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膝関節の可動域制限と後遺障害12級7号――認定基準,測定方法,代償動作及び裁判例(AI作成)

第1 この記事の対象

膝関節の可動域制限は,交通事故及び労働災害の後遺障害のうち,等級が測定値だけで決まる典型的な類型である。本記事は,膝関節の可動域制限が後遺障害12級7号と評価される場合を対象として,①その等級がどの条文と基準によって決まるのか,②可動域はどのように測定され,どの数値と比較されるのか,③12級に相当する程度の制限で現実にどの動作が失われ,身体がどのようにこれを補うのか,④これらが労働能力の喪失の評価においてどのように扱われてきたのかを整理する。作成に当たっては生成AIを用いて資料の収集と草稿の作成を行い,条文,通達,測定法及び裁判例は,いずれもe-Gov法令検索,厚生労働省及び国土交通省の公表資料,学会の公表資料並びに判決書の本文で内容を確認した。個別の事案では,可動域の測定値,症状固定の時期及び併存する障害によって結論が変わる。同じ下肢の三大関節については股関節及び足関節を,上肢の三大関節(第12級6号)については肩関節肘関節及び手関節を,それぞれ別稿で扱っている。

第2 認定基準

1 下肢の関節機能障害の等級は3段階しかない

自動車損害賠償保障法施行令別表第2において,一下肢の三大関節(股関節,膝関節及び足関節)の機能障害として定められている等級は,第8級7号「一下肢の三大関節中の一関節の用を廃したもの」,第10級11号「一下肢の三大関節中の一関節の機能に著しい障害を残すもの」及び第12級7号「一下肢の三大関節中の一関節の機能に障害を残すもの」の3つだけである。この点は,膝関節の機能障害の等級が争われた福岡高等裁判所昭和53年8月17日判決(昭和51年(行コ)第6号)も,労災保険の障害等級表について「下肢(右又は左)の欠損又は機能障害で第八級以下に該当するものとしては,右第八級の七及び第一〇級の一〇のほか,第一二級の七に『一下肢の三大関節の一関節の機能に障害を残すもの』という定めが存するのみである」と述べており,中間的な等級を作る余地がないことを前提としている。膝の可動域制限を主張する場合,議論はこの3段階のいずれに当たるかに集約され,「12級と10級の中間」という結論はあり得ない。

2 労災保険と自賠責保険で号数がずれる

労働者災害補償保険法施行規則別表第一(障害等級表)にも同じ内容の障害が定められているが,号数は自賠責保険と一致しない。労災の障害等級表では,第10級に「五 削除」という削除済みの号が残っているため以降の号数が1つずつ前にずれており,「一下肢の三大関節中の一関節の機能に著しい障害を残すもの」は自賠責の第10級11号に対し労災では第10級10号となる。局部の神経症状も,自賠責の第12級13号に対し労災では第12級12号である。もっとも,本記事の主題である「一下肢の三大関節中の一関節の機能に障害を残すもの」は,自賠責,労災とも第12級7号で一致する。書面や意見書で等級を引用する際は,労災の事案で「10級11号」と書けば誤りとなるため,どちらの制度の等級表を引いているのかを確認する必要がある。労災保険で認定された障害等級に不服がある場合の手続については,労災保険に関する審査請求及び再審査請求を参照されたい。

3 健側との比較という原則と,参考可動域による例外

自賠責保険の等級認定は,自賠責保険の支払基準(自動車損害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払基準・平成13年金融庁国土交通省告示第1号)第3が「等級の認定は,原則として労働者災害補償保険における障害の等級認定の基準に準じて行う。」と定めるとおり,労災の認定基準に従って行われる。その認定基準の本体が,平成16年6月4日基発第0604003号「せき柱及びその他の体幹骨,上肢並びに下肢の障害に関する障害等級認定基準について」の別添「関節の機能障害の評価方法及び関節可動域の測定要領」である。同別添は,比較の方法について「関節の機能障害の認定に際しては,障害を残す関節の可動域を測定し,原則として健側の可動域角度と比較することにより,関節可動域の制限の程度を評価するものであること。」とした上で,「ただし,せき柱や健側となるべき関節にも障害を残す場合等にあっては,測定要領に定める参考可動域角度との比較により関節可動域の制限の程度を評価すること。」と定めている。等級の閾値は,健側の可動域角度の4分の3以下に制限されているものが「関節の機能に障害を残すもの」(第12級7号),2分の1以下に制限されているものが「関節の機能に著しい障害を残すもの」であり,強直(用廃)はおおむね健側の10パーセント程度以下とされる。同別添は膝を例に挙げ,「ひざ関節(屈曲)に大きな可動域制限があり,健側の可動域が130度である場合は,可動域制限のある関節の可動域が,130度の10パーセントを5度単位で切り上げた15度以下であれば,ひざ関節の強直となる。」と説明している。

4 屈曲と伸展を合計し,膝には参考運動がない

同別添は,「原則として,屈曲と伸展のように同一面にある運動については,両者の可動域角度を合計した値をもって関節可動域の制限の程度を評価すること。」と定めており,膝については屈曲と伸展を合計した1つの数値で判定される。ここで実務上決定的に重要なのは,同別添が各関節の運動を主要運動と参考運動に区別した表において,膝関節の主要運動を屈曲・伸展とする一方,参考運動を定めていないことである。同別添は,上肢及び下肢の三大関節について,主要運動の可動域が2分の1又は4分の3を「わずかに上回る場合」(原則として5度)に,当該関節の参考運動が同じ比率以下に制限されているときは等級を認めるという救済を置いているが,参考運動が存在しない膝関節では,この救済が働く余地がない。膝の可動域制限は,屈曲と伸展を合計した値が健側の4分の3をわずかでも上回れば,それだけで第12級7号が成立しないことになる。閾値の近傍にある事案で測定値の信用性が激しく争われるのは,この構造によるものである。

第3 測定方法

1 膝の参考可動域角度と測定肢位

膝の参考可動域角度は,日本整形外科学会及び日本リハビリテーション医学会が定める関節可動域表示ならびに測定法において,屈曲0度から130度,伸展0度とされ,基本軸を大腿骨,移動軸を腓骨(腓骨頭と外果を結ぶ線)とし,屈曲は股関節を屈曲位で行うものとされている。同測定法は令和4年4月に改訂されたが,膝の参考可動域角度及び測定肢位は前記通達別添の測定要領と一致しており,改訂による変更はない。改訂の実質は足部及び足趾の用語を国際的な定義に合わせた点にあるため,足関節を併せて主張する事案では,診断書の記載が新旧いずれの用語によるものかを確認する必要がある。なお,測定は主治医が行い,その結果が後遺障害診断書に記載されるものであるから,被害者側が独自に作り出せる資料ではない。

2 旧来の180度表示法との読替え

現在の測定法は,膝が伸びきった状態を0度とし,そこから曲がった角度を屈曲として表示する。これに対し,古い時期の診断書や判決には,伸展位を180度として表示するものがある。例えば後記の福岡高等裁判所昭和53年8月17日判決は,膝の可動域を「伸展一七〇度ないし一七五度,屈曲一〇五度ないし一一〇度」と認定しているが,これは180度表示法によるものであって,現在の表示法に読み替えれば伸展が不足した状態を意味する。表示法を取り違えると可動域の広狭を正反対に理解することになるため,古い資料を扱う際には表示法の確認が欠かせない。

3 測定値が動く場合の扱い

膝の可動域は,測定の時期,測定者,疼痛の程度及び測定が自動運動か他動運動かによって変動する。認定基準は,健側の10パーセントに相当する角度を5度単位で切り上げるという処理を定めており,測定が5度刻みで行われることを前提としている。したがって閾値の近傍にある事案では,測定値の誤差そのものが争点となる。症状固定より前の時期に良好な数値が記録されていることを理由に後遺障害の存在を争う主張がされることもあるが,後記の大阪高等裁判所平成31年1月22日判決は,そうした一時点の記録があっても,その後の経過及び医学的知見を総合して後遺障害の残存を認めている。

第4 12級相当の可動域制限で現実に失われる動作

1 日常動作に必要な膝の屈曲角度

膝の可動域がどの程度あれば日常生活を送れるかについては,高齢の健常者を対象として,歩行,坂道,階段,椅子及び浴槽という一連の動作中の膝の角度を柔軟型の電気角度計で実測した研究がある。その結果は,平地歩行及び坂道は90度未満の屈曲で足り,階段の昇降及び椅子への立ち座りは90度から120度の屈曲を要し,浴槽の出入りにはおよそ135度の屈曲を要するというものであり,膝の可動域回復の目標としては110度が適当であると結論づけられている。正座やしゃがみ込みは,この研究が対象とした浴槽の出入りをさらに上回る深い屈曲を必要とする動作である。

2 平地歩行は残り,深屈曲を要する動作が失われる

健側の膝が参考可動域どおり屈曲130度・伸展0度であるとすると,第12級7号の閾値である4分の3は,患側の屈曲と伸展の合計が約97・5度以下という水準に当たる。実際,後記の大阪高等裁判所平成31年1月22日判決の事案では,健側の屈曲130度に対し患側が90度であり,これが4分の3以下として第12級7号と認定されている。前記の実測値と対照すると,平地歩行及び坂道に必要な角度は残る一方,階段の昇降と椅子からの立ち座りは境界的又は困難となり,浴槽の出入り,しゃがみ込み及び正座はできなくなるという構造が導かれる。本記事では,12級相当の膝の可動域制限がもたらす支障の本質は,歩けるかどうかではなく,荷重をかけた状態で深い屈曲を必要とする動作が失われる点にあると整理する。裁判例においても,膝の機能障害の内容として「右膝の屈曲が悪く,下り坂や階段の下降が困難で,正座不能」と認定した例(前記福岡高等裁判所昭和53年8月17日判決)や,「長時間立っていることができず」「走ることはできず,正座をしたり,和式便所を使用することができない」と認定した例(後記東京地方裁判所平成10年11月4日判決)があり,失われる動作は具体的に把握されている。外見上は歩行できるため支障が小さいと受け取られやすいという評価上の非対称が生じるのは,この類型の特徴である。

第5 代償動作とその負担

1 遊脚期の代償と転倒の危険

膝が十分に曲がらないと,脚を前に振り出す遊脚期につま先が地面から離れる余裕を確保できなくなる。これを補うために現れるのが,患側の脚を外側に振り回す分回し歩行,健側で伸び上がって患側を通す動作,及び骨盤を持ち上げて患側の脚を引き上げる動作である。膝を装具で固定した状態の歩行を検討した研究は,これらを「長い脚」の状態に対する代償として整理した上で,つまずきの危険を伴うと指摘している。

2 立脚期の代償と姿勢の変化

体重を支える立脚期には,別の方向の代償が現れる。膝が伸展位のまま固定されると,股関節の過伸展と体幹の反り返った姿勢が生じ,腰椎の前弯と胸椎の後弯が強まる。その結果,直立した姿勢を保つために股関節の屈筋群がより大きな力を出す必要が生じ,股関節前面の痛みと易疲労につながるとされている。また,踵が接地する瞬間の床反力は,本来は足部,膝及び股関節が屈曲することで減衰されるところ,膝の動きが失われるとこの減衰能が低下する。

3 代償に伴う二次的な負担

代償動作は,失われた機能を補う一方で,別の部位に新たな負担を生む。前記の研究は,床反力を十分に減衰できないことが腰痛並びに下肢及び脊椎の関節の変形性関節症と関連すること,健側の足関節を底屈させて伸び上がる代償がエネルギー消費の増加に寄与することを指摘している。エネルギー消費については,健常者の膝を固定して平地を快適な速度で歩行させた実験で,酸素消費量が固定しない場合と比べて22・7パーセント増加したとの報告があり,別の実験でも20パーセントの増加が報告されている。もっとも,これらはいずれも膝を完全に固定した実験モデルの数値であり,可動域が部分的に残っている12級相当の制限にそのまま当てはめることはできない。本記事では,これらの知見は代償動作が無償ではないことを示すものとして扱い,具体的な負担の程度は個別の事案ごとに検討すべきものと整理する。

裁判例にも,代償動作の帰結が事実として認定された例がある。東京地方裁判所平成10年11月4日判決(平成3年(ワ)第16081号・交通事故民事裁判例集31巻6号1699頁)は,左膝及び左足関節の可動域制限等が残存した事案において,「原告は,これらの後遺障害により,長時間立っていることができず,歩行に際して跛行するため,腰痛になることがある。」と認定しており,跛行という代償歩行と腰痛という二次的な負担の結び付きが,損害の評価の前提として取り上げられている。

4 機序の説明には争いがある

膝の動きが失われるとエネルギー消費が増える理由として,立脚期の膝の屈曲が身体の重心の上下動を減らして歩行を効率化しているという説明が用いられることがある。これは1953年に提唱された歩行の決定因子論に由来する説明であるが,その後の実測研究は,立脚期の膝屈曲が体幹の上下動を目立って減らすものではないこと,重心の上下動の減少に主として寄与しているのは立脚終期の踵の挙上であることを報告しており,重心の上下動を減らすことが酸素消費量の減少を伴うわけではないとする報告もある。膝を固定すると歩行のエネルギー消費が増えるという結果自体は複数の実測で支持されているが,その理由を重心の上下動によって説明することには異論がある。書面や意見書でこの点に触れる場合には,機序の説明に踏み込まず,実測されたエネルギー消費の増加と,現に観察される代償動作の型を述べるにとどめるのが安全である。

第6 裁判例

1 可動域制限に伴う疼痛は別個の等級とならない

膝の可動域制限には痛みを伴うことが通常であるが,この痛みを機能障害とは別個の神経症状として評価し,併合繰上げを求めることはできない。福岡高等裁判所昭和53年8月17日判決(昭和51年(行コ)第6号・玉名労基署長障害等級決定取消事件)は,右膝関節の機能障害と同一部位の疼痛が残存した事案において,「重い外傷又は疾病により器質的又は機能的障害を残す場合には,一般に患部に第一二級又は第一四級程度の疼痛等神経症状を伴うが,これを別個の障害としてとらえることなく,器質的又は機能的障害と神経症状のうち最も重い障害等級によること。」という行政解釈を「正当として是認することができる」とした。その理由として同判決は,器質又は機能障害が残存する場合には第12級又は第14級に該当する疼痛等の神経症状が発現するのが常態であり,医学的にはその全体を1個の病像として把握すべきものとされていること,これらについて併合繰上げをすれば障害等級表が定める全体的な障害序列を乱すことになりかねないことを挙げている。同判決はまた,局所の炎症性反応や器質損傷によって知覚神経の末端機構が刺激されて生じる疼痛は,神経系統自体の損傷を要件とする上位等級には当たらないとして,カウザルギーとの区別も示している。この包括評価の考え方は,後記4の大阪高等裁判所平成31年1月22日判決の事案において,損害保険料率算出機構が「右膝の神経症状は機能障害に包摂して評価されるべきもの」として第12級7号を認定していることにも表れており,労災の行政解釈にとどまらず自賠責保険の実務にも及んでいる。

2 可動域の数値に届かなければ機能障害は認められない

膝の第12級7号は健側との比較という数値によって決まるため,日常生活上の支障を訴えるだけでは足りない。福岡地方裁判所平成31年4月23日判決(平成30年(ワ)第578号)は,「原告は左膝が十分に曲がらず正座ができない旨訴え,多関節運動,筋の協調性の低下,廃用による筋力低下がみられ,左股関節の可動域制限があり,大腿部の周径は右足よりも数センチメートル低値であるものの,左膝(患側)の可動域は自覚所見・他覚所見ともに右膝(健側)の可動域の3/4以下に制限されているとは認められないから,『1下肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの』を負ったとは認められない。」として,第12級7号の主張を排斥した。他方で同判決は,左大腿部の筋断裂及び神経切断による痛みと痺れにより左足で身体を支えられず長時間の立位が困難であるとして,第12級13号(局部に頑固な神経症状を残すもの)に該当するとし,労働能力喪失率を14パーセントと認めている。可動域の数値が閾値に届かない事案において,同一部位の疼痛を第12級13号として構成する予備的な主張が功を奏した例である。前記1の福岡高裁判決は,機能障害が認定される場合に疼痛を上乗せしないという趣旨であり,機能障害が認定されない場合に疼痛のみで等級が立つことを否定するものではない。

3 健側にも障害があるときは参考可動域と比較する

第2の3で述べた,健側となるべき関節にも障害がある場合に参考可動域角度と比較するという例外が現実に適用された例として,東京地方裁判所令和5年1月23日判決(令和3年(ワ)第14797号)がある。同判決は,「右足関節の機能障害については,本件診断書上,左足関節にも機能障害が認められることから,参考可動域角度と比較するところ,その可動域が参考可動域角度の3/4以下に制限されているから,『1下肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの』として後遺障害等級12級7号に該当する。」とする一方,「右膝関節の機能障害については,本件診断書上,可動域が健側(左膝関節)の可動域角度の3/4以下に制限されていないから,後遺障害に該当しない。」として,同一の下肢について足関節を等級該当,膝関節を非該当と判断した。同判決はさらに,「なお,右足痛,右下腿骨折部周囲から足背,足底つっぱり感,異常感覚,右下肢跛行,走れない・正座ができない等の症状は上記等級に含めて評価される。」と述べており,跛行,走れないこと及び正座ができないことという代償動作及びその帰結が,独立の等級を生むものではなく上位の等級に包括して評価されることを明示している。昭和53年の福岡高裁判決が示した包括評価の考え方は,令和に入った現在の裁判例にも維持されているとみることができる。

4 膝単独の12級7号における喪失率と喪失期間

大阪高等裁判所平成31年1月22日判決(平成30年(ネ)第1599号・自保ジャーナル2042号16頁)は,自転車で走行中に自動車と接触して右膝挫傷及び右膝内側半月板損傷を負った事案である。後遺障害診断書には「右膝痛,屈曲位90°をこえると痛み,階段の昇降時に膝くずれ等あり,歩行時力が入りにくい」との自覚症状が記載され,膝関節の屈曲可動域は健側(左)の130度に対して右が90度(自動・他動とも)とされた。損害保険料率算出機構は,「右膝関節はその可動域が健側(左膝関節)の可動域角度の4分の3以下に制限されるとの機能障害があり,右膝の神経症状は機能障害に包摂して評価されるべきものであって,本件後遺障害は全体として等級表12級7号に該当する」と認定した。第一審は後遺障害を等級表14級に該当すると判断し,労働能力喪失率を5パーセント,喪失期間を3年としたが,控訴審は,平成28年簡易生命表により症状固定時54歳の男性の平均余命が28・91年であることから「なお14年間は就労可能であった」と推認した上で,「本件後遺障害の内容,部位及び程度に照らせば,一審被告は,本件後遺障害により上記14年間にわたり,その労働能力を14%喪失したものと認めるのが相当である。」とした。この14パーセントは,前記支払基準別表Ⅰの労働能力喪失率表が第12級について定める数値と一致する。

同判決は,加害者側の主張を排斥した理由においても参考になる。加害者側は,症状固定より前の平成28年1月27日の診療において右膝関節の可動域が130度でありマックマレー検査が陰性であったことを理由に,客観的な医学的所見に裏付けられた後遺障害はないと主張した。これに対し控訴審は,その後の同年2月13日に屈曲90度,3月11日に100度と推移していることを含む検査所見及び治療経過を総合考慮して医師が後遺障害の残存を診断していること,並びに「医学的には半月板の損傷が自然治癒することは殆どないとされている事実」を挙げて,この主張を採用しなかった。可動域が良好であった一時点の記録が存在しても,それだけで後遺障害が否定されるものではないこと,及び器質的損傷の自然経過に関する医学的知見が判断を左右し得ることを示している。

5 代償動作の習熟による逓減を認めるかは分かれている

加害者側からは,時間の経過とともに代償動作を習得して支障が軽減するとして,労働能力喪失率を逓減させるべきであるという主張がされることがある。この主張に対する判断は分かれている。

東京地方裁判所平成10年11月4日判決(平成3年(ワ)第16081号・交通事故民事裁判例集31巻6号1699頁)は,左膝の可動域制限(屈曲が右162度に対し左133度,伸展が右0度に対し左15度)及び左足関節の可動域制限がいずれも第12級7号とされ,下肢短縮及び下腿骨の変形癒合と併せて併合第10級とされた事案である。同判決において被告は,膝及び左足関節の可動域制限について「元来,健側の可動域が日本人の平均を大きく上回っていることが影響し,患側の可動域もそれほど小さいものではない」と指摘した上で,労働能力の喪失の程度は20パーセントが相当であり,それも「代償動作の習熟等により,徐々に逓減する」と主張した。これに対し同判決は,「健側と患側の可動域に差異がある以上,労働に不便があることは否定できない上,下肢短縮や左下腿骨の変形が,身体の他の部分に与える影響も無視できない。」と述べ,被告の主張は「労働能力の喪失程度を過小に評価しすぎている」として採用せず,症状固定時である35歳から67歳までの32年間にわたり平均して25パーセントの労働能力を喪失したと認定した。逓減を認めなかっただけでなく,代償による他の部位への影響を喪失率の評価に取り込んだ点に特徴がある。

他方,大阪地方裁判所平成13年4月19日判決(平成11年(ワ)第13328号)は,左足関節の可動域が健側の2分の1以下に制限されて第10級11号とされた事案において,「原告の職種は歯科衛生士であり長時間の立ち仕事を強いられることが予想されるものの,膝関節などと比べた場合,足関節の機能障害が就労に及ぼす影響は比較的小さいと考えられ,また,時間の経過とともに代償動作の習得や,障害に対する慣れで,就労への支障は逓減するものと考えられる」として,労働能力喪失率及び喪失期間を「当初五年間につき二〇パーセント,その後一〇年間にわたり一〇パーセント程度」と認定した。同判決は膝関節ではなく足関節の事案であるが,代償動作の習得を理由とする逓減を認めた例として参照されることがある。もっとも,同判決自身が,足関節の機能障害が就労に及ぼす影響は膝関節と比べれば比較的小さいと述べていることには留意を要する。膝の事案において同判決を援用した逓減の主張がされた場合,この判示部分はむしろ反論の手がかりとなる。

6 労働能力喪失期間を制限する主張への判断

膝の器質的な損傷を原因とする後遺障害について,将来症状が改善する可能性があるとして労働能力喪失期間を短く限るべきであるという主張がされることもある。東京地方裁判所平成29年3月29日判決(平成27年(ワ)第30864号・交通事故民事裁判例集50巻6号1645頁)は,両膝の二次性変形関節症等による強度の常時疼痛が第12級13号に該当し併合第11級相当とされ,症状固定時の年齢が30歳であった事案において,労働能力喪失率を20パーセント,労働能力喪失期間を症状固定時から67歳までの37年間と認めた。同判決は,喪失期間を10年間とすべきであるという被告の主張について,「原告の後遺障害の原因は,両側脛骨関節軟骨損傷であり,関節軟骨には血が通っていないため,損傷すると自然治癒することはないとされ,逆に事故による損傷をきっかけに,更に軟骨がすり減り,悪化していく可能性も指摘されていること」を挙げて採用しなかった。前記4の大阪高裁判決が半月板損傷について同様の理由付けを用いていることと併せると,膝の器質的損傷を原因とする事案では,時間の経過が症状の改善ではなく悪化の要因となり得ることが,期間制限の主張に対する反論の中心に置かれているとみることができる。

7 他の関節と併合される場合

膝の可動域制限は,同じ下肢の他の関節の障害と併合されることが多い。千葉地方裁判所令和6年10月29日判決(令和5年(ワ)第930号・交通事故民事裁判例集57巻5号1350頁)は,右大腿骨遠位端骨折及び右脛骨近位端骨折後の右足関節機能障害を第10級11号,同じ右膝関節機能障害を第12級7号として併合第9級とされた事案である。同判決は,労働能力喪失率を35パーセントとした上で,症状固定時に高齢であったことから労働能力喪失期間を平均余命の約2分の1に相当する9年とし,基礎収入を賃金センサスの女性学歴計全年齢平均の約75パーセントに相当する額とした。膝単独では第12級にとどまる可動域制限であっても,同一下肢の他の関節の障害と併合されることで喪失率が大きく変わるため,膝以外の関節についても可動域の測定を欠かさないことが実務上重要である。

第7 主張立証の設計

1 症状固定時の可動域測定を確実にする

膝の第12級7号は健側との比較による数値で決まり,参考運動による救済もないから,被害者側が最初に確保すべきは症状固定時の測定値である。①測定は原則として他動運動によること,②健側と患側を同一の条件で測定すること,③屈曲と伸展を合計した値で判定されること,④測定は5度刻みで行われ誤差を伴うことを踏まえ,閾値の近傍にある場合には複数回の測定結果を診療録に残すよう主治医に依頼しておくことが考えられる。測定値は主治医が作成する後遺障害診断書に記載されるものであるから,被害者側が独自に用意できる資料ではなく,症状固定の前後で医療機関に働きかけておく必要がある。また,健側の可動域が参考可動域を大きく上回る場合には,分母が大きくなることを理由とした減額の主張を招くことがあるため,健側の測定条件についても確認しておくことが望ましい。

2 角度を具体的な動作へ翻訳する

測定された角度をそのまま提出しても,どの程度の支障があるのかは伝わらない。第4で述べた機能的な閾値と対照させ,階段の昇降,椅子からの立ち座り,浴槽の出入り,しゃがみ込み及び正座のうち何ができなくなったのかを,職業上の具体的な作業に即して述べることが有効である。前記の裁判例が「下り坂や階段の下降が困難で,正座不能」「長時間立っていることができず」「階段の昇降時に膝くずれ等あり,歩行時力が入りにくい」といった具体的な動作の水準で事実を認定していることからも,抽象的な訴えではなく動作の単位で主張を構成する必要が分かる。

3 代償動作と二次的な負担を記録する

分回し歩行,伸び上がり,骨盤の挙上,健側からの一段ずつの階段昇降といった代償の型は,本人の陳述書のほか,同居者や同僚の陳述書,通院時の動作の記録によって具体化できる。腰痛や健側の膝の痛みが生じている場合には,その発症時期と跛行が始まった時期の前後関係を診療録で確認しておくと,東京地方裁判所平成10年11月4日判決のように,代償による他の部位への影響を喪失率の評価に取り込む主張に接続しやすい。ただし,第6の3で述べたとおり,跛行や正座不能といった症状それ自体は上位の等級に包括して評価され,独立の等級を生むものではない。これらは等級を引き上げる材料としてではなく,労働能力喪失率,労働能力喪失期間及び慰謝料の評価を左右する事情として位置付けるのが,裁判例の扱いに沿う。

4 相手方の減額主張への備え

膝の可動域制限の事案で相手方から予想される主張は,①測定値の信用性を争うもの,②健側の可動域が大きいことを理由に実質的な支障は小さいとするもの,③代償動作の習熟により支障が逓減するとするもの,④症状の改善可能性を理由に労働能力喪失期間を制限すべきとするものに整理できる。①については大阪高等裁判所平成31年1月22日判決が,②から④については第6で述べた各裁判例が,それぞれ直接の反論材料となる。もっとも,これらの主張は医師の意見書を伴って提出されることが通常であり,前記東京地方裁判所平成10年11月4日判決及び大阪地方裁判所平成13年4月19日判決のいずれにおいても,逓減の主張には被告側の書証が付されていた。反論に当たっては,代償動作が支障を消滅させるものではなく,転倒の危険,腰痛,他の関節への負担及びエネルギー消費の増加という別の負担を生じさせるものであることを,医学的知見に基づいて示すことになる。

5 費用と負担に見合う手段の選び方

まず着手すべきは,後遺障害診断書,診療録,画像及びリハビリテーションの記録という,被害者側が医療機関から取り寄せることのできる低負担の資料の収集である。これらによって,測定値の推移,装具の使用の有無,医師が就労制限についてどのように述べているかが判明する。この段階で可動域が閾値を明らかに下回っていることが確認できるのであれば,それ以上の立証活動を重ねる必要は乏しい。他方,測定値が閾値の近傍にあり,かつ複数回の測定で値が動いている場合には,測定条件の違いが争点として残る。医師面談,意見書の取得又は歩行の状態に関する専門的な検討といった負担の大きい手段へ進むのは,こうした具体的な争点が残っており,かつその手段によって何が判明すれば結論が変わるのかを説明できる場合に限るのが合理的である。可動域が閾値に届かないことが動かない事案では,第6の2で述べたとおり同一部位の疼痛を第12級13号として構成する方向へ切り替える判断も必要となる。

なお,後遺障害による損害の賠償請求権の消滅時効は症状固定の時から進行すると解されており,等級認定の結果を待つ間に期間が経過することがあるため,早い段階で起算点と残期間を確認しておく必要がある(消滅時効に関するメモ書き参照)。労働災害としての性質も併せ持つ事案では,労災保険給付との調整が問題となるため,労災保険又は障害年金を支給される可能性がある事案における示談も参照されたい。

出典・参考資料

法令

裁判例

  • 福岡高等裁判所昭和53年8月17日判決(昭和51年(行コ)第6号・玉名労基署長障害等級決定取消) 裁判所ウェブサイト https://www.courts.go.jp/hanrei/19608/detail4/index.html
  • 福岡地方裁判所平成31年4月23日判決(平成30年(ワ)第578号・損害賠償請求事件) 裁判所ウェブサイト https://www.courts.go.jp/hanrei/88666/detail4/index.html
  • 大阪高等裁判所平成31年1月22日判決(平成30年(ネ)第1599号・本訴損害賠償,同反訴請求控訴事件) 自保ジャーナル2042号16頁。裁判所HP未掲載。判例秘書プラスにより判決全文を確認
  • 東京地方裁判所平成10年11月4日判決(平成3年(ワ)第16081号・損害賠償請求事件) 交通事故民事裁判例集31巻6号1699頁。裁判所HP未掲載。判例秘書プラスにより判決全文を確認
  • 大阪地方裁判所平成13年4月19日判決(平成11年(ワ)第13328号・損害賠償請求事件) 裁判所HP未掲載。判例秘書プラスにより判決全文を確認(判例秘書登載)
  • 東京地方裁判所平成29年3月29日判決(平成27年(ワ)第30864号・損害賠償請求事件) 交通事故民事裁判例集50巻6号1645頁。裁判所HP未掲載。判例秘書プラスにより判決全文を確認
  • 東京地方裁判所令和5年1月23日判決(令和3年(ワ)第14797号・損害賠償請求事件) 裁判所HP未掲載。判例秘書プラスにより判決全文を確認(判例秘書登載)
  • 千葉地方裁判所令和6年10月29日判決(令和5年(ワ)第930号・損害賠償請求事件) 交通事故民事裁判例集57巻5号1350頁。裁判所HP未掲載。判例秘書プラスにより判決全文を確認

行政資料

学会資料

  • 日本整形外科学会・日本リハビリテーション医学会「関節可動域表示ならびに測定法」(2022年4月改訂,2022年6月1日発効の修正版) 日本リハビリテーション医学会 https://www.jarm.or.jp/member/kadou.html

医学文献

  • Rowe PJ, Myles CM, Walker C, Nutton R. Knee joint kinematics in gait and other functional activities measured using flexible electrogoniometry: how much knee motion is sufficient for normal daily life? Gait & Posture 2000;12(2):143頁~155頁
  • Hanada E, Kerrigan DC. Energy consumption during level walking with arm and knee immobilized. Archives of Physical Medicine and Rehabilitation 2001;82(9):1251頁~1254頁
  • Abdulhadi HM, Kerrigan DC, LaRaia PJ. Contralateral shoe-lift: effect on oxygen cost of walking with an immobilized knee. Archives of Physical Medicine and Rehabilitation 1996;77(7):670頁~672頁
  • Ghoseiri K, Zucker-Levin A. Long-term locked knee ankle foot orthosis use: A perspective overview of iatrogenic biomechanical and physiological perils. Frontiers in Rehabilitation Sciences 2023;4:1138792
  • Gard SA, Childress DS. The influence of stance-phase knee flexion on the vertical displacement of the trunk during normal walking. Archives of Physical Medicine and Rehabilitation 1999;80(1):26頁~32頁
  • Kerrigan DC, Della Croce U, Marciello M, Riley PO. A refined view of the determinants of gait: significance of heel rise. Archives of Physical Medicine and Rehabilitation 2000;81(8):1077頁~1080頁
  • Della Croce U, Riley PO, Lelas JL, Kerrigan DC. A refined view of the determinants of gait. Gait & Posture 2001;14(2):79頁~84頁
  • Wurdeman SR, Raffalt PC, Stergiou N. Reduced vertical displacement of the center of mass is not accompanied by reduced oxygen uptake during walking. Scientific Reports 2017;7:17182