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平成27年司法試験公法系第2問(行政法)の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した21項目と5段階の重み付け(AI作成)

第1 この記事の対象と結論

本記事は平成27年司法試験公法系第2問(行政法)について,法務省の出題の趣旨・採点実感を基に,21の法的評価項目と5000字以内の答案例を示すものである。
一般的な記述上の注意6件は別に掲げ,法的評価項目の件数・重み合計へ加算しない。
評価単位の分け方,5段階の重み及び答案の結論は本記事独自の整理であり,法務省の公式採点基準・配点や合格可能性を示すものではない。

答案例は,設問1で移転命令の差止め訴訟を選び,移転の負担と直後の公表による信用損害を分けて訴訟要件を検討する。
設問2では内部基準の合理性と個別例外を区別し,危険物政令9条の距離短縮と23条の特例を比較する。
設問3では継続的な安全維持義務,設置時の予見・計画的回避可能性から補償を否定する構成を採る。
実体的な結論には別構成の余地があり,この答案だけが公式の正解という趣旨ではない。

項目内容
対象平成27年司法試験公法系第2問(行政法)
資料範囲問題PDF4頁~12頁。出題趣旨PDF2頁~3頁の第2問部分。採点実感PDF6頁~11頁。
基準時平成27年の試験問題と付属法令抜粋・設問の仮定を基礎とする。現行事件への法律相談ではない。
評価法的評価項目N=21,重み合計W=83。一般項目6件は別掲。
重み5番号3・4・10・18・21の5件。
答案分量3822字(題名・見出し・空白・改行・末尾「以上」を含む)。
確認日令和8年10月31日。判例原文の確認範囲は第7に区別して記載する。

第2 評価項目の示し方と重み付けの基準

1 評価項目の示し方

公式資料の記述を,一つの判断対象ごとにまとめた。
同じ論点への肯定的要求と誤答指摘は原則として統合し,出題の趣旨と採点実感の双方にあることだけを理由に二重に数えない。
第4の引用は根拠位置を示す短い抜粋であり,評価項目の文章全体が公式資料の逐語引用という意味ではない。
記載なしは当該資料から直接の根拠を確認できないという意味であり,不要との判断を示すものではない。

【注意】は誤りを避けるための項目である。
注意項目を誤って積極的な主張の要求に変えたり,同じ不足を重複して減点したりしない。
複数の構成が許される場合は,各立場の規範・事実評価・結論が一貫しているかを検討し,相互に両立しない結論を累積要求しない。

2 5段階の重み付けの基準

重み本記事独自の基準
5設問の結論に直結する中核の規範・判断操作・具体的当てはめ。
4主要な法的理由,重要な事情,対立する構成への応答。
3通常必要な訴訟選択・要件処理又は範囲の区別。
2中核論証を支える補助的な前提の確認。
1追加的な補足。本問の法的評価項目には該当なし。

重みは件数が均等になるよう割り当てたものではない。
番号3・4は重大損害の基準と二種類の不利益への適用,10は基準審査と個別事情審査の区別,18・21は安全維持義務と具体的な予見・回避可能性という各設問の核心なので,重み5とした。

第3 本問の概要

1 問題文と事実関係

Xは平成17年に許可を受けて灯油の一般取扱所を営んでいる。
取扱所所在地は工業地域であり,現在の危険物の倍数は55である。
設置当初から数量が増えていないという事実までは与えられていない。

本件取扱所の近隣にある葬祭場の所在地が平成26年に第一種中高層住居専用地域から第二種中高層住居専用地域へ指定替えされ,Aが建築確認を経て葬祭場の建築工事を完了させた。
葬祭場の営業が開始されればY市長が消防法12条2項の移転命令を発することは確実であり,Y市は同項の移転命令を発した場合に直ちにウェブサイトで公表する運用をとっている。
葬祭場と取扱所の距離は18メートルであり,原則30メートルの保安距離を満たさない。

内部基準①は工業地域で倍数50以下,②は本件の条件で20メートル以上,③は防火塀の高さを定める。
Xは③を上回る塀と法定水準を超える消火設備を設ける能力・意思を有するが,上乗せ対策を実施済みとはされていない。
敷地内で20メートルを確保できず,減量は経営上不可能で,移転には巨額の費用を要する。

2 設問が求めること

設問立場・対象前提・除外到達点
1X/未発令の移転命令本訴たる抗告訴訟。訴訟要件を問う。具体的な訴訟の選択と要件の検討。
2X/命令の実体的違法手続上の瑕疵,葬祭場の保安物件該当性は論点としない。安全認定の非処分性も前提。裁量・内部基準・個別事情・政令23条を用いて違法主張を構成。
3X/適法な命令による損失憲法29条3項の直接請求が可能との前提。その可否自体は論じない。安全維持義務と予見・回避可能性から補償の要否を検討。

第4 評価項目と重み

1 設問1

番号評価項目重み出題の趣旨採点実感
1本件移転命令を対象とする差止め訴訟を,求められた本訴たる抗告訴訟として具体的に挙げている。3趣旨PDF2頁~3頁。「本件命令の差止め訴訟を挙げた上で」(項目化は本記事の整理)。採点実感PDF6頁・8頁~9頁。「一応の水準の答案と判定した。」(項目化は本記事の整理)。
2行政事件訴訟法3条7項の「一定の処分…がされようとしている」という蓋然性を,本件の命令発出に向けた事実に即して検討している。3趣旨PDF2頁~3頁。「一定の処分…がされようとしている」(項目化は本記事の整理)。採点実感PDF6頁・8頁。「一応の水準の答案と判定した。」(項目化は本記事の整理)。
3重大な損害の基準として,命令後の取消訴訟・執行停止では容易に救済できず,事前差止めでなければ救済困難かという平成24年判決の考え方を示している。5趣旨PDF3頁。「重大な損害を生ずるおそれ」(項目化は本記事の整理)。採点実感PDF6頁・8頁・10頁。「最高裁平成24年判決を踏まえて論じていれば,良好な答案と判定した。」(項目化は本記事の整理)。
4移転による不利益と,命令後直ちにウェブサイトで公表されることによる信用喪失の不利益を区別し,それぞれ取消訴訟・執行停止で容易に救済できるかを具体的に検討している。5趣旨PDF3頁。「顧客の信用を失うおそれがあること」(項目化は本記事の整理)。採点実感PDF6頁・8頁。「具体的かつ的確に論じていれば,優秀な答案」(項目化は本記事の整理)。
5本件の損害を避けるため他に適当な方法があるかという差止め訴訟の補充性を検討している。3趣旨PDF3頁。「損害を避けるため他に適当な方法がある」(項目化は本記事の整理)。記載なし(当該資料に直接の根拠を確認できない)。
6【注意】訴訟要件を問う設問1を,本案勝訴要件の検討へ置き換えない。3記載なし(当該資料に直接の根拠を確認できない)。採点実感PDF9頁。「本案勝訴要件について紙幅を割いて論じている」(項目化は本記事の整理)。

2 設問2

番号評価項目重み出題の趣旨採点実感
7【注意】用途地域の指定替えが葬祭場所在地で行われ,本件取扱所所在地は工業地域のままであることを取り違えない。4記載なし(当該資料に直接の根拠を確認できない)。採点実感PDF9頁。「本件取扱所の所在地は一貫して工業地域」(項目化は本記事の整理)。
8消防法12条2項・危険物政令9条1項1号の趣旨,内容,要件・効果の定め方から,命令発出における市長の裁量の有無を論じている。4趣旨PDF3頁。「趣旨,内容及び要件・効果の定め」(項目化は本記事の整理)。採点実感PDF6頁・9頁。「本件基準の法的性質を裁量基準として理解」(項目化は本記事の整理)。
9本件内部基準を裁量基準たる行政規則・行政手続法上の処分基準として位置付け,委任命令たる法規命令として扱っていない。4趣旨PDF3頁。「裁量基準(行政手続法上の処分基準)」(項目化は本記事の整理)。採点実感PDF6頁・9頁。「本件基準の法的性質を裁量基準として理解」(項目化は本記事の整理)。
10法令趣旨に照らした裁量基準自体の合理性審査と,合理的な基準を前提とする個別事情審査・例外の余地を区別している。5趣旨PDF3頁。「裁量基準として合理的かどうか」(項目化は本記事の整理)。採点実感PDF9頁。「個別事情審査義務の有無」(項目化は本記事の整理)。
11保安物件への事故波及を防ぐ安全確保と,後発保安物件による既存取扱所所有者等の負担を,関係規定の趣旨から導く考慮事項として調整している。4趣旨PDF3頁。「どのように考慮して調整することが求められるか」(項目化は本記事の整理)。採点実感PDF6頁・7頁・8頁・9頁・10頁・11頁。「個別事情に即して柔軟に」(項目化は本記事の整理)。
12本件基準①の工業地域における危険物の倍数上限の合理性を,消防法による安全確保の趣旨と結び付けて検討している。4趣旨PDF3頁。「工業地域につき倍数」(項目化は本記事の整理)。採点実感PDF6頁~7頁・9頁。「本件基準の合理性を検討していれば」(項目化は本記事の整理)。
13本件基準②の短縮限界距離の合理性を,基準③の防火塀の高さ等,距離設定に織り込まれた事情と安全確保の趣旨に即して検討している。4趣旨PDF3頁。「本件基準③所定の防火塀の高さを前提」(項目化は本記事の整理)。採点実感PDF6頁~7頁。「本件基準の合理性を検討していれば」(項目化は本記事の整理)。
14①②に僅かに適合しない本件について,水準以上の防火塀・消火設備を個別事情として,合理的基準から例外を認める余地を具体的に検討している。4趣旨PDF3頁。「個別事情を考慮して例外を認める余地」(項目化は本記事の整理)。採点実感PDF6頁・9頁。「個別事情に即して柔軟に」(項目化は本記事の整理)。
15政令9条1項1号ただし書と23条の趣旨・要件・効果・適用範囲を比較し,前者の距離短縮と後者の距離規定不適用,後者の要件の限定を示している。4趣旨PDF3頁。「趣旨,要件・効果及び適用範囲を比較」(項目化は本記事の整理)。採点実感PDF7頁。「後者の規定の効果が保安距離の規定の不適用である」(項目化は本記事の整理)。
16通常の防火塀・消火設備だけを当然に特殊設備とみなさず,政令23条の限定された要件に照らして本件への適用余地を検討している。4趣旨PDF3頁。「後者の規定を本件に適用する余地があるか」(項目化は本記事の整理)。採点実感PDF9頁~10頁。「一般の防火塀・消火設備がこれに該当」(項目化は本記事の整理)。

3 設問3

番号評価項目重み出題の趣旨採点実感
17法律に損失補償規定がなくても憲法29条3項に基づく補償請求が可能という本問の前提の下で,本件の補償要否を検討している。2趣旨PDF3頁。「憲法第29条第3項に基づき損失補償を請求できる」(項目化は本記事の整理)。記載なし(当該資料に直接の根拠を確認できない)。
18昭和58年判決の趣旨を踏まえ,消防法12条1項の基準適合性維持義務は,後発の保安物件に対しても継続する公共安全の警察規制であり,補償を容易には認めない事情になると順序立てて論じている。5趣旨PDF3頁。「消防法第12条1項の維持義務」(項目化は本記事の整理)。採点実感PDF7頁・10頁。「本件の特殊事情に即して」(項目化は本記事の整理)。
19【注意】移転命令がXという特定人に適用されることだけを形式的基準の決め手として,当然に損失補償が必要とは判断しない。4記載なし(当該資料に直接の根拠を確認できない)。採点実感PDF10頁。「形式的基準と実質的基準」(項目化は本記事の整理)。
20少なくとも設置時に事情発生を予見して計画的に回避できた場合は補償不要といえないかという検討の向きを示し,回避可能なら補償必要と逆転させていない。4趣旨PDF3頁。「損失補償は不要といえないか」(項目化は本記事の整理)。採点実感PDF7頁。「予見してあらかじめ回避できる事情であるかどうか」(項目化は本記事の整理)。
21葬祭場が当初は原則建築できず指定替えにより可能となった事情を取り上げ,指定替え自体の予測可能性と,旧用途地域でも学校・病院が建築可能だった点から,本件での予見・回避可能性を具体的に検討している。5趣旨PDF3頁。「計画的に回避することが不可能な事情といえるか」(項目化は本記事の整理)。採点実感PDF7頁・10頁。「本件の特殊事情に即して」(項目化は本記事の整理)。

4 一般的な記述上の注意(重みの集計外)

次の6件も公式資料から整理した事項であるが,独立した法的論点とは区別し,重みを付けて加算しない。
本記事の答案は組版した文章であり,手書き文字の判読性そのものを確かめたものではない。

番号一般項目出題の趣旨採点実感
22各設問への回答を「設問1」等で明示し,問題文・会議録が指定した問いに対応する記述として構成している。記載なし(当該資料に直接の根拠を確認できない)。採点実感PDF7頁・8頁。「問題文等の指示を無視するかのような答案」(項目化は本記事の整理)。
23第三者が判読できる表記と,論題・論理の進行を追える明瞭な日本語・段落・見出しによる記述になっている。記載なし(当該資料に直接の根拠を確認できない)。採点実感PDF7頁・11頁。「判読できない記載には意味がない」(項目化は本記事の整理)。
24結論に至る理由を,法令・判例の考え方と本件の具体的事実を結び付け,一方の利益だけに偏らない論理として示している。趣旨PDF2頁。「関係規定の趣旨を読み解いた上で」(項目化は本記事の整理)。採点実感PDF6頁・8頁・11頁。「決して知識の量に重点を置くものではない。」(項目化は本記事の整理)。
25【注意】引用した条文の番号及び内容を不正確に記載しない。記載なし(当該資料に直接の根拠を確認できない)。採点実感PDF7頁。「条文の引用が不正確な答案」(項目化は本記事の整理)。
26【注意】要件裁量・効果裁量・裁量基準・行政規則・特別の犠牲等の基本概念を,その意味を取り違えて用いない。記載なし(当該資料に直接の根拠を確認できない)。採点実感PDF8頁。「基本的な概念の理解が不十分」(項目化は本記事の整理)。
27設問1だけに偏らず,設問2・3についても問いに対応する検討を記載している。趣旨PDF3頁。「各設問の配点割合」(項目化は本記事の整理)。採点実感PDF8頁。「時間配分が適切でなく」(項目化は本記事の整理)。

5 重みの分布

重み1重み2重み3重み4重み5NW
0141152183

N=0+1+4+11+5=21,W=1×0+2×1+3×4+4×11+5×5=83である。
一般項目22~27は両方の集計外とする。

第5 模範解答

1 答案の前提と表記

以下は公式資料との照合後に作成した一つの答案例である。
「危険物政令」は危険物の規制に関する政令を指す。
設問2ではXが構成し得る違法主張を示し,安全が実証済みであることまでは前提にしない。
設問3の否定結論は本件の与件の下での評価であり,警察規制では常に補償が不要という一般命題に広げない。

2 答案

平成27年司法試験・公法系第2問 模範解答

1 設問1

(1) XはY市を被告として,Y市長が消防法12条2項に基づく本件移転命令をしてはならない旨を求める差止めの訴えを提起することが考えられる(行政事件訴訟法〔以下「行訴法」という。〕3条7項,38条1項,11条1項1号)。
未発令の命令を事前に阻止する目的には,処分後の取消訴訟等や積極的な処分を求める義務付けではなく,差止めが対応する。

(2) 行訴法3条7項の「一定の処分…がされようとしている」ことが必要である。
本件命令の名宛人・根拠・内容は特定され,Dも葬祭場の営業開始後の発令が確実と確認しているから,この要件を満たす。
Xは命令によって直接営業・財産の利益を制約される名宛人であり,差止めを求める法律上の利益を有する(37条の4第3項)。

(3) 同条1項本文の「重大な損害を生ずるおそれ」は,同条2項の諸事情を考慮し,処分後に取消訴訟を提起して執行停止を受けることなどでは容易に救済できず,処分前の差止めによらなければ救済困難な損害かという観点から判断する(最高裁平成24年2月9日第一小法廷判決)。

移転には巨額の費用を要するが,移転義務の履行による不利益は発令後の執行停止で防げるとの反論がある。
これに対し,Y市は発令後直ちに命令をウェブサイトで公表する。
安全性に関わる命令の公表により顧客の信用を失えば,後に取消判決を得ても容易に回復できず,発令後に執行停止を申し立てる間に生ずる信用損害も防ぎ難い。
したがって,事前救済を要する重大な損害のおそれがある。
同じ事情から,取消訴訟・執行停止は当該損害を避ける適当な方法とはいえず,同項ただし書の補充性も満たす。
以上より差止めの訴えは適法である。
命令の実体的違法性という本案勝訴要件は,訴訟要件とは区別する。

2 設問2

(1) 消防法12条1項は,設置許可後も技術上の基準への適合を維持する義務を課す。
同法10条4項,危険物政令19条1項によって準用される9条1項1号ロによれば,本件葬祭場との保安距離は原則30メートルであり,18メートルの本件では特例が問題となる。
用途地域の指定替えがされたのは葬祭場の所在地であり,Xの取扱所の所在地は工業地域のままである。

(2) 同号ただし書の安全認定には,危険物の性状,施設,防火能力等に関する専門技術的判断を伴い,市長に要件判断の裁量が認められる。
また,消防法12条2項が修理・改造・移転を「命ずることができる」と定めることから,命令の発出や内容選択についても効果裁量が認められる。
もっとも,距離制限は取扱所の事故が保安物件へ波及することを防ぎ,その安全を確保するためのものである一方,ただし書には,後発の保安物件により既存施設の所有者等が移転の負担を負う事態を避ける趣旨がある。
両利益を調整して裁量を行使すべきである。

本件内部基準は,その裁量行使を統一する裁量基準たる行政規則であり,本件命令との関係では行政手続法12条の処分基準に当たる。
委任命令としての法規ではなく,外部に法令と同じ拘束力を生ずるものではない。
法令の趣旨に照らして基準自体が合理的かを審査し,合理的であっても個別事情から例外を認めるべき場合がないかを別に検討しなければならない。
Xは,以下のようにその合理性及び機械的適用を争うことができる。

(3) 基準①は,工業地域における倍数を50以下に限る。
危険物量が事故の危険や被害に関係すること,地域の特性を安全判断に用いることには合理性があり,建築基準法上倍数制限がないことだけで消防上の上限も不合理とはいえない。
しかし,工業地域は工業の利便を増進する地域であり,本件は設置許可を受けた取扱所の近隣に後発の葬祭場が建築された事案である。
Xは,後発保安物件への対応という場面で,50を僅かに超える55であることだけを理由に,より高い防火能力による安全確保の評価まで排除するのは,負担調整の趣旨に照らして過剰であると主張する。
争点は建築規制との形式的抵触ではなく,50という上限及び例外を認めない取扱いと,消防上の安全確保との合理的関連である。

(4) 基準②は,危険物の種類・量と保安物件の種類・危険度に応じて短縮限界を定め,基準③所定の高さの防火塀を前提に距離を設定したものだから,一般基準としては合理性を認め得る。
ただし本件葬祭場は危険度が最小のCであり,Xは③を上回る塀と法定水準を超える消火設備を設ける能力・意思を有する。
基準が前提とした水準より高い対策の効果は,個別事情として評価する必要がある。

Xは,敷地内で20メートルを確保できず,減量も経営上不可能である一方,18メートルと上乗せ対策で必要な安全を確保する余地がある以上,僅かな距離不足だけで短縮を拒むのは,考慮すべき事情を尽くさない裁量逸脱・濫用であると主張する。
①だけを争っても②の障害は残るので,双方について例外の余地を検討すべきである。
ただし,距離差が科学的に無意味であるとか,未実施の対策によって現に安全が確認済みであるとはいえない。

(5) 政令23条の適用余地も検討すべきである。
9条ただし書の効果は保安距離の短縮であるのに対し,23条の効果は9条を含む章の技術基準の不適用である。
全国統一の一般基準では対応できない個別の実態等に応じる特例であり,同条の要件は絞られている。
ただし書があるから23条を適用できないという関係ではない。

23条の第1の要件群は,危険物の品名・最大数量・倍数,取扱方法,周囲の状況等から,通常の基準によらなくても火災発生・延焼のおそれが著しく少なく,かつ,被害を最少限度に止め得ることである。
予想しない特殊な構造又は設備によって同等以上の効力を有するという第2の要件群とは,選択的な関係にある。
通常の塀や消火設備が水準を上回るだけで,当然に特殊設備となるわけではない。

Xは第1の要件群により,灯油の種類・量,最低の危険度,周囲の状況及び具体化した上乗せ設備の効果を総合して,特例を認める余地があると主張できる。
ただし,短縮しても安全というだけでなく,火災発生・延焼のおそれの著しい少なさと被害の最少化の双方が必要であり,対策の用意だけで当然に要件を満たすものではない。
専門的評価を前提にこの可能性を検討せず,内部基準への不適合だけから特例を否定する判断は争い得る。

(6) 短縮又は23条の適用によって改造等で必要な安全を確保できるなら,移転より負担の小さい修理・改造を考慮する必要もある。
Xは,その可能性を評価せず巨額の移転を選ぶことは,命令内容の選択においても必要な程度を超えると主張できる。
以上は実体判断の違法の主張であり,手続上の瑕疵の主張ではない。
安全確保が合理的に否定される場合まで,先住や費用負担だけで本件命令が違法となるわけではない。

3 設問3

(1) 本問では命令が適法であり,補償規定がなくても憲法29条3項による直接請求が可能との前提に立つ。
問題は,Xの負担が財産権に内在する受忍すべき制約を超える特別の犠牲かである。
個別命令の名宛人がXであることだけでは,特別の犠牲の決め手にならない。

(2) 消防法12条1項は,設置後に保安物件が新設された場合にも基準適合状態を維持させる継続的義務を課す。
危険物による周囲の生命・身体・財産への危険を防ぐ公共安全のための警察規制であり,その負担は原則として所有者等が受忍すべき内在的制約である。
最高裁昭和58年2月18日第二小法廷判決も,道路工事の結果として離隔距離の技術上の基準に適合しなくなった危険物保有者の移転の損失を,警察規制に基づく損失がたまたま現実化したものにすぎないとして,道路法70条1項の補償の対象外とした。
同判決は同項の解釈を示したものであるが,警察規制に基づく負担の性質についての考え方は,憲法29条3項による補償の要否の検討でも踏まえるべきである。
少なくとも,設置時に事情の発生を予見し,あらかじめ計画的に回避できた場合には,維持義務の履行費用について補償は不要と考えられる。

(3) Xは,当初は葬祭場の建築が原則不可能であったのに,Y市の指定替えによって後発施設が可能となった点を重視する。
設置許可を受けて営業してきたXに巨額の負担を課すもので,計画的に回避できない特別の犠牲だとの主張が考えられる。

しかし,用途地域は都市計画の変更によって将来変わり得るものであり,当初の指定が永続することを当然の前提とはできない。
しかも第一種中高層住居専用地域でも学校・病院等の保安物件は建築可能であった。
葬祭場という用途だけでなく,保安物件の後発的立地による距離不足という事情は,設置時から予測し対処すべき対象となる。
指定替えの介在だけで,計画的回避が不可能な負担へ転化したとはいえない。

本件の費用は危険源を設置・維持するXに課された安全維持義務の履行費用という性質が強い。
巨額であることは負担の重大性を示すが,それだけで内在的制約を超える特別の犠牲となるものではない。
以上より,与えられた事情の下では補償請求は認め難い。

以上

3 出題の趣旨・採点実感を踏まえた解説

(1) 答案と評価項目の対応

答案の1は番号1~6,2は7~16,3は17~21に対応する。
一般項目22~27は設問表示,読みやすさ,理由付け,用語・条文の正確さ及び三設問の配分として別に確認する。
第4の重み5・4の項目及び条件付きの項目について,模範解答との対応を次の表に示す。

番号重み評価項目答案の該当箇所・留保
35重大な損害の基準として,命令後の取消訴訟・執行停止では容易に救済できず,事前差止めでなければ救済困難かという平成24年判決の考え方を示している。1(3)。平成24年判決の考え方を提示し,事後救済の困難さを判断基準とする。
45移転による不利益と,命令後直ちにウェブサイトで公表されることによる信用喪失の不利益を区別し,それぞれ取消訴訟・執行停止で容易に救済できるかを具体的に検討している。1(3)。巨額の移転費用と公表による信用喪失を区別。公表直後の損害を事後の執行停止で防げるかを検討する。
74【注意】用途地域の指定替えが葬祭場所在地で行われ,本件取扱所所在地は工業地域のままであることを取り違えない。2(1)。指定替えは葬祭場所在地であり,取扱所は工業地域のままと明示する。
84消防法12条2項・危険物政令9条1項1号の趣旨,内容,要件・効果の定め方から,命令発出における市長の裁量の有無を論じている。2(2)。安全認定の専門技術的判断と命令の発出・内容選択を分ける。
94本件内部基準を裁量基準たる行政規則・行政手続法上の処分基準として位置付け,委任命令たる法規命令として扱っていない。2(2)。行政規則・裁量基準・処分基準と位置付け,法規命令としない。
105法令趣旨に照らした裁量基準自体の合理性審査と,合理的な基準を前提とする個別事情審査・例外の余地を区別している。2(2)~(4)。基準そのものの合理性を認め得ることと,個別例外を検討すべきことを区別する。
114保安物件への事故波及を防ぐ安全確保と,後発保安物件による既存取扱所所有者等の負担を,関係規定の趣旨から導く考慮事項として調整している。2(2)。保安物件の安全と既存取扱所の移転負担という二つの利益を導く。
124本件基準①の工業地域における危険物の倍数上限の合理性を,消防法による安全確保の趣旨と結び付けて検討している。2(3)。倍数制限の安全上の意味を認めた上で,50から55への僅かな超過を理由とする機械的排除を争う。
134本件基準②の短縮限界距離の合理性を,基準③の防火塀の高さ等,距離設定に織り込まれた事情と安全確保の趣旨に即して検討している。2(4)。②が③の塀の高さを前提として距離を定める点を明示する。
144①②に僅かに適合しない本件について,水準以上の防火塀・消火設備を個別事情として,合理的基準から例外を認める余地を具体的に検討している。2(4)。Cの危険度と水準以上の設備の能力・意思を考慮。未実施なので安全確認済みとはしない。
154政令9条1項1号ただし書と23条の趣旨・要件・効果・適用範囲を比較し,前者の距離短縮と後者の距離規定不適用,後者の要件の限定を示している。2(5)。距離短縮と章の技術基準の不適用,限定された要件を比較する。
164通常の防火塀・消火設備だけを当然に特殊設備とみなさず,政令23条の限定された要件に照らして本件への適用余地を検討している。2(5)。通常の設備を当然に特殊設備とせず,第1の要件群による可能性を検討。著しい危険減少と被害最少化の双方が必要。
185昭和58年判決の趣旨を踏まえ,消防法12条1項の基準適合性維持義務は,後発の保安物件に対しても継続する公共安全の警察規制であり,補償を容易には認めない事情になると順序立てて論じている。3(2)。後発の保安物件にも及ぶ継続的な安全維持義務を,昭和58年判決を挙げて警察規制の負担として位置付ける。
194【注意】移転命令がXという特定人に適用されることだけを形式的基準の決め手として,当然に損失補償が必要とは判断しない。3(1)。個別命令の名宛人であることだけを補償肯定の根拠としない。
204少なくとも設置時に事情発生を予見して計画的に回避できた場合は補償不要といえないかという検討の向きを示し,回避可能なら補償必要と逆転させていない。3(2)。予見して計画的に回避できた場合に補償不要という検討方向を示す。
215葬祭場が当初は原則建築できず指定替えにより可能となった事情を取り上げ,指定替え自体の予測可能性と,旧用途地域でも学校・病院が建築可能だった点から,本件での予見・回避可能性を具体的に検討している。3(3)。指定替えというXの有利事情と,指定替えの可能性・学校病院の建築可能性を対比する。

重み3以下の番号1・2・5・6は答案1(1)~(3)の訴訟選択,発令の蓋然性,補充性及び本案との区別で扱った。
番号17は答案3(1)で直接請求が可能との前提を受け入れている。

(2) 設問1の解説

公式資料は差止め訴訟を挙げるだけでなく,重大な損害の基準を示して本件の二つの不利益を検討することを求める。
番号3・4はその規範と適用を分けたものである。
答案は,移転義務を事後の執行停止で防げるとの反論を示し,公表直後の信用喪失には事前救済を要するという構成を採る。
巨額だから直ちに重大という処理や,根拠を示さない一括評価を避けるためである。
平成24年判決は反復する懲戒処分等の事案であり,本件への公表損害の当てはめは答案の分析である。

(3) 設問2の解説

公式資料が重視するのは,内部基準を法規命令とせず,基準の合理性と個別事情をそれぞれ法令の趣旨に結び付けることである(番号8~14)。
答案は,安全確保と既存施設の負担調整から,①の倍数上限,②と③の関係,上乗せ対策の評価へ進む。
建築規制と消防規制の目的が異なるため,建築基準法上の倍数制限がないだけで①を違法とはしない。
①を争うだけでは②の20メートルという障害が残るので,双方への具体的な主張を示している。

番号15・16は政令23条を独立に検討する事項である。
答案中の第1の要件群内部の「かつ」と,特殊構造又は設備による第2の要件群との選択関係は,問題付属条文を具体化した説明である。
水準を上回る通常の塀を,規定が予想しない特殊設備と同一視しない。
修理・改造という負担の小さい命令内容の検討は,消防法12条2項から補った答案の分析であり,法務省の明示的な必須項目を新設したものではない。
距離短縮又は23条による安全確保の可能性が前提となる。

(4) 設問3の解説

公式資料は,消防法12条1項の継続的な維持義務と,設置時の予見・計画的回避可能性を具体的に検討するよう求めている(番号18・20・21)。
維持義務の性質の検討では昭和58年判決の趣旨を踏まえることが求められ,採点実感は,この判決を知らない又は正確な知識を持っていないと思われる答案が多かったことを指摘している。
同判決は,道路工事の結果として警察法規の技術上の基準に適合しなくなり,危険物保有者が工作物の移転等を余儀なくされた損失について,「警察規制に基づく損失がたまたま現実化するに至つたものにすぎず」,道路法70条1項の定める補償の対象には属しないと判示した。
憲法29条3項に基づく補償の要否を判断した判決ではなく,原因も道路工事であるから,本問への応用は本記事の理解である。
答案は指定替えというXに有利な事情を認めた上で,指定の永続を当然視できないこと,旧用途地域でも学校・病院という保安物件が立地できたことを対置する。
指定替えがあったから回避不能とも,個別の名宛人だから当然に特別の犠牲ともしていない。
計画的回避が実際に可能だったかには評価の余地があり,反対結論を採る場合も維持義務と負担の性質に即した具体的な説明が必要となる。

(5) 答案の弱点と扱わなかった事項

技術上の実際の安全性,上乗せ設備の具体的性能及び設置時の代替計画の内容は,本問の与件だけで実証し尽くせない。
安全性の評価や損失補償の結論には留保がある。
当初から危険物量が増えていないという事実は問題文に無いので,前提にしていない。

設問で除外された手続上の瑕疵,葬祭場の保安物件性,安全認定の処分性,指定替え自体の違法,憲法29条3項の直接請求の可否は展開していない。
仮の救済だけを本訴の答えに置き換えず,設問1の訴訟要件と設問2の実体的違法を区別する。

第6 関連記事

1 同じ年度の司法試験の記事

①平成27年司法試験・憲法(公法系第1問)の模範解答と評価項目28個(AI作成)
②平成27年司法試験民事系第1問(民法)の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した32項目と5段階の重み付け(AI作成)
③平成27年司法試験民事系第2問(商法)の模範解答と評価項目―競業・事業譲渡・新株予約権(AI作成)
④平成27年司法試験民事系第3問(民事訴訟法)の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した33項目と5段階の重み付け(AI作成)
⑤平成27年司法試験刑事系第1問(刑法)の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した32項目と5段階の重み付け(AI作成)
⑥平成27年司法試験刑事系第2問(刑事訴訟法)の模範解答と評価項目―秘密録音・約束による自白・伝聞法則(AI作成)

2 同じ科目の別の年度の記事

平成28年司法試験公法系第2問(行政法)の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した32項目と5段階の重み付け(AI作成)は,行政法の別問題を扱う。
本問の答案・根拠資料とは区別して参照されたい。

3 本問の論点に関連する記事

行政庁の勧告・指示・公表に対する争い方―処分性,差止め,執行停止及び重大な損害(AI作成)は,事前救済と公表の関係を読む際の関連記事である。
平成27年当時の答案の根拠として後年の記事内容を組み込む趣旨ではない。

第7 出典及び確認状態

1 公式資料

法務省の平成27年司法試験公法系問題の第2問(PDF4頁~12頁),平成27年司法試験論文式試験問題出題趣旨の公法系第2問部分(PDF2頁~3頁),平成27年司法試験の採点実感等に対する意見(公法系科目第2問)(公法系採点実感PDF6頁~11頁)を確認した。
頁数は各PDFの先頭を1頁と数えたものをいう。
第4では公式記載に基づく評価事項と,本記事による分節・重み付けを区別している。

2 法令

消防法10条4項・12条,危険物の規制に関する政令9条・19条・23条,都市計画法・建築基準法の関係は問題付属の法令抜粋・仮定を基礎とした。
行政事件訴訟法3条7項・37条の4は,平成16年法律第84号の改正法の条文と公式資料で確認した。
同法11条1項1号・38条1項は,平成29年4月1日施行時点の法令データで確認した。
行政手続法12条は,平成29年4月1日施行時点の法令データと,後記の最高裁平成27年3月3日判決の説示で確認した。
これらの法令データは取得できた最も古い版であり,試験当時の版そのものではない。
試験当時の関連法令すべての沿革を確かめたものではない。

3 裁判例

最高裁平成24年2月9日第一小法廷判決(平成23年(行ツ)第177号等,民集66巻2号183頁)は,判決全文(裁判所)のうち重大な損害に関する理由部分(PDF11頁)を確認した。

法務省の出題趣旨・採点実感が言及する最高裁昭和58年2月18日第二小法廷判決(昭和54年(行ツ)第155号,民集37巻1号59頁)は,判決全文(裁判所)の全3頁を確認した。
同判決は道路法70条1項の補償の対象を判示したものであり,本問への応用は本記事の分析である。

最高裁平成27年3月3日第三小法廷判決(平成26年(行ヒ)第225号,民集69巻2号143頁)の処分基準に関する理由部分も補助的に確認した。
公にされている処分基準について,裁量権の行使における公正かつ平等な取扱いの要請や相手方の信頼の保護等の観点を述べて訴えの利益を肯定した判決であり,本問の内部基準の具体的な合理性を判断したものではない。

4 確認状態

問題・出題趣旨・採点実感は,上記の公法系第2問の範囲を読んで確認した。
法的結論に複数の構成があり得る事項は,公式資料に記載された要求と本答案の推論を区別している。
読者は,重みを公式得点へ換算せず,規範と具体的事実を結び付ける答案作成の参考として利用されたい。