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令和5年司法試験民事系科目第2問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した43項目と5段階の重み付け(AI作成)

第1 この記事の対象と結論

本記事は,令和5年司法試験民事系科目第2問(商法・会社法)について,法務省の出題の趣旨・採点実感から独自に抽出した43項目と,5段階の重み付け,模範答案及び解説を示す。

対象は民事系問題PDFの5頁~8頁であり,出題の趣旨と採点実感に基づいて整理した。

問題の中心は,一人会社の取締役責任と,準共有株式の議決権行使,決議取消訴訟の原告適格・訴えの利益である。重み5は11項目であり,唯一株主の意味,両小問の整合性,黙示免除の具体的検討,会社法106条と共有法の関係,瑕疵の連鎖が中心となる。

掲載答案は,設問1の小問1では任務懈怠を否定し,予備的に黙示免除も検討する。小問2では債権者への影響を踏まえて責任を肯定する。設問2の小問1では取消請求を認め,小問2では有効な後任選任により訴えの利益が消滅するとする。許容される構成の一例であり,唯一の正解ではない。

第2 評価項目の示し方と重み付けの基準

1 評価項目の示し方

一項目につき一つの判定対象とし,答案の何を評価するかが分かる形に言い換えた。番号は記事全体で連続させ,既存の項目IDも残している。根拠欄は各公式PDFの通し頁と,第2問内の節を示す。

「記載なし」は,本問の対象範囲を読み終えたうえで当該事項の明示を確認できなかったことを示す。「間接」は,一般的な要件又は具体的検討の要求から,本記事で判定対象を具体化したものを示す。未確認や閲覧禁止を「記載なし」とは扱わない。

「必須」「高評価」「負例」「許容分岐」は重みと別の区分である。高評価項目を重み5とした場合も,全答案の必須事項へ格上げする意味ではない。許容分岐は採用する構成に応じた事項であり,全ての併記を求めるものではない。

2 5段階の重み付けの基準

重みは本記事の独自分析であり,法務省の公式配点・項目別採点基準・予測得点ではない。

①重み5:採点実感が評価の分かれ目とした事項,又は答案の骨格そのもの。
②重み4:出題の趣旨が検討を求め,採点実感も取り上げた事項。
③重み3:どちらか一方が明示する中核の理由付け。
④重み2:一方が軽い表現で触れる補強の事項,又は典型的な誤りとして指摘された事項。
⑤重み1:一方が控えめに触れるだけの事項。

重み4の根拠は両資料の対応箇所に,重み5の根拠は答案の骨格又は評価の分かれ目に照らして確認する。段階ごとの件数割当てはせず,重みの合計から合格可能性を算定しない。

第3 本問の概要

設問1は,甲社の唯一株主で代表取締役でもあるAが,個人的な事情から会社に不相当な価格で土地を購入させた事例である。小問1は後に株主となったGによる会社法423条1項の責任追及とAの反論,小問2は会社債権者である乙社の会社法429条1項の請求を検討する。両小問では会社の財務状態が異なる。

設問2では設問1の土地購入・債務負担・Gへの株式譲渡等を引き継がない。Aの4万株をHとIが各2分の1の割合で準共有しているが,権利行使者の指定・通知はない。小問1はHの単独行使による役員選任とJの後続総会招集,小問2はBらの再任とBの後続総会招集,H・Iの共同行使を検討する。

設問1と設問2の配点割合は40対60である。設問1では責任追及等の訴えは適法,売買前の会社法所定手続は履践済みという前提であり,これらの欠缺を勝手に問題としない。設問2では原告適格,訴えの利益及び本案を区別する。

第4 評価項目と重み

1 設問1・小問1

番号評価項目重み出題の趣旨採点実感
1【必須・A01】423条1項の任務懈怠・会社損害・因果関係に沿って責任を検討する4PDF9頁2(2)PDF8頁3(1)ア
2【必須・A02】善管注意義務・忠実義務の本質を論じる5PDF9頁2(2)PDF7~8頁3(1)ア
3【必須・A03】唯一株主の意向に沿うという特殊性を任務懈怠の有無に反映する5PDF9頁2(2)PDF8頁3(1)ア・10頁3(1)イ
4【必須・A04】資金枯渇・将来資金繰り危険がない前提を債権者保護の要否に用いる4間接・9~10頁2(2)(3)(両小問の違い)PDF14頁3(3)
5【許容分岐・A05】任務懈怠否定構成又は別人格等による肯定構成を理由と一貫させる(両説併記は必須ではない)3PDF9頁2(2)PDF8頁3(1)ア・10頁3(1)イ
6【必須・A06】Aの立場から唯一株主を理由とする反論とその当否を述べる5PDF10頁2(2)PDF9頁3(1)ア・14~15頁3(3)
7【高評価・A07】任務懈怠が否定されない場合に備え,424条による総株主同意の責任免除を予備的に検討する4PDF10頁2(2)PDF9頁3(1)ア
8【高評価・A08】明示免除は不明として,Gへの譲渡前に黙示免除の意思表示があったかを具体的に検討する5PDF10頁2(2)PDF9頁3(1)ア・10頁3(1)イ
9【許容分岐・A09】間接取引構成を採る場合,423条3項は推定であり,唯一株主の反論を残す1PDF10頁2(2)PDF8~9頁3(1)ア
10【負例・A10】所定の取締役会手続未履践を勝手に問題としない2PDF10頁2(2)PDF9~10頁3(1)ア
11【負例・A11】適法提訴の前提の下で代表訴訟の訴訟要件を長論しない2PDF9頁2(2)PDF9~10頁3(1)ア
12【負例・A12】売買効力・代表権濫用を責任問題の主論点にしない2記載なし(本問の実読範囲)PDF10頁3(1)ア
13【負例・A13】経営判断の原則だけで終わり,唯一株主の意味を落とさない2間接・10頁2(2)(反論の中心)PDF9頁3(1)ア・14頁3(3)

2 設問1・小問2

番号評価項目重み出題の趣旨採点実感
14【必須・A14】429条1項の要件に沿って第三者への責任を検討する4PDF10頁2(3)PDF7~8頁3(1)ア
15【必須・A15】判例構成では会社に対する任務懈怠が悪意重過失の対象となる4PDF10頁2(3)PDF7頁3(1)ア
16【必須・A16】債務弁済に支障を来す財務悪化の事実を評価する4PDF10頁2(3)PDF8頁3(1)ア
17【必須・A18】売買行為の任務懈怠から乙の回収不能に至る因果関係と損害を評価する4間接・10頁2(3)(責任要件)間接・7頁2及び8頁3(1)ア(具体的検討・責任要件)
18【負例・A19】唯一株主の考察なく債務負担又は預金取崩しだけで任務懈怠を肯定しない2間接・10頁2(3)(唯一株主の意味)PDF8頁3(1)ア

3 設問2・原告適格

番号評価項目重み出題の趣旨採点実感
19【必須・B01】106条の指定・通知未了が原告適格の問題を生むことを示す5PDF11頁3(2)PDF11頁3(2)ア・13~14頁3(2)イ
20【必須・B02】判例を前提に,Hの行使容認とIの提訴資格否定の使い分けを特段事情として評価する4間接・11頁3(2)(特段の事情)PDF13頁3(2)イ(ア)
21【許容分岐・B03】保存行為構成を採る場合は単独提訴を認める理由を示す3間接・11頁3(2)(判例と異なる構成)PDF11頁3(2)ア・13頁3(2)イ(ア)
22【負例・B04】Iが相続分相当の2万株を単独保有するとの誤りを避ける2記載なし(本問の実読範囲)PDF11頁3(2)ア・14頁3(2)イ(イ)
23【負例・B05】Hの議決権行使が無効だからIに適格があるという段階混同を避ける2記載なし(本問の実読範囲)PDF11頁3(2)ア・14頁3(2)イ(イ)
24【負例・B06】相続取得の対抗問題又は126条3項と取り違えない2記載なし(本問の実読範囲)PDF11頁3(2)ア

4 設問2・訴えの利益

番号評価項目重み出題の趣旨採点実感
25【必須・B07】形成訴訟の利益が通常認められるが任期満了・新役員選任で原則消滅することを示す4PDF11頁3(3)PDF11~12頁3(2)ア・13頁3(2)イ(ア)
26【負例・B08】同じ者の再任によって先行決議の瑕疵が治癒されると説明しない2記載なし(本問の実読範囲)PDF11~12頁3(2)ア
27【必須・B09】先行取消し→取締役会の代表者選定無効→後続招集瑕疵→取消利益という連鎖を論じる5PDF11頁3(3)PDF12頁3(2)ア・13頁3(2)イ(ア)
28【必須・B10】従前適法に選任されたB・C・Dが346条1項の権利義務取締役となることを示す4PDF11頁3(3)PDF12頁3(2)ア・13頁3(2)イ(ア)
29【必須・B11】Bが351条1項の権利義務代表取締役として後続総会を招集できることを示す4PDF11頁3(3)PDF12頁3(2)ア・13頁3(2)イ(ア)
30【必須・B12】先行瑕疵が後続招集に連鎖しないことを取消利益に接続する5PDF11頁3(3)PDF12頁3(2)ア・13頁3(2)イ(ア)
31【必須・B13】HI共同行使・会社同意による後任選任の適法性を検討する(条文からの具体化)3間接・11頁3(3)(具体的事実の評価)間接・7頁2(事案に即した検討)
32【負例・B14】Iの議決権行使・配偶者選任だけから取消利益消滅を導かない2記載なし(本問の実読範囲)PDF12頁3(2)ア・14頁3(2)イ(イ)

5 設問2・本案

番号評価項目重み出題の趣旨採点実感
33【必須・B16】106条本文の特別規律を会社同意が排除し,共有法への適合は別に必要と示す5PDF11~12頁3(4)PDF12~13頁3(2)ア・13~14頁3(2)イ
34【必須・B17】議決権行使が原則管理行為であるため持分価格の過半数で決することを説明する5PDF11頁3(4)PDF12~14頁3(2)ア・イ
35【必須・B18】Hの持分1/2・HIの合意なしを過半数不充足として当てはめる4PDF11頁3(4)PDF12~14頁3(2)ア・イ
36【必須・B19】違法な票の取扱い又は341条定足数違反を831条1項1号に接続する5PDF12頁3(4)PDF13頁3(2)ア・14頁3(2)イ(ア)
37【必須・B20】議決権の個数・重大性を踏まえ裁量棄却の可否を検討する4間接・12頁3(4)(取消事由)PDF13頁3(2)ア
38【負例・B21】共有法違反の場合に会社の同意自体が無効だとする構成を避ける2記載なし(本問の実読範囲)PDF13頁3(2)ア・14頁3(2)イ(イ)
39【負例・B22】全ての株主権行使が常に持分過半数を要すると一般化しない2間接・11頁3(4)(議決権の管理行為性)PDF13頁3(2)ア
40【負例・B23】役員候補者の議決権行使を当然に違法としない2記載なし(本問の実読範囲)PDF13頁3(2)ア・14頁3(2)イ(イ)
41【許容分岐・B24】議決権行使を保存行為とする等の非判例構成では,判例を踏まえ説得的な理由を示す3PDF12頁3(4)PDF12頁3(2)ア

6 答案全体

設問1の両小問を通じた理由付けの整合性と,設問2の訴訟要件・本案の検討段階を横断して確認する。次の各項目の適用範囲は,それぞれの設問に限られる。

番号評価項目重み出題の趣旨採点実感
42【必須・A17】小問1と異なる任務懈怠判断を,債権者保護が義務内容に入ることにより整合させる5PDF10頁2(3)(4)PDF8頁3(1)ア・10頁3(1)イ
43【負例・B15】本案認容の可否を訴えの利益の基準にしない2記載なし(本問の実読範囲)PDF12頁3(2)ア

7 重みの分布

重み5は11項目,重み4は13項目,重み3は4項目,重み2は14項目,重み1は1項目である。総項目数は43,重みの合計は148である。合計は単純な集計値であり,公式得点ではない。

重み5は,2番(A02),3番(A03),6番(A06),8番(A08),19番(B01),27番(B09),30番(B12),33番(B16),34番(B17),36番(B19),42番(A17)である。唯一株主と義務の本質,Aの反論,黙示免除,原告適格,共有法上の意思決定,取消事由及び瑕疵の連鎖を具体的に論ずる箇所として位置付けた。答案との対応は第5の3で示す。

黙示免除の項目は,採点実感がより実務的な深い検討として評価した高評価項目である。11項目をすべて同じ意味で必須とするものではなく,採用した法律構成とその論述の深さを区別して読む必要がある。

第5 模範解答

1 答案の前提と表記

公式実施日程による実施日は令和5年7月13日である。問題文の指示に従い試験時施行法を基準とし,問題中の平成29年等の行為当時の法令を適用するものではない。民法252条は令和5年4月施行の改正後の規定による。

答案は「1→(1)→ア」の階層を基本として,問題提起,規範,当てはめ,結論の順に論ずる。法令の条文番号に会社法との記載がない場合は会社法を指し,民法はその旨を示す。判決への言及は確認した法廷意見の理由に基づき,補足意見を法廷意見と同一視しない。

枠内答案は見出し・「以上」を含み,空白と改行を除いて5136字である。黙示免除,原告適格の特段の事情及び後続決議との先決関係には本記事の当てはめ・推論を含む。

2 答案

1 設問1・小問1

(1) Gの請求は,Aが甲社に対して負う会社法423条1項の責任を追及するものである。
責任追及等の訴えは適法との前提なので,その提訴要件は論じない。
問題は,本件土地の購入がAの任務懈怠に当たり,甲社に4000万円の損害を生じさせたといえるかである。

取締役と会社の関係は委任に従い(330条),取締役は善管注意義務(民法644条)及び忠実義務(355条)を負う。
会社財産を取締役個人の生活上の利益のために不合理に費消することは,通常,これらの義務に反する。
本件では,AにはEの要求に応じる法的義務がなく,購入の目的は自分の平穏な生活の確保である。
土地は会社で使用されず,Aは評価額が高くとも1000万円であると知りながら5000万円を支出した。
会社の事業上の利益に結び付かない4000万円の過大支出であり,通常なら任務懈怠と相当因果関係のある損害が認められる。

(2) Aは,取締役会の決議等の会社法所定の手続を履践したことを反論できる。
しかし,意思決定手続の適法性と,決定内容の善管注意義務・忠実義務適合性とは別問題である。
取締役会の承認が,会社に対する賠償責任を当然に免除するものでもない。
さらに,経営判断には裁量が認められるとしても,個人的な紛争解消のために,相場の5倍と知って不要な土地を買わせた本件は,企業利益のための合理的な判断とはいえない。
これらの反論だけでは責任を否定できない。

(3) もっとも,Aは,行為当時には甲社の唯一の株主であり,総株主の意思に沿う行為であったと反論できる。
会社と株主は別法人格であって,唯一株主が会社の財産を当然に個人財産として扱えるわけではない。
他方,会社に対するこれらの義務は,会社の利益を通じて株主の共同利益を保護する。
総株主が内容を理解して同意し,債権者等の利益を害するおそれもない行為についてまで,株主の意思に反する会社利益を抽象的に設定して任務懈怠とする必要はない。
424条が総株主の同意による責任免除を認めることも,この利益処分の可能性を支える。
ただし,同条による既発生の責任の免除と,行為時点で義務違反が成立しないこととは区別すべきである。

本件では,土地購入時,Aが発行済株式6万株全部を有し,価格と購入目的を認識して自ら購入を実行した。
総株主の同意がある。
本小問の前提では経営は順調で,購入後も運転資金は枯渇せず,近い将来の資金繰り悪化も予想されなかった。
債権者の利益を害するおそれはなく,この場合にはAの会社に対する任務懈怠を否定するのが相当である。

(4) なお,Aは,任務懈怠否定の反論が採用されない場合に備え,424条による責任免除も予備的に主張できる。
免除には総株主の同意を要するが,明示に限られず,黙示の意思表示もあり得る。
問題文には明示の免除はないから,唯一株主だったAがGへの株式譲渡前に黙示に免除したかが問題となる。
Aは購入目的と過大な価格を承知し,自ら会社に支出させ,購入後も土地を放置した。
この経緯は,自己の利益のための支出を了承し,自己への賠償請求を会社に残す意思がなかったことを推認させる。
他方,取引への同意と既発生責任の免除は異なり,購入を決めたことだけで当然に免除とはいえない。
購入後の取扱いも併せ,本件では譲渡前に黙示の免除があったと解する。
G取得後にはGの同意なしに免除できないが,後の取得が先の免除を覆すものではない。
この予備的構成によっても請求は認められない。

Gの1万株の取得は翌年1月で,土地購入時には株主でなかった。
Gが後に加わったことにより,購入時には存在しなかった任務懈怠が遡って生じるわけではない。
これはGが代表訴訟を提起できないという意味ではなく,甲社にAへの実体的損害賠償請求権が成立しなかったという意味である。
したがってGの請求は認められない。

2 設問1・小問2

(1) 乙社は会社債権者であり,429条1項の「第三者」に当たる。
同項は,会社の活動が取締役の職務執行に依存することに鑑み,第三者保護のため特に認められた法定責任である。
その要件は,取締役の会社に対する任務懈怠,その任務懈怠についての悪意又は重大な過失,第三者の損害及び相当因果関係である。
悪意・重過失の対象は,第三者への加害自体ではなく会社に対する任務懈怠である。
会社に損害を与えた結果,債権者に損害を生じさせる間接損害も対象となる。

(2) 本件債務を負った平成29年春の時点では,営業利益は減少していたものの,運転資金は枯渇していなかった。
Aは不足時に定期預金の取崩し又は担保化により支払う予定だった。
したがって,この時点で支払不能を認識して乙社から商品を取得したと決め付け,その債務負担を任務懈怠とすることはできない。

問題となるのは,その後の土地購入及び代金支払である。
前述のとおり,会社に用途のない土地を,個人の生活上の利益のため,評価額より4000万円高く買う行為は,通常,善管注意義務・忠実義務に違反する。
本小問では,代金支払により甲社は実質的債務超過となり,担保価値もないため短期融資を受けられず,事業継続不能に至った。
唯一株主Aの同意があっても,債権者の引当財産と支払原資を害することまで正当化できない。
会社と唯一株主の利害の一致が債権者に対しては成立しないため,小問1とは異なり任務懈怠が認められる。

Aは,土地の価格が高くとも1000万円であると知り,個人の資金調達が難しいことを理由に会社の定期預金を使った。
また,この預金を会社債務の支払原資とする予定だった。
少なくとも,その原資を不合理に失わせる任務懈怠について重大な過失があり,事情を総合すれば悪意も認められる。

(3) 乙社の3000万円の債権は履行期に支払われず,甲社は事業を継続できなくなった。
預金が維持されれば債務履行に充てられたのに,不合理な支払により原資が失われ,土地を担保にした資金調達もできなかった。
任務懈怠から会社の財産減少を経て乙社の回収不能に至る相当因果関係が認められる。
会社に対する損害4000万円と,乙社の回収不能額3000万円は別の損害である。
乙社がAに請求するのは後者なので,3000万円の請求は認められる。

3 設問2・小問1

(1) Iの原告適格

本小問では設問1の土地購入及びGへの譲渡等を引き継がない。
Aの4万株はH・Iが各2分の1の割合で準共有し,H・Iが各2万株を単独所有するのではない。

831条1項の取消訴訟を提起できる「株主等」に準共有株主も含まれるが,株式の権利行使は原則として106条の規律を受ける。
権利行使者の指定及び通知を欠く準共有者は,特段の事情がない限り,株主権を行使する原告適格を欠く。
訴訟提起を常に保存行為として単独で許すことは,会社関係を画一的に処理する同条の趣旨を害する。

しかし,甲社はHに準共有株式全部の議決権行使を認めて取締役選任決議を成立させた一方,その適法性を争うIにだけ指定・通知の欠如を主張する立場にある。
準共有株式は全6万株のうち4万株と支配的割合を占め,その行使が決議の成立に直接関わる。
会社事務の便宜を図る106条を,準共有者の一方に有利な決議を維持し,他方の司法的救済を妨げるために使い分けることは信義則に反する。
この特段の事情により,Iの原告適格を認める。
平成2年12月4日判決は全部の株式の準共有に関するが,本件も決議を支配する準共有株式につき同じ矛盾がある点で,その理由が妥当する。

(2) 本件決議1の瑕疵

ア 106条本文は権利行使者一人の指定・通知を求め,ただし書は会社の同意がある場合に本文の適用を排除する。
しかし,それは共有者間の意思決定に代わって会社が一方を選べるという意味ではない。
民法264条による共有規定が適用され,通常の取締役選任の議決権行使は株式の処分又は内容変更に当たらない管理行為なので,持分価格の過半数で決する(同法252条1項)。
平成27年2月19日判決も,会社の同意だけでは共有法に反する行使は適法とならないとする。

イ Hの持分は2分の1にすぎず,Iとの協議はまとまっていない。
過半数を満たさず,Hによる4万株全部の議決権行使は,Bが甲社を代表して同意しても不適法である。
Iの欠席は同意と同視できない。
決議方法に法令違反があり,831条1項1号の取消事由となる。

ウ 役員選任には,定款による定足数の変更がないので,341条により議決権の過半数を有する株主の出席を要する。
本件では全6万株の議決権を母数とし,適法な出席はB1万,C・D各5000の合計2万で,3万を超えず定足数にも欠ける。
議決権の取扱いの違法も,全体の3分の2に当たる4万株に及ぶ重大なものである。
831条2項による裁量棄却には,違反が重大でなく,かつ決議に影響しないことを要するが,本件ではその要件を満たさない。
提訴は令和3年6月25日から3か月以内の9月15日で,出訴期間も満たす。

(3) 後続決議と訴えの利益

役員選任決議の取消訴訟は形成訴訟であり,原告適格を有する者には通常,訴えの利益がある。
ただし,その役員が全て任期満了で退任し,後の総会で役員が新たに選任された場合,特段の事情がない限り訴えの利益を失う(最高裁昭和45年4月2日判決)。
本件も定款の2年任期により,総会2の終結時に決議1で選任された取締役は任期満了となる。
これは同じ人物の再任によって先行決議の瑕疵が治癒されるからではなく,その後の事情の変化により先行決議を取り消す実益が失われるためである。
しかし,後続決議がされたという外形だけでは足りず,それが有効な後任選任なのかを検討する。

ア 決議1の取消判決が確定すると,その決議は遡って効力を失う。
839条の将来効の限定列挙に決議取消しは含まれず,認容判決は838条により対世効を有する。
Jは決議1によって初めて取締役になったので,取消しによって当初から取締役ではなく,代表取締役に選定する前提も失う。
従前の代表取締役はBであって,Jが346条・351条の権利義務役員として残るわけではない。

イ そこで,Jが招集した総会2は正当な権限者の招集を欠く。
全員出席総会でもなく,後続決議の適法性が回復する事情はない。
先行決議の取消しが後続決議の効力を判断する先決問題となり,取消しを求める実益が残る。
後行選挙の効力を争う訴えが併合された場合に先行選挙の取消利益の存続を認める最高裁令和2年9月3日判決の理由も,この瑕疵の連鎖を評価する上で参考となる。
ただし,本件問題は後続決議について別訴又は併合がされたとは述べていないから,その事実を補充するものではない。

ウ また総会2でもHの単独行使は不適法であり,適法な出席はBの1万株にとどまる。
全6万株の過半数を有する株主の出席を欠く。
こうした後続決議は有効な後任選任として先行決議の取消利益を失わせるものではない。
したがって本件訴えは適法で,決議1の取消請求は認められる。

4 設問2・小問2

(1) 本小問では決議1がB・C・Dの再任であり,後続総会の招集者もBである。
仮に決議1を取り消しても,B・C・Dは,その直前には適法な取締役であった。
取締役会設置会社では取締役3人以上が必要である(331条5項)。
再任が遡って効力を失えば,従前の任期満了によって法定員数を欠くので,346条1項によりB・C・Dは適法な後任者が就任するまで取締役の権利義務を有する。
Bは従前の代表取締役でもあったから,351条1項によりその権利義務も有する。
したがってBには総会2を招集する権限があり,決議1の取消しが後続決議の招集権限を失わせることはない。

(2) 総会2ではHとIが共に来場し,4万株全部の議決権を共同で行使している。
共有者全員による行使なので共有法上も適法であり,甲社が106条ただし書の同意をしたため,指定・通知が未了でも行使できる。
Bの1万株と合わせて5万株が適法に出席し,6万の過半数である3万を超える。
5万全部が賛成し,出席議決権の過半数も満たす。
C・Dの欠席は,その招集通知が適法に発せられている以上,瑕疵を生じさせない。
B・H・Kという3名を選任する決議は有効で,法定員数も満たす。

この適法な後任選任によって従前のB・C・Dの権利義務は終了する。
Iの配偶者Kが選任されたこと自体を,Iの訴訟上の権利放棄とみるのではなく,有効な後任選任により先行決議の取消しの実益がなくなったと考えるべきである。
他に先行決議を取り消す必要のある特別の事情は示されていない。
したがって訴えの利益は消滅し,本件訴えは却下される。

以上

3 出題の趣旨・採点実感を踏まえた解説

(1) 答案と評価項目の対応

2番(A02・重み5)―答案1(1)及び(3)。善管注意義務・忠実義務の根拠を示し,会社利益を通じた株主の共同利益の保護と債権者への影響を検討する。

3番(A03・重み5)―答案1(3)。唯一株主Aの意思に沿うという特殊性を,抽象的な別人格論だけで終わらせず任務懈怠判断へ反映する。

6番(A06・重み5)―答案1(3)及び(4)。Aの立場から任務懈怠否定と予備的免除を主張し,それぞれの当否を論ずる。

8番(A08・重み5)―答案1(4)。明示免除はないとして,Gへの譲渡前の認識と購入後の取扱いから黙示の意思表示を検討する。結論自体は本記事の推論である。

19番(B01・重み5)―答案3(1)。会社法106条の指定・通知を欠くことを,準共有者Iの原告適格の問題として位置付ける。

27番(B09・重み5)―答案3(3)ア・イ。先行決議取消し,Jの代表者資格の喪失,後続招集の瑕疵,取消しの実益という連鎖を順に示す。

30番(B12・重み5)―答案4(1)及び結論。Bらの権利義務役員の地位から,先行取消しがBの後続招集権限へ連鎖しないことを訴えの利益に接続する。

33番(B16・重み5)―答案3(2)ア。会社同意による106条本文の適用排除と,共有法に従った意思決定の必要性を別に論ずる。

34番(B17・重み5)―答案3(2)ア・イ。通常の取締役選任の議決権行使を管理行為とし,Hの2分の1の持分では過半数を満たさないと当てはめる。

36番(B19・重み5)―答案3(2)イ・ウ。議決権の取扱いと定足数違反を,831条1項1号の取消事由及び裁量棄却の否定へ接続する。

42番(A17・重み5)―答案1(3)と2(2)。会社の財務状態が異なるため,債権者保護が義務内容へ加わることにより両小問の異なる結論を整合させる。

重み4の事項も,責任要件の整理(1(1),2(1)・(3)),特段の事情(3(1)),任期満了と権利義務役員(3(3),4(1)),具体的な票数と裁量棄却(3(2))に対応する。条件付きの許容分岐は,採用した構成に応じて確認する。

(2) 一人会社と債権者の利益

財産を減少させた,間接取引に当たるといった形式だけで終わらず,唯一株主の意思と会社利益との関係を正面から考える必要がある。 掲載答案は,債権者を害する危険がない小問1では任務懈怠を否定し,支払原資を失わせ債権者利益を具体的に害する小問2では任務懈怠を肯定する。後者では債権者保護も義務内容に含まれることを説明している。 会社と株主は別人格であること等から両小問で任務懈怠を肯定し,小問1で黙示免除を検討する構成も公式は評価している。どちらの構成でも,同じ理論から事実の違いを説明する必要がある。

(3) 主位反論と予備的免除

任務懈怠がないとの反論が通らない場合にも備え,免除を予備的に検討することが望ましい。 購入への同意と,購入後に成立した賠償責任の免除は異なる。明示の意思表示がないことだけで免除を否定せず,Gへの株式譲渡前に黙示の免除があったかを事実から評価する。 本記事は免除を肯定する一例を示したが,その認定は解釈・推論であり,購入の実行だけから当然に免除が生じるという意味ではない。

(4) 準共有・会社同意・議決権

H・Iは4万株の各2分の1の持分を有するのであり,各2万株を単独保有するのではない。 会社法106条ただし書の同意は,同条本文の特別な方法の適用を排除する。共有者間の意思決定を会社が代行するものではない。 取締役選任についての議決権行使は通常管理行為であり,持分価格の過半数で決する。2分の1は過半数ではない。会社の同意自体が無効だとする説明と,同意があっても議決権行使が適法にならないとの説明を区別する。

(5) 訴訟要件と本案・瑕疵の連鎖

Iの原告適格は権利行使者の指定・通知と特段の事情,本案はHの議決権行使と決議方法の違法,訴えの利益は任期満了後も取消しの実益が残るかの問題である。 小問1では先行決議取消しがJの代表者資格・後続総会招集に波及する。小問2では従前のBらの権利義務資格が残るので,同じ取消しから同じ招集瑕疵を導いてはならない。 後続総会で同じ人物が再任されたから先行瑕疵が治癒される,Iの配偶者が選任されたからIは争えない,という理由だけでは足りない。

(6) 答案の弱点と扱わなかった事項

黙示免除は,購入への同意だけから当然に生じるものではない。掲載答案は購入後の取扱いも評価して免除を肯定した一例であり,株主の同意と会社の免除意思表示を認定する根拠が十分かは争い得る。公式資料は具体的検討を評価するものであり,免除肯定の結論を一義的に指定していない。

原告適格の特段の事情は,平成2年判決の理由を,本件の全株式の3分の2を占める準共有株式へ適用した本記事の解釈である。令和2年判決は協同組合の選挙で,後行選挙の効力を争う訴えが併合された事件である。本問に別訴又は併合の事実を補充していない。

間接取引を中心とする構成や,提訴・議決権行使を保存行為とする許容分岐は,掲載答案では採用していない。これらの項目があることをもって,全43項目を答案へ書き込むことが必要であるとは扱わない。所定手続の欠缺,設問1の提訴要件,売買の効力を中心とする論述も問題の指定に従って除いている。

第6 関連記事

1 同じ年度の司法試験の別の模範解答

①令和5年司法試験公法系科目第1問の模範解答・評価項目(AI作成)
②令和5年度司法試験公法系第2問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した64項目と5段階の重み付け(AI作成)
③令和5年司法試験民事系第1問(民法)の模範解答・評価項目(AI作成)
④令和5年司法試験民事系第3問の模範解答・評価項目―違法収集証拠・不利益変更禁止・参加的効力(AI作成)
⑤令和5年司法試験刑事系第1問の模範解答・評価項目―詐欺の実行着手、共謀の射程と業務妨害(AI作成)
⑥令和5年司法試験・刑事系科目第2問の模範解答・評価項目(AI作成)
⑦令和5年度司法試験論文式試験の主要7科目の模範解答(AI作成)

2 本問の模範解答と関連する山中弁護士ブログの記事

①取締役の責任免除と取引承認の違い―総株主同意・黙示免除・株主交代時の確認事項
②取締役が会社に不相当な価格で資産を買わせた場合

関連記事は実務上の確認にも役立つが,現行法の解説をそのまま令和5年の答案の基準時へ持ち込むものではない。

第7 出典及び確認状態

1 公式資料

①法務省・令和5年司法試験問題
②論文式民事系問題PDF
③法務省・論文式試験出題の趣旨
④法務省・民事系科目の採点実感
⑤法務省・令和5年司法試験実施日程

2 法令

①会社法・試験日指定の会社法API
②民法・試験日指定の民法API

3 裁判例

①最高裁昭和44年11月26日大法廷判決・民集23巻11号2150頁
②最高裁平成2年12月4日第三小法廷判決・民集44巻9号1165頁
③最高裁昭和45年4月2日第一小法廷判決・民集24巻4号223頁
④最高裁平成27年2月19日第一小法廷判決・民集69巻1号25頁
⑤最高裁令和2年9月3日第一小法廷判決・民集74巻6号1557頁

4 確認状態

問題PDF5~8頁,出題の趣旨PDF9~12頁の第2問部分,採点実感PDF7~15頁の第2問全体を実読した。出題の趣旨は構造と許容される構成,採点実感は論述の深度と典型的な誤りの資料として用いている。

会社法・民法は令和5年7月13日を指定したe-Gov法令APIの歴史条文で確認した。現在の法令ページへのリンクと,試験日の条文確認は区別する。

平成2年,昭和45年,平成27年及び令和2年の判決原文は全文を確認した。昭和44年大法廷判決は多数意見の本文部分(PDF1~4頁)を確認し,反対意見を多数意見の理由へ混在させていない。

一人会社の同型下級審判例の比較は第6の実務記事で扱っている。本記事の答案は,公式資料,前掲条文・最高裁判決及び与件の当てはめに基づくものである。本件と同じ後続招集瑕疵の無効類型を直接確定する判例を独立に確認したとの扱いはしない。

公式資料との対照に先立つ独立再構成版は別に保存している。掲載稿は公式資料による検討後の完成版であり,未読の独立再構成版とは区別する。法務省が公表していない個別配点・採点者の具体的判断・合格可能性は確認できず,本記事の重みから算定しない。