440)を判例秘書で確認し,その内容を捜査機関による写真・動画撮影はどこまで許されるか-公道・店舗内・私道・私的領域(AI作成)の第4の5で紹介した。
いずれも【捜査②】と同じく自宅の玄関付近の継続的な撮影を扱うもので,撮影期間,住居内部の映り込み及び撮影を続ける必要性の推移によって結論が分かれている。