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令和7年度司法試験刑事系第1問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した59項目と5段階の重み付け(AI作成)

第1 この記事の対象と結論

本記事は,令和7年司法試験の論文式試験のうち,刑事系科目第1問(刑法)を対象として,法務省が公表した「出題の趣旨」及び「採点実感」から答案の評価項目を抽出し,5段階で重み付けをした上で,それらの評価項目を満たす模範解答を示すものである。

本問は,設問1で,替え玉受験の答案の作成・提出と,他人名義のクレジットカードの使用について,乙に有印私文書偽造・同行使罪及び詐欺罪が,甲にそれらの共同正犯が成立するとの立場からの説明を求め,設問2で,甲の子に対する暴行と,それを阻止しなかった母親丙の罪責を論じさせるものである。

公式資料から抽出できた評価項目は59項目であり,重み5(答案の骨格又は採点実感が「著しく低い評価」とした事項)に当たるのは,文書の名義人及び作成者の意義と,設問1⑶で甲が単独では正犯になり得ないことを示した上で共同正犯を認める論拠(有印私文書偽造・同行使罪と詐欺罪の各2項目)の6項目である。
採点実感は,設問1⑶で共謀とそれに基づく実行だけを理由に共同正犯を認めた多くの答案を「著しく低い評価」としており,本問で最も差がついた箇所と考えられる。

第5の模範解答は,論文式答案で広く使われてきた型(問題提起,規範の定立,当てはめ及び結論の順に書く型)で示し,その後に出題の趣旨・採点実感を踏まえた解説を付けている。

第2 評価項目の示し方と重み付けの基準

1 評価項目の示し方

評価項目は,本問の出題の趣旨(刑事系科目第1問の部分)又は採点実感(同)の記述から抜き出したものに限り,一つの項目に一つの判定対象だけを入れ,答案に何が書かれていれば満たすのかが分かる形に言い換えた。

各項目には,出題の趣旨と採点実感のどこに根拠があるかを示した。
出題の趣旨は頁(全科目を収めたPDFの頁)と見出しで示し,採点実感は見出し番号で示している(例えば「2⑴ア」は,「2 採点方針及び採点実感」の「⑴ 設問1について」の「ア 設問1⑴について」を指す。)。
一方の資料に記載がない場合は「記載なし」,一般的な記述から導いたものは「間接」と表示した。

公式資料の文章は,評価の強さを示す短い語句を除いて引用せず,根拠となる記述の趣旨を要約して示している。

2 5段階の重み付けの基準

重みは,公式資料の書きぶりの強さから本記事が付けたものであり,法務省の配点ではない。

①重み5:採点実感が「著しく低い評価」とした事項,又は答案の骨格そのもの
②重み4:出題の趣旨が検討を求め,採点実感も「高い評価」とした事項
③重み3:どちらか一方が明示する中核の理由付け又は成立要件
④重み2:一方が軽い表現で触れる補強の事項,又は典型的な誤りとして指摘された事項
⑤重み1:一方が控えめに触れるだけの事項,又は許容される別の構成

第3 本問の概要

【事例1】では,甲が,友人乙に報酬50万円を約束して私立A大学の入試の替え玉受験を依頼し,乙は,甲に成り済まして,氏名欄のない解答用紙に甲の受験番号「A123」を記載して解答し,これを提出した。
A大学の入試では受験番号が氏名に代わる受験生識別の手段とされており,甲は合格して入学した。

その後,乙は,報酬の一部として甲名義のクレジットカードで5万円の物品を買い,利用分を報酬から差し引くことを求め,甲はカードを渡して暗証番号を教えた。
乙は,甲に成り済ましてB店の店員Cにカードを提示し,暗証番号を入力して腕時計の交付を受けた。
会員規約はカードの貸与等を禁じ,加盟店規約は加盟店に名義人との同一性の確認を求めており,B店は名義人以外の利用に応じないこととしていた。
利用代金は,甲がアルバイトで工面して口座から引き落とされた。

【事例2】では,甲が,妻丙の眼前で長男D(2歳)と丙の顔面を殴って傷害を負わせた後,丙とよりを戻して同居を再開し,約3か月後,丙(妊娠8か月)がトイレにいる間に,Dの頭部を拳で十数回殴って硬膜下血腫を生じさせた。
丙は,暴行の可能性を認識しながら,監視・制止(①行為)も身を挺した制止(②行為)もせずにトイレにとどまった。
問題文は,①行為と②行為について,本件暴行を阻止できる可能性の程度と,甲が丙に暴行を加える蓋然性を書き分けている。
その後,丙がDを抱えて病院へ向かう途中,居眠り運転の自動車に衝突され,Dは肝臓破裂により死亡したが,衝突がなければ病院で救命されることは確実であった。

設問1は,⑴乙の有印私文書偽造・同行使罪(文書の名義人及び作成者の意義を明らかにし,取締役Yが秘書Zに命じてY名義の文書を作成させた場合と比較すること),⑵乙の詐欺罪(「人を欺く行為」に当たらないとの立場に反論すること),⑶甲の共同正犯(本件用紙に甲の受験番号が記載され,カードが甲名義であるにもかかわらず共同正犯が成立する理由に触れること)について,それぞれ成立するとの立場からの説明を求めている。
設問2は,甲及び丙の罪責を論じさせるものである(特別法違反の点は除く。)。

第4 評価項目と重み

1 設問1⑴(乙の有印私文書偽造・同行使罪)

番号評価項目重み出題の趣旨採点実感
1偽造を「名義人と作成者との間の人格の同一性を偽ること」(又は「作成権限なく他人の名義を冒用して文書を作成すること」)と定義する317頁「設問1⑴について」(二つの定義は同義とされ,近時は後者が多い)2⑴ア(ほとんどの答案が後者を用いていた)
2文書の名義人の意義を示す517頁「設問1⑴について」(名義人及び作成者の意義をそれぞれ明らかにする必要がある)2⑴ア(論述していない答案は「著しく低い評価」)
3作成者の意義を,事実説(物理的に作成した者)又は観念説(表示された意思・観念が由来する者)のいずれかに依拠して示す517頁~18頁「設問1⑴について」(二つの考え方を挙げ,自己の依拠する立場を明らかにする必要がある)2⑴ア(不正確な答案・論述していない答案は「著しく低い評価」)
4作成者の意義について,反対の考え方を示した上で自説の論拠を示す418頁「設問1⑴について」(自己の依拠する立場から偽造の意義を明らかにする)2⑴ア(ごく少数であったが「高い評価」)
5秘書事例に自説を当てはめて偽造の成否を示す(観念説なら名義人・作成者ともYであり偽造に当たらない)418頁「設問1⑴について」(事実説・観念説それぞれの処理)2⑴ア(正面から答えていない答案は「低い評価」)
6本件用紙は志願者本人の学力を判断するための文書であり,本人の作成だけが予定され,他人が代わって作成できない文書であることを示す418頁「設問1⑴について」2⑴ア(文書の性質の違いなど相違点を明らかにした答案は「高い評価」)
7本件作成行為の作成者を乙とし,名義人甲との人格の同一性の齟齬から偽造に当たるとする318頁「設問1⑴について」記載なし
8秘書事例と本件作成行為の相違点を明示する418頁「設問1⑴について」(相違点を明らかにしつつ論じる必要がある)2⑴ア(相違点を意識していない答案は「低い評価」)
9自説を両事例に当てはめる過程で論理的に矛盾しない2間接(18頁「設問1⑴について」)2⑴ア(論理的に矛盾した答案は「低い評価」)
10別の構成として,本件用紙の名義人を「実際に試験場で受験した甲」と属性で限定する構成に触れる118頁「設問1⑴について」記載なし
11別の構成として,事実説に立ち,秘書事例は違法性が否定され,本件は名義人が作成を授権できない文書であるから否定されないとする処理に触れる118頁「設問1⑴について」記載なし
12本件用紙が「事実証明に関する文書」に当たることを示す318頁「設問1⑴について」(その他の成立要件の例示)2⑴ア(言及していない答案は「低い評価」)
13「署名」(有印性)の要件を満たすことを示す318頁「設問1⑴について」(その他の成立要件の例示)2⑴ア(言及していない答案は「低い評価」)
14行使の目的と偽造私文書行使罪の成立を示す1間接(18頁「設問1⑴について」の結論部分)記載なし

2 設問1⑵(乙の詐欺罪)

番号評価項目重み出題の趣旨採点実感
15「人を欺く行為」の意義を,判例(最高裁平成22年7月29日決定等)を踏まえて示す318頁「設問1⑵について」記載なし
16「交付の判断の基礎となる重要な事項」を偽るかどうかを基準とする318頁「設問1⑵について」(近時の判例は重要事項性を重視している)2⑴イ(多くの答案ができていた)
17消極の立場の論拠として,名義人の承諾により決済が見込まれ財産的損害の具体的危険がなく,支払意思・能力を偽っていなければ重要事項の偽りはないことを示す418頁「設問1⑵について」2⑴イ(論拠に言及した答案は「高い評価」)
18消極の立場の別の論拠として,名義人のコントロールが及ぶ第三者の使用は名義人本人の使用と同視できることを示す118頁~19頁「設問1⑵について」記載なし
19消極の立場に正面から答える218頁「設問1⑵について」(反論しつつ結論を導く必要がある)2⑴イ(正面から答えていない答案は「低い評価」)
20反論の事実として,会員規約が他人への利用・貸与を禁じていることを指摘する319頁「設問1⑵について」2⑴イ(具体的な事実関係に着目した充実した当てはめは「高い評価」)
21反論の事実として,加盟店規約が加盟店に善良な管理者の注意義務による名義人との同一性確認を課していることを指摘する319頁「設問1⑵について」2⑴イ(同上)
22反論の事実として,B店が名義人以外の者によるカード利用に応じないこととしていたことを指摘する219頁「設問1⑵について」2⑴イ(同上)
23同一性確認を怠れば加盟店は立替払いを受けられない危険を負うから,利用者と会員の同一性は加盟店固有の経済的損害に直結し,重要な事項に当たると論じる419頁「設問1⑵について」2⑴イ(同上。理由を示さずに重要な事項とした答案は「低い評価」)
24名義人に成り済まし,正当な利用権限があるように装った行為が「人を欺く行為」に当たると結論する219頁「設問1⑵について」記載なし
25その他の成立要件(錯誤・交付行為等)の充足を示す319頁「設問1⑵について」2⑴イ(言及していない答案は「低い評価」)

3 設問1⑶(甲の共同正犯)

番号評価項目重み出題の趣旨採点実感
26名義人が自己名義の文書を作成しても偽造とはいえず,甲は私文書偽造罪の単独正犯になり得ないことを示し,それでも共同正犯になり得るかを問題とする519頁「設問1⑶について」ア2⑴ウ(単独なら処罰されないのに共同正犯ならなぜ処罰されるかまで示した答案は「高い評価」)
27甲に有印私文書偽造・同行使罪の共同正犯が成立する論拠(偽造をなし得る者との共同実行による法益侵害の惹起,又は属性で限定した名義人の構成)を示す519頁「設問1⑶について」ア2⑴ウ(共謀とそれに基づく実行だけを理由とした答案は「著しく低い評価」)
28代金支払の意思・能力のある名義人が自己名義のカードを使用しても詐欺とはいえず,甲は詐欺罪の単独正犯になり得ないことを示し,それでも共同正犯になり得るかを問題とする519頁~20頁「設問1⑶について」イ2⑴ウ(同上)
29甲の支払意思・能力を,アルバイトで工面できると考えたこと及び実際に工面したことから認定する219頁「設問1⑶について」イ記載なし
30甲に詐欺罪の共同正犯が成立する論拠(不法を実現できる者との共同により正犯たり得ること,乙がCを錯誤に陥れ立替払いを受けられない危険を負わせて腕時計を交付させたこと)を示す520頁「設問1⑶について」イ2⑴ウ(同上)
31共謀と,共謀に基づく乙の実行を具体的事実で認定する2間接(19頁~20頁「設問1⑶について」)2⑴ウ(これだけを理由とした答案は「著しく低い評価」)

4 設問2・甲の罪責

番号評価項目重み出題の趣旨採点実感
324月1日の甲のDに対する傷害罪の成立を簡潔に示す120頁「設問2について」⑴2⑵ア(論じていない答案も散見された)
334月1日の甲の丙に対する傷害罪の成立を簡潔に示す120頁「設問2について」⑴2⑵ア(同上)
34自動車の衝突という介在事情を具体的に示して,傷害罪にとどまるか致死結果まで帰責されるか(因果関係)を問題とする320頁「設問2について」⑵2⑵イ(的確に示した答案は「高い評価」,論点を示すだけの答案は「低い評価」)
35因果関係の判断規範(危険の現実化,相当因果関係等)を定立する320頁「設問2について」⑵2⑵イ
36因果関係の規範について自説の論拠を示す420頁「設問2について」⑵(自説の論拠を明らかにして規範を定立する必要がある)2⑵イ(できている答案は「高い評価」,できていない答案は「低い評価」)
37危険の現実化の下位基準(介在事情が行為の危険を上回る新たな危険を生じさせたか,行為に誘発されたか,行為と独立か)を示す220頁「設問2について」⑵記載なし
38定立した規範を具体的事実(病院到着の予定時刻,救命の確実性,死因,居眠り運転等)に当てはめ,規範と当てはめを区別して論じる420頁「設問2について」⑵2⑵イ(規範をなぞるだけの答案,規範と当てはめを混在させた答案は「低い評価」)

5 設問2・丙の罪責

番号評価項目重み出題の趣旨採点実感
39甲丙間に意思連絡がないから,丙を共謀共同正犯として処罰できないことを示す320頁「設問2について」⑶ア2⑵ウ(問題の所在を的確に示した答案は「高い評価」)
40丙は積極的な行動に出ていないから,作為による幇助犯として処罰できないことを示す320頁「設問2について」⑶ア2⑵ウ(同上)
41そこで,丙の態度を不作為犯として処罰できないかを問題とする321頁「設問2について」⑶ア2⑵ウ(同上)
42関与類型を問わず作為義務が必要であることと,その理由を示す321頁「設問2について」⑶イ2⑵ウ(作為義務が必要となる根拠に言及した答案は「高い評価」)
43作為義務の発生根拠を,侵害されようとしている法益を保護すべき関係に求める421頁「設問2について」⑶イ2⑵ウ(同上。具体的事情を指摘するだけの答案は「低い評価」)
44作為義務の根拠事実として,丙がDの母親(親権者)であることを指摘する221頁「設問2について」⑶イ2⑵ウ
45作為義務の根拠事実として,同居の実態を指摘する221頁「設問2について」⑶イ2⑵ウ
46作為義務の根拠事実として,丙以外に甲の暴行からDを守れる者がいないことを指摘する221頁「設問2について」⑶イ2⑵ウ
47作為義務を根拠付ける事情として,虐待を加える者との同居・交際の継続による危険の創出に触れる121頁「設問2について」⑶イ(根拠事情の例示)2⑵ウ(同)
48義務付け得る作為を,作為の容易性(作為をした場合に不作為者に生じる法益侵害の程度)と結果回避可能性の程度から判断する旨を示す321頁「設問2について」⑶ウ2⑵ウ
49①行為について,丙が暴行を受ける蓋然性が高くないこと及び阻止の可能性が相当程度あることから,義務付け得ると判断する321頁「設問2について」⑶ウ間接(2⑵ウ)
50②行為について,丙に生じる法益侵害の内容・程度(4月1日と同様の暴行を受ける蓋然性,4月1日の全治約2週間の傷害,腹部への暴行の蓋然性の低さ,胎児への配慮)を具体的に検討して,義務付けの可否を判断する(可否いずれの結論も許容)421頁「設問2について」⑶ウ(両方向の結論を示している)2⑵ウ(具体的な検討は「高い評価」,蓋然性などに言及するだけの答案は「低い評価」)
51不作為の単独正犯には結果回避の確実性が必要であり,不作為による幇助ではそれより低い程度の結果回避可能性で足りることを示す421頁~22頁「設問2について」⑶ウ2⑵ウ(違いを意識した答案は「高い評価」)
52札幌高裁平成12年3月16日判決(判例時報1711号170頁。裁判所HP未掲載)に触れる122頁「設問2について」⑶ウ(参考となる裁判例)記載なし
53不作為による関与を正犯と共犯のいずれに振り分けるかを問題とする422頁「設問2について」⑶エ2⑵ウ(論じた答案は「ほとんどなかった」。的確に示した答案は「高い評価」)
54関与類型の区別について,反対の考え方(原則正犯,原則幇助,支配力等による個別判断)を意識しつつ自説の論拠を示す422頁「設問2について」⑶エ2⑵ウ(ごく少数であったが「高い評価」)
55丙に義務付けられる作為の内容に応じて,その不履行がどの関与類型に当たるかを結論する322頁「設問2について」⑶エ記載なし
56保護責任者不保護罪(同致死傷罪)の単独正犯の成否だけを論じない2記載なし2⑵ウ(それだけを検討した答案は「低い評価」)

6 答案全体

番号評価項目重み出題の趣旨採点実感
57設問が指示した点に正面から答え,一般的な罪責の論述にとどめない2記載なし2⑶(設問の趣旨に適切に答える姿勢が「肝要」)
58重要な事項は手厚く,そうでない事項は簡潔に論じる1記載なし2冒頭(答案全体のバランス)
59用語の間違いや基本的用語の漢字の誤記がない1記載なし2⑶

7 重みの分布

59項目の内訳は,重み5が6項目,重み4が13項目,重み3が18項目,重み2が12項目,重み1が10項目であり,重みの合計は170点である。

重み5の6項目は,設問1⑴の名義人及び作成者の意義(番号2・3)と,設問1⑶で甲が単独では正犯になり得ないことを示す問題の所在と共同正犯を認める論拠(番号26・27・28・30)である。
名義人・作成者の意義を論じない答案と,共謀とそれに基づく実行だけを理由に共同正犯を認めた答案を,採点実感はいずれも「著しく低い評価」としている。

第5 模範解答

1 答案の前提と表記

以下の答案は,第4の評価項目をすべて満たすように作成したものであり,設問1では設問が指定した立場(有印私文書偽造・同行使罪,詐欺罪及びそれらの共同正犯が成立するとの立場)から説明し,設問2では甲及び丙の罪責を論じている。
法令と判例は,試験の実施時(令和7年7月)のものを前提にしている。

答案は,旧司法試験の時代から論文式答案で広く使われてきた型によっている。
見出しを「1」「(1)」「ア」「(ア)」の順に下げ,論点ごとに,問題提起(「〜に当たるか。」「〜が問題となる。」),規範の定立(「思うに,〜。よって,〜と解する。」),当てはめ(「本件では,〜といえる。」)及び結論(「よって」「したがって」「以上より」)の順に書き,反対の立場は「確かに,〜とも思える。しかし,〜。」の形で取り上げ,最後に「以上」と書く型である。

もっとも,本問では,採点実感が,名義人・作成者の意義や因果関係について反対の考え方を意識した自説の論拠を評価し(第4の番号4・36),他方で規範をなぞるだけの当てはめを低く評価しているため(番号38),中心の論点では反対説を1文示して退けた上で,問題文の事実を評価する当てはめに多くの字数を割いた。
字数の配分は,機械的に数えると,おおむね問題提起が1割弱,規範が約4割,当てはめが4割台半ばである。

答案の括弧書きで示した判例は,裁判所ウェブサイトの判決全文で判示を確認したものに限った。
「判例同旨」は判例と同じ規範によるもの,「参照」は事案が異なるが判示の考え方を参考にしたものを示す。
出題の趣旨が参考として挙げる札幌高裁平成12年3月16日判決(番号52)は,判決の原文を確認できなかったため,答案では判決名を挙げず,判示の内容に当たる規範だけを示している。

字数は見出しを含めて約5,800字であり,刑事系科目第1問の試験時間(2時間)内に書き切れる分量より多い。
実際の答案では,重み5の評価項目(番号2・3・26・27・28・30)に対応する部分を残し,その他の部分を短くすることになる。

2 答案

1 設問1について
(1) 小問⑴について
ア(ア) 乙が甲の受験番号「A123」を記載して解答を記入した本件作成行為は,有印私文書偽造罪(159条1項)の「偽造」に当たるか。
 思うに,文書偽造罪の保護法益は文書に対する公共の信用であり,その信用は文書の内容に責任を負う者が誰かに向けられる。よって,「偽造」とは,作成権限なく他人の名義を冒用して文書を作成すること,すなわち文書の名義人と作成者との人格の同一性を偽ることをいうと解する(判例同旨・最判昭和59年2月17日)。
 そして,名義人とは,文書から理解される意思・観念の表示主体をいう。
(イ) では,作成者をどう解すべきか。
 確かに,作成者とは文書を物理的に作成した者をいうとする見解もある(事実説)。しかし,これによると,本人の意思に基づき他人が筆記した文書も一律に偽造となり,違法性の段階で個別に除外するほかなくなる。文書の信用は,筆記した者ではなく,表示された意思・観念の出所に向けられている。
 よって,作成者とは,文書に表示された意思・観念が由来する者をいうと解する(観念説)。
(ウ) 秘書事例では,筆記したのはZであるが,表示された意思はYの意思に由来するから,作成者はYである。名義人もYであり,人格の同一性に齟齬はないから,「偽造」に当たらない。
(エ) そうすると,本件用紙も甲の依頼に基づき作成されている以上,表示は甲に由来し,「偽造」に当たらないのではないか。
 思うに,文書の性質上,名義人自身による作成のみが予定され,他人が代わって作成することのできない文書では,名義人の依頼や承諾があっても,他人が表示した内容を名義人に由来するものと評価することはできない。よって,かかる文書の作成者は,現実に意思・観念を表示した者であると解する(最決昭和56年4月8日参照)。
 本件では,A大の入試では受験番号が「氏名に代わる受験生識別の手段」とされているから,本件用紙の名義人は受験番号A123の志願者である甲である。そして,本件用紙は,A大が志願者本人の学力の程度を判断するための文書であるから,その性質上,甲自身による作成のみが予定され,他人が代わって作成することはできない。とすれば,本件用紙の作成者は,現実に解答を表示した乙である。
 この点で,Yの意思表示を内容とし,誰が筆記してもYの意思表示であることに変わりがない秘書事例とは,文書の性質が異なる。なお,本件用紙の名義人を「実際に試験場で受験した甲」と解しても,同様に齟齬が生じる。
 よって,名義人甲と作成者乙との人格の同一性に齟齬があり,本件作成行為は「偽造」に当たる。
イ その他の要件について見ると,本件用紙は,採点結果が志願者の学力の証明に用いられ,合否判定と入学許可の基礎となるから,「事実証明に関する文書」に当たる(判例同旨・最決平成6年11月29日)。
 また,受験番号は氏名に代わる識別手段とされているから,「A123」は甲の「署名」に当たり,乙は「他人の……署名を使用し」たといえる。
 さらに,乙は本件用紙を提出する目的であったから「行使の目的」がある。
ウ そして,乙は本件用紙を真正な答案としてA大に提出したから,偽造私文書行使罪(161条1項)が成立し,有印私文書偽造罪とは牽連犯(54条1項後段)となる。
(2) 小問⑵について
ア 乙が甲に成り済まして本件カードを提示し,暗証番号を入力して腕時計の交付を受けた行為は,「人を欺」く行為に当たるか。
 思うに,詐欺罪は相手方の錯誤に基づく交付により財産を侵害する罪であるから,欺く対象は財産的損害と結び付く事項に限られる。よって,「人を欺く行為」とは,交付の判断の基礎となる重要な事項を偽ることをいうと解する(判例同旨・最決平成22年7月29日)。
イ この点,名義人甲の承諾があり,利用代金は甲の口座から現実に決済される見込みがあるから,カード会社にも加盟店にも財産的損害の具体的危険はなく,乙は支払意思・能力を偽っていない以上,重要な事項を偽っていないとの立場がある。また,甲の個別の承諾に基づく使用であり,決済も確実であるから,実質的には名義人本人による使用と同視できるとの立場もある。
ウ しかし,本件カードの会員規約は他人への利用や貸与を禁じ,加盟店規約は加盟店に,善良な管理者の注意義務をもってカードの提示者と名義人の同一性を確認する義務を課している。B店も名義人以外の利用に応じないこととしていた。加盟店が過失により同一性の確認を怠れば,規約違反としてカード会社から立替払いを受けられない危険を負う。
 とすれば,利用者と会員の同一性は,B店固有の経済的損害に直結する事情であり,B店の交付の判断の基礎となる重要な事項である。名義人の承諾や決済の見込みはB店の知り得ない内部事情にすぎず,この危険を消すものではない。また,規約上名義人以外の使用は一切許されていないから,名義人本人による使用と同視する前提を欠く(判例同旨・最決平成16年2月9日)。
 よって,名義人甲に成り済まし,正当な利用権限がないのにあるように装った乙の行為は,「人を欺く行為」に当たる。
エ そして,Cは,暗証番号が認証されたため乙を甲本人で正当な利用権限があると誤信し(錯誤),これに基づき腕時計を乙に「交付」した。乙には故意があり,腕時計を自己の物とする不法領得の意思もある。
 したがって,乙にはB店に対する詐欺罪(246条1項)が成立する。
(3) 小問⑶について
ア(ア) 名義人が自己名義の文書を作成しても,名義人と作成者は一致し,偽造とはいえない。そのため,甲は本件用紙に自ら解答しても私文書偽造罪の実行行為を行うことができず,単独正犯になり得ない。では,単独では処罰されない甲が,乙との共同正犯として処罰されるのはなぜか。
 思うに,共同正犯が一部実行全部責任を負う根拠は,相互に利用補充し合って法益侵害を共同惹起する点にある。とすれば,単独では構成要件を実現できない者も,これを実現し得る者との共同実行により法益侵害を惹起することは可能である。よって,かかる者も共同正犯となり得ると解する。
(イ) 本件では,偽造をなし得る乙の実行により,文書に対する公共の信用が侵害されている。
 そして,甲は替え玉受験を自ら発案して乙に依頼し,乙の了承を得たから共謀がある。
 また,報酬50万円を提示し,合格・入学の利益は甲自身に帰属するから,甲は自己の犯罪として関与している。乙はこの共謀に基づき本件用紙を作成・提出した(判例同旨・最大判昭和33年5月28日)。
 よって,甲には乙との間で有印私文書偽造・同行使罪の共同正犯(159条1項・161条1項・60条)が成立する。
イ(ア) 詐欺罪についても,代金支払の意思・能力のある名義人が自己名義のカードを使用する行為は,詐欺とはいえない。甲は,5万円程度であればアルバイトで工面できると考えて乙の要求に応じ,実際に工面して利用代金は決済されたから,支払の意思・能力があった。そのため,甲自身が本件カードを使用しても詐欺とはならず,甲は単独正犯になり得ない。
(イ) しかし,前述のとおり,単独で正犯たり得ない者も,当該犯罪の不法を実現できる者と共同すれば正犯たり得る。
 本件では,甲は乙の要求に応じて本件カードを手渡し暗証番号を教えたから共謀がある。
 また,甲は犯行に不可欠な手段を提供し,利用分を報酬債務から差し引かせる利益を得るから,自己の犯罪として関与している。そして,共謀に基づき,乙はCを錯誤に陥れ,B店に立替払いを受けられない危険を負わせた状態で腕時計を交付させた。
 よって,甲には乙との間で詐欺罪の共同正犯(246条1項・60条)が成立する。

2 設問2について
(1) 甲の罪責について
ア 甲は,4月1日,故意にD及び丙の顔面を拳で殴り,それぞれに全治約2週間の顔面打撲の傷害を負わせたから,D及び丙に対する各傷害罪(204条)が成立する。
イ(ア) 甲は,7月1日,本件暴行によりDに硬膜下血腫を生じさせたから,傷害罪が成立する。では,傷害致死罪(205条)まで成立するか。
 本件では,本件暴行とDの死亡との間に,第三者の運転する自動車の衝突という事情が介在し,Dは衝突による肝臓破裂で死亡した。そこで,Dの死亡を本件暴行に帰責できるか,因果関係が問題となる。
(イ) 確かに,行為時に立ち社会生活上の経験に照らして当該結果の発生が相当といえるかで判断する見解もある。しかし,因果関係は,結果を行為に帰属させてよいかという構成要件の問題であり,処罰の根拠は,行為の有する危険が結果として実現した点にある。
 よって,条件関係を前提に,実行行為の危険が結果に現実化したといえる場合に因果関係を認めるべきと解する。具体的には,介在事情が行為の危険を上回る新たな危険を生じさせていなければ因果関係を認め,上回る危険を生じさせた場合は,介在事情が行為に誘発されたときは認め,行為と独立のものであるときは否定すると解する。
(ウ) 本件では,本件暴行がなければDが搬送中に衝突に遭うことはなかったから,条件関係はある。また,硬膜下血腫は,治療を受けなければ約6時間後に死亡する重篤なものであった。
 しかし,衝突がなければ午後7時20分頃にはE病院に到着し,適切な治療により救命は確実であったから,本件暴行の危険は,そのままでは死亡に至らないものであった。これに対し,衝突は,肝臓破裂という別個の致命傷を生じさせており,本件暴行の危険を上回る新たな危険を生じさせた。
 そして,衝突は,後方から走行してきた自動車の運転手が居眠りをして道路左側に進出したことによるもので,本件暴行に誘発されたものではなく,これと独立の事情である。
 よって,Dの死亡は本件暴行の危険が現実化したものとはいえず,因果関係は認められない。
(エ) したがって,甲には傷害罪が成立するにとどまる。
ウ 以上より,甲は3個の傷害罪の罪責を負い,これらは併合罪(45条前段)となる。
(2) 丙の罪責について
ア 甲と丙との間には本件暴行についての意思連絡がないから,丙を共謀共同正犯として処罰することはできない。
 また,丙はトイレ内にいただけで,言葉を発するなどの積極的な行動に出ていないから,作為による幇助犯として処罰することもできない。そこで,甲がDに暴行を加えようとしていることを認識しつつ何もしなかった丙の態度について,不作為犯として処罰できないかが問題となる。
イ(ア) 思うに,不作為は定型性に乏しく,何もしなかった者を広く処罰すれば処罰範囲が無限定となるから,関与類型のいかんにかかわらず,作為と同視し得る作為義務が必要である。そして,作為正犯の犯行による法益侵害が問題となる場面では,侵害されようとしている法益を保護すべき関係があることが,作為義務の発生根拠となると解する。
(イ) 本件では,丙はDの母親(親権者)であり,本件居室でDと同居している。本件居室には甲,丙及びDのみが暮らし,2歳のDを甲の暴行から守れる者は丙以外にいない。
 しかも,丙は4月1日に甲がDを殴ったことを知りながら,5月1日に甲とよりを戻して同居を再開しており,Dへの危険を自ら作り出している。よって,丙には,Dの身体を保護すべき関係があり,作為義務が認められる。
ウ(ア) もっとも,作為義務者であっても,あらゆる作為を義務付けられるわけではない。当該作為をした場合に不作為者に生じる法益侵害の程度(作為の容易性)と,当該作為によって結果を回避し得る可能性の程度とを考慮し,その作為を要求し得るかを判断すべきである。
(イ) ①行為については,①行為に及んでも甲が丙に暴行を加える蓋然性は高くなかったから,丙にとって相当程度容易であった。また,本件暴行を確実に阻止できる状況にはなかったものの,阻止できる可能性は相当程度あった。よって,丙に①行為を義務付けることは許される。
(ウ) ②行為については,本件暴行を確実に阻止できたが,甲が丙に4月1日と同様の暴行を加える蓋然性は高かった。
 確かに,甲が丙の腹部に暴行を加える蓋然性は高くなく,4月1日にも甲は胎児への影響を考えて腹部を殴らなかったから,胎児への危険は大きくないとも思える。しかし,4月1日に身を挺して甲を制止した丙は,顔面を殴られ全治約2週間の傷害を負っている。自己の身体に同程度の傷害を受ける高い蓋然性を甘受させることは,作為義務者であっても著しく困難を強いるものである。よって,丙に②行為を義務付けることはできない。
エ(ア) では,①行為をしなかった丙の不作為は,正犯と幇助のいずれに当たるか。
 この点,作為義務違反があれば原則として正犯になるとの見解がある。しかし,作為正犯の故意の犯行を阻止しない者は,原則として正犯の犯行に加功するにすぎない。他方,作為に出れば確実に結果を回避できた場合には,不作為者も結果を支配していたと同視できる。
 よって,不作為者が作為に出ていれば確実に結果を回避できた場合には不作為の同時正犯となり,結果発生を困難にした可能性があるにとどまる場合には不作為による幇助犯となると解する。そして,不作為の単独正犯には結果回避の確実性が必要であるが,幇助は正犯の実行を容易にすれば足りるから,確実性までは要しない。
(イ) 本件では,丙に義務付けられるのは①行為のみであり,①行為によって本件暴行を確実に阻止できる状況にはなかったから,不作為の同時正犯は成立しない。
 しかし,①行為に及んでいれば本件暴行を阻止できる可能性は相当程度あったから,丙の不作為は本件暴行の実行を容易にしたといえる。丙は,甲がDに4月1日と同様の暴行を加えるかもしれないと思い,①行為の可能性と効果を認識しながら,暴行を受けたり嫌われたりしたくないとの理由でトイレ内にとどまったから,幇助の故意も認められる。
 なお,甲が丙の不作為を認識していなくても,片面的幇助として幇助犯の成立は妨げられない。
オ そして,正犯甲には傷害罪が成立するにとどまるから,丙は,不作為による傷害罪の幇助犯(62条1項・204条)の罪責を負う。

以上

3 出題の趣旨・採点実感を踏まえた解説

(1) 答案と評価項目の対応

答案の1(1)は第4の番号1~14(設問1⑴),1(2)は番号15~25(設問1⑵),1(3)は番号26~31(設問1⑶),2(1)は番号32~38(甲の罪責),2(2)は番号39~56(丙の罪責)に対応し,番号57~59(答案全体)は各項目の書き方で満たすようにした。
重み5の6項目は,1(1)ア(ア)の名義人の意義(番号2),1(1)ア(イ)の作成者の意義(番号3),1(3)アの文書についての問題の所在と論拠(番号26・27)及び1(3)イの詐欺についての問題の所在と論拠(番号28・30)に当たる。

(2) 設問1⑴(乙の有印私文書偽造・同行使罪)

設問1⑴について,出題の趣旨は,偽造の二つの定義が同義とされることを前提に,作成者の意義について事実説と観念説を挙げ,いずれに立っても秘書事例と本件作成行為を比較して相違点を示すことを求めている。
観念説に立てば,秘書事例では名義人も作成者もYであるが,本件用紙は志願者本人の学力を判断するための文書であって本人しか作成できないから作成者は乙となる,という筋と,名義人を「実際に試験場で受験した甲」と属性で限定する筋が示されている。
事実説に立てば,両事例とも偽造に当たり得るが,秘書事例は違法性が否定され,本件は否定されない,という処理になる。
答案は観念説と文書の性質による筋を採り,属性による限定も1文で触れた。
採点実感は,反対の考え方を意識して自説の論拠を示した答案がごく少数であったとしているため,答案は1(1)ア(イ)で事実説を示して退けた(番号4)。
「署名」(有印性)について,公式資料はその他の成立要件として言及を求めるにとどまり,受験番号を署名と評価する答案の理由付け(受験番号が氏名に代わる識別手段とされていること)は,問題文の事実による答案の解釈である。

(3) 設問1⑵(乙の詐欺罪)

設問1⑵について,出題の趣旨は,「人を欺く行為」に当たらないとの立場の論拠として,支払意思・能力を偽っていなければ重要な事項の偽りはないとの考え方と,名義人のコントロールの下での使用は名義人本人の使用と同視できるとの考え方を挙げ,これに対し,会員規約・加盟店規約・B店の方針と,同一性の確認を怠れば加盟店がカード会社から立替払いを受けられない危険を負うことから,利用者と会員の同一性は加盟店固有の経済的損害に直結すると反論する筋を示している。
採点実感は,具体的な事実関係に着目した当てはめを高く評価し,理由を示さずに重要な事項とした答案を低く評価しているため,答案は1(2)ウで立替払いの危険まで論じた(番号20~23)。
答案が「判例同旨」として引いた最決平成16年2月9日は,名義人に成り済まして他人名義のカードを使用した事案で,仮に,被告人が名義人から使用を許されており,かつ,利用代金が名義人において決済されるものと誤信していたという事情があったとしても,詐欺罪の成立は左右されないとしたものである。
もっとも,同事件の名義人は第三者の使用を許諾したことはなかったと認定されており,名義人が現に使用を承諾した本問とは事案が異なる。

(4) 設問1⑶(甲の共同正犯)

設問1⑶は,本問で最も差がついた箇所と考えられる。
出題の趣旨は,名義人が自己名義の文書を作成しても偽造にならず,支払意思・能力のある名義人が自己名義のカードを使用しても詐欺にならないから,甲は単独では正犯になり得ないとした上で,それでも共同正犯になり得るかを問題とし,偽造・詐欺をなし得る者との共同実行によって法益侵害を惹起できるとの考え方などを示している。
採点実感は,この問題の所在に触れず,共謀とそれに基づく実行だけを理由に共同正犯を認めた多くの答案を「著しく低い評価」とし,単独なら処罰されないのに共同正犯ならなぜ処罰されるのかまで示した答案を高く評価している。
答案は,1(3)ア(ア)及びイ(ア)の冒頭でこの問題を立て,共同正犯の処罰根拠(相互に利用補充し合う共同惹起)から論拠を示した。
文書については,属性で限定した名義人の構成(甲は「実際に試験場で受験した甲」ではないから名義人ではないとする構成)によって説明する方法もある。

(5) 設問2(甲の罪責)

設問2の甲について,出題の趣旨は,危険の現実化の考え方に立った場合の判断の仕方(介在事情が行為の危険を上回る新たな危険を生じさせたか,行為による誘発・影響があるか)と,相当因果関係の考え方を示し,いずれに立つかを問わず,自説の論拠を示して規範を定立し,具体的な事実に当てはめることを求めているが,結論は指定していない。
答案は,衝突がなければ救命は確実であったこと,Dの死因が衝突による肝臓破裂であること,衝突が居眠り運転によるものであることから,因果関係を否定し,傷害罪にとどめた。
この点,最決平成2年11月20日(大阪南港事件)は,犯人の暴行で死因となった傷害が形成された場合には,その後の第三者の暴行で死期が早められても因果関係を肯定でき,最決平成18年3月27日(トランク監禁事件)は,死亡の直接の原因が追突事故を起こした第三者の甚だしい過失にあっても,被害者を自動車後部のトランク内に監禁した行為と死亡との因果関係を肯定できるとしている。
本問では,本件暴行は死因となった傷害を形成しておらず,Dを路上で自動車に衝突される危険にさらす性質のものでもない点で,これらの事案と異なる。
他方,本件暴行がDを病院へ搬送させた以上,搬送中の事故は暴行に誘発されたものであるとして因果関係を肯定する構成も考えられるが,答案は,居眠り運転による衝突は搬送一般に伴う危険とはいえないとみて,これを採らなかった。

(6) 設問2(丙の罪責)

設問2の丙について,出題の趣旨は,①意思連絡がないから共謀共同正犯にならず,積極的な行動もないから作為による幇助犯にもならないという問題の所在,②作為義務の発生根拠(侵害されようとしている法益を保護すべき関係)とその根拠事実,③義務付け得る作為の判断(作為の容易性と結果回避可能性の程度),④関与類型の区別(原則正犯,原則幇助,支配力等による個別判断),の順で検討することを示している。
採点実感は,①の問題の所在を的確に示した答案はほとんどなく,④を論じた答案もほとんどなかったとし,いずれも高く評価している。
②行為を義務付けられるかについて,出題の趣旨は,4月1日と同様の暴行を受ける蓋然性の高さと前回の傷害から著しく困難とする結論と,腹部への暴行の蓋然性が低く甲が4月1日にも胎児を考えて腹部を殴らなかったことから著しく困難とまではいえないとする結論の両方を示している。
答案は前者を採ったため,丙に義務付けられるのは①行為だけとなり,個別判断の考え方によって不作為による幇助犯とした。
後者を採れば,②行為によって本件暴行を確実に阻止できたから,個別判断の考え方によっても不作為による同時正犯(傷害罪)を論じる余地がある。
出題の趣旨は,札幌高裁平成12年3月16日判決が,不作為による幇助の成立に犯罪の実行をほぼ確実に阻止し得たことまでは要しないとしたことを,参考として挙げている。
また,採点実感は,丙について保護責任者不保護罪(同致死傷罪)の成否だけを検討した答案を低く評価しているため,答案は同罪を論じていない(番号56)。

(7) 答案の弱点

答案の弱点は次の3点である。
第一に,単独では正犯になり得ない者も共同実行によって共同正犯となり得るとする論拠は学説上の構成によるものであり,これを正面から述べた最高裁判所の判例は,本記事では確認できていない。
第二に,受験番号を「署名」と評価する点について,直接の判例は確認できていない。
第三に,②行為を義務付けられないとする評価と,搬送中の衝突を本件暴行と独立の事情とする評価は,いずれも反対の評価があり得る。

(8) 答案で扱わなかった事項

設問が除外した特別法違反の点と,設問1で問われていない犯罪(A大学に対する業務妨害等)の成否は,答案では扱っていない。

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第7 出典及び確認状態

1 公式資料

①法務省「令和7年司法試験の実施について」
②法務省「令和7年司法試験問題」
③令和7年司法試験論文式試験問題(刑事系科目)
④法務省「令和7年司法試験の結果について」
⑤令和7年司法試験論文式試験出題の趣旨
⑥法務省「令和7年司法試験の採点実感」
⑦令和7年司法試験の採点実感(刑事系科目)

2 法令

①刑法(e-Gov法令検索)

3 裁判例

①最高裁判所第二小法廷昭和59年2月17日判決(昭和58年(あ)第257号,刑集38巻3号336頁)
②最高裁判所第二小法廷昭和56年4月8日決定(昭和54年(あ)第1613号,刑集35巻3号57頁)
③最高裁判所第三小法廷平成6年11月29日決定(平成5年(あ)第498号,刑集48巻7号453頁)
④最高裁判所第一小法廷平成22年7月29日決定(平成20年(あ)第720号,刑集64巻5号829頁)
⑤最高裁判所第二小法廷平成16年2月9日決定(平成14年(あ)第1647号,刑集58巻2号89頁)
⑥最高裁判所大法廷昭和33年5月28日判決(昭和29年(あ)第1056号,刑集12巻8号1718頁)
⑦最高裁判所第三小法廷平成2年11月20日決定(昭和63年(あ)第1124号,刑集44巻8号837頁)
⑧最高裁判所第一小法廷平成18年3月27日決定(平成17年(あ)第2091号,刑集60巻3号382頁)

4 確認状態

出題の趣旨は,全科目を収めたPDF(上記⑤)のうち刑事系科目第1問の部分(16頁~22頁)を全て読んだ。
採点実感は,刑事系科目のPDF(上記⑦)のうち第1問の部分(1頁~6頁)を全て読んだ。
いずれも法務省「令和7年司法試験の結果について」の頁のリンクから取得した。
刑事系科目第1問の試験時間(2時間)は,上記①の頁に掲載された令和7年司法試験の実施日程等による。

裁判例①~⑧は,いずれも裁判所ウェブサイトの判決全文で,模範解答又は解説で依拠した判示を確認した。
裁判例①は,偽造の本質を名義人と作成者との人格の同一性を偽る点にあるとした原判決の説示を正当として是認したものである。
裁判例②の判示は交通事件原票中の供述書について述べたものであるため,模範解答では「参照」として引いている。
上記⑦及び⑧の決定は,第5の3の解説で触れるだけで,答案では用いていない。

出題の趣旨が参考として挙げる札幌高裁平成12年3月16日判決(判例時報1711号170頁)は,裁判所ウェブサイトに掲載されておらず,本記事の作成に当たって判決の原文を確認していない。
評価項目の番号52の内容は,出題の趣旨の記載による。

条文は,e-Gov法令検索で,事例の行為時(令和3年及び令和6年)と試験の実施時の刑法の規定を確認した。
刑法159条1項は,試験の実施前の令和7年6月12日に,令和7年法律第39号により電磁的記録に関する号を加える形に改められ(文書については「他人の印章等を使用して」と表記),刑法の各罪の懲役も同年6月1日に拘禁刑へ改められている。
文書の偽造に関する要件には変更がないため,模範解答は行為時と試験の実施時に共通する要件を前提としている。